霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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終戦

「──お久しぶりです、君麻呂さん」

 

 棺桶が消え、その内側で眠っていた君麻呂さんは目を開くと僅かに驚いた様子で周囲を見渡して口を開く。

 

「…死んでいたボクにはすぐの再会な気がしますが──貴女や重吾の姿からして随分と時間が経ってしまった様ですね村雨さん」

「アレから3年近くです」

「そうですか…しかし、こうしてこの世に蘇り貴女との約束を守れる事…この上なく嬉しく思います」

 

 穏やか笑みを浮かべていた君磨呂さんは急に鋭利な目付きで頭上を見上げる。

 その視線を追うとサスケ君を弾き飛ばしたカグヤさんが黒ゼツさんが殺された影響か目を見開いて君磨呂さんを見つめていた。

 

「……お前は…」

 

 しかし、彼女は同胞を殺された激情以上に驚きや困惑といった予想外のものに目を奪われているようで──その2人を見比べて彼らがどこか似た雰囲気をしている事に気付く。

 それに君磨呂さんの一族の名は確か彼女の名と同じ…ひょっとしたらこの2人は濃い血縁関係があるのだろうか? 

 

「さて、貴女が誰か知らないが…そんなものはボクにとってはどうでも良い。この人の敵だというのなら排除するだけだ」

「相変わらずね君磨呂…いや、私の為と言わないなんて…随分と変わったのかしら?」

「大蛇丸様! …村雨さんには、ボクの望みを叶えて頂いたお礼にもしも二度目の生を得た時には彼女と水月の夢に協力すると約束をしましたので…だから、申し訳ありません」

「そう…なら奇遇ね。私とカブトもその夢に協力している最中でね──今後ともよろしく頼むわよ」

「え!? え?」

 

 驚きのあまりハレンチ博士と私で視線を行き来する君磨呂さん…その珍しい反応がよほど面白かったのかハレンチ博士が肩を震わせている。

 まぁ確かに君磨呂さんが亡くなった頃だとまだハレンチ博士とも今ほどの関係にはなれていなかったから当然の反応だし、そんな意地悪な反応しなくても良いのに。

 

「まぁ、そういう事だからこれは返しておくわ。その代わり存分に働いてもらうわよ…かつて私が欲した能力を貴方自身が全力で使う事でね」

 

 そう言ってハレンチ博士は君磨呂さんに1本の刀を手渡す。

 それは病によって死が迫りハレンチ博士に応える事が出来ない君磨呂さんから望まれ彼の能力だけでも遺すべく造った刀"壊刃・遺骨"だった。

 

 君磨呂さんが自らの命の代わりとしてハレンチ博士に贈った刀…それを返却するというのはある意味では生前の君磨呂さんの想いを無駄にする事の様にも思えるが、同時にそれは生前自身の全てをハレンチ博士に捧げんとしていた君磨呂さんに別の生き方を許すという意味でもあったのだろう。

 

 それ故に君磨呂さんは深く頭を下げた。

 

「お許し、ありがとうございます…大蛇丸様。そして共に戦える事に感謝します──勿論、君ともね…重吾」

「ああ…俺もだ、君磨呂!」

 

 そして君磨呂さんはもう1人の大切な人物とも言葉を交わして笑みを浮かべた。

 大勢の人の前で穢土転生の術という後先がとんでもなく怖くなることをしてしまったがこの瞬間だけはそれで良かったと心から思い──隣の水月が妙に渋い表情を浮かべている事に気付く。

 

「…またボクの"新生・忍刀七人衆"に大蛇丸の部下が入ってくるわけね…大蛇丸にカブトに君磨呂に…サソリに角都、何でボクこいつらのリーダーやらなきゃならないの? っていうか後1枠誰も入りたがらないだろ…もう」

 

 確かにハレンチ博士とその配下、暁で纏まり過ぎているとは思っていたが後1枠新たに入る人の事を考えていなかった…メンバー間の仲が良好なのは良い事だがそれが却って新人に入り難い雰囲気が出来てしまう事は考えていなかった。

 

 …というか新人以前に水月が結構孤立してるかも? 

 

「かくなる上はやはり水月と関係の深い鬼鮫さんを…」

「だからそいつも暁だから!」

 

 そうだった。

 

「やれやれ、散々断っているのにまだ言いますか。…とはいえ、普段底抜けに能天気な貴女にあれ程怒って頂いたんだ、多少の礼ぐらいはするのも悪くはないか」

「え? …ちょ、まさか──」

「ま、仲良く楽しくお願いしますよ、水月隊長?」

 

 胸の奥が熱くなるのを感じる。

 鬼鮫さんが私達の夢を受け入れてくれたこと…そして"新生・忍刀七人衆"が遂にその名の通り7人全員が集まり夢が成就したこと、そして無限月読を越えた先にこの結果が得られたこと…全てが誇らしく、労いの思いを込めて水月の背を叩く。

 

「やったね水月!」

「やってくれたね本当に!?」

 

 震える声、目に浮かぶ涙…私も思わず泣きそうになるが一体どうして水月は私の首を締めるのだろう? 

 

「じゃれ合いをいつまで続けるつもりだ…くだらねぇ」

「状況を分かっていないのか貴様らは」

「それに、折角黒ゼツを倒したんだ…今なら失いかけてた士気を一気に上げられるはず、隊長としてお願いしますよ水月」

「~~~ッ!! もう! やれば良いんでしょやれば!!」

 

 黒ゼツさんに続けて水月にまで首を絞められて今度こそ意識が遠くなってきたがサソリさんと角都さんに苦言を呈された上に鬼鮫さんに促され水月は頭を掻きむしって"終刀・真月"の切っ先ををカグヤさんへと向けて叫ぶ。

 

「この戦争を仕組んだ黒幕はぶっ殺した! 残りはアイツただ1人! 神だか母だか知らないけど…忍の力、見せてやるよ!!」

「うおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 それは皆を率いる将の号令としてはあまりに陳腐な言葉だが、その呼び掛けに誰もが声を張り上げて答える。

 

「策は変わらん! 皆は援護だ! 刀を時間差で投げ付けろ!!」

「くだらぬ!」

 

 雷影様の指示で無数の刀による鉄の雨がカグヤさんへと降り注ぐ、しかしカグヤさんは自らの髪を千本へと変えてその全てを打ち落としていく。

 ──あの刀達の多くは私が心血を注ぎ造り上げた作品達…しかし水月達が持つ"七刀"と比べれば大きく劣るのは事実。

 

 …悔しいがこの結果は当然、そしてこの隙に弾かれた刀を潜り抜けてて"新生・忍刀七人衆"が行く。

 

「させぬ!」

 

 広い視野と強い視力…3大瞳力全ての祖たるカグヤさんはそれを見逃す事なく無数のチャクラの腕で殴り付ける。

 降り注ぐ大量の刀を弾きながら放つチャクラの腕は正確に水月達を捉えてはいないが圧倒的なチャクラ量からなる純粋な破壊力が大地を砕く。

 

 さらに連合の忍達の頭上に空間の裂け目がいくつも広がりその全ての穴から大量の水、正しくは液状の酸が激流として溢れ出し各地で悲鳴が上がる。

 

「っ! 水月!」

「くそ!」

 

 "終刀・真月"は無数の裂け目を斬って塞ぐ──しかし、次々に開く空間の裂け目の対処に次第に水月はカグヤさんへと向かえなくなっていく。

 

「世界丸ごと移動させても水月の刀ですぐに逃げられる…だから細かい穴だけ造って攻撃に転用してきたようですね」

「…だが、あの女あまり戦い慣れはしていないな。確かにこちらの能力や行動に対処をし攻撃の規模も規格外…だが、攻め方自体はマダラに比べれば単調だ」

 

 刀の投擲の多くを髪の千本で撃ち落とし何人かは天穴を突かれて動きを封じたりもしている、巨大なチャクラの腕も素早く移動するハレンチ博士達を直接は殴れずとも地面ごと吹き飛ばすことで彼らの接近を阻んでいる。

 

 三大瞳術や途方もないチャクラ量を活かした完璧かつ圧倒的な力、だが広い視野を持つが故に見える全てを一度に対処しているからこそ攻撃の中に隙がある。

 最強であるが故の戦闘経験の無さ、そして万全での復活が出来なかったが故に本来の力と今の弱体化した力の感覚のズレ…それがカグヤさんの唯一の弱点…らしい。

 

 正直私には雲の上の世界過ぎて違いなんて分からないが戦闘経験豊富な角都さんが言うのならそうなのだろうと判断するとそれを肯定するかの様にハレンチ博士も周囲へ指示を出す。

 

「この手の相手には陽動と不意打ちの一撃…それが肝よ」

「陽動と不意打ち…よしサスケ! アレをやるってばよ」

 

 そしてハレンチ博士の作戦が聞こえたらしく、ナルト君がサスケ君と合流する。

 アレとは一体? 何かとっておきの術があるのだろうか? そう疑問を抱いた時彼の師である人物が何か心当たりがあったのか顔を青くする。

 

「アレって…まさかあの術かナルトォ!? よせ、逆ハー…あの術は使うなとあれほど」

「いくぞォ! "影分身の術"!」

 

 必死に止める自来也さんの制止を振り切ってナルト君の大量の影分身が地を蹴りカグヤさんへと急接近する。

 

 三忍の1人、自来也さんがあれ程恐れる術とは一体なんだ?

 

 固唾を呑んで見守る中、大量のナルト君の分身を背後から貫き、その消滅によって舞い上がる煙に紛れながら雷を纏う剣がカグヤさんへと迫る。

 

「あれは──"雷刀・鳴神"!」

 

 それは我愛羅君の父、四代目風影様の細胞から得た磁遁チャクラを利用して雷遁の威力を増幅させる性質を持たせた刀。

 かつてカカシさんからの要望でサスケ君の手に渡った"七刀"にも引けを取らない業物だった。

 

「影分身は囮か!」

「当たれぇぇ──っ!」

 

 ナルト君の分身に隠れ投擲された"雷刀・鳴神"は接近に気付き咄嗟に放たれた迎撃の髪の千本を焼き払いながらカグヤさんへと迫る。

 

 急激に力を増したサスケ君の雷遁チャクラを更に増幅させた一撃、しかしそれはカグヤさんの右腕が放つ骨の矢とぶつかり、弾かれる。

 

「骨…やはり君麻呂と同系統の術を──」

「いや…あれを見ろ!」

「刀の影に──もう一本!?」

「凄い! あの刀で影手裏剣を!?」

 

 投擲した武器の影にもう一つ武器を隠して投擲する影手裏剣…本来ならば風魔手裏剣などの平たく大型の形状を使う技術を刀でするのは確かに神業だ…だが、あの刀は1つしか存在しないはず、まさか──

 

「あれは…カカシ先生!」

「ああ…来いサクラ!」

「はい! 今度は──私も!!」

 

 背後ではカカシさんとサクラさんが投擲され続ける無数の刀の更に上空へと飛び上がり、最高到達点でカカシさんを足場にサクラさんが密かにカグヤさんの頭上へと回り込む。

 カグヤさんはその接近には気付かぬまま目の前に迫ったもう一本の"雷刀・鳴神"の迎撃は間に合わないと判断し身体を捻って回避する──しかし、それは罠だ。

 

 

 

「──お前の死を聞いて動き出した少女の作品が…そしてお前に勝つ為のアイツらの初めてのチームワークが世界を救うとはな…」

 

 

 存在しないはずの2本目の"雷刀・鳴神"は煙上げて消滅し、その煙の奥に橙色のチャクラが炎の様に揺らめいた。

 刀への変化を解いた事で突如背後に出現したナルト君の姿にカグヤさんが目を見開いた瞬間、撃ち落とされた刀の内の一本とサスケ君の位置が入れ換わり──挟み込む様に手を伸ばす。

 

「──く、"共殺の灰骨"!」

「壊刃・遺骨…鉄線華の舞」

「万象天引」

 

 目前に迫った2人に対するカグヤさんの反撃、しかしそれは"壊刃・遺骨"の柄を鞭の様に形状変化させ君磨呂さんが放った突き、そして四代目火影様の肩を借りて駆け付けた長門さんの引き寄せる術によって狙いが外れる。

 

「おのれッ! ──グゥ!?」

 

 最後の反撃も防がれ咄嗟に上空に逃げようとしたカグヤさんの脳天に先回りしていたサクラさんの渾身の殴打が決まりその身体を打ち落とす。

 

「今だ!」

「しゃーんなろォォォ!!」

「よっしゃー!! "六道・地爆天星"!!」

 

 ナルト君とサスケ君の手がカグヤさんに触れる。

 その瞬間にカグヤさんの額の瞳が閉じる…それは紛れもなく決着を意味し、自らの弟子達がその偉業を成し遂げたのを見届けてカカシさんは穏やかに笑い、霧隠れの鬼人と呼ばれた人物に懐かしむ様に語り掛けた。

 

「見ているか、再不斬? お前が…お前と白がアイツらの最初の敵で良かったよ」

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