短冊街の中に存在する宿の一室に差し込んだ朝日に瞼を開ける。
昨夜、綱手さんと自来也さんから逃げた後水月に説教を受けたがどうやら途中で眠ってしまっていたらしい。
流石に伝説の三忍の2人を前にして想像以上に疲れてしまったのだ、張り詰めていた緊張が解けた反動で安心と共に眠気がきてしまったということで別に水月を軽んじているつもりなどは毛頭ない。
「──だから私の分の朝食を返してほしい…民宿の料理は旅行の楽しみなのにあんまりだと思う」
「あんまりなのは君の反省のなさだよ…朝食ならそこの煎餅でも食べてな」
部屋をとった時から急須とセットで置かれていたお茶菓子を指しての水月の言葉に心が折れるのを感じた。
「仕方ない、水月茶葉を取ってほしい」
「そこで受け入れるんだね君は…」
決して受け入れている訳ではない、しかし水月の怒りももっともだ、朝食が食べられないのは残念だがこのぐらいで少しでも水月の溜飲が下がるというのならば我慢しよう。
「──あ、この煎餅美味しい」
お茶も美味しかった。
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「──で、結局完全ノープランらしいけど今後どうするつもりなの?」
侘しくも美味しい朝食を終え手を合わせていると不意に水月の声がして顔を上げる。
「とりあえずは顔を隠しながら探索、綱手さんが昨日の会話で出て行ってくれているならそれが一番だから、一応はその確認をしておきたい」
「ま、君みたいなのに何か言われた程度であのババアが動くとは思えないけどね」
「それは同感…私も正直期待はしていない」
会話をしながら壁にかけていた上着を羽織りフードで顔を覆う。
綱手さんを相手に下手な変化の術を使ったところで通用するかも分からない、ならばいっそ忍術など使わずシンプルな手段の方がマシだろう…などと思っていたら水月も同様に上着を羽織っているようだった。
「水月も来るの?」
「君を1人で行動させてたら今度はどんな化け物を釣ってくるか分かったもんじゃないからね」
「流石にこれ以上何か起こるとは思えない」
そもそもおでん屋で夜食していたら綱手さんと遭遇してそこに何故か自来也さんまでついてくるなんて方がおかしいんだ、これ以上に何が起こると言うのか。
そんな失礼な予感に呆れながら廊下に出ると目を疑った。
足元に小さな動物…犬か猫かと思えば子豚がいた。
思わぬ存在に危うく踏みつけてしまいかけた足を止めてその子豚を抱え上げて後ろに振り返る。
「ほら水月、別に私が出かけても何度も大物人物と遭遇するわけじゃない。こんな子豚の時だってある」
「民宿で豚と遭遇することだってそうそうないっての…ってかこの民宿ペット連れ込みアリなの?」
「そうか、ペットの線は考えなかった…物足りなかった朝食に一品加えられるかと思ったけど…」
「遭遇して5秒で食おうと思わないでくれるかな!?」
言葉が分かるのか抱え上げた子豚も両足をバタバタとしている…少し申し訳なく思えてしまう。
「てかその豚服着せられてんじゃん、明らかにどっかのペットでしょ?」
「言われてみれば…ん? 水月、この子どこかで見た様な気がするけど?」
「え? あー…言われてみればどっかで見たような…」
「あひィ──ーッ!! すみません! その子はウチのペットです!!」
2人で首を傾げていると慌ただしい印象を受ける女性の声がする。
どうやらこの子の飼い主さんがいらっしゃったらしい。それは良かった。
「すみません、ウチのトントンが! ご迷惑は掛けていませんか!?」
「いえ、お構いなく。たまたま部屋の前を歩いていたのを今さっき見かけただけです…の…で──」
女性の方を振り返ると目を疑い身体が硬直する。
何で綱手さんのお付きの方であるシズネさんがこんなところに…。
あぁそう言えばこの子豚…トントンだったか? そう言えばハレンチ博士達と一緒に綱手さんと会った時には彼女達と一緒にいたような。
「貴様ら! 何故ここに!!」
途端に厳しくなったシズネさんの声に水月も反射的に背負った首斬り包丁に手を伸ばしているが──これは好都合やもしれない。
「水月! この場は逃げる!」
「え? ちょっと!?」
抱えていたトントンを床に解放すると水月の手を引いて駆け出す。
このまま私達を追ってきたシズネさんを捕らえることが出来れば上手く行けば綱手さんと交渉できるやもしれない…勿論シズネさんも綱手さんのお付きの方だ、簡単に勝てる相手ではないだろうが綱手さんに不意打ちを仕掛けるよりは遥かにリスクも低い…ここは勝負所だ。その為にも彼女を人気の無いところまで引き付けよう。
全力で宿の廊下を駆け抜けてそのまま外へ出ると細い道へと足を走らせる。
前日に街の下見をしておいて良かった、頭に叩き込んでおいた街の地形を思い出しながら人気のない道を走りぬけると街の外の河原へと到達する。
先程までの路地裏でも確実に人の目には付かないが広いこの河原の方が水月の首斬り包丁も十全に使えるし私達の性質変化である水遁忍術も実力以上の力を発揮できる。地の利は完璧だ!
──いざ勝負!!
「……水月、シズネさんがいないのだけど?」
「はぁ!? おびき寄せるつもりだったの!? あの豚解放したんだからついてくるわけないだろ!?」
「しまった!!」
言われてみればその通りだ…私は何のためにここまで全力疾走したんだろう?
「あのサイズの小動物はご近所さんの飼ってた"スカーレッド・ノヴァ"を思い出してつい…巻き込んでしまう事に抵抗があった」
「どうでもいいけどあの犬をその名前で呼んでたの君だけだからね。飼い主の人も君に名前付けさせたの凄い後悔してたし」
「そうなの? "シューティング・スター"とどっちにしようか悩んだけど被りそうだったからそっちにしたんだけどダメだった?」
「君以外のどこに犬にそんな名前付ける奴がいるの!? 普通にポチか何かで良かったでしょ!? ──あぁもう突っ込むのも面倒だよ、無駄な全力疾走で疲れたし」
水月はフラフラと河に歩み寄り川の水で水分補給を始めた。
幼少期の頃から仲良くしていた犬の真実を知って少しショックを受けるも今更どうしようもない、とりあえず私も水を飲もう。
「…ていうかこれからどうすんのさ、もうあの民宿も使えないよ」
「まさか同じ民宿を利用していたとは私も思わなかった…最悪ここに身を潜めていた方が良いかもしれない」
河のすぐ傍に居座るのは危険であるが水遁系の忍術を持つ私や水月には関係ない。
もしもシズネさん達に襲撃されても地の利は得られるし、どうしようもない時も水化の術で河に紛れて逃げられる。
短冊街から然程離れていないことも含めてベストやもしれない。
水月からも特に反対意見は無いらしいし、そうと決まれば最低限の生活環境造りはしておこう。
そう思った直後近くの枯れ木の林の中から轟音が響いた。
2人でその方向に目をやれば枯れ木の一つが折れて倒れたらしい…枯れている事からして自然に倒木したとも考えられるが、どうやらそうでもないらしい。
枯れ木の影に紛れた一人の少年の影に気付く。
少年の方もこちらに気付いたらしく顔を上げると──また驚いた…ここでも知っている顔に出会うとは。
その額当てが示すように彼は木ノ葉の忍だ…。木ノ葉の里に赴いて最初にカカシさんとお会いした時と中忍試験に合わせて木ノ葉に来訪した砂の姉弟と再会した時の2回顔を合わせた金髪の少年だ。
「あ──っ!! アンタってばっ!?」
この様なところで木ノ葉の里の知り合いと出会うとはやはり世界というのは狭いものだ。──しかし。
やはり水月の言葉は過言が過ぎた様だ。
確かに意外な人物ではあるが彼は確か下忍、仮に以前の中忍試験で成功を収めたとしても精々が中忍。
伝説の三忍と比べると遥かに一般的な部類の…意外ではあっても至って普通な人間だろう。
「お久しぶりです。えっと…うずまきナルト君…でしたか?」
そういう事情もあって実に安心し、気楽に挨拶をするのだった。
…しかし木ノ葉の忍が何故この様な場所で1人でいるのだろう。
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彼の事情を聞いて驚いた。
何でもある人物との賭けで"螺旋丸"という忍術の完成を目指しここで修行しているらしいのだがそんな事よりも驚いたことは別にあった。
その"螺旋丸"という忍術を教えたのが"エロ仙人"という伝説の三忍らしいのだ──いやはや…まさか…。
「ナルト君がまさかハレンチ博士と知り合い…忍術を教えてもらう間柄だったとは」
「エロ仙人を知ってんの!?」
ナルト君側も驚いている様だが…よくよく考えればあのハレンチ博士…もとい"大蛇丸さん"だ。
両腕を封じられていたとしても分身などで本体とは別に優秀な人物の育成を行っている可能性も十分にある。
ましてはナルト君曰く"螺旋丸"なる忍術は会得難易度Aの超高等忍術らしいのだ…そんなものを習得しようとしているナルト君はかなり目をかけている可能性はある。
「事情は何となく分かった。私も協力しよう」
「「え!?」」
ナルト君と水月がそれぞれ驚いた様な声を上げるもこれはチャンスだ。
どちらにしても今はまだ綱手さんに手出しする策がない…何らかの手段を考える時間が必要だ。
ならば考えを巡らせながらハレンチ博士が期待しているであろうナルト君の成長に貢献していれば、もしも綱手さんを上手く排除した後にも差し引きで許しを貰える…かもしれない。
流石に甘い考えだとは思うが何もしないよりはマシだろう。
…それに高度な忍術と知っていながらも会得しようとひたすらに努力するナルト君の在り方は実に好ましい。
恐らく先程までの修行で既に無理が過ぎているのだろう…右手が痙攣を起こしている、それでも修行を続ける辺り彼は凄く努力家なのだろう。
自らの夢、理想に全てを捧げるその姿勢に共感し協力したくなってしまう。
「いやいや、これは俺が自分の力で完成させねぇといけねぇんだってばよ!」
「真に優れた物は1人の力では完成しない、それが協力であれ利用であれ他者の力も必要であれば使うべき」
「いや…でも」
「例えばこの螺旋丸という術…恐らくチャクラの回転を利用した忍術でナルト君はそのチャクラの回転を上手く留めることが出来ないと見た…違う?」
「え!? 何でそんな事が分かるんだってばよ!?」
倒れた枯れ木に刻まれた螺旋状の痕を見てそう言うとナルト君は驚愕した様に目を見開いた。
「忍術も刀も同じ、2人の人物が同じ発想で強さを求めて最適化を繰り返せば共通する答えに辿り着く時もある」
「え…えっと…つまり何が言いたいか分かんねぇってばよ」
「…チャクラの回転を利用した刀ならば私は造った事がある…どこまでかは分からないけど協力することもできるはずだけど…どう?」
「っ! …頼むってばよ! 俺ってば…絶対この術を完成させて、火影になるっていう夢が戯言じゃねぇって証明しなきゃならねぇんだ!!」
「承知した。私の誇りにかけて必ず完成させてみせる」
痙攣している彼の手を取るのにはいかない為彼の頭にポンッと手を置いて応える。
今までに無かった仕事だがいつも通りだ、求められた物を造り上げ提供する…そう、いつもの私の仕事だ。
「…あの、盛り上がってるとこ悪いけど…目的忘れてない?」
「問題ない、要点を教えるのと改善点があれば一緒に考察するだけ、それだけなら作戦を考えながらでもできるしハレンチ博士にも貢献できる」
「それはそうかもしんないけどさぁ」
ナルト君に協力する事に些か疑問があるのだろう水月は私の言葉に曖昧な表情を浮かべているが実際、今は何の策もなく、時間が余っているのだ──それに。
「それに火影になる…なんて困難な夢に本気なところは好き。実質壊滅している七人衆を復興してそのリーダーになろうとしている水月みたいで協力したくなる」
「…僕としては刀さえ造ってくれれば後は放っておいてほしいんだけど」
「酷い…」
あまりに無情な言葉に心が痛むのを感じる。
確かに最近迷惑をかけているとは思っていたがそれほどまでとは…やはり何らかの形で埋め合わせしなければ。
「はぁ…まぁしょうがないか。どうせ本来の目的も上手くいくとも思えないし、何ならいっそ忘れてくれた方がマシだからね。暇つぶし程度に付き合ってあげるよ」
「流石水月、ありがとう」
(それはともかく、こいつホントに大蛇丸の弟子なの? 火影になるって言ってるし何か引っ掛かるような…でもエロ仙人って"伝説の三忍"から教わってるって話だしな…)
何やら水月が難しい顔をしている…やはり見ず知らずの相手に協力する事に煩わしく思うところもあるのだろう。
昼のご飯に買い出しに行くときには出来る限り奮発しよう。
さて残る6日間、ナルト君の協力と綱手さんの排除…どちらも容易にはいかないだろうが…頑張ろう!!
ナルト→努力中
村雨→努力の方向音痴中
水月→努力通り越して過労中
あと今回軽い他作品ネタがありましたがもの凄くどうでも良いところなので許してください。