霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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取り戻した時間

 終戦から数週間が経過したある日、霧隠れの里の港にて漁師の方から早朝の漁で釣ったという魚の刺身を貰いその場で食べる…美味しい。

 

「あ! 村雨さん、お店にいないの珍しいですね」

 

 ふと若い忍に話し掛けられて箸を皿に置いて顔を上げる。

 

「今日は他里のお客さんが来るのでその迎えに」

「そうでしたか。…あ、そうだ! 先日買わせて頂いたこの刀、早速今日の任務で使わせて頂きます、それでは!」

 

 里に帰って新しい仕事場の感覚を掴む為に幾つか造った作品の一つを腰に下げた若い忍は人当たりの良い笑みを浮かべて去っていった。

 

 里で暫く過ごして分かった事だが意外な事に私や水月は多くの忍から受け入れて貰えているらしい。

 

 他の皆さんに比べて水月は個人の犯罪経歴がなく、私の場合は木ノ葉での脱走の件などの犯罪経歴はあるがその件で木ノ葉側から責任の要求はなく私の抹殺はあくまで霧側の自主的なものだったのが大きいのではないのかというのがハレンチ博士やカブトさんが分析だ。

 

 そして何より大きいのが暁による尾獣狩りの被害者が恐怖政治を行っていた四代目水影やぐら様であったこと、もう1体の六尾が暁の活動が本格化する前に既に里外に出ており直接的な里の被害が他里に比べて少なかったこと、そして戦争が始まってからは私達がずっと協力的だったというのが大きいそうだ。

 

 …まぁ雲隠れに潜入して奪った八尾の一部を即座に自分達で返却したとはいえ、その事が一般的に知られる前に第四次忍界大戦が始まって有耶無耶になっていなかったら危なかったらしいが…。

 

 

 …改めて思うが運に救われ過ぎだ。

 

 

 しかし、いくら運が良いとはいえ当然疑いの声がないわけではない。

 やぐら様が当時幻術を掛けられていた事は既に里内では知られており、それでも尚彼の事を恨む者が大勢いるだけでやぐら様に幻術を掛けた犯人が暁である事を疑い、私達へ疑惑の目を向ける者も少なくない。

 

 …そしてそれは事実でありやぐら様はオビトさんによって操られており、鬼鮫さんはそれを知ってオビトさんに味方していた、それが周知されれば今の状況は確実に破綻する。

 結局のところ水大名の決定であることと、やぐら様の乱心の真相が未だ明かされていないお陰で成り立っているのが現状だ。

 

 大名様にもメイ様にもあまりにも迷惑を掛けてしまったが、やぐら様の悪名も何とか払拭したいものだ…しかし果たしてどうしたものか、

 

 何とか良い方法はないものかと頭を悩ませるが具体的な案が出るよりも先に待っていた船が到着するのが見えてひとまず考えるのを止めて桟橋に降りた男性の下へと駆け寄る。

 

「ご足労ありがとうございますカカシさん。…オビトさんがお待ちです」

「ああ、出迎えありがとう。…ところで、君だけ? 水月はいないのかな?」

「水月は今日川の国へ行っています。戦争の影響で塞き止められた渓流の復旧任務と聞きましたが…何か御用でしたか?」

「いや…いないなら…まぁいいんだ。いてほしいなと思っただけで」

 

 いつの間に水月はカカシさんからそれ程慕われたんだ? 

 …いや、まさか私1人だとちゃんと道案内出来るか不安に思われているのだろうか。

 

 確かに私は目的から逸脱した行動を何度も繰り返したが目的地そのものを間違えた事なんて"龍地洞"を目指して間違えて"降龍山"に行った時ぐらいだ。

 

「…そういえば龍地洞には結局行ってないなぁ」

「何の話か知らないけどオビトのところに連れててくれるかな?」

 

 あ、そうだった。

 思わずとんでもない寄り道をしてしまうところだったが何とか軌道修正し、カカシさんを連れて霧の里を歩く。

 

 すれ違う人達は木ノ葉の額当てをした人が珍しいらしく視線が集まるがカカシさんは然して気にせず自然な様子だ。

 

「…オビトは、どんな風だった?」

「戦争の首謀者で、十尾を操って直接霧の忍も何人も殺していたから…私達以上に周囲から疎まれていた様に見えました」

「…そっか」

 

 友人であるカカシさんには伏せた方が良いのかも知れないがなんとなく、そうしない方が良い気がして正直に話す。

 

「私は…必要なものは調達するからオビトさんは借家でゆっくりしている事を推奨したのですが、むしろオビトさんは積極的に外に出て色んな人助けをしていました」

 

 民間の人はオビトさんが戦争を仕掛けた人物である事など知らないはずだが彼を疎む忍達の反応を敏感に察知し避けられたり、拒絶されたりもしていたのに、挫ける素振りなど見せずに走り続けていた。

 

 罪を償うとか、そんな言葉すら合っていない。

 自分の命が尽きるまで…何か意味のあることを成そうと必死に走り抜けている様だった。

 

「特にお年寄りへの対応が凄いんですよオビトさん…散歩中に杖が折れてしまった長老様がお供の人に新しい杖を持ってきてもらう間に足を揉んでもらったら若返ったみたいに足が軽くなったと泣いていました」

「っ…ははは、でしょ…アイツ昔からそういうの得意なんだよ」

 

 まるで自分の事の様に嬉しそうに笑うカカシさんにほんの少しだけ心が痛む。

 きっと今でもオビトさんが木ノ葉の里でずっとそうやって生きていたらと思わずにはいられないだろうに…それに彼は今日──

 

「そんな顔しないでくれ…アイツが何をしたいのかはもう知ってる」

「…はい」

 

 オビトさんに頼まれて彼とカカシさんにナルト君とサスケ君の決着を待つ間に決めていた計画を実行する旨の手紙を届けたのが数日前。

 一応、手紙を出す前にその計画の内容を確認したのだが…カカシさんにとってはそう簡単に受け入れられる内容ではなかった。

 それでも、彼はオビトさんの友人としてそれを認め、見届けにここまで来たのだ私が今更何かを言えるはずもない。

 

 水大名からの特赦を得て霧隠れの里に所属となった"新生・忍刀七人衆"、それと協力者である香燐さん、重吾さんに与えられた大きな借家に着くと門を開いてカカシさんを手で先へと促す。

 

「どうぞ?」

「デカい屋敷だな、皆ここに?」

「はい、といっても全員が揃うことは基本的にありませんが」

 

 家の中に人は殆どいない…というのも一纏めに監視する為に与えられた建物ではあるが何らかの悪巧みを防ぐ為、現状私達は入れ替わりで戦場となった場所の修繕作業の任務を与えられており全員が同じ時間に集まることは無い。

 

 唯一私は外に出しても大した仕事も出来ない上に何をするか分からないと危険視されたらしく基本的にはこの屋敷で忍具造りに勤しんでいるが…

 

「君もここに?」

「父に勘当されましたから…」

 

 一応、私達の罪は許されたがそれはあくまで国としての判断で、個人が許すかどうかは別物だ。

 カカシさんは部外者が触れるべきではないと思ったのか「そうか」とだけ言って屋敷の中へと足を進めた。

 

 その事に感謝しながら今日、この場に集まった人達の下へと案内する私達以外にここにいるのはオビトさんと彼から要望された3人だけ。

 廊下を渡り突き当たりの部屋の襖を開けるとオビトさん、そして鬼鮫さん、ハレンチ博士にカブトさんの全員が揃っていた。

 

「皆さんお待たせしました」

「よぅ、暫く振りだなオビト」

「…ああ、悪いなカカシ」

 

 部屋の中心に敷かれた布団に寝ていたオビトさんは鬼鮫さんにゆっくりと身体を起こされてカカシさんに顔を向け、単刀直入に話を始める。

 

「手紙にも書いたが…ナルトに与えられた命もそろそろ限界らしい」

「ああ…そうみたいだな」

 

 冷静に…しかし、明らかに辛そうに返事をしてカカシさんはちらりとオビトさんの横で白い布を被り眠る人へ視線を向ける。

 

「フッ…この狂人が大名相手にとんだ狼藉をしたお陰で免れただけで本来俺は処刑されるべき人間だ、今更死ぬことに抵抗はない。…リンも待たせてしまっているからな」

「あいつも俺も、お前の遅刻を待つことくらい慣れてるさ」

「そうだな。だからこの里で今日まで好きにさせてもらったさ…だがもう限界だ…俺はもう死ぬ、けど…どうせ死ぬのなら最後にあいつの…ナルトの為にこの命を使いたい」

 

 オビトさんのその決意の言葉と共に鬼鮫さんが背負っていた鮫肌を抜きその切っ先の口を開かせる。

 吐き出されたのは終戦直後にカグヤさんの左腕と一緒に土影様の塵遁によって皆の前で消し去ったはずのマダラさんの御遺体だった。

 

「影分身と変化ですり替えておいたと聞いた時は正直驚いたわ…とんでもない事をしたものね貴方達も」

「鬼鮫さん達がそんな事をしているとは流石に思いませんでした」

「無限月読を利用して大名を洗脳して犯罪者を大量に里に招き入れさせた誰かに比べたらずっとマシでしょう」

 

 オビトさんの身柄を水の国が預かる事が決まって嘆くメイ様を五影の皆さんが慰めるあの騒動の最中にオビトさんの頼みで鬼鮫さんが鮫肌を自律行動させて人知れずにマダラさんの御遺体を回収し、カカシさんがそれを影分身と変化で偽装したらしいが正直私よりもマシという言い分には不満しかない。

 

「私だってカグヤさんの左腕を諦めたというのに…手癖の悪い人達です」

「三尾の一部やぬのぼこの剣の破片を持っていったお前にだけは言われたくねぇ!」

 

 あのカカシさんが忍連合に隠れてこんな事をしてるのなら私だってやっぱりあの左腕を何としても手に入れるべきだったと僻むもオビトさんから死に際とは思えない程の剣幕で怒られる。

 

「まぁ、とにかくだ。マダラの眼を移植すればまたあの術を…"輪廻転生の術"を使える。俺の僅かな命では精々1人ぐらいだろうが」

 

 それが、オビトさんが皆に隠れてマダラさんの御遺体を運び出した理由。

 多くの命を失った戦争の後、生き返らせる誰か1人を選ぶなど確実に争いの火種となる。そもそも、死んだ人を生き返らせる事そのものが禁忌というべき行為だ。

 …まぁ、私が言えた事ではないが。

 

「それで、あの男を?」

「ああ…ナルトとサスケはあの戦いを経て分かり合った。だが、あの戦いは闇の生き様を1人で成そうとするサスケを止める為の戦いだからあの決着になっただけだ」

「…どういう意味だ?」

「サスケはナルトを認めた。だがナルトはまだ…サスケに負い目がある、大切な人を失う痛みを本当の意味で理解出来ていないのかもしれないとな」

 

 師匠である自来也は九死に一生を得て、ペインに殺された者達は生き返った、戦争の最中でも"新生・忍刀七人衆"の助力もあって近しい人間を失う事は避けられた。

 目の前で父親と死に別れるも彼は元々穢土転生により蘇った存在、それでも大切な人を失う悲しさに代わりはないが…他でもないナルト自身がサスケの背負った痛みとは違うものだと思ってしまうだろうとオビトさんは懸念を口にする。

 

「サスケはきっと今更そんな差異など気にしないだろう、だがナルトは違う。…あいつは優しい男だ、もしもその負い目を黒ゼツの様な輩が利用すれば、今度はナルトがサスケが行こうとした闇の道を選ぶやもしれない」

「…だから、か?」

「ああ。それを防ぐには──サスケが大切な者を取り戻さなくてはならない。あいつの一番大切な…兄をな」

 

 それが、オビトさんが最期に選んだ自分の命の使い方だった。

 カカシさんはその決意がどれ程重いものなのか、すぐに理解して悲痛な表情を浮かべて──やがて優しく笑った。

 

「オビト…お前は、あいつらの前を歩くんだな。ミナト先生や三代目と同じ…木ノ葉の忍として」

「そんな立派なものじゃない…だが、そう在りたいだけだ」

「…カブト、頼めるか?」

 

 もう、カカシさんはオビトさんを止めずこの場にカブトさんがいる理由を察し声を掛ける。

 カブトさんはそんなやり取りに肩を竦めてからマダラさんの顔を近くに膝を着きいくつかの小道具を取り出した。

 

 瞳の移植手術の開始だ。

 

「──そうだカカシ。ナルトにはお前は必ず七代目火影になれと伝えておいてくれ」

「七代目?」

「六代目はお前がなれ…そんであいつがちゃんと火影になれるように導いてやれよ」

 

 まぁ今は戦争直後で色々大変なご時世だ、ナルト君が今すぐ火影になっても難しいことが多いだろう。

 

「やれやれ、俺は火影って柄じゃないんだが…まぁ精一杯やってみるさ」

「…じゃあ、就任祝い、やらねぇとな──今度は両方やるから、もう簡単に盗られるなよ」

 

 そう笑ってオビトさんは自身の両眼の写輪眼を指で指し示した。

 

「あの…ボクの仕事気軽に増やさないでくれますか? 目の移植ってそんな簡単な作業じゃないんだから」

「悪いな、まぁ俺の部下を騙していた詫びってことで」

「いつの頃の禊させる気ですか…大体それで言うとボクの方こそ前に君に殺されかけた…ていうか一回殺されたんだけどオビト?」

「そんな事あったのかオビト?」

「う…」

 

 あ、言われてみればカブトさん、私が本格的に暁のメンバーになった時にハレンチ博士のアジトに戻った時に一緒にいたオビトさんに刺されたって話だったな。

 オビトさんすらも完全に失念していたのかばつが悪そうな顔をしたのに呆れた様にため息を吐いた。

 

「はぁ、カカシさん、貴方が火影になったらボクが言う孤児院に援助して下さい。それで引き受けてあげますよ」

 

 そういえばカブトさんは木ノ葉の里にある孤児院出身で当初の予定だとサスケ君を止めて木ノ葉に戻るつもりだったんだ。

 気が付けば霧の里に連れてきてしまったが、今でもその孤児院の事は気掛かりだったのか…ちょっと申し訳ない。

 

 …それはそれとしてそんな交渉をしながらテキパキと目の移植を進めているのは相変わらず凄い。

 本人はそんな簡単な作業じゃないと言っているがそれを意図も簡単そうにやるから仕事を任されてしまうのではないかと思う。

 

「…あげないわよ?」

「何も言っていませんが?」

 

 唐突にハレンチ博士から釘を刺される、なんでだ。

 

「ところで、オビトさんの眼をカカシさんに託すのなら彼の──イタチさんの方は?」

 

 鬼鮫さんの言葉に完全に失念していた事を思い出す。

 そういえばイタチさんの両眼は死後にサスケ君に移植したはずだ、なら死んだ人間を生き返らせる輪廻転生でも眼の修復は出来ない可能性が高いはずだ。

 

「俺が死んだ後にマダラの眼を託せば良いさ。俺は1つで精神が限界だったが…あの男なら耐えられるだろう」

「まぁ、彼の精神力なら…ねぇ」

「ハレンチ博士は良いんですか? 折角の輪廻眼…」

 

 静観しているがハレンチ博士なら輪廻眼を手に入れようとしてもおかしくない、というか手に入れようと画策しない方が不自然なのだが? 

 

「まぁ、興味がないわけではないけど…イタチにはサスケ君絡みで貸しがあるからね。扱い難い輪廻眼を自分で使うより私に貸しがある輪廻眼を持ったイタチの方が私にとってずっと有意義、そう判断しただけよ」

「流石ですね…あ、じゃあ私も輪廻眼は譲りますので眼以外のマダラさんの余った部分は頂いても良いですか?」

「流石ね…」

「カカシ、移植が済み次第マダラの死体は神威で飛ばせ」

「そのつもりだ」

 

 どうして!? 

 

「…そもそもイタチの死体を持っていた大蛇丸様はともかく、村雨は呼ばなければ良かったのに」

「あんまりですカブトさん…」

「確かにその通りではあるが…」

 

 その通りなんですか!? 

 …いや、その通りですけど…。

 

「…だが、最後にこんな事が出来るのはこいつのお陰だから礼だけは言っておきたくてな」

「オビトさん…」

「やり方は本当に酷いものだったが…俺が言うのもなんだが水影にこれ以上迷惑掛けるなよ…」

「あ、はい」

 

 ひょっとして私が呼ばれたのはその注意の為だろうか? 

 なんだかちょっと悲しくなったがそんなやり取りをしている間にカブトさんがオビトさんの目の周りに医療忍術を施して移植を完了させた。

 

「どうだい? 問題ないとは思うけど」

「ああ、感謝する。後は──」

 

 オビトさんは移植された輪廻眼で鬼鮫さんの方を見る。

 

「…お前にも、感謝するよ鬼鮫。あの時…カグヤとの戦いの後、俺に言いたい事なんて幾らでもあったはずなのに、それなのにマダラの死体を持ち出して欲しいなんて頼みを聞いてくれて…本当に、すまなかった」

 

 拳をキツく…血が滴る程にキツく握るオビトさんは震える声と共に頭を下げた。

 

「まぁ、正直驚きましたよ。"月の眼計画"に勧誘していながら何も言わずに裏切った挙句に謝罪に来たのかと思えば頼める者が私しかいないなどと縋ってきて、またしても大犯罪の片棒を担がせようなどと…」

「…すまない」

「今度は…最後まで計画を御一緒出来て良かったですよ、オビトさん。もう仲間を斬るのはやりたくかったですし、嫌な事ばかりもうしないでとお節介な小娘に頼まれたばかりでしたからね」

 

 今でも仲間だと、そして今回の件を鬼鮫さん自身が協力したかったのだと暗に告げるその言葉にオビトさんはとうとう堪えきれずに双眸から涙を流した。

 

 …思えば不思議な光景だ。

 すれ違ったり、裏切り合ったり、出し抜き合ったり…決して正しい関係ではなかったはずなのに、気が付けばこうして手を取り合っている。

 やっている事だって鬼鮫さんが言う通り大犯罪だ…それでも、この光景はとても大切な瞬間だと私は感じた。

 

 

 

 …両の眼を取られ静かに眠るマダラさんも…何かが違えばここにいてくれたのだろうか。

 もう一度だけ、あの人と分かり合う事が出来ないか穢土転生を試す為に肉体の一部だけでもやっぱり貰えないかな…なんて事を考えながら大量のチャクラを練り始めたオビトさんを見守る。

 

「…ありがとな村雨。鬼鮫、カカシ…じゃあな」

 

 涙を擦って笑った彼はそれだけ言うとこちらの返事など待ってはくれず、印を結び終える。

 

「外道・輪廻転生の術」

 

 

 

 その日から数日後、木ノ葉への帰還後世界を巡る旅に出ていたうちはサスケはとある森の中で自身の前を横切った1羽のカラスに直感的に何かを感じ取り、必死に追い掛けた先で自らが最も慕っていた兄と再会を果たすのだった。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 雨隠れの里の外れ、天井に穴が空いた小さな家を眺め小南は1人ため息を吐く。

 

 子供の頃2人の同志と共に師匠に忍術を教わった隠れ家…まだ暁が今と違う形の組織だった時の最初の拠点でもあったが、それ故に襲撃を受けて手放す事になったが、終戦から暫く経ち数日前から里の運営の合間に訪れては修理作業を行っていた。

 

 …が、破壊された天井から広がる老朽化、絡み放題の蔦、雨の多い地域という事もあり荒れ放題の内装とその作業は途方もなく、何より大切な思い出がずっと記憶にあるが故に今の有り様を直視する度に心が荒む。

 

 いっそ部下達を使えば楽に修理も出来るのだろうが色んな意味でそのやり方はしたくなく、半ば諦めの境地で小南は傷んだ扉を壊さない様に慎重に開く。

 

「よぅ、こんなところで奇遇だのぉ」

「え!? じ、自来也先生、どうしてここに!?」

 

 

 開けた扉の先にいたのは長い白髪が特徴の大柄の男、木ノ葉の里にいるはずの自来也だった。

 思わぬ先客に小南は驚愕し数秒の硬直の後に慌てて確認する。

 

「ダンゾウの最期を聞いた相談役のコハル先生とホムラのおっちゃんが何か思うところがあったのか、五影の一新に合わせて自分達も引退を考えたらしくてその後釜にワシと綱手の2人を大名に推薦しおってのう」

「はぁ…それで、逃げたんですか?」

 

 本来ならば出世おめでとうございますと言うべきなのだろうが目の前の人物がそういった役職に就きたがらないのは良く知っている、というよりも仮に引き受けるのならばこんな場所にいるはずがない…故に小南は少し呆れた様子で問い質すが自来也はわざとらしく肩を竦める。

 

「どうせ次の火影はカカシだ…相談なんぞせずとも上手くやるだろうよ」

「……あの子が七代目火影になった時の為にも相談役になっておいた方が良いんじゃないですか?」

「夢を叶えて一人前になった男の隣にいつまでも師匠がおっては様にならんだろうよ」

 

 そう言って自来也は手に持っていた鞄から紙束と羽ペンを取り出す。

 

「という訳でワシは次回作の執筆に集中したくての、丁度誰にも見つからず集中出来そうな場所を思い出してやってきたとこだ」

「そうですか…ところで自来也先生」

「うん、なんだ?」

「"紙手裏剣"!」

「うおおおッ!?」

 

 突然放たれた鉄以上に鋭利な紙の手裏剣を自来也は咄嗟に身体を捻り無理な体勢で腰を痛めながらも回避する。

 

「お、おい小南! 確かにワシは不法入国だがいくら何でも容赦無さ過ぎだぞ!?」

「ごめんなさい、偽者かもしれないので念の為」

「え? …あ!」

 

 小南の言葉に自来也は目を丸くして、少ししてから彼女の言わんとしている事を思い出して両手を上げながら壁まで歩き、括り付けられた蛙の絵が描かれた蛙板と名付けられた木の板をひっくり返して赤い面を向ける。

 

「ふふ、自来也先生が考えた事なのに忘れて…弥彦に笑われますよ」

「それを言うなら偽者かも知れん奴にヒントを与えるお前も同じだぞ?」

「…そうですね。うっかりしてしまいました」

 

 普段の彼女より幾分か柔らかいその口調は、かつて師と過ごしたいた時間に戻った様でその師である自来也もようやく師匠と弟子の本来あるべき再会を出来た事に穏やかな笑みを浮かべ──しかしすぐにその笑顔を険しいものにする。

 

「……それで、彼奴はもう…逝っちまったか?」

 

 聞く事を迷う様に、普段の豪快さが嘘の様に恐る恐る口にした質問だった。

 小南はそれに答えることなく自来也が使った蛙板と反対側の壁に吊るされた3枚の蛙板へと近づいてその内の1枚をひっくり返す。

 

 1枚は赤い板…もう変わることのない大切な同志の板

 もう1枚も赤い板…今さっきひっくり返された小南の板

 

 そして後1枚…最後の板の向きを見て自来也はまた穏やかな笑みを浮かべるのだった。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 一方その頃、霧隠れの里のある場所で水影メイと青の2人と向かい合う水月は──

 

「──これはまだ私と青、水大名しか知らない事ですが五影は新たな時代を迎える為に任期の浅い風影様を除き五影のメンバーを一新する事に決めました」

「……それで?」

「先の戦争での功績から水大名は貴方を次期水影に強く推薦しているの…私としても終戦以降私が苦心している元暁のメンバーを受け入れる基盤固めを長十郎を筆頭に他の候補に引き継がせる事はしたくない──分かるわね?」

 

 全ての負債を背負わされようとしていた。

 

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