霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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国家転覆

 その男は常に恐怖と疑念を抱えて生きていた。

 先代が自国の忍であったはずの干柿鬼鮫によって殺され、その後釜として大名となった…それ故に若い頃には強く欲していた国で最も偉い地位を得ていながらも彼の心にあったのは不安ばかりだった。

 

 自里の忍は信用出来ず、誰に殺されるかも分からない日々、鎖国状態によって他国の発展事情も詳しく知る事も出来ず国の内側にも外側にも常に怯えていた。

 出来る事なら大名の座など遠縁の誰かに押し付けてしまいたいと思う程に…

 

 だからこそずっと望んでいた。

 忍のいない、武力というものが必要とされない平和な世界を。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 気がつけば男は望んだ通りの世界にいた。

 忍という存在はある日を境に廃止され各国は大国、小国問わず一斉に武力を放棄しどの国も争うことをやめた世界…軍事力に回していた金は産業、農業に回し大名としての役目はそれらの方針に承認か否認の判断し、時折他国との交流の場に出るだけ。

 

「大名様! おはようございます!」

「大名様、今朝の漁は大漁でしたよ! 良かったらまた港の方を視察していって下さい」

「あ、大名様だ! おはよー!!」

 

 そして休みの時間には護衛もなく町を歩いてはこうして民草と交流、談笑する何かに怯える事のない穏やかな日々──そんな本来ならば彼にあるはずの無い夢の様な日常を疑う事もなく謳歌していた。

 

 それは夢だった。 

 先代の死によって大名となり暗殺に怯え続けた男──水の国を治める大名の夢であり、無限月読によって齎された世界だった。

 

 その夢の世界は決して覚める事はなく、その代わりに危険や恐怖などというもは芽生えるはずもなかった。

 本来ならば──

 

 突如、大名の視界に銀色の刃が走る。

 

「水大名…その命、頂く」

 

 いつからそこにいたのか分からない、突然目の前に現れた黒い衣装と髑髏のお面で全身を隠した集団が刃物を片手に不気味にこちらを見つめていた。

 

「なッ!? ぁ…ああ!?」

 

 幸いにも襲撃者の不気味な容貌に尻もちをついた事で寸前で刃から逃れるも額から顎まで斜めに掠り、血が滴り落ちる。

 

「な…なな、何者だ貴様ら!」

 

 激しい動悸と遅れて感じる痛みに呼吸が荒れ、それでも必死に目の前の刺客達へ気丈に叫ぶ。

 しかし一番手前に立った髑髏面の襲撃者は手にした小刀を手元でくるくると弄び、その切っ先を突き付ける。

 

「ひっ! や…やめてくれ、わ…私は死にたくない、死にたくないだけなんだ!」

 

 恥も外聞も捨てて縋り、泣き叫ぶ。

 しかし、突き付けられた刃は無情にも喉へと走り──皮膚に触れる寸前に横から飛んできたクナイによって弾かれた。

 

「え…?」

「大名様は殺させないよ…ボク達"新生・忍刀七人衆"が、いや…"霧隠れの忍"がね」

 

 クナイが飛んできた方向へと視線を向けるとさっきまで談笑していた漁師の男が"印を結び"、全身から煙を上げると尖った歯を見せて不敵に笑う少年へと変貌する。

 

 他の主婦も子供も、犬すらも変化を解いて正体を明かす。

 

 五代目水影メイがいた。

 上忍衆筆頭の青が、忍刀七人衆の長十朗が、霧隠れの額当てをした忍が大勢いた。

 そして他里の抜け忍達がいて──先代を殺したはずの干柿鬼鮫がそこにいた。

 

 その瞬間に男は──無限月読に掛けられていた水大名は困惑する。

 忍は解体されたはず…何故彼らがここにいる? 

 何故、先代を殺した鬼鮫が自分を守ろうとしている? 

 

 そもそもここはどこだ? 

 自分は戦争に巻き込まれない様に匿われた森林の中に構えた隠れ家で他国の大名達と徹夜で麻雀に興じていたのではなかったか? 

 

 次々沸き上がる疑問に水大名は自分の記憶が酷く曖昧になっていく感覚に襲われ、激しい頭痛に思わず両手で頭を抑えようとする。

 

 そして、その手を最初にクナイを投げた少年に掴まれる。

 

「大丈夫ですか大名様!」

「お、お前は…確か──」

「鬼灯水月…"新生・忍刀七人衆"の隊長だよ」

「な、何故お前が、それに干柿鬼鮫がここに!?」

「何故って…ボクが仲間にした元暁のメンバーの罪を許して水の国への帰還を認めてくれた大名をお守りするのは当然でしょう!」

「は? わ、私が許した? お前達を!?」

 

 水月の言葉に水大名は自分の耳を疑い周囲の忍達を見渡すが水月が仲間と語った"新生・忍刀七人衆"のメンバー達が次々と頷いた。

 

「私の理想は忍と国との信頼…その為にまずは私がお前達の善性を信じようという言葉…我々は決して忘れていませんよ」

「え!?」

「罪があるならば裁き反省があるならば受け入れよう。過ちがあるならば正し後悔が生まれたならば信じようという貴方の言葉に救われた」

「えぇ!?」

「多くの命を奪ったその命は私が預かる、故に更に多くの命を救ってみせろという言葉に今こそ応える」

「言ったのか!? 私本当にそんな事言ったのか!?」

 

 ただでさえ襲撃を受けてパニックになっていたところに食い違う2種類の記憶、更には全く記憶にない自分の言葉を聞かされ水大名は完全に混乱する。

 

 一体何がどうなっているのか、自分は何を信じれば良いのか、腰を抜かしたまま固まる大名の目の前に手が差し出される。

 それは先代の大名を殺した恐怖の象徴たる男…干柿鬼鮫の手だった。

 

「私には目的があった。その為の手段として貴方の先代を殺した。今でもあの時の自分に他の手段がなかったのかは分かりません。けれど今は──国と忍が共に未来を歩む為に私を許すと決めた貴方に…貴方の理想と信頼に応えたい。…どうか、もう一度だけ私達を信じてはもらえませんか?」

 

 懺悔する様に語り掛ける鬼鮫に水大名は息を飲む。

 怖い、手を繋いだ瞬間に殺されるのではないかという疑念が無くならない。

 彼らがかつての自分が言ったという言葉に反し、目の前で自分に手を差し伸ている鬼鮫をまったく信用出来ない。

 

 2つの記憶のどちらも、目の前の光景も信用出来ない──それでも。

 

 震え、躊躇いながらも水大名は鬼鮫の手を取る。

 何も信用出来ない…しかし、目の前の光景は"信じたかった"。

 恐れ続けた抜け忍達を従え正してくれる英雄が現れる事も、忍との信頼を築く切っ掛けを自分の方から踏み出す勇気が芽生える事も、そんな事出来るはずがないと…望む事すらしなかった理想に思えたから。

 

 鬼鮫の手に引っ張られ立ち上がると水大名は震える足と声で…せめて言葉だけは強く叫ぶ。

 

「霧隠れの忍達…いや、水の国の仲間達よ、私は君達を信じる! だから、どうかその信頼に応えてほしい! この国の為に戦ってくれ!!」

 

 そんな感動的な一幕を近くの建物の上から隠れて観察していた本物の鬼鮫は無限月読を悪用し可能にした大量の影分身と変化の術の併用で盛大かつ悪辣な演劇を繰り広げる村雨をドン引きした目で見ていたのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 村雨がカグヤの左腕を諦める数分前、無限月読が解かれ"神・樹界降誕"から解放された水大名は他の大名達と共に連合の忍達に支えられながら今回の戦争の詳細の聞き取りを始めた。

 暁の目的が尾獣の力を利用した征服行為と聞いていた大名達は"月の眼計画"という本当の目的を今になって知るのだった。

 

「なんと…暁の目的がそんなものだとはな。しかし本人の理想が叶った世界で暮らす夢とは──自来也が火影になっておったわけじゃ…平和な世の中で大した仕事もなく共にあやつの書いた小説について語り合っておったわ」

「火大名は相変わらず三忍の自来也が好きなのだな」

「世界を巡ったあやつの話も小説も実に面白いのでな…そういう風大名はどの様な世界であったのかえ?」

「軍事を其方ら木ノ葉に完全に任せた事で軍事費用を全て国の発展に回せておったわ、お陰で国が急成長して毎日贅沢三昧よ」

 

 豪快に笑う風大名だがそれを聞く大名護衛に配属された砂の忍はあまりに考えなしの理想をベラベラと喋る自国の大名に頭を悩ませる。

 今でこそ多少改善しつつあるが、かつて強引に進めた軍縮で大蛇丸の木ノ葉崩しに乗らざるを得ない程に切迫した事をまるで反省していない事に砂の忍の1人が苦言を呈そうとするもそれよりも大名の1人が口を開く。

 

「その…無限月読とやらで見る夢は術を掛けられた者の理想、というのは本当なのか?」

「え、ええ…恥ずかしい話ですが私も今の風影様に後継者として指名される夢を見ておりました」

「そ…そうか。では…やはり、私の理想は…」

「水大名? 大丈夫か?」

 

 妙に思い詰めた顔をしている事を心配した火大名に水大名は手を向けて「すまない、心配は要らぬ」と断るとそのまま忍達と会話を続ける。

 

「其方は鬼灯水月という忍について何か知っておるか? いや、他の者でも良い、誰か詳しい者はおらぬか?」

「す、水月ですか?」

 

 大名が突然に特定の人物の名前を出し、更にそれが厄介な人物の最も身近な事もあって長十朗は嫌な予感に一瞬返答を躊躇う。

 

「鬼灯水月といえば暁のメンバーの何人かを従えて連合側に引き込んだっていう」

「あのうちはサスケと協力関係だったとか…」

「連合軍本部を十尾の攻撃から救ったのも彼らって話です」

 

 しかし、その僅かな躊躇いの隙に周囲の忍達が次々に水月の功績を上げていく。

 今この瞬間にとんでもない悪意よる企てが実行されている気がして長十朗は何とか会話を止めたいと思うがこの状況でそれをする手段が何もなく、既に水大名は集まった情報と自分の記憶に焼き付く夢の記憶を混ぜ合わせる。

 

 そして──迷いを捨てた強い眼差しで宣言する。

 

「忍達よ…此度の戦い、ご苦労であった。我らを守り抜いてくれた事も礼と合わせて五影達に伝えてくれ。…そして、それに合わせてこの事も五影達に伝えてほしい…鬼灯水月に従い忍連合軍に協力した元暁のメンバーの命は私が預かると」

「……は?」

「私も…恥ずかしい話だが無限月読という術を受けて無意識に考えない様にしていた自分の理想に気付けたのだ。私は…忍達と強く信頼し合う関係を築きたい! その為にまずは私が鬼灯水月という英雄を! そして彼が正した元暁のメンバーの事を信じることにする! 私の…大名としての立場を懸けてな」

 

 何を血迷ったんだこの大名は!? と長十朗が彼らしかぬ程に辛辣な言葉を心の中に必死に留める。

 しかし水大名の言葉は長十朗以外の忍、そして他の大名にとっても衝撃的なものだった。

 

「…えぇと、それは元暁のメンバーがもしまた悪事を成したら其方が大名の地位を捨てるというのかえ? ほ、本気でそんなことを?」

「うむ…正直私はその者達を信じておる訳ではない。だが…信じたいのだ」

「う、うぅむ…しかし…」

「その、水大名様…申し上げ難いのですが──」

「うむ! 感動したぞ水大名よ!」

 

 火大名、そして長十朗が言葉を迷いながら考え直す様に進言しようとするがそれよりも先に大きな声があがる。

 風大名がうんうんと大仰に頷く姿に砂の忍達が一斉に嫌な予感に顔を顰め、その予感は的中する。

 

「元暁のメンバーとやらには確か我が国の抜け忍も1人おるのだったな…ではその者はワシが認めよう! 其方の国で面倒を見てやってくれ!」

 

 それは水大名の言葉に感銘を受けてその場の勢いで言い放ったのか、それとも体よく自国の抜け忍の責任を他国の長に押し付ける好機と見たのか… 

 

 実際、水大名と違ってもしもの場合の責任については一切言及しておらず、普段上忍衆がバカ大名と影口を言って憚らない風大名の考えがまるで読めず砂の忍達は頭を抱える。

 

 …が、それ以上に困惑しているのは同様に元暁のメンバーに自国の抜け忍がいる火大名であった。

 

「え? ほ、本当に彼らを許すのかえ? せめて影達には相談すべきかと思うが…」

「いや…影達には己の部下達の為にも厳格な決断をする責任がある。彼らの立場では元暁のメンバーを許すことは難しかろう。あの者達の善性を信じ、やり直す機会を与えられるのは我々大名だけだ」

「う、うむ…確かに一理あるが」

 

 水大名の言い分は間違ってはなく火大名は主張そのものへは一応の納得をする。

 既にこの場では2体1の状況…場の空気に呑まれつつある火大名は冷静に自国の抜け忍、大蛇丸についての記憶を巡る。

 

 木ノ葉崩しを行い三代目火影の命を奪い国を脅かした危険人物。

 …しかし、火大名にとって最も買う忍である自来也の、そして現在の火影として今回の大戦を勝利に導いた綱手のかつての同志でもある。

 もしも大蛇丸が本当に更生しかつての関係に戻れたならば彼らは喜ぶだろうかと、大蛇丸に対する警戒心の中にほんの少し別の感情が火大名の中で芽生えた。

 

「…分かった。余も信じよう…余が信じる者達の…かつての同志をな」

 

 こうして半数以上が同意し、加えて自里の抜け忍がいない事から雲、土大名からの強い反対もなかった事で伝令役は五影とその護衛役の上忍達へ大名の意向を恐る恐る伝達するのだった。

 その結果、五影と護衛役の忍達は間違いなくこの陰謀の主犯であろう村雨を全力で包囲に掛かるのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 気が付けば五影の皆さんとその護衛役らしき方々に周囲を囲まれた…。

 原因は恐らく例の仕掛けが上手くいったのだろう──自分の命運を大名様に任せる一種の賭けだったが成功して何よりだ。

 

 …まぁ普段から運任せな行動も多いが今回ばかりは思った通りというのが本音だ。

 

 現在の水大名は鬼鮫さんが先代を殺した事でその地位を得た。

 しかし大名と霧の忍の信頼関係が希薄なのは霧の里の人間にとってはそれなりに知られていることだ…そしてその原因がもしも恐怖なのだとしたら…こうなるのではないかと思った。

 

 水大名様にとって鬼鮫さん達が罪を免除される事に喜び悪さをしなくなるなら一番良し、仮にまた悪さをしてその責任として大名を辞められるのなら…それはそれで彼にとって悪くない。

 だってあの人は大名になりたくてなったのではないのだから…むしろ本心ではその地位を捨てたいとすら思っているのではないだろうか…と、そう考えた。

 

 ましてや先代が暗殺した犯人がまだ捕まっていない状況…そう考えるのは自然な事だ。

 だが水大名様は決してただ怯えただけの人ではない。

 水の国の混乱を避ける為に大名の地位に就いた、恐怖と不信に苛まわれながらも一族の役目を遂行するその覚悟と責任感は偉大で…だからこそ、そんな気高い人ならば自らの理想から目を逸らすはずがないと──私は信じた。

 

 

 その理想を私にとって都合の良いものへと変えた事は本当に申し訳ないと思うが。

 

 

 さて…それでは後は──

 

「…どうかしましたか皆さん?」

「こ、こいつ…いけしゃあしゃあと…」

 

 雷影様が帯電した拳をプルプルと震わせる。

 …とんでもないチャクラだ…アレを一発でも喰らったら多分私は死ぬだろう。大名様の許しが出たからといって迂闊な発言で疑わしきを罰する流れになったら大変だ、注意しなくては。

 

「…今しがた大名から連絡があった。何か…知っているんじゃないか?」

「記憶にございません」

「…いのいち、頼む」

「青?」

「シー、どうだ」

「「チャクラすっごい乱れてます」」

 

 しまった、嘘をついた時ってチャクラの動きが変わってしまうんだったか…というか流石五影護衛役、感知タイプが多過ぎる。

 

「えぇい、くだらん前置きなど要らん! 貴様、大名共にふざけた細工をしたな!?」

 

 大名…共? 

 え? まさか私達を庇おうとした水大名に他の大名も乗ってくれたのか? 

 流石にあんまり人柄の知らない他の大名にまで干渉するのはリスキーだから諦めたのに? 

 

「…やったぁ」

「こいつ今やったぁつったじゃん!?」

「あ! いや、やったぁじゃなくてやったです、雷影様の質問にやったって──あ」

「やっぱお前何かやったんだな!?」

「やってないです!」

 

 マズい、チャクラの流れ以前にボロを出し過ぎだ。

 想定以上に上手くいった事に浮かれてしまった…まさか水大名に乗った他の大名はそこまで考えて!? 

 恐ろしい…戦いから縁遠い大名がそこまで見越して手を打てる人だとは…

 

「とにかく他人の幻術世界、それも無限月読の中に入るなんてお前の例の刀以外あるまい! しかも明らかにお前達の都合の良い様に大名に偽りの理想を植え付けおって!」

「い、いや青さん! 私が皆さんを起こす前に大名様の無限月読に入ったのなら大名様達ももっと前から無限月読に開放されているはず!」

「忍び込んで起こさないまま抜け出す事も出来るんじゃないのか?」

「さ、さぁ…やった事がないので何とも…」

 

 まぁ出来たからこうなったのだが。

 し、しかしそれが出来たと証明できる者は私以外では鬼鮫さんだけ…証拠となるものはなにもない! 

 

「だったらワシが試してやるわ! シー、幻術をダルイに掛けろ、ワシが何人かと共にダルイの幻術世界に忍び込めるか試す! この女の刀でな!」

「あ、すみません。"終刀・真月"…無限月読が解除されて消えてしまったのでもう無理です」

「貴様ァ!?」

 

 いや、これに関しても他の大名様まで乗ってきたのと同じで私は想定していなかったんだ、…断じて証拠隠滅目的で意図して消したわけではない。

 

「そ、そのあくまでお話から察するに大名様が私達をお許しくださったという事ですよね、疑うのは当然ですが悪い可能性ばかり考えず、大名様が忍に対して寛大になるのは嬉しい事なのでは? メイ様…青さん」

「う…」

「ぐ…」

 

 特に大名との関係改善を望んでいたメイ様とその側近として苦労を共にした青さんならば今が好機である事は分かっているはず…いや、好機などというべきではないか。

 正確には──窮地だ。

 既に大名様達は私達を許す意向を示した…それに反して私達を裁いたならばその理由を伝える必要がある。

 

 大名様の理想の世界に忍び込み、理想を自分の都合の良い様に吹き込んだ…などと説明すれば水大名の疑心暗鬼は今度こそ致命的なまでに強まるだろう。

 嘘を暴き真実を教えたところで既に理想を信じて自分から一歩を踏み出した大名様は深く傷付くだけ──それはもう皆分かっているはずだ。

 

「……村雨、貴女がやった事はマダラ、いや黒ゼツの計画以上に悍ましい行為よ」

「鬼鮫さんにも言われました」

 

 五影の皆さんの顔は大名との関係を崩壊させない為にもう答えを決めたものだ──だからせめて私もこれ以上は嘘は重ねず半ば自らの罪を認める。

 

「はぁ…水の国に、招くのね…彼らを…」

「…水影」

「五影会談、頻度増やしていいぞ。場所はそちらの都合に合わせる」

「愚痴はいくらでも聞こう」

「戦争が終わったからとて今の同盟がなくなる訳ではない、いつでも頼れ」

 

 五影の皆さんの結束が固まっている…何だかサスケ君がやろうとしてたことを私がやってしまっているみたいになったのだが良いのだろうか? 

 

 …まぁ、五大里の繋がりが強固になるのは良いことだろう! 

 

 

「──あ! そういえば、水月と一緒に忍連合軍に協力した者達の罪を許すということはオビトさんも対象内ですね!」

「え?」

「は?」

 

 五影の皆さんも、会話を聞いていたのかカカシさんに支えられたままオビトさんも唖然とした表情を浮かべるが彼がマダラさんに殺されかけたサスケ君を自分の柱間細胞を使って救っていなければこの戦争の勝利はなかった。

 それにナルト君が全ての尾獣の力を得ていたのも状況からして恐らく鬼鮫さんに斬られる直前に外道魔像から僅かに囚われた尾獣のチャクラの一部を奪って託していたのだろう…間違いなく忍連合軍に協力した人物だと言っていいはずだ。

 

 もう…転生忍術の反動で長くは生きられないのだろうが、それでも残された時間を平穏に過ごす権利ぐらいはあっても良いはずだ。

 

「……村雨、こいつの…オビトの友として個人的に礼を言う。ただ…その、水影様が…膝から崩れているよ」

「…あ」

 

 良いはず…ではあるがそれでもオビトさんを招く以上メイ様の心労はとてつもないものだろう。

 カカシさんの視線の先、地面に膝を着いて顔を覆うメイ様と彼女に駆け寄る五影様達を見てせめて霧の里に帰ったら頑張って彼女に恩返しをしようと心に誓う。

 

 

 そうして長く続いた第四次忍界大戦は遂に終わるのだった。

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