十尾を囲む結界の中、うずまきナルトはその結界"四赤陽陣"を作る4人の内の1人、自来也の参戦に後遺症への心配と師匠と肩を並べ共に戦えることへの高揚の2つの感情を抱いていた。
しかし、"新生・忍刀七人衆"によって救出された本部役のシカク、いのいちから十尾を止める策として自身が持つ九尾チャクラを連合の皆に分け与えるという自分のみが出来る役目を受けて迷う心を振り切って戦場を駆ける。
忍1人1人のチャクラに合わせて九尾チャクラを調整し与えるという並外れた偉業を続ける最中、それを行う為に感知を研ぎ澄ませていたナルトは連合の忍達から少し離れた位置でその間もずっと十尾を縛り続ける般若面の人物のチャクラさえも感知し、その正体を見抜いた。
(……アンタだったのか)
多くの忍達と手を合わせ、走り抜ける中でナルトは思わず声に出しかけた言葉を飲み込んで代わりに笑みを浮かべる。
師匠、そして兄弟子。
かつて自分に大切な思いを託し、戦い抜いた彼らと今は一緒に戦える。
その喜びを失わない為にも連合の皆に力を与え終えた時、ナルトは彼らよりも一歩前、誰よりも先頭に立って十尾、そして十尾が産み出した無数の怪物へと向かっていく。
その足取りに唯一追い付いたうちはサスケ、そして春野サクラの2人と並び木ノ葉の第七班の忍として。
▼▼▼
耳に重く響く金属音が何度も鳴り響く。
チャクラの推進力による旋回と刀による強襲を繰り返すクシナダに対しそれを的確にチャクラの刀で弾きながら僅かな隙に反撃を交えるマダラさんの須佐能乎の攻防は激しさを増し続けていた。
「……目敏い奴らめ、その人形……木遁を材料に修理したか」
『お陰様でな』
「だが随分と簡素な見た目になったものよ、そんなつぎはぎのガラクタで俺の相手が出来るのか?」
そう、クシナダの身体のあちこちは木遁から得た材木で繋ぎ合わせされたのが目に見える程に露骨で、緊急の修理だと誰もが分かる。
何より本来の4つの腕は破損を補う為にそれぞれを一本ずつに統合させる事で補ったがそれは先の戦闘で4本の腕をフル稼働させる事で辛うじて攻撃を捌けていたマダラさんの須佐能乎へ対抗する力を失ったと言える。
だからこそ、クシナダが再び破壊される前にマダラさんの須佐能乎を破る手段を講じなければならない──そう思っていたのだが、そんな予想に反しクシナダは須佐能乎の斬撃も拳も次々に受け止め、あるいは受け流し続けていた。
マダラさんが手を抜いている可能性が脳を過るも、その本人も僅かに驚いた表情を見せている辺りその線はなさそうだ。
修理に利用した木遁が何か良い作用を起こしたのか?
「……人形の動きのキレが前の戦いとは段違いだな、何をした?」
『何て事はない、お前に制御パーツを壊されたから新しく組み直しただけだ。もっと扱い慣れた2体を中心としてな』
制御パーツ?
そういえば先の戦闘ではボディだけでなく左腕側の制御パーツも破損し、それをどう補うかと聞いた時にサソリさんが別のものを使うと言ってはいたが、代用品が正規パーツを上回る動きをして、そのお陰でマダラさんの須佐能乎に対抗できているのか?
しかし正規のパーツは確かサソリさんが彼の祖母と戦い、偽雨が逃した際に戦場に残されたという伝説に残る程の傑作傀儡のはず、それを上回る人形がサソリさんの手持ちにあったというのか?
……まぁ、考えてみれば制御パーツという直接戦闘で扱う物ではない部品へ変換するのを嫌っていただけでもっと上質な傀儡もサソリさんなら持っていても不思議ではないか…。
ともあれ、クシナダが以前よりもマダラさんに対抗できる様になったのは好都合、ならば後は須佐能乎のあの強固の守りを突き破る手段だが……
「体術も忍術も直接的な攻撃はほぼ通じない、なら打つ手は一つだね」
仙術チャクラを練り込み姿を変貌させたカブトさんの言う打つ手について思い当たる事は一つ、しかし──
「幻術……ですか? "幻刀・白刃抜き"……マダラさんに通じるでしょうか?」
「いやあのお米の匂いのする愉快な刀は別に……幻術はボクの方でやるから君らはその後の追撃を頼むよ」
良かった、指向性を持たせられるとはいえ万が一を思うと休息も儘ならないまま戦い続ける皆の近くでお米の良い匂いを放つのは気が引けた。カブトさんが幻術扱えるのならばそちらに任せる方が良いだろう。
カブトさんは仙術で変化した身体の腹部を更に変化させ──見覚えのある人を身体から生やした。
「左近、"双魔の術"」
「うわキモ! ……なにその術!?」
水月のあまりにも包み隠さない言動はどうかと思うが、流石の私もかつての知人の姿がカブトさんから生えてくる光景は驚かずにはいられなかった。
勿論アレは左近さんの細胞を利用し復元したもので左近さん本人ではないとは分かっているが中々ショッキングなものがある。
しかしカブトさんの行動はこちらの心持ちなど待たずに準備を進めていた。
左近さんの顔は徐々に形を変えて君磨呂さんの顔へと作り変えられる──再生、再現された君磨呂さんはその能力によって掌から一本の骨を生やし、へし折った。
その骨には規則的な穴が開いており、形状が笛の造りをしていると気付きカブトさんの狙いを理解する
君磨呂さんの顔も左近さん同様に作り変えられて、彼ら同様に懐かしい赤髪の女性、多由弥さんの顔が造られ骨の笛で幻術の音を奏でる。
しかし、この様子では恐らく今回は選出されなかったが次郎坊さんや鬼童丸さんの細胞も取り込んでいるんだろうな……私が言えた事ではないので口には出さないが倫理観の崩壊を大いに感じてしまう──だが、誉められた手段ではなかったとしても今はそれが私達にとっては僅かな希望だ。
骨の笛から放たれた旋律は須佐能乎の装甲をすり抜けてマダラさんの耳に届いた。
「──音、幻術だな」
その音色の正体を即座に看破したマダラさんはすぐさま自らのチャクラを大きく乱し幻術を解こうとする──しかし、チャクラの流れを本来から大きく外れた状態にするというその行為は須佐能乎という強力な術を維持する事とは両立する事は出来ない。
安定していた須佐能乎の身体が激しい炎の様に揺らめいた──それは須佐能乎の強固の守りが崩れた何よりの証拠に他ならない。
これならばいけるか?
そんな期待が湧いた瞬間、マダラさんの足元から巨大な木の根が3本生えその根の内側から分身のマダラさんがそれぞれ1体ずつ──全部で3体姿を現した。
「これは……木遁分身!」
「お前達の小細工もそれなりに楽しませてもらったが、計画も大詰めだ。真っ向から相手してやるつもりはもうないぞ」
音の幻術は視覚に訴える幻術と比べて術者の姿を隠せるメリットはあるが、その反面曲や一定以上のリズムを聞かせ続けなければならない弱点がある。
だからこそマダラさんは自らを守る須佐能乎を再び張り直しながら3体の分身を一斉にカブトさんへ差し向けたのだろうが、その戦術は確かにマダラさんの言うように終末の谷でのこちらの出方を窺った上で正面から圧倒していた戦い方とはまるで別物だ。
私達を倒すという方針はともかく、その戦いの内容には最早然して興味もないということか?
術を掛けられた上で対処するのではなく、そもそも術を成立させない……淡々と、最も有効な手段でただ潰す……そういう戦い方に変えたのだと思い知らされる。
「カブト! アンタは笛鳴らし続けてろ!」
水月と角都さんが飛び出し向かってくる分身マダラさんを迎え撃つ──しかしやはり足止め出来るのは1人ずつ、2人の脇をすり抜けた分身マダラさんの1体は瞬く間にカブトさんへと迫る。
「どうやら、お前の術よりも俺の方が速かったようだな」
「く……」
「させない!」
マダラさん、そしてカブトさんへ全速力で駆け寄ると同時に巻物から取り出した大刀をカブトさんへと向けられたマダラさんの左腕へ刀を切り上げる──が、振るった刀は左腕に触れるよりも先に伸びてきた右手に柄部分を握られ、それを軸に捻られた勢いで身体が宙に浮き上げられる。
その動作でマダラさんの動きは一秒すらも遅れない。
私の決死の行動など正しく片手間で払い除けられる程度のものでしかない──空中に引き上げられ浮遊感に囚われた身体、その腹部にマダラさんの右ひじが突き刺さり弾き飛ばされて、その激しい痛みと共に体内の酸素を全て吐き出させられて意識が飛びそうになる──だが、これで良い。
賭けには勝った。
幻術の阻止を目論みマダラさんは足を止めるのを嫌って私の刀を受け止めるのではなく奪い取る形で私を無力化した……そっちの方が手間がかからず、マダラさんならば足止めるどころか走る速度を緩める事もなくそれが出来てしまう。だから……そうしてくれる可能性の方が高いと思っていた。
「食べて……大……刀・鰐喰い」
「ッ!?」
マダラさんが握る大型の刀、それはチャクラを記録した人物以外が持てばその者からチャクラを奪い取り、そのチャクラを利用して巨大な口を形成し嚙み千切る特殊な刀だ。
当然、木遁分身で生み出された分身マダラさんは急激なチャクラの減衰によって、動かないただの木の人形となった。
マダラさんに似た木の人形の腕を噛み千切った"大刀・鰐喰い"は地面に落下し鈍い音を奏でる──それが笛の音の最後の音と重なる。
「上出来だよ村雨! ──これで最後だ"多由弥、魔笛・夢幻音鎖"」
音が鳴りやんだ瞬間、分身も含めて全てのマダラさんの動きがピタリと止まり本体のマダラさんが纏っていた須佐能乎も消滅する。
「角都!」
「言われるまでもない!!」
"魂刀・屍鬼切"を抜いた角都さんは憑依した死神の腕でマダラさんを掴み、その魂を引き抜く。
お腹から引き抜いたマダラさんの魂は腕も足も殆ど出て首部分も抜き出しつつある、それが影響したのか残っていたマダラさんの木遁分身2体も消滅した。
確実にマダラさんの力が弱まっている……これで封印を果たせばマダラさんはもう蘇る事はない……だが──
「この程度の幻術で……俺を止められるとでも思ったか!」
自らのチャクラの流れを急速に乱して強引に幻術を振り解いたのか、俯き力無い赤い瞳がギョロリと角都さんを捉えると再びマダラさんから恐ろしいまでの殺気が放たれる。
「グ……ぬぅ……」
「終末の谷の時と同じだ……貴様如きが俺とチャクラの綱引きで勝てると思っているのか?」
信じ難い事にマダラさん自身のチャクラが抜けかけていた彼の魂に巻き付いて身体の中へ引き戻している。その力は角都さんが引き抜こうとしている力を上回っているのか既に身体の外に出ていた分の半分近くが奪い返されていた。
旗色が悪いと踏んだ水月、カブトさん、それにサソリさんが一斉に襲いかかるも再度展開された須佐能乎に阻まれその刃はマダラさんには届かない。
その光景が刀匠としてこの上ない程に歯痒く、身体を襲う激しい痛み以上に目の前を涙で霞ませる。
「──オビトの奴め、この後に及んでカカシに拘ったか? 十尾を連合の前に放置するとは……」
既にこちらへの興味を失ったのか結界の内側へと視線を向けたマダラさんの言う通り、そこにはトビさん……正確にはオビトさんと言うのだろうか、とにかく彼の姿はどこにもなく代わりに無数の数の怪物達と連合の皆が戦っていた。
だが連合の皆は不思議な赤いチャクラを纏っており皆怪物の集団を次々に薙ぎ払い徐々に十尾へと迫っていた。
「お前達と戦う時間はもうないらしいな……存外、楽しませもらったが──」
「マダラ、貴様……いつ死んだ?」
ふと、角都さんがそう問いた。
「何の話だ?」
「トビ……いや、オビトというのか? あの小僧と貴様は生前に手を組んでいたのだろう? ならば終末の谷での柱間との戦い……貴様が死んだと思われていたあの戦いを生き延びていたという事だ」
「……それがどうした? 今更そんな事を知って何になる?」
「あの戦いを生き延びた貴様が闇に隠れ、何をしていたのかは知らん……だが、その無様な姿は結局のところ貴様が死んだ人間だという何よりの証拠に他ならん……」
角都さんは小さく嗤い、肩を震わせ──普段の寡黙な様子からかけ離れた程にその視線を強く、鋭くマダラさんを捉え返した。
「貴様がいつ死んだのかは知らん! だが貴様が、そして柱間が死んでいる間、俺は何人もの忍の心臓を引き抜き! 奪い! 生き永らえてきた! チャクラの綱引きで俺が貴様に勝てんだと!? 見縊るな若造が!」
「な!?」
死神の腕に今まで以上の力が込められ、一気に振り上げられる。
急激に増したその力に驚愕し、目を見開いたマダラさんは自身の魂を繋ぎ止めるチャクラを更に強めた様だがそれよりも早く彼の身体から魂が完全に抜き取られた。
「ッ! や、やった……」
須佐能乎は消滅し、残されたマダラさんの肉体は糸の切れた人形の様に崩れ落ち、やがて無数の塵芥となって宙に舞い上がる。
最後にはその生贄となっていた全身白い人間……ゼツさんが積もった塵芥の中からその身体の一部を覗かせていた。
「流石です……角都さん、それに皆さんも……」
情けない事にたった一度の肘撃ちで立ち上がる事も困難な身体を新たに口寄せした刀を杖代わりにして何とか起こして過酷な戦いを切り抜けた彼らにそう声を掛ける──しかし、角都さん、水月の表情は今もまだ張り詰めたままだった。
「油断するな──あと"2回"だ」
「え?」
『お前とカブトはいなかったから知らないだろうが、うちはの連中は写輪眼を失明させて自分に不都合な現実を幻に変える事が出来るらしい……奴の死体を見てみろ』
拡声器越しのサソリさんの指示に従って塵芥に塗れたゼツさんへ視線を戻すとその亡骸が煙の様に揺らめき消滅した。
これこそが悪い夢だと思いたいが、残念ながら彼らの言うとおり現実が書き換えられてしまったという事なのだろう……だとすると角都さんの言う通りマダラさんは写輪眼1つを失い復活する。そしてそれは後1回同じ事が出来る……あと2回、私達はマダラさんを倒さなくてはならないという事だ。
「とはいえ写輪眼1つは彼にとっても安くはないでしょうがね……ボク達がまだ見せていないカードの中でマダラに通用するものがあとどれぐらいあるのかは……別の話ですが」
果たして良い分析なのか悪い分析なのか、どちらとも言い難いカブトさんの皮肉な言葉に参ってしまう。
「──それにしても、マダラの奴はどこに……オビトの時はもうとっくに復活していたはずだけど」
水月の言う通りマダラさんの姿がどこにもない……ゼツさんの死体が消えた以上皆さんが言う術は発動されたと見て間違いないはずだが、だとしたら彼は一体どこに?
その疑問の答えは結界の内側が騒めきだした事で理解した。
いつの間にか十尾の頭の上にマダラさんが立っていた──髪で隠れた右眼が風に吹かれて露わになれば穢土転生特有の白と黒が反転した目の白い瞳に光はなく術の代償に視覚を失った事を見てとれる。
だが、その事に勝機を見出す事はなく、彼の左胸と十尾が管状のもので繋がっている光景に言いようのない不安を感じる。
「何をするつもりじゃぜ、マダラ!?」
結界の内側も突然現れたマダラさんに警戒し、大量の怪物を消し去りながら土影様が頭上のマダラさんへと叫ぶ。
「……不完全な穢土転生が故に今の俺の力は生前よりも劣る。だとしてもお前達如きその気になれば容易くやれると思っていたが……それがこんな事になるとはな──認めてやろう"新生・忍刀七人衆"よ、お前達は俺がこんな無様な手段に頼らなくてはならない程の相手だとな」
「ッ! こ、こいつ、十尾からチャクラを吸収してやがる!!」
連合と合流していた青さんが白眼でチャクラの流れを見たのだろう、蒼白した顔で周囲に警告する。
マダラさんの身体と十尾を繋げるあの管……あれから十尾のチャクラを取り込んでいるのか──今までのマダラさんは私の不完全な穢土転生を真似た形の復活で生前の力よりも劣っていた。
だが、外部から莫大なチャクラを供給し、生前の力と同等の力を得たとしたら?
恐ろしい予感、というには既に目前に迫った絶望に身を震わせる。
十尾と繋がる管を引き千切ったマダラさんは十尾の頭を蹴って"四赤陽陣"に再び身体を焼かせ──焼失と再生を繰り返しながら強引に結界の外へと躍り出る──そして深い青のチャクラが彼を包み込み巨大な人影が飛翔する。
鎧を纏った天狗、その身体は深い青色のチャクラで形成されており先程まで戦っていた須佐能乎の特徴と一致する。
「お前達の力を認め、このうちはマダラも本来の全力で応えよう──この"完成体須佐能乎"でな」
特徴は…確かにこれまでの須佐能乎と一致する。
しかし、その存在から感じる力は今までの須佐能乎とは比べ物にならない程に圧倒的、なによりもその巨人が手にした刀は私がこれまで造ったどの作品よりも強く、美しくこの眼に映った。
「──素晴らしいな」
羨むように、そして嫉妬するように思わずそんな言葉を口にした。
この場に水月達がいなければあの刀に斬られても良いかなと思っていたかもしれない。それ程までに目の前の存在は強く、美しく、究極というべき名刀だった。
「村雨、言っとくけど……助けてやれる状況じゃないからね」
「分かってる……」
まったく、どうして分かるのやら……そんな心境を見抜いてか釘を刺してきた水月に返事をして改めて目の前のマダラさんと向き合う。
元々強固だった守りは更に、それも飛躍的に上がっている事は間違いない。そして攻撃もあの刀は勿論その巨大な腕でも足でも人如き容易く潰し、殺してしまえる。
なによりマダラさんはあの巨人の額辺りで守られている……空を飛ぶ手段を持たなければマダラさん本体へ攻撃を仕掛ける事すら出来ない。
はっきり言って、私達にもうこれを倒す手段はない。
誰も口にする事はないが、皆それを察してしまっている。
だからこそ、どうすれば倒す可能性を作りだせるのか……諦める事なく最も有効な抵抗はどうするのか……その事だけに思考を巡らせる。
その瞬間だった、須佐能乎の背後──結界の内側、十尾の頭上の空間が歪んだ。
空間の穴からボトリと、小さな何かが十尾の頭の上に落下した。
流石に離れていた事もあって正確には分からない……だがあんな時空間忍術を扱えるのはオビトさんただ1人……だとするとさっきのは……
「……敗れたか、オビト」
動きを止めて、退屈そうに呟いたマダラさんの言葉でアレがやはりオビトさんであったのだと確信する。
向こうの戦場の流れは分からないが、少し前のマダラさんが言っていた事から推測するに時空間移動したオビトさんをカカシさんが倒したという事か?
推測の真偽を確かめる術はないがオビトさんが誰かとの戦いに敗れ動けなくなったのは事実だ。十尾は未だ健在で無数の怪物もいるがそれらを制御する人間がいなくなれば"月の眼計画"は成立しない。
「まったく、不愉快な手段に頼ってまでこの完成体・須佐能乎でやろうとしたばかりだというのにな──仕方ない」
「ッ!? ぐおおおおおおおおおおおおッ!!」
こちらに向かっていた須佐能乎がピタリと動きを止めてマダラさんが何かの印を結んだ瞬間、十尾の頭の上からオビトさんの悲痛の叫びがここまで響く
この位置からではオビトさんの姿を正確に見えないがタイミングからしてマダラさんがオビトさんに何か仕掛けたと見ていいのだろうか?
「まさか……輪廻天生の術を!?」
カブトさんの言葉でかつてリーダーさんが死の代償と共に行ったという穢土転生とは別の、それ以上に完全に死者を蘇らせるという術の事を思い出す。
だとするとオビトさんの急な異変はマダラさんが彼の身体を無理やり操ってその術を行わせようとしているのか……。
「ヤ、ヤバいって、今のマダラって変な穢土転生で劣化したもんなんだろ。もし仮に完全な状態で復活したら……」
「今までとは比べ物にならなくなる……何とか止めないと」
しかし今でさえマダラさんは完全な状態の須佐能乎の中で手出し出来ない……ならば──十尾の頭上へ視線を戻す。
あそこにいるオビトさんを殺してもらう他ない……見ればサスケ君、そしてナルト君が口寄せ動物を利用し十尾の頭へと駆け上がっている。
間に合ってくれるか……運命を左右する瞬間を見守る。
眺める事しか出来ない無力さを感じることさえなく彼らの成功をただ祈る。
最も早く十尾の頭に上り切ったサスケ君が黒炎の矢を放った瞬間にそれは起きた。
オビトさんがそれに焼かれるのでもなく、マダラさんの蘇生が完了するのでもない、予想だにしない結果──十尾が突如消滅した。
「……ほぅ」
それはマダラさんにとっても予想外の結果だったのか、意外そうに微かに笑った。
十尾が消滅した事で空中に投げ出されたサスケ君の近くに浮かぶ白い人影──あれは……まさか──
「ふん……あのジャリめ、この俺を出し抜いて成るとはな──十尾の人柱力へ」
やはり、あれが十尾の人柱力。
まさかマダラさんの支配を振り切ってしまうとは──オビトさんの執念に呆気に取られるが、その結果オビトさんが死んでマダラさんの復活する以上に厄介な状況になってしまった事に滅入ってしまう。
「だが、これはこれでまぁ良い。折角出したこの須佐能乎を一太刀も振るわずに引っ込めるのは少々締まらんと思っていたところだ──では改めて、仕切り直しといこうか」
十尾の人柱力となったオビトさん。
そして完成体・須佐能乎を纏うマダラさん。
戦況はここにきて絶望的なステージへと至ってしまった。