霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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無限月読崩壊

 紅い月の下、全ての人間が神樹の力を付与された木遁忍術、"神・樹界降誕"に捕らえられ蓑虫の様に吊るされる中、穢土転生であるが故に1人残された長門は終末を迎えた世界を見渡していた。

 

 マダラとの交戦の末に幻術を掛けられ即座に解いた僅かな隙に六道の棒を刺された事で身動きの取れないままではあるが輪廻眼による観察眼と自身の広範囲の感知能力によって状況を飲み込んでいく。

 

(無限月読は発動し、この戦場だけでなく世界中…全ての人間が神樹に捕まり幻術の中か…だが、ナルトとうちはサスケ、春野サクラ、はたけカカシ…マダラのすぐ近くにいた奴らのチャクラだけは健在だ)

 

どうやって逃れたのかは分からない、だがナルト達が無事ならばまだ希望はあると長門は安堵する。

 

(俺も、出来れば手を貸したいが…よりによって六道の術で縛られるとはな)

 

黒の杭を抜くどころか指1つ動かせない状況に歯噛みし長門は更に感知範囲を広げる。

 

(俺と同じ穢土転生である四代目は…今は木ノ葉の里か、恐らくマダラの攻撃を自分ごと時空間移動した結果だろうがすぐに助けは求められないな)

 

自分とナルト達以外の唯一、幻術を掛けられていない人物のチャクラ反応をキャッチするも救援は望めなかった…代わりに感知に集中したが故に木の根に巻き付かれ外見では誰とも分からない捕虜を識別してしまう。

 

(小南、自来也先生…死んではいないのだろうが…む?)

 

吊るされた人々の中でも最も関係の深い者達のチャクラを感じ取り歯噛みした時だった、どこかでチャクラの乱れを感じ取る。

忍達の中では微弱なチャクラだったが、誰もが幻術に掛けられた事でその波長の強弱に差はあれど同一のチャクラの流れをしている中で1人だけ、僅かにチャクラの流れにズレが生じた。

そしてそれはその人物の近くにいたもう1人へと波及するかの様に同じ現象を起こしていた。

 

(無限月読に自力で抗っているというのか!?信じられん、一体誰が…このチャクラは確か――あ!あぁ…)

 

変化が起きた2人目の人物が鬼鮫であるとその特徴的過ぎる膨大なチャクラによって識別した事でそのまま1人目の人物に思い至り長門は驚愕や呆れを通り越して辟易する。

 

(本当に、訳の分からん奴だ…)

 

一体どんな理想を抱えていれば自分の理想の世界を破壊した挙句他人の幻術世界に突撃する結果になるのかと疑問を抱き、長門はかつて覗き見た彼女のハチャメチャな記憶を思い出して想像するのはやめておこうと苦笑する。

 

 

 

「だが…それで良い。今回もまた、他人の思惑なんて好き勝手に壊してしまえ、狂人め」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 霧に覆われた鬼鮫さんの世界から新たに繋げた先にあった"平和な世界"

 鬼鮫さんとの目的の為に本来ならばオビトさんの下へ向かうべきであり、これは完全な寄り道であり…そしてその寄り道の果てに私は決して許されざる行いをした。

 

 この行為が果たして望む結果に繋がるかは分からない…それでも僅かな可能性が生まれるのならばやる価値はあったはずだ。その結果唯一の目撃者である鬼鮫さんから絶賛白い目で見られて後ろめたい気持ちになるがやった内容がそれ相応な事なので甘んじて受け止めよう。

 

「さ、さて…それでは今度こそ戦場の皆さんの下へ向かいますね」

「…里を抜けてからというのも随分と成長した策謀ぶりには感心していますが、その代わりに貴女の言葉に乗った事を若干後悔し始めているのでそうしてくれると助かりますね」

 

 まずい、折角掴めた信頼が一瞬にして無くなりかけている。

 これ以上ボロを出して鬼鮫さんがやっぱり無限月読を受け入れましょう…とか鬼鮫さんが言い出さない内に早くオビトさんの下へ連れて行かなくては…

 

その為にはいつまでも弱気になってはいられない。

もう腹を括らなくては――

 

「――それでは、今から無限月読に掛けられた戦場の皆さんの世界へ繋げていきます」

 

 その先がどの様な世界であってもそれは本人の自由だと意を決して"終刀・真月"を掲げ鬼鮫さんへとそう告げると彼も静かに頷いた。

 

 一度大きく息を吸って、吐いて…"終刀・真月"を振り下ろし空間を切り裂く。

 瞬間、裂け目の奥から溢れ出た血を全身に浴びて真っ赤に染まった視界の中心で無傷の水月が顔面を真っ青にして透明の壁越しにこちらを見ていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 実に平和な日常だった。

 第四次忍大戦にて鬼鮫先輩を倒した後、発動した無限月読によって意識を失っていたがマダラと戦っていたサスケ達が上手くやったらしく術は失敗…そのままマダラを倒してくれたらしく戦争は終結した。

 

 戦争終結後に大蛇丸やカブト、元暁の連中は残念ながら…非ッ常に残念ながら重罪人として捕まった。

 しかし戦争での貢献が認められた事で数年掛ければ出所出来る事が決まっており、人間性は皆無なあいつらも正当な理由で出られることが決まっているのなら無理に脱獄し追われる身となる必要もないと言って大人しく牢屋に入っていた。

 

 一方でボクは情状酌量の余地ありとして無罪放免。

 霧隠れの正式な忍として復帰し"新生・忍刀七人衆"として華々しく活躍していた。

 

 そんなこれまでの苦労が報われた夢の様な日々の近況報告を面会室特有の透明の壁を挟んだ奥の部屋で座る幼馴染で服役中の少女、村雨は自分の事の様に喜んでいた。

 

「"新生・忍刀七人衆"…認められた様で良かった」

「現状メンバーはボク以外牢屋の中だけどね…ま、足手纏い入れるぐらいなら大蛇丸達が出所するのを待っといてあげるさ。刑務作業で心を入れ換えてまともな人間になって戻ってきてくれる事に期待しながらね」

「私も含めて皆もう反省してる…最近では模範囚になって仮釈放の話も出てる」

 

 あいつらが模範囚? 大人しくしておくとは言っていたがあまりにも想像が出来ない…あとその情報は看守達から伝えられたという正規な手段で入手したのか?

 疑問は少々あるが一旦良しとする…というか聞かなかったことにする。

 

「…仮釈放出来たらまた刀造りをしないと、皆の刀は完成したから今までみたいに危険な事はしなくて良いけど水月達がもっと強い刀が欲しくなった時の為に腕は維持しておきたい」

「うんうん、そうだね。いやー君も漸く落ち着いてくれたみたいで何よりだよ」

 

 "忍刀七人衆"の復興というボク達の夢も叶った今、流石の村雨も破滅的な情熱に一区切りを着けたらしく常識的な範囲での向上心に収まった。

 

 これまで本ッ当に苦労させられたものだがそうしなければ造れなかった刀があるのは事実。

 終わり良ければで許してやるのは釈然としないし"新生・忍刀七人衆"としての刀が完成した以上、村雨との縁はこれっきりにしても良いのだが…バカみたいな狂った行動をもうしない、優秀な刀匠として過ごしてくれるなら今後とも──

 

 そう思った瞬間、村雨の身体に亀裂が走り彼女の身体は真っ二つに斬り裂かれた。

 ガラスで区切られた部屋は瞬く間に鮮血に染まり、殺しても死なないのではとまで思っていた女の亡骸の上に出来た空間の亀裂を呆然と見ていた。

 

 何故こんな事に? 

 一体何の術だ? 

 本当に…死んだのか? 

 様々な疑問が頭の中を駆け巡り吐き気がして──

 

「あ、水月いた…なに、この部屋?」

 

 聞き覚えがあり過ぎる声がしたと同時に神樹に囚われたままの"現実世界の情報"が頭の中に入り込んでくる。

 それは甘い夢が悪夢の如き現実によって覚まされたのだとどれ程脳が拒んでも無理やり理解させてきて…今度こそ泣きそうになった。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 大きな一室を透明な壁で区切って作り、椅子ぐらいしか物がない二部屋…実際に入ったことはないが面会室だとすぐに連想し呆然とこちらを見つめる水月に心を痛める。

 

「水月…服役したいと思うまで罪の意識を抱えていたなんて…気付いてあげられなくてごめんなさい」

「君の面会で来てたんだよ!」

「あ、私が服役側」

「少しは罪の意識抱えてくんない!?」

「ついさっき大罪を犯してきたところだから水月が思っている以上に罪の意識はあるつもりだけど…」

「今なんつった、何やってきたの!?」

 

 あ、しまった…つい口が滑った。

 相手が水月だったから良いものの五影の皆さんの前とかだったら全部台無しにするところだった、気を付けないと。

 

「何で面会室を取り調べ室に変えるんですか貴女は…」

「は!? 鬼鮫先輩? 何でアンタが村雨と!?」

「仲直りした」

「嘘ォ!?」

「いや、無限月読から出る事には同意しましたが別に仲直りは…いや、もう今はそういう事にしておきましょう…話が逸れるだけですし…」

「嘘じゃん!」

 

 嘘じゃない、勘違いだっただけだ。

 そういえば確かに"新生・忍刀七人衆"への勧誘や刀造りを一緒にするという提案については特に返答を頂けていなかった事を思い出して落胆する。

 

「ていうか、鬼鮫先輩を引き込んだのはもう良いとして何で他人の幻術世界を渡り歩けてるの君!?」

「私も無限月読に掛けられたけど"強い刀を造りたい"という私の願望が反映された結果オビトさんやマダラさんが頼み事を二つ返事で了承してくれるぐらいに仲良くなった世界が出来て、そこで神樹や十尾の人柱力の能力を提供してもらいながら刀を造った結果世界を壊す刀が造れて、もう1人の私と協力してその力をより研ぎ澄ました結果世界を創り変える刀が出来たから私の世界と鬼鮫さんの世界を繋げてその後──」

「無限月読をこれ以上なく悪用しているようで何よりだよ!」

 

 むしろ鬼鮫さんにしても水月にしても理想の世界で遠慮し過ぎじゃないだろうか? 

 水月なんて戦争の後に私達が捕まってしまっている世界の様だがそんな現実的な結果じゃなく皆そのまま水月と一緒に霧隠れに所属する世界にだって出来たはずなのに…どうして私やハレンチ博士達をわざわざ牢屋に――もしや"新生・忍刀七人衆"の結成や鬼鮫さんに勝った事でハングリー精神が失われてきているのだろうか? 

 

「…また何か変な事考えていませんか村雨?」

「いえ…無限月読にもやっぱり欠点があるんだなって。本人の理想を反映する世界は確かに自分の中で100%の幸せを得られるけれど、誰かと関わる事で自分でも思いもしなかった101%以上の幸せを掴むチャンスを決して得られない──それってすごく勿体ないなって…そう思っただけです」

「…フ、確かにそうですね。──大抵の人間は100%どころか50%の幸せを掴めないという事に目を瞑ればですがね」

「ああ…じゃあ、大抵じゃない側になれる様に頑張らないとですね」

 

 あまりにも単純な見落としを指摘された結果、実にありふれた結論を出しながら目の前の透明の壁を刀の柄で叩き割り繋がった奥の部屋へと移動する。

 

「…それじゃあ水月、皆を起こしにいこう…これ」

 

 柄に付着した粉状の破片を払って水月に"終刀・真月"を託す。

 

「これが君が言ってた世界を斬る刀…ってやつ?」

「うん、"終刀・真月"――この先どれ程時間を費やしても私1人では決して造れない、最強の刀」

 

 私の世界での顛末など水月には分かるはずもない…けれどその言葉の重みだけは分かってくれたのか「ふぅん」と適当な相槌をしながらもその顔は真剣に刀を見つめてくれていた。

 

「――念の為に聞いとくけど…ボクが使う事に文句ない? 先輩?」

「構いませんよ…私の刀は、元の世界で今頃腹を空かして待っているでしょうからね」

 

 求めてもらえないのはそれはそれで残念だが、やはり鬼鮫さんには"大刀・鮫肌"が一番似合うと思う気持ちがあるのも事実…悔しくないわけではないが所有権を巡っての争いにならない事に安堵しよう。

 

「それじゃあ、ハレンチ博士や連合の皆を起こしていきましょう」

「ま、ボクらだけでマダラの相手するなんて絶対御免だからね…って、ちょっと待って、連合の皆起こすって…この刀で皆の世界と繋げて…だよね?」

「うん」

「どうやって?」

「行きたいところを想像して刀を振れば大丈夫」

「連合軍の忍全員分?」

「素振り1万回じゃとても足りませんね」

 

 …ああ。

 鬼鮫さんの言葉を聞いて水月が何を気にしているのか漸く理解した。

 

「何でこんなとんでも武器造っておいて肝心なところ超原始的なんだよ!?」

「ごめん、拘りが強すぎた。とりあえずハレンチ博士のところに行ってみる? もし気に入って貰えるならハレンチ博士に渡しても──」

「あー! もう良い! あんなのにこんなの渡したらどうなるか! 分かったよボクが使えば良いんだろ、もう!」

 

 回収しようと"終刀・真月"へと伸ばした手を振り払って水月は自棄になった様に叫ぶ。

 

「…本当にごめんね水月。あ、あと面会に来てくれてありがとう。ちゃんと水月の世界に私がいて嬉しかった」

「うっさいな、黙って着いてこないと置いてくよ!」

「不憫なものですねぇ」

 

 駆け出しながら"終刀・真月"を振るい空間の裂け目へと飛び込んでいく水月の背中を鬼鮫さんと一緒に追い掛ける。

 

 裂け目の先に広がる世界に踏み入るとそこに誰がいるのかなど水月は確認もせずに次々と刀を振るい、その世界を破壊していく。

 

 思い人と幸せな時間を過ごす人がいた、火影となる夢を叶えた人がいた、自分の好きな事に没頭する人がいて、家族や友人と温かな日常を送る人もいた。

 ハレンチ博士もカブトさんもサソリさんも角都さんも、皆それぞれの夢を見ていて…彼らの中には決して叶わない夢を見ている人もいるのだろう…私達はそれらを破壊しては次の世界へ繋げ、また壊していく。

 

 ごめんなさい、幸福の世界に辿り着いた貴方達。

 皆、無限月読を防ぐ為戦った人達だという事は分かっている、それでも実際にこの世界を体験してしまえば目が覚めた時にはこの夢から醒めたくなかったと思う人もきっといるだろう。

 それでも、私は貴方達を優しく縛る偽りの幸せの世界よりも、貴方達と一緒に、あるいは貴方達を利用してでも自分の手で幸せを掴もうと努力する時間の方が大切だ。

 

 

 ──だから、どうか今は目を開けて私達と一緒に戦ってください。

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