自身が持つ"大刀・鮫肌"を水月の"断刀・首斬り包丁"と何度もぶつけ合い、激しい金属音を周囲に鳴らし続け鬼鮫は違和感を覚える。
(妙だ──何故、チャクラを"奪えている"?)
かつて自身とペアを組んでいたイタチの弟、うちはサスケとの戦いに余計な邪魔を入れさせない様にサスケと共に行動していた水月を足止めするべく交戦した時の事を思い出す。
あの時、水月は"大刀・鮫肌"の持つチャクラ吸収の能力を見据え、チャクラを通さない特殊な金属で造られた二本の刀で戦いを挑んできた。
"鮫肌"の能力を無力化し、大型の刀に対して小回りが利く小ぶりの刀での巧みな立ち回り…諸々の事情で決着は着かず終いだったが間違いなく自分と対等に渡り合ったあの時の徹底した対策による戦い方に比べて今はただ"断刀・首斬り包丁"を振るうだけ…奇妙だった。
「何の真似です?」
「…何が…かな?」
既に大半のチャクラを失った水月は息を荒げ、しかしそれが想定通りだと誇示するように笑みを浮かべる。
(チャクラを奪われるのを防ぐ手段がありながらそれを使わない…ならば狙いは何か細工をしたチャクラを敢えて吸収させる事か? しかし以前の戦いで水月のチャクラは私も"鮫肌"も覚えている…細工をしていたならば気付かないはずがない)
現に水月から吸収したチャクラは確かに自分の力に加わっており日向一族などが行う様なチャクラを流し込む事で相手にダメージを与える類の攻撃を仕掛けてきた気配もなく、鬼鮫はその不自然さにむしろ警戒心を抱く。
「何が狙いかは知りませんが、それなら別の手を使うまで…」
「ッ! あの印は…まさかいきなり!?」
鮫肌を頭上に放り投げ、空いた両腕で鬼鮫は素早く印を結ぶ──その印の手順を求める術を知る村雨は歯噛みする。
「"水遁・大鮫弾の術"!」
"水遁・水鮫弾の術"を遥かに凌ぐ巨大な鮫を象る水の塊が水月に向かって放たれる。
更にその術は"水鮫弾の術"と異なり術そのものが"鮫肌"同様にチャクラを吸収する性質を持っており、本来ならば水化の術によって水と同化出来る水月であってもあの術に呑み込まれれば本来の肉体に戻された挙句に激流に引き裂かれ、鮫に食われたが如き亡骸になるだろうと村雨は、そして水月自身も感じ取る。
──だが、鬼鮫の持つ膨大なチャクラ量に物を言わせた大規模の術は避け切れるものではなく激流に呑まれその身を引き裂かれていく。
水月諸共"大鮫弾"が地面に激突し巨大な水飛沫を打ち上げ、やがて十尾の攻撃で荒れ果てた戦場が湖へと変貌させていく。
何人もの忍達の亡骸が浮かぶ凄惨な水面の中心に水月が血塗れで混じっているのが目に映り鬼鮫は口角を吊り上げる。
「ほぅ、まさか五体満足だとは…やはり以前よりも更に鍛えてはきたようですね──しかし、貴方がこの水に同化も出来ずにそうして倒れているという事は本当にチャクラも尽きた様ですね」
鮫肌の切っ先の口の中からビーが入れていた雷遁刀を一本取り出しながら鬼鮫は水月の様子をもう一度確認する。
立ち上がる気配もない、チャクラを奪う"大鮫弾"の中で水分身と入れ替わる事は不可能…何より"鮫肌"の能力で自分自身が水月のチャクラを吸収するのではなく、あくまで"大鮫弾"によるチャクラの奪取である以上水月が自らのチャクラに何らかの細工をしたとしても何の影響もない。
本当に、水月の狙いがその程度のものならばこの一手で終わりだと鬼鮫は確信する。
「──さぁ! どうしますか水月!」
それでも予想の及ばぬ2人に油断などせずに離れた位置から"鮫肌"のついでに奪った刃を水に浮かぶ後頭部へと投げ付ける。
空を切り裂く勢いで放たれた雷遁刀は一寸のズレもなく水月の頭へと向かい──その先端が突き刺さる寸前に蠢いた腕に掴まれ静止する。
「バカな…そのチャクラの腕は…」
水月が何かしらの思惑があった事は察していたが故に雷遁刀の投擲を防ぐ事自体は予想もしていた、しかし実際にそれを行った意思を持つ様に動くチャクラ…尾獣の力を得た人柱力特有の能力に鬼鮫は目を疑う。
「何とか、無事に使えた…良かった」
村雨は待ち望んだ光景に笑みを浮かべる。
"双魔刀・三巴"…左近・右近の能力をベースとして造られた二本の刀、その片割れに組み込まれた"三尾"の欠片から還元された尾獣チャクラを得る、この戦いの為に準備した水月の為に造った刀。
だがその尾獣チャクラをコントロールする修行に時間を割いた結果、尾獣チャクラを引き出すには水月自身のチャクラを空にする必要があった。
元々"鮫肌"を逆利用してその条件を満たす事は前提ではあったがいざ実際に行うとなるとやはり一度はチャクラを全てを失うそのハイリスクな選択に不安は大きかった。
現に鬼鮫に最後まで不審感を抱かせずにはいられず"大鮫弾"での攻撃を受ける事になってしまった──だが、遂に尾獣チャクラを引き出す事に成功し、その傷も尾獣チャクラによる急激な治癒能力で瞬く間に回復していく。
水面に立ち上がった水月は赤い異質のチャクラを身に纏い、無傷へと修復された身体で不敵に笑う。
「──準備を手伝わせて悪かったね鬼鮫先輩」
「尾獣のチャクラ…大蛇丸が隠し持っていたのか、それとも村雨…貴女がまた悪さしたのですか?」
「私がやりました」
「でしょうね…チャンスがあったとすれば三尾か八尾か…何にしてもそんなものにまで手を出すとは、水月…貴方もつくづく不憫なものですねぇ」
「本当にさ…と言いたいとこだけど、これに関してはアンタに勝つ為さ…これぐらいならやってやるよ」
いつもの何の為なのかも良く分からないままに負わされる苦労に比べれば強くなる為の、目の前の男に勝つ為に身を削る事など今更苦に思う事もない──というには過酷過ぎる修行ではあったがそれでも精神的にマシだったと水月は笑う。
その笑みへ鬼鮫から同情気味な視線を向けられながら水月は"首斬り包丁"を握り直すと腰のポーチから小瓶を取り出し、刀身にその中の液体金属"蜘蛛粘菌"を浴びせる。
「その液体、以前の戦いで使ったチャクラを通さない物質ですね、尾獣の膨大なチャクラと鮫肌封じ、それが私に勝つ為の秘策…という訳ですか」
「いいや、ボクらの秘策はこんなもんじゃないよ」
その言葉と同時に水月は小瓶を捨て、更にポーチの中からもう一つ…大蛇丸から渡された、鬼鮫にとっても馴染深い巻物を取り出し開く──そこに刻まれたのは『断』『大』『長』『鈍』『爆』『雷』『双』の七つの字。
「まさか、それは…」
その字に印された物が何なのか、即座に答えを弾き出し驚愕する鬼鮫を他所に水月は巻物へチャクラを流し込むと口寄せの術が有効である『長』『鈍』『爆』『雷』の術式が起動し、対応する四振りの刀が呼び出され、水月の背中から伸びるチャクラの腕達がそれを全て掴んでいく。
「"長刀・縫い針"、"鈍刀・兜割"、"爆刀・飛沫"、"雷刀・牙"…そして"断刀・首斬り包丁"。なるほど村雨、貴女にとって尾獣チャクラはこれらを水月1人に使わせる為の手段でしかない…という事ですか」
「──美しい」
「あぁ聞いちゃいませんね…まぁアレはいいでしょう。それで、水月…確かにその姿は大したものですよ、かつて七人衆の刀全てを扱えた貴方のお兄さんでも全て同時に使えた訳ではないですし、今の貴方はお兄さんを超えたと言って良いでしょう──本当に"全て"扱えるのならねぇ」
1人悦に浸っている村雨から水月へと視線を戻した鬼鮫は"大鮫弾"を放つ為に空中へ投げ飛ばし、落下してきた"七人衆"の刀の中で最強の"大刀・鮫肌"をキャッチして獰猛な笑みを浮かべる。
「上等! 今度こそアンタぶっ殺して貰ってやるさ!」
水面を蹴って水月が一気に間合いを詰める。
5種類の刃の内最初に振るわれたのは七刀の中で最も重さを誇る斧の如き刃、"鈍刀・兜割"が"鮫肌"と鍔迫り合う。
(チャクラが吸えない…やはり"首斬り包丁"以外にも例の液体をコーティング済みですか…ならば──)
斧状の刃と対を成し"兜割"をどんなガードも砕く刃へと昇華させるもう片手に持つ鎚が振るわれた瞬間、鬼鮫は後方に飛び退き"鮫肌"への衝撃を避ける。
「逃がすか!」
空中に流れた鬼鮫に水月は更にチャクラの腕を振るう──その腕が持つのは先端が尖る棒状の刃"長刀・縫い針"
その柄部分に糸で繋がった針が鬼鮫の脇腹を貫き、更に水面に浮かぶ死体達を次々に貫いていく。
「ッ! ふん!」
自身の背後に死体を縫い合わせた肉団子が造られているのを察した鬼鮫は自身の身体を貫く糸に"鮫肌"の柄を当て一気に押す。
肉が内側から切られ、切断された脇腹から血が噴き出すがそれと同時に"縫い針"の糸も身体の中から外へと弾き出され、無数の死体の塊から逃れると鬼鮫は素早く印を結ぶ。
「七人衆の刀ならば私は貴方以上に知っている…単純な使い方では通用しませんよ──"水分身の術"」
"大鮫弾"の水で造られた湖の水面のあちこちが噴き上がりそれが徐々に人の、鬼鮫の姿形と変化する。
「腕の本数の増やした水月への対抗に自分自身を大量に増やしましたか…それも10や20なんて数ではない…」
「所詮は本体の10分の1程度の力の水分身、そっちこそ、そんなのが通用するとでも!」
一斉に自身に迫る無数の水分身に一切動じずに水面に二振りの双剣を突き刺す。
帯電する刀"雷刀・牙"はその力を一気に増幅し湖全体に電流を広げ水分身を全て焼き尽くす──それと同時に水月は伸縮するチャクラの腕を伸ばし電流を跳躍して避けたオリジナルの鬼鮫へ最後の一振りを差し向ける。
「ッ!?」
鬼鮫は咄嗟に"鮫肌"を盾にして身を斬られる事は防ぐも刀身に起爆札を敷き詰めた"爆刀・飛沫"の爆撃を受けて湖の底へと撃墜される。
戦況は確実に水月が押していた。
鬼鮫にとってもかつて見た事もない"七人衆"の刀の同時使用、その未知の戦い方に後手に回り続けていた──しかし村雨はその戦況が崩れる予兆を察知した。
水底に沈んだ"鮫肌"の気配が消えた──否、人の形へ変化した。
「ッ! 水月! 鬼鮫さんが本気になった!!」
チャクラを奪い持ち主へ還元する能力とは別にもう一つ、"鮫肌"が持つ特殊な能力──それは持ち主との融合。
"鮫肌"との融合により半人半魚の姿となった鬼鮫が水中を猛スピードで駆けるのを村雨は感じ取り水月へ警告する──が、その言葉を言い終えた直後、既に水月の目前に迫っていた鬼鮫は水面を噴き上げ浮上する。
鰭の特徴が混じった両腕から生えた鋭い突起の刺突を"首斬り包丁"と"兜割"で受け止めた水月は先程までとは比較にならない鬼鮫の膂力に吹き飛ばされそうになるのを歯を食いしばり踏み止まる、そして自らの身体と融合した存在から更なる力を引き出す。
「ッ! オォラアアアアアアアアッ!!」
「ぬぅ…」
身に纏うチャクラの衣を更に濃くした水月はそれにより遥かに増した腕力で押し負けていた形勢を拮抗に持ち込む。だが力比べが拮抗すれば腕の数で勝る水月は空いていた他の三つの刀を鬼鮫へ振るう、故に鬼鮫は一度後方に飛び退いた。
態勢を立て直した鬼鮫が再び水月を視界に捉えた時、その姿は雲隠れへの潜入任務を始める為に交戦したキラー・ビーの姿を彷彿とさせるものに変化しつつあった。
「身体を完全に覆い尽くす程に膨大かつ高密度の尾獣チャクラ…バージョン2とか言われていたやつですか」
「ピギギギギギギィ!!」
融合した"鮫肌"が騒ぎ出し身体が歓喜に震えるのも全く同じ反応であり鬼鮫は"鮫肌"の吸収をも上回り一撃で腹部を吹き飛ばしたビーと同等と思われる力を警戒しつつも、その時の戦闘の内容と八尾と比べて大きく劣る尾の数からしても恐れる程のものではないと判断する。
「あ、水月出し過ぎ、制御し切れなくなる」
「グ、ググ…分かっ…てるよ」
しかし鬼鮫の推測にある意味では反し、水月は自身の顔の正面、目の高さに右手を上げその掌から自身と融合した刀の刀身を生やす。
それは三尾の甲殻を素材とした片方の"双魔刀・三巴"と対を成すもう一つの刃──刀身に"写輪眼"を埋め込み、ベースとしている左近・右近の能力でそれを持ち主の両目に移動、融合させる事で写輪眼を疑似的に再現させる事を可能としたものだが──村雨にとってそれは本来の用途のついでに過ぎなかった。
長門との修行によって尾獣チャクラを自由に操れる様にはなったがその制御を完璧にする事は出来なかった…そもそも尾獣チャクラがそんな一朝一夕で扱い切れるものではない事自体が分かり切っていた事だった。──だからこそ、必要以上のチャクラが漏れ出した際にそれを抑える為の役割が写輪眼だった。
刃に埋められた写輪眼と水月が目を合わせた瞬間、自らに幻術を掛ける事でその身体から溢れ出ていた尾獣チャクラをが急激に安定し彼の身体を塗り潰す程の高密度から身体を包み込む状態まで逆戻りする。
「尾獣チャクラで腕の数を増やし、写輪眼の力で暴走する尾獣チャクラを必要量に調整する──そして七人衆の刀を完璧に扱う、それが"双魔刀・三巴"…三尾、写輪眼、そして忍刀…その3つの力を結集させた刀の全容です」
「要は尾獣チャクラは刀を振るう手の代わり、写輪眼に至ってはその補助輪程度の扱いですか…忍の世界おいて誰もが恐れる力をなんて使い道だ、大蛇丸にそんな使い方を教えたら呆れるどころの反応ではないでしょうね」
「これを完成させる為にハレンチ博士やサスケ君には色々と情報を提供してもらいました…私らしい発想だと言ってもらえました」
「……あの大蛇丸が…だいぶ言葉を選びましたね」
鬼鮫の感想も、大蛇丸達のいまいち振るわないリアクションも村雨も納得の反応ではあった。
勿体ないとは承知の上、これらの素材を全て大蛇丸に提供すればきっと自分の発想など遠く及ばない活用が出来るであろうことは分かっている。
それでも村雨は自らの結論こそが最も水月を"七人衆の長らしく"戦わせてあげられるのだと譲らない。
だからこそ勿体ないことは承知であろうともそれが愚かだとは思わない。
ただ思う事は1つ、"これで良かった"。
──そしてこれらを完成させる為に写輪眼の力の引き出し方を教えてもらったサスケからそもそも写輪眼を使う代償としてこそ戦争終了後に"双魔刀・三巴"に埋め込まれた写輪眼を摘出、供養として焼き払わせてもらうという拒否も許さない剣幕で言われた事をどうしようかという事だった。
(──実際に運用しているところを見るとやっぱり惜しいなぁ…何より教えると修行に身が入らないと思って水月にまだその事言えていないし…本当にどうしよう色々…)
伸縮自在の尾獣チャクラを利用した変則的な太刀筋で"鮫肌"と融合した鬼鮫を相手に互角以上に切り結ぶ姿を見てしまうとそれが今限りのものである事が村雨にとって耐え難いものへとなっていく。
何とかこの戦争が終わった後サスケを説得する方法はないものかと考え始めた時、突如地面を揺るがして現れた巨大な木が天に向かって際限なく伸びていくのを見て思考を奪われる。
大規模な木遁忍術かと村雨は一瞬可能性を考えるが、本能の様なものがその存在がもっと異様な物であると騒ぎ立てた。
謎の巨大樹の正体が分からないまま、巨大樹が意思を持つ様に根を蠢かせて戦場の忍達を捕らえ、そのチャクラを奪っていくのを村雨達は戦いの手を止めて観察しそれに伴い樹木の先端の蕾が僅かに開こうとしている事に気付きある程度の推測に至る。
「──あの樹、マダラさんがいる場から生えた事からしてもあの蕾が開いた時こそが"月の眼計画"の完成という事ですね」
「それまでに生きていればアンタの勝ちって訳だ…ねぇ、何だって夢の世界なんて望んでんの? 鬼鮫先輩ってそんな感じの人だっけ? なんか、もっとこう…思う存分戦って削りがいのある奴ぶっ殺して…て殺伐というか、刹那的な感じの人じゃなかった?」
「さて…どうでしょうね。しかし水月、貴方の言う通り私はあの花が開くまで生きていれば良い、縦え貴方との勝負が途中であったとしてもね…私の動機など気にしているよりも急いだ方が良いのではないですか?」
「話す気はないって訳ね──ま、実際そこまで興味ないけどね!!」
"爆刀・飛沫"を持つチャクラの腕が鞭の様な軌道で鬼鮫に迫る──が、起爆よりも早く鬼鮫が放つ"水遁・水鮫弾の術"が刀身とぶつかり弾き飛ばされる。
そして鬼鮫は"爆刀・飛沫"を囮に密に自らの目前に迫っていた"長刀・縫い針"をわざとその左腕に受けると肉を貫かれるよりも先に繋がっている糸を右手で掴み取り、一気に引き寄せる。
「なッ!?」
鬼鮫の規格外の怪力によって"長刀・縫い針"を手放すかチャクラの腕の方を伸ばすなどの対処さえも出来ないまま身体を強引に引き寄せられた水月は咄嗟に"断刀・首斬り包丁"を自身の身体の前に持っていき盾代わりにし、落下の瞬間を狙っていた鬼鮫の拳を受け止める。
「尾獣、写輪眼、忍刀…これだけのものを集めたのも使えるようにしたのも認めましょう…ですが生憎忍刀については貴方達よりも私の方が詳しいんですよ──"忍刀七人衆"の正規メンバーとしてね!」
水月の視界を青白い何かが横切った直後、頭上から滴り落ちた血が顔を使う。
「しまった!?」
「水月、"牙"を手放して!」
水月の頭上、チャクラの腕が掲げていた刀の内の1つ"雷刀・牙"に"鮫肌"と融合した事で生えた鬼鮫の尻尾が深々と突き刺さっていた。
突然の自傷行為だが鬼鮫との戦いに備えて全ての素材、武器の性能を頭に叩き込んでいた2人は鬼鮫の狙いを理解して水月はすぐに"雷刀・牙"を掴むチャクラの腕を手放そうとするが手遅れだった。
この場にない"双刀・ヒラメカレイ"を除きここに揃った忍刀の中で唯一チャクラを帯びる"雷刀・牙"だけはその性能故に"チャクラを通さない物質"である"蜘蛛粘菌"のコーティングを行う事が出来なかった。
剥き出しの刀身に突き刺さった鬼鮫の身体は"鮫肌"の能力を宿し一瞬にして水月の、その身体に宿る三尾と写輪眼のチャクラを吸い上げていく。
「ぐ…あぁあああッ!?」
チャクラの衣が剥がされ、水月自身の手で持つ"首斬り包丁"以外の忍刀達は掴む腕が消えた事で全て水の中へと落ちていく。
"雷刀・牙"とのチャクラの繋がりが途切れた事で結果的にチャクラの吸収から逃れる事は出来たがその時には既に大半のチャクラを奪われ水月は息を荒げ肩を激しく上下させる。
一方で鬼鮫は先程までの攻防で受けた傷もチャクラの消耗さえも回復し、腕から無数の突起を生やしながら水月へと歩み寄る。
「──さて、これで貴方のチャクラは尽きたがまだ何か手はありますか? それとも残された"首斬り包丁"一本で戦いますか? "忍刀七人衆"としては…そっちの方が正道といえますがね」
「ッ! うおおおおおッ!!」
鬼鮫が間合いに踏み込んだ瞬間に水月は全力で"首斬り包丁"を振るう。
重く鋭い刃は人の身体など容易く切り裂く斬撃となる、しかし異形と化した鬼鮫は片手でその一撃を受け止める。
「良い抵抗だ…最後に念願の"忍刀七人衆"らしくなれたじゃないですか」
そう皮肉たっぷりに水月を称えた鬼鮫は残った左手で水月の首へ刺突と放つ──その先端は"鮫肌"により鋭利に研ぎ澄まされており、チャクラを奪う能力により"水化の術"による回避も許さない確実に命を奪う事を目的として一撃だった。
(──ここだ!)
鬼鮫の手が目前に迫った瞬間、水月は口を開き自身と融合していた刀を勢い良く吐き出す──その切っ先は鬼鮫の手が水月の喉を刺し貫くよりも早く鬼鮫の顔の寸前へ迫るが咄嗟に首を傾け鬼鮫はその刃から逃れる。
「融合した刀はそうやって出す事も出来るのですね…まるで大蛇丸の真似だ。だがこの程度、刀をただ投げるのと大差はない」
「確かに…これが攻撃だったらね」
「──ッ! 水月、まさか!?」
幼馴染が口から刀を吐き出す禁忌的な光景に一瞬硬直していた村雨は水月の身体が再び溢れ出した尾獣チャクラに包まれ、その身体を完全に赤く染めていく事に一瞬遅れて気が付き慌てて先程水月が放ち水底の地面に突き刺さった"片方の刀"を凝視する。
写輪眼を埋め込んだ方の"双魔刀・三巴"──尾獣の力を抑制する側の…つまりはチャクラを消費する側の刀のみが水月の身体から無くなった。
だから今まで写輪眼の力で抑制されていた分の尾獣チャクラを引き出す事も可能になったが、その量は今の水月は自力で制御出来るレベルを超えるチャクラを引き出していた。
「ぅ…ゥゥ…ガアアアアアアアッ!!」
皮膚を焼き尽くす程の高密度のチャクラで全身を覆い尽くされた水月が獣如きを叫びを上げながら鬼鮫さんの右手と鍔迫り合う"首斬り包丁"を更に押し始める。
「ほぅ…確かに大したパワーだ。──しかし、その様子ではもうまともに刀を扱う事も出来ないでしょう、投げるだけの次は力任せに振るだけだ」
力は増したがその代償に技術を失い、ただ力押しするだけの刀を鬼鮫は左手で峰を掴み刃を抑える右手と共に捻り上げると水月の手元から簡単に奪い取れる。
──瞬間、バキリと鈍い音と共に"首斬り包丁"の刀身が砕かれる。
「ぐ…ぬぅ!」
「ガアアアアーーーッ!」
高密度のチャクラを纏った拳で"首斬り包丁"諸共鬼鮫の腹を殴り付けた水月は水に沈んだ"首斬り包丁"柄側の半分を踏みにじりながら痛みを堪える鬼鮫の顔を何度も殴り続ける。
「……は?」
"忍刀七人衆"として、何より水月という1人の忍にあるまじきその戦い振りに村雨は耐え難い感情のまま不満の声を無意識に出していた。