霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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刃と心

 無限月読の光を須佐能乎によって遮る事で幻術から逃れる事に成功したサスケは自身が守れたナルト、そしてカカシ、サクラと共に目の前の光景に驚愕していた。

 

 無限月読を実行したマダラの背中をオビトの身体を完全に乗っ取った黒ゼツが突如が貫いていた、その事に最も驚き、戸惑っているのは自らが黒ゼツの主であると認識していたマダラであった。

 

「く、黒ゼツ…何をしている”? お前は俺が作った存在…お前は俺の意思そのものなんだぞ!?」

「違ウナ、俺ノ意思ハ──カグヤ ダ!」

 

 カグヤ、六道仙人ハゴロモによってその名とその人物に関する知識を与えられていたナルトとサスケは息を飲む。

 それと同時に黒ゼツによって貫かれた身体に何か細工をされたのか、マダラは全身に黒い紋様が浮かび苦悶の悲鳴を叫ぶ、更に突如周囲の地面から噴き出した膨大なチャクラが彼の身体に際限なしに入り込みその身体を急激に膨張させる。

 

「どこからこんなチャクラが!?」

「無限月読に捕まっている奴らのチャクラだ、何をする気か知らんが動く前に止めるぞナルト!」

「オウ! 六道の大じいちゃんから貰った封印だな!?」

 

 明らかな異常事態、だからこそ二人は即座に動く──が、身体の膨張に合わせて異様に伸びたマダラの白い髪が一瞬にして巻き付き接近したナルトとサスケを拘束する

 

「自分カラ来テクレルトハ丁度良イ…オ前達ノ チャクラモ吸収シテヤル」

「くそ!」

「──ダガ安心シロ、無限月読ニ掛ケラレタ連中ハ殺サン。カツテ無限月読ニ掛ケラレタ者達同様ニ カグヤノ兵トシテ再生産スル為ニナ」

「まさか!?」

 

 黒ゼツのその言葉に恐ろしい答えに思い至ったカカシは目を見開き愕然とする。

 

「ソウ、白ゼツ ニ スルノダ。奴ラコソ無限月読ニ掛ケラレタ者達ノ成レノ果テ…ユックリト時間ヲ掛ケ変化サセル」

 

 薄れゆく意識の中でもその言葉を耳にしたマダラは絶望に瞳を震わせた。

 自らの身に何が起こっているのかさえ理解出来ないが、ただ1つ…世界を平和へと導くと信じていた計画全てが得体の知れないもっと大きな計画によって描かれていたものだったのだと思い知らされていた。

 

 抵抗は出来ず、やがて考える事さえ出来なくなったマダラは膨張した身体のほぼ全てを黒い紋様に埋め尽くされ──最後に残った右眼の輪廻眼で天高く伸びた神樹の根に吊るされた繭がピクリと揺らいだのを見た。

 

 身体に巻き付く神樹の拘束を斬り裂き繭の奥から刀を握る手を出して──この戦争の中で妙に関わった女が顔を出した。

 そして彼女に続くように周囲の繭が次々と解かれ囚われていた忍達が解放されていく。

 

「──ハ?」

 

 自身を貫き何もかもが計画通りと語っていた黒ゼツがその光景に狼狽えた…その事に微かに嗤いマダラは意識を手放した。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 目の前の光景に理解が追い付かない。

 目が覚めた時マダラさんが待ち構えているものと思っていたが状況はまるで違っていた。

 

 身体を縛る木の蔓を斬り抜け出すと最初に目に飛び込んできた巨大な風船の様に膨らんだ人…最早誰かも分からないがこちらを見つめる輪廻眼が一瞬だが見えた。

 それにこの場に姿が見えない事からしてアレがマダラさんである事は間違いないだろう。

 だが何故そんな事に? 

 

「お前ら、一体どうやって!?」

「"強い刀を造りたい"という私の願望が無限月読に反映された結果オビトさんやマダラさんが頼み事を二つ返事で了承してくれるぐらいに仲良くなった世界が出来て、そこで神樹や十尾の人柱力の能力を提供してもらいながら刀を造った結果世界を壊す刀が造れて、もう1人の私と協力してその力をより研ぎ澄ました結果世界を創り変える刀が出来たから私の世界から皆の世界へ次々に繋げていった上でその世界を破壊して──」

「分かる様に説明しろ!」

 

 すごい剣幕でサスケ君に怒られた…

 鬼鮫さんも水月もこの説明で一応納得してくれたに…どうして。

 

「深く考える必要はないわサスケ君、全て思い通りになる世界を与えたら世界を壊すまで好き勝手する者がいたというだけの事よ」

 

 どうやら現実世界に留まれていたらしいサスケ君達4人から一斉に冷ややかな視線が突き刺さる。

 正直辛いが事実その通りなのだから不満も言えない、とにかく説明上手なハレンチ博士に感謝して──

 

「ところで村雨…貴女達、幻術を解く為に私達の世界に入ってきた訳だけど、まさか──」

「……他言はしません」

「なら良いわ。うっかり口を滑らせない様にしなさいね、そんなことをしたら私もうっかり手が滑ると思うから」

 

 悪気はないとはいえ他人の心の内を勝手に覗いたのだ、怒られるのは当然だがさっきのサスケ君よりもずっと怖い…何ならサソリさんやメイ様、他にも色々な方向から同様の視線が向けられていて生きた心地がしない。

 

「てかこの場の全員叩き起こす為に素振りと移動繰り返してんだよアンタら個々人の世界なんていちいち見てないっての!」

「ごめん水月、私は壊す以上はちゃんと見ておかないとダメかなって」

「なんでだよ! プライベートはプライバシーってその辺のアルマジロだって知ってるよ!?」

「…少しは罪の意識抱えろって水月が言ってたから」

「反省してくれてありがとう次から黙っててね!! …痛ぃ!?」

 

 水月と一悶着起こしていると水月共々鬼鮫さんに鮫肌で頭の上をこつりと叩かれて軽い衝撃が走る。

 

「話に興じるのも結構ですが…それどころではないのを忘れないでください」

 

 鬼鮫さんに注意され膨張したマダラさんへと意識を戻すと彼の背後に誰かの気配を感じ注視する──オビトさん、そしてその身体に同化した黒い半身。

 

「黒い方のゼツさん」

「…フ、フザケルナ…渦柘榴村雨…オ前如キガ無限月読ヲ破ル等…許サレルモノカ!」

 

 気さくな白いゼツさんと比べて冷静なイメージの黒いゼツさん…だが今の彼はこれまでの印象とはまるで違う、それ程までに感情を剥き出していた。

 

「……あぁ、そうですか…無限月読は本当はマダラさんではなく貴方の計画だったのですね黒ゼツさん。だからあの時…私の無限月読の世界が現実の世界と僅かに繋がった時、貴方が真っ先に私を襲ったんですね」

 

 無論、そんな事この世界の黒ゼツに語ったところで分かってもらえるはずもないのだが…それでも私の中では腑に落ちた。

 

「黒ゼツ、貴方の真意は知りませんが計画は破綻した。オビトさんを解放してもらいましょうか?」

「鬼鮫…貴様モ ソチラ側ニ寝返ッタカ…無限月読ニ叶ワヌ夢ヲ見タママ白ゼツ ニ 変エラレテイレバ良イモノヲ…」

「……なるほど、私にオビトさん、そしてマダラさん…我々が目指した無限月読は全て貴方によって作られた偽りの夢だったという事ですか黒ゼツ」

 

 鬼鮫さんは冷静に、しかし確かに怒りを含んだ声で問い質す。

 不意に「はは…ははははは」と堪え切れずに出た笑い声が聞こえ出す…それは勿論、黒ゼツさんのものだった。

 

「無限月読が俺によって作られた夢? お前もオビトと一緒…笑わせてくれるな鬼鮫」

 

 今までと違う流暢な口調、それは最早隠す必要もない本性を露わにしているのだろう。

 

「母カグヤが封印された後、俺は六道仙人ハゴロモが残した2人の兄弟…インドラとアシュラ、そしてその子孫うちはと千手を互いに力を求め争い合う様に誘導した…ハゴロモが遺したうちはの石碑の内容を無限月読を求める様に書き換えてうちは一族を踊らせる事でな」

「貴様…」

「そうして長い時間の中で輪廻眼を開眼させる者を求め何度も両一族にアプローチをしたよ。残念ながら失敗の連続だったが遂にマダラという開眼者を生み出した。俺は俺の細工とバレないように然り気無く奴に魔像や白ゼツを提供し無限月読への妄信を強固にさせた。その後はマダラの意思であると装ってオビトを導き、暁の結成…尾獣の回収…様々な準備を進めこの戦争を始めるまで至った。分かるか鬼鮫? お前達が偽りの世界と嘆いたこの忍の世界こそが俺が作った歴史そのものだ」

 

 鬼鮫さんやサスケ君を嘲け、嗤う黒ゼツさんは紙芝居を読み上げる様に語った。

 その嘲笑は彼らだけでなく黒ゼツさんを起点に広まった様々な争いの犠牲者達全てを嗤うものだった。

 

「だが無限月読は失敗した」

「いいや、確かに無限月読に掛けられた人間が術を壊すとは思っていなかったが…既に充分集まったよ──母、カグヤを復活させる為のチャクラはな!」

「なに!?」

 

 その宣言と共に全身が真っ黒に染まり膨張したマダラさんの身体が急激に縮小する…だが再び人の身体に戻った時、その容姿はマダラさんのものとは全く異なっていた。

 

 全身が白い…角の生えた女性。

 宙に靡く長い白い髪も目を惹くがそれ以上に特徴的なのはやはり彼女の額にある3つ目の眼…写輪眼と輪廻眼が合わさったサスケ君の左眼と同様の瞳がナルト君とサスケ君2人を見ていた。

 そして彼女から伝わる膨大にして異質なチャクラ…仙人モードではない今の私ではまともな感知の能力などないがそれでも感じ取れる程の威圧感…彼女という存在を言い表すならば人ではなく"神"こそが相応しいと畏怖する。

 

「……足りぬ」

 

 連合の誰もが畏れ言葉を出せずにいる中、彼女だけがポツリと呟いた。

 

 足りない? 

 一体何の話かと息を飲んでいると彼女の左腕の袖から黒い人影が顔を出した。

 

「──ごめん、母さん。無限月読に封じた連中にチャクラを奪う途中で逃げられたせいで想定よりも母さんのチャクラが少なくなってしまったんだ」

 

 謝罪を述べる黒い人影、黒ゼツさんの言葉に背筋が冷える。

 今でさえ身が竦む程だというのに本来ならばもっととんでもない状態で復活していたというのか? 

 

「よい…ならばワラワが直接取り戻せば良いだけの事。特にハゴロモとハムラ…いやインドラとアシュラの転生者、お前達はな」

「だったらあの世界に連れていこう母さん、あっちの金髪の方は仲間を見捨てられない、必ず隙が生まれる。それに…雑魚とはいえ数が多い、多少のチャクラは斬り捨ててでもあの2人を優先する方が確実だ」

「──そうだな」

 

 奇妙なやり取りの最中、感知タイプと思わしき連合の忍が震える声を上げた。

 

「あの女、とんでもない量のチャクラを練り込んでいるぞ…何かする気だ!」

「ふん、まさか一々チャクラを練る必要がある程に母さんの復活が不完全なものになるとはな。だが、手遅れだ」

 

 悲鳴の様な警告を黒ゼツさんがつまらなそうに吐き捨てた瞬間、目の前の空間が変化する。

 激しい戦闘で更地と化した森の中から突如鍾乳洞の中、その空中に放り出され──更にその真下には煮えたぎる溶岩の海が広がっていた。

 

「う、うああああああっ!?」

「どうなってんだよ、これはァ!?」

 

 この場の全員を巻き込んだ大規模な時空間移動、もしくは別世界そのものを口寄せしたのか…常軌を逸した規模の術を幻術かと疑う間もなく全員が落下を始め溶岩へと落ちていく。

 土影様や我愛羅君が必死に周囲の人間を救おうと動いているが全員を救うには到底間に合わない、だから──こちらも世界への干渉を行う。

 

「……水月」

「はいはい!」

 

 私の両足を足場にして水月は自ら溶岩へと降下する。

 そうして誰よりも先に溶岩に触れる寸前と辿り着くとその手に握る黒い刃を振るい空間に大きな裂け目を創り落下していた全ての忍を飲み込んでいく。

 

「っ! サソリさん、傀儡糸でオビトさんを!」

 

 1人だけ皆と離れた位置で溶岩へと落下していたオビトさんも寸前でサソリさんの傀儡糸で引き上げて裂け目の潜る。

 

 裂け目の先は溶岩の世界に飛ばされる前にいた更地の森。

 目まぐるしい世界の変化に戻ってきた忍達の殆どが唖然とした表情を浮かべた。

 

「なに今の!? アンタ達、一体何したの!?」

「"終刀・真月"…無限月読の世界で私が造ってきた刀です。オビトさんが持っていたかつて六道仙人が世界を創った刀を参考に世界に干渉し創り変える能力を持たせ、その力で皆さんの無限月読の世界と繋げ、破壊し、先程の空間からも離脱出来ました──現実の世界に持ってこれるかは不安でしたが無事に水月の手元にあって良かった」

 

 周囲を見渡し現状を確認しているサクラさんの問いに出来る限り簡潔に説明すると周囲の人達が騒めきだす。

 

「り、六道仙人の武器を自力で造ったっていうのか!?」

「世界を創り変えるって…スケールデカすぎて訳が分からん…いや、それが忍の祖の力なのか、しかしそんなものを新しく自分で造るとは…」

 

 無限月読の恩恵を限りなく利用したので自力で造ったと言われると語弊があるが、しかし自分達の作品が驚き賞賛されるのはやはり嬉しくなる。

 

「…なんか、六道の大じいちゃんが『知らねーけど、そんな刀…つーかヤバくね?』ってまた変な口調で喋ってんのが聞こえてきたんだけど…」

「奇遇だな…」

 

 心地良い気分に浸っていたが何故かナルト君とサスケ君が渋い表情を浮かべている、何があったんだ? 

 詳しく聞いてみたいところだがそれよりも先に周囲から悲鳴にも似た必死に叫ぶ声が聞こえ出す。

 

「とにかく、戻ってこれたのなら一度逃げるべきだ!」

「そうだ! あんな化け物に勝てるはずがない!」

 

 冷静さを失った嘆き…しかしそれ自体は弱音などではない。

 彼らは目の当たりにした相手の力を正確に把握し勝ち目がないという事実を口にしているだけだ。

 

「落ち着け、奴らが無限月読を再び使えば結局俺達に逃げ場はない」

「……しかし、俺達にあんなのと戦う力なんて…殺されるぐらいなら、いっそ──」

「自棄になるな、無限月読に掛けられた者は最終的にはあの白ゼツに改造されるとお前達も聞いていただろう」

 

 しかし、事実を口にすれば次第に心が折れてゆく。

 我愛羅君が冷静に宥めているが覆す事の出来ない絶望に膝を着いてしまう者達さえ出始めた。

 

「──忍連合全員を起こしたのは少々迂闊だったね村雨…」

「そうかもしれないですね」

 

 喧騒の様子を俯瞰したカブトさんの言葉に言い返す事も出来ず頷く。

 マダラさんに対抗する為に皆の力を求めたが完全に裏目に出てしまった…勿論、少しでも何か手を打とうと近くの者と作戦を話し合ったり諦めていない者達も多い。

 

 …だが、既にあちこちから聞こえる嗚咽の声は確実に士気を蝕んでいた。

 

「まぁ、あんな化け物が出てくるのは完全に想定外でしたからね…それで、サソリ…オビトさんは?」

「死んではいないようだが意識はねぇな──確かリーダーが使ったのと同じ転生忍術を使わされたんだろ? その手の術を使った以上どの道こいつはもう長くねぇぞ」

 

 鬼鮫さんは一体無限月読の真実に何を思っているのか…その気持ちを想像する事すら出来ず、彼の視線の先…意識の無いオビトさんをただ見つめる。

 

「──オレに見せてくれってばよ」

 

 不意に声がして顔を上げるとナルト君とカカシさんがすぐ傍に来ていてオビトさんの身体にそっと手を添えた。

 

「……う…」

「ッ! 凄い…」

 

 今にも途切れそうな微かな呼吸をするだけの、素人目でも死の寸前だと分かる程だったオビトさんが呻き声を上げ顔色も少しだけ血色が良くなった。

 医療忍術ではなさそうだがとにかく凄い力だと驚くが肝心のナルト君の顔は決して命を救えた晴れやかな物ではなかった…それが意味する事は──

 

「転生忍術のリスクを取り消すまでは…出来なかったか?」

「うん…ごめん、カカシ先生」

「お前が謝る事じゃない…むしろ、良くやってくれているよ。ありがとうナルト」

 

 ナルト君の胸中を察してカカシさんは彼の肩を優しく叩いた。

 

 カグヤさんへの対抗にしても、オビトさんにしても状況はあまりに苦しい──どうにか覆す手段はないのかと必死に思考を巡らせるが何一つ思い浮かばない。

 

「──ッ!」

 

 ──そして、そんな自分の無力感を受け止める事すら許さずに事態は更に悪化する。

 頭上から強大なチャクラが再び出現したのを感じ取り会話を中断し空を見上げる。

 

 

 空中に造られた黒い裂け目──そこから現れたのは白い女性…カグヤさんが私達を追って戻ってきたのだ。

 

 

 再び姿を現したカグヤさんは先程までとは違う、近くにいるだけで感じる威圧感ではなく明確な敵意を放ちその重圧を更に増していた。

 

「…貴様ら如きがワラワの世界に触れようなど…許しはせん」

 

 心臓を鷲掴みにされたと感じる程に恐怖を煽る強い憎しみを宿した声に誰もが身を震わせる、避けられない死を予感しガチガチと歯を打ち鳴らす者も数多くいた。

 そしてそれは私も例外ではなかった──だが、彼女の意思がはっきりと表れた事で無機質に感じる彼女の心の内がほんの少しだけ見えた。

 

 彼女にあるのは恐ろしく強い独占欲。

 自分のものを他人に取られる事を激しく憎悪する感情が際限なく溢れている。

 

「…以前に、誰かに大切な何かを奪われたのですか?」

 

 あくまで使ったのは無限月読の世界にあったもので現実ではそれらに手を出したりしていない事に気付かない程に、それともそんな事分かっていても許せない程に自分の力を使われる事を嫌悪する、それはただの欲張りなどではなくトラウマの様に思えた。

 

 瞬間、3つの瞳がこちらを捉える。

 捕食者の目に留まった…などという表現でさえ足りない程の強い恐怖を堪えて向かい合う。

 

「──母さん、あの女の相手はしない方が良い。狂った言動で搔き乱す破綻者で母さんの世界を傷付けた元凶だ」

 

 どうにか彼女の胸中を更に探れないかと思っている内に黒ゼツさんがこちらに意識を向けたカグヤさんを諫めた。

 

「あの女は本人にその気がなくとも予想もつかない行動でこちらの裏をかいてくる、俺はそれをずっと見てきた。だから奴には対話も駆け引きも必要ない、純粋な力で消し去るのが一番良い」

 

 瞬間、彼女の左腕が膨大なチャクラに包まれた。

 人柱力の人達が操るチャクラで造った腕…しかし彼女のそれはナルト君や水月のものとは比べ物にならない程の規模の…正しく巨人の腕だった。

 

 水化の術でも逃げられない高密度のチャクラによる攻撃。

 黒ゼツさんが指示した通り、私が最も苦手とする行動であり、あれを振り下ろされた時私は意図も容易く葬られるだろう。

 

 

 ──私だけならば。

 

 

 カグヤさんがチャクラを纏う左腕を振り下ろそうと僅かに動かした瞬間、彼女の背後の空間に再び黒い裂け目が創られる。

 カグヤさんがこちらの世界に戻ってくる時に出現した時空間移動の穴…しかしそれを創ったのは今回は彼女ではなく一歩も動く事なく刀を素振りした水月の意思だ。

 

「ッ!?」

 

 同じ能力だから、それとも白眼を持つからか背後の空間に空いた裂け目とそこから迫った黒い刀身を寸前で察知し空中を滑る様に移動し頭の中心を狙った太刀筋から逃れるが──逃げ切るには一瞬遅れた。

 

「世界を創り変える"終刀・真月"に、間合いという制限はない」

 

 黒き刀身はチャクラを纏っていたカグヤさんの左腕を捉え、その肘から先を斬り落とし収束していたチャクラを霧散させる。

 

 連合の皆がそしてカグヤさん自身も斬り落とされた左腕が地面に落下するのを呆然と見つめ時間が止まったかの様に静まり返ったその瞬間に今しかないと確信する。

 神の如き存在を斬り裂いた今ならば…ほんの少しだけ彼らの背を押せるかもしれないと。

 

 腰のポーチと暁の衣装の裏側に忍ばせていた巻物を取り出し空高く投げる。

 即座に印を結びその内に収納していた全ての作品を呼び出して名も知らない、共に戦う忍達の手元へ届け──かつて聞いた言葉の中で最もこの場に必要の言葉を借りて叫ぶ。

 

「戦う力がないのなら私が貴方達に"刃"を託す! だから"心"を強く、恐怖に耐えて立って下さい! そしてその額当てに刻まれた字を思い出してください! 貴方達は──"忍び耐える者達"だ!」

 

 それは何の現実性もない言葉だけの鼓舞だった──それでも、あちこちでカチャリと刀を拾う音が鳴る。

 恐怖が消えたわけではない…しかし恐怖に耐えて忍達は立ち上がった。

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