短冊街から少し離れた河原で出会った少年、うずまきナルト君の修行の手伝いが始まった。
最初は彼の未完成の"螺旋丸"を見せて貰ったのだが、これは予想以上に厄介なものだった。
力の調整を間違えればチャクラの渦が弾けて周囲が吹き飛ばされたり、多少安定させる事が出来てもいざ木に当てれば渦状の痕跡を残したものの消費チャクラと手の負担と比較するとどうにも割に合わない程度でしかない。
「これホントに使える術なの?」
「完成形を見ていないから断言はできないけど…今の状態は力が分散していて出力しているチャクラとその回転が活かされていない、だから負担に対して術が弱いのだと思う」
掌が焼け付く程の経絡系の負傷を見た水月の呆れた様な呟きに私も同意しつつも思案する。
この"螺旋丸"なる忍術、彼自身も言っていたが会得難易度Aというのは伊達ではなさそうだ、何せ力のコントロールを完璧に行えなければ術本来の姿に到達すらできないのだ。
ただ性質変化を与えて放出すれば強弱の差はあれど術として成立する炎弾や水喇叭の術などとは全く違う形態変化の究極系…普通に考えればこんな少年に扱い切れる難易度ではないだろう。
しかし…これ程の術を休みを挟まずに何度も何度も繰り返すこの少年のチャクラ量、一体どうなっているのか?
我愛羅君、鬼鮫さん等の規格外のチャクラ量の人物にも劣らない…或いはそれ以上の──いや、今はやめておこう、下手をすれば修行に付き合うどころではなくなってしまうかもしれないから。
「ねぇ…また何か良からぬ事考えてない?」
「…否定はしない」
とはいえ仮にも仕事を引き受けた相手だしハレンチ博士が期待している相手だ。
少なくとも今回の一件が落ち着くまでは自重しよう。
「それはそうとナルト君、螺旋丸という術の認識はさっきので合ってる?」
「うんうん! エロ仙人もそんな事を言ってたってばよ! チャクラの回転と威力を最大にしつつも一枚の膜を作ってその中でチャクラを圧縮するイメージって!」
どうやら予想は正しかった様だ。
見たところナルト君は既に回転は申し分ないし威力も膨大なチャクラ量由来の力がある…しかしそれ故に猶更"留める"ことが難しくなっているようだ。
元々チャクラは放出に比べて留めるという技術の難易度が高いが、全力の回転と威力を施しての留めるこの術はその中でも最高峰だ…ならば。
「…一度完成形のイメージを明確に持った方が良いかもしれない」
理想形ではなく完成形を意識する、それは創造する際に必要なことだ。
ハレンチ博士に実物を見せて貰ったそうだが自身の手で一度やった方がより明確になるし、何より取り組む際のモチベーションが変わってくる。
「水月、小型の水牢の術でナルト君の手を覆ってみて」
「水牢の術!? それってば前に再不斬が使ったやつ!」
「は? 何で君が再不斬先輩の事を?」
「あーっ! お前ってば良く見たらその刀再不斬の持ってたやつじゃねぇか! 墓荒らしは犯罪だってばよ!!」
「質問してんのは僕だっての! 大体七人衆の忍刀は本来継承するルールだから僕は正統な持ち主なの!!」
水月とナルト君の口喧嘩が始まってしまった…。
修行に付き合うつもりが喧嘩を招いて時間を無駄にしては世話がない。
とにかく2人を止めなければ…しかし、ナルト君はともかく最近迷惑を掛けっぱなしの水月に説教というのは気後れしてしまう…何と言えばいいだろうか。
いや、臆している暇はない。
心を落ち着ける為、御守り代わりに巻物から刀を取り出して言い合いを続ける2人の前に立つ。
「2人とも…喧嘩はやめて」
「「は…はい…」」
気後れから腕を震わせ握った刀をカタカタと鳴らしながら精一杯声を絞り出すと2人も落ち着いたのか喧嘩をやめて頷いてくれた。
何とか気持ちが伝わったらしく安心した。
「──という訳で、一度完成形の感覚を掴んでみる為にも水月に水牢の術を用意してもらう」
聞いた話しでは"螺旋丸"の修行で最初は水風船で練習していたらしいがそれに近しいものだ。
しかし相違点として水風船と違い水牢の術は内側からの力ではそうそう割れない、だから中でチャクラの回転が多少乱れても球体状に留めることが出来るだろう。
その上、水で作られているだけあって中の様子も良く見える。
「水牢の術を補助輪代わりにしようって訳? ホントにそんな事で上手くいくの?」
「勿論"留める"という修行自体にはあまり役に立たない…一応水の揺らぎで回転が不安定になっているかとかは分かるかもしれないけど。でも疑似的であっても完成形を体験しておくのは想像しているだけより遥かに良い。それに私達としても一度完成形を見ておきたい、でないとどうやって協力すればいいのか分からない」
「なるほどね、まぁ確かにそう言われるとそうかもね」
(良く分かんねぇけど話が進んでるから分かってる振りしとくってばよ…)
「じゃあ早速やってみようか──"水牢の術"!」
ナルト君の両手が水牢に包まれる。
本来なら対象の全身を覆う分のサイズが必要だが今回はこの程度で良いというのも都合が良い、お陰でより強度を高めての水牢の術を行えたようだ。
「ではナルト君、どうぞ」
「よっしゃー! ──集中…集中!」
水牢の中で両手を動かしチャクラの球体を形成する。
チャクラの回転に水牢の術の内側がさながら激流の様になり表面も時折ボコボコと凹凸を繰り返しているが先に触れた様に普段以上の強度であることが幸いしたのか破られはしていない。
「うおおおおお──ーっ!!」
ナルト君が雄叫びを上げながら水に覆われたチャクラの球体を目の前の巨木に叩き付ける。
「──マジ…」
「これは…想像以上」
先程迄の渦状の痕跡とは違う。
まるで抉りとられたかの様に巨木は削られ、音を奏でながら倒れる。
「大した術だね、これでもまだ未完成なんだろ?」
「勿論。水牢の術の表面は何度も凹凸していたからやっぱりチャクラを留め切れてない。だから回転も歪になってしまって威力も減衰してしまっている」
今のは水牢の術で閉じ込めていたからチャクラが弾けることなく球体を維持出来ていただけ、本来ならば木に当たる前に崩れていて、術としてはまだまだ未完成だ。
しかしそれでこの破壊力とは──やはり面白い。
「ナルト君はどう? 完成形に比較的近い状態を体感して…」
「何となく…前までとは違う感じがしたってばよ。…でも」
水牢の中で完成形に近いものを作ったからこそより理解させられる困難さに直面し顔を強張らせている。
無理もない、水牢の術の様子をみればどれ程留め切れていないのかが明確にされていたのだから。
私の観察でしかないがナルト君の問題は回転の拙さだ。
乱回転を行うらしい本来の形に対してナルト君は一定方向の回転しか出来ていない。
それを左手を使うことで何とか回転の方向を変化させているようだった。
上手く考えられているがその分だけ留める事が難しくなっているのだろう。
ならば回転を矯正するのが一番かと思えるが…道筋というのは時として理屈ではない。
自らが築き上げてきた経験、オリジナルな発想というのはつまり最も自分に合ったやり方と言えるのだ、下手に崩すよりもこのまま発展させていく方が良いだろう。
右手の回転を左手で乱回転へ変化させる。
彼流のやり方の理屈で言えば例えば留める為の手が更に一本あればあるいは…いや、それは無理だ。
だとするとやはり"留める"技術を身に付けるか、片手で"乱回転"を行い左手を"留める"為に使うか、というのが現実的だろうか。
「そうだ! さっきの水牢の術をもっかい頼むってばよ! 何度もやって凹凸しない調整ってのを感覚で覚えるってばよ!」
「力技…でも悪くない」
どちらにしても"螺旋丸"の完成にはまだまだ技術力が不足している、ならば今はひたすらに繰り返すのも悪くないだろう。私も技術が拙い頃はひたすらに鎚を振るっていたものだ。
──という訳で。
「じゃあよろしく水月」
「言うと思ったよ! あー、もう!」
ごめん水月、でも私の水牢の術じゃ多分破られるから水月じゃないと無理だから…。
まぁこれで一旦私に出来ることはないだろうし、様子を見ながら綱手さんを排除する手を考えよう。
▼▼▼
すっかり夕暮れになってもナルト君は修行を続けていた。
何とも脅威的なスタミナだがそれでもなお修行の進捗は振るわない…想像通りではあるがやはりこの"螺旋丸"という術の習得は容易にはいかないようだ。
「ねぇ…ちょっと、いつまで続ける気? もうボチボチ今日は終わろうよ…」
「まだまだ、絶対にあと6日で完成させなきゃなんねぇんだ…休んでなんかいられねぇってばよ」
修行に付き合う水月の方も随分疲労が溜まった様だ…水牢の術を連発しているのだから無理もない。
むしろここまで修行を続けられるナルト君の方が異常だろう、膨大なチャクラ量もそうだが掌の経絡系の負担が軽い休憩で修復していることも要因の一つだ…実に興味深い。
──しかしこれ以上は止めておいた方が良いだろう。いくら継続できるとはいえ疲労は溜まっているようだし、何より丁度"本命"の方も良い案が浮かんだところだ。
「ごめんなさいナルト君、今日はここまで。いくらチャクラが残っていると言っても休みは必要」
「心配いらねぇってばよ、こんぐらい全然余裕だってばよ!」
「…仕方ない、あと一時間は協力する、その後は休憩。それで良い?」
「よっしゃー!」
明らかな強がりだとは分かるが本気で取り組んでいる物を取り上げてはいけないだろう。
水月から非難の視線を向けられるが…むしろこう言わないとそれこそ二時間三時間と続けてしまうだろうし許してほしい。
その後はやはり完成とまではいかなかったが修行を開始した頃に比べると僅かばかり安定感が増したのを確認し修行を終えるのだった。
「それじゃあナルト君、私達は今日は失礼する」
「ったくここまで付き合わされるなんてね。本来なら協力代ぶん取ってやってるとこだよ」
「サンキューだってばよ村雨の姉ちゃん、水月!」
ナルト君としてもある程度の手応えを感じられたのか一時間前の様に尾を引いている様子もなく疲労に染まった顔に何とか笑顔を浮かべていた。
「右手の経絡系は随分反動を受けている…止めはしないけどこの後も続ける気なら無理はしないように」
「う…わ、分かってるってばよ!」
「なら良い。…貴方はチャクラのコントロールはあまり上手くないけど目の前の困難に逃げない真っ直ぐに輝く名刀の如き意志がある。…焦らずともきっと完成させると私は思う」
「うん…ありがとだってばよ」
「──礼を言うのは私の方。…良い時間を過ごす事が出来た」
笑顔で礼を言うナルト君に手を振って応えると水月と共にその場を後にする。
ひとまずこの後は綱手さんや自来也さんと遭遇しない様に気を付けつつご飯としよう、頑張ってくれたせめてもの報酬として水月に何か美味しい物を食べさせてあげないと。
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夕食の後、幾分か回復した様子の水月を伴って短冊城の屋根の上へと登る。
月と星の明かりに照らされた短冊街を一望し一度大きく息を吸うと今日出会った金髪の少年を思い出す。
自らの決意に従い超高等忍術の会得に必死に努力するあの姿…自身の初心を思い出さずにはいられなかった。
そう、どれ程険しい道であろうとも…夢を叶える為ならば己の全てを捧げて見せよう。
あぁ、本当に礼を言うのは私の方だ…おかげで決意が固まったし良い案が浮かんだ。
「水月、水化の術の用意を。『刃鉄扇・舞風』で風の流れを作り先日手に入った毒蟲を"短冊街全域に散布"する」
ナノサイズかつ即死性の毒蟲だ、綱手さんがこの街のどこにいようが確実に致命傷を与えられる。
勿論医療忍術のスペシャリストである綱手さんならば解毒できる可能性はあるだろうが逆に言えば彼女以外はまず助からない。まさか自身以外の者が全て死体と化した街に留まり続けたがるはずもない、人の死にトラウマを抱えているのならば猶更だ。
そしてもしも彼女が何らかの手段で街の住人全てに治療を施そうすれば相当の負担が掛かるはずだ…そうなれば如何に伝説の三忍といえども勝機はある。
私達は水化の術で身体を水にしておけば毒蟲の影響はない事も含め完璧な計画だ。
懸念すべき事といえば全てが終わった後でのハレンチ博士達からの追及だが…。
「まぁ流行り病として言い張ろう──いざ」
「バカなのか君は―――っ!!」
叫び声と共に水月に背中を蹴り飛ばされ短冊城の屋根から突き落とされた。
予想だにしない水月の行動に呆気をとられ辛うじて両腕を庇いながら地面に激突する。
全身にチャクラを巡らせ身を守るも防ぎきれない痛みに涙を浮かべながら頭上の水月に視線を向けるのだった。
(止めるならもっと平和的に止めて欲しかった…凄く痛い)