霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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エピローグ 前編

 数年振りに訪れた木ノ葉の里……記憶にある風景から大きく様変わりした街並みに面食らいながらもっと驚く光景に唖然とする。

 

 木ノ葉が誇る歴代火影の顔岩全てが落書きされ見るも無残な有り様になっていた。

 一体誰がこんな心無い事をと思うが良く目を凝らせば金髪の少年がペンキを片手に崖の上から縄でぶら下がっているのが見える。

 もしもこれが彼なりの芸術性ならば顔岩をキャンパスにするのは流石にどうかと思うが否定はしない、しかし「バカ」や「インケン」など心無い言葉を書き殴っている辺り悪戯の線が濃厚だろう。

 

 それにしても……犯人らしき少年の容姿はかつての七代目火影様を想起させる──もしや彼が……

 

「あーあ、どこの誰だか知らないけどよりにもよって五影会談の日に……何考えてんのやら」

「そうだね……じゃあ、止めるついでに聞いてきて」

「はぁ!? 何でボクが!?」

「私が行くより早いでしょ? それに"同じ立場"の方が話も出来るはず……お願い、水無月(みなづき)

 

 あからさまに面倒くさいと言いたげな表情を浮かべるも水無月は身体を水へと変化させて地面へと染み込み、地中の水分と同化して潜行する。

 僅かな時間の後、七代目火影様の顔岩の目の部分から水が吹き出して金髪の少年を捕まえる。

 

 落書きされた火影様の顔岩が泣いてるみたいでシュールだが優秀な我が娘の仕事振りに満足する。

 

「……あれがお前の娘か、水影?」

「あ、我愛羅く……じゃなかった風影様……久しぶり」

 

 風の字が書かれた緑の笠を少し上げて顔を見せる旧友に思わず昔の呼び方を仕掛けて隣に控える長十郎と我愛羅君の隣に立つカンクロウからジッと見られて改める。

 

「ごめんなさい風影様……決して悪い意味ではないのだけど貴方をそう呼ぶのに未だに違和感があって」

「気にするな、俺の方もお前を水影と呼ぶのが未だに悪い夢を見ている気分だ」

 

 我愛羅君のストレート過ぎる物言いに思わず笑う。

 かつては里の化物、狂人と呼ばれた私達が共に影の名を背負い、その肩書きで呼び合うなど何度会談で顔を合わせても信じられない気持ちだった。

 

「それにしても……護衛役の1人にまだ下忍の娘を選ぶなんて流石に無用心じゃん」

「我々もそう言ったんですけどね」

「次の中忍試験は木ノ葉だから下見させてあげたくて……初めての挑戦だからつい」

「あまり里長としての立場で我が子を厚遇しない方が良いぞ……まぁ、不干渉過ぎるよりは良いかも知れないが」

 

 そういう我愛羅君は顔岩に落書きした少年へと駆け付けた火影様を複雑そうに眺めた。

 我愛羅君こそ里長の親とは色々あったのだが私や火影様の心配をする辺り養子との関係は良好なのだろう。

 

「ったく、もぅ……火影様来るんならわざわざボクが出張る必要なかったじゃん」

「あ、水無月おかえり。こちら風影様、挨拶して」

「うぇ!? し、失礼しました」

 

 不満を口にしながら戻ってきた水無月は目の前に風影様がいることを伝えると慌てて背筋を伸ばして頭を下げた。

 

「……お前の娘にしては礼儀正しいな水影」

「自慢の子」

 

 といっても里の中では結構悪さしているそうだが。

 しかし、畏まるべき相手には相応の接し方が出来るのは良いことだ、そういう切り替え上手なのは父親似なのだろう。

 

 刀造りも上手ではあるが造るよりも使う事を好んで忍の道を選んだりする辺り間違いない、特徴的な歯も私よりも彼の面影が強く、私に似ているのは精々腰まで伸ばした髪と、その色程度だ。

 

「しかし、今年の中忍試験に出るってことはシンキとやり合うことになるかもな、楽しみじゃん」

「あー……」

 

 確かに我愛羅君の養子の噂は色々と聞いている、親としては楽しみだというのはカンクロウに同意ではあるが……チラリと当事者へと目を向けると彼女は息を呑み、意を決したように我愛羅様に声を掛ける。

 

「風影様、中忍試験で忍刀の使用をアリには出来ませんか?」

「無理だ」

「ですよね……はぁ」

 

 恐る恐るの申請をばっさりと断られ水無月はガックリと肩を落とす。

 

「科学忍具、それとお前の家族の作品は本人の実力に問わずある程度の強さが保証される優れものだ。だが中忍に必要なのは本人の資質だ。お前も一人前の忍を目指すなら強い武器に甘え、その価値を損なわせるのではなく強い武器を更に高める在り方を目指せ」

「……はぁい」

 

 不満気な様子を見て我愛羅君は反論の余地もない決定理由を補足して今度こそ水無月は渋々と納得した。

 

「流石、科学忍具と能力持ちの刀の禁止に最後まで反対した水影殿を説得した文言は強ぇじゃん」

 

 うん、ほぼ同じ内容で私も説き伏せられたのだから水無月が巻き返せるはずもない。

 

「……素材だけ持ち込んで試験中に自作するのはアリ?」

「素材も全て現地調達ならば認めよう、持ち込みはナシだ」

「やっぱ血筋じゃん……」

 

 私の娘は思ったより諦めない子だった。

 

 

 

 その後はシカマル君と結婚し木ノ葉在住になっているテマリさんの家に寄ってから会談の場に行くという我愛羅君達と一度別れることとなった。

 

「じゃあ、私も会談前に寄るところがあるから水無月は会談が終わるまで自由に回って。お金はこれを好きに使って良いけど足りない分は自分で出すこと。おすすめは一楽のラーメン屋さん」

「りょーかい、……じゃあこれ、今の内に渡しとく」

「うん、ありがとう」

 

 滞在中遊んで回るには充分なお小遣いを渡すとそれと交換で水無月から"ある人物達の名"が刻まれた小さな紙切れを預かる。

 

「それじゃ、私はカタスケ先生に挨拶してくるから」

「……誰だっけその人?」

「科学忍具開発の中心人物だよ」

「商売敵じゃん、斬りに行くの?」

 

 商売敵という表現はある意味ではその通りだがお互いに刺激を与え合い、時には技術や発想を交換する良い関係だ、だからそんな物騒な発想はしないでほしい。

 

「言ったように挨拶するだけ。私も近々本格的な刀造りを再開するから改めてお互い頑張りましょうって」

「多分それ聞く方めっちゃ怖いよ」

「え、そう?」

 

 ある種のスポーツマンシップの様なものかと思っているのだが……長十郎に視線を向けるが逸らされてしまう。

 

「まぁボクは別にどうでも良いけど……じゃ、お仕事頑張ってね」

「あ、水無月! 間違っても里の人に辻斬りとかしないでくださいよ」

「やらないよ! 他所の里でそんな危ない真似するわけないっての!」

 

 戦々恐々と釘を刺す長十郎に水無月は怒り気味に返事すると「はぁ、もう……母さんのせいでいつまでも信用されない……」などと愚痴を言いながら人混みの中へと消えていった。

 

 ……信用がないのは私のせいではなく新しい刀を貰う度に色んな人を試し斬りに襲っていたからだと思うが……。

 

 本人は忍刀七人衆か自分と同じ次期七人衆を目指す友人にしかやってないからセーフと言ってはいるが、その友人は皆結構疲れた顔をしているのに気付いているのだろうか? 

 

 一番実力あるからと長十郎の愛弟子は特に付き合わされているらしく、水月がその子の今後を心配していたり何故か私が長十郎に怒られたのも懐かしい。

 

「……まぁ本当に誰彼構わずやらない辺り昔の水影様よりは大人しい……ですかね?」

「昔の私もそこまで酷くはなかった」

 

 ……誰彼構わずではなくちゃんと厳選していたんだから。

 

 

 

 その後はカタスケと挨拶し、科学忍具の開発風景を簡単に視察させてもらった。

 近々私が本格的な刀造りを再開する旨を伝えると酷く狼狽したがその時が来たらお返しに霧隠れの里の鍛冶場に招待して制作風景を見せると言ったら非常に喜んでくれた。

 この人のそういうところが私は好きだし私もサソリさんもこの方の科学忍具はクシナダの改装案として企画当初からずっと目をつけているのでこれからも良い付き合いをしたいものだ。

 

そんな有意義な交流を振り返り満足しつつ円卓を囲む方々に頭を下げる。

 

「……という訳でお待たせしました」

「何で悪戯したガキの注意してる火影より遅れてくんだよ水影!?」

「カタスケ先生と今後の忍のあるべき姿の討論をしたら思ったより白熱してしまって」

「それはこっちで話す内容だろが!?」

 

 現在の土影、黒ツチさんから怒涛の勢いで注意される……自分で言うのもなんだが互いに影に就任してからはすっかり馴染みになった光景だと思う。

 

「まぁまぁ……息子が世話になったな水影」

「娘に任せただけなので気にしないでください、火影様」

 

 七代目火影様……ナルト君へそう言いながら空きの席に座って水影の笠を机に置く。

 それを見て今回の会談の仕切り役であるナルト君は頷き、宣言する。

 

「よし、それじゃ五影会談を始めるってばよ。早速議題ある奴は──」

「あ、では私から……近々水影を引退しこちらの長十郎が次期水影となりますのでよろしくお願いします」

「唐突過ぎるわ!?」

「大事なことだから真っ先に話すべきかと」

「事前に手紙で知らせるとか段取り踏めよ!」

 

 ……黒ツチさんからまたしても怒られる。

 

「しかしまた何だって引退すんだ? 腹に子供抱えても仕事してたぐらい熱心だったくせに」

「単純に私がやるべきことはやりましたから……それに、今の方針も殆ど長十郎の考えた政策ですしね」

 

 水の国はかつての閉鎖体制を破り観光大国として成功した……しかしそれは元より先代水影、メイ様が考えていた案を長十郎が具体的なやり方を示し実現性を明確にし、それを私が水影就任当初の支持者の多さを利用して反対派の上役を抑えて実行しただけ。

 

 後は他国からの訪問者が増えたことで最初は何かと懸念事項が多かったが、その辺りは様々な国を渡り歩いたカブトさんを中心に元暁のメンバーの働きもあって成功した、まさか他里の人を招き入れたのがこんな形で功を成すとは思わなかったものだ。

 

 おまけにスパイ行為の徹底的な撲滅を果たして七人衆の皆さんへの里からの信頼も昔と比べて強くなった。

 だからもう、お飾りの水影はお役御免だ。

 

「……あと、いい加減ボロが出てきて信頼が少し無くなってきたからまだ多くの人が慕ってくれている内に長十郎に繋いだ方が里荒れないかなって」

「あー……」

「むしろここまで続けられた事が奇跡だな」

 

 科学忍具を企画の段階から支援して現役の忍達から少し反対意見が出たのを皮切りに私の支持も少しずつ落ちていった。

 まぁ、それ自体は科学忍具の実用化に伴って先見の明アリと評価する人も現れてむしろ評価されたのだが昔闇市で売り捌いた刀が他里の抜け忍に渡り霧の忍の被害者が数年前に出てしまったのは致命的だった。

 

 ……その件は第四次忍界対戦の際に流出した物と誤魔化し、今では鬼鮫さんによって少しずつ回収が進んでいるがそれでもその件を発端に疑惑の目を無くすのは難儀していた。

 

「そんな訳で早ければ中忍試験開始の頃には長十郎に変わっているかもしれないです」

「おいおい流石に中忍試験終わるまでは続けろよ。仮にも五里合同でやる大規模なイベントなんだからよ」

「現在の火影、風影、水影の子供が同時参加って方が話題にもなって売れるしな」

「ああ、確かにそれは良いですね、経済効果高そう」

「すっげー生々しい話で前向きになるなってばよ……」

 

 雷影、ダルイさんの反対に合わせた黒ツチさんの意見は確かに一理あるとと思ったのだが反対にナルト君はげんなりと肩を落としてしまった。

 

「……まあ、最後に少し厄介な仕事を終わらせてから引退と思っていたけど折角なら明るい仕事を最後にするのも良いですしね」

「──また何か変な事をする気か?」

 

 我愛羅君が訝しげに聞いてくる……互いに五影になってからというのも何だか昔以上に容赦がなくなった気がする。

 その予想が正しいだけに文句も言えないが。

 

「時代が変われば前の頃が良かったと思う人も出る……それは仕方のないことだけど、霧の里はそうもいかない。だから長十郎に託す前に足を引く手は私の代で斬り落としておこうというだけ」

「相変わらずスイッチ入ると怖ぇなお前さん」

 

 表現が少し物騒だったのかドン引きした様子のダルイさんに笑って誤魔化しておくと、最後に今回の話の本題に入る。

 

「そういう訳で暫くしたら水影を辞めて刀造りを再開するから……何か起きたらごめんなさい」

「「やっぱもう少し続けろお前!」」

 

 そんなやり取りも続き、私にとっては最後になるかも知れない五影会談は最後まで賑わい続けた。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 日が傾いた夕暮れの頃、霧の里では2人の人物が基本的に長期任務で里を離れており、今日珍しく帰郷したもう1人の同僚と顔を見合せていた。

 

「暫くぶりだな鬼鮫、聞くまでもないことだが変わりはないか?」

「えぇ、まぁ……大抵は小国の抜け忍かそこらのチンピラが過ぎた武器を持って暴れているだけですからね」

「……つくづくとんだ貧乏くじを引かされたものだな」

 

 角都、鬼鮫、サソリの3人は霧の里所属になった際に与えられた時から使い続けている屋敷の縁側で寛ぎながら雑談に興じていた。

 

 村雨が昔流出させた刀が問題視された際に村雨の刀を持つ人間の相手に最も適した人物として抜擢されて以降、鬼鮫はあまり里に滞在することはなく世界の各地を渡り歩いているが五影会談開催に合わせて、例によって全ての里に対して忍の里外任務の自粛の取り決めが発令された為久方ぶりの帰郷を果たしていた。

 

「里の方はどうです?」

「現水影がそろそろ引退を視野に入れて刀匠としての復帰を考えているそうだ」

「それはそれは……暫く、刀の回収はのんびりやって里に戻らない方が良さそうですね」

「心配するな、どうせそうなったら新しく何本も流出して里には中々帰れなくなるだろ?」

「……それは確かに」

 

 第四次忍界大戦以降長く続いた平和もそろそろ危ないかも……と嫌な想像をしながらかつての暁のメンバーは他愛ない会話を繰り返す……不意に襖がスッと音を立てる。

 

「長老、お茶が入りま──あ、鬼鮫おじ様」

「おお霧雨(きりさめ)、久しぶりですね。元気にしていましたか?」

「二日徹夜で新作造りが続けられているので多分元気だと思います」

「……子供が不健康な生活をするものじゃありませんよ」

 

 湯呑と茶菓子を乗せたお盆を手に部屋に入ってきた少女……かつての村雨の生き写しと思う程に瓜二つの娘、霧雨の返答に鬼鮫は呆れた様に頭を抑える。

 しかし霧雨は気にした様子もなく角都へお茶と茶菓子を渡すと自分用に持ってきていた分を鬼鮫にも手渡す。

 

「鬼鮫おじ様も如何ですか? 観光地として銘菓になるものが欲しいと思って親しみやすい動物のお菓子として丁度近くを飛んでいた鷹の形のお饅頭を造ってみました。今にもキーッ! とカッコいい鳴き声が聞こえてきそうなリアルな造形がポイントです」

「観光地のお菓子にはリアル過ぎるませんか……威圧感が凄い」

「威圧感というか異物感が強そうだぞ、これが商品棚に並んだら……」

「そもそも大量生産出来るデザインじゃない時点でそういう売り方は出来ねぇだろうが……」

「ッ! ……そうでした」

 

 目的と方向性の決定的なズレを指摘されて霧雨は間抜けに口を開けてガックリと肩を落とした。

 

「まぁ、このお茶もですが味は中々ですよ。また腕を上げましたね……帰ってきた甲斐があったというものです」

「相変わらず甘いな……」

「きめ細かで上品な甘みの白餡が売りです」

「お前の菓子の話じゃない」

 

 村雨と比べて比較的大人しめな性格ではあるが母親と双子の妹、そして鬼鮫から甘やかされて育った影響か母と同等かそれ以上に天然気味な霧雨に角都は呆れながら茶を啜る。

 

「──それにしても鬼鮫、五影会談開催に伴っての帰還命令はもう少し早く届いていたはずだろう、随分と遅れたな」

「村雨の刀が巡り巡って鉄の国から脱走した中々やり手の侍の手に渡ったようで……実際結構な相手でしたよ」

「お前が手を焼く程とはな……」

「人里に上手く潜伏していたせいで探すのに難儀したのも大きいですがね、何よりこじんまりとした戦いは面倒極まりない」

 

 街中では地形を大きく変える水遁忍術の大半を制限するしかなく刀のみの戦いでは"七人衆"といえど忍である鬼鮫よりも侍の方が有利な条件での戦闘となった。

 それでもきっちりと討ち取り鉄の国まで引き渡したのだがその移動も相まって五影会談開催当日の帰還になってしまったと鬼鮫は語る。

 

「まぁ、一番難儀なのは鮫肌を背負って歩き続けるのにしんどさを感じる様になった事ですが……貴方達といると自分だけが歳を重ねているのを実感させられる」

「……改造してやろうか?」

「結構です……はぁ、そろそろ私も現役引退を考えますかね」

 

 歳を重ねようが見た目同様に変化しないサソリの人間性に呆れながら鬼鮫は茶を飲み干して霧雨に湯呑を返却してそんな事を口にする。

 

「引退、じゃあ鮫肌は……屍澄真さんに?」

「んー……筋は悪くはないですが、まだまだ鮫肌を扱うには未熟ですね」

 

 忍を引退するならば"忍刀七人衆"としてその刀は後継者へと託される……しかし、次期七人衆のメンバーとして期待されている人物の中でも筆頭格であり自らの親戚である少年の名が上がると鬼鮫を首を横に振る。

 

「……というかあの子が入るには何より本人の実力がまだ足りないでしょう」

 

 自分は引退を視野に入れているが何せサソリと角都、大蛇丸に君磨呂は各々の事情で歳を取らないせいで余程の事がなければ変わる事がない……この4人がいる部隊に自分と交代で入れるのは正直酷だと鬼鮫は割と善意で判断する。

 

「……それじゃボクが代わりにメンバーに入ろうか?」

 

 不意に縁側から見える庭から少女の声が聞こえ僅かに遅れて地面から水が噴き出す。

 吹き出した水はゆっくりと人の形を形成すると不敵な笑みを浮かべた少女へと変化する。

 

「……水無月、村雨の五影会談に同行すると聞いていましたがもう戻ってきたのですか?」

「木ノ葉滞在中のカブトさんにも挨拶していくから先帰って休んで良いって母さんに言われてさ、私1人なら移動早いし」

「羨ましい能力ですよ……それにしても身内贔屓で護衛役に抜擢しておいて適当な……」

「水影辞めるつもりになっていよいよ遠慮を止めたな」

 

 かつての破天荒さが蘇る予感に角都達は顔を顰めるが、水無月は好戦的な視線を鬼鮫へと向けて──その手元の物に首を傾ける。

 

「……何そのハイクオリティな鷹の饅頭は?」

「貴女の姉の作品です」

「味は最高の出来……コンセプトは失敗だったけど」

 

 半分ぐらい食べられてなお細部までの拘りが窺える饅頭を水無月は断りなしに鬼鮫の手元から取ると全体を眺めた後に口に放り込む。

 

「──あ、美味し。これは天才の仕事」

「やった」

「本当に甘い連中だ」

「……それで、鬼鮫おじさん本当に引退するの?」

 

 サソリと角都から向けられる呆れの視線を気にもせず饅頭を食べ終えると水無月は再び視線を鬼鮫へ移し話を戻す。

 

「貴女にもまだ早いですよ水無月。応援はしますからまずは初挑戦の中忍試験を頑張ってください」

「アレ普通の刀しか使えないし……別に下忍でも"忍刀七人衆"になれば箔は充分でしょ?」

「跡継ぎがそんな適当ではご両親が泣きますよ」

「はぁ……じゃあまた修行付き合ってよ、誰でも良いから」

 

 昔の自分達を知る者ならあまりに恐れ知らずと思うであろう発言に鬼鮫達は皆肩を竦め、代表として鬼鮫が鮫肌ではなく庭に立て掛けてある木刀を手にすると霧雨が「あ」と声を上げる。

 

「水無月、実は徹夜で造った作品があるから折角ならそれのテストもしてほしい」

「マジ? 今度はどんなの?」

「鮫肌を参考に重吾さんの細胞を使って自然エネルギーを取り込んで持ち主に仙術チャクラを供給する刀を造ってみたんだけど持ち主ごとに供給量を調節する機能が中々難しくて持ち主を暴走させてしまう危険がある、あと斬った相手にも傷口から仙術チャクラが入ってしまうから敵も暴走させてしまうかも……」

「ヤッバ、何それ面白そう! 霧姉、やっぱ天才過ぎ」

「やめてください」

 

 穏やかな性格でお茶と茶菓子作りを趣味としながらも村雨に劣らぬ刀造りの才覚を持ち時折恐ろしい作品を造り出す霧雨。

 捻くれ者ながら常識的な感性を持ってはいるが母や姉に甘い挙句に村雨と同レベルに刀へ偏愛を抱き危険な試作品だろうと嬉々として使いたがる水無月。

…血筋が成した最悪な関係に鬼鮫は再び頭を手で抑える。

 

 この問題児達を如何にして止めようかと悩んだ時、開けたままの襖の奥から穏やかだが威圧感に満ちた声がする。

 

「──五影会談に同行する事が決まったから前日まで修行して会談が終わったら纏めて休むから暫く座学は無しにしてと貴女がどうしても頼むから見逃しましたが……随分と元気そうですね水無月お嬢様?」

「げ、君磨呂先生……」

 

 騒いでいるのを聞き付けて様子を見に来た顔に罅の入った白髪の少年、水無月にとって家庭教師である君磨呂の姿に顔を引き攣らせる。

 

「貴女にとっては大した移動ではないとはいえ遠征は遠征……休息も求めるならばと目を瞑りましたが必要ないのならまずは先送りにした分をやってもらいます」

「あー、やっぱちょっと長旅の疲れ出たかも、寝よ寝よ」

 

 わざとらしく欠伸のふりをして逃げるように立ち去る水無月に鬼鮫はやれやれと、仕方なさそうに笑う

 

「……やっぱり、貴女にもまだまだ……私の後釜は任せられませんね」

 

 まだ幼いながらも才覚を示し次期七人衆候補の中でも最も注目されて、自らも期待している少女の未熟な姿勢に鬼鮫はもう暫くの現役続行を決意する。

 

 そんな穏やか笑みを浮かべる鬼鮫をジッともう1人の少女は眺めていた。

 




次回、霧隠れの狂人 完結!
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