霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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製作者の最期

 忍び耐える者達。

 かつて自来也さんが口にした忍の定義…それを体現しているとは言い難い私が真似たところで果たして意味があるのか不安ではあったが、刀を支えに震えながらも立ち上がった大勢の忍達を見て安堵する。

 

 …ただの受け売りだが言ってみた甲斐はあった…しかし、あんな風に人を扇動するなんて大それた事をしたと遅れて激しくなる心臓を鼓動を息を吐いて落ち着けているとすぐ隣で小さく笑う声が聞こえて振り向くと意地悪な表情を浮かべたハレンチ博士が視線を向けていた。

 

「──私の部下ともあろう者がよりにもよってそっちの見解を口にするなんて…傷付くわね」

「え!? いえ、その…刀を渡しながらハレンチ博士の見解を口にしてもメッセージ性が何もないと言いますか…」

「ってかあの大量の刀、大半が昔ボクが君を謹慎生活させる為に4万本発注した時のやつだし…物は言い様だね」

 

 絶対本気じゃない癖に拗ねた素振りを見せるハレンチ博士に必死に弁明している間に水月からも痛いところを突かれて目を逸らす。

 水月の言う通り、あの刀の大半は謹慎生活の日々で造った物で作品そのものはともかく、その誕生経緯についてはこの状況で自慢気に皆に託す物ではない。

 

 おまけに4万本造り切る前にナルト君達がアジトに乗り込んできて、そこから色々組織を渡り歩いた事もあってとても私の手持ちだけでは数は足りていないかった。

 元々刀が広く流通している雲隠れや侍の方々は勿論、我愛羅君やメイ様が戦争の前に昔私が売った作品を搔き集めて自里の忍達に配布してくれていたのか、砂や霧の忍達も大勢が刀を持ってくれていたお陰で何とか足りた。

 

 無論、数が足りただけであの刀の中"終刀・真月"に匹敵する質を持つ刀など1本もない。

 けれど、その非力な刃も積み重なる事でほんの少しでも水月が、そしてナルト君やサスケ君がカグヤさんに攻撃を当てる為の目晦ましになれば──充分に意味はある。

 

 忍連合軍の総大将、雷影様も同様の考えらしく拳を突き上げて忍達へ号令を叫ぶ。

 

 

「皆は援護だ! 刀を時間差で投げ付け奴の注意を引き続けろ!!」

 

 

 全ての刀を託し、私に出来る事はもう何もない。

 後はただ、託した刀達の攻撃が成功する事のみを祈り──

 

「そうは──させるか!」

 

 

 突如、私の身体の中に別の何かが入ってきた。

 

 

「ッ! しまった!!」

 

 私の周囲で先程まで呆れた様に笑っていた水月やハレンチ博士達が私を見て突然表情を険しくする。

 一体何が起きているのか、それは黒く染まった自分の左腕が私の意思とは無関係に動き出し私の首を絞め始めた事で理解した。

 

「──鬼灯水月、お前の持つ刀を今すぐ捨てろ…でなければ、この女を殺す」

 

 声も出ない程に首を絞められているはずの私の口元から出た声は紛れもなく黒ゼツさんの声であり、オビトさんがされていた様に彼に身体を乗っ取られてしまった事は間違いない様だ。

 

「…直接ボクを狙う事だって出来た癖に返り討ちに合うのを恐れてそいつを狙うなんて…みっともない手段使うじゃんか、アンタ」

「他の鉄クズなどはどうでも良いが、お前の持つ刀だけは別だ──さぁ早くしろ」

 

 首を絞められた酸欠か、それとも黒ゼツさんに身体の主導権どころか意識さえ奪われているのか…最早区別もつかないが薄れゆく意識の中、かつて黒ゼツさんに言われた言葉を思い出す。

 

 

 ──所詮造ル刀二利用価値ガアッタカラ大蛇丸、サソリ、角都二生カサレテイタ立場

 

 ──皆ヲ利用シテキタ貴様ガ死ノウト誰モ悼ミハシナイ…

 

 

 私に人質の価値がないなんて分かっているはずなのに。

 己の全てを捧げた計画に危機が迫った事でなりふり構わず、意味のない事だと分かっているのに必死に試す…その黒ゼツさんの執念に不思議と共感して思わず笑ってしまう。

 

 しかしどこか冷静になった事で黒ゼツさんに乗っ取られた私を連合の皆が呆然と見つめている事に気付く。

 本来ならば私ごと黒ゼツさんを倒すべきだと判断してくれるのだろうが、直前に私が皆を焚き付けてしまっただけにその決断を躊躇わせてしまっている。

 

 動かせない視界の端では既に左腕を再生し攻撃を再開したカグヤさんをサスケ君が1人で食い止めているのが目に映る。

 

「ふん、サスケはやはりこんな手では止まらないか…それで、貴様もこの女を見捨てる気か?」

 

 その言葉は手放す様に要求された"終刀・真月"を構えたままの水月へと向けられた。

 

「…水月、その世界を創り変える刀で黒ゼツだけ斬る事は出来ないのかい?」

「さぁね、世界に創り換えて何でも斬れるとは聞いたけど何がどこまで出来るのかなんてボクにもさっぱり分からないんだし──1つ言えるのは…あいつの造る刀にそんな安全性に気を利かせた機能なんて多分ない!」

「オッケー、君が言うんだから間違いないな」

 

 一応私を斬らずに済む手段を模索してくれたらしいカブトさんがすぐにお手上げした…実際造った私すらそんな事出来るかは分からないし水月の判断は実に正しい。

 

 ただ何だか私が作品を造る時に安全性に手を抜いているような言い分だけは少し気になる…ちゃんと考えた上で攻撃性が上回ってしまう事があるだけなのに…。

 緊張感もなくそんな不満を抱いた瞬間、バキリと何かが砕ける音がした。

 

「マズい、須佐能乎が!?」

 

 音の方向を見れないが周囲の声からしてサスケ君の須佐能乎がカグヤさんによって壊されつつあるのだろう──これ以上皆を止めている訳にはいかないがやはりゼツさんの支配を振り解く事は出来ない。

 

 ──本当に申し訳ない事だけど、唯一の解決法を求め水月へと視線を送る。

 

「ゼツ…だっけ? 悪いけど…そいつ諸共君を殺せるってんならむしろ好都合なんだよ、ボクにはね!」

 

 声も出せず、アイコンタクトすらも出来ないただの視線だった。

 それでも彼はその意図を理解してくれて──それがとても嬉しかった。

 

 首を握る自分の左腕の力が増してますます苦しくなるが、それももう後少しの事…彼に託した私達の最高傑作、その刃が届く瞬間を待ち──

 

「──何のつもりだよ、鬼鮫先輩」

「貴方に彼女は斬れませんよ水月…それに、仮に出来ても後悔するだけですよ」

 

 ──"終刀・真月"を振るおうとしたはずの水月の腕を鬼鮫さんが片手で簡単に抑えたのを見て、また自分の愚かさを痛感する。

 鬼鮫さんがあれ程苦悩した話を聞いていて、それと同じ事を誰かに求めるなんて…許されるはずがないのに。

 

「クク、仲間殺しに心が折れたお前らしいな鬼鮫…そうやって何もせず、ただ母さんにひれ伏せばまた無限月読に入れてやってもいいぞ」

「良く言う…無限月読は人間を白ゼツに変える手段だと自分で言っていながら」

「それが何だ? 無限月読に時間の概念など存在しない、お前達が老いて死ぬよりもずっと長く…それこそ永遠に近い幸せを享受できる事は事実だぞ?」

 

 詭弁だ。

 しかし恐怖を必死に堪えている人達にその言葉は正に甘い毒だ…自分の嘘が看破されていようとも一切取り乱す事もなく聞く者を闇へと引き摺り込むその魔力は恐れるばかりだ。

 

「確かにその刀ならば母さんに抗える…だが、見ろ忍達よ…腕を斬られようと即座に再生し、お前らの中で最も強いサスケすら到底及ばん…お前ら如きが加勢してもその刀やナルト、サスケの攻撃が当たるまで何人死ぬだろうな?」

「う…」

 

 希望を毟り取る囁き。

 それが確実に忍達の心を折っているのを実感し黒ゼツさんは口角を吊り上げて──最悪の言葉を口にする。

 

「死ねば無限月読を享受する事すら出来ん…今すぐ諦めて隣の友や既に死んだ者達がいる夢の世界を望む方が良いとは思わないか? 鬼鮫…お前も望んだはずだ、殺したはずの仲間達が生きていて、今度こそ裏切る事なく共に過ごせる真実の世界を──」

「鬼鮫さんの望みは…そんなものじゃない!」

 

 無限月読の中で目の当たりにした孤独の世界とそれを望む程にまで抱えた鬼鮫さんの苦悩──それを知らずに嘲る言葉を口にする黒ゼツさんに衝動的に叫ぶ。

 窒息寸前の状態で叫んだ事で喉が焼け付く程に痛み、激しい咳を何度も繰り返すがお陰で薄れていた意識も今でははっきりとした。

 

「貴様!? 俺の支配に…何故──」

「…フ、黒ゼツ…お前の方こそ思い上がり過ぎだ。お前の他者を乗っ取る能力…輪廻転生を使わされて死に掛けの俺でさえ根性一つで抗えたんだぞ? おまけにそいつの根性は筋金入りだ」

「ッ!? オビト! 意識が戻ったか!?」

 

 意識を取り戻したオビトさんが言った通り、全身に力を入れて黒ゼツさんの支配に全力で抗う。

 "忍者とは忍び堪える者"その言葉を拝借した私が"諦めないド根性"を捨てる訳にはいかないのだから──

 

「くだらん! 貴様如きがいつまでも抗えると…」

「うん。だから…すぐに終わらせる、私自身の手で──」

 

 しかし、オビトさんは簡単に言うが、黒ゼツさんの支配はあまりに強い…むしろ死に掛けの状態でこれに抗っていたのが信じられない程だ──だからまだ私が抗えている内に素早く印を結ぶ。

 

「──その印は!」

 

 流石はハレンチ博士…印の途中なのにもう分かってしまうか。

 尊敬する恩師の知識に笑いながら誰の手にも掛からず始末をつける最後の手段、その印を結び終えて術式を地面に刻み込む──その頃にはもう黒ゼツさんが逃げ出さない様に必死にチャクラを集中させた両足と地面に触れた右腕以外の支配権が全て奪い返されていた。

 

「大蛇丸…あれはまさか…」

「──穢土転生」

「ッ!? お前! 自分ごと俺を穢土転生の生贄にする気か!?」

 

 ハレンチ博士の言葉に黒ゼツさんが遂に冷静さを崩し取り乱す。

 

「どうなるんでしょうね…2人纏めて生贄になるのか、この身体の本来の持ち主である私だけなのか…それとも意外と黒ゼツさんが本体と見做されるのか──こればかりは結果に任せるしかないですね?」

「……いや、ハッタリだな」

 

 ──しかし即座に黒ゼツさんは嗤う。

 

「知っているぞ、穢土転生の術は生きた生贄の他に蘇らせる人間の身体の一部が必要だ…それが無ければ術は成立しない」

「ええ、生贄は私達…そして無茶ばかりする私にある人物が貸してくれたこの首飾り…これはかつて病に侵され死を悟った方が死に別れる友人への御守りとして自ら骨で造ったもの。死んだ人間の身体の一部そのものです」

「ッ!? まさか!?」

 

 重吾さんが驚愕に声を上げた。

 当然だ、本当に大事な物を親切で貸してくれたというのにこんな使い方をするのだから──つくづく私は酷い人間だと自覚する。

 

 ──だが、それで構わない。

 

「……水月、後…頼むね」

「ッ!」

 

 最後にそれだけ告げて地面に刻んだ術式にチャクラを流し込む。

 

「これで条件は整った…"口寄せ・穢土転──」

「ぐ…おおおおおおおッ!!」

 

 身体が急激な脱力感に襲われる──黒ゼツさんが私の身体から抜け出した事で私の抵抗を封じようとする黒ゼツさんの力が無くなったからだ。

 

「水月!」

「了解!!」

 

 私の身体から抜け出して地面に触れようとする黒ゼツさんの胴体を水月が投げた首斬り包丁が刺し貫く──事前に頼んでおいた通り、上手くいった。

 

「グッ…き、貴様ら」

 

 胴体を貫く首斬り包丁の先端のみが地面に突き刺さり、串刺し状態で固定され忌々し気に呻くゼツさんの真下に再び術式を刻み、その身体に骨の首飾りを突き刺す。

 

「俺の創った忍の歴史の…1ページにも満たん貴様如きが──」

「そうですね…貴方は忍という存在が生まれた瞬間からずっと壮大な物語を創り続けた偉大な脚本家…私の研鑽なんて貴方が作品に掛けた時間に比べれば本当に矮小なもので…物造り家として黒ゼツさん、貴方の事を心から尊敬します」

 

 分かり合う事は出来なかった…いや、それを試みる機会すら作れなかった…けれど、たった1人で自らの思い描く歴史を創り続けた人物への尊敬…それだけは本当の気持ちだった。

 

「──だけど、自分の作品に自らの命を懸けた時間は私の方が…貴方が利用したリーダーさん、オビトさん、マダラさん…そして歴代の五影の方々の方がずっと長く、重い! だからもう…譲ってもらう! ここから先の歴史に刻むのは私達の作品です! ──"口寄せ・穢土転生"!!」

「やめッ! ぐおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 無数の塵芥が黒ゼツさんを埋め尽くし全く別の人物を模る。

 黒ゼツさんを生贄に穢土よりこの世界に蘇った白い髪の…細身の男性と目を合わせる。

 

「お久しぶりです、君磨呂さん」

 

 ハレンチ博士の部下にして、重吾さんの親友。

 そしてかつて"新生・忍刀七人衆"へ一番最初に勧誘した人物との再会を歓喜するのだった。

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