霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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今日の霧隠れ

 訳の分からない状況に視線をキョロキョロさせるが目に写るのは私と同様に戸惑った視線を向ける忍達…一方で近くのハレンチ博士達や水月の隣にいるメイ様は驚いた様子もなく、ただ静かに混乱しつつある現状を見守っていた。

 

 どうやら彼らは皆水月から事前に相談され、私を推薦する事を許可したのだろう…だが何故そんな事を? 

 水月もだが、私を水影に据えるのを認めた皆の考えもまるで分からなくて呆然としていると周囲の忍達の議論の声が聞こえてくる。

 

「み、水影様! 村雨を次期水影というのは流石にお考え直しを!」

「いやいや青さん、確かに彼女は突飛な行動もあるが先の戦争での活躍は貴方も見たはず…大筒木カグヤを前に忍達を鼓舞するあの姿は正に水影に相応しい」

「十尾の尾獣玉から連合本部救出に無限月読の解除、彼女に救われたのも事実ですからね」

「い、いや、それはそうだが!?」

 

 早速反対意見を示す青さんだが近くの上忍衆からその意見を封殺されている…いや、言いくるめられないでください、絶対私に水影なんて勤まるはずがないじゃないですか? 

 

 何故か妙な支持意見が上がり圧されつつある青さんに何とか巻き返してくださいと祈っているとそれが通じたのか他の集団からも反対意見が上がる

 

「しかし…水影といえば里で最も強い者が選ばれるのが通例、忍でもない彼女が水影になるというのは…」

 

 それだ! 

 そもそも私は忍としてはアカデミー卒業して下忍になった後数回任務をやってすぐに引退した身、水影の選出としてあまりに不適合者、どう考えても選ぶ理由がない。

 

「じゃあお前実力であの元暁のメンバーを味方に出来るのかよ?」

「いや、それは無理だけど!?」

「だろ? でも村雨さんは出来た、単純な力だけが強い者じゃないってことだ!」

「そ、そうか…そうだな!」

 

 そうではないが!? 

 

「大名様の言う通り、これからは他里とも手を取り合う時代だ。これからは武力ではなく文化! ならば村雨さん程相応しい人もいないだろ」

「あれ程物造りに拘り強い人なんていないもんな!」

 

 私の物造りはそのまま武力に直結するのですが!? 

 

 恐ろしい事に私の水影就任の是非が賛成寄りになりつつある…どうしてこうなった!? 

 

「な、なんでこんな事に?」

「なんでって…貴女が戦争で目立ち過ぎたからでしょう」

「カッコ良かったですからね、自来也様のパクり」

「アレのせいですか」

「戦争の黒幕だったゼツにも引頭渡したからなお前」

「アレも!?」

 

 ハレンチ博士達の言う通り最後に貢献はしたかもしれない、だけどいくらなんでも買い被り過ぎだ。

 

「…本当に自分のやったことの大きさには無頓着なのね」

「刀造りが全てだから刀が無関係なら自分の功績だろうと軽視しているんでしょう」

「なるほど…案外刀造り以外の仕事も向いているのかしら…安く使えるという意味で」

「まぁ低賃金で働かせても仕事内容に興味がないから普通に受け入れるやもしれませんね」

 

 ハレンチ博士と鬼鮫さんが何か不穏な事を言っているが今まさに刀造り以外の仕事、それも水影という大役が何故か任されようとしているんだ、もう少し真剣に考えてほしい。

 

 とにかく、何としても断らなくては…

 しかし何故か出来上がったこの承認の流れ…一体どうやって切り返すべきか悩んでいると青さんの切羽詰まった声がする。

 

「そ、そうだ村雨! 水影となれば刀造りも満足に出来まい! お前はそれで良いのか!? 水影とは責任ある立場、やってみてやっぱり無理だったで済むものではないぞ!?」

 

 何と言う助け船! 

 流石は青さん、早く断れと訴え掛ける視線が痛いが今はその無言の圧力が何より嬉しい。

 

「わ、私は──」

「待って村雨!」

 

 即座に断ろうとした矢先、壇上から声を上げた水月によって遮られてしまう。

 

「まずは…ボクの話を聞いてほしい」

「……分かった」

 

 聞くまでもなく考え直す様に言いたいところだがこれまでの私の数々の行動に対して水月も同じ気持ちだったはずだ、流石に私がそれを無視して対話を拒否するわけにはいくまい、とりあえず聞くだけ聞いてみよう。

 

「まず大名様にも言った通り第四次忍界大戦でのボクの行動は君の助言によるものだった…それに元暁のメンバーが味方になったのも君の刀造りが切っ掛けだった、そうだろ?」

「それは確かに。でも指示という程計画的だったわけじゃない、私の要望を水月や他の皆が必死に実行してくれたから成功しただけ。それにハレンチ博士やサソリさん達も私だけだと多分途中で見放されていた…繋ぎ止めてくれたのは水月だと私は思っている」

 

 結果的に上手くいったとはいえ私だけではただの絵空事、それを自分の手柄だと吹聴する気にはとてもなれない。

 

「…そうさ。だから、君が水影になるべきなんだ」

「え?」

「君は今まで通り最高の未来をひたすらに思い描けばいい…今度もボクが、そしてこれからはここにいる皆がそれを実現させる。ボクが水影になって里に留まるよりもそっちの方が都合良いでしょ?」

「いや…確かに水月が水影の立場になるのが勿体無いという意味ではそうかもしれないけど、代わりに水影になるのが私である必要はないと思う」

 

 正直言って仮に皆が認めたとしても私に水影が務まるとも思えない、普通に考えても青さん…もう少し若い世代から選ぶにしても長十朗などもっと良い人がいるはず──そう思った瞬間に水月の意図を理解する。

 

 そもそも先日、水月が次期水影に選ばれたと教えられた際にハレンチ博士達が推測していた事だがメイ様にとっては今回の抜擢は元暁のメンバーに対する不満を徹底的に吐き出させることが目的。

 そして同時に私達が霧の忍達の信頼を自力で掴み取るチャンスを与えてもくれたのだ、ならばそれに応えるべきではある。

 

 私は水月ならばその困難な役目もきっと大丈夫だと思ったが水影になるのが水月が認めたのなら私でも良いと大名様が許可してくれたのなら、この状況を造った責任としてその役目は私が背負うべきかもしれない。

 

 ただ私が水影となってもしも失敗したら築き上げた信頼全てを失う可能性だってある…正直に言って自信がない。

 

「──君が不安なのは分かっている、刀造りとは全然違う役目だからね。だけどボクは君なら出来ると信じている…だってボクの"新生・忍刀七人衆"の結成っていう夢を叶えてくれたのは君なんだからさ」

「…水月」

「君がいなかったら多分ボクは中途半端な落としどころで妥協して夢を捨てていたと思う…それを許さなかった君なら今度はボクだけじゃない、この里の皆の、1人1人の夢を導く水影になれるとボクは信じてる」

「……本当に、私に水影が務まるかな?」

 

 まさか水月がそんな風に思ってくれていたなんて…

 なんだか丸暗記した文章を読み上げている印象を受けるがそれでも褒められるのは素直に嬉しくて気が付けば少しだけその気になってそんな質問をしてしまう。

 

「君は今まで通りにやればいいってさっき言っただろ? 大丈夫だって、ボクも今まで通りずっと君を支える、だから何も心配しなくていいさ」

 

 本当に水月らしくない物言いだ

 しかしそこまで言ってくれるなら断る訳にもいかない、それに水影になる水月も悪くないがそうなると折角結成出来た"新生・忍刀七人衆"が実質解散になってしまうのはやっぱり惜しい。

 

 刀造りが暫く出来なくなるのは正直嫌だが、元々は私が蒔いた種…水月に任せなくて良いのなら引き受けるのが筋というもの。

 そう決意した瞬間、それまで静観していた霧の忍達…その中でも若手のくノ一を中心に悲鳴が上がった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 水影と大名に自分ではなく村雨を水影にすることの許可を得てここまで想定通りの展開に内心で小躍りしていた。

 

 大名は忍ではない者が水影になることに少し心配していたがボクのこれまでの成功は彼女の助言によるものと吹き込むと快く村雨のことを認めた。

 

 水影メイも最初は反対していたがサソリから聞かされた偽雨の話やボクが水影になっても村雨が自由に動き続けるぐらいならば水影の立場で拘束した方がマシと判断しこの賭けに乗った。

 

 そもそも彼女とてボクが水影になったところで村雨が大人しくなるとは微塵も思っていなかったのだろう、その理解力と賭けに乗る度胸に感謝するばかりだ。

 

 そして突然水影に推薦された時に村雨がどんな反応をするのか、これまでの彼女との腐れ縁からあらゆるパターンを想定し、それに対する君麻呂監修の下作成された村雨への称賛の言葉の数々によって遂に村雨をこの計画に乗せる事に成功した。

 

 正直やっぱりちょっと重たくないかな? と君麻呂監修のセリフに不安はあったが、大蛇丸達からも「まぁ感謝や称賛を伝えるならこれぐらい普通じゃない?」とOKされた通り彼を信じて良かった。

 

 後はメイと結託し村雨を激務漬けにして刀造りから強引に引き離すだけ…それがどの様な結果に転ぶかは全くの未知。

 それにメイからは賭けに乗る条件に村雨の側近として働くことを条件付けられた…もしかしたら今より最悪な結果を弾き出す可能性もある…しかし、やってみる価値はある。

 

 何より五影会談の護衛役を代表に五影の側近は基本的に2人、もしくはそれ以上…つまり最悪の場合道連れを得られる

 大蛇丸達には言っていないがボクの本当の狙いはそこだ! 

 

 暁や大蛇丸を引き連れて霧の里に戻った以上、そこから逃げ出せば確実に命はない。だがこの里にいても村雨から逃れる術はない。

 ならばどんな方法を使ってでも刀造りから引き剥がし、先の読めない未来への道連れを確保する…それがボクが選べる最善手。

 

 これで何かが変わる! 

 そんな確信を抱いた時だった…整列した忍達…主に中忍、下忍らしきくノ一達からキャーキャーと嬉々とした歓声が上がった。

 

「ずっと支えるって…今のってプロポーズ!?」

「水影就任に合わせてってこと!? すご!?」

 

 …何を言ってるんだあの女達は? 

 くノ一と言えども少女…正規の里だろうと香燐みたいにその手の浮いた考えが好きな連中は多いという事か…

 

「驚いたな…確かにあの2人は昔から付き合いある関係だったそんな仲になっていたとは…」

「まぁ、里抜けしていた分色々あったのでは…」

 

 あれ? 

 何か他の忍達もうざい邪推と誤解をしていない? 

 

 突如極寒の地へと時空間移動でもしたのかと思う程に途方もない寒気、悪寒を感じる。

 なんだか取り返しのつかない状況になりつつある気がする…そんな嫌な予感にもう一度、メイに「静粛に」の一言を言ってもらおうと彼女へと振り返る、が──

 

「いやー…何か、良いなこういうの。メイ様は色恋沙汰にあんまり興味の無い方だったからな」

「迫害される血継限界の忍ながら女性初の水影に就任、そこから血霧の里の悪政の改革に、血継限界の迫害の廃止…情けない話だけど俺達なんて到底釣り合わないもんだから尚更なぁ」

「…ここだけの話、無限月読の中ではお付き合いさせて頂いていた」

「俺もだ」

「なぁ皆…物凄い殺気を感じるのだが気のせいか? 折角戦争を無事に生き延びたのにまるで死がすぐそこまで迫っているかの様な重圧を感じるぞ?」

 

 気がつけば最前列の上忍共まで盛り上がっており、唯一青のみは沸々と沸き上がっている殺気を感じている様だが、発生源であるメイは既に穏やかな笑みのままマダラを彷彿とさせる程のドス黒いチャクラを纏っていてとても声を掛けられる状態ではなくなっていた。

 

 どう考えても口説かれ待ちだろ、誰かアプローチしてやれよと本気で思うがこっちはこっちで精一杯だ。

 一体どうしてこんな事に…いや、理由は簡単だ、君麻呂監修で作ったせいで内容がやっぱり重過ぎて誤解されたんだ、まさかあいつらこうなることを狙っていたのか? 

 

「こんな事になるとはな…」

「若い連中は色恋沙汰が好きなものだな」

「分からないものですねぇ」

 

 サソリや角都、鬼鮫先輩に視線を向けるが彼らもこの事態は想定外と呆気に取られていた。

 それを見て今更ながらに自分の想定の浅はかさを痛感する。

 

(そうだった…こいつら全員今の人格を形成してから長年、他人に"ありがとう"の5文字すら言ったことの無いような人格破綻者共…こんな連中にとって君麻呂の考えるセリフとまともな人間のセリフの差異なんて分かるはずがなかったんだ)

 

 頼る奴を間違えた…いや、頼れる奴がいるなんて思っていたことが間違いだった。

 あまりに残酷な事実に目の前が真っ暗になる。

 

 いや、でもまともな感性をしていないという点では肝心の村雨だって同じこと、周囲の空気にも気付かずまた変な解釈をするに決まっている! 

 

「その水月…正直迷惑掛けてばかりだと思ってたからそう言ってくれるのは嬉しいけど…こんな大勢の前で言われるとちょっと恥ずかしい」

「なんでこういう時にだけまともな感性してるの君は!?」

 

 普段と変わらない何てことない表情で、それでも僅かに顔を上気させた村雨に嘆きに近い叫びをぶつけるも彼女の反応に霧の忍達はますます盛り上がり隣の水影から更に殺気が溢れ出る。

 

 しかし村雨の言葉を聞いたくノ一達はそれに気づくこともなく隊列さえ崩して村雨を包囲し出して彼女とボクの関係等を根掘り葉掘り聞き出し始めた。

 

 刀についてか、刀を造る上でのやらかした事以外に質問責めされる経験などなかったからか村雨は周囲を囲む者達に戸惑いながら対応しているが一向に勢いが弱まる気配はない。

 色んな意味で完全にヒートアップしたこの場を収めることは最早不可能だと完全に心が折れる。

 

「……流石に、幾らなんでも面白がって眺めているわけにもいかないわね」

 

 そんな絶望の中、予想だにしない声がした。

 まさか…人の心など脱皮と一緒に脱ぎ去ったと思っていたあの大蛇丸がゆっくりと村雨包囲網へと歩み寄って行く。

 

 その只ならぬ雰囲気に霧の忍達は息を呑み、震える足取りで道を開ける。

 一応仲間とはいえ、次期水影候補者に元Sランクの犯罪者が接近しているのだがそれで良いのかと疑問も浮かぶが今はそれが何よりも心強い。

 

「盛り上がっているところに水を差す様だけど村雨、私から一言、言わせてもらうわ」

「は、はい」

 

 険しい面持ちの大蛇丸、いや、大蛇丸様の様子に半ばパニックになっていた村雨も意識を取り戻して頷く。

 

 よし、浮かれ狂っていた場の空気は完全に凍てついた! 後は全て誤解だと大蛇丸様が釈明をしてくれれば全て解決する。

 

 どうかお願いします大蛇丸様…その祈りに応えるかの様に大蛇丸様はにっこりと、今まで見たこともないような穏やかな笑みを浮かべ──

 

 

「色々あったけど婚約おめでとう」

 

 

 殺すしかない。

 

 そんな決断よりも早く身体は動き背負った首斬り包丁を握りしめ壇上から飛び降りると先程以上に沸き上がり「おめでとう」と祝福が飛び交う集団へと向かう。

 仮に返り討ちにされようが知ったことか、いっそもうそれを望む…そんな覚悟と共にあの蛇野郎へと斬り掛かる。

 

 だが刃が触れるよりも先に身体が突如重くなる。

 

 いつの間にか追い付いてきた鬼鮫先輩に背後から首を

 隣に回り込んできた角都に右腕を

 しゃがみこんだサソリに左腕を

 先回りしてきたカブトに指先で額を抑えつけられていた…。

 

「いや何だよこの過剰過ぎる止め方は!?」

「木ノ葉上忍衆による日向ネジの止め方だよ」

「知らないよ誰そいつ!? ここまでしなきゃいけないとかどんだけヤバい奴なの!? てかアンタら戦争中でもここまでバッチリ連携してなかっただろ!?」

 

 こんな時だけ息合わせやがって、さては大蛇丸同様にボクを生贄にする丁度良いタイミングだと思いやがったな。

 

「諦めろ水月、元々村雨に鎖をつけるのはお前が望んだことだろう…潔く良くお前が鎖になれ」

「祝儀としてあの女の3億の借金は免除してやる…なんなら追加で少々弾んでやっても構わん。地獄の沙汰も金次第だ、安心して地獄へ行け!」

「き、鬼鮫先輩! アンタはボクの味方をするのが筋って言ってたはずでしょ!?」

 

 腕を掴む両隣の連中がふざけた事を言ってくるのを無視して唯一まだ希望が残る相手に形振り構わずに縋る。 

 

「…確かに貴方が大名から水影に推薦されたことについては私にも責任があるのでそう言いましたね…しかし今回の件はその事とは一切関係ありません!」

「この薄情者!」

「大体今更言い過ぎました、誤解です…などと言ったところでこの場は収まらない、それどころか逆に貴方か村雨が水影になる話も無くなるやも知れませんよ。それに邪険にしていても何だかんだ無限月読の中でも仲良く──」

「やっぱアンタいつかフカヒレ料理にしてやる!!」

 

 余計な事を口走ろうとする鬼鮫先輩を黙らせようと身体を捩らせるが両腕と首を掴む力は強く、ならばと水化の術を用いて拘束から抜け出す。

 即座に追撃してくる連中を躱しながら、時には再び捕まりながも必死に抜け出して大蛇丸にせめて一太刀をと何度でも挑み続ける。

 

「…なんだか、とんでもないことになったな」

「流石のウチでも水月のヤローに同情するな…てかお前こうなる事狙ってたのか?」

「いいや、ボクもこんな事になるとは思ってもいなかった。…ただ、想定外だとしても村雨さんの幸せに貢献出来たのなら嬉しい限りだ」

「悪魔かお前は…」

 

 蚊帳の外でそんな様子を眺めている重吾と香燐…そして全ての元凶の死に戻りゾンビの呑気な声が聞こえ、とりあえず君麻呂は後で殴ろうと"鮫肌"に齧られてチャクラを吸い付くされた挙句にカブト達に組伏せられながらも心に誓う。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 同年代らしき忍の少女達を中心に「おめでとう」とお祝いの言葉を掛けてくれる方々に会釈しながら何とかその包囲を掻き分けていく。

 

 祝ってくれる人達には申し訳のないことだが今の状況に全く実感が湧かない。

 水月の水影就任を祝おうと思っていたら何故か私が代わりに水影に指名された上にこんな事に…取り繕わずに言うと支離滅裂な夢を見ているとしか思えない。 

 

 いや、もしかしたら私を水影として、更にその私と水月が良好な関係であるとアピールすれば水月が率いる"新生・忍刀七人衆"の里内での地位が更に向上すると考えた結果…という可能性もあるにはある。

 

 水月好みの策略ではないとは思うがそれでもそっちの方が納得は出来る。

 

 …が、その手の可能性は捨てておこう。

 仮に何かの算段があったとしても嬉しいものは嬉しい、だから今は素直に受け取っておこう。

 …良くないな、そんな風に思う程までこの場で一番浮かれてしまっているのは私らしい、だから──

 

「ねぇ水月…水影としての役目もこれからの水月との付き合いも、どんな事をすれば良いのか全然分からない…だからまた暫く苦労を沢山掛けると思うけど、これからもどうかよろしく?」

 

 気の利いた言葉など何もないけれど…何故か皆に組伏せられている水月の正面にしゃがみ、みっともなく緩んでしまいそうな顔を精一杯笑顔に留めて自分の心を口にする。

 

 また、一斉に歓声が上がる中水月はとうとう顔を地面に突っ伏して「…うん」と小さく返事をした。

 

 …結構恥ずかしい顔していると思うから見られなくて良かったとホッとした後、軽く息を吸って表情を引き締めると大名様とメイ様のいる壇上に立つ。

 

「改めて私達を認めて頂きありがとうございます、大名様」

 

 感謝と、口には出来ないが謝罪の意思も含めて深く頭を下げると大名様は眼下に並ぶ忍達を視線で指し示し穏やかに笑う。

 

「忍とは感情を殺す者…私は忍を人の心を持たない冷酷な者達と思っていた。だが彼らも皆、こんな風に笑うのだな。私はそんな事すら知らなかった、いや…知ろうとしなかったのだと改めて思い知らされた」

 

 自らを戒める様にそう語った大名様からゆっくりと手を差し出される。

 

「大切な事を気付かせてくれた君に感謝と信頼を抱く…君ならばきっと素晴らしい水影になれると私は信じる」

「…あ、ありがとうございます、必ず応えてみせます」

 

 心が痛い! 

 大名様からの言葉を重く受け止めながらその手を握るが私は本当にこんな高潔な御方になんて事を…。

 

 握手を終えて晴れ晴れとした表情でもう一度忍達を見つめる大名様に罪悪感に押し潰されそうになる──が、気がつけばすぐ近くから得体の知れない、何か恐ろしい気配を感じ咄嗟に振り返ろうとするがそれよりも先にひやりとした手で肩に乗る。

 

「私からも…就任、それと婚約を祝わせてもらおうかしら…おめでとう村雨」

 

 な、なんだ? メイ様は普段と変わらない優しい笑みをしているのに今まで相対した誰よりも恐怖を感じる。

 

 …そうか! 今までは単純な里長と住民にして犯罪者の関係だったがこ れからは先代と後輩の関係…これが縦社会の重圧というやつか? 

 いやでもそれならハレンチ博士やリーダーさんにも感じていないとおかしいな…刀匠としてではなく水影としての今後に不安があるからか? 

 

「ところで村雨…次期水影として決まったとはいえ忍としての経験がほぼない貴女には正式に水影となる前に早速今日この後にも基本的なことからみっっっちり指導させてもらうわよ」

 

 しかしその一言に目が覚める。

 そうだ、メイ様は自分の立場と名誉全てを私の働きに賭けてくれているんだ…厳しくもなるはずだ。

 しかしハレンチ博士達の推測が正しければメイ様の狙いとしては私が散々な失敗をした方が後の水影となる人が有利になって好都合のはず…だというのに私に指導をしてくれるなんてこんなに嬉しい事はない。

 

「はい! 六代目水影として必ずご期待に応えてみせます…あ、そうだ! 風影続投している我愛羅君に『私も五影になります、これからよろしく』って手紙送ろうかな。それと小南さんにも連絡を取れば雨隠れの里とも交流出来るかも…雨隠れの人達は大国嫌いな人が多いけど切っ掛けの戦争に霧隠れは関与していないし小南さん経由なら里単位で交流も可能に…後は木ノ葉のサスケ君にも…」

「妙に顔が広いのはなんなの?」

 

 不安はあるがいざやるぞと腹を括れば色んな意欲が湧いてくる…初代水影様から五代目水影のメイ様まで続く里造り…成功と、時には血に塗れる事もあったその歴史を今度は私が引き継ぐのだと思うとその責任感がどこか誇らしく刀造りとは違うけどこれはこれで頑張り、楽しもうと思えた。

 

 そしてこの里の皆にハレンチ博士達を心から受け入れさせ、先代達に恥じないぐらいこの里を発展させた時…胸を張って刀匠へと戻ろう。

 

 それに五大国が繋がり平和になった今ならばそれまで知る事のなかった知識や素材が見つかる事があるかもしれない…里長となればそれをいち早く見つける事も出来るだろう。

 

 水月との夢を果たしても未だに刀造りへの情熱は冷めやらない…しかし暫くはそれを心の内に留めよう。

 目的を果たす為に誰よりも長い時間を捧げた黒ゼツさんの様に、私も新たな作品を生み出す為にこれからの長い時間を大切に使おう。

 

 迷いはない。

 これまでの閉鎖を破り数多の里と繋がるこれからの霧の里とその先の未来でこそ生まれるであろう作品達…。

 それを思い描く私の心はいつも里を覆う深い霧が裂け、眩い陽光が降り注ぐ今日の霧隠れの里の如く晴れやかだ。





次回、エピローグ"前編"投稿です
…思ったより長くなって1話に纏まりませんでした
最後まで見通しの甘い本作を何卒よろしくお願いします
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