今年も何卒よろしくお願いします。
ナルト君、サスケ君の命を奪った末に「こちらに来い」と招くマダラさんの呼び掛けに従い、まるで傀儡人形の様に自我を窺えない足取りでオビトさんはマダラさんの下へと向かっていた。
いや傀儡人形の様に…という表現の通り今のオビトさんの身体は彼と同化した黒い方のゼツさんの意思で動いているのだろう──しかし、その歩みはピタリと止まる。
「──この世界が地獄かどうか…俺にもハッキリとは分からなかった、でも眼を凝らしてみようとは思ったんだ…お前がくれた左眼と言葉があれば見える気がしたんだよ」
彼の足を止めたのは空間を歪め現れたカカシさんの静かな言葉だった。
数えきれない程のものを失い続けこの世を地獄と思いながらも友から受け取ったものを支えに生き続け、過酷な世界の中にも仲間が集まれば希望が形になって見えてくるかもしれないと、そう諭すカカシさんの言葉にオビトさんの瞳に再び力が宿った。
「今更心変わりかオビト? しかし自分の周りをもう一度良く見てみろ、忍連合の者共が希望とやらを見出していたうずまきナルトもうちはサスケももう死んだ、己の部下が死ぬ瞬間に居ることすら出来なかったその男の語る希望などただの言い訳に過ぎん」
「く…」
しかしマダラの言葉は残酷にも現実を突きつける。
我愛羅君の砂に支えられたまま動かない変わり果てた教え子の姿にカカシさんは顔を顰め、握り締めた拳から血を滴らせる。
無力感と自責、深い絶望は再び彼らの心に影を落とす──黄色の幻影、否、閃光が視界を掠めたのはその瞬間だった。
「──確かに俺は大切な部下の危機に居合わせる事も出来なかった…だが、今度こそは間に合せる、そして──」
「ッ!?」
瞬身の術──忍の術の中では基本寄りの術ではあるが他の忍とは桁違いの速度でその男性はマダラさんのすぐ前に現れ、そして──螺旋丸。
ナルト君の術とまったく同じ術がマダラさんの胴体を捉え彼を後方へ大きく弾き飛ばす。
「──俺の息子も、その友達も死なせはしないし俺の部下の言葉を言い訳になど決してさせない」
「せ!?」
「…先生?」
カカシさんとオビトさんが戸惑い、口にした言葉に耳を疑いその男性を見ると彼の羽織に刻まれた文字"四代目火影"の字に今度は目を疑う──が、すぐに彼という存在を理解する。
「…ハレンチ博士、"穢土転生"を」
四代目火影は何年も前に死んだ人物だ、そんな方がここに現れたというのはそういうことだ。
だが、その術の存在を知るが故かオビトさん、そしてマダラさんも戦争が始まってから私達の前にゼツさんを送り込んでくることはなかった…だとしたら生贄は一体どうやって…
「──今は、そっちの事は気にしない方が良いよ」
「カブトさん! どうしてここに!?」
ああ
気が付けば傍にいたカブトさんに考えを見透かされて釘を刺される。
「マダラにやられた後に綱手様に回復してもらって意識を戻した途端に四代目火影に掴まってここに向かえと命令された次第さ、医療忍者というのは中々休ませてもらえないものでね──まぁそれはボクだけじゃないけど」
見ればナルト君とサスケ君の下にはサクラさんが駆け付けていた…という事は四代目火影様はカブトさんとサクラさんを連れた状態であの速度で移動したというのか…とんでもない人だ。
「あ、でもそれでしたらまずは水月を…私は治してもあまり役には立てませんので」
「大丈夫、向こうも影分身でもうやってるよ」
本当だ、離れた場所で水月の下にもカブトさんがいる──改めてこの人もこの人でとんでもない。
「さて、君は動けるまで回復したらそれで良いね、この後もう一仕事あるからチャクラの温存をしておきたい」
「ありがとうございます、もう充分です」
何を任されたのか知らないがカブトさんが頼まれる内容だ、何かしら重要な事な事である事は想像に容易い、ならば私の治療などは優先すべきではない。
自力で何とか立ち上がって強がるとその意思を酌んでくれたのかカブトさんはすぐにオビトさんの傍へと向かっていった。
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カカシもオビトも目の前の人物が"穢土転生"である事は即座に分かった──それでもどこか信じられない心境で目の前の人物へと声を掛ける。
「…先生、どうしてここに?」
「大蛇丸さんの穢土転生さ、事情は簡潔に説明された…ナルトと友達のサスケ君の命の危機だと、そして──君の事もねオビト」
その言葉にオビトの肩が跳ねる。
仮面の男として暗躍し、四代目火影、波風ミナトとその妻が死ぬ切っ掛けとなった九尾の木ノ葉襲撃事件の犯人で忍界を揺るがす大戦を引き起こした帳本人…それがかつての教え子だったという事実は決して一刻を争う状況だとしても後回しに出来る程軽いものではない。
「ッ! 先生、オビトはもう──」
それでも何とか割って入ろうとするカカシを手で制し、ミナトはオビトの肩に手を置く。
「オビト、君がやった事は許される事ではない──けれどそうさせてしまったのはリンを守れなかった俺の責任だ…オビト、カカシ、本当にすまなかった」
「…先生、俺は──」
ただ許そうとするのではなく共に罪を背負う意思を示すミナトにオビトは言葉を口にしようとするが彼らの耳にジャリ…と不穏な足音が聞こえた。
「オビトの師だった男か…大したスピードだ、扉間…二代目火影以上か──だが、遅かったな…そこの2人はもう医療忍術を使おうとも助からん、特に尾獣を抜かれたナルトの方はな」
マダラはナルトとサスケの2人に視線を映してそう語る。
事実ミナトに連れられてこの場に来たサクラが既に2人の容体を確認しているがどちらとももう手遅れである事を残酷にも察して顔を蒼白させていた。
しかしミナトは取り乱す事なく冷静に指示を出す。
「我愛羅君だったね、ナルトを俺の近くに運んでくれ。俺の中の九尾の半分を抜かれた九尾の代わりに入れる、それでナルトは助かると聞かされた」
「──オビト、君はこちらに協力してくれ…生憎柱間細胞が足りなくてね、君の身体の半分…黒ゼツに取り込まれてない側の身体の一部を使わせてもらうよ」
村雨の処置を済ませたカブトはサスケの傍に着地し、彼の身体に開けられた刺傷を観察しながらオビトを指で招く。
「傷口に柱間細胞を移植した上で医療忍術を施す気か? 適合出来る確証はないぞ?」
「うちはと千手は元々の血族を同じとする者…そこらの忍よりはずっと適合率は高い──証拠は君やマダラがそうだからね。あぁ、それと君の身体の黒ゼツが余計な動きをしないように今のまましっかりと抑制しておいてくれ、サスケ君の身体にまでそいつが入ったら面倒だからね」
「クッ!?」
まさにサスケへ移植される細胞への潜伏、あるいはミナトが譲渡しようする九尾の奪取、そのどちらかを狙うべきかと思案を巡らせていた黒ゼツはカブトの警告に顔を顰める。
「マ、マダラ様! コイツラ二人ヲ生キ返ラセルツモリデス!」
「尾獣共は魔像に入れた後だ、今更そいつらが生き返ったところでどうにもならんが──見逃してやる理由もない」
マダラはその言葉と共にオビトのすぐ近くへ詰め寄る──その速度は穢土転生であった時の比ではなく意識が朧気であったオビトは勿論、仙術チャクラを使い切っていたこともありオビトの傍にいたカブトも気付いた時には遅かった。
「──やらせはしないよ」
唯一、その動きに追いつけたミナトが瞬身の術によりオビトを押し除けマダラの手突をその身で受け身体に穴を空ける。
「やはり速いな、だが同じ事だ──九尾の分け身を持つ貴様がこちらを庇うというのならナルトの方がどうにもならんぞ?」
「いいや、貴方が俺達の行動を阻止しようとするこの瞬間が狙いだった、確実に2人を救う為にね! ──"飛雷神の術"」
その言葉を言い終えた瞬間、自らの身体を貫き接触していたマダラと共にミナトはその場から姿を消す──その場に残された中で彼の術を知らない水月は目を丸くする。
「今のは? 四代目火影とマダラはどこに?」
「"飛雷神の術"──村雨が昔刀造りに使った術の本家…ではないけど、使い手なんだよあの人」
「あぁ! あの移動したら身体がズタズタになる時空間忍術ね! 確かにアレ穢土転生でやるなら相性良いね」
「いや"飛雷神の術"は本来移動している人に反動はないから…」
「そ、それはともかく"飛雷神の術"にはマーキングが必要なはずですが…」
「うん、彼がここに来る前に綱手様にマーキング付きのクナイをぶん投げてもらっておいたみたいだよ」
結果的に本人が使う分には問題のない失敗作"閃刀・黄華"から話題を逸らそうとした村雨の問いに対するカブトの答えに水月も村雨本人も曖昧な表情を浮かべる。
「…マダラ、今頃宇宙まで行ってるんじゃない?」
「流石にそれはないだろ…多分」
「いや、というか四代目様も飛んでしまっているのだから結局ナルト君の方が──」
「──よし! マダラが戻ってくる前に早く2人を助けよう、急いで準備してくれ」
ナルトの復活の為には必要なミナトが離脱しては意味がない、その懸念を村雨が口にした瞬間にそのミナトの声がして全員の視線がオビトの背後に集まる。
最初にオビトを慮るしぐさで彼の背に触れた時に既にマダラ、そしてオビトと同化した黒ゼツから見えない位置にマーキングを刻んでおいた手際の良さにその場の全員が若干言葉を失いつつも素直に従うのだった。
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高速で移動を繰り返していた四代目様が漸く動きを止めた事で彼の所持品から感じる独特なクナイの気配が気になって観察しているとナルト君の腹部に掌を翳して赤黒いチャクラを溢れさせるミナトさんの表情が緊急の治療行為に焦燥するのでもなくどこか穏やかさを感じるものである事に気が付く。
「…嬉しそう? ですね」
「いや、この子がこんな状況だ…決して喜べはしないさ。──でも、やっと父親らしく息子を救ってやれる、妻との約束をちゃんと守れると思ってね」
「……あぁ! 四代目様、ナルト君のお父さんなのですか!」
言われてみると少し似ている…のだろうか?
顔つきは…あまり似ていないが雰囲気…はもっと似ていない印象だがこれは私があまり親子単位での人との付き合いがないせいで比較慣れしていないせいだろうか?
「──め、目元とかそっくりですね」
「何だか凄く定番の言葉を頑張って出した気がするけど…えっとありがとうで良いのかな?」
「どうでしょう?」
「えぇっと、君はナルトの…友達かな?」
不意に命を脅かされる質問が向けられた。
そうです…とは私の所業を思うと口が裂けても言えないなぁ…。
だからといって私とナルト君の関係を正直にそのまま明かせるはずもない、相手はナルト君の父親であり火影なのだから──何を言っても無事で済まない気がするが何と言えば良いんだコレは? これが噂に聞いた父親との挨拶の恐怖か?
い、いや待て…もしかしたら──
「……ハ、ハレンチ博士の下で修業している際にお会いして以来何度か交流させて頂いてします」
厳密にはハレンチ博士の部下になる前に木ノ葉に訪問した時に会ったのが最初だがそこはもう無視しよう、とにかく以前リーダーさんから私への認識を誤認させたこの誤魔化し方でどうにか──
「ハ、ハレ? …あ、もしかして君も自来也先生の!」
ほ、本当にいけた!?
「騙されないで四代目様! そいつ大蛇丸の弟子! 敵です!」
ダメだった。
希望が見えた直後近くで聞いていたサクラさんからあっさりと暴露された…うん、まぁ普通に考えたそうなるか。
「え…っと、君は大蛇丸さんの弟子なんだね。それで…ハレンチ博士は自来也先生?」
「…大蛇丸です」
「ちょ…ちょっと信じられない、かな?」
「四代目、その女とはあまり真面目に話さない方が良い」
曖昧な表情を浮かべる四代目様に我愛羅君まで容赦のない評価を告げてしまう…とはいえ私がナルト君や木ノ葉に対して行った悪事を具体的に言われるよりはまだマシか。
なんだか妙な空気になりはしたがナルト君へのチャクラ譲渡は終わったらしくミナトさんはホッとしたように息をもらすともう一つの方へ視線を向ける。
尾獣を抜かれたナルト君とは違い、直接的な外傷で致命傷を負ったサスケ君はオビトさんの身体から伸びた柱間細胞をカブトさんが切り離し傷口に移植、そのまま医療忍術を施していた。
「柱間細胞の移植は出来た…後は拒絶反応が起こらない様にボクが微調整するだけだ」
「ナルトも九尾チャクラの譲渡は出来たが目を覚まさない…マダラが戻ってくる前に二人を安全な場所に隠した方が良いな」
「安全な場所か…"神威"の空間にサクラとカブトと一緒に送るのが一番良いか」
我愛羅君の案にカカシさんも同意しオビトさんへと視線を向けると彼も頷き視線を動かす。
「そいつらはお前が送れカカシ…俺は残ったチャクラで奴から尾獣を引き抜く」
そう語るオビトさんの視線の先には術者であるマダラさんが離れたからなのか静止したままの外道魔像があった。
「アレから…出来るのか、オビト?」
「輪廻転生の術で大量のチャクラを消費した以上全て抜けるかは分からんが、どれか一匹でも完全に抜ければ"無限月読"を発動する事は出来ない…やってみる価値はある」
確かに上手くいった場合はかなり大きい成果となる、そしてマダラさんがいない今しかそのチャンスはない。
外道魔像へオビトさんが触れるのを確認し、他の全員で周囲や空を──マダラさんの帰還に備える。
綱手様の投擲ならばかなりの距離を稼げたとは思うがマダラさん程の人が移動にそれ程の時間を掛けるとも思えない…いつ戻ってきても不思議ではない以上気は抜けない。
「待ってくれッ! デカいチャクラが近づいてきている!」
悪い見立て程良く当たるのか医療忍術の精度を上げる為に仙人モードになっていたカブトさんが周囲に警告を出すが周囲にも上空にもマダラさんの姿はない、だが──
「いや、このチャクラ…マダラじゃない?」
「この気配は──」
決して忘れていた訳ではないが、この場にいなかった懐かしい気配に歯噛みする。
急激な速度で"試作・叢雲"がこの場に接近してきている、それももうすぐそこまで、地面の中から──
「下だ!!」
カブトさんの最後の警告と同時に轟音と共に地面が砕かれ、勢い良く飛び出してきた大きな影がオビトさんの背中に衝突する。
「ぐッ! あ…あ…あぁ」
背中からお腹を刀剣に貫かれたオビトさんが自身を襲った者を確認しようと振り返ったのが目に映る──その表情は身体を貫いた痛みへの苦悶などではなく、ただただ背後の人物への罪悪感に染まっていた。
「残念ですよ、マダラさん──いや、オビトさん、という名前なんでしたね」
その声は何度も聞いたあの人の声とはまるで違う、激しい憎悪と深い悲哀が混ぜ合わさった冷たい声だった。
「き、鬼鮫──」
「貴方が語ってくれた計画も名もまたしても偽りだったとは…本当に残念ですよオビトさん!!」
感情を剥き出しに鬼鮫さんがオビトさんの身体に突き刺した"試作・叢雲"を引き抜き鮮血を飛び散らせながら、そのまま刀身を高く、オビトさんの首を見据えて構えるのを見てミナトさんとカカシさんが飛び出そうとした時周囲の地面が蠢く。
「邪魔はさせないよ」
「ゼツ!」
気が付けば大量の白いゼツさんに周囲を囲まれオビトさんの下への道を阻まれる。
ミナトさんが即座に"飛雷神の術"で再びオビトさんの近くへ時空間移動をしようとするが、大量のゼツさんは未だ意識のないナルト君、サスケ君の傍にも出現し、それらを斬り捨てた僅かな時間は鬼鮫さんが掲げた刀身を振り下ろすにはあまりにも充分だった。
何よりオビトさん自身が鬼鮫さんの凶刃を避ける事を諦めているかのようだった──
「オビトォォォ────ッ!!」
千鳥で白ゼツさんを貫きながらカカシさんが駆け寄るが彼の手が届くよりも先に"試作・叢雲"は容赦なく振り下ろされオビトさんの首を掠める。
「──え?」
「ッ! オビト!」
目の前の光景が呑み込めず、鬼鮫も含めて全員が一瞬静止するが真っ先に意識を戻したカカシさんが首の僅かな切り傷から血を流すオビトさんの腕を掴んでその場から飛び退いた。
鬼鮫は茫然と右手の刀身を失った"試作・叢雲"と足元に落ちたその刀身を見た後、肩を震わせた。
「ク、クク…グハハハハハッ! あぁまったく、村雨、貴女はつくづく思い通りにならないものですねぇ!」
きっと、以前に鬼鮫さんは何か激しい戦闘を行ったのだろう。
だから"試作・叢雲"の刀身は最初から酷く摩耗してした。
オビトさんの身体を貫いて、勢い良く引き抜き、そして振り上げた際に遂に限界を迎えたその刀身は折れ、オビトさんの首をほんの少し切る程度に終わった。
そう、"試作・叢雲"に感情なんてない。
だからあれは決して刀が鬼鮫さんがオビトさんを斬る事を拒み自ら折れた…などという創作地味たものではない、だというのに鬼鮫さんはそれを酷く嗤いながら折れた"試作・叢雲"を地面に投げ捨てた。
それらの仕草は明らかに鬼鮫さんは普通の様子ではない事を感じさせる。
いや、それも当然か…鬼鮫さんとオビトさんは随分前から共に"月の眼計画"の成就を目指していた関係であり、そして今はオビトさんがナルト君達を認めたが故に決別してしまったのだから。
「無事かオビト?」
「ふ…はは、何を、勘違いしたんだろうな俺は…計画の邪魔になる者を殺すばかりか、里の命令に尽くしていた男を唆し計画に乗せておいて──今更自分だけそちら側に戻ろうなど…許されるはずもないのにな」
「お前…やっぱりさっきわざと」
だからこそ、オビトさんも先程鬼鮫さんの刃をわざと避けようとしなかったのだろう…鬼鮫さんを計画に誘い、しかしその計画に反しようとして責任としてその刃を受けるつもりだったのか…やはり、本来のオビトさんは純粋な人なのだと実感する。
「──バカ、そんなのは自分が楽になりたいだけだろう。お前がナルトの手を掴んだのは誰かに許されたいからじゃないだろう…許されないと分かっていても本当に正しい道だと認めたから、"うちはオビト"に戻る事を選んだんじゃなかったのか?」
だが、カカシさんはそれを許す事はなかった。
ある意味では残酷な叱咤ではあるが、その言葉にオビトさんはハッと目を見開いて顔を引き締め鬼鮫さんと向かいあう。
「……どうやら、本当に"月の眼計画"を捨てるつもりの様ですね」
「魔像から退いてくれ鬼鮫、いくらお前でもゼツが数人いる程度では勝ち目はない」
懇願にも似たオビトさんの頼み、それはオビトさん自身も聞き入れられる事はないと分かっていても口にせずにはいられなかったのだろう…だが、やはり鬼鮫はその場を動こうとはしなかった──故にミナトさんは特殊な形状のクナイを数本構えた。
「オビト、君と彼との関係性はある程度だが分かった──だがもう説得をしている時間はない、悪いが実力行使で──」
「──面白い事になっているな」
不意に頭上から声がした。
その正体が誰なのか、確かめるよりも先にその名が脳裏に浮かぶ。
「──貴方が、本当のマダラさんですか?」
「そうさ、オビトに"月の眼計画"を命令した…ある意味では本当の意味での君の協力者だよ鬼鮫」
須佐能乎を纏い上空に浮かぶマダラさんへと問い掛ける鬼鮫さんの傍に顔の半分がない白ゼツさん──恐らくだが、あれが黒ゼツさんといつも一緒にいたであろうゼツさんが現れ、彼もまたマダラさんを仰ぎ見る。
「マダラ様、この鬼鮫はオビトに"月の眼計画"を明かされ、ずっと協力していた計画の賛同者です」
「ほぅ」
ゼツさんの言葉にマダラさんは少し興味を惹かれた様子を見せると須佐能乎を解き鬼鮫さんの傍へと降り立つ。
「オビトは裏切った様だが、"月の眼計画"は元は俺が描いた計画でありそれを果たすのもこの俺だ…何も心配はいらん」
「それを聞いて安心しました──と、言いたいところですが、いい加減他人を信用するのも億劫になってきたものでね、それならばさっさと始めてもらえると嬉しいんですがね?」
「ふん、裏切られる前にオビトの奴にそれなりに仲間意識でも持っていたか?」
まるで鬼鮫とオビトさんを纏めて嘲るかの様な問いをするとその答えを待たずしてマダラさんは外道魔像に触れる。
「──まぁ良い、同志に願われたのだ…そろそろ次の段階に移るとするか」
オビトさんが魔像の中から尾獣を抜き取ろうとしていたのは鬼鮫の奇襲を受けるまでの極僅かの時間でしかない…つまりあの魔像には以前九体の尾獣か取り込まれたまま──それが今、マダラさんに吸い込まれるかの様に消えていった。
その代わりにその場に残されたマダラさんの全身は以前のオビトさん同様に青白く変化し、彼が使っていた黒い球体の様な物質と錫杖を携えていた。
そしてオビトさん以上に途方もない威圧感に皆が戦慄する。
「…マダラが、六道の力を…」
「オビト、ナルトとサスケ君を異空間へ──2人が目を覚ますまで俺が時間を稼ぐ」
「──いいや、俺達です!」
四代目様が皆を守るべく一歩前に出た時新たな人影が2人、駆け付けてくる。
「ガイ! リー君も…」
「あの男は──またしてもですか…」
目の前に現れた男性に鬼鮫さんはうんざりとした様子で顔を顰めた。
「貴様、暁の鮫男だな…」
「如何に珍獣でも自分が仕留め損なって情報を奪われた相手は覚える知能はありましたか…尤も名前も覚えていない辺り程度は知れたものですが」
ガイさんも反応を示した辺りやはり二人はそれなり以上に因縁はあるそうだ──それこそ今すぐにでも戦いになりそうな雰囲気だが…彼らが動くよりも先に"相棒"と共に四代目様よりも更に一歩前に出る。
「悪いけど、あの人の相手は譲ってもらうよ」
「…危険な役目の方を任せてしまうことを許してください。それでも…鬼鮫さんは彼に対応させてください」
水月と共に鬼鮫さんと正面から向かい合う。
この戦いだけは他の誰かに任せる訳にはいかないし、他の誰かを優先する訳にもいかない──例えそれが世界の行方を左右する戦いの傍であったとしてもだ。
「…分かった、ただし彼も相当な忍だ…気を付けるんだよ」
「少々惜しいが、まぁよかろう、好きにしろ」
四代目様、そしてマダラさんからの許可を得て水月は顎を動かして鬼鮫に場所変えを促すと向こうも肩を竦めてそれに従う。
共に地面を蹴り跳躍するとこれから大いに荒れるであろう今までの戦場から充分に離れた位置に着地する。
まだ十尾が動いていた頃の荒れた戦場は何人もの連合の忍の亡骸が横たわる凄惨たる有り様だが──自分達以外に喋る者がいないというのは好都合だ。
身に纏うローブを投げ捨てて、普段の軽装に戻った水月は背負った"断刀・首斬り包丁"の柄に手を当てながら獰猛な笑みを浮かべる。
「まさか、ここに来てアンタと戦えるなんてね、鬼鮫先輩」
「私もゼツから聞いて驚きましたよ…元暁のメンバーからなる"新生・忍刀七人衆"のリーダー…忍連合を何度も救う英雄、貴方がそんな立場になっていようとは…何をしたらそんな事になるのやら」
「色々ありましたから」
「色々やりましたからの間違いでしょう」
「その通りだよ」
い、いや…複雑な事情があったにしてもハレンチ博士達からリーダーとして認められたのも忍連合軍の人達を救えたのも水月の努力なくしては私が何をしても出来るはずもないのだから私が何をやったみたいな反応をされても困るのだが。
「ま、こっちの事情はいいけどさ…そっちは本当に良いの? 夢の世界でずぅっと寝ていたいならあの化け物みたいなマダラに任せて隠れてりゃ良いんじゃないの?」
「…確かにそうしても構わないんですが、オビトさんにはともかく本物のマダラさんに対しては特に貢献もしていないのでね、1人2人ぐらいは掃除しておいても良いでしょう」
「律儀なもんだね、こっちとしては嬉しいけどね…たださぁ──」
水月の両目がジッと鬼鮫さんの肩の辺りを心の底からつまらなさそうに見据える。
「"鮫肌"を置いてくるなんてどういうつもり? 答えによってはただでは済まさないよ」
「ん? あぁ…早とちりですよ」
鬼鮫さんが呆れたようにそう言った直後、地面をガリガリと鳴らしながら何かが接近してくる──その気配を私が間違えるはずもない、あれは正しく──
「"大刀・鮫肌"…が、何かを咥えている?」
「あれって…八尾の人柱力!?」
刀身を包む包帯を破り捨て大きな口を剥き出しにした鮫肌が咥えているのは褐色の肌の大柄の男性──水月が言うには以前に見たタコと牛が混ざった尾獣を宿して人柱力だというが一体どういう事だ?
「──私は潜入任務の為に"鮫肌"にこの男のチャクラの味を気に入らせたんですよ…その結果、想定以上気に入って反目された事もありましたがね…ともあれ"鮫肌"に気に入られたこの男、尾獣を抜かれる際に上手く切り離して死を逃れた様ですが、八尾の大半を失って薄味になったんでしょう、この場に私が来たら──この通りですよ」
「ギギィ!!」
八尾の人柱力を足蹴にしながらそう語る鬼鮫さんに"鮫肌"は嬉しそうに柄を巻き付けると彼を吐き出してかつての持ち主の手元に帰還する。
「うぅ…刀の癖にとんでもない浮
「うざいラップは相変わらずだけど…流石にちょっと"鮫肌"欲しくなくなるね、あれ見てると」
「え? 食欲旺盛で可愛いと思うけど…」
ご飯を美味しそうに食べる人を眺めるとこちらまで何気ない食事が美味しく感じる様に"鮫肌"の食欲に忠実な姿は実に愛くるしいと思っていたのだが水月と意見が食い違う事に少なからず驚く。
「…何なら私のチャクラも食べさせてあげたいぐらいなのに」
「あのさ、ボク一応今からあの人と戦うんだけど? 頼むから余計な事しないであのオッサン連れて離れていてよ」
水月の指示した通り、八尾を抜かれた上にチャクラの殆どを喰い尽くされて息も絶え絶えな八尾の人柱力さんは自分で動く力は残されていないらしい。
しかしこのまま戦闘が始まればこの様な場所で倒れていては危険極まりない、大柄であるが故に中々難儀ではあるが何とか肩を担ぐと水月の傍からある程度離れて八尾の人柱力さんを土塊の上に安静に寝かせる。
そのまま一定の距離を保ったまま、遂に互いに武器を手にした彼らの──もうすぐに失われるであろう最後の静けさを目に焼き付ける。
「さぁて、それじゃあ今度こそ…決着つけようか鬼鮫先輩!」
「いいでしょう、ただし水月…貴方の敗北でねぇ!」
互いに牙の様に鋭い歯を剥き出して腹の内の殺気と叫びを吐き出して一気に駆け出す──そして人の身を超える巨大な刃を大きく振り抜く。
"断刀・首斬り包丁"そして"大刀・鮫肌"、二つの刃がぶつかり合う美しい共鳴音が耳を激しく、そして悲しく震わせた。