霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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ぽこ あ ポケモンにがっつり時間を奪われていました(なお現在も搾取されています)


歪んだ理想郷

 巻物から口寄せした"ぬのぼこの剣"を改めて確認して頭を悩ませる。

 ナルト君とサスケ君が尾獣と須佐能乎の力を合わせた一撃で折られたこの刀は力を失ってなお只ならぬ気配を放っており、今まで多くの刀を見て培った経験がまるで通用しない独自の造りと合わせてどう手を付ければ良いのかまるで分からない。

 

 隣の■雨もどうように口元に手を当てたまま考え込んでいる様子だった。

 彼女の刀匠の腕も知識は悔しい事に私とまったく同等…つまりお互いを除いて刀造りにおいて世界に並ぶ者はいないと言って良いのだが──それが2人揃ってこの結果だ。

 

 とはいえ、それは予想通り…限られた伝承しか残っていない六道仙人に由来する刀だ、どうしても他の刀の知識が通用しない部分がある事は当然と言っていい。

 

 そしてその為に、彼らにここに来てもらったのだ。

 情報が残されていなくても、六道仙人と同じ力に触れた彼らの知識が今ならば得られる。

 

「えっと、オビトさん…最初に確認したいのですがこの刀こそが六道仙人が世界を創ったとされる刀なのですよね?」

「その通りだー」

「…そしてそれとは別に持つ者の想いの強さが剣に宿る特性を持つ…世界を創るというのと持ち主の感情で強さが変わるというのはいまいち繋がっていないように思いますが…」

「それはこの剣が六道の能力、陰陽遁によって造られているか…あるいはこの剣そのものが陰陽遁の力を帯びているかだと思うんだ。想像を司り無から形を造る陰遁と生命を司り形に命を吹き込む陽遁…この二つの力を極限にまで引き出せば世界を創る事もきっと出来るはずさー」

 

 陰陽遁…か。

 確か二代目水影様の扱う幻術が陰遁と呼ばれていたらしいがそれを基に大雑把な発想をすると幻術で造ったものを陽遁を使って本物にする、という考え方で良いのだろうか? 

 

 だとするならば世界を創るというのはあくまで陰陽遁の能力でありこの刀は持ち主の想いの強さによって刀身を、そして陰陽遁の術を圧倒的に強くする性質がある…と仮定してして良いかもしれない。

 

「…でもそうなると問題は陰陽遁ですね」

「私も村雨も性質変化は水遁だけだからね」

 

 ■雨も同様の考えに至ったのか早速行き止まりに到達した事に顔を曇らせた──とはいえ、それはあくまで私達だけに限ればだ…今ならばこの難所を打開する事は可能だ。

 

「すみません、オビトさん早速力を貸して頂いてよろしいでしょうか?」

「勿論さー」

 

 私達に陰陽遁の術を扱えないのならばそれを使える人に頼るのみ、この"ぬのぼこの剣"を呼び出したオビトさんに協力を求めると彼はさわやかな笑顔で親指を立てた。

 

「でもまずは折れてしまったこの刀の新しい器が必要…仮にこの刀が私達の理想とする程の力を引き出せたとしたらそれに耐えられるだけの器になれるだけの刀はここにはない」

 

 ■雨のその言葉は私も思っていた事だ、やり方としては"屍鬼封尽の術"を宿す為に"霊化の術"を基にした刀を器に、融合させたの同じやり方が出来れば良いのだがそんな都合の良いものはどこにも──

 

「だったら俺の求道玉を使えば良いぞ、それと鉄じゃ多分耐えられないから器には神樹を使えばいいと思うぞー」

 

 どこにもない…と思った直後マダラさんが背中に纏った黒い球を差し出してくる…いや、この上なく嬉しい申し出だがそんな気前良く提供して良いものなのだろうか? 

 言葉はいらないとばかりに見た事もない程優しい笑顔で手を広げるマダラさんに思わず"究極幻術"というワードが脳裏に浮かび申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

 しかし術者の意思で自在に形を変える求道玉の変幻自在さを思い出すとあんな面白い極上の素材を使えるという事に引け目以上に湧き上がる欲望が止められなくなる。

 

「分かりましたマダラさん、有難く使わせて頂きます──後は神樹の方ですが、アレは戦争の後立ち入り禁止区域にされてしまったからどうやって手に入れるかですね」

「水影様に申請してみる? それともハレンチ博士に相談してみようか?」

 

 ■雨の出した2択にどうしたものかと腕を組む。

 水影様に申請…これは一番正道な手段だ、申請さえ通れば悪い事などなにもない、ただし危ないからダメだと言われる可能性もある。

 ならばハレンチ博士に協力してもらってこっそりと──

 

「取ってくるよー」

 

 頭を悩ませている間にオビトさんが吸い込まれる様に空間の渦に消えていった。

 

「取ってきたよー」

 

 ──そして瞬く間に片手に巨大な木の枝──切り取ってきた神樹の一部を持って戻ってくる。

 改めてオビトさんの時空間忍術、色んな意味でズルくないだろうか…

 

 あまりの手際の良さに面食らってしまったが、ともかくこれで素材は集まった。

 棚からいくつかの種類の小刀を取り出し■雨へと渡すと彼女は小さく頷いて神樹の形を整えていく。

 

 暁の方々の武器を造る傍らで竹を材料に茶屋を造った経験があるとかで木工細工は私より彼女の方が巧い…お茶も私が淹れるより美味しいし──いや、お酒造りなら私の方が上だ、皆私の酒は飲めないって言うけど。

 

 確かに癖のある味だがちゃんと美味しいし仙人モードにもなれるのに…と不満が湧いてくる。

 

「そうだ、皆さん今回の作品造りが終わったら一緒にお酒でもいかがですか?」

「飲む」

「嬉しい」

「ヤッター」

 

 幸い今回お招きしたのは皆成人、仕事終わりならお茶よりお酒の方が好みだろうとお誘いすると皆から色よい返事を貰えてこちらの方が嬉しくなる。

 

「村雨、忍の人達をお酒に誘わない」

「皆さんまだ忍活動は禁止されている身だから大丈夫」

 

 忍の三禁を踏まえて■雨が作業の手を止めて厳しい視線でこちらを見てくるがマダラさん達は戦争の責任として木ノ葉の忍としての復帰は出来ておらず各里での復興作業の手伝い等を務めている…だから現状は忍ではないといっても良いはずだ。

 

 あんまり話が長引いて水月達をお酒に誘った事が露呈するとマズいと思っていたが幸い■雨は一応納得したのか視線を手元に戻すと黙々と木刀造りを再開し始めた。

 

 …正直私も造りたいが仕方ない、適材適所…私は今の内に仙人モードになっておいて■雨が造る神樹の木刀に"ぬのぼこの剣"と"求道玉"を封印する段取りを進めておこう。

 

 器として利用する神樹だが、マダラさんが連合の忍達を足止めする為に神樹の根を木遁の龍の形状へと変化させているのは水月と鬼鮫さんとの戦いの傍らで見えていた…つまり木遁忍術ならばある程度神樹の力の制御、応用が出来ると見て良いだろう。 

 勿論、それで使う人間が木遁を使う事を前提にした作品にするのは良くない…まずはオビトさんの火遁忍術を代わりに取り込ませながらマダラさんにそれと同時に木遁忍術で神樹の吸収力を調整、後は私と■雨が神樹の木刀と取り込まれた火遁を融合させて試作を行い、力の調整を完璧に掴んだら本命に挑むとしよう。

 

 

 

 そんな段取りを全員と共有し、練習でありながらも皆が自分の役割に集中し実行した結果、驚くべき事に火遁を取り込ませた神樹の木刀が燃えてちょっとした小火騒ぎにまで発展した。

 

 

 

「危うく鍛冶場が火事になるところでしたね」

「「はっはっは」」

 

 つい思い浮かんでしまったジョークに皆で一頻り笑いあった後「さて」っと言って手を打ち鳴らす。

 

「それでは、本命の刀造り…の試作を行いましょう」

 

 本当に驚くべき結果だが、試作の──正確には試作の試作である神樹の火遁木刀は数回の挑戦も必要とせずたったの一回で完成しその刀身に火遁の術を宿す事に成功した。

 その結果、力を引き出した瞬間に燃えて危うく火災寸前になったが、とにかく刀造りそのものは完璧なものだった。

 

 そしてそれ以上に驚くべき事はそのたった一回の成功でこの場の全員が今回の刀造りで行う術とチャクラの調節、そのコツを完全に掴んだ事を実感している事だ。

 自信、直観…そんな言葉では言い表せない程の確信に不思議と疑いなど何一つなく、ただこのかつてない程の万能感に導かれるまま次の作業を始めたいという衝動だけが私達を突き動かしていた。

 

 それでも"ぬのぼこの剣"も"求道玉"も数に限りがある以上慎重さだけは失わず、■雨が再び造った器の刃に折れた"ぬのぼこの剣"から飛び散った僅かな破片と"求道玉"を1つだけ取り込ませ、マダラさんにも再び木遁忍術でチャクラの流れの全体的な制御を行ってもらう。

 

 そして器の刀とそれに宿す力を融合させるべく私と■雨はそれぞれ片手で刀身に術式を刻みつつ互いにもう一つの手で木刀の柄を強く握る。

 

 ──今行っている作業はあくまで試作、それでも今から生まれるこの刀こそが"最強の刀"だと、強く、ただ強くそれを信じる。

 

 

 想いの強さが刀の強さになるというのならばそれを生み出す刀匠たる私達が"最強"と信じ、それを留める。

 誰が握ろうとも変わらない、"私が信じる最強の刀"として在り続けさせる──それがどんな刀よりも強く、けれども脆く、移ろい安い可愛いこの子に私達がしてあげるべき事だった。

 

 そしてこの刀はかつて創ったこの世界を新たに創り変える刀となるのだと…そう願った時、神樹の木刀は黒く変色しその刀身も木刀から鉄の様な金属質の刃へと変わり、溢れ出したチャクラが螺旋状に絡み合った、かつてオビトさんが振るった時と全く同じ形状へと変化する。

 

「──出来た…」

 

 術式の安定、変化を遂げた形状、そして自分の手に残る確かな手応えが試作刀が完成したのだと伝えてくれる。

 半ば無意識のまま試作刀を両手で握り目の前に掲げると間違いなく細部に至るまであの時のオビトさんが手にしていたものと同一の形状だった。

 

 小さく息を飲み、特に順番を決めていなかったとはいえ我先にと試作刀を手に取った事に■雨から不満の視線を向けられている事に気付きつつも後で謝ろうと判断して目の前に掲げた刀を頭上まで持ち上げ──勢い良く振り下ろし試作刀の出来栄えを確認する。

 

 

 

 ブツリッと糸か何かを斬った様な感覚が試作刀を握る両手に走り、視界がほんの一瞬真っ暗に染まる。

 

 

 

 それらは刀を振るっている間の僅かな時間に起きた錯覚のようなものだった。

 だが、視界が暗転し両手に感じた何かを斬ったと感じた瞬間、何故か同時に全身に何かが巻き付いて腕の一本さえも動かせない圧迫感が身体に走った。

 

「ぅ…あ?」

 

 同時に感じるはずのない感覚に戸惑う内に頭に激しい痛みが走り思わず試作刀を手から滑り落として頭を抑えると突如記憶が呼び戻される。

 戦争の終盤、"月の眼計画"が成され紅い月を水月と鬼鮫さんと共に見上げた──そう、それは間違いない…その後マダラさんがチャクラ不足を察して計画を中止にしたのだから。

 そうして今の平和が訪れた結果、こうしてマダラさん達と共に刀造りが出来ているだから…何もおかしいことはないはずだ。

 

 

 

 ──ただ1つ、呼び出された記憶と異なる目の前の存在を除いて。

 

 

 

「…どうして、貴女が生きているの…"偽雨"?」

 

 私の同一体として生み出され、しかし劣化した存在であるが故に刀造りを出来ず苦悩し死んだはずのもう一人の私、偽雨。

 ここが現実ならば彼女は絶対にいるはずがない存在…故に本物としか思えないこの世界が偽りであると何よりも私に突き付ける。

 

 偽雨も私と同様に頭痛に見舞われているのか、苦悶の表情で頭を手で抑えているがその姿は先程までの私と髪の長さを除いて瓜二つの容姿から数年前の、偽雨が造られた頃の私の姿に変貌していた。

 

 やがて彼女はその変化に呆気に取られた私に視線を向ける。

 それはついさっきまでの日常の中で彼女から度々向けられていた冷ややかだけど親しさも感じられた視線とは違う、何一つ感情を感じ取れない程に冷たい視線が私に突き刺さる。

 

「──むしろ貴女が私が生きている事を望むなんて、どういうつもり村雨?」

 

 その冷淡な声に思わず息を詰まらせる。

 

「なん…だ、これは?」

 

 ふと、背後から困惑に満ちた声がして振り返るとマダラさんもオビトさんも驚愕した顔で立ち尽くしており、やがてゆっくりと視線を私の足元に落ちた刀に向ける。

 

「まさか…破ったのか、その刀が…無限月読を!?」

 

 信じられない、といった様子で声を震わせるマダラさんの言葉で突然の事態で頭が一杯になりかけていた思考がようやく追いつく。

 

 ここは無限月読で造られた私の理想の世界、そしてついさっき"世界を創る刀"が振るわれた事でこの幻術の世界が一瞬揺らぎ、現実の世界の情報がその裂け目から流れ込んできた…という事か。

 

「ア、アリ得ナイ…無限月読ヲ…コノ術ヲ掛ケラレタ人間ガ自力デ破ル等…出来ル筈ガ無イ!?」

「…あり得ない、ですか…それはこの無限月読の世界で最も意味をなさない言葉だと貴方達が一番良く知っているはずでは?」

「ッ! ククッ…ハハハハハハッ!」

 

 困惑する黒ゼツさんに偽雨が淡々と応じると彼と半身を共にするオビトさんは肩を震わして、やがて鍛冶場に響き渡るほど大笑いする。

 

「無限月読は絶対に破る事が出来ない。"別天神"同様に幻術に掛けられた事を自覚出来ず、何より本人の理想の世界が壊れる事を望む者などいるはずもない。仮に憎しみや悲しみ…様々な絶望を切っ掛けに世界が滅ぶ事を望む者であっても、この世界ならばその原因となる出来事を最初から無かったことに出来るのだからな」

 

 戸惑ったままのマダラさんへ無限月読の完全さを語るオビトさんは「だがな」と区切りと更なる言葉を紡ぐ。

 

「──俺が最も警戒したうちはの男が時折戒めの様に口にしていた…"どんな術にも弱点となる穴がある"とな。この術の弱点、それは憎しみも悲しみもなく、ただ向上心のみで世界を壊す狂人がいたという事だ!」

「人聞きが悪い!」

 

 酷い言い様だ、まるで意義も思想もなく破壊行為をする愉快犯かの様に私を言い表すオビトさんに思わず反論するがオビトさんはお構いなしに床に落ちた"試作刀"を指さした。

 

「村雨! その刀を全力で振るえ、そしてこの世界を破壊し脱出しろ!」

「サセルモノカ!!」

 

 気が付けばオビトさんの身体から抜け出した黒ゼツさんが私の足元に転がる試作刀に手を伸ばしており──咄嗟に彼がこの場から消える事を望み、その通りの結果をこの世界が弾き出す。

 前触れなく消滅した黒ゼツさんの姿を見てマダラさんはこれまでの情報の整理が出来たのか腕を組み口を開く。

 

「どうやら…破られかけても未だこの世界の支配権は無限月読に掛けられた対象であるお前にあるようだな」

「今この世界で奴に逆らうと黒ゼツの様に消されるか、さっきまでの無様な言いなりの存在にされるという訳だ…完全に裏目に出てしまったなマダラ?」

 

 オビトさんの言う様に今の私はこの世界でまさに神の様に万能の存在となっているようだ…勿論、それはあくまでも本物のマダラさんから与えられたこの箱庭の中だけの仮初めのものでしかないが…。

 

 それでもこの世界に存在するマダラさんにとっては決して抗うことは出来ない存在であると、そう判断したのか深くため息を吐いて鍛冶場に置かれた机の上に腰掛けた。

 

「理屈の通じん小娘だとは思っていたが、この術さえも壊すに至る程とはな」

「止めないでいてくれるのですか?」

「黒ゼツがあのザマだ、抵抗しても無駄だろう…だが、貴様こそ本当にこの世界から抜け出して良いのか? 確か以前に何もかもが思い通りになる世界などは鍛冶師にとって退屈と言っていたが、お前が生きていられる場所などもうここしかないのだぞ?」

 

 マダラさんの言わんとしている事は分かっている。

 本当の世界に戻ればそこには私がこの世界で与えられた絶対的な有利権はない…当然そうなれば現実の世界で1人残っているマダラさんに対抗する力など私にはない。

 

 一度自力で幻術を解いたとなればマダラさんが私に再び術を掛けるとは考え難い…間違いなく殺される。

 

「殺される事が分かっていて現実の世界に戻る必要はあるまい。大人しくこの世界を受け入れた方が利口な生き方だと思うがな」

 

 確かにそれが賢い選択、正しい判断だと言えるだ…殺される結果が見えているのにそれを覆す手段を持たずに挑むのは潔しとは決して言えない愚直な行為だ。

 

「──それでも、私は戻ります」

 

 愚かな答えだとは分かっている──けれど私は思う。

 私がこの世界を破れたのは現実の世界で何度も死の危機に瀕しながらも様々な人物、技術や忍術に触れてきたからだと。

 戦う力が無いからと雨隠れの里に留まっていてはきっとこの世界にオビトさんやマダラさんはいなかっただろう。

 ぬのぼこの剣の破片はなく、十尾の人柱力の能力も神樹も得られなかった、そして何より"世界を創り変える刀"を造りたいという方向性を得る事はなくただこの世界で思ったままに"強い刀を造る"というシンプルな理想を実現していたはずだと。

 

「死を恐れずに進んできたからこそこの瞬間に選択肢が与えられた、ならば今度もまた私の生き方は変わらない…例えその先が今度こその死であろうとも。──他に賢い生き方が出来たとしても自分が納得出来ないのなら譲れない、マダラさんは…きっと分かってくれるのではありませんか?」

 

 誰もが適わない圧倒的な力を持ち、己1人が幸せになるのなら幾らでも方法はあったはず…それでも己1人の幸福では満足出来ず、世界全てを救済しようと理想を抱いた人物はその問いに微かに笑う。

 

「あぁ…良く分かる、しかし、ならばやはりお前は死ぬしかないな」

 

 自分が納得出来ないのならば譲れない…ならば"無限月読"を退け現実の世界に帰還した私を本当のマダラさんは許さない、目の前のマダラさんは笑ってそう告げると机から立ち上がり私の足元に転がる"試作刀"を拾い上げてゆっくりと差し出してくる。

 

「……ありがとうございます」

「礼はいらん。これは貴様を現実の世界へ戻すだけではなく黄泉へと連れて行く、正しく妖刀なのだからな」

 

 妖刀か…確かにこの刀は無限月読の世界を破れる一方で、その先に待つのは死…まさに持ち主である私に対して災いを招く代物と言えるだろう。

 恐らく私の最後の作品となる刀がとんだ曰く付くになったものだが──ならばいっそ秘めた願望も背負せるとしよう。

 

「妖刀…では折角なので"妖刀・村雨"、と名付けましょう」

 

 最高の作品に自らの名を刻む事、多くの物造り家が抱く我が儘だ。

 ズルして造った作品でそれを叶えるのは正直複雑な心境ではあるが今から新しい刀を造る事は出来ないのだから目を瞑ろう。

 

 …それに、造り方こそ望んだものではないがこの刀を造る事自体は間違いなく私が望んだ事だ、生み出した者として造り上げた物には愛と責任を持つべきだ。

 

 

 

 ──生み出した者としての愛と責任…頭の中でその言葉を思い浮かべた事でふと意識が"彼女"へと向いて、いつの間にか、その手元に私が持つ刀と同一の気配が出現していた事に気付く。

 咄嗟に"妖刀・村雨"を彼女との間に割り込ませるように構えると目前に迫っていた刃とぶつかり合い耳を劈くキィンッという音が鍛冶場に響く。

 

「な!?」

「ほぅ…」

 

 冷酷な表情で"妖刀・村雨"の複製品を私へと振るった偽雨にオビトさんが驚愕し、マダラさんは面白そうに口角を吊り上げた。

 

「偽雨…やっぱり、そうする?」

「この世界の核は無限月読に掛けられた村雨…貴女が幻術世界に戻ればこの世界は消滅し私達も消える…」

「だろうな。所詮俺達はその小娘の願望が生み出したまやかしだ」

 

 それは当然の帰結だ。

 幻術を掛けられた者が意識を取り戻して幻術が残るなどあるはずはない──だから、この世界にのみ存在する彼女がこういう行動に出るのもまた当然の事だった。

 

「何をしている村雨! お前が現実に戻る以上どの道そいつも俺達も消える、黒ゼツの様に消してしまえ!」

「気付かんかオビト? あの偽雨とやらはさっき村雨の刀とまったく同じ物を無から生み出した…つまり、奴だけはこの世界で村雨とまったく同じ力を持っているのさ──他でもない村雨が、そういう存在であることを望んだのだろう…何が理由かは知らんがな」

「──そう、村雨…貴女は村雨の劣化として造られたが為に刀造りの道を選べなかった偽雨に同情し、負い目を感じた…それ故に貴女と同等の能力を持つ今の私がこの世界で造られた。私の存在は現実世界では決して叶う事のない貴女の望みであり償いであるはず」

 

 そうだ。

 私は偽雨が残した日記を読んだ時、そして鬼鮫に両腕を刺され一度は刀造りの道が途絶えたと思った時…私でありながら刀匠としての生き方が与えられなかった偽雨の苦悩を理解し、哀れみ、罪悪感を覚えた。

 もしも私と彼女が逆だったならば果たして私は自らの命を、そして刀を造り続けるオリジナルを呪わずにいられただろうかと考えずにはいられなかった。

 

 ──だからこそ、この世界での偽雨は分身でも偽物でもない私の姉妹、1人の命として私と一緒に刀造りを楽しみ、本気で取り組める存在となった…だけど──

 

「──そう、偽雨…今の貴女は私の都合の良い望みの象徴であり私が悼んだ彼女の偽物でしかない…ならば貴女が消える事に私が躊躇う理由は何もない」

「自分の行動を私という存在を貶めて正当化するつもり?」

「確かに…なら言い直す。…もしも貴女が本当に彼女であったとしても、私をこの世界に縛り付けるつもりなら私はもう一度偽雨、貴女を踏み躙ってでも先へ進む」

「えぇ、村雨ならそうする、そして偽雨は村雨の劣化コピーであるが故にその道を譲る──だけど、今の私に道を譲る理由はない!」

 

 再び振るわれた彼女の持つ"妖刀・村雨"が私の"妖刀・村雨"とぶつかり合い、共に刀身が砕けて床に破片を撒き散らす。

 

「これで貴女はこの世界を壊す事は出来ない──と言いたいところだけど、この世界から出る事以外の望みは何でも叶う以上もう一度同じものを造る事も出来てしまう」

「だから、私がこの世界を壊そうと思わなくなるまで同じ事を繰り返すつもり? 終わりのない繰り返しになるのに…」

「少し違う。確かに"この世界しかない"私には終わりはない…けれど貴女には"この世界で妥協する"という終わりがある──現実世界の時間ならば何百、何千年掛けた末の結論になるかもしれないけれど」

 

 この世界には時間の概念すら存在しないのだろう、だからこの先にあるのは私が折れるまで永遠に等しく続く戦いだ。

 それでも偽雨は既にそれを受け入れている…私も彼女もその程度の事で自分の望みを手放す人間ではないと理解しているからだ。

 

 

 瞬間、世界が大きく歪む。

 

 

 空間が波打ち、空も地面も真っ白に染まり──やがて再び創造された風景は先程まで居た霧隠れの実家の鍛冶場ではなく深い森の中の水辺だった。

 見覚えのない光景に周囲を見渡すがさっきまですぐ近くにいたオビトさんもマダラさんの姿もなく、ただ偽雨だけが大きな滝の正面に立ち、私と向かい合っていた。

 

「──ここはどこ?」

「…どこかの国の亀の背中」

 

ある意味ではこの世界の一部とも言える偽雨はこの突然の変化を理解しているのか戸惑う私に簡潔に答える…が、簡潔過ぎて何も分からない

 

「亀? どうしてそんなところに?」

「僅かに現実世界と繋がって不安定になった無限月読が自分と自分が戦うという不具合に対して辻褄を合わせようとしているみたい。…現実世界にある自分同士が戦う為の場所を再現する事で正常な世界のままであろうとしているかも」

 

 何で亀の背中の上にそんな場所があるんだ? しかも現実の世界でもあるのか?

 不思議な話だし不思議な場所だ…これからの戦いを鍛冶場でやらなくて良いというのは好都合…いや、やはり私のそんな拘りをこの世界が反映しただけかもしれないが…ともあれ今はただそれに感謝する。

 

 一度大きく息を吸って吐き出す。

 そして自身の右手を真っ直ぐ横に伸ばす──それは目の前の偽雨とまったく同時で行うまったく同じ動作だった。

 

「断刀・首斬り包丁」

「大刀・鮫肌」

 

 望みを叶える世界が互いに思い浮かべた刀を無から生成し手元に出現させる。

 つくづく鍛冶師泣かせの酷い世界だ、思えば"妖刀・村雨"が一度で完成したのもこの世界が完璧過ぎるが故だろう──だからこそ、やはりこの世界は私にとっては無価値な世界だ。

 

 ただ1つ、本来ならば私の力では決して十全に扱えない刀を完璧に再現しつつ使える様にしてくれるのは正直少し嬉しく思う、これならば永遠に続くであろう戦いも楽しむ事が出来る。

 

 手に余る重さを完全再現している"首斬り包丁"を片手で自由自在に振り回し、その奇妙な感覚を一頻り堪能した後両手で強く握ると同様に"鮫肌"を構えた偽雨と向かい合う。

 

 互いに同時に水面を蹴り間合いを詰めると自らが手にした刃を全力で振るい、ぶつけ合う。

 

「もう一度…消えて、偽雨」

「断る。私も…そして貴女もこの世界から消させない」

 

 

 

 そうして私達は現実性も、時間の概念も、目の前のもう1人の自分への情けも入る余地のない、永遠に続く戦いを始めるのだった。

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