霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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砂まみれの狂人

 渦柘榴 村雨は身体を水に変化させ海に交わり移動する。

 鬼灯一族特有の肉体変化、どういう訳か遠い親族である自分もその力を持っていたことでこの脱出方法を使った。

 本来島国である水の国から出るには船を用いなければならないがそんなことをすれば即座に人に見つかるだろう。

 他にも水中に潜り、水中呼吸の忍術を用いて里の外へと出て行った抜け忍もいたらしいがそんな高度な忍術はとても使えないし、その一件から水中にも感知の結界術が及んでいるらしくその方法も不可能だ。

 

 しかし海水と同化し可能な限り自身を薄く広げた今の私を捉えることはほぼほぼ不可能。

 唯一可能性があるのは木ノ葉秘伝の瞳術"白眼"を奪った感知タイプ随一の忍、"青さん"だがあの人は長期任務で今里にいないことは耳にしていた。

 何より私が水化の術を使えると知っているのは水月と父だけ、だから海に到達した時点でそうそう見つかる心配はなくなった。

 

「木ノ葉……雲……」

 

 頭の中に叩き込んだ地図を頼りに自身の行き先を思案する。

 水の国から別の国へ移ろうとした際に真っ先に当たるのは火の国か雷の国のどちらか。

 その2択であるならば答えは火の国に決まりだ。

 

 雷の国に存在する雲隠れの里、その長である雷影は過激な性格らしく他里の人間をどう扱うかなど分かったものではない。

 一方で火の国、木ノ葉隠れの里の長である火影は比較的穏健派、無論他里の人間にそれが通るかは分からないが雲隠れよりは遥かに希望はある。

 ──そもそも雲隠れは確かに刀の流派も多く存在しているが人前で刀をペロペロしてしまうような淫らな人間が所属していたというのが非常に印象を悪くしている──やはり人間節度を守り貞淑に過ごすべきなのだ。

 

「木ノ葉といえば木ノ葉流三日月の舞いは気になる……うん、やっぱり最初にいくなら木ノ葉の里」

 

 そもそも刀の流派が多く存在していたとしても自分以上の刀匠はそうそういるものではないという絶対のプライドがあり、折角水の国を出たのならば刀の流派ではなく"刀の技術"として応用が利く"別の物"に触れてみたいというのが本音だ。だから刀の流派が多いからといって優先する必要はない。

 ──そこまで考えてふと別の案が浮かぶ。

 

 忍の技術で言うならば霧の忍刀と並ぶ画期的な忍具に栄えた里がある。

 少し遠いことは確かだか雲隠れの里よりは恐らく入ることも難しくないであろうその里を目的地へと据えて海を進んでいくのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 火の国付近の小国に人知れず上がりそのまま西の方角へと向かって行く。

 2日、3日、用意していた野営の道具がある為然程苦労はなく日々は過ぎてゆきやがて周囲の景色に砂が増えていく。

 そこから更に2日──村雨は砂漠の真っ只中で死にかけていた。

 

「水……水は……どこ……」

 

 忍としての忍術スキルは下忍のレベルは遥かに超えている。鍛冶屋として体力造りも抜かりはなかったし身体能力も──あまり良くはないがチャクラのコントロールで十分に補えている。

 それでも環境の変化に人は耐えられないのだと身をもって思い知る。

 水の国で育った人間がこんな砂漠で生き抜くことなど不可能なのだと痛感し、それでも自身の理想の為何とか身体を起こそうとして──やはり無理だった。

 

「もっと資金造りをして運び屋でも雇うんだった……」

 

 後悔に涙しながらも何とか意識だけは保つ。

 日が落ちれば砂漠は一気に冷える、少なくとも炎天下よりは個人的に楽な時間であり進むならばその時にしようと決め身体から力を抜き目を閉じる。

 

「──大丈夫か!? お嬢ちゃん、聞こえたら目を開けるんだ!!」

 

 しかしふと聞こえた声にゆっくりと目を開ける。

 

 砂隠れの忍装束の男性。

 片目を覆う前髪と顎の髭が特徴的な男性だった。

 

「こんなところで寝ていたら死んでしまうぞ!?」

「……大丈夫です、夜になったら動きますから……」

「夜が来る前に死ぬから言っているんだ」

 

 こちらの言葉に男性が頭を抱えている様子だったが意味が分からない、私の主張はおかしかったのだろうか? 砂漠の環境の影響かいまいち頭の回転を感じない。

 

「……その恰好、少なくとも砂の国の人間ではないはずだ。忍とも思えないが所属を教えなさい、さもなくばこの場に放っていく、あるいはこの場でその命を頂戴する事になる」

 

 確かにどこかの里の者ならば少なくとも外傷もなくただ砂漠で死にかけているということはないだろう。

 つまりある意味では自身にかかる疑惑をほんの少しではあるが薄めることができたのだと確信し少し気が楽になる──それにより今までより少しはっきりとした意識が目の前の男性が持つクナイに注視する。

 

 ガバッと身体を起こし男性の襟元掴み身体を起こすとクナイを持つ右腕へと更に顔を近づける。

 

「なっ!? 何なんだ君は!?」

「このクナイ……かなり使い込まれている……本来使い捨てに使われる用途が主流のクナイをここまで使い込むなんて貴方は素晴らしい人物です……しかし手入れがまだ不十分、お願いです。そのクナイ私に預けて下さい! 必ず完璧な形で、より美しいお姿でお渡ししてみせます!」

「本当に何なんだ君は!?」

 

 

 ▼▼▼

 

 

 どうやら先程のやり取りで怪しいと思われたらしく、男性の仲間と思しき同様の装束を纏った砂の忍達2名を呼ばれ最初の男性を含め3人に囲まれる状態となった。

 男性に招集されたくノ一の方から一杯の水を頂き落ち着いたことで改めて自分の身分を明かす。

 無論里を出るにあたって考えていた仮の設定だが、水の国で忍相手の鍛冶屋を営んでいたが限界を感じ別の国で技術を学びそこで新しく鍛冶屋の経営をしたいという内容を語る。

 ここで言う限界というのは水の国ではこれ以上私の技術を高めることが叶わないという意味だが、相手には経営が振るわず生活に限界が訪れたというニュアンスで伝える。

 

 自らの身の上を明かしたことで少し疑いの目が薄まり、続けて懐から巻物を取り出し、そこから自作の刀達を口寄せすると男性達は更にその目の色を変える。

 

「凄い……どれも業物ばかりだ……」

「──これは本当に君が?」

 

 しかし忍具の口寄せとはいえ忍術を用いたこと、刀の質の良さから逆に疑いの視線がより強くなった。

 ──が、それは予想の範囲内だ。

 

「はい、幼い頃から鉄を打ってきたので……。ですが霧の忍達の多くはこれ以上のものを持っているので……これらはあちらでは売れない刀」

 

 その言葉に砂の忍達は息を呑んで顔を見合わせなにやら小声でやり取りしている。

 これこそが木ノ葉ではなく砂の国を選んだ理由の1つ。

 今風の国では急激な軍縮方針が進んでいるらしい、それは砂隠れの忍達が決めたことではなく風の国の大名達が推し進める政策らしく、砂の忍達は自らの、そして国の弱体化を懸念しているらしい。

 そのため、他里と比べ優れた武器への関心は強く、そして他里の力にも敏感であるが故に目の前の刀さえ上回る武器を多く持つという情報に危機感を抱いたのだろう。

 

 ちなみに先程の言葉にも嘘はない。霧の忍達は今私が見せた刀達よりさらに上の業物を持つ者が多数いる。

 "その業物の作成者である私が"言うのだから間違いはない。

 

 その後仲間内で結論を出したのだろう。最初の男性、名を由良というらしい人物に連れられ砂の国へと招かれると暫くの間監視付きではあるが砂の里の一角に残されていた古い鍛冶屋を与えられたのだった。

 

 予想の範囲内で言えばかなり良い部類の結果に心を弾ませながら鉄を打ち鳴らし霧隠れの里といた頃に造ったものと遜色ない業物を造ってゆく。

 このまま信頼を得ていけばやがては砂の国の技術、"傀儡の術"に用いられる"カラクリ"に触れる機会を得られることだろう。その日を夢に暗部の視線を感じながら手にした鎚を振り降ろす。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 砂隠れの里にきて半年が経った。

 忍術を使えるということは隠し続け、ただの鍛冶屋としての生活は自分でも想像以上の売り上げを得ることに成功し、最初の頃より少し鍛冶場を拡張しそれなりの環境を得ることが出来た。

 暗部の監視は既に無くなり更に砂の忍達、特に職人気質の者が多い傀儡部隊の人達との交流も少なからず増えていた。

 交流が増えればやることは変わらない。客の忍の中で比較的"口の軽い"人物を見つけ、値引きの代わりに術を教わる。

 そうして知識、そして資金を集めて傀儡人形の素体を漸く手に入れることが出来た。

 

 身体能力自体は補えても体術に磨きがない自分の弱点を補う手段として目を付けた傀儡人形、それがやっと手に入ったことに気分が高揚するがそれ以上にこの傀儡人形に自分の力作達を仕込めるのだと思うと心臓の鼓動が加速する。

 

 掌から太刀の刀身が飛び出す仕込み、腕から幾本の刀が飛び出し獣の如き爪となる仕込み、腹部が大きな口の様に開くギミックに対し肋骨部分のパーツを全て刀に差し替え生まれた禍々しくも見る者の目を奪う牙の如き仕込み、その他脚にも刀、髪の部分もカミソリの刃を搭載した全身に刀を備えた正しく"淑女のロマン"という言葉がふさわしい仕込みカラクリ『梟』が完成した。

 口からも刀が飛び出す仕込みを一度造ったのだが──自分の中で何やら未知の感覚と興奮が沸き上がるのを感じ、少し怖くなった為見送ることにした。代わりに歯の部分を小さな刃にして噛み付く力をより強くはしておいた。

 

「……至高、……これ以上ない程に美しい」

「こんな近接用の仕込みしかない傀儡、実戦じゃ使いもんにならねぇじゃん」

 

 自身の店のお得意様の一人にして今回の梟の仕込み造りに協力してくれた砂隠れの下忍、カンクロウが何やら辟易した様子で呟いている。

 何をそんな呆れるようなものがあるのかは分からないが客でもある人物をあまり放置するわけにもいかないと妄想の世界から一度帰還する。

 

「感謝しますカンクロウ、全て貴方のおかげ。──お礼の方は最初に決めていた通りに」

「おっ! マジで良いのか、言ってみるもんじゃん」

 

 仕込みの手伝いをする代わりに店の物全て半額、それが協力の契約。

 カンクロウは疑い半分でやっていたようだけれど彼がいなければ梟の完成は望めなかっただろう、複雑な作業に何ならもっと安値でも構わないとさえ思う。

 

 しかし彼自身が満足している様なのでそれ以上値を下げる必要はないと判断する。

 

(まぁ下忍の身で、大量の仕込み武器を要求される傀儡の術は懐事情が厳しいのでしょう)

 

 あれやこれやと店の物に視線を動かすカンクロウを横目にカウンター席に座り自身の指から伸びるチャクラ糸を動かすとそれに連動して梟がカチャカチャと音を鳴らして動く。

 

 まだまだ動きはぎこちないがそこは時間を見つけては練習を繰り返すしかない。

 これで物理的な攻撃を無効化する水化の術に加えて私自身の体術に左右されずに戦えるカラクリによる攻撃手段を手に入れた。

 これらを組み合わせれば並の忍とならば戦える、そして上手くいけばその忍に化けて他里へ潜り込むことも出来るかもしれない。

 

 いや、その前にこの梟を参考に腕や脚自体を刀で造った傀儡人形を造ってみるのも良いかもしれない。

 大爺様の造り上げた七刀にもまともな刀の形状からはずれた物があるしそれらを越える7つの"新忍刀"その内一つはそんなカラクリ人形を混じえてみるのも面白い。

 

 名付けるならば『チャクラ糸を利用し遠隔操作で動く人型の刀、"人刀・傀儡"』

 

「良い……凄く良い! 早速設計図を……」

「何一人でぶつぶつ言ってんじゃん? 気持ち悪ィ」

 

 しまった、また幻覚を見てしまっていた。

 恍惚な表情を浮かべ独り言に没頭していた自分に軽く引いている様子のカンクロウに視線を向けると幾つかの小刀──傀儡人形の仕込みに向いたサイズの物だ。

 それに加えて大きめの針も混じっている。

 

「変わったの入れた?」

「毒を染み込ませて毒針として使うじゃん、丁度烏の口に仕込むもん探してたとこだったんだ」

「っ!? ──そ、そう……口に……、流石本場の傀儡使い、"レベル"が高い」

「別に普通の事じゃん?」

 

 平然と語るカンクロウに戦慄していると店のドアが再び開き砂の中忍、傀儡部隊の所属の男性が入ってくる。

 

「おーい村雨、でかい情報が入ったぞ!」

「……何か良い鉱石でも見つかった?」

「違ぇよ、本当に刀造ることしか頭にねぇな……お、カンクロウ様もいらっしゃったか」

 

 下忍と言えど傀儡使いの才が溢れ、現風影様の実子ということもあって男性はカンクロウに軽く会釈をするとポケットから小さな冊子を取り出す。

 

 ビンゴブック。自他里問わず忍里を抜けた忍者達の手配書で作られた本だった。

 その本の開かれたページにはある人物の写真が貼られていた──がその写真の上から×印が書かれその人物が既にこの世にいないのだと告げている。

 ──そしてその人物は自分もよく知る人だった。

 

「あの『霧隠れの鬼人』桃地再不斬が波の国で討たれたらしい」

「っ!?」

 

 男性の言葉に少なからず衝撃を受ける。

 桃地再不斬、数年前に霧隠れの里を抜けた"無音殺人術"の天才であり忍術、体術共に優れ『忍刀七人衆』に名を連ねた人物。

 

 父がまだ刀匠として刀を造っていた時に何度か店に足を運んで来ていたことを思い出す。

 あまり口数は多くなく威圧的な雰囲気を感じていたが、刀や手裏剣等を見ているのは少なからず楽しんでいる様だったし、私が造った刀も幾つか気に入ってくれていた事もあって個人的に悪い印象は抱いていない人だった。たとえそれがクーデターを起こした霧の罪人であったとしても。

 

 ほんの少し目を閉じ、もう何年もあっていない彼への黙祷をする。──そしてすぐに彼の死以上に重要な事を男性に問う。

 

「再不斬さんを討った人物の情報は? ……霧の追い忍衆?」

「いや何でも木ノ葉の小隊らしい、あの有名なコピー忍者のはたけカカシさ」

「っ!! あの白い牙の──」

 

 コピー忍者、その通り名には心当たりがないが"はたけ"その姓名には覚えがある。

 はたけサクモ、白光のチャクラ刀を持つ伝説の忍──その息子だと聞いて思わずカウンター席から立ち上がる。

 

 はたけカカシ、どの様な人物かは知らないが男性の口振りからしてかなり高名な忍なのだろう。それ程の人物ならば亡き父が残した刀の価値も知らず遺品にしていることはないはずだ。

 更に再不斬さんを討ち果たしたのならば間違いなく断刀"首斬り包丁"も戦利品として持ち帰っているだろう。

 

 考える余地は最早無かった。

 今さっきカンクロウから受け取った金を含めて店の中の資金をかき集めると同時に店に並べた刀全てを巻物の中へと収納していく。

 

 突然始めたそんな行動にカンクロウがまさかと顔色を青くする。

 

「待て待て待て! お前いきなり片付け始めて何する気じゃん!? ──まさか!?」

「少し出かける」

「嘘つけ! テメェ明らかに木ノ葉に向かう気だろ!?」

 

 半ば怒鳴り声になりつつあるカンクロウだったがしかし隣の男性がそれを諫める。

 

「諦めなカンクロウ様、この手の奴はカラクリ部隊の開発担当の連中にも数人いるぜ。自分の造る物を高める為なら何だってするっていう芸術家肌っつぅか狂信者つぅのか価値観ぶっ飛んでる連中は何言っても聞きゃしねぇ」

「けどよォ」

「ただな村雨、テメェは今"砂隠れの里"と連携とってる"鍛冶屋"なんだ。今のテメェの技術を木ノ葉に売ってみろ、テメェは砂隠れの裏切り者として処断は免れねぇ。木ノ葉の連中も忍でもねぇただの職人に手を出すたぁ思えないがそこで良い気になって刀を売ってみろ──お前の首はいつか吹っ飛んじまうぞ」

 

 自身の首をトントンと手刀で鳴らしながら男は忠告する。

 職人としての遠征ならば里としても止めるもことないだろうが度を過ぎれば"殺す"と

 小さくコクリと頷くと店の物を全て片付け荷物を整える。

 

 店の看板を下げ施錠を施すと砂の里の外へと繋がる大門へと向かうのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

「ったく、つくづく刀馬鹿じゃんよ……」

「そう言うな、さっきも言ったがああいう人種の人間は時々出てくんのさ。そういう意味じゃ砂も霧も似たようなもんなのかね」

 

 純粋な忍術や忍のスキルではなく忍具を発展させる道を選んだ里同士、生まれる人間の特徴さえ似るのだろうか。

 

「しかしあの年であれ程の才能と傾倒振りを見せたのはそれこそ砂の国をおいても一人しかいないだろうな」

「……誰のことじゃん?」

「──砂隠れ傀儡部隊随一の天才、"赤砂のサソリ"さ」

 

 20年も前に里を出た傀儡部隊の天才造型師であり自身が持つ傀儡人形"烏"を含めた数多の傀儡人形を造り上げた男の名、カンクロウは里の外へと向かう少女の背を眺めながら聞かされたその名を自身の記憶に焼き付けるのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 大門の記録人に自身の名を伝え里の外へと出る。

 半年前に自身の命を奪いかけた砂漠が視界を埋め尽くすが今の自分は半年もの間この砂漠の地で生きてきた経験がある。

 このような砂漠に恐れる理由は一つもない──何故なら傀儡人形"梟"に自身を背負わせ移動しているのだから。

 

 やはり最初にこの砂隠れの里に訪れたのは正解だった。

 傀儡人形の利便性に関心すると同時にそれに目を付けた当時の自分を褒め称える。

 霧隠れの里にいた頃は数少ない友人である水月からは『刀造ってる時以外はどうしようもないポンコツ』などと言われていたがやはり自分は刀匠としてだけではなく純粋に天才なのだと自信が付いてしまう。

 

 ──国を出て初っ端から砂隠れの里に向かうという無計画さが原因で死にかけたことは完全に記憶から抜け落ちている。

 

 そもそも今の自分にはこれから向かう木ノ葉の里、というよりも目的の人物である"はたけカカシ"という人物以外に意識を割いている余裕はない。

 再不斬さんが里を抜けて以来一度として見れていない断刀・首斬り包丁。

 越えることが目標ではあるがそれはそれとして尊敬する大爺様が造り上げた、どの様な美術品よりも美しいその刀を今一度見れるのだという事実に胸が高鳴る。

 更に、更にだ。忍の天才とまで謳われ、自身が住んでいた水の国までその名を轟かせた"木ノ葉の白い牙"はたけサクモの象徴たる白光のチャクラ刀まで見られるかも知れないというのだ、もはやこの脚は止められない──いや歩いているのは傀儡人形なのだが。

 

 ともあれ正しく盆と正月が一緒に来たような状況、我が世の春来たれりと夢見心地で砂漠を駆け──

 

「あれ梟? 何で動かな──っ!? 脚の関節に砂が!?」

 

 何てこと、つい夢見心地になって傀儡の操作が散漫になってしまっていたとは……

 整備しようにもこんな砂漠の真っ只中でバラしても結局砂が入り込んでしまうことは明白だ。仕方ないここは一度砂の里に戻って──いや駄目だ、今の位置は砂漠の丁度真ん中だ。最早気軽に戻れるような距離ではない。

 

「──ままならないものね」

 

 しかしこうなった以上仕方ない。いやそもそも考え方を変えれば既に半分は超えているのだ。

 半年前のトラウマで少し委縮するが今の私は半年間砂の里で生活してきた身、あと半分程度ならばなんとかなるものだろう。

 

 そもそも砂漠を越えたら0から自分の立場を築き上げる必要があったあの時と違い今はこの砂漠を越えれば断刀・"首斬り包丁"と"白光のチャクラ刀"が待っているのだ。

 段違いなモチベーションに心だけでなく足取りも軽い。

 

 

 

 ──そう、だからきっと……大丈夫

 

 

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