霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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謀り事

 音隠れの長、自身の師である三代目火影・猿飛ヒルゼンとの激闘の末に両腕を封印された大蛇丸は部屋の中心に置かれた椅子に身体を預けていた。

 封印を施された当初から一向に苦しみは無くならないが自身の腹心であるカブトの用意した薬で今は気休め程度に痛みは和らいでいた。

 

 そうして普段より幾分か落ち着いているとそれまで苦しんでいた為考える余裕がなかったことに色々思い至る。

 特に気になっているのは件の三代目火影との戦いの際に何故か居合わせた少女、渦柘榴村雨を迎え入れて数日が経過したが果たして自身の下でどんな物を生み出してくれるのか、彼女の刀匠としての力量を既に評価していたが故に楽しみだった。

 歓迎の証としてカブトを通してこのアジトの牢屋にいる人物で使いたい者がいれば一人ぐらい好きにして良い、そして生み出した物の出来次第ではもっと使わせてあげることを検討すると伝えたがさてどうなったことか。

 

 折角だから次にカブトがこの部屋に来たら確認しよう。そう思っているとドアが鳴る。

 

「大蛇丸様、次郎坊ですが」

「入りなさい」

 

 思っていたのとは違う人物だった。

 自身の護衛役を務める四人衆の一角、次郎坊に入室を許可すると彼は部屋に一礼と共に入ると自身の座る椅子の前に立つ。

 

「例の三代目火影の封印術ですが、私共の方が請け負いました猿飛一族配下の一派からは特にこれと言った情報はなく、申し訳ありません」

「そう、やはり四代目に縁のある者達の方を洗った方が良いかもしれないわね…ご苦労、また指示を出すからそれまでは待機していなさい」

「ハッ! …では」

「…ところで…貴方少し痩せた…いやどちらかと言うとやつれたかしら?」

 

 自身の知る次郎坊は少しふくよかな身体をしていたが今の次郎坊は随分スリムになっている。

 彼に出した情報調査の任務も猿飛一族の中でも下位の系列の一族相手の情報奪取でしかない、これほど激変するような内容ではないはずなのだが…。

 

「いえ、これはその…土遁の性質変化が欲しいと血を大量に抜き取られまして…」

「貴方、忍において自らの細胞情報の重要性を理解していないのかしら?」

「えっ!? いえ、"カブトさん経由で大蛇丸様から刀造りで配下を好きに使ってよいと言われたので協力して下さい"とあの小娘が!?」

 

 自らの血を他人に与えたと気楽に語った次郎坊の迂闊さに思わず怒気を宿した叱責の言葉を口にしたが彼は顔を青ざめさせて必死に弁明を唱えた。

 しかもその内容は自身が出した指示とは微妙に食い違っていた。

 

「私は"牢にいる者を"好きにして良いと言ったのだけれど?」

「恐れながら私は"配下の者を"好きにして良いと聞いたからと言われました…」

「…カブトの伝達ミス…ではないわよね」

「恐らくは…」

 

 思わず重い腰を上げて次郎坊を伴いながら彼女に与えた鍛冶場へと向かった。

 しかしいざ訪れてみればもぬけの殻、一体どういうことかと思えば下の階層の訓練場から気配を感じた。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 アジトの地下に存在する訓練場の中心で村雨は次郎坊と同じ四人衆の一人、鬼童丸と向き合っていた。

 彼らの表情は互いに鬼気迫るものがあった。

 

「これとこれと、これとこれとこれとこれを持って是非とも夢の六刀流を!」

「んなもんできるか!」

「そんな!? 何の為の六本腕なんですか!?」

「少なくとも刀を使う為じゃねェぜよ!」

 

 六本の刀を抱えて村雨は鬼童丸へ詰め寄るも返ってきたのはそんな無情な返答だった。

 きっぱりと否定された事で村雨は一瞬言葉を詰まらせ何かを考える素振りを見せると顔をハッと上げる。

 

「そうだ、あの糸を使えば持たずとも手に刀を縫い付けられるはず! 六刀流は目に見えた!!」

「それはただの幻覚ぜよ!」

「あなたならやれる!!」

「やってたまるか!!」

 

「…随分盛り上がっているわね?」

 

 平行線の言い争いを繰り広げている彼らに思わず声を掛けた。

 鬼童丸はまるで地獄の中で仏を見つけたかの如き目でこちらを見てくる。一体どれぐらい彼女に捕まっていたのだろうか? 

 一方で当の本人たる彼女もまたパッとこちらに振り返ってくる。

 

「ハレンチ博士!」

「その呼び方はやめなさい」

「っすみません、つい。…身体は大丈夫なのですか?」

 

 一体何で私は彼女の中でそんな存在になっているのだろうか? 

 心当たりは欠片もないがかつての同志と同じ系列の人間に扱われているようで些か不愉快だ。

 とはいえ所詮子供の戯言だ、いちいち相手するほどのことでもないだろう。そんな事より自分が問い質す事は他にあるのだから。

 

「…今日は少し落ち着いているわ…それより何を言い争っていたのかしら?」

「鬼童丸さんに六刀流を極めて頂こうと交渉をしておりました。…手持ちの素材だったので少し質は悪いですが火遁、風遁、雷遁、土遁、水遁の刀を一本ずつ仮作成したのであとは純粋なチャクラ刀と合わせて使って頂こうと…」

 

 火炎を、竜巻を、電流を、土流を、水流をそれぞれ纏った刀を一本ずつとチャクラを吸収し刀身を輝かせたチャクラ刀を六本の腕に持たされた鬼童丸を一瞥し大蛇丸は呆れる。

 基本性質である五つの性質変化、それら全てを一身で扱うなどそれこそ自身の師でありプロフェッサーと称された猿飛ヒルゼンや自身がかつて所属していた暁の一員である角都などのごく一部の者でなければ成し得ぬ技だ。

 それを刀という道具を用いて再現するなどそれこそ彼の六道仙人が扱ったとされる芭蕉扇の再現とも言える偉業だ…勿論"それ一つ"で成し得た芭蕉扇と比べて刀五本にそれぞれ一つの属性を持たせる形になっているし威力も比べる程にも満たないが、それでも素晴らしい技術だと思っていた。

 

 ──しかし。

 

「凄くカッコ良くないですか!? それぞれの性質変化の刀を一度に構えるこのお姿!! まさに至高の芸術と言えるでしょう!!」

 

 ──折角の偉業に一切の興味を持たず自身の性癖を満たすことに夢中なこの少女に果たして何と言ったものか…大蛇丸は純粋に困惑していた。

 

 個人的には猿飛先生のお株を奪う五遁全てを扱う六刀流というのも薦めてみたくもあるが他に例のない剣術だ、実用化にはかなりの時間を要するだろう…そもそも複数剣を持つのなら巻物に収納しておいて相手に合わせて必要な物を取り出した方が現実的な上に実戦向きだ。

 …まぁ五遁全ての刀を一斉に構えるビジュアル性そのものは否定はしないが仮にも自分の護衛役を務める四人の内の一人だ、余計な遊びに興じさせる訳にはいくまい。

 

「…その話は一度置いておくとして、少し聞きたいのだけれど良いかしら?」

「はい? どの様な刀のお話ですか?」

「カブトを通して牢の中の者を好きにして良いと伝えたはずだけれど少し食い違いがあったかしら?」

 

 血を抜かれて随分やつれた次郎坊を視線で示しながら問うと彼女はふるふると首を横に振った。

 

「いえ、カブトさんから確かに伺い体格の良い男性を数時間前に1人お借りしました。その成果あって大変良いデータが取れました」

「…どういう事かしら?」

「次郎坊さんの細胞を利用し作成した刀の運用を牢の中にいた男性にお願いしました。…えっと呪印適合者でしたっけ? 彼ら5人を相手に戦って頂き見事勝利を収めました」

 

 そう語り村雨は訓練場に備え付けられた記録装置を操作する。

 映し出された映像は刀身が岩で出来た奇妙な大型の刀を扱う囚人の男性と呪印状態1の適合者達の戦いの光景。

 ──その光景は大蛇丸にとって実に心を震わせるものだった。

 

 戦いが始まった直後、囚人の男性は手にした刀を地面に突き刺すと即座に地面が隆起し呪印適合者達を土の槍で貫く。

 その刀身そのものが土遁忍術の力を帯び、その力を行使したのだ。

 

 更に土の槍を凌いだ者と接近戦を始める。

 呪印により常人離れした力を振るう適合者に囚人の男は次第に追い込まれる。

 元々牢に入れられ衰えた身で大型の刀に身体がついていっていないのだ。

 

 突如形勢が逆転する。

 いつの間にか動きのキレを増した囚人の男が力強く大刀を振るい呪印適合者を剣の峰で弾き飛ばす。

 遂に囚人の男は呪印適合者5人を打ち倒した。

 

(あの回復力…次郎坊のチャクラ吸収ね)

 

 今まで数多の忍術を見てきた大蛇丸だからこそ、映像だけで分かった。

 囚人の男の動きのキレ、更には戦闘前には衰弱していた身体が幾分か肉付きも増している程の異常な回復力を見せた理由はあの刀の基となった次郎坊の土遁忍術が持つ相手のチャクラを吸収する能力由来の物だ。

 

 しかし、それだけではない。

 次郎坊のチャクラ吸収はあれ程の吸収速度ではなかったはずだ。

 ならばどういう事か? 理由は1つ。

 彼女の先祖が造り上げた忍刀の1つ"大刀・鮫肌"

 恐らくそれを模倣しようと何度も試作品を造ったのだろう、その技術と次郎坊のチャクラ吸収の性質を持った土遁が掛け合わされたのがあの刀だ。

 

 無論、本来の鮫肌よりはやはり劣っている。しかし鮫肌にはない簡易的な土遁忍術を行使することもできる独自の性能を持っている。

 そもそも衰弱していた囚人の1人が"状態1"とは言え呪印適合者を5人も相手に勝利したのだ。

 1人の忍術研究者としてこの成果を評価しない訳にはいかなかった。

 

「驚いたわ、素晴らしい出来ね」

「ありがとうございます、お借りした方々は皆カブトさんに治療をお願いしました。命に別状はないと思います」

「…そう。あの刀は量産できるのかしら?」

「次郎坊さんの細胞が一定以上あれば問題なく」

 

 村雨の言葉を聞いて次郎坊にちらりと視線を向ければビクリと肩を跳ね上げた。

 見るからに貧血気味だ、これ以上抜き取ると…まぁ死ぬでしょうね。

 

「彼の調子が万全になったらお願いするわ」

「承知しました。…よろしくお願いします」

「…あ、あぁ…」

 

 ペコリと頭を下げる村雨に次郎坊は曖昧な返事をする。

 余程採血が堪えたようだがあの刀が量産されれば戦力の底上げにも使えることだろう、我慢して貰おう。

 

 とりあえず話は済んだ。

 ならば次の質問だ。

 

「ところで…貴女どうやって呪印適合者達を模擬戦に呼んだのかしら? それに次郎坊には"私が許可した"といって協力させたようね?」

「………」

「フフ、そうやって黙っているなら"私好みのやり方"で聞き出すけれど──良いかしら?」

 

 ほんの少しだがチャクラを解放する。

 村雨は一瞬だけ肩を動かすと諦めた様に口を開く

 

「…牢屋にいる人より外の人達の方が面白そうだった」

「~~ッ! アハハハハっ!! 良い答えね、やはり貴女は面白い!!」

 

 村雨の言葉に思わず吹き出した。

 それはそうだろう。牢屋に入れたただの囚人達よりも四人衆をはじめ、自分の手元においている者達の方がより優れた忍術を持った者達なのだから。

 

 技術者として目の前の優れた素材を放置して有象無象を材料とした物造りなど馬鹿馬鹿しいものだろう。

 忍術開発者として酷く同意できた。

 

 結果として彼女は次郎坊の細胞を基にこちらの言い付け通り"牢の人間を好きに使って"優れた成果を見せ付けたのだ。ならば責めることはあるまい。

 

 それにしてもこの状況で開き直るとは肝が据わっているのか単純に危機感が欠如しているのか。

 

「つまり、私の部下達を従わせる為に"私から許可を受けた"と言ったのね」

「…駄目元で次郎坊さんに言ったら二つ返事で了承して頂けたので…他の人も同様に…あぁ、カブトさんには全部終わってから声を掛けましたが…」

「──つくづく大した度胸ね」

 

 的確にカブトだけは避けていた辺り妙に目敏い。

 四人衆をはじめ呪印適合者の多くは私に忠実過ぎるが故に従ってしまった訳か…いや、そもそも彼女を丁重に扱うよう私が彼らに忠告していたこともあって信じてしまったのだろう。

 

「まぁいいわ。面白い物を見せてもらったことだし今回は許してあげるわ」

 

 そう告げると村雨がペコリと頭を下げてくる。

 本当に変わった子──しかし面白い。

 

「次からは使いたい者がいたら私に言いなさい、考えてあげるわ」

 

 だから、もっとより良い材料を与えようと思い至った

 

「本当ですか!? ではハレ…大蛇丸さんの血をたくさ…少し…一杯頂いても!?」

「………貴女が私の下でより良い結果を見せ続けてくれたらいずれはそういう機会があるかもしれないわね」

 

 しかし思わぬ喰いつきにほんの少しだが面食らった。

 どうやら彼女の目には私も材料に映っているらしい…まったく、つくづく面白い子ね。

 取り敢えず彼女をその気にさせつつその場を後にする。背後では次郎坊と鬼童丸に村雨が説教されているようだが果たして効果はあるのか? 

 恐らく糠に釘を打つだけに終わるだろう光景は放置し自分の部屋に戻るのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 村雨に囚人以外も申請すれば刀造りへの利用を許可して更に数日が経過した。

 色々と手を出しているようだが意外な事に過度の負担を与える事は次郎坊の一件以外はなかった。

 恐らくアレは長年続けてきた"大刀・鮫肌"の模造品がより良い形で出来ることに創作意欲が刺激された結果だったのだろう。

 

 人体実験そのものに抵抗感は無い様だが、命まで奪うことに躊躇いはあるのかも知れないという事に大蛇丸としては少し意外に思えた。

 

(てっきり刀造り以外の事に関心はないと思ったのだけど…)

 

 どこか落胆した様にそう思っているとドアが勢い良く開いた。

 

「大蛇丸様ァ!! 村雨の奴はいますか!?」

「どうかしたのかしら多由也、そんな血相を変えて…」

「あのアマ、ウチの笛に刃くっつけやがった!! しかも両方に!! これじゃ口付けられねェだろうが!!」

「………」

 

 これも意外な事だったが、彼女の刀造りは良くも悪くも理解しがたい物が生まれる。

 彼女の愉快な発想は時々こんな風に見事な失敗作を造り出すのだ…勿論9割は優れた物を造り出すからたちが悪い、忘れた頃に不意打ち気味にやってくるのだ。

 

 元々自分の幻術に絶対の自信を持つが故に忍具を持たない事にプライドを持つのが多由也なのだ。

 ならば笛を武器にしましょうという発想自体は良かったのだが何故こうなったのか…あまりにも酷い。

 

「自分の鍛冶場や訓練場にいないならカブトのところかしら…探してみなさい。私のところにきたら戻すように言っておくわ」

「申し訳ありません、お願いします! ──あのアマ、見つけ次第殺ってやる…」

「……ほどほどにしておきなさいね」

 

 怒りを露わに外に出ていく多由也の背に一応の忠告をしておく。

 果たして今回の鬼ごっこはどれぐらい続くことになるのやら…。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 村雨が多由也の拳による説教を受けた翌日、今度はカブトが大蛇丸の部屋に訪れた。

 最も薬を運んだり、そもそも右腕ともいうべき存在である彼が訪れるのはそう珍しいことでもなかった。

 今回も第一の目的は薬を持ってくることだった──問題はその後だ。

 

「──ところで大蛇丸様、近々人体実験の予定はありますか?」

「急にどうかしたのカブト? お前から催促とは珍しいじゃない?」

 

 基本的にこちらの出した命令を着実にこなしつつ、独自の判断でより細部に根を回しておくのが彼の普段のスタンスだ。それが今日は珍しくこちらに予定を聞いてきた。

 

「いえ、実は彼女に新しくメスを16本程造って頂いたもので…良ければ早く試してみたいのですよ」

「…少し造らせ過ぎじゃないかしら? 別に今までの貴方の腕に不満もないのだけどね…」

「正直要望ピッタリの切れ味の物を出して貰えるという事に少し舞い上がってしまいまして…収納布も以前に大きい物に変えたのですがまた増えてしまって…」

「…貴方、少しは自制しなさい…」

 

 気が付けば自身の右腕が刃物の魅力に憑りつかれてしまった。

 特に予定はしていなかったが人体実験を行わなければ彼が"誰でもいいからバラバラにしたいぞ"何てことを言い出しかねないと何となくだが思ってしまった。

 

 …しかし彼の今の姿は、まるで新しい玩具を与えられた子供の様だ。

 幼少の頃から忍の闇の中で生きてきた彼らしからぬ純粋な笑みにほんの少しだが自身も頬を緩むのを感じていた。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 急遽行った人体実験の翌日、大蛇丸は次の来訪者である左近の報告を聞いていた。

 

「やはり大蛇丸様の予想通りうずまき一族由来の忍術を調査した結果、独自の封印術の情報が散見されました…いずれも情報の大半が秘匿され殆ど解読出来ませんでしたが例の屍鬼封尽とやらもその中にある可能性は高いかと」

「そう、ご苦労様…情報班に後程流しておきなさい」

「ハッ! ──では私はこれにて失礼します」

 

 平伏していた姿勢を正し立ち上がると速やかに退室しようとする左近にふと気になったことを問いを投げる。

 

「そういえば、村雨からは何か絡まれていないかしら?」

「…それが──"素で六本腕の鬼童丸さんに頼めば早いから別にいいです"と」

(何て無情な…)

 

 数日前にこのアジトに来るまで彼女を運んでいた相手に対して何て酷い扱いだ。

 他の四人衆に対して左近だけ彼女からの申請がなかったから気になったのだがそんな理由だったとは…

 …もっとも振り回されない分むしろ気は楽なのかもしれないが…。

 

「そういえばあの小娘、最近鬼童丸の糸を刀で切ったとか?」

「えぇ、六刀流をどうしてもやらせたかったらしく『叢雲の剣・紫雲』とやらで迫ったそうよ」

「なんなんだその情熱は…しかもあの野郎の糸を刀で切りやがるとは…」

 

 左近の戸惑いも無理はない、鬼童丸の糸は本来刀で切ることができない代物なのだが…

 後で本人に聞いたところ「"10の力の糸"と"100の力の刀"なら刀が勝つのが当然」と何とも頼もしい力技な返答をくれたのだが…

 

「しかし大蛇丸様、いつまであの女を自由にさせるおつもりですか? お言葉ですが我々も大蛇丸様が掛けられた封印術についての情報集めもありますのでこれ以上は付き合いきれません」

「…そうね、私が思っていた以上に遠慮というのをしなかったわ、彼女は」

 

 以前に自身の刀造りに他人の命を利用しない甘さがあると思ったがそれは少し違っていた。

 彼女の中では皆、命を利用する段階ではないのだ。

 元々彼女は刀造りが本業である為、自身やカブトに比べて他者の性質を把握するのに時間が掛かるということもあるがそれ以上に一人一人を何度も観察しているのだ。

 

 "まだ使い捨てるには勿体ない"、要は彼女の心境はそう言う類いのものだ。

 裏を返せば観察が終われば興味も無くすし、必要であれば対象の命さえ素材にするのに躊躇いなどしないだろう。

 そんな狂気とも言うべき歪みを大蛇丸はこの数日を通して彼女から感じた。

 ──実に自分好みの狂気だ。

 

 しかし、残念ながら左近の言い分ももっともだ。

 彼女の気長過ぎる観察で四人衆をはじめ、一部の者達が長時間拘束されているのもまた事実。

 ならば彼女の刀造りを制限するかと言われるとそれは少しつまらない、既に村雨が造る刀は自分にとって心躍る娯楽の一つであったからだ。

 

 ──故に一つの結論を出した

 

「…秘書でも与えようかしら」

「は?」

「彼女の面倒を見る監視役よ、あんまりにも時間を掛け過ぎるようなら注意したり、今回の乱闘のような物をしようものなら諫める役をね」

 

 そう説明すると左近は顔を青ざめさせ息を飲む。

 そして神妙な面持ちで声を絞り出す。

 

「ち、ちなみにその役目は誰に…」

「そんなに心配しなくても貴方達じゃないわ、貴方達には他の仕事があるから。──丁度1人、適任に心当たりがあるのよ」

 

 そう言い大蛇丸はカブトへと指示を出す。

 こことは別のアジトに滞在している"ある人物"を連れてこいと。

 

 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 

 大蛇丸の腹心、薬師カブトに連れられ"鬼灯 水月"は元いたアジトから別のアジトへと移動した。

 

「…で、ボクに任務ってどういう要件なんだい?」

「じきに分かるよ」

 

 "水化の術"の情報収集だとかで訳の分からない水槽に幽閉されていたのが数時間前、別アジトで特殊な役目を務めて欲しいと突然水槽から解放され、時空間忍術を用いてここに来たものの一体何をさせるつもりなのか。

 いい加減じれったくて直接聞いてみるも当たり障りなく流される。おまけに眼鏡の奥の瞳も一切揺れやしない。

 ──気に食わない。

 

 …とはいえ、まだまだ自分は理性的だ。

 ここであの男を仕留めたところでここが音隠れのアジトである以上逃走は困難だ。

 ここはこの男に従っておこう、特殊な任務とやらが何だか知らないが延々あの水槽に閉じ込められるよりは遥かにマシというものだろう。

 

 何なら仕事の内容次第では外に出る機会もあるやもしれない。

 脱出を図るならそこが狙い目だろう。

 気が付けばカブトがドアノブに手を掛けていた。

 

(さてさて、この先には一体何が待っているというのやら、文字通り蛇が出るか…ってやつかな?)

 

 あくまでも自然体で、その上で警戒を張り巡らせてドアの開いた先を見据える。

 長い黒髪と白い肌、見るからに不気味な奴…大蛇丸がそこにいた──が!! 問題はそんな事ではなかった!! 

 

 嘘だ! アイツは里から出ることを厳重に禁止されていたはずだ。

 それがこんなところにいるはずがない。そうだ、きっと何かの間違いだ!! 

 

「あ、水月! 久しぶり…これからよろしく…」

 

 ──あぁ…あああぁぁぁぁ…

 

「謀ったなあぁぁ────っ!!」

 

 

 

 その日、少年の悲しい絶叫がアジトにこだましたのだった。

 




水月は犠牲になったのだ。
古くから続く狂人との付き合い…その犠牲にな。
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