霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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1日遅れの明けましておめでとうございます。
本年も何卒宜しくお願い致します。

などと口上を述べておいて今回は別視点の外伝となっております。
村雨側の進行はありませんがお楽しみ頂けたら幸いです。


外伝・雷霆万鈞

 三代目火影ヒルゼンと大蛇丸が死闘を繰り広げる最中、中忍試験会場から幾分か離れた森の中では計画中止により離脱した我愛羅と彼を追ってきたうちはサスケが対峙していた。

 

 うちはサスケは戦慄していた。

 試合の最中砂の殻の中から自身を覗いていた獣の目、それに砂で造られた巨大な右腕、獣と人が混じり合った様な異形な姿に変化した我愛羅に背筋を凍らせ無意識の内に身体を震わせていた。

 

「ウオオオオオオオオ!!」

 

 雄叫びを上げながら飛び掛かってくる我愛羅に意表を突かれ歯噛みする。

 カカシから聞いた、そして自身が見た我愛羅の戦闘スタイルからかけ離れたその行動に戸惑いながらも辛うじて逃れたものの、さながら嵐の如く木々を薙ぎ払った我愛羅の力に舌打ちする。

 

「この俺が怖いか? うちは……サスケ! この俺の存在が……!!」

 

 今までの寡黙な様子を無くし饒舌に煽ってくる。

 木の影に身を隠す自身を明確に捉える獣の目に中忍試験本戦の準備期間中に我愛羅が自身に接触してきた時の事を思い出す。

 自身の心の内に宿した復讐心を見透かし同じ存在として自身の存在価値を賭けて殺し合おうと宣言してきた時の記憶が蘇る。

 

「どうした……この俺が怖いか?? 憎しみも殺意も恐怖に竦んだか? お前はその程度の存在だったのか!?」

 

 ……耳障りな言動を無視しゆっくりと立ち上がる。

 

「答えが欲しければ……来い!!」

 

 印を結び左手首を右手で掴む。

 左手に雷遁チャクラを集中し帯電させる。

 バチチチチと雷遁チャクラの嘶きを響かせると共に両目を写輪眼へと変化させる。

 

 木の影から飛び出すと同じく足場の枝を蹴って宙へ飛び出した我愛羅と交差する。

 

「「ウオオオオオオオオ!!」」

 

 突き出された砂の剛腕を切り裂き木の上に着地する。

 確かな手応えと砂の右腕を切り裂かれ悲鳴を上げる我愛羅に自身の攻撃が有効であったと思うも突如我愛羅が苦悶の呻きから笑い声へと変化させる。

 

「アハハハハ……そうだ……この感じ……あぁアイツの言っていた通りだ……この痛み……俺を傷付ける程の者を殺すことは俺により強い生の実感を与えてくれる!! 欲求を満たす為に必要なものは量ではなく質が重要か……ククッ、アハハハハッ!!」

 

 狂気に染まった言動と笑いを撒き散らす姿に戸惑いながらも決して顔には出さず口角を吊り上げる。

 ダメージを与えたことは間違いないようだがそれはむしろ奴を刺激する結果となった様だ、極めつけは切り裂いた砂の右腕が癒着し再生した上に尾の様なものが生え更に化け物感が増してゆく。

 

 いや、変わったのは外見だけではない。

 

 その速度、動きまで今までのそれから大きく変化し、より速く、より型破りなものになっていた。

 もしも自分が写輪眼を持っていなければその攻撃は到底見切れずとっくに死んでいたと確信する。

 ──おまけに問題は奴の変化だけではない。

 

 先程の一撃と試合での1発、既に千鳥を2発使ったこと。

 それは自身が1日で撃てる千鳥の限界を迎えたということが何よりの問題だ。

 

 ならばと火遁を撃ち込んでみたがやはり砂の盾に炎では効果はなく、それどころか炎の中を砂に覆われ突っ込んできた奴から一撃を受けることになった。

 辛うじて腕を交差に守りの態勢をとるもその重い一撃はたった一発で意識を失いかけるほどのもので背後の木々を崩しながら大きく吹き飛ばされる。

 

 木にめり込みながら肩を上下させる。

 肉体もチャクラも既に限界だった……座り込んだ身体を動かそうにももはやどうしようも──。

 

「お前の存在価値はこの程度か? はっきり言おう……お前は弱い!!」

「──っ」

「お前は甘い……憎しみが弱いからだ」

「……」

「憎しみの力は殺意の力、殺意の力は復讐の力、お前の憎しみは俺より弱い!!」

「黙れ……」

「この意味が分かるか……?」

 

 ──知ったことか……耳障りな奴の言葉に反吐が出る。

 だから……自身の腰のポーチへと手を伸ばす。

 

 思い出すのはこれを渡した時のカカシの姿。

 右腕に包帯を巻き、いつになく真面目な顔で、もしも戦いの最中で勝つ事が出来ず"逃げる事も出来ない"命の危機の際にだけ、呪印に頼るぐらいならこれを使えと自身に持たせた巻物。

 何時ぞやのラーメン屋で会ったという女から貰った刀が入っていること、特殊な造りであること、──そして不用意に使った際の危険性については聞かされた。

 千鳥の習得とそれを十全に活かす為の身体造り、体術スキルの完成に時間が掛かり過ぎたせいでまともに使った事はないが──奴を葬るにはもはやこれしかない。

 

 ──勢い任せに巻物を開き親指を噛み切ると口寄せ術式に血を押し付ける。

 

 見た目以上に重量のある刀が左腕に握られていた。

 その形状は全てが異質だった、通常の刀の様に刀身に刃がなく先端の円錐と4つの円筒が連なった槍の様な外見、その刀身には複雑な術式が刻まれ一見してそれが刀だとは思えなかった。

 

 しかし見た目などに興味はない、姿を見せた自身をなお嘲る様に笑うあの男を討つ力があるのならばそれで良い。

 カカシから聞いた通りに千鳥の要領で雷遁チャクラを左腕に集中することでその刀に雷遁チャクラを供給する。

 

「何をしようともう無駄だ! 貴様はここで──っ!?」

 

 我愛羅の言葉が突如詰まる。いや、俺自身も驚愕に目を見開く。

 雷遁チャクラに反応したのだろう、4つに分かれた刀身の円筒部分がそれぞれ回転を始めると同時にその刀身から激しい雷が周囲に溢れ出し周囲の木々に火を放つ。

 ──ありえない、今までに使用した2発の千鳥より供給したチャクラ量は遥かに劣るのだ……それがこれ程に力を放つはずがない。

 

 刀自体に雷遁チャクラが宿っているのか? 

 いや、これは明らかに刀一本に宿せる力ではない。

 

 刀の方が増幅させている? 

 そんな事は可能なのか? ──それは分からないが……今は理由などはどうでも良い! 

 

 柄を握る左腕に更に力を込めて雷遁チャクラをより多く供給すると溢れ続けていた雷光が渦を巻き刀身全て覆いつくし一振りの刀を形成する。

 

「……その……刀は……」

「──っ! ウオオオオオオオオ!!」

 

 刀を凝視する我愛羅を無視し腹の底から叫び声を上げて突っ込む。

 これならば確実に奴を倒せるその確信が既に満身創痍だった身体を突き動かした。

 

 それは千もの鳥の鳴き声を奏でる千鳥とは違う、耳を劈く轟音を響かせながら青白い光となって──砂の化け物を貫いた。

 

 

 

 

 

 うちはサスケが取り出した刀に我愛羅は目を奪われた。

 自分はその刀を知っていた。その刀を見たのは初めてだったがその異質な形状を目にして、その刀身に刻まれた術式から感じる特殊な血族由来の力を感じてその刀を造った者の幻影がうちはサスケの背後に差し込んだ。

 

 ──渦柘榴村雨

 

 砂の里において唯一化け物を宿した自身を恐れず、しかし誰よりも自身を殺そうとし続けている異物の女。

 奴の鍛冶場に押し掛けていた際に一度だけ耳にした刀の設計案……アレはその完成形だった。

 

 

 

 あの女を殺そうと初めて奴の鍛冶場に押し掛けた時から数ヶ月程経った頃だ、普段は一言も会話も交わさないただ鉄と鎚の音だけが響くその部屋にあの女の声がした。

 

「……我愛羅君、風影様のいるあの建物の間取りは分かる?」

「……知らん、俺を殺そうとする父がわざわざ自分の砦を俺に教えると思うか?」

「思わない……なら『第三の目』だっけ? あれで間取りを調べて欲しい」

 

 突然の要望に耳を疑った。

 2度目にここに来た時何故ここに来たのかという奴の問いに答えた時から数ヶ月振りの会話でいきなり風影への謀反とも言うべき依頼を寄こされたのだ、それも当然だろう。

 

「……何故俺がそんな事をしなければならない?」

「貴方を殺せる程の刀を造る為」

「くだらん……この数ヶ月、貴様は幾つ刀を造った? その中で俺を傷付けた刃は一本でもあったか?」

「なかった、単一の力しか持たない設計の刀では貴方の砂の護りを破ることは出来なかった……業腹ではあるけどそれは認める……だから頼んだ」

 

 そう言ってあの女は鎚を振り降ろす腕を止めて傍らの机に置かれた巻物を開くとそれをこちらに見せた。

 火、水、土、雷、風、基本性質変化の5つがそれぞれの間に矢印を引かれた五角形で描かれた図式だ。

 

「性質変化には相性があり水を当てれば火は消える、土を当てれば水は吸われて消える」

「基本だな、そんな知識がなんだと言うんだ?」

「逆の視点で言えば水は火を消し、土は水を吸う、つまり優位の性質は相手の忍術をかき消す。これは基本──ただしこの中には異質な組み合わせがある」

「……風は火をより大きくより強くする」

「……ん、ただ一方をかき消すその他の組み合わせと異なりその組み合わせは術の強化をする結果を造る」

 

 所詮それも基本の知識だ、特に風遁の性質変化を持つ自分にとってはそんな事はとうの昔から覚えている知識だ。

 今更そんな話が何だとそう思っていた。

 

「──なら他の組み合わせは全て片方の術を消してしまうのか? ……基本的にはその通り……けれど性質変化にはその基本から外れたものもある……ならば術の組み合わせもまた基本から外れることもできるということ……例えば雷の力を増幅させる性質変化が丁度この里にいる」

「まさか……父の"磁遁"を奪おうというのか?」

「……分けてもらうだけ、別に危害を加える気はない」

 

 そう言ってこの女は自身の髪の一部を切り裂くとそれを床に描かれた術式の中心に置いて何からの印を結ぶ。

 印が終わると床の術式が蒼く輝くと共に造り掛けだった作業台に置かれた刀へまとわりつきその刀身に刻まれた。

 

「性質変化を持つ者の髪や血、肉体の一部を術式に交えて特殊な鉱石で造られた刀に書き写す事でその性質変化を刀身に宿らせる……忍刀を造る際の秘術の1つ、これを使えば本人を殺さずとも性質変化の力を利用できる……勿論、希少な血継限界にも対応できる保証はないけれど」

「……なるほど、それで父に接触したいと」

「ん……数日後風影様と風の国の大名様の会談が控えているらしい。それに合わせて部下の方が散髪の準備で鋏を買って行ったからその時を狙う」

「忍にとって自身の身体は爪の先まで情報の塊だ、そんなものを処分もせずにお前に渡すとでも思うか?」

「特殊な幻術を使ってこっそり貰っていくつもり……その時に迂闊な行動をしなくて良いように風影様の周りを把握しておきたい」

 

 むしろ血継限界を持ち"影"の名を背負う人物の情報を奪おうとする事以上に迂闊な行動があるのかと失笑する。ましてや現状ですらその風影に命を狙われている自分に片棒を担がせようとするとはこの女の頭はどれ程愉快な造りになっているのかと……自分でも意外な程面白いと思ってしまう。

 ──だが、どう考えても上手くいくとは思えない。父の髪を奪うことも、その後の"磁遁"の力を術式に組み込むというのも明らかに実現不可能な話だ。……そんなものに付き合う理由はどこにもない。

 

「くだらん、そんな事をして俺に何の利がある?」

「貴方を殺し得る刀が生まれる……貴方の砂の護りも風遁忍術も一蹴する雷遁刀が貴方をいずれ殺しに行く……しかもそれは貴方を殺そうとする"貴方の父の力を利用した物"……もしもそれさえも返り討ちにできたなら貴方はきっと最高の生の実感を得られる。……不服?」

「…………いや、面白い」

 

 また面白いと思った。

 自身を殺そうと何度も刺客を差し向けてくる父の力の象徴とも言うべき血継限界"磁遁"を勝手に利用するという話も、その力さえも否定する機会を得れるという話も心底面白いと思った。だから俺はその刀狂いの女と共に父である風影のいる砂隠れの本部へと潜入を行い父の髪の一部を回収した。

 

 その後に聞いたのがその刀の設計だった。

 磁遁の力で刀身を回転させ雷遁の力をその磁力を以て爆発的に高める特殊な刀──名を『雷刀・鳴神』。

 

 もっとも血継限界の術式化は通常の性質変化とは比較にならない程複雑ですぐには完成できないだの、よくよく考えたら「風影様の力を無断で利用した刀って砂の忍に渡せないのでは?」などと言い出した時には殺そうかと思ったが──そうか……。

 

 

 

 目前に迫った雷の奔流に我愛羅は目を奪われた。

 聞いていた『雷刀・鳴神』の設計とは僅かに異なる。

 雷遁の術式を刻まれた刀に回転構造と磁遁の術式を加えて雷遁刀を強化するという設計から持ち主に雷遁チャクラを供給させ、刀そのものは回転機構と磁遁の術式に特化させた事で磁力の力が設計段階とは比較にならない程高まっている。

 そして持ち主であるうちはサスケの雷遁チャクラは素の力で自身の砂の護りを貫く程の力を持っている。

 

 

 ──つまり……この力は……。

 

 寸前で防御に回した右腕に纏った砂の腕が薄紙同然に容易く切り裂かれ肉に突き刺さり血が吹き出す。

 砂の護りを以て何とか軌道を逸らした事で即死を免れたものの今まで感じたことのない激痛が身体を襲う、さらに突き刺さった刀から溢れる放電が痛みに駆られる全身を焼いてくる。

 意識の全てが奪われかねない程の痛みだ、とても耐えられるものではなく大声で悲鳴を上げるも耳を襲う雷鳴に飲まれ微かにも自分の声が聞こえない。

 

 ──負けるのか? 死ぬのか? 

 

 失い掛けた意識がそんな疑問で埋め尽くされた直後……轟雷が一瞬にして消えた。

 ──どういうことだと掠れた視界で目の前にたったうちはサスケを何とか捉えれば……。

 

「うっ……ぐぅぅ……」

 

 苦悶に満ちた表情で雷に焼かれた左腕を抑えていた。

 ……あぁそうか、この男は俺の右肩に突き刺さったこの刀を完全には使いこなせなかったという事か……だが、それでも。

 

「ククッ……アハハハハハ!! 面白い、面白いぞうちはサスケェ! 良くこの刀を持ってきた! おかげで俺はお前の力も! 父の力も! あの女の力も!! 全てを否定し最高の生の実感を得ることが出来る! これ程の相手等他にいないだろう! 感謝するぞうちはサスケ!!」

「……くそっ……」

 

 辛うじて動く左手で右肩に突き刺さった『雷刀・鳴神』を無理矢理引き抜き投げ捨てる。その後左腕に守鶴の腕を纏わせ既にチャクラも使い果たし立ち尽くしたうちはサスケへと振り上げる。

 

「ウオオオオオオッ!!」

 

 雄叫びと共に振り下ろした砂の豪腕。

 確実に目の前の男を殺せるであろうその一撃は乱入してきた金髪の男……いつぞや病院で殺し損なった男によって阻止されるのだった。

 

 

 

 至高の瞬間を邪魔された事に言い様の無い程の怒りを覚えた……有象無象に最早興味などないというのに酷く目障りだった。

 故に始めは死なぬ程度に痛ぶってやろうと戦いを始めるのだった──その戦いの果てにどの様な結末を迎えるかなど……この時は思いもしなかった。

 




『雷刀・鳴神』
四代目風影・羅砂の身体の一部を術式に組み込んだ事で彼の"磁遁"の力を利用し持ち主から供給される雷遁チャクラを増幅させる力を持つ。
外見は回転構造を持つ刀身により刀というより槍に近いが一定以上のチャクラを供給することで形態変化により刃を造る(職人の拘り)

砂の里にいた時から設計案はあったのだがその素材から砂の里で造ることが難しくお蔵入りになっていたが木ノ葉の里で雷遁刀を造っている際に思い出して作成。
完成後サスケに譲渡する前に試運転してみたカカシ先生は右腕を軽く焼かれた。
修行期間の都合でサスケは不慣れな状態で実戦で使用、左腕をがっつり焼かれた。

その素材故に価格は不明な上素材の入手先が亡くなった事で量産は不可の一点物だが鍛冶場の紹介代という事もありカカシ先生は無料で入手した。
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