霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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宿る思い

 目の前に顕現したこれまでの須佐能乎とはかけ離れた威圧感を放つ完成体・須佐能乎の持つ刀が振り下ろされる。

 その斬撃が私達に当たる直前にクシナダが持つ"蒸気壮怒"が須佐能乎の内肘に当たって爆ぜる。

 

 その爆発の衝撃でズレた太刀筋は私達のすぐ傍を通り抜けて地面を引き裂きながら遥か遠くの山々を切り崩す。

 

「…冗談だろ」

 

 唖然と呟く水月の言う通り、正しく規格外というべきマダラさんの力に圧倒される。

 しかし動きを止めるわけにはいかない…冷静にマダラさんの須佐能乎を観察するが元々通用する手が極僅かしかなかったというのに今や見ての通り攻撃も防御もそれ以上のものとなってしまった。

 

 質量で対抗できるクシナダもあんな攻撃を何度も受け止めていたら確実にパーツが損壊する…クシナダが健在な内に何か有効な手を打たねばならないが完成体・須佐能乎の額部分に守られたマダラさんに致命的な攻撃を与える事はどうやっても不可能だ。

 

 ──せめてハレンチ博士と合流できれば良いのだが、という考えが頭を過るが今ハレンチ博士は向こうの戦場を支える要の1人、それは出来ないだろう。

 

「──良くこの須佐能乎の一太刀を生き延びた。ならばこれはどうだ?」

 

 ならばどうするか…その考えが閃くよりも先にマダラさんの二太刀目が放たれる。

 先程の振り下ろしとは違う低く、腰に構えた長刀が横向きに振り抜かれ衝撃波が大波の様に眼前を埋め尽くした。

 

 地面を捲り上げ大量の瓦礫を巻き込んだそれは一瞬で私達を飲み込んでなお止まらない──身を斬られるような痛みと全身を襲う瓦礫の衝撃が永遠に思える程長く続く痛みを与え続け意識を失いかけた瞬間、周囲の砂煙が身体を優しく包み込んで浮上する。

 

「──これは?」

「どうやら生きているようだな」

 

 すぐ傍で同様に砂の塊を足場に宙に浮かぶ赤髪の少年が目に映り、先程の異変が何だったのか理解する。

 周囲を確認すると水月達も同様に衝撃波に混ぜ込ませた彼の砂によって救出されていたようだった。

 

「ありがとう、我愛羅君…お陰で助かった」

「まさかお前を助ける事になるとはな…」

 

 本当に、世の中どうなるか分からないものだ。

 厳密には私の同一体である偽雨ではあるが、一度は暁の方々が彼を殺す場に居合わせた私がこうして彼に救われるとは…いや彼だけではない、視界の端では超スピードで飛び回る雷影様に背負われた土影様が須佐能乎に対して"塵遁"という術を何度も繰り返し身体の一部だけではあるが少しずつ削り取っていた。

 更にメイ様のお陰だろう、周囲に深い霧が立ち込めてマダラさんの視界から私達を隠してくれた。

 

「我愛羅、皆をボクの下へ集めてくれ一度回復させる」

「分かった」

 

 奇妙な巡り合わせに感動していると霧の中でカブトさんの声がして水月達と一緒にカブトさんの下へ合流する。

 

「アンタら影達が助けてくれるとはね…」

「しかし何故君達がこっちに? 四赤陽陣は?」

 

 最初に水月の傷を治し始めながら疑問を口にしたカブトさんのその言葉にそういえば…とハッとする。

 穢土転生によって復活するマダラさんだからこそ強引に結界を突き破って出てきたが普通は身を焼かれ強固な壁に阻まれるはずだが一体どうして彼らが? 

 

「結界は破られた。十尾の人柱力となったトビ…いやオビトとやらにな。奴とマダラの分断を継続させる為にシカクの案で火影を除く俺達影だけはこっちに来た」

「医療忍者はボクがいるからだね、向こうも最高戦力のナルト君やサスケ君の体力を保つ事が鍵になるだろうしね」

 

 そう考えれば綱手様だけはあちらに残るのは納得だ、それに綱手様がいなくともマダラさんと戦うのにこれ程の援軍を与えてくれたのは非常に有難い。

 だが、そうか…結界が破られたのならばハレンチ博士も一応はあちらに留まる必要はない、こちらの誰かと入れ代わりでこちらに来て貰えばあの須佐能乎にも対抗が出来るやも──そう思った瞬間、霧隠れとは違う、白い煙に視界が突如覆われた。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 完成体・須佐能乎を纏うマダラと新生・忍刀七人衆の戦いが始まる少し前、一尾から九尾からなる全ての尾獣を取り込み人を超越した圧倒的な存在、十尾の人柱力となったオビトから感じる絶対的な恐怖にチャクラの感知が出来ない者達でさえ思わず立ち尽くした。

 

 全身が生気を感じない程に青白く、背からは鱗の様な突起をいくつも生やした不気味な姿と化したオビトは静寂に包まれた戦場も、呆気に取られた忍達も意にも介さず背中にチャクラの腕を4本形成し宙を走らせる。

 そのチャクラの腕が"四赤陽陣"に触れた瞬間、結界は激しく霧散し、その勢いは結界を作っていた術者を襲った。

 

「「ぐッ!?」」

「バカな!? あの結界をああも容易く!?」

 

 最強クラスの結界術を一瞬にして破る十尾の人柱力の、その力の一端に忍達は戦慄する。

 結界を破られた反動で地面に投げ飛ばされた三忍とダンゾウが視線だけで宙に浮かぶオビトを追うと彼の右手に黒い未知の物体が出現し、球体へと形を整え──その球体に4つ波紋が浮かんだ。

 

「マズい!?」

 

 その形状の変化から次に起きる事を予測しすぐに綱手と大蛇丸はすぐに上体を起こしてその場を飛び退く、その直後に黒い球体から更に形状を変えた槍状の物体が地面に深く突き刺さっていた。

 僅かにでも動きが遅れていては一瞬にして殺されていたとその速度に慄いた瞬間、綱手の脳裏に絶望的な予感が走る。

 

「自来也!?」

 

 ペインとの戦いによって重度の負傷した身体を車椅子を頼りに強引に戦場に現れた自来也も自分同様に弾き飛ばされ地面に投げ出されていたら…さっきの攻撃を避ける事は不可能だと綱手は否応なしに理解する。

 最悪の可能性、それが無事で済んでいる可能性よりも遥かに起こり得ると分かってしまう思考を振り払って呼吸を荒げながら視線を動かす。

 

 自来也が配置についていた位置にはやはり黒い物体が地面を砕いて突き刺さっておりその周辺に自来也の姿はどこにもない──嫌な予感に苛まれながら黒い物体の突き刺さる位置を凝視する。

 

 しかし、その抉れた地面から人の身体の一部の血の痕跡さえもなく更に広く周囲を見渡すと自来也の周囲に控えていたゲンマ小隊と共に何かに引き寄せられる様に空中を滑り──やがて村雨の仲間だという般若面の男に抱えられる自来也の姿があった。

 

「……大丈夫ですか?」

「お陰で何とかのォ…しかしこの引き寄せる妙な術もだが、うずまき一族の封印術を使えたり一体お前は──」

 

 珍しい術で自身を助けた般若面の男、その奇妙な人物の正体を窺う自来也だが自身を抱える男の手が動き、すぐ近くで身体を起こしたゲンマに任せようとしているの察して邪魔をしない様に大人しくする。

 

「──俺は名乗る程の者ではない…ただの、貴方の小説のファンだよ自来也()()

 

 般若面で顔を隠した長門はそれだけ伝えると視線をもう1人、逃げ遅れた人物の姿を確認する。

 "封印術・金剛封鎖"で縛ってなお時折暴れる十尾やその分裂体の攻撃を受け止め続ける結界の維持でチャクラの消耗が多過ぎたのだろう、黒い物質が目前に迫ってなおダンゾウがその場を動けずにいたのを長門は確認していた。

 

 しかし車椅子から投げ出されていた自来也の救出が必要だったこと──何よりも彼にも別の者達が助けに向かっているのを見た事でそちらは任せたがその結果がどうなったのか、確認するべく動かした長門の視線に墨の鳥の背中に乗る黒髪の少年達に抱えられたダンゾウの姿が映った。

 

「ダンゾウ様! ご無事ですか!?」

「ダンゾウ様のチャクラが殆ど尽きていたのは感知しておりました…頼れる医療忍者を探すのが遅れて申し訳ありません」

「お、お前達…」

 

 かつての写輪眼と柱間細胞を利用した右腕と比べ戦争が始まる直前に大蛇丸が持ち込んだ物は即席という事もあって大きく劣化しており、それ故に三忍以上に、あるいはかつての木ノ葉崩しの際の三代目火影以上に歳を重ねたダンゾウ本来のチャクラ量にとって四赤陽陣という結界は想像以上に負担が掛かってしまった。

 

 それでも気力を絞り結界を維持していたダンゾウだったがその結界が破られた事で遂に掠れ始めた視界で自身の部下と彼らに同行した2人の忍びの姿を僅かに驚いた様に声を絞り出した。

 

 "根"の忍、一度はダンゾウ共々サスケによって殺されながらも長門の輪廻転生によって蘇っていたフーはそのダンゾウの状態を察しサイと共に十尾の分裂体を掻き分けて医療忍者を探し──"根"に入る事で疎遠になってしまったかつての自分の一族の者に頼っていた。

 

「…いの、ダンゾウ…殿のチャクラを回復させてやりなさい」

「はい!」

 

 十尾の分裂体をシカマル、チョウジと共に倒して回っていた山中いのはサイの懇願を受けて彼らと離れ同様にフーに頼まれて合流した父いのいちに促されダンゾウの身体に手を翳して医療忍術を施した。

 チャクラの回復によって少しだけ楽になり良好になったダンゾウの視界に今度ははっきりと部下の姿が映る。

 

「良かった…ダンゾウ様。──ありがとうございます、美人さん」

 

 サイはお得意の作り笑顔ではない穏やかな心からの笑みを自分といのに見せ、フーも緊張が解けたのか僅かに脱力した背をいのいちに支えられてぎこちないながらも笑い合っていた。

 自分が感情を奪い消し去った笑顔、自分が家族、一族から切り離して断ち切った繋がり──いつの間にか取り戻されていたそれらが今は自分に向けられ、自分を助けていた…その光景にダンゾウは気が付けば俯き目を伏せていた。

 

 

 

 長門と合流した大蛇丸はその光景を眺めて微かに笑う。

 

「あの耄碌ジジイがあんな殊勝な顔をするなんてね、ちょっとは良い薬になったかしら?」

「ふん、命をくれてやった甲斐が少しはあったか…さて──」

 

 あれはあれで興味深くはあるが今自分達の目の前に現れた存在を前にそちらに注意を向ける余裕はないと2人は思考を切り替える。

 

「十尾の人柱力…それにマダラのあの須佐能乎、どうする大蛇丸?」

 

 十尾の人柱力となったオビトの力も未知数だが、遂に全力を出したマダラの方も増援を送らなくては確実に村雨達も全滅するだろうと長門は見立てる。

 大蛇丸もそれには同意見だが判断するにはとにかく今のオビトの力を確かめる必要がある。

 

 遂に動き出したオビトだが十尾の力を上手く制御出来ていないのか身体の膨張や伸縮を繰り返し。時には自分の攻撃で自爆しながらもその圧倒的な力で連合の忍を何人も薙ぎ払っていた。

 動きの速さ、身体の硬さも桁外れだが何よりも脅威だったのはオビトの使う黒い物体だった、あらゆる物理攻撃よりも優れ、連合の忍達のあらゆる忍術を掻き消すその物体は必要に応じて形状を変えて攻防どちらにおいても手に負えずにいた。

 

「どうやらあの物体は血継限界の更に上の血継淘汰さえも上回る代物のようね…」

「だが物理攻撃を弾く以上実体はあるようだな…俺の天道の能力ならば奴から一時的にあの物体だけを引き離す事も出来そうだ」

「その僅かな隙で一撃を叩き込むしかなさそうね…ナルト君とサスケ君と合流を──」

 

 多少なりとも有効そうな策が纏まりかけた時、オビトの姿に再び変化が起きた。

 

「…やっとだ」

 

 先程までの異形の変化とは違う、不規則に荒ぶっていたチャクラは安定し、正気を失っていた視線ははっきりとナルトとサスケを捉え、身体も人の形を保っていた。

 

「まさか十尾の人柱力として完成した?」

「だとすると──マズい! ナルト、一端距離を──」

 

 長門が指示を飛ばすよりも先に彼の視線の先で鮮血が舞う。

 オビトが手にした黒い物体が変化した錫杖がナルトに当たる直前に身体を割り込ませた綱手の脇腹に深々と突き刺さっていた。

 

「バアちゃん!?」

「オラアアアアアアアッ!?」

 

 飛び散る血に目の見開き叫ぶナルトの心配を掻き消す様に綱手は叫びオビトの顔に拳を叩き込んで弾き飛ばす。

 

「──やるな、だが…」

 

 上忍クラスの忍でさえ喰らえば確実に意識を失うであろう拳を受けてなおオビトは空中で静止し平然と視線を戻すとナルト達へ伸ばした右手の指を動かし、その動きに連動した黒い球体が彼の背から放たれた。

 黒い球体は先程までのものと違い激しい光の点滅を繰り返しそれが次に起こすアクションを皆に予想させた。

 

 球体は大規模な爆発を起こし周囲を飲み込んだ──その直前に空へ飛びあがった一つの影をオビトは写輪眼で追い口を開く。

 

「紙一重で逃げたか…飛べたとはな」

 

 ナルトと綱手をそれぞれ脇に抱え呪印状態2を解放したサスケは須佐能乎を纏いながらその翼で空へと飛び上がる事で須佐能乎の装甲を半壊させながらも辛うじて起爆から逃れる事に成功した。

 

「バアちゃん無事か!?」

「この程度なら再生出来る、問題ない…それより次が来るぞ」

 

 オビトの写輪眼と輪廻眼のそれぞれの眼が空を飛ぶサスケをはっきりと追い続け、他の黒い球体も今にも動こうと鳴動し始める。

 

「感知能力があるかは分からないけど写輪眼と輪廻眼を使っている以上視覚を使っている事は確かね、まずは少しでも奴からサスケ君達を隠して態勢を整えさせましょう」

「大蛇丸、お前は火だ」

 

 風遁の印を結びながら出された長門の指示に従い大蛇丸は口元に手を添え火遁を放つ。

 

「ナルト、サスケ! こっちに来い! アンタ達は離れろ、巻き込まれる」

 

 "風遁・大突破"で大蛇丸の火遁を強化し大量の炎でオビトの視線を塞ぎつつ長門は空のサスケと自来也の抱えたゲンマ小隊にも続けて指示を飛ばす。

 

「分かった、自来也様…失礼します」

「待て」

「結界が破られた以上貴方が残るのは危険だ」

「言われんでも分かっとるわ、だが逃げる前に多少は格好つけるぐらいさせろってのォ」

 

 そう言うと自来也は頬を膨らませ勢い良く油を吹き出し今なおオビトを包む火炎に混じりその激しさを爆発的に上昇させる。

 

「"仙法・五右衛門"──やっつけだがのォ…さて、すまんが後は任せるぞ」

 

 油を放ち続ける自来也を抱えて立ち去っていくゲンマと入れ代わりで急降下してサスケが着地したのを確認し大蛇丸と長門は術を止める。

 黒い物体が術を掻き消す以上目隠し以上の効果の無い術を放ち続けてもチャクラを無駄に消耗するだけ…実際、その判断の通り炎が止んだ事で再び見えたオビトは形状を変えた黒い物体に包まれ無傷だった。

 

「やはりあれでも効果はないか、さっき以上に全力で直接殴るしかないな」

「いや…あれは!」

 

 風遁と油で威力を増した火遁も通用しない事に綱手は忍術に見切りをつけて唯一有効であった体術を軸に戦術を練ろうと拳にチャクラを集中しようとする。

 しかしそれよりも先にナルトはオビトの纏う黒い物体の異変に気付く。

 

 先程の火遁を消した黒い物体にこびり付いた油が掻き消されないまま燃えていた。

 形状変化した盾を貫く事が出来ない事は他の術と同様だが、今まで全ての術はあの物体に触れた時点で消滅していた…それに対してあの炎は明らかに異質であった。

 

「──なるほど、ある程度だけど推測が出来たわ」

 

 ナルトのその言葉に大蛇丸もまた自身の集めた知識の記憶を総動員し導き出した推測と目の前の僅かな勝機を交えて全員に告げる。

 

「まず、彼のあの物体…あれは忍の祖が扱ったとされる全ての術を無に帰す"陰陽遁"の術をベースとしたものね。しかし、その特性上忍術を消す事は出来ても仙術による攻撃は有効と見て間違いない」

「仙術…そうか、だからか」

「自来也の仙術チャクラによって油が搔き消される事はなく付着した油に引火した炎も搔き消される事なく僅かに残っていた…それがさっきのものね」

 

 それは偶然ではなく諦めない意思を持つ者の意地が手繰り寄せた結果だとナルトは自らの師を内心で誇り、拳を握る。

 

「よぉーし! だったら仙人モードで行くってばよ!」

「サスケ君、貴方のそれも元は仙術チャクラを応用したもの…きっと有効なはずよ」

「ふん、アンタの呪印がここに来て役に立つとはな」

 

 仙人モードと呪印状態2、互いに姿を変えて一歩前に出ようとするナルトとサスケを長門は手で制する。

 

「待て、有効な手が見つかっただけで奴に直接攻撃を当てるのが難しい事に変わりはない。迂闊に攻め込んでお前達がやられればそれこそ手詰まりだ」

「そうね、まずは陽動で…貴方達は隙が出来た時に全力を当てるべきね」

「だが奴も仙術攻撃が自分に効くと分かった以上ナルトとサスケに集中するはずだ、私達の陽動など意にも介さないはずだ」

 

 冷静な分析を続ける2人に同意しながらも綱手はオビトの思考を予測する。

 

「確かに陽動は相手に危機感を与えなければ意味がない…つまり彼への陽動もまた仙術攻撃でなければならない…だったら──」

 

 ちらりと大蛇丸はここから少し離れた"別の戦場"へ視線を向け口寄せの印を結び出す。

 

「ッ!? 待て、大蛇丸、お前まさか──」

「仕方ないでしょう、適材適所というやつよ」

「アイツに適切な場所なんてどこにもないと思うが…」

 

 その視線の意味を長門は察しながらも大蛇丸のその"危うい賭け"に躊躇する…だが大蛇丸の言う通り、今はその賭けに縋る以外に方法はないのも事実とため息を吐いて諦める。

 

「こっちの賭けよりも、貴方は向こうの戦場へ行きなさい──マダラを抑えるのももう限界のようだからね」

「…その様だな。仕方ない、あの化け物とアイツの相手は任せるぞ」

 

 横目に窺うもう一つの戦場では完成体・須佐能乎を纏うマダラに新生・忍刀七人衆、そして"四赤陽陣"が破られた時点で分断作戦を継続させるべくシカクの策によって彼らの増援に向かった綱手を除く五影達が必死に抗っており、幸いまだ皆生きてはいるがそれももう限界が近かった。

 

 それを見た長門はどう転ぶか分からなくなったこちらの戦場を大蛇丸へ託し、畜生道の口寄せによって呼び出した透明化し姿を隠したカクレオンに自身を飲み込ませその場の全員に正体を隠したままマダラのいる戦場へと向かう。

 

 当然、般若面の男が突然姿を消したことに綱手やサスケは僅かに戸惑いの表情を浮かべる。

 

「消えた? 大蛇丸、奴は何をした?」

「あっちの戦場に向かわせたわ」

「確かに、マダラの方もヤバいだろうが…今こちらの戦力を割いてはこいつらの攻撃を通すための陽動が…」

「問題ないわ。彼を向こうにあげる分、入れ代わりで1人こっちに来てもらうから──"口寄せの術"」

 

 綱手の懸念に受け答えながら大蛇丸は予め渡しておいた口寄せ蛇を呼び出し、その蛇に触れている者を連鎖的に召喚する。

 

 マダラとの戦いによる負傷で頭から血を流し、全身のあちこちもボロボロになった水色の髪の少女は突然目の前の風景が変化したことに戸惑ったように目をパチパチとさせて周囲を確認して目に付いた大蛇丸へと困惑したように声を掛ける。

 

「あの…ハレンチ博士? これは…一体どういう?」

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 突如視界を覆った白い煙が晴れると霧の中にいたはずがマダラさんと戦っていた戦場から少々離れた位置、ナルト君やサスケ君、綱手様がそこにいて目の前の宙に白く変貌したオビトさんが浮いている。

 

「あの…ハレンチ博士? これは…一体どういう?」

 

 地面に着いていた手を戻したハレンチ博士の動作からして間違いなくここに口寄せされたのだろうがその意図が読めず困惑のままそう問いかける。

 いや確かに先程まで誰かと入れ代わりでハレンチ博士来てくれないかなー…とか思っていたが何で私の方が呼ばれるんだ? 

 

「村雨ぇ!? 何でアンタがここに!?」

「おい大蛇丸! お前なんでよりにもよってこいつをここに呼んだんだ!?」

 

 いや全くもってナルト君や綱手様の言う通りだ。

 仮にこちらに戦力が欲しいにしても私を呼ぶ意味が分からない、サスケ君も露骨に面倒そうな顔をしているしハレンチ博士は何のつもりで…

 

「簡単に説明するわ、村雨…良く聞きなさい。あのオビトは十尾を取り込み十尾の人柱力となった、そして彼の背中にある黒い球体は陰陽遁の術と呼ばれるもので全ての術を無力化する。通用するとしたら体術、そして仙術のどちらかだけ」

「なるほど、カブトさんでなく何故私を?」

「向こうにも医療忍者は必要でしょう」

 

 それはそうだ、つまりは消去法か…だとしても私如きいない方がむしろ動きやすいのではという疑問を除けば納得だ。

 

「幸いナルト君もサスケ君も仙術チャクラを扱える、だから彼らの攻撃を当てる為の陽動が必要でね」

「くだらん」

 

 必要なのは理解出来るが無理では? という私の率直な感想を掻き消したのは吐き捨てるようなオビトさんの冷徹な声だった。

 

「随分とその女を買っているようだが、そいつ如きの僅かな仙術で俺を止められるとでも思っているのか?」

 

 オビトさんの2つの瞳がギョロリと動いてこちらを捉えたのを肌で感じ背筋に冷える。

 

「この際だ、その女の常識外れの思考はいっそ認めてやろう。事実ここまで散々辛酸を舐めさせられたよ──だが、今や俺は十尾の人柱力となり忍の祖と同じ力を手にした、当初の計画通りにな。渦柘榴村雨…貴様は結局のところ大局を変える力はない、徒にその場を荒らすばかりの貴様に俺を倒す事など出来ん!」

 

 ハレンチ博士の信頼を裏切るのは心苦しいがその言葉は正しい。私がナルト君やサスケ君の為にオビトさんの隙を作るなど出来るはずもない。

 今のオビトさんに私が何をしたところで何一つ通用しない事など一目で分かる。

 ただ、分かった事はもう一つ──

 

「大蛇丸、アンタがどこまでこいつに期待しているのかは知らないが正直奴の言う通りだ、俺は俺のやり方でやらせてもらうぞ」

「待てよサスケ、まずはオレが影分身で隙を作って──」

 

 

 

「──錆びた臭いがする」

 

 サスケ君やナルト君のやり取りも耳をすり抜けて無意識にそう声に出し、自らの言った言葉を確かめる様に彼らよりも一歩前に、オビトさんへ近づく。

 

「こうして今の貴方と向かい合って初めて感じられた、オビトさん」

「何の話だ?」

「貴方から、錆びた刀の臭いがする──強く、鋭く、真っ直ぐな刀身が血に塗れて刃が毀れ、輝きを失った刃の臭いが」

 

 それは向こうの戦場でマダラさんから魅せられた禍々しくも美しい刃にも、ここにいるサスケ君に宿る須佐能乎から感じる迷い、苦しみながらも至った力強い刃にも遠く及ばない、摩耗し切った痛ましく悲しい刃だ。

 

「──ハレンチ博士、こちらは大丈夫です。向こうの皆さんをお願いします」

「…貴方を呼んでおいて聞くのも何だけど、本当に勝てるのかしら?」

「オビトさんの言う通り、私如きオビトさんに対して何も出来ません──が、私が何をするのでもなく…そもそもサスケ君がオビトさんに負けることはない、それだけですよ」

 

 そんな曖昧な言い分に納得してくれたのかは分からないがハレンチ博士は満足そうに頷いて飛び去っていった…が、肝心のサスケ君が不満気にこちらに視線を向けてきた。

 

「おい、どういう意味ださっきのは?」

「ん? いえ、単純にオビトさんの刀よりもサスケ君やナルト君の方が強そうだな…と」

「オビトの刀って、アレどう見ても杖だってばよ!?」

「あぁ、あれとは別にオビトさんが持っている──」

 

 詰め寄るサスケ君とナルト君の誤解を必死に解いているとオビトさんが「ふん」と小さく鼻を鳴らしたのが聞こえて慌てて振り返る。

 

「本当に目敏い女だ、まさかあの刀の存在を感じ取るとはな」

「やはり、何か刀剣の類を持っていた…いえ、それともそれが十尾の人柱力となった者が得られる物なのでしょうか?」

「…十尾の人柱力となった者の切り札、という事か?」

 

 オビトさんが肯定的な言葉を口にした事でサスケ君もそれが只ならぬ存在である事を感じ取ったのか眼を僅かに鋭くする、しかし――

 

「詳しくは分かりません…ですが、さっき言った様に今のサスケ君、そしてナルト君ならば恐れる事はありません」

「随分と思いあがったものだ…尤も、忍の祖たる力だ、貴様如きの常識では計り違うのも無理はないが…」

「元より常識を参考にしていません。不本意ですが水月や香燐さんから常識が無いと良く言われていますので…だからこれは常識を基にした推測ではなく刀匠としての私の目利きです…それを疑うのならば、試してみますか?」

 

 真っ直ぐにオビトさんを見据えてそう告げるとオビトさんから感じる気配が僅かに変わった。

 

「──それ程までに俺の刀と比べたいのならば…いいだろう、だが後悔するぞ」

 

 オビトさんが持っていた錫杖が流動的に変化し二本の刃が捩じり合い螺旋を描く一振りの黒い刀へと変化した。

 異様な形状の刀だが、間違いなくあれこそが私がオビトさんから感じたものの正体だと確信する。

 

「この剣は六道仙人の神剣"ぬのぼこの剣"だ。もうお前達は俺には勝てん──持つ者の心の強さが剣に宿る、心の剣だ、仙人はこの剣でこの世界を創造した」

 

 語られたその伝説の通りその剣からは今まで私が造ってきた、あるいは見てきたどんな刀とも異なる不思議な気配と神々しさを感じ──それと同時にやはりそんな神聖さを覆い隠す程に酷く、錆び付いて見えた。

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