「はい、これでお仕舞いです」
「…はいはい降参。はぁ…流石にまだ勝てないかぁ」
五影会談開催から数日後、村雨の里への帰還を見届けた鬼鮫はその日の内に再び流出した刀の回収任務へと出動を決めた。
荷物を纏めていると水無月から中忍試験に合わせて普通の刀での戦闘に付き合ってと頼まれ、木刀での戦いに応じ数分に及ぶ戦いの末に水無月の頭にポンと、木刀を軽く当てた。
「刀の能力に頼らずここまで出来れば上出来ですよ…試験の結果が楽しみです」
「ふぅん…結果を楽しみってことは確実に合格とは思ってくれてないんだ」
「またそんな揚げ足を…クク」
負けた腹いせか面倒な拗ね方をする弟子に思わず笑うと鬼鮫は庭の端に置いた荷物と鮫肌を持ち上げる。
「貴女なら大丈夫ですよ、ちゃんとやる気を出せばですがね。合格の報告を楽しみにしていますよ水無月」
軽く手を上げてそう告げると漸く満足気に彼女が笑うのを見て鬼鮫は屋敷を後にする。
屋敷を出た鬼鮫は港で簡単な手続きを済ませて"刀を扱う者"が多く村雨の流出させた刀を求める者が多いと思われる雷の国へと向かう船に乗ると数時間の船旅の末に目的地へと上陸すると同乗していた客達が慌てた様子で走っていく。
「急げ、サブちゃん先生の公演もうすぐ始まるぞ!」
「おう!」
ついそんな会話が聞こえて、微妙に聞き覚えのある名に顎に手を当てる。
「…サブちゃん? あぁ、昔八尾の人柱力と一緒にいたあの…」
「ピギィイイイッ!!」
「あ、こら鮫肌…八尾の味を思い出して暴れないでください──ん?」
懐かしい味を思い出して動き出した自身の愛刀を鎮めようと柄を握った時どうも違和感を感じて切っ先部分の口を開かせると口内に手を突っ込み…中に潜む異物を引き抜く。
「…何をしているのですか、霧雨」
「…バレちゃった」
身体を金色の膜で覆い鮫肌の中に隠れていた少女に鬼鮫は顔を引き吊らせる。
チャクラを通さず鮫肌の能力を防ぐ特殊な金属も、そんなものを利用して里外へ飛び出す発想と行動力にも嫌な覚えがあり過ぎた。
「鬼鮫おじ様が苦戦する程の人や母様の昔の作品が見れると思うと気になってしまって…新しい作品造りの参考になりそうなので…ぜひ御一緒させて下さい」
「ダメです。仮にも刀を持つ相手と戦う任務、命の保証はない…貴女に何かあれば私の責任になる。水影の娘として、その自覚を持って下さい」
「母様から許可は貰いました」
「そうだった…あの水影の娘でした…」
霧雨から「何があろうとも自己責任の上で好きにして良しと言いました。鬼鮫さんがどの様な判断をしても構いませんが良ければ面倒を見てあげて下さい」という里長としても親としても雑な判断の書かれた書状を受け取り鬼鮫はどうしたものかと空を仰ぎ、真っ直ぐに霧雨と視線を交わす。
「…申し訳ありませんが霧雨、貴女にとっては意味のある旅になるやもしれませんが私にとっては足手纏いでしかない。自分の欲望を貫きたいのなら自分自身の価値を相手に見せることです。…かつての貴女の母親はそうやって何度も死線を超えていましたよ」
親の権威や相手の好意に甘えるだけならばこの娘は母親に遠く及ばない。
決してあんな破天荒な生き様をする第二世が欲しい訳ではないが、忍の世界を安く見ているのならば厳しく突き放すのも止む無しとし、霧雨の答えを待つ。
「良い刀なら気配で分かります…母様の作品なら猶更です。同行させて頂ければ鬼鮫おじ様が先日言っていた様な潜伏した相手を探す苦労を二度とさせません」
しかし霧雨もまた、そう試される事は想定済みと即座に自らの利点を淀みなく答える。
「ふむ、まぁ確かに持ち主探しは一番面倒ではありますが…しかし──」
「…あれ? 母様の作品の匂いが…こっちからです」
「は? あ、こら霧雨」
突然袖を掴まれて鬼鮫は霧雨に引っ張られ港の先から雲隠れ方面とは逆方向の、霜隠れ方面への道へと駆けていく。
ひとまず霧雨の感覚の真偽を確かめるべく鬼鮫は通行人を装うと向かいの通りから二人組の男がゆっくりと先程の港へと歩いてくるのを確認する。
その人物を見て鬼鮫は呆気に取られる。
「イタチさん! それに弟さん…いや、サスケ君も…」
「っ! 鬼鮫か!」
向かいから来た男、うちはイタチにとっても予期せぬ再会であり珍しく驚いた様子で両眼の"輪廻眼"を見開いた。
「…知り合いでしたか?」
「ええ、まぁ。…しかし、そうか…村雨の作品の匂いがしたと言ってましたがサスケ君の物でしたか。何とも偶然ですね」
「…その子は、そうか…あいつの」
自分の名が上がりイタチと共にいたもう1人の男、うちはサスケは鬼鮫の傍らの少女を見て何となくの事情を察したらしく鬼鮫もそれを見て包み隠すのは不要だと口を開く。
「こちらは里外に出た村雨の刀の回収任務でしてね、まぁサスケ君の刀は良しとしましょう。それで、お二人はどちらへ?」
「世界を見て回る旅だ。少し調査も兼ねてな」
「…何か、この辺りに気になるものでも?」
ただの調査ならばともかく、この二人が気にするものならばただ事ではないと鬼鮫は僅かに警戒する素振りを見せるがサスケは渋い顔で首を振る。
「…この辺りはハズレだ。舟で次の場所へ移動するつもりだが…兄さんが寄り道したいらしくてな」
「ただ茶屋…いや、喫茶店? とやらで一息つこうと言うだけだ。別に急ぐ旅でもない…たまにはいいだろう」
「それはそれは」
どこか呑気なイタチの物言いに鬼鮫はほんの僅かに笑う。
迫る時間と戦い里と弟の為に己の命を燃やし尽くした男が今では思うままに有り余る時間を浪費する…それがどれ程の奇跡なのか。
その奇跡を起こすべく命を懸けた亡き同志も、きっとその姿に浮かばれることだろうと安堵する。
「喫茶店…競合相手…」
「競合?」
「あぁ、この子は村雨の鍛冶場を預かってる上に我々のお茶係なので」
その言葉にイタチはジッと霧雨を見つめ、やがて小さく頷く。
「そうか。村雨の生き写しと思ったが…むしろ…」
「そうかもしれませんね」
「なんです?」
「いや、折角だ…鬼鮫共々一緒に来ないか? どうせサスケは甘いものは食べないしな」
その誘いに霧雨はちらりと、遠慮気味に鬼鮫に視線を向けた。
「構いませんよ。まぁ…我々も長い旅になりますから、最初ぐらいはゆっくりしましょう」
「…っ! はい、ありがとうございます」
長い旅…任務への同行を受け入れるその言葉に霧雨は顔を綻ばせるのだった。
▼▼▼
「は? 霧雨が里を出ていった?」
「うん、鬼鮫さんに着いていきたいらしいから私が許可した…君麻呂にも気にしなくて大丈夫って言ってある」
突然の申し出に即座に承認したことを伝えると水月は呆れたようにため息を吐いた。
「あのさぁ、一応自分の娘が里の外を歩く危険さは分かってる?」
「考えなかった訳じゃないけど…私みたいにいつか里に退屈して抜け出すぐらいなら鬼鮫さんと一緒に旅した方が良いかなって」
「……それはそうかも、まぁ霧雨だし…水無月の方じゃないからまだ…うん」
長考しぶつぶつと何度か呟いた後に一応の納得をしたらしく水月は頷く。
それにしても、里を出るのにちゃんと私の許可を取りに来たのだから私と比べてずっと良い子だ…やはり霧雨は私よりも"彼女"に良く似ている。
…出来ることならその調子で正規のやり方を貫きつつ自分の思うがままに生きてほしいと願うばかりだ。
「ああ、でもお父さんは心配するかも…また怒られるなぁ」
「孫には甘いからねあの人」
「あの子達の話以外は全然口聞いてくれないのに」
「いや、ボクは君が会談に向かってる時に呑みに誘われたよ?」
「なんで!?」
何でわざわざ私のいないタイミングで、一体何を話していたんだと次々に疑問が沸いた直後、ガチャンと重い金属の音が地下牢に響く。
どうやら鎖に繋いだ人達が意識を取り戻したらしい、つい霧雨の話題を優先してしまったが改めて繋がれた人達と手元の紙切れを見比べ、そこに名が記された者全てが揃っているのを確認する。
「うん、見落とし無し」
「む、村雨! これは何の真似だ!?」
地下牢に繋がれた者達から一斉に鋭い視線と怒声が向けられる…まぁ、突然毒で気絶させられ気が付いたら地下牢の中なのだから当然だろう。
ここまでやった以上、今さら解放してあげることは出来ないがせめて本題には早く入ってあげるとしよう。
「何のつもりか…は、一緒に牢にいる人達を見れば分かるかと?」
「…くっ!」
真っ先に怒りを剥き出した初老の男性は忌々し気に唸る。
「"血霧の里"へと回帰計画…昔と正反対の観光名所となっている霧隠れの里に以前の様に戻ってほしいと思うのは自由です。けれど若い忍達を唆してクーデターを企むのは流石に見過ごすことは出来ません」
「まさか…屍澄真達を…」
「ま、現七人衆に不満持ってる将来有望株を味方に引き込むのを企んだのは悪くないけど…あの不良娘にも声掛けたのは失敗だったね」
彼らクーデター派は戦力と工作員として次期忍刀七人衆と評価されている子供達を味方にしようとしていた。
子供達も元は他里の人間であり、メンバーの半分が寿命を克服したことで7つの枠の約半分以上が決して空かない今の七人衆に不満があったらしくそのクーデターに乗ろうとしていた。
…が、彼らとて今の七人衆に正面から戦い、勝てると思ったわけではない。
それ故にただでさえ友人相手に辻斬り行為を繰り返している上に鬼鮫さん達にも何度も挑んでは負けている水無月もその残虐性と不満を擽れば味方に出来ると見込み、水影であり親子の関係である私を人質として確保するように勧誘した。
現水影の子も血霧の里を望んだという神輿も欲しかったのだろう、だがその選択が失敗だった。
霧雨の刀どころか偶に私の作品まで持ち出しては七人衆の方々に襲い掛かる為時折殺そうとしているのでは? と誤解され、水月も彼女を不良娘と言うがそれは遠慮と手加減がないだけで水無月なりの信頼そのものだ。
だから、本来ならばまだ下忍の彼女に任せる任務ではなかったがその内心と実力を信じ、そのままスパイを任せてクーデター派の人間全員のリストを作ってもらい、尾行も監視も出来ない五影会談の最中にその名簿を受け取ることで今こうして全ての関係者を釣り上げることが出来た。
本当に私に似ず優秀な子であることに感謝するばかりだ。
「それで…我らをどうするつもりだ。反逆罪として処断するか? だが、我らの中には上役として古くから里を守ってきた者も多い…いかに水影とてワシらを殺せばその地位もただでは済まぬぞ」
「里守ってきたって…クーデター企んどいて良く言うね」
「まぁ事実ではあるから」
実際、先代どころか四代目水影の頃から里の運営関わっていた人もちらほらいる…これ程の地位の方ですら今の霧隠れの方針に不満を持ちクーデターを企むのだから里を統括する難しさを痛感するばかりだ。
「事実とは言ったてさぁ、水の国が貿易をしない鎖国体制の頃からの上役だ。国内の権威者との強い繋がりを持つ自分達の力も外交を解禁して成功している今の霧隠れでは近い将来"国内にしか顔が利かない"って評価に落ちる…だから自分達にとって都合の良い霧隠れであってほしいってだけだろ?」
その言葉に牢の奥にいた老年の男性が血走った目を見開きながら駆け寄り、鉄格子をガシャンと何度も鳴らし声を荒げる。
「黙れ! 戦争以降木ノ葉の力は未だに五里で抜きん出ておる! 五里の同盟など奴らの方針一つで崩れる! だから霧隠れはもっと強くならねばならんのだ!」
「その手段が悪名高い血霧時代への逆戻りって…これだから命令するだけの連中はさぁ」
「水月」
これ以上は心無い罵り合いになるだけだろう、水月の言葉をを制して鉄格子の奥のご老人に視線を合わせる。
「里の未来を憂う気持ちは分かります。しかし、血霧の里のやり方は今の忍達、そしてこれから里を担う子供達の多くが死ぬ」
「それが本来の忍の在り方だ」
「かつてはそうだったのかも知れません。ですが長い時の中で忍の形は変わった…戦争を生き抜いた忍達は命を懸けて今の時代を造り上げた。もしもそれを拒みかつての在り方に戻したいというのならば、貴方達にも彼らと同様の覚悟を望みます」
老人は血走った目を細めて口を開く。
「同様の覚悟…要はワシらに死ねと言うのか?」
「愚か者が、如何に水影とて言葉が過ぎるぞ!」
牢の中の者達は次々に怒りを剥き出す…まぁ里の長、水影といえども里に尽くしてきた年期が違う。
実質的な権力は彼らの方が強いのだからその反応も当然だが…
「──誤解です。ただ血霧の里と呼ばれたかつての霧隠れが今よりも優れた里であったというのならその素晴らしさを命を懸けて私に教えてほしいのです。クーデターなどという手段でなく、その時代を見た者の言葉で」
「命を懸けて言葉でだと? どういう意味だ?」
対話という平和的な手段に命を懸けろという矛盾した要望に怒りに満ちていた彼らの感情が僅かに沈まる、丁度その時背後の扉が開く。
「言われた物を持ってきたわ…まったく、久し振りに物乞いしてきたと思ったら随分と贅沢をしたものね」
「ありがとうございます、大蛇丸さん」
かつての上司であり今や部下という妙な関係となった相手に礼を言うと牢の人達へ視線を戻す。
やはり大蛇丸さんへの畏怖は根強いのか、皆例外なく警戒心を更に顔に浮かばせているようだった。
しかし、彼らが落ち着き冷静に話を聞いてくれるまで待つのも時間が惜しい…申し訳ないが強引に話を進めることにしよう。
「さて、先程の話ですが…血霧の里と今の霧隠れ、どちらがより良い里なのか…私達だけでは平行線です。ならば血霧の里を築いた人物に比較してもらうのが一番良い」
「…っ! 貴様、まさか!?」
「穢土転生の術で三代目水影様と四代目水影様を蘇らせて今の里を見てもらい、その上で結論を出します。…申し訳ありませんが、その為に貴方達の命を使わせてもらいます」
とんでなく無茶な要求に彼らは一斉に息を飲む…が、彼らがこの要求を拒むよりも先に鉄格子を握る老人の手にそっと触れ語り掛ける。
「霧の里を守り導く為になら命を捧げる…かつての血霧の里の忍達が持っていた、そして貴方達が思い描く未来の忍達に持たせるつもりのその覚悟は…当然、貴方達もお持ちですよね?」
「ぬぅぅ」
「い、良いだろう! 俺を使え!」
悔しげに唸る老人の背後から別の男性が声を震わせながら名乗りを上げる。
「ち、血霧の時代、最強の霧隠れこそがあるべき姿! 先代水影様が復活すればきっと我らを認めてくれるはず! 貴様の様な忍でもない水影など間違っているとな!」
自暴自棄に、狂ったように嗤いながら男性はそう叫ぶ。
死を恐れ、しかし今よりも死が身近であった血霧の里に妄執する狂気…やはり彼らとてただ権力への固執だけでクーデターを目論んだのではないのだと伝わってくる。
それ故に、残念だ──
「分かりました、それではその御身、有難く使わせて頂きます。しかし…大変申し上げ難いのですが、先代水影様達の御遺体も相当昔の物ですから、もしかしたら準備した物が別人である可能性もありまして…」
「は?」
「多分先代様だと思うんですが…万が一の時は、その…ごめんなさい?」
本当に、残念だ。
最初から彼らの信念など踏みにじる前提で動いているのだから。
そんな私の内心を理解したのだろう牢屋の者達は恐怖すら忘れ怒りと戸惑いのままに鉄格子を鳴らす。
「き、貴様! 先代水影様を蘇らせるつもりなど最初から無いな!?」
「我らの話など最初から聞いてなどいなかったのか、この悪魔めが!」
「同胞殺しの悪習復活させようってアンタらがそれ言うか…」
結構お互い様なのを棚に上げた罵詈雑言に水月は呆れて肩を竦めるが、私はもう久方ぶりに感じる高揚に心が浮わついてしまっている。
思えば水影になってから激務の中で何とか確保した時間で腕を落とさない様に刀造りの練習をするばかり、あの戦争の際に自分が撒いた種とはいえ我ながら良くここまで我慢したものだ。
まぁ水影引退までにはまだもう少し時間が掛かるが"穢土転生の術"の一番良いところは一度復活させてしまえば再び棺の中でずっとストックしておけるところだ。
実際に刀を造るのはもう少し先にはなるが…ともあれ、その瞬間が訪れた時の協力者達をここに集結させるとしよう。
「さぁ、それではそろそろ始めましょう。水月、ハレンチ博士、準備をお願いします」
「はいはい」
「村雨、何度も言うけど霧雨達やミツキの前でその名前を口にしたら本当に殺すわよ」
おっといけない。
再三注意されていて最近では水影としての振る舞いをしている間は直せてきたけど気合いが入ったせいか昔の呼び方がつい出てしまった。
ともあれ二人が牢の中の人達に次々と別の人間の肉片を植え付けていく。
これで準備は出来た。
「口寄せ、穢土転生!」
何人もの悲鳴が牢の中に木霊する。
溢れ出た塵芥が囚人達を覆い尽くし、その身体を全く別の人間へと上書きし造り変えていく…そんな光景を水月はうんざりとした表情で眺めていた。
「相変わらず酷い術だね…ま、人様の子供にロクでもない教育を強要しようとしてんだから同情も何もないけどね」
そんな愚痴に近い独り言に思わず笑ってしまう。
上役の抹消なんて危険な決断に反対せず、むしろ秘密裏にクーデター派の一斉確保する役目を実行してくれたのはそういう事だろう。
…しかし、私も彼らと同じだ。
里を守る為という建前で非道な手段を用いてしまった。
そして何よりそんな罪の意識など、目の前に並んだ人達を見て早々に失い掛けている。
本当に、ここまで良く水影としての立場を守れたものだ。
改めて私には過ぎた座だったが…最後に里の内部争いを防げたと思えば手段はともかく漸く水影らしいことが出来たのではないだろうか。
後は今年の中忍試験を見届けるだけ。
少し気は早いが里の長、水影ではなく1人の刀匠"霧隠れの狂人"として呼び寄せた方々に挨拶するとしよう。
まずは──
「お久しぶりです、四人衆の皆さん。私です、村雨です」
「は? 村雨…だと? テメェが!?」
「ウチらは木ノ葉と砂の連中と戦って…それから…」
「どうやら、随分長い間死んじまってたみたいぜよ」
「いや待て…何故大蛇丸様でなくお前が穢土転生を?」
チャクラを込めて意識を取り戻させると懐かしい人達の声がする。
音の四人衆の皆さんは過ぎ去った時間と自分達が死んだ事実への直面に戸惑い、そんな彼らにハレンチ博士が近づく。
「落ち着きなさい。簡単に説明するから良く聞きなさい」
死して蘇ってなお忠誠心に揺るぎはないのだろう、四人衆の皆さんは「は!」と返事して即座に膝を着く。
「貴方達がサスケ君を連れてくる任務で死んでからもう何年も経ったわ。あれから色々あってサスケ君を器にするのは辞めてね、今は別の器で充分安定しているわ。それから世界の情勢もあの頃とは大きく変わって私達は暁の半数近くのメンバーと結託し、五大里とも仲良くしているの。あと村雨は水影になって私とカブト、君麻呂は一応彼女の部下という立場だから貴方達も多少は弁えなさい。…分かった?」
「「何もかも分かりません!!」」
でしょうね…。
いくら四人衆の皆さんが亡くなられてから色々あったとはいえ詳細を省き過ぎて理解出来るはずもない。
「やる側になると結構楽しいわね、これ」
「なんで私に言うんですか?」
ハレンチ博士の意図は分からないが懐かしい面々との会話で楽しんでいるのなら良いことだ。
とりあえずパニックになった左近さん達はハレンチ博士に任せて次の方の意識も戻そう。
「お久しぶりです、デイダラさん」
「お前…村雨か!? 一体どうなってんだこりゃあ…うん」
この方も久し振りだ。
彼がサスケ君と戦いに行った時は別件が忙しくて同行出来ず彼の作品の極意を見れず終いだったのは心残りだったし、何よりサソリさんも交えてまた3人で芸術論を語れるかと思うと心が踊る、いや…今度は霧雨も入れて4人でも良いかも知れない。
「オイラはサスケとの戦いで究極芸術を…まさか、穢土転生ってやつか?」
「一口に説明するのは難しいのでデイダラさんが亡くなられて以降の出来事をこちらのプリントに纏めておきました、お時間ある時に目を通してください」
「へぇ、気が利くようになったじゃねぇか。見た目だけじゃなくてちゃんと大人になったみてぇだな。うん」
外面、内面どちらともの成長を褒められて何だか気恥ずかしくて思わず頬を掻く。
「私も水影となって資料を造る機会が増えましたから…デイダラさんが亡くなった後、角都さんに初代火影様の細胞を移植した事から現在に至るまで簡潔に纏めておきました! あ! そうだ、書きそびれてしまいましたが実は色々あってクシナダが大活躍したのですが人気を博して色んなサイズの模型が造られるように──」
「絶対こんな紙1枚に纏まらねぇだろ!?」
デイダラさんが私とプリントで視線を行き来させる。
結構頑張って纏めたつもりなんだけど…まぁとりあえず読んでもらって分からないところがあったら改めて説明すれば良いだろう。
その間に最後の人達を起こすとしよう
何故か他の方々と違い「初」「ニ」「三」の字が刻まれた特別な棺ごと口寄せされた錚々たる方々を…
「ねぇ、村雨…一応聞くけど、マジでやるの? バレたら絶対霧と木ノ葉の関係性にとんでもない傷入るよ」
「私もそこは気掛かりだけど…でもほら、うちには優秀な外交官がいるし」
「カブトの奴木ノ葉帰ってこれるかな…そのまま捕虜になるんじゃあ…」
言われてみるとカブトさんなら大丈夫だろうという前提で考えていた…まぁ外交官としての仕事の傍らで木ノ葉の孤児院で実質的な院長を務めている人に滅多な事はしないだろう。
何でも先日に厄介な事情持ちの孤児を大勢任されたと報告を受けたし猶更だ。
「そういえば少し前にサスケ君から暇が出来たら水月に顔を出す様に言われたけど…何かした?」
「ノーコメントで」
さては何かしたな。
まぁ良い、とにかくカブトさんに迷惑が掛かる事はないだろう。
「まぁサスケ君の事は後で考えるとして…とりあえずオープン」
「棺の蓋をそんな開け方する奴は地獄に行けば良いと思う」
チャクラを込めて3つの棺の蓋を操作する、そしてその中で眠る初代から三代目までの火影様を目覚めさせる──つもりだったのだが…棺の蓋は軋む音を奏でるものの強い力で抑え付けられている様に開かない。
それはかつて木ノ葉崩しの折にハレンチ博士が呼び出し開く事がなかった「四」の棺とまったく同じ挙動だった。
「これは…」
「あの戦争の時に穢土転生の印を大勢の忍に見せてしまったからね。恐らくカカシか綱手辺りが穢土転生を使って歴代の影やかつて名を挙げた忍達は封印したのでしょうね」
ハレンチ博士達の予測に耳を疑う。
確かにあの時多くの忍が印を目撃した…蘇らせたい人と生贄を準備すれば穢土転生を扱える忍も何人かはいるだろう。
そんな状況ならば歴代の火影様達などは事前に封印しておかねばいつか脅威になると思うのは自然な事だ。
「…でも、あの術には生贄が…」
「そうね。どこかでお尋ね者でも捕らえたのか、それとも死を待つだけの負傷者や病人を使ったのか…いずれにしても奴らを甘く見た様ね、村雨。…貴女やそこらの忍に死した同胞を弄ばせて里の脅威とさせるぐらいならば綱手もカカシも自らの手を穢す事など躊躇わない…それはきっと他の里の影達も同じじゃないかしら?」
もしかしたら、綱手達じゃなくてどこかの老いぼれ2人が珍しく仕事をしたのかも…なんてハレンチ博士は笑っているが、こちらは呆然とするばかりだ。
やられちゃった、それにやってしまったなぁ。
確かにハレンチ博士の言う通り、綱手様達は皆一流の忍だ…必要と判断とすればその手の行為を出来てしまう…それだけに彼らの手を私が穢してしまったのだ。
「あーらら、穢土転生ももう無敵の術じゃなくなったって事かな? まぁあんまり良い術ではないしこれで良かったんじゃない?」
確かに水月の言う通りだ…だけど──
「──ふ、ふふ、何だかこういうのも懐かしい。思えば屍鬼封尽の情報を得ようとハレンチ博士の下へ潜入しようとしたのが大きな転機だった。今度は歴代火影様を封印した人物、封印した術の特定とその解除方法の調査から…これはこれで面白くなってきた。…やっぱり中忍試験が始まる前にやっておいて良かった、近い内に自然に木ノ葉に入れるのだから調査もしやすいはず」
「うわぁ…」
「まぁ、貴女ならそういうでしょうね」
出来る事ならすぐにでも刀造りを再開したいところだが…どうせまだ水影の任期は残っている。
ならば昔の様に至高の刀造りに使う素材を求めて様々な手を尽くすのもそれはそれで楽しそうだ…もしかしたらその過程で思いもしなかった新しい素材を見つける事もあるかもしれない。
あの時、霧の里を出てから様々な世界を目に焼き付けた…そして気が付けば水影となり世界を更に見渡す様になってまだまだこの忍世界は知らない事だらけだと思い知る毎日だ、だったら穢土転生の便利さに依存するだけは勿体ないのかもしれない。
「…もしかしたら中忍試験でも何か面白いものが見つかるかも。他里の優秀な子とか、もっと予想もしない何かとか、とにかく色々」
「君が言うと本当に何か良からぬ事が起こりそうで嫌だ…はぁ、ほんとに…水影になっても結局君は変わらないんだね」
それはそうだ。
水影となろうとも私は刀匠、忍でもない身で"怪人"、"鬼人"と並び称された『霧隠れの狂人』…その生き方を変えるつもりは欠片もない。
…だから──
「うん。だから、これらもどうか変わらずによろしくね水月」
「…いや、なに? 急に…」
「え? なにって…封印術を調べるのも大変だけど上手く穢土転生出来たら今度は火影様達を抑えてもらわないとだから。ほら、マダラさんがやったみたいに穢土転生って印を知っていれば契約を破棄出来るから水月には頑張って貰いたくて──」
「やっぱ穢土転生禁止!」
水月が突然怒って「初」と書かれた棺を踏んづけて地面の中に押し戻そうとする。
…正直すごく罰当たりな上に怖いもの知らずな絵面に流石のハレンチ博士すらもちょっと引いているが続けて「二」の棺の方も踏みつけ始めたので流石にそろそろストップを掛ける。
「落ち着いて水月。大丈夫、その時に備えて水月にはまた新しく強い刀を造っておくから…これで」
「…は? え!? それって"ぬのぼこの剣"の破片!? "終刀・真月"の素材にして無限月読が解けた時に消滅したんじゃ!?」
「いや…皆誤解している様だったから内緒にしていたけど"終刀・真月"の素材となった"ぬのぼこの剣"は無限月読の中で調達したもので現実でオビトさんから入手したこの破片はあの時からずっと私の手元に残ってた」
「えぇ!?」
あの時は五影の皆さんにバレないかハラハラしたものだ。
水影になってからもずぅっと、早く使いたくて仕方がなかったがお陰で今日までバレずに隠し持つことが出来た。
…それに、もしかしたらいつかこれを使うという明確な目標があったから水影の役目に追われ本気の刀造りから離れてもずっと、私が私であり続けられたのかもしれない。
だとしたら、オビトさんには感謝しなくては…。
「うん! まずは本気の刀造りの感覚を取り戻す、そしてこれを使って今度こそ現実世界で刀を造る」
残念ながら私1人では"終刀・真月"を造ることは叶わないが、その前身であった"妖刀・村雨"。
あの刀を造ることを私の新たな目標としよう。
…うん、やはり目指すものがあるのは良い
見果てぬ夢を目指すこと…それは深い霧の中を歩くようで、時には違う道に逸れていたり行き先を見失い絶望する時もある。
それでもいつか霧を抜け思い描いた理想に辿り着ける…そう信じて歩き続けること…それが私達"霧隠れの人間"の生き方だ。
「…ああ、でも…霧雨の成長をもう少しだけ待って一緒に刀造りをするのも良いかも」
あの娘ならもしかしたら…なんて可能性が頭を過り、それがどうにも可笑しくてつい笑ってしまう。
可愛い自慢の子とはいえ私が自分以外の刀匠の手を借りようと思うなんて…気付かない内にやっぱり少し変わってしまったのだろうか?
…でも、それも悪くない。
慕ってくれる人がいて、尊敬する方々に囲まれて、愛する子達を眺め、大切な人と共に過ごせる…かつて退屈で抜け出したこの里は…今日もまた、狂おしい程に愛おしい。
【 完 】
これにて『霧隠れの狂人』完結
6年近く本作を読み続けて頂いてありがとうございます!
村雨を自由に動かした結果プロットが何度も崩壊し頭を抱え、最終的に村雨が死ぬビターエンドからカグヤ、マダラの復活も阻止して話を小規模化させる展開まで色々考えた末に無事に一番村雨らしい狂気的なのにどこか愉快な結末を迎えられました。
それが出来たのも好き勝手する本作の内容を面白いと言って頂けた感想・応援のお陰です。
改めて長らくご愛読いただきまして本当にありがとうございました