霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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錆び付いた意志

 医療忍術のスペシャリスト、綱手さんなる人物が短冊街に訪れているという情報を耳にしたハレンチ博士は早速外出の準備を進めている。

 もしもハレンチ博士の目論見通り両腕の治療を成功されては屍鬼封尽の情報集めが打ち切られてしまう…何としてでも引き留めるべきだろうが…恐らくこの状況では最早それは叶わないだろう。

 むしろ迂闊な発言をして折角得た信頼を損なってはどうしようもない。

 

 綱手さんとやらが素早く移動してくれていれば良いのだが…流石に望みは薄いだろう。

 つまり私の選択肢は一つしかないというわけだ。

 

「ハレンチ博士! 私と水月もお供します!」

「え、僕も?」

「…村雨、言ってなかったけど綱手様は大蛇丸様と同じ伝説の三忍のお一人だ。もし戦闘になってうっかり巻き込まれたら君なんて一瞬で死んでしまう」

 

 カブトさんから当然の様に諫められるがそれは元より分かっていた。

 …だが、幸い説得の為のカードは数時間前に偶然得られているのだ。

 

「分かっています。しかしお二人だけでは街の中から綱手さんを見つけるのも大変なはず。私は"そうさく"が得意ですのでお供させて下さい、接触する前には必ず離脱します」

「…なるほど。しかし…」

 

 今なお水月が首斬り包丁に吊るしているトルネさんに一瞬目をやってカブトさんは考える素振りを見せる。

 そう、偶然の産物ではあるがトルネさん達との一件でカブトさんの中では私はかなりの感知能力を持っていると思われているはずだ。ハレンチ博士を出来る限り安静にしたい立場としてこれならば無碍には出来まい。

 ちなみに私が得意なのは刀の"創作"だ。嘘は言ってない、ただ脈絡なくアピールしただけだ。

 

「フフ、余計な建前なんて要らないわ。大方、貴女が欲しいのは綱手の持つ"千手一族"の細胞でしょう?」

「え? ──あ、はい」

「いいわ、ついてきなさい。ただし勝手な行動は控えなさい。…水月、お目付け役は任せるわ」

「えぇぇっ!?」

 

 やった、まさかこんなにすんなり許可を得られるとは! 思わず私も水月同様に歓喜のあまり大声を上げるところだった…慎みは大事。

 

 …それにしても、そうか綱手さんという方はハレンチ博士と同じ『伝説の三忍』と呼ばれた方で、しかもあの『千手一族』なのか…知らなかったな。

 どうしよう、医療忍者の凄い人と聞いたから穏やかな人をイメージしていたが思った以上に武闘派なのかも知れない、大丈夫だろうか。

 

 …

 

 ……

 

 ………まぁ大丈夫だろう、水月もお供してくれる訳だし。

 

 

 

「それは良いけど村雨、貴女が拾ってきたその男は──」

「帰ったら! 帰ったらちゃんとしますから!」

 

(拉致した相手を拾ってきたペット扱いか…)

 

 …とりあえずトルネさんは牢屋入りさせておきました。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 ハレンチ博士達と共に短冊街を目指す道中、森の中に整備された道を歩きながら頭を悩ませていた。

 前を歩くハレンチ博士とカブトさんは綱手さんの経歴について語っているようだがこちらとしては今、人生において最大級の問題に押し潰されそうなのだ。

 

 このまま短冊街に行き綱手さんが見つからない様にハレンチ博士を何とか遠ざける。

 そうして腕の治療を断念させ屍鬼封尽の情報集めに注力させる。それが私の計画だった──が! 

 それでは折角の『千手一族』の細胞が手に入らない。

 

 ならばハレンチ博士を綱手さんに引き合わせるか? 

 それは駄目だ、それをしてしまえば屍鬼封尽の情報集めは打ち切られ、その情報を得る機会は失われる。

『千手一族』の細胞と引き換えとはいえ、それはあまりに口惜しい。

 

 二者択一…この世は思い通りにはいかないことばかりだ。

 そう、この世の全てにおいて光が当たるところには必ず影がある。

 勝者という概念がある以上敗者は同じくして存在する。

 平和を保ちたいという利己的な意志が戦争を起こし、愛を守るため憎しみが生まれる。

 これらは因果関係にあり、切り離すことが…何やら話が脱線しているような気がする。

 

 だがまぁ、これはそれらと同じだ。どちらかの道を選べばもう片方の道が閉ざされてしまう。

 

(一番の理想は綱手さんがハレンチ博士の腕を治せず、それに怒ったハレンチ博士が綱手さんを殺し、屍鬼封尽の情報集めに専念する様になることだけど…)

 

 そうなれば『千手一族』の細胞は手に入り、かつ屍鬼封尽の情報もいずれ集まる。

 まさに私の理想の運びと言えるが…その可能性に期待するのは現実的ではない。

 

 更に問題はもう一つある。

 よくよく考えたら人の視線には敏感でも人を探すのには何の役にも立たないという事だ。

 仮に綱手さんがやたら良い刀を持っているのなら話は簡単なのだが、そうでないなら私に綱手さんを見つけるなんて不可能だ。

 …ついて行くことしか考えなかったがこれは下手をしたら詰んでいるのでは? 

 

 よし、とりあえずお二人に綱手さんの特徴をさりげなく聞いてみよう。

 

「すみません、綱手さんってどんな人なんですか? その容姿的な特徴などは?」

「随分急に聞いてきたね? ──あくまで噂だが賭け事の借金関係から逃れる為に様々な年齢に変化しているらしく容姿的な特徴というのははっきりしないらしい」

 

 え、ではもう詰んだのでは? 

 特徴もなしで見ず知らずの街で人探し…とても無理だ。

 ひとまず"ありがとうございます"と言って頭を下げると隣を歩く水月にこっそりと近寄る。

 

「水月…素直に謝れば許してくれるかな?」

「少なくとも僕は君の事を絶対に許さない!」

「…? 私水月に何かした?」

「むしろ僕を差し置いて誰に謝るっての!?」

 

 まずい、欲望任せの行動をしていた結果いつの間にか水月の怒りまでかっていたらしい。

 

 少し待ってほしい。

 つまり今の私の周りの状況は…。

 ハレンチ博士、嘘をついて同行させてもらったが嘘がバレた時怖い。

 カブトさん、ハレンチ博士の腹心。ハレンチ博士の怒りをかったらこの人も敵になる。

 水月、…もう既に怒っている。

 

 周りは皆敵だ。

 このままではまずい…よし、何とか水月の怒りを鎮めてこちら側につけよう。

 まずは水月に謝ることからだ…さて、問題は水月が何に怒っているのかだが…。

 

「本当にごめんなさい…反省している」

 

 心当たりがない、もしくは多すぎて絞れない時はこうやって謝るに限る。

 とにかくまずは謝罪しながら水月が怒っている理由に探りを入れよう。

 

「謝ってどうこうなる問題じゃないっての! あぁ…何だって僕が伝説の三忍なんて化け物同士の戦いに巻き込まれなきゃならないんだよぉ…」

「…? まだ戦いになるとは限ったわけでは…」

「んな訳ないだろ、伝説の三忍っつったら三代目火影の教え子なんだよ、っで大蛇丸様はその三代目火影を殺した…つまりどう考えても敵対することは確定なんだよ」

「なるほど…」

 

 意外だ…水月は好戦的なイメージがあったから戦いに巻き込まれることに不安を抱いていたとは…。

 しかしそれならば大丈夫だ。

 

「心配は要らない水月…私は火影様、火影様、火影様、ハレンチ博士の大乱闘に巻き込まれてもこうして生きている…ただ巻き込まれた程度で死ぬことなんてそうそうない」

「こんな奴と一緒にいられるか! 僕は帰る!!」

「なんで!?」

 

 酷い…安心出来る様に必死に訴えたのに…。

 

「フフ、盛り上がっているようだけど心配は無用よ」

 

 軽くショックを受けて項垂れていると前方からハレンチ博士の声がする。

 ふと顔を上げてみれば何とも妖しい笑みを浮かべる博士の顔が目に映る。

 

「あいつは師が殺された程度で復讐に走る程バカじゃない…勿論、あまり良くは思われないでしょうけど」

「じゃあやっぱ駄目じゃないっスか!? もし戦闘になったら大蛇丸様は今両腕使えないんでしょう!?」

「そうね、あいつとは戦ったことはないからもし戦ったらどうなるかは分からないわね」

「だったら…」

 

 万が一…それを想定し水月は必死の表情で訴えかけるも博士はより一層妖しい笑みを深める。

 

「けれど…こちらは向こうが決して無視できない報酬を用意しているの。それに万が一戦いになろうともう一つ…手はあるのよ」

 

 背筋が冷える程残酷な声。

 皆、無意識に息を飲み、その後は誰も口を開かずただ静かに、短冊街へと向かい、足を動かすのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 入り口の大きな鳥居を潜れば短冊街の街並みが一斉に目に入る。

 中でも目を引くのが街の中心に聳える大きなお城。

 街全体を合わせて一目見ただけでその景観の素晴らしさ、そしてそれを造り上げた建築者の方々の技術力の高さが伝わってくる。

 

「──これは…何とも見事な…」

「はいはい、観光に来たわけじゃないんだ。さっさと綱手って人を捜しなよ、その為についてきたんだろ?」

「…水月は風情というものが分かっていない…文化遺産にもなっている短冊城を素通りなんてあり得ない…」

 

 呆れ顔を浮かべている水月とついでに隣にいたカブトさんの腕を掴む。

 ハレンチ博士の腕は負傷しているので掴むのは流石に問題なので控え、代わりに目線で合図を送る。

 

「早速、近くまで行きましょう! 短冊城は下からの眺めが圧巻なのです!」

「いや…まずは綱手様を捜──」

「大丈夫です…綱手様もそこにいます!」

「「絶対嘘だ!!」」

 

 水月とカブトさんが私の言葉を否定する──まぁ当然だろう。

 常識的に考えて、この街が世界に誇る短冊城…この街に訪れていてそこに足を運ばないはずがない――そして綱手さんは私達より先にこの街に着いているのだ、賭博目当ての観光とはいえこの街に来たのだからまずばあの短冊城に足を運ぶだろう、当然だ。

 すなわち、綱手さんはとっくに短冊城の観光を終えて賭博場巡りをしていると考えるのが妥当だ、つまり私がやっているのはまったくの無駄足となることだろう。

 

 …でもやっぱり今すぐに近くで見たい! …後で謝ろう。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 短冊城の真下まで到達すると眼前に聳えるその姿をしかと目に焼き付ける。

 あぁ…やはり素晴らしい。

 何と都合の良いことか、丁度太陽が屋根と重なり輝いておられる…実に壮観だ…。

 

 唯一残念なのが引っ張って来た水月もカブトさんも実に退屈そうに眺めてらっしゃることだ。

 後からついてきたハレンチ博士も同様だ…まぁこの人は以前に動いていないものはつまらないと言っていた方だ、元よりこの手の物自体が好みから外れているのだろう。

 

 折角の短冊城なのに残念だ…もっといい感じの反応などはないものなのだろうか…。

 

「いやー短冊城って下からの眺めが圧巻ですねー。さすが文化遺産になっているだけはあります」

 

 そうそう! こういう感じの…。

 

「…綱手!」

「大蛇丸!?」

 

 …え!? さっきのいい感じの反応を口にした方の隣にいらっしゃったこの金の髪の女性が綱手さん!? 

 なんたる偶然! こんな事が起こり得るの!? 

 と、とにかくやった! これでハレンチ博士に怒られなくて済む、おまけに千手一族の細胞も手に入る! 何て幸運なのだろうか! 

 

 ……いや違う! ハレンチ博士と綱手さんを引き合わせたら両腕を直されて屍鬼封尽の情報が!? 

 おまけに私と水月が離脱する前に遭遇してしまった! このまま戦闘になったら一瞬で死んでしまう…全然幸運じゃないじゃないか!? 

 

 あぁでも実際問題ここに綱手さんが居なければ私はどうなっていたか分からない…やっぱり幸運だったのか!? いやでも…もう何も分からない。

 

 あ、水月はとっくにハレンチ博士の背後に隠れてしまっている、行動が早い…。

 しかしそれも無理はない…綱手さんとハレンチ博士、かつては共に戦っていた同士という経歴に関わらず今の両者の間には強い緊張感に満ち満ちている。

 …まるで軽い刺激で起爆する爆発物のすぐ傍にいるような心境だ。

 

「随分と久しぶりだね…大蛇丸」

「かなり探したわよ」

「…暫く会わない内に随分と子供好きになったようね」

「フフ…別に変わってなどないわよ…私が才能のある者が好きなのは昔からでしょう」

「さてね」

 

 こちらの心配を無視して当事者たる2人はあくまでも自然体で会話を始め、私達も綱手さんのお付きの方も固唾を飲んでそれを見守る。

 

「──で、アンタが今更私になんの用なの?」

「実は少々お願いがあってね」

 

 本題を切り出したハレンチ博士の言葉に綱手さんは目を鋭くする。

 ハレンチ博士の顔、…そして両腕へと視線を動かしているようだった。

 暫くの沈黙に対し今後はカブトさんが慎重に口を開く。

 

「綱手様…あなたならもうお分かりのはずだ」

「ほかを当たりなよ。私はもう医療は辞めたわ」

 

 何と! 綱手さんは医療に乗り気でない、おまけに医療を辞めたとは。

 これはひょっとしたら私の理想通りに進むのでは!? 

 

「そうはいかない…この腕の傷は誰にも治す事はできない…医療スペシャリストとしてその名を馳せた伝説の三忍、綱手姫…あなた以外にはね」

「…その腕…ただの傷じゃないわね…一体何したっての?」

「なに、三代目を殺した時にちょっとね…」

「っ!? ──アンタ…ほんとに」

 

 ハレンチ博士の言葉に驚愕し目を見開いた綱手さんが疑惑の声で問う。

 その雰囲気は先程までのやりとりより僅かに怒りの感情が見て取れた。

 水月も同様に感じたのだろう、ハレンチ博士の影に隠れた状態で更に後退りを始めた。

 

「フン、そう怖い顔をしなくてもいいでしょ…形あるものはいずれ朽ちる…人も同じよ」

 

 もっとも、怒りをかった当の本人は変わらぬ調子で…いや、先程よりも嘲るような言葉を続ける。

 

「あなたも分かってるはず…なにせ最愛のヒトを二人も死なせたんだから…」

「「……」」

 

 その言葉に皆の言葉が詰まる。

 それはそうだろう、明らかに相手に喧嘩を売っている…仮にも物を頼みにきた身でこんな事を言い放ってハレンチ博士は本気で頼み事を聞いて貰えると思って──。

 

「クク…いやぁ…あれは惨い死に方だった…」

 

 直後、綱手さんのお付きの方が袖を捲りあげて綱手さんの前に飛び出してきた。

 仕込み千本…設計からして毒針だろう。

 対面した時から妙な匂いが混じった千本の匂いが彼女からしていた為、一応水化の術を備えていたが全弾ハレンチ博士に向かっていった様なので杞憂に済んだ。

 

 当のハレンチ博士もちゃんとカブトさんが守ったようだ…何よりだ。

 …流れ弾が短冊城の石垣に突き刺さっている事は気になるがこの程度なら問題ない…本当に良かった! 

 

 ひとまず安心し対面する彼女達に視線を移せば自身の上司を侮辱され怒りを露わにするお付きの方、シズネさんというらしい女性を綱手さんが「落ち着きな」と諫めている。

 

「大蛇丸…アンタ昔からそういう奴だった。私の事は良く分かってるでしょ? おちょくるのはやめなよ」

 

 何て穏やかな表情だ。

 怒って当然な言葉を掛けられているにも関わらず、すごい器の大き──。

 

「殺すぞ! コラ!」

 

 た、短冊城の石垣がぁああっ!! 

 な…なんてことを!? 世界に誇る文化遺産を殴り壊すなんて!? …なんてことを!! 

 あまりに酷い…あまり興味なさげだった水月も目の前の光景に身体を震わせて半分水になってしまっているほどだ。

 

「5つ数える…その間に後ろのガキ共も連れて消えろ! でなければ私が消す!」

 

 ん? 目の前の光景にショックを受けている間に何やら物騒な運びに…カブトさん、何とか説得を! 

 あ…駄目だ、何を言ってもカウントが止まらない。

 

「お前の愛した弟と男を生き返らせてあげるわ。私の開発した禁術でね」

「「…!」」

 

 生き返らせる禁術…三代目火影様との戦いで見せた穢土転生のことか。

 だとするならば確かあの術には生贄が必要という話だったが…弟と男…必要数は2人、私と水月の同行を許可──まさかとは思うが用心に越したことはないかもしれない。

 

 しかし綱手さんのカウントが止まったがこれは…。

 

「私達がまだ消されていないという事は…交渉成立ってことかしら?」

 

 綱手さんの答えはない…ただ俯いて思い詰めているだけ、その様子に先程までの威圧感は欠片もない。

 

「…その腕を直したら…アンタは何をするつもり?」

「私は嘘が嫌いでねェ…アナタには正直に教えてあげるわ──」

 

 危ない、ここまでずっと嘘をついていたぞ。

 生贄の事もあるし今後は少し言動に気を付けた方がいいかもしれない。

 

「──欲しいものを頂くついでに、今度こそ完璧に木ノ葉を潰すつもりよ」

「っ!? 木ノ葉を潰すだと!?」

 

 狂気を宿したハレンチ博士の言葉にシズネさんは再び怒りを剥き出しにするも肝心な綱手さんは俯いたままだ、提示された交渉内容に随分悩んでいるようだ。

 

「駄目です! こんな奴らの口車に乗っては! 弟様も叔父上様だってそんな事は望んでいません! 二人の願いを…何より綱手様、アナタの願いを…夢を忘れたんですか!?」

 

 そんな様子に危機感を覚えたのだろうシズネさんが必死に呼びかけ始めた…。

 ──しかしこれは…。

 

「私には分かっています! 今はこんなでも本当は今でも──」

「お黙りシズネ!!」

 

 綱手さんの一喝が響き渡りシズネさんの言葉が止んでしまう。

 どうやら…綱手さんの中でハレンチ博士への反抗心は無くなったようだ。

 

「お答えは今すぐでなくとも結構です。一週間後、またここで。それとこの禁術には生贄が必要です、それはそちらの方でご用意して下さい」

 

 …あぁ、どうやら私達を生贄に使う気はないようだ。

 それは良かった、──ならば後はもう、どうでも良い。

 

 諦めず綱手さんを説得するシズネさんの様子を見てハレンチ博士が自身の指を噛んで血を見せるや綱手さんが突然震えだすなどがあったが最早興味も湧かない。

 交渉の結果に満足した様子のハレンチ博士の立ち去りの指示に従い、カブトさん、水月と共にその場を後にする。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 短冊城から幾分か離れた辺りで水月が心底疲れたとため息を吐いた。

 

「はぁ…何なんだよあの人、どんな馬鹿力してんのやら」

「フフ、綱手がその気ならあの程度では済まないわ…もっとも、今のアイツにはそんな力は出せやしないようだけどね」

「僕としては何よりだよ、化け物同士の殺し合いに巻き込まれるなんてまっぴらさ」

 

 恐れている割にこうやって相手に面と向かって言える辺り水月もやはり精神力があると思うのだが…。

 

「しかし、こうもあっさり綱手様を見つけられるとは…感謝するよ村雨」

「…いえ、これぐらい何とも…」

「ご苦労様ね、…それにしても珍しく大人しかったわね、てっきり綱手に切りかかるかと思ったのだけれどね」

「何故私のイメージがそんな辻斬りの様な感じに?」

 

 気が付けばあまりに心外なイメージが築かれているらしい、良からぬイメージの払拭に協力を求めて他2名に視線を向けるも逸らされる…何故だ。

 

 ──いや、それ以前にそもそも。

 

「あの人は思った以上に酷かった、あんなものは私の造る刀の素材になんて…とてもしたくない」

 

 物造りに己の全てを捧げた者として医療スペシャリストと讃えられるその技術に尊敬の念は抱く。

 ただの負傷だけでなく封印術に掛けられた人さえ治せるなど…一体どれ程の時間と努力、思いを医療の道に捧げたというのか──私如きでは到底推し量れるものではない。

 

 だが、あの人は…父と同じ目をしていた。

 己の造った刀で母を殺された時からずっと腐ったままの父と同じ目だ。

 

 最愛の弟と男を死なせた? なるほど、それはあまりに辛いことだ。

 どの様な理由があったのかは分からないが恐らく深い悲しみを抱いたことだろう。

 愛人というのは想像でしかないが少なくとも家族を失った身としてその悲しみは理解できる。

 

 だが…そんな事で今まで自らが積み上げてきた全てを手放すのか? 

 そこに至るまでどれ程の物を自らの道に捧げたというのか…あるいはそうやって手放せる程度のものだったのか? 

 考えれば考えるほどに気に入らない。

 

 拳一つで城壁を破壊しあれ程の威圧感を放てる傑物が、道理を超越した医療を施せる才能の持ち主が、たかが死者の1人2人に囚われ自らの技術、願い、夢を投げ捨てる。

 あれは駄目だ、錆び付いた意志しかない者の細胞を私の刀に組み込むなんて冗談ではない。

 

 

 

 最早、結論は出た。

 あの人の細胞など不要のものでしかない。

 

 それどころかこのままあの人の手でハレンチ博士の両腕が治療されては私の求める屍鬼封尽の情報は手に入らない…ならば、答えは一つだ。

 

(約束の時間まで一週間…それまでに、あの人を排除する)

 

 




短冊城…一部破損するも生存!
文化遺産は大切にしましょう。
…しかしあの世界の文化遺産って他にどんな物があるのでしょうか?
終末の谷のアレとかでしょうか?
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