霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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毒を喰らわば身を滅ぼす

 波の国からの帰り道、河原を通りかかった辺りで水月が水分補給の為に休憩を提案した為手頃な大きさと形状の岩の上に腰を下ろす。

 

「……歩くの苦手なのは変わらない?」

「むしろ君は何で割りと平気そうなのさ。元箱入りお嬢様なのに」

 

 言われてみれば霧の里を出てからというもの、歩き続ける機会が多かった事もあり随分と体力がついたようだ。

 少なくともこの程度の道のり砂の里を目指して砂漠を横断した事に比べれば大した事ではない。

 

 ──いや、それ以上に。

 

「荷物が多いことにも原因があると思う。とりあえずその首斬り包丁は私が預かる……ちゃんとすぐ返すから」

「はいそれ絶対に嘘だね!」

 

 何故バレた? 

 折角さりげなく首斬り包丁に触れると思ったのだが……。

 

 何とも悲しい結果にため息を吐く。

 ふと視線を動かすと少し離れた位置で座っていたカブトさんが目に映った。

 そこでふと気になっていた事を口にする。

 

「そういえばカブトさん、波の国で何やら聞き込みしているようでしたがどうかしたのですか?」

「おや、気付かれてましたか」

「急にフードを外して町の人に話し掛けていたので気になって……」

 

 波の国に入り再不斬さんの墓に行く途中、突然フードを外して町行く男性に話し掛けたかと思えばすぐに戻ってきたという時があった。

 ──あれは確か賭博場の辺りだったか。

 

「なに、今は少し人探しをしていてね」

「ギャンブラーを?」

「んー、まぁギャンブラーとも言えなくはないかな、君も聞いた事はあるんじゃないかな? 綱手姫という凄腕の医療忍者の名前は」

 

 ……はて? 

 

「あぁ、うん。知らないなら良いんだ。すまない」

 

 謝られてしまった……。

 

「しかし医療忍者とは? ……カブトさんでは駄目なのですか?」

「大蛇丸様のあの両腕を治せるのはあの人しか不可能だろうからね」

 

 封印術に掛けられた腕を治せるとは、それはとんでもない方だ。

 しかし、それは困る。

 あの人にはもっと封印され続けて頂いて"屍鬼封尽"なる術についての情報をあつめて頂かないと……。

 

「そもそも大蛇丸様のアレは何があったのさ?」

「三代目火影を殺した際にちょっとね。かなり厄介な封印術で解除するのは容易ではないんだ」

「容易ではない? ……何らかの方法で解除できるのですか?」

「いや、通常の封印術なら奇数封印や偶数封印などの規則性とそれに準じた解印の術が存在するのだが、あの術にはそれがない。となると何らかの特殊な手段が必要と推測されるが……何分情報の少ない術でね」

 

 ……ふむ、情報が集まらないからそれをすっ飛ばして治療が出来る綱手という人を探している……と。

 

 まずい、まずい、まずい! 

 これではろくに情報が入らないまま終わってしまう。

 何とか綱手という方には彼らに見つからずにいて貰わねば……。

 

「しかし都合の良い事にその綱手様が先日あの町の賭博場に訪れたらしく、散々負けた挙げ句に"次は短冊街へ行くぞーっ!"と言って出ていったらしい」

 

 絶対に許さない! 

 仮にも医療"忍者"であるならば自身の行動をホイホイ宣言するんじゃない! おかげでこんな事になっているではないか!! 

 

「そんな訳だから休憩もそこそこにアジトに戻りたいんだが良いかな? 綱手様が他所に移動する前に大蛇丸様に報告しないといけないからね」

「はぁ、まぁしょうがないか」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

「「!?」」

 

 ……まずい、何とかカブトさんをこの場に引き留めなければ…。

 綱手様とやらの情報がハレンチ博士の耳に入れば私の計画に支障が……しかしどうする…。

 

 思わず呼び止めてしまったが……どうしよう……助けて水月…。

 

「何その視線は? …言っておくけど首斬り包丁は持たせないからね、君に預けると少なくとも半年は返ってこなさそうだし」

 

 ……後で覚えていろ水月め…

 いくら形式に従って譲ったからといって首斬り包丁を独り占めなんて……違う、今はそうじゃない、綱手様とやらの話だ。

 よし、とにかくまずはアジトへの帰還を少しでも先送りにしよう。

 

「──少し前から視線を感じる、アジトへの帰還は危険」

「はぁ? 急に何言い出すのさ?」

「昔から暗部の視線を受けながら刀を造り続けていたから人の視線には敏感……誰かいる」

 

 自信満々にそう語れば2人は小さく息を飲んだ。

 よし、これで周辺の警戒へ移ってくれれば時間を稼げる、そうしている間に本格的な時間潰しの計画を考えよう……2~3日程の時間を稼げれば綱手様もどこか別の所へ移動するはずだ。

 

 最悪水月は忍刀の為と伝えれば抱き込めるはずだ……とにかく、カブトさんの注意さえ引ければ…

 

「──村雨……つくづく…君は恐ろしいね」

 

 ……へ? 

 

 突如、カブトさんがポーチから起爆札の括られたクナイを遠くの木の茂みへと放った。

 何事かと思えば茂みの中から2人の人間が飛び出してくる。

 いずれもこちらと同様にフードに顔を含めた全身を覆い隠し何者かを窺うことも叶わない。

 

「まさか…追跡を見抜かれるとはな…」

「正直危ないところでしたよ…この周囲の蟲は寄壊蟲の一種ですね。寄壊蟲にこの追跡力…木ノ葉の暗部…それも"根"の者では?」

「……さてな」

 

 追跡者の返答は実に簡素な拒否の言葉。

 しかし彼らの正体を"根"であると確信するカブトは彼らの目的を思考する。

 何故なら"根"の主たるダンゾウと大蛇丸は繋がっているのだ…勿論、互いに相手を信用してなどいないが…それは自分がこうして生きているのも証拠の一つだ。

 しかし、ダンゾウにとっての悲願である三代目火影の失脚が彼の死を以て叶ったのだ…ならば自身が五代目火影となるべく画策するかと思ったが一体何を…。

 

 そう一瞬思った直後、自身の背後で困惑している表情の少女を見て確信に変わった。

 

「……なるほど、"根"であることすら隠しつつ彼女を殺そうと思った訳だ…」

「……え?」

「ふふ、村雨…残念ながら君はあの場で大蛇丸様について行った時に危険人物と見做されたようだ。木ノ葉がどうかはともかく、少なくとも"根"は君を抹殺する気の様だ」

 

 なんということだ……これでは一楽に再び顔を出す事も難しい…。

 ……というか、これでも実は人の視線には敏感な自信があったのにまったく気付かなかった…地味にショックだ、心が折れそう…いや、そんな場合ではない! 何たる幸運か、本当に追跡者がいようとは、これで時間を潰す事が…事…が。

 

「──何故私が?」

「そりゃ君の造る刀の情報を知ってれば危険人物と思うでしょ! ……あと君霧隠れにとっての最高の交渉カードだしね!!」

「秘書役がいてくれて良かった……よろしく水月」

「君絶対いつか地獄に墜ちるよ!! ていうかいつか堕とす!!」

 

 ……折角の首斬り包丁を実戦で使える良い機会ということで許して欲しい。

 幸い相手は2人、こちらも水月とカブトさんの2対2で人数差はない。きっと大丈夫なはずだ。

 私はせめて邪魔にならない様に小蜃に姿を隠させてもらおう……流石に大国の暗部を相手は絶対に無理だ。

 

「姿が消えた!?」

「報告にあった口寄せ動物の幻術だ! 気を抜くな!!」

「よそ見してて良いのかな!?」

 

 一瞬彼らが戸惑った瞬間に水月が咆哮と共に背負った刃を振り降ろす。

 しかしそれは寸前で回避され空を切る。

 

 しかし彼らは今、身動きのとれない宙の上……カブトさんもそれを理解していたらしく一気に宙に躍り出た。

 その手は圧縮されたチャクラが青く光っている。

 チャクラメス……チャクラを鋭く圧縮し人体を切り裂く程の切断能力を持たせる技術だ、刀を使え。

 

「──っ!」

 

 チャクラメスが暗部の方の片割れに触れる直前、突如カブトさんがその右手を引っ込めて身を翻して着地する。

 

「ちょっと何やってんのさ?」

「いや、あっちの人には直接触れたら駄目そうでね」

「は?」

 

 カブトさんの言葉に首を傾げる……触れるなとは? 

 そう思い件の人物の姿を見れば身体を覆う上着の下から見える腕が毒々しい紫色へと変色している。

 

「医療忍者の端くれだからね……毒物の類いには多少の知識があるんだ……ナノサイズの毒虫……細菌に近いタイプの奇壊蟲を体内に宿している様だ」

「うえ~……何それ……気色悪ぃ」

「っということで彼は君に任せるよ、武器越しな上に水の身体の君なら大丈夫なはずだ」

「えっ!? ちょっと!?」

 

 カブトさんの素早い分析により弾き出された結論に水月が戸惑いの声を上げる。

 昔からああいうエグイは苦手なタイプだったがアレで良く両手両足を切ってから殺す戦闘スタイルを好めたものだ……。

 

 しかし、ナノサイズの毒蟲とは中々興味深い…しかし問題はその威力だ、サイズが小さいという事は軽く痺れる程度の可能性もあるが…少し試してみるか…。

 

 戦闘が続く最中、小蜃の幻術を頼りにゆっくりとカブトさんと戦っている特に用の無い方の暗部の人に忍び寄る。

 小蜃を乗せた右手は動かさず左手だけで何とか巻物を開きその中から一本の扇を取り出す。

 

 砂隠れにいた頃にテマリさんや複数の風遁使いの細胞をこっそり拝借して作った骨組や扇面が刃で造られた扇型の刀。

 その名を『刃鉄扇・舞風』

 その優雅かつ独自の形状が素晴らしく…ただ思ったより重たかった為実は筋力がそれなりに要求される風遁刀を構えチャクラをその刃へと供給する。

 

 本来は風遁の力で切れ味を増した刃で切り裂くのだが…今回は彼を押し飛ばすのが目的だ。…ならば切るのではなく扇ぐ。

 

「何っ!?」

 

 左から右へ大きく扇ぐと吹き抜ける風が用の無い方の暗部の人を大きく吹き飛ばす。

 その先には……1人の暗部の方と戦っている水月が……駄目だ完全に射線がズレた……このままではむしろ水月に当たる。

 やっぱり戦闘経験がほぼ無い私がそんな上手くできるはずがなかったのだ。

 

「水月! その人をそっちの人に!」

「え!? ちょ、何!? ──あぁもう!」

 

「「ぐぁっ!?」」

 

 咄嗟の声に戸惑いながらも水月は身体を捻りその勢いで首斬り包丁の峰を飛んできた暗部の人を弾き飛ばしてもう1人の暗部の人に命中させる。

 凄い……首斬り包丁を完全に使いこなしている……流石だ。

 

「何のつもりだよこの刀バカ!? 余計な事するぐらいなら静かに隠れてろよ!?」

 

 さて、そんな事より観察だ。

 ──ん……これは…。

 

「ぐぅぅっ!?」

 

 毒蟲の使い手の方に触れた人は触れた部分の身体が紫に変色すると共に激しく苦しみだし、動く事も儘ならないのか蹲ってしまう。

 更に例の毒蟲の侵食が続いているのか紫の変色が徐々に徐々に広がっていく。

 

「ト……トルネ…」

「すまないテライ、すぐに取り除く!」

 

 トルネと呼ばれた方がすぐに患部に指を添えると紫の変色が引いていく。

 毒蟲が彼の指示に従い戻って行ったのだろう。

 

 

 

 ……しかしこれは良い物を見た。

 

 

 

「……水月」

「何? これ以上変な事は──」

「あれ欲しい」

 

 実に上質な素材だ。

 ハレンチ博士の下で色々と毒物は見たがアレはそれらより遥かに上物だ。

 それこそ……私が造る"七刀"の内の一つに加えても良い程だ。

 

 少しでも触れれば動けなくなる程の強力さ、肉眼で分かる程の侵食力……どちらも実に素晴らしい。

 こんな物を見逃すなど出来るはずが──。

 

「やっぱ君は嫌いだぁぁああっ!!」

「本当に……大蛇丸様を彷彿とさせてくれるよ……この子は…」

 

 2人から快い返事を頂けた、嬉しい。

 そうと決まれば捕獲の準備だ、チャクラメスによる接触が戦闘の主軸であるカブトさんはトルネさんとやらに対して相性が悪い──ならば。

 

「カブトさん、これを!」

「これは……あの時の物か」

 

『無刃刀・彗星』、カブトさん、ハレンチ博士と初めて会った際のセールストークに使った刀だ。

 

(実態を持たないチャクラの刃……触れた相手の体内へと侵食して内側から切り裂く……か、何とも可哀想に……)

 

 直接接触せず、時間差で襲う体内からの斬撃……トルネとやらにとっては限りなく相性の悪いであろう武器にカブトは同情さえ抱く。

 

 ──まぁ、追跡を看破してくれたんだ。これぐらいのご褒美はあって良いかな……そう思いながらカブトは、チャクラによる青に軌跡を描く無刃の刀を振るうのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

「ぐぅ……くそっ!」

 

 肩から脇腹へ、一筋の切り傷を負い倒れたトルネは辛うじて動く瞳で隣を見る。

 先程まで同じく重い負傷により動けなくなった同僚、テライが七人衆の刀を持った男の手によって見るに耐えない無残な姿へと変貌していた。

 

 許しがたい光景だった。"根"に絆など必要ない……しかしそれでも仲間だ。

 自身の身体に宿した毒蟲により友など作れなかった自分にとっては……"根"として共に戦う者は皆、大切な存在だった。

 

 それを踏みにじったこの者達には今すぐ、復讐を果たしたかった……動かない身体であっても体内の毒蟲を暴走させれば道連れに出来ると思っていた。

 

 ──しかし。

 

「エグい事するのね……ほんと」

「さっき人をバラバラにして殺した君が言えることかい? ……まぁこれよりはマシかな?」

 

 両腕と両足に深々と突き刺さった四本の刀。

 厄介な事にいずれもチャクラを吸う仕組みなのか力が抜け抵抗どころか指一つ動かす事も儘ならない状態になっていた。

 

「次郎坊の細胞で刀を造った時の残り物で良くもまぁここまで酷い物が造れたものだ」

「あれよりは吸収力も弱く持ち主への供給も出来ない……から、こうやって捕獲用の設計にした、触れた相手のチャクラを吸収する造りに加えてハレンチ博士の蛇から採った痺れ毒で完全に動きを止める……一応痺れるから痛みも薄くなるようには出来てるけど」

「うわー、本当に余計な気遣いだね」

 

 水月と呼ばれていた男の言う通り、痛みによる気絶も出来ず、ただただ力が抜けていく感覚と抵抗出来ない歯痒さだけが残っている。

 

「……何のつもりだ、残念だが……俺達は決して情報を漏らしはしない」

「興味ない……貴方の体内の蟲が欲しい」

「っ!? ……やめておけ、この毒蟲は耐性の無い者が触れれば死ぬだけだぞ?」

 

 その言葉に嘘はないのだろう。

 実際に観察していたのだからそれは分かる。しかしそれは人……或いは生物に触れた時に限るのだろう。

 

「刀の素材にするだけ……私は触れないから心配要らない」

「……そう上手くいくかな? 出来ると思うならやってみろ?」

 

 寄壊蟲は毒液ではない……刀に集めたところでチャクラが供給されなければすぐに飛びさってしまう……或いはそれこそ持ち主に牙を剥くだろう。

 勝手に利用し勝手に自滅するがいい。

 

 そう思った刹那、刀が突き刺さった傷口に何かが貼り付けられた。

 起爆札に良く似た札……そこに書かれていたのは"血封"の血文字。

 

「何だいそれ?」

「封印術の一種、これで彼から蟲を頂く」

「へぇ……君封印術なんて使えたんだ」

「私の一族は独自の封印術をいくつか持っている……だから色んな刀を造れた」

「そりゃそうか……むしろ、そうでなきゃ七人衆の刀とか造りようもないか」

 

 淡々と語る少女に寒気を覚えた。

 ただ静かにこちらを見下ろしながら語る少女のその目は自身の上司であるダンゾウ様の"隠された目"以上に冷たく感じ恐怖さえ抱く。

 

「それで? これはどの様な封印なのですか?」

「これは一族秘伝でもない極平凡な封印術、札に血を掛ければ誰の血でも解除される『血契封印』」

「あぁ……それなら聞いた事があるな。むしろ封印術の基礎の基礎だ」

 

 特定の一族の血を要求する封印というのはこの忍世界には多々ある。

 これはそれらの封印の大基ともいうべき封印術だ。

 勿論、封印する物にもよりけりだが封印術を扱える者ならばそう難しいものではない……ましてや"ナノサイズ"などという大きさならば苦でもないだろう。

 

「なるほど! つまり血を浴びると解除される封印札にこいつの毒蟲を入れまくって、その札を大量に使って『爆刀・飛沫』の毒蟲版を造ろうって訳だ」

「流石、水月……大した奴」

 

 嬉々として語らう2人がトルネにはとても恐ろしかった。特に声を弾ませながらも無表情な少女の言葉は確実に自分の体内に宿る毒蟲を忍具化をさせるだろうと確信させる程に……。

 

 命を容易く奪う毒蟲、幼少の頃から自身に宿ったその蟲の恐ろしさは誰よりも自分が分かっている。

 皆が恐れ友等1人としていなかった。

 それ故に自分より幼い親族の少年が"根"にスカウトされた時に元より表で生きれない者として身代わりの様に"根"に入った。

 しかし能力こそを尊ぶ"根"においてこの忌むべき力で里の為に尽くせ、中には無二とも言える戦友さえ出来た。

 

 恐れ、誇り、相反する2つの感情を抱く自身の力──それが今、この狂人によって誰にでも扱える忍具へと成り果てるなど……あまりにも恐ろしく悍ましい……考えたくもなかった。

 

 数瞬前の余裕など最早消え失せ頭の中が焦燥感と恐怖に埋め尽くされる。

 

「やめろ……やめろやめろやめろ!!」

「……大丈夫、殺しはしない。貴方の体内の毒蟲は全部貰いたいし、ベストな状態で封印する為にも餌である貴方のチャクラも欲しい。──だから」

 

 

 そっと……頭に少女の手が添えられる。

 チャクラの流れが肩部分で塞き止められ毒蟲がもういなくなった頭はただただ優しく撫でられる。

 視線を動かし何とか少女の顔を視界に捉えれば先程までの無表情から"慈愛に満ちた表情"へと変化していた。

 

 

「──怖 く な い よ」

 

 

 誰もが恐れた自分の身体に触れた少女の手は──冷えた水の如く冷たく……恐ろしかった。

 

 チャクラの大半を奪われ意識を失ったのはそんな恐怖を抱いたすぐ後の事だった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

「ねぇ……これ僕の首斬り包丁に変な毒とか付かないよね?」

 

 首斬り包丁の峰に意識を失ったトルネさんを乗せながら歩く水月がうんざりとした様に呟く。

 多分大丈夫だと思うが……まぁ何かあれば私が見てあげよう……それにしてもこのサイズの刀は人を運ぶのにも便利だ、少し痛そうではあるが今度是非私も乗せてほしいな。

 案外鬼鮫さん辺りも鮫肌に誰かを乗せたりとかもしているかもしれないな……実は結構気の回る人だしお年寄りの方をあんな風に運んでいる姿も割と想像できる。

 

 ……っと、それより大事なのはこの毒蟲を活かした刀の設計だ。

 着想こそ爆刀・飛沫の物だが形状までアレに合わせる必要はない。

 むしろ血が付着したら封印が解けてしまう事を考えると峰部分に起爆札を格納する"飛沫"の設計はこの封印札との相性は悪い……もし相手を切って噴き出した血が控えの封印札にまで付着したら大惨事なのだから。

 

 ──ならば……。

 

「数珠繋ぎに分割した鞭状の刃の一区画毎に口寄せ術式を刻んでおけば必要に応じて貼り替えができるし、リーチも得られて一撃必殺のこの毒との相性も……」

「うわぁ……またエグい武器を考えるねぇ……。勿論、これだけ付き合ってあげたんだから僕にくれるよね?」

「当然、完成したら真っ先に水月に使わせる!」

 

(それって要は試運転役って事なんじゃ……水月は気付いてない様だけど彼女が刀を造る前に解毒薬を造っておかないとな……あらゆる意味で危険だぞ)

 

 聞こえてきた会話にカブトは背筋を冷やしながら今後の予定を組み立てながら水月に心の中で合掌を送る。

 やっぱり君を呼んで良かったよ……と付け加えながら。

 

 無論、そんな心境に気付く余地もない村雨は手に入れた上質な素材の使い方にああでもないこうでもないと夢想しながらアジトへの帰還を果たすのだった。

 

 

 ──そう、思わぬ拾い物に実に満足した様子で帰還した、当初の目的をすっかりと忘れて!! 

 

 

「おかえりなさい……思ったより遅かったようだけど首斬り包丁は手に入った様で何よりだわ」

「ハレ……大蛇丸さん。ただいま戻り……戻……戻りました!?」

「どうかしたのかしら?」

 

 しまった、しまったしまったしまった!! 

 毒蟲を活かした刀の設計に夢中になるあまりカブトさんの足止めの事をすっかり忘れていた! このままでは──。

 

「ちゃんとお薬を飲んで頂けたようで安心しましたよ大蛇丸様。それよりも……良い情報が──」

「御託はいいわ……奴が……見つかったのね?」

「はい、彼の医療忍術のスペシャリスト、綱手様が短冊街という所に居るそうです」

 

 ああぁぁああああああぁぁっ!! 

 

 何で……何でこうなるんですかぁ!? 

 もおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 

 

 




『刃鉄扇・舞風』
鉄扇に刃とテマリをはじめ複数の風遁使いの細胞を素材とした術式が仕込まれており一度振るえば風の刃、扇げば暴風が放たれる。
扇の形状故に見た目は優雅だが刃部分を骨組みか扇部分どちらにするか悩んだ結果両方すれば2倍美味しいと欲張った結果、優雅とはかけ離れた"それなりの重さ"になってしまった。

実は風遁使いとして我愛羅の細胞も頂こうと画策したが砂の護りに阻まれたことで断念した為、村雨の中では未完成の刀であり売り物として扱っていない。
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