意識を失った鬼鮫さんに駆け寄りチャクラを供給し回復させようとする"鮫肌"に水月が上から"首斬り包丁"を乗せる事で動きを封じ完全に決着をついたことを見届けると、"鮫肌"を"首斬り包丁"が圧し潰している光景に心がザワつくのを感じながらも水月に駆け寄り今にも倒れそうな限界寸前の身体を支える。
「…お疲れ様、遂にやったね」
「殆ど引き分けみたいなもんだけどね…」
「…もっと喜んでも良いと思うけど」
「チャクラも体力も使い切ると喜ぶ事も出来ないみたい…初めての体験だよこんなの」
嘘ではないのだろうが、それ以上にずっと追いかけ続けた相手に勝利した事に未だに実感が伴っていないのだろうと理解してそれ以上は何も言わず、それ以上に気になっていた事を口にする。
「水月…いつの間に尾獣チャクラをあの状態まで制御出来るようになっていたの?」
最初は打つ手がなくなり制御可能な状態以上に尾獣チャクラを引き出して暴走したものかと思っていた…"首斬り包丁"を自分からへし折った時はあまりの蛮行に怒りも湧いたがそれでも水月ならばこの土壇場で意識を取り戻す可能性もあると悪感情を抑え込んで戦いを見守っていたのだが最後の"首斬り包丁"での攻撃を見て確信した。
あの時水月は自分の意思で"首斬り包丁"を一度折って、血が溢れる水の中に隠していた、そしてそんな事が出来たという事はあの暴走は演技、本当はずっと意識を保っていたのだと──
「"双魔刀・三巴"…写輪眼を埋め込んだ方、この戦争終わったらサスケに返さないといけないんだろ?」
「え!? な、何で水月がその事を?」
写輪眼を素材とする際にサスケ君から申し付けられた条件を口にされ、誰も知らないはずのその取り決めをどうして水月が知っているのか驚愕する。
「あのさぁ…君未だにサスケから口約束を守る人間だと認識してもらえてるとでも思ってんの? 自分の事?」
あまりにも無慈悲な答えが返ってきて言葉を失う。
つまりはサスケ君、私と約束を結んだ後に「こういう条件で写輪眼を使う事を許した」と水月にも説明していたという事か…言われてみれば当然の対応と自分でも思ってしまうがそれでも信用の無さを実感し心が痛む。
「──まぁ、だから写輪眼無しでも尾獣チャクラを制御出来る様にしておいたんだよ、流石にあっちの状態で刀を握るのは無理だけどね…チャクラ強すぎて柄折ってしまうから」
簡単に言うがそれがどれ程難しい事なのか…この戦争が終わり写輪眼を失う事になる事を先回りして解決してくれた事は勿論、鬼鮫さんとの戦いでも敢えて"写輪眼が必要なフリ"を見せて最後の詰めの布石を打っていた事といい、今まで以上に水月を頼もしく映る。
──が、それはそれとして、ならば更に気になる事が1つある。
「でも水月がチャクラの腕を使いこなせる様になったのは終末の谷に行く直前の長門さんとの修行でのはず…それ以上の尾獣チャクラを制御出来る様にしておいたって…いつの間に?」
「いやだから、それ以前にだよ…」
さも当然の様に言っているがつまりバージョン1を完全に制御仕切る前にバージョン2状態で意識を保てる様にしたというのか…どう考えても順序がおかしい
「…水月の発想は狂ってる」
「君にだけは言われたくないんだけど!?」
「私でも死体をあんな使い方するのはどうかと思う…効率的に"首斬り包丁"に血を集められるとはいえ流石にちょっと…連合の皆に見つかる前に角都さんにご遺体の修復頼んでおく?」
「……お願いして良い?」
水月も思うところはあったのか気まずそうに視線を逸らした。
まぁ、死体の件はともかくお陰でサスケ君との約束を無事に守れそうだから水月の判断には感謝するばかりなのだから角都さんへの依頼は私からしておこう…最悪お金が掛かっても背に腹は代えられない。
「──ともあれ本当に頑張ったね水月、カッコよかった」
「いや、急にらしくない事言わないでよ…気持ち悪いなぁ」
悲願を果たしたのだから普段と違う言葉があっても普通だと思うんだけど…いや、普段から私が褒める言葉を言い足りてなかったから違和感が出てしまうのだろうか?
正直、私としては結構伝えているつもりだったのだが…意識して言うとなると気恥ずかしさがないわけではないがもう少しこういう事を口にする頻度を多くしてみるべきだろうか?
水月との今後のコミュニケーションの方針を考えながらも水の中から"鈍刀・兜割"を拾い上げるとそれを水月に杖代わりに渡し、今度は顔を水面に付けたまま意識のない鬼鮫さんに触れその身体を顔を水面から出る様にひっくり返す。
「ッゲホッ! ゲホ!」
急に気道が確保された反動か意識を失っていた鬼鮫さんは大きく咳き込み、口から水を吐き出しながら意識を取り戻し虚ろな目を開けた。
「──村…雨」
「水月の勝ちです、鬼鮫さん」
「……あぁ」
意識を取り戻したといっても"首斬り包丁"の峰打ちを頭に受けて気絶していた影響か、ぼんやりとした様子で鬼鮫さんは視線を動かし水月を見据える。
「──トドメを刺さないのですか?」
「そうしてほしいならしてやるよ…ま、今は気分が良いから"月の眼計画"を止める邪魔をしないってんなら見逃してやっても──」
「ッ!? アレは!」
自らを殺さずにいた水月を問い質す鬼鮫さんだったがその返答を遮って驚愕に目を見開いた。
その異常な様子に一体何があったのかと疑問を抱くが、鬼鮫さんの表情に驚きだけでなく歓喜の感情が宿っていることに気付き、心臓を鷲掴みにされた様な悪寒のまま頭上を見上げるとこちらを見つめ返す巨大な瞳が空に浮かんでいた。
波紋模様と巴模様、輪廻眼と写輪眼の二つの特徴が合わさった紅い瞳が映った満月が夜空に顕現していた。
「まさかアレは!?」
「──無限月読…」
他の可能性などあるはずもない、どうやら──
「くそ…向こうの連中、しくじりやがったね」
「まぁ相手が六道の力を得たマダラさんだから仕方ないともいえるけど…残念」
「残念っていうけど、マダラの復活君のせいだからね…君のせいで世界終焉だしボクの勝利が水の泡なんだけど?」
言い逃れの余地もない水月の指摘に心臓がビクリと跳ねる。
謝っても済む問題ではない、かといって今から水月を術から逃す事も出来ない…出来るとすれば今から両目を切っておいて術に掛からなくなる可能性に賭けるとかだろうか?
術から免れる事が出来れば写輪眼側の"双魔刀・三巴"を拾って融合…その能力で潰した自分の目と写輪眼を一体化させて視神経を補う…。
問題はその後のマダラさんにどうやって術を解かせるか。
その最後の難問だけは答えが出ず水月にも相談してみるが──
「いや、咄嗟の判断がエグいって…どうせ君が残ってもマダラに術解かせるとか無理だから…もうこれ以上余計な事しないで向こうの連中が何か手を見つけてる事に賭けた方がずっとマシだって」
まぁそれはそうだ…折角水月が写輪眼をサスケ君に返却しても良い様にしたというのに手放せなくなる理由を私が作っても仕方がない。
心苦しい限りだがもう私には責任をとる方法すらないというわけだ。
だとしたら、せめて──
「──鬼鮫さん、聞いての通り"月の眼計画"の成功には私が大きく関わっています、なので私のお願いを1つだけ聞いてもらえませんか?」
「…今さら貴女の思考回路に驚きはしませんが、よくそこまで開き直れますね」
「本当にね」
謝ってももうどうにもならない、ならばせめて今しか出来ない事をやるしかないと思ってみたのだが冷ややかな視線が突き刺さる――鬼鮫さんは仕方ないとしてどうして水月まで…
「それで、この最後の時に一体私に何を望むのです?」
「…万が一、この術が解ける事があれば計画成功の報酬として私に…水月の"新生・忍刀七人衆"にこんどこそ加わって頂けませんか?」
「話になりませんね、マダラさんの復活は貴女が勝手にやらかしただけだ…それに、術が解けたのならば計画が成就したなどと言えないでしょう?ならば私が貴女に報酬を与える理由がありますか?」
言われてみればそれはそうだ。
術に対処する手段がないのならばせめて今の内に術が解けた時に水月の夢に貢献出来ればと思ったのだが…やはりこの手の交渉事は望んだ通りにいかないようだ。
「ってか勝手にボクの"新生・忍刀七人衆"にまた暁のメンバー加えようとしないでくれない!? "新生・忍刀七人衆"っていうか殆ど暁が改名しただけの組織になるだろ!?」
「で、でも鬼鮫さんは元々七人衆に所属していただけに部隊に運用について相談も出来るだろうし」
「あのメンバーの運用に別の部隊の過去のマニュアルが何か役に立つとでも思ってんの!?」
何一つ反論できない。
改めて凄いメンバーが集まったものだ、最後の瞬間に彼らと別の場所にいるのが寂しい限りだが…術が解けたらまた会いたいものだ。
紅い月の光は更に強まり夜の闇を掻き消して昼間以上に世界を照らし出す。
その強烈な光に意識さえも掻き消されていくのを感じ遂に終わりが来たのだと悟る。
「──では鬼鮫さん、代わりと言ってはなんですが…もしも夢が覚めたら鬼鮫さんが望んだ世界がどんな世界だったか教えてくれませんか?」
「私が…望む世界?」
「それでもし、その世界をつまらないと思ったなら…もう一度だけさっきのお願いを考えてください」
その要求に今度は鬼鮫さんからの返事も、水月からの口出しもなく、ただ世界が真っ白になる。
薄れゆく意識の中で身体に何かが巻き付き全身が覆われていくのを感じ、どこか心地良さに包まれながら眠りについた。
最後に見た鬼鮫さんの表情が望んだ世界を得られるはずなのに、どこか呆然とした様子だったのを疑問に思いながら――
そうして世界は、全ての人々は終わりを迎えた。
◇◇◇
「──はずだったのにな」
数日前の出来事を思い出しながらポツリと呟く。
今思い出しても驚く限りだが、"無限月読"を発動したマダラさんだったが術を使おうとした瞬間に計算以上のチャクラの消費に"無限月読"を世界全ての人間に掛ける事は出来ないと悟ったのだという──そして全ての人間が術に賭けられないのであれば公平さがなく、残された人間に必ず不満が生まれ幻術を掛けられた側の人達の平和を維持できなくなると結論付けたのだという。
そうしてマダラさんは計画の中止、「やっぱり現実世界で頑張って皆で平和を目指そう」と宣言し忍連合軍を率いる五影の皆さんは快くそれを受け入れた。
俄かに信じ難い事だが、こうして世界を震撼させた第四次忍界大戦は終わりを迎えた。
死んだ人はあまり多い、人も土地も多く傷付いた、そして"月の眼計画"を心から望んでいた鬼鮫さんは気が付けば姿を消していた…戦争が終わったとしても何もかもが元通りという訳にはいかないのが現実だ。
それでも戦争を共に生き抜いた事で五大国の忍里は関係を良好とし、世界は平和を実現してみせた──そう何もかも元通りとはいかないが悪い事ばかりでもない。
「…それにしても、まさかこうして霧の里で青さんや長十郎とゆっくり話せる事になるとは思いませんでした」
「どう考えても我々の方のセリフだそれは…」
「まさかこんな事になるなんて…」
マダラさんを受け入れた五影の皆さんは私達"新生・忍刀七人衆"にも許しを出し、正式に霧隠れの里に迎え入れられた…今や水月達は霧隠れの正式な部隊として活躍を始め、戦争に不参加だった小国の忍里や抜け忍など戦争直後で疲弊した里を狙う者達を相手に大活躍をしている真っ最中。
一方で私はというと里抜けしていた頃と違って彼らに同行する必要はなくなった事もあって霧の里で次の作品造りを始めるまでの息抜きとして適当な茶屋に入ったところ、知り合いに遭遇した流れで相席させて頂いていた。
「──青さん、だいぶお疲れのようですね」
先程の青さんの返答は普段の常に気を張っている様子に比べて妙に力の抜けた、それこそ疲弊し切った様子だった。
「誰のせいだと…お前達犯罪者を里に招き入れる事への反対意見への対応もあれば先の戦争で水月を英雄視する者達への対応もきて上忍衆の頭として振り回される毎日だ…挙句に漸く出来た休みの日にお前に出くわすとは…」
「あぁ…それはご迷惑を」
いくら五影や上忍衆が認めてくれたとはいえ私達の里入りを全ての人間が受け入れてくれるわけではない、その結果青さんに随分と苦労を掛けてしまったらしい。
しかし尾獣やマダラさん達の戦いや十尾の攻撃から連合本部を守った時などで目立った影響か水月の評判は案外良いらしい、そこについては嬉しい限りだ。
「ご迷惑のお詫びにはとても足りませんがお会計は任せてください」
「いや、そんな事を求めたつもりではない…それにお前の持っている金って」
「あぁ、そこは大丈夫です。ハレンチ博士…大蛇丸さんの下にいた時に闇市で稼いだりしましたがそのお金は紛失したり角都さんへの3億の借金(利息付き)の分割返済に回しているので、今の手持ちはクリーンなお金です」
「頼むからそれ以上頭の痛くなる話を聞かせないでくれ…」
どうしよう、心配かけないように弁明した結果青さんが頭を抱えてますます顔を険しくしてしまった。
「でもクリーンなお金って…村雨さん、まだ店再開してないですよね、一体どこから?」
「里に帰った日に父に貰いました、店に残してきた私が造った刀の売り上げ代…手を付けずに残していたみたいです」
「…和解、出来たのか?」
頭を抱えていた青さんが顔を上げ、どこか心配する面持ちでの質問に静かに首を振る。
「むしろ勘当の結果です。水影様が許したとしても私はお前がやった事は絶対に許さん、お前の物はお前が持って家から出ていけと」
「実直なあの人らしいといえばらしいが…どこがクリーンなお金だ貴様!」
「闇金以上に受け取り難い」
青さんだけでなく長十郎まで顔を顰めてしまった。
お金だけでなく自分が刀匠を辞めると言い出した事が切っ掛けでお前は里抜けしたのだから鍛冶場もお前が好きにしろ…と家から追い出しながらもずっと手入れしていた自宅のすぐ傍の鍛冶場を与える辺り勘当もそう深刻なものではない──というのは父からの情に甘え過ぎだが、それでも青さん達が想像しているよりは深刻なものではない。
いや、その辺りの説明を省いたのだから深刻に受け止められるのは当たり前か…とりあえず折角の休養なのだから気分よく茶を楽しんでもらう為にも誤解を解かなければ。
「──村雨、いつまでそこにいるの? もうお客様が来ているのに…」
頭を抱える二人に声を掛けようとした時、ふと聞き慣れた声がして振り返る。
「ごめん、すぐに戻る…■雨」
同じ顔、同じ背丈に同じ声、違うといえば精々私が医療忍術を受ける為に切った髪ぐらいの…まるで鏡に映った自分かと思う程に瓜二つの姉妹に謝りながら偶然青さん達に会ってご一緒した事ですっかり時間を見落としていた事に驚いてしまう。
「すみません、私はこれで失礼します。こちら遠慮なくお使い下さい」
「いや! だからお前のその金は使い難いんだが!?」
折角忙しい中霧の里まで足を運んでくれたお客様を待たしてしまうとは…。
とにかくこれ以上待たせてしまうと次に彼らがいつ来てくれるか分かったものではない、財布から適当に紙幣をつまみ出してテーブルの上に置いて慌てて立ち上がると青さんの声にとにかく頭を下げて応答だけすると足早に店から出る。
その後は姉…ではない、妹…だっただろうか? ともかく■雨と共に里を走り抜け、帰還して数日経ってようやく懐かしさを感じなくなった仕事場に戻る。
里に戻って数日、この日の為にずっと慣らし目的の刀造りを行って実家の鍛冶場の感覚を取り戻した──ならば造るのは戦争で入手したあの素材を使った刀だ。
今までのどんな素材さえも及ばない極上の素材…その力を完璧に引き出す為の監督役を頼んだお客様ももう既にその場に揃っていてくれた。
「お待たせして申し訳ございません、マダラさん、オビトさん…それにゼツさんも」
「気にするなー」
「今来たばかりだー」
「今日ハ頑張ロー」
呼んでおいて待たせてしまって怒っていないか不安だったが戦争の頃からは想像も出来ない程穏やかに笑ってくれて安堵する。
それにオビトさんも命を代償とする術を使ったせいで死んでしまうのではないかと思われたが黒ゼツさんが今でもずっと一体化する事で命を保っていてくれた…本当に、彼らとこうして和解出来た事がまるで夢の様だった。
しかし喜んでばかりではこの幸福の結果を無駄にするだけだ…大きく深呼吸をして気を引き締めると例の巻物を取り出す。
「それではこれより折れてしまった"ぬのぼこの剣"を使い、その力を宿し、更に強く引き出す最高の刀を造ります! 皆さん、どうかご協力ください」
「いいよー」
「任せろー」
「今日ハ頑張ロー」
頼もしい新たな友人達からの快い返事を受けて隣の■雨と頷き合うと彼女の伸ばし放題な髪を結んであげて、一緒に作業台へと向かう。
今までにない最強の刀を、今まで通り冷静に、情熱的に、そして完璧に…ゼツさんの言う通り、今日も刀造りを頑張ろう!