霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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今年最後の投稿です。
今年1年も本当にありがとうございました。


人身御供

 何が起こっているのだろうか? 

 そんな率直だが無意味な感想だけで済まさない様に"ぬのぼこの剣"に意識を向けている間に様変わりしていた目の前の状況を必死に推測する。

 尾獣と思わしき巨大な生物が7匹もいる事からしてナルト君達の試みは成功したのだろう…そこまではまぁ良い、問題は何やらオビトさんの様子が普通ではない事だ。

 

 黒い何かがオビトさんの身体を侵食しているように見えるがアレはなんだ…何やらナルト君やサスケ君と言葉を交わしている様子からして意思を持つ生命体と見て良いだろうが…いや待て、アレはもしや──

 

「ゼツさん…ですか?」

 

 オビトさんの身に起きた異変から胞子の術という他者の身体に潜伏する特異な術を扱う暁のメンバーの1人を思い出す。

 あの術を使っていたのは白いゼツさんだがもう一人、黒い方のゼツさんもそれと近しい術…つまりは他者の身体に何らかの形で同化、融合する類の能力を持っていても不思議ではない。

 

「渦柘榴村雨カ…丁度良イ、オビト…マダラ様ノ策二役立タナカッタ貴様ダガ、最後ニ多少ハ仕事ガ出来ソウダナ…復活シタ マダラ様ガ コチラニ来ル前ニ俺ガ オ前ノ身体ヲ動カシテ奴ヲ殺ス」

 

 マダラさんが復活した? 穢土転生で蘇っていたのとは別の話か? _

 

「村雨、お前…さては状況を分かっていないな?」

「はい、その…中々複雑なようで理解が追い付かず…」

「"ぬのぼこの剣"だったか? アレを拾いに行って戦況を見ていなかっただけだろうが?」

「ッ! どうしてそれを?」

「マダラと戦っている奴とお前以外皆チャクラの綱引きやってたんだ、1人変な事しているのここにいる皆バッチリ見てんだってばよ!!」

 

 しまった! 確かについ衝動的に動いてしまったなぁ…とは思っていたがまさかの戦場の全員に見られていたとは!? 

 

「今すぐお前諸共"天照"で焼き尽くしてやっても良いが…、あの黒い奴がオビトの身体を乗っ取ってマダラを蘇らせさせやがった、今は一発分のチャクラも惜しい」

 

 助かった。

 もしかしてマダラさんが復活していなかったら私ここにいる人達全員が敵になっていたのでは? 

 考えるも恐ろしい、衝動的な行動については反省するとしてとりあえず得られた情報を整理しよう。

 

 ──まずマダラさんが蘇ったという話だが…既に穢土転生で復活していたマダラさんに対してそんな事が起きたという事はそれはまず間違いなく術での再現などではなく生命体として完全な復活という事だろう。

 …以前にリーダーさんが自らの命と引き換えにそんな規格外の術を使ったと小南さんから聞いた事があるが、リーダーさんの眼を奪ったオビトさんが今、身体を乗っ取られているという事は…そういう事だろうか? 

 

 いや、この際手段はどうだったかは深く考える必要はない。

 重用なのはマダラさんが本当の命を得たという事は今までと違い身体の再生は出来ず、封印術に頼らず殺す事も可能という事だ。

 問題があるとすれば先程までのマダラさんは恐らく私の穢土転生を参考にした形での復活であるが故に生前よりも遥かに弱体化していたはず…完全な形での生還という事はそれが本来の力に戻る可能性も考えられる、それ自体はあまり手放しで喜べる事ではないだろう。

 

 だがそれを知らない連合の皆さんは勿論、サスケ君にとってもマダラさんを殺す事が出来るようになったという好機は何よりも優先されるらしい…それも当然だ、傍から見れば折れて力を失った刀を拾っただけ…マダラさんが蘇った状況で私如きに意識を割くなどまずあり得ない。

 

「──という訳でその巻物は寄越せ、マダラを殺した後に焼く」

「………」

 

 何も見逃されていなかった。

 まぁ普通に巻物を渡すだけの行為…私が素直に従えばチャクラの消費などないのだから当然な対応だ。

 

 この場で逃げてしまうか? 

 それも一つの手ではある…流石にサスケ君が私を追って戦場を離れる事はないはずだ──しかしそれをやってしまうとこの戦争に忍連合が勝った後、私は絶対に助からず"ぬのぼこの剣"を手に入れた意味もなくなってしまう。

 

 ましてやマダラさんが勝利し、"月の眼計画"が完遂されれば言わずもがなである…となればここで私がグズグズして足を引っ張っても仕方がない。

 服の内側に隠した巻物を手に取り、収納した"ぬのぼこの剣"を取り出した上で空になった巻物を懐から取り出してサスケ君に差し出す。

 

「お前…バレないとでも──ッ!!」

 

 写輪眼を持つサスケ君に対してあまりに無意味な悪あがきは案の定即座に看破され、顔に怒りが見えたサスケ君に殺される事を覚悟するが急にサスケ君の表情が険しくなる。

 嫌な予感に背後を振り返ると予想通りだが、驚かずにはいられない人物がそこにいた。

 

「……マダラさん」

 

 水月やハレンチ博士達と戦っていたはずのマダラさんが音もなく背後に降り立っていた。

 その全身からは血を流し、肌や眼にも穢土転生の身体に見られる特徴はなくなり間違いなく"生きた人間"としての生気に満ちていた。

 

「モウ来ラレルトハ…流石デス マダラ様」

 

 黒いゼツさんの賛辞の言葉にマダラさんは退屈そうに鼻を鳴らす。

 

「これでも手こずった方だ…復活直後に"灰塵隠れの術"で身を隠し、すぐに白ゼツから"輪廻眼"を受け取って…まったく随分と優雅さに欠ける立ち回りを演じたものだ──長門の奴がいるというのに"輪墓"まで見せてしまった」

 

 術の名前…なのだろうが全く聞いた事もない名だ。

 だが、口振りからしてその術で向こうの皆を全員倒したというのか? マダラさんは手こずったと言っていたがオビトさんがマダラさんを復活してから然程時間は経っていない…その僅かな時間で元暁のメンバーや五影の方達を倒すなど本当に可能なのか? 

 

 ……いや、可能かどうかではない、それが出来たからマダラさんはここにいる。

 

「──水月達は…生きていますか?」

「さぁな」

 

 ──適当な受け答えだ…死んだ、と明言しない辺り彼らの命を奪うよりもこちらに駆け付けるのを急いだから有効打を与えた後、生死の確認はしなかった…と見立てるのは希望的過ぎるか? 

 だが死んでいなければ綱手様が行っている広範囲の医療忍術のお陰で助かる可能性はあるはずだ。

 

 

 …最悪の場合は穢土転生を乱用する手段もある、だから今はその"最悪の場合"は考えない。

 仮にマダラさんの行動が前者だった時、マダラさんがこちらに来るのを急いだ理由は…やはり解放された尾獣を再び確保する事か? 

 

 ナルト君もサスケ君も同様の推測なのだろう、尾獣の前に立ちマダラさんの出方を窺っている。

 連合の人達も彼らの足手纏いになると判断したのかこの場から大きく離れる──いや、間違いなくそれが正しい判断だ、なのにどうして私はマダラさんと一番近い位置にいるんだ!? 

 

 いや私の背後にマダラさんが着地した都合それはもう仕方ない…問題は後ろに下がると絶対にナルト君とサスケ君の邪魔になるだろう事だ。

 …そしてその場合ナルト君は分からないがサスケ君には諸共攻撃されそうだ…だってさっき私がサスケ君の要望を盛大に拒否したのだから…

 

 進むも退くも出来ないとは、どうしてこんな事になったのか…は、私が"ぬのぼこの剣"をサスケ君に渡さなかった事が原因だ、どうしようもない。

 しかし、マダラさんもどうして何もしない? 

 ナルト君とサスケ君を警戒しているのだろうか? だとしたら…この隙に尾獣の1体でも逃げてくれればマダラさんが六道の力を手にする目論見は破綻する訳だが──

 

「──サスケ! その本体のマダラは囮だ! 見えない攻撃がくるよ!!」

 

 上空から聞きなれた声がしてその声の主を探すよりも、反射的にその声の指示に従い尾獣達の方を見る──が彼らの周囲に術も、異変も何一つ見られない──はずだった。

 突如二尾と思わしき炎の身体の巨大猫が弾き飛ばされ、次々に尾獣達が見えない攻撃に襲われる。

 

「水月! 何が起こっているの!?」

 

 見る事も出来ないが間違いなくマダラさんの攻撃を受けている、それが一体どういうものなのか我愛羅君と共に彼の操る砂に乗って上空に浮かぶ水月と我愛羅君に向かって声を上げる。

 

「マダラの瞳術の仕業だ、見えないマダラの分身が近くに潜んでいる…らしい!」

「どういう事?」

「俺達にも分からん、だが般若面の男がそう言ってマダラに幻術を掛けられる寸前に俺達を逃がした!」

 

 リーダーさんが? 

 確かにそれは重要な情報だ、しかし目に見えない攻撃で長門さんだけがそれに気付けたという事は──

 

「やはり奴には気付かれていたか…だが、それならば仲間を逃がすよりも自分1人逃げてここへ来るべきだったな。たとえ情報を託したとしても俺と同じ眼を持たぬ以上無意味なのだからな…つくづく甘いガキだ」

 

 マダラさんの物言いは不満があるが、輪廻眼のない私達では託された情報を活かせないというのは事実だ…だが、それでもリーダーさんがこの情報を託したという事は──きっと意味があるはずだ。

 

 

 ──そしてその意味を即座に理解する。

 マダラさんに背を向けて勢い任せに踵を返して全力で駆ける。

 ナルト君とサスケ君の脇をすり抜け、その背後にいるゼツさんと同化したオビトさんの左眼の輪廻眼へと手を伸ばす──が、差し伸ばした右手はゼツさんが操る黒い腕に阻まれる。

 

「オビトさんの身体を乗っ取っても、オビトさんのすり抜ける術はゼツさんの意思では使えないようですね」

「コノ…狂人メ…」

 

 "腕で防いだ"…という事はそういう事だ。

 オビトさんの能力があったならその眼を奪う事は困難だっただろうが、これならばまだマダラさんの術へ抗う手段は得られる…この眼を奪いサスケ君かナルト君に渡す…それがリーダーさんが水月達を逃がす事で与えてくれた勝機! 

 

「クッ…ハハハッ!! 連中の話を聞いて真っ先にする行動が尾獣やナルトを逃がすのでもなくオビトの眼を奪いに行くことか! 貴様の発想には長門のガキも呆れて言葉もあるまい!」

 

 ──あ。

 

 マダラさんの笑い声を聞いて使命感で跳ね上がっていた心が急激に冷めていく。

 そっか…輪廻眼がないとマダラさんの見れないからナルト君と尾獣達には逃げろ、水月達には時空間忍術でもなんでもナルト君達を逃がす方法を準備しろ…って情報だったのか。

 

 何だか背中にドン引きの視線が突き刺さっている気がして後ろを振り向けない…マダラさんがちょっと好意的な反応をしてくれているのも猶更辛い…

 

「──だがな、そのオビトの左眼も元々は俺の眼だ、正当な持ち主を前に手癖が悪いぞ小娘」

 

 あ、全然好意的でもなかった。

 笑いから一転、明確な敵意を感じて背筋が凍る──まぁ、考えてみれば自身の術への対抗手段を得ようとしているのだから止めないはずがなかったか。

 

 一度ゼツさんから離れてマダラさんの行動に備えるべきかと思ったが、そうしたらもうゼツさんはここまでの接近を許さないはずだ、それにマダラさんの攻撃はどうせ見えないし防げない。

 

「──だったら早くオビトさんから左眼を奪うことが先決」

「どうせそういうと思ってたさ、このバカ!」

「貴様ラ…!」

 

 その声に咄嗟に手を引いて飛び降りてくる水月の首切り包丁を避けると先程まで私の手を阻んでいたオビトさんの黒い腕が抑え込まれる。

 ゼツさんと同化しているからか、それともオビトさん自身の身体が特殊なのか斬撃を受けても切断されずに繋がった腕に驚くが──今は後回し、今度こそ左眼の輪廻眼へと手を伸ばす。

 

「ッ!?」

 

 しかしその指先は見えない壁に触れたかのようにオビトさんの少し前の空間で止まり硬い感触だけが伝わってくる。

 見えない何か…という事は──間に合わなかったという事か。

 

「──惜しかったな」

 

 それはマダラさんなりに多少の賞賛だったのか、ただの皮肉だったのかは分からないが前方から襲ってくる強い衝撃によって水月と共に風に吹かれた木の葉の様に弾き飛ばされ、激しい痛みに意識が霞む。

 攻撃を受ける寸前に我愛羅君の砂が全身を包み込んで見えない攻撃、地面への激突のダメージを和らげてくれたお陰で何とか命は無事だが身体はたった一撃で動かせなくなっていた。

 

 途切れそうになる意識を必死に繋ぎ止め強引に身体を起こそうとするも叶わず、それどころか動けない身体の目の前で繰り広げられるのは絶望の光景。

 かつてリーダーさんが呼び出していた巨人の石像を今度はマダラさんが操り尾獣を次々に封印していく、そしてそれは人柱力であるナルト君の中にいる九尾も例外ではなく、彼の身体から強引に引き出され石像に吸い込まれていく。

 

 ──そしてそれはナルト君の死を意味していた。

 外傷が与えられたわけではない、それでもナルト君は突如として意識を失い空中へ投げ出される。

 

 地面へと衝突する前に我愛羅君が私達の時と同じ様に砂の塊で受け止めて自らの傍へと引き寄せるが、そのナルト君の容体を確認した彼の表情は──絶望に染まっていた。

 

 その光景を見たサスケ君は──僅かに瞳を震わせた後に眼を閉じて…血の涙を流した。

 その視線はマダラさんを捉え、突如マダラさんの全身が黒い炎に包まる。

 

 かつての友人の死にサスケ君の胸中がどうなっているのか…それは私は分からない。

 だがサスケ君は今マダラさんが十尾を取り込むよりも先に葬る事を何よりも優先していた。

 

「これが最後のチャンスと瞬時に見極め、"輪墓"の視界に映らないという利点を視界に映った対象を焼き払う"天照"で逆に欠点にさせるか…良い判断だ、流石良い眼を持っているだけはある…だがな──」

 

 その言葉は自分に向けられたものではない…にも関わらずその言葉が聞こえた瞬間に悪寒に身体が震える──そして、その予感の通りマダラさんの全身を覆う黒炎は吸い込まれる様に彼の身体の内側へと消えてくる。

 

「輪廻眼は全ての術を吸収する──"輪墓"だけがこの眼の力ではないぞ」

「それは──分かっている!」

 

 黒炎を囮にサスケ君はマダラさんの目前に迫り草薙の剣の切っ先をマダラさんの心臓へと突き出す。

 チャクラを伴わない純粋な刃での攻撃…あれならば輪廻眼によるチャクラ吸収の影響も受けない、けれど──

 

「俺の方が速かったな──無様な再現の穢土転生から本来の肉体に戻ったのでな、体術もかつての通りだ」

 

 サスケ君の腕を掴み取り、その勢いのまま腕を捻って刀を奪う──マダラさんもまた純粋な体術でサスケ君の動きを上回っていた。

 

「人は何かを守る為に何かを犠牲にしてしまう…今のこの世界を築き上げた柱間とてその矛盾を抱え、里を守る為俺にこう言った──たとえ友であろうと兄弟であろうと我が子であろうと…里に仇なす者は許さんと…俺も本当の夢の世界を創る為に敢えて同じ事を口にしよう、うちはの同胞よ」

 

 先程から感じていた悪寒がより一層強くなる──が、その時にはもうサスケ君は見えない何かに捕まってしまっていた。

 

「時間は充分やっただろう、残念だ」

 

 サスケ君の左胸に草薙の剣が深々と突き刺さり、赤い血が地面に滴り落ちる──それは間違いなく致命傷だった。

 躊躇いも容赦もなくサスケ君の心臓を貫いたマダラさんはサスケ君も、草薙の剣も手放すと大きく息を吸う。

 

「見ろオビトよ! これがお前が僅かにでも可能性を見出し戦いを選んだ者達の末路だ! お前を破り一度尾獣を解放しようとも最後には敗れ全てを失う、これがこの世界の現実なのだ!」

 

 マダラさんは血を浴びてなおも堂々とした佇まいで1人、立ち尽くしていたオビトさんに呼び掛ける。

 

「さあ、その眼と共にこちらに来い…俺がこの地獄の世界を導こう!」

 

 オビトさんはナルト君、そしてサスケ君に視線を向け──諦めた様に眼を伏せて歩き出す。

 

「待て! オビト!!」

 

 その歩みを止めさせたのは空間を歪め現れたカカシさんの声だった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 ナルト達とマダラの位置から少し離れた位置で広範囲にカツユを広げていた綱手はその少し前にマダラとの戦いで負傷した影達と"新生・忍刀七人衆"のメンバーを回復させながら目の前の光景に掌を震わせた。

 

 ナルトが九尾を抜かれ意識を失った──それは人柱力として避けられない死を迎えたという事だと理解してしまったからだ。

 自らの医療忍術とて今のナルトを救う事は出来ない…かつて弟と最愛の男が死んだ時の、あの絶望を再び感じ、かつての同志に施している医療忍術さえ乱れ始めた。

 

「──大蛇丸、生きているか?」

「自来也! お前、何で!?」

 

 不意にもう1人の同志の声がして綱手は背後を振り返ると戦場から離脱したはずの自来也がゲンマに支えられながらそこにいた。

 

「何の…用かしら?」

 

 どうして戻ってきたのかと、綱手が問い質すよりも先にその声に応じる様に医療忍術を施す綱手の手をゆっくりと押し除けて大蛇丸も身体を起こした。

 

「ナルトの中の九尾が抜かれた…だが八尾が石像の吸い込まれる前に自らの一部を切り離し、人柱力を逃がしているのが見えた──ならばナルトも、九尾の一部を身体に入れる事が出来れば助かるのやもしれん…」

「…勘の良い忍達は正にそれを狙っている様ね、チャクラを奪う術を持っている忍達が集まっている──尤も今のマダラからチャクラを奪うのは例え一欠片であっても困難でしょうがね」

 

 はっきり言ってナルトが完全に死ぬまでの間にチャクラを取り戻し、救うというのは絶望的だと大蛇丸はナルトの師へと告げる。

 しかし自来也も同様の見立てをしていた──故に、もっと確実な方法を選び、ここに来ていた。

 

「…"穢土転生"だ、ワシを使って九尾の半身をその身に封印したあの男を復活させろ」

「「!?」」

 

 自来也の選択に綱手も大蛇丸も驚愕に目を見開く。

 

「自来也、お前言っている意味が分かっているのか!?」

「…わざわざ私のところに来た時点でそう言うんじゃないかとは思っていたけれど、本気なのね」

 

 "穢土転生の術"を成立させる為に必要となる生贄…自らをその犠牲としようとする自来也に綱手は掴み掛かり大蛇丸も呆れた様に呟くと掌を地面に着け術式を描き出す。

 

「言っておくけど自分からやれと言うなら私は構わないわよ…今の自力で動けないアンタよりあの男の方が遥かに戦力になる…そうなってくれたらサスケ君の回収もやり易くなるしね」

「お前!」

 

 昔から変わらず、冷酷なままに事実を述べる大蛇丸に綱手が鋭い視線を向けるのを自来也が手を伸ばして静止する。

 

「頼む大蛇丸、許せ綱手…ワシの前であの子を…ナルトを死なせんでくれ」

 

 縋る様に声を震わせて絞り出されたその言葉に綱手は気丈な彼女らしくない程に、弱々しく俯く。

 戦力や確実性などという理屈ではなく師として、ただ弟子を死んでも助けたいというその想いを理解するからこそ彼女はそれ以上の言葉を失いやり場のない感情に自来也の胸ぐらを掴む手を震わせた。

 

「すまん綱手…それに、大蛇丸もな」

「…ここ最近、バカに付き合うのも退屈しない代わりに楽じゃないというのは思い知ったつもりだけど…やっぱりアンタは別格よ」

「ふん、うるせぇ」

 

 今もまだ胸ぐらを掴む綱手の手を優しく解きながら自来也は憎まれ口を叩く同士に笑って言い返す。

 その顔は穏やかで、己の信念を託すと決めた愛弟子を救う為自らの命を懸ける事に躊躇いなど何一つ無いのは明らかだった。

 

 そうなった時、この男はもう何を言っても考えを変えない事を誰よりも知る2人もまた意を決するのだった。

 

「──生贄役はワシがやる…貴様達はこれからの里を守っていく若い火の意思…を導いていく者達だ」

 

 故に、静止の声を掛けたのは彼らとは別の人物だった。

 彼らと共に十尾を抑える結界を張り続けた事でチャクラが殆ど使い果たしたところを部下であるサイに助けられ一時戦場を離脱していたダンゾウはサイと別れ、この場に訪れていた。

 

 かつて雲隠れの金角銀角兄弟から部下達を逃がす為に囮役となった師、二代目火影の言葉を真似ながら生贄役に名乗り出たその言葉に自来也も綱手も…大蛇丸さえも戸惑う。

 

「どういう、風の吹き回しかしらダンゾウ? アンタが他人の為に命を投げ出すなんてどうかしているじゃない?」

 

 明らかに、そういう行動をする人間ではない…ダンゾウという人物をある意味では正しく理解している大蛇丸は率直にそう問う。

 

「ワシがこれまで生きてきたのは全てワシが火影になる為だ…だが、もうワシが火影になる事は決してない」

 

 上忍衆からの信頼は元々薄く、以前に木ノ葉で村雨の取り調べを行っていた際に彼女が逃げ出す切っ掛けを与えた挙句に取り逃し、果てにはうずまきナルト、そしてうちは一族の生き残りでありうちは一族滅亡の真実を知るうちはサスケが今や里内外で英雄として確かな存在となっている。

 

 今は死にかけているが、彼らを失ってこの戦争に勝利はなく、彼らが健在ならばダンゾウが火影になれる可能性は最早残されていなかった。

 尤も、ダンゾウにとってそれだけならばまだ構わなかったかもしれない、少なくともかつての彼ならば戦争の後、彼らを出し抜く機会を待ち、訪れなければ根を回し作り出したかもしれない。

 

 ──だが、今の彼にはもうそんな気力さえも残されていなかった。

 

「ヒルゼンに敵わず、奴の目を盗んで蓄えた力は小娘に掠め取られ、滅亡に導いた一族の生き残りの小僧に殺された上にかつて陥れた他里の者に命を与えられ…挙句にヒルゼンの弟子共との結界ではただ1人力を使い果たし、己が部下から奪ったものを見せつけられる──もう沢山だ、惨めな思いはな」

 

 劣等感からくる自己嫌悪、その果てにダンゾウは自らの幕引きを求め、この穢土転生の生贄役に名乗り出るに至ったのだと自来也達は理解する。

 

「ふざけるな! 散々好き勝手やった挙句、最後は英雄面して楽に死のうってのかアンタは!?」

 

 その身勝手で無責任な行為に綱手は怒りのままに叫ぶがダンゾウは気力もなく、自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

「──そうだ。かつて仲間の為に囮として死ぬ覚悟は出来なかったというのに…今になって死を望むなど…どこまでも惨めな──ぐぅお!?」

 

 なお自らを嗤うダンゾウの言葉は綱手の拳によって遮られた。

 

「お、おい綱手…」

「…一応言っておくけど、死んだら生贄に使えないわよ?」

 

 頬に拳を受けて遥か後方まで跳ね飛ばされたダンゾウの姿に自来也と大蛇丸は割と本気でダンゾウの生死の心配をしながらそう数秒遅れの念押しを口にする──が、当の綱手はそんな彼らに一瞥もくれず自身が吹き飛ばしたダンゾウに歩み寄るとその胸ぐらを掴み上げる。

 

「な、何の真似だ姫よ…」

「──死に逃げされる前にアンタがしでかした事に対して火影として罰を与えておきたくてな。アンタがやった事にしては軽いもんだが、少しは堪えたか?」

 

 吐き捨てる様にそう言い切ると綱手はダンゾウから手を放し、背を向ける。

 

「…火影として、アンタの罪に罰を与えた。だから──もう一度選択してくれ。過去の行いに対する罰などではなく、自己嫌悪からの自死でもなく…仲間を救う為に命を懸ける偉大な忍として、木ノ葉の忍の先達として選択してくれ…猿飛先生が、そして二代目火影がそうだったように」

「…姫」

 

 綱手の言葉にダンゾウは呆気にとられ…やがてゆっくりと大蛇丸の下へ歩み寄る。

 

「──大蛇丸、頼む」

「ふん、アンタらしくもない事を…でも、まぁ…木ノ葉の地下深くに墜ちていくよりは見れる最期ね」

 

 それだけ言うと大蛇丸は静かに印を結んでいく。

 それが終わるよりも先に、これから消える背中に自来也は呼び掛ける。

 

「ダンゾウ…いや志村先生か? …アンタが救う忍はこの忍の世を救う──あっちでジジイに自慢してくれ、木ノ葉の里1つ守って死んだアンタより自分の方がデカいものを残したぞってのォ!」

「ふん…出来るものか、その忍も──ヒルゼンの、火の意志を受け継いで育ったのだからな」

 

 それはさっきまでの自らを卑下した言葉の様で──しかしただ純粋に彼が生涯追いかけ続けた好敵手を心から認めたが故のものだった。

 

「──"口寄せ・穢土転生"」

 

 無数の塵芥が宙を舞い、ダンゾウの身体を覆っていく。

 自らの存在を別のものへと上書きする──その想像を絶する苦痛にダンゾウは呻き声1つ出さず、静かに、穏やかに目を閉じてその身を捧げる。

 

 木ノ葉の里に於いて火影として最も長く里を支え続けた偉大な忍、猿飛ヒルゼン。

 彼を歪みながらも追い続けた男の命、そして彼の命を奪った弟子の術、正しく受け継がれた"火の意志"とは違う、けれど確かに結ばれたそれらの繋がりが浄土の世界より1人の男を蘇らせる。

 その者の背に刻まれしは彼の称号を継ぎし──"四代目火影"

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