霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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今回残酷な描写は少し強めに出た感があります。
苦手な方は申し訳ありません。


過剰戦力大作戦

「全身に激しい殴打、止血は出来ているが掌に切り傷…一体何があったんだい?」

 

 短冊城からの落下により全身を負傷した私は現在新たにとった宿の一室で駆け付け医師(カブトさん)の医療忍術による治療を受けていた。

 良かれと思った少々過激な作戦に拒否反応を示した水月から突き落とされたのだがそれをそのまま話してしまえば今後の動きに差し障る…果たしてどうしたものか。

 

「こいつが短冊城の屋根の上に登ったら足を滑らせて落下してね、転落死するならせめて刀を抱いて死のうなんて咄嗟に刀を取り出して怪我したんだよ」

「あんまり危ないことはしないでね?」

 

 カブトさん!?何故そんな出鱈目な話を疑いもせず一瞬で信じてしまうんですか!?

 一体カブトさんの中で私のイメージはどうなっているというのだ…いくら何でも信用が無さ過ぎでは?

 

 カブトさんから向けられる憐憫の眼差しに愕然としている内に治療は終わり全身の痛みは無くなったが代償に心に傷を負ってしまったのを感じる。

 

「やれやれ、観光程度なら構わないと大蛇丸様は言っていたけれど…これでは少々心配だな」

「僕もこれのお目付け役は流石に疲れたよ、残りの時間はアジトの方で過ごしていいんじゃないかな?」

 

 カブトさんの言葉に水月も同意だと主張する。

「待ってほしい」そう言いたかったのだが、水月もこれ以上は付き合えないと言った顔に喉まで出かかったその言葉を抑え込めるしかなかった。

 

 それはそうだ、昨夜私が起こそうとした行動は確かに綱手さんの排除自体は叶っただろうがどう考えてもハレンチ博士からすれば私達の反逆であると筒抜けなのだ。(流行り病などという言い訳も当然通じないだろう)

 それに仮にハレンチ博士から見逃されようと無差別の大量殺人などしでかせば里中からの指名手配は免れない…あまりに杜撰な発想で自分達の未来を失う寸前だったのだ。

 …というのを昨日の夜中にみっちり説教を受けた手前反論し辛い。

 

 それに一晩考えて私としても自らの考えの浅はかさを漸く理解した…

 

「はい、観光は堪能しました。支度をしますので暫しお待ち下さい。」

 

 もう短冊街に留まっている訳にはいかない。

 昨夜に短冊城を見ていたという言い訳をした以上、実際これ以上ここに留まりたがる理由がないのだ。それにも関わらずアジトへの帰還を拒んでは"それ以外"の目的があると自白するようなものではないか。

 

 これ以上綱手さんへの手出しは出来ない。一応脅しは掛けたものの効果の程は期待できない。

 うずまきナルト君の"螺旋丸"なる忍術の完成への協力、更にはその完成形をこの目で見ることは叶わない、完成に協力すると言っておいてこの有様とはなんとも不甲斐ない。

 あらゆる要素が口惜しいがやむを得ない。

 

 一泊程度の為然して出していた物もない為早々に荷物を纏めるとカブトさんの近くに寄る。

 直後、視界を煙が覆い視界が白に染まる。

 

 逆口寄せの術だ、アジトへの帰還を一瞬に果たす時空間忍術。

 ――実に好都合だ。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 視界が晴れると目の前には椅子に腰かけたハレンチ博士と傍に控える四人衆の1人左近さん。

 カブトさんが留守中の間、ハレンチ博士の周辺の世話と先程の逆口寄せの役目を受け持っていたのだろう。

 

「おかえりなさい。短冊城から転落したと報告を受けた時は驚いたわ。観光は楽しめたかしら?」

「心配をかけて申し訳ありません…十分に楽しめました。…今日からはいつもの刀造りにもどるつもり」

「それは良かった、最近は貴女の造る刀を見るのが楽しみの一つだったからね…期待しているわ」

 

 出迎えて頂いて真っ先に心配と奇妙なまでに称賛の言葉を送ってくるハレンチ博士に僅かに違和感を感じる…以前に水月からハレンチ博士から疑われ始めていると忠告された事で過敏になっているのかもしれないが果たして真相はどうか…いまいち腹の底が読めない人だけに反応に困る。

 

「大蛇丸様、僕も彼女の観光に振り回されて疲れてまして…部屋で休みたいんスけど?」

「そう、ご苦労だったわね。次の指示があるまでは好きになさい」

 

 労いの言葉を掛けられた水月がその場から退出する。

 想像以上に負担を掛けてしまっていたらしい、本当に申し訳ない。

 

 水月の背中を見送ると私も自分の鍛冶場に戻ろうかと思ったがその前に"ある事"を思い出し「あぁ」と口を開く。

 

「昨日うずまきナルト君とお会いしました」

「ナルト君と?短冊街にいたのかい?」

「カブトさんとも知り合いでしたか?」

 

 思った以上に顔が広い、ハレンチ博士から術を教わっているという話からしても結構な有望株なのかもしれない。

 

「ふふ、あの九尾の子が短冊街にいるとはね。任務でもしていたのかしら?」

「いえ、ハレンチ博士から与えられたという術に随分苦心しているようでした。ボロボロになっても修業の手を止めずに熱心に。」

「そう、中忍試験の様子を見た限りでは五行封印は解けたものかと思っていたのだけど…少し意外ね」

「五行?…とにかく頑張っている様でした」

 

 はて?ナルト君が与えられたのは"螺旋丸"という術だったはずだが?…封印術?まぁハレンチ博士の事だ、何かしら同時進行で何かしらの育成を施しているのだろう。

 

 とりあえず報告はしておいたし、そろそろ失礼しよう。久しぶりに刀造りもしたい。

 

「――では、私はこれで」

「村雨、ナルト君から何か面白い素材でも調達できたかしら?」

 

 退出しようとした矢先、ハレンチ博士から呼び止められて足を止める。

 その声はどこか期待と…何かを探る様な意図を含んでいる様に感じた。

 

「彼は興味深い人物でしたが手は出していません。流石の私も…怖い組織を敵にしたくないので」

 

 恐らく有望株であるナルト君に変な事をしていないかの確認なのだろうが、妙に遠回しな追及に精一杯の皮肉で返す。

 貴方達を敵にするつもりはない――と、真正面から伝えればハレンチ博士は一瞬だけ瞳を揺らしたがすぐに「そう、ありがとう」とだけ言った。

 …一体何だったのだろうか?

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 村雨が退出するのを見送ったカブトは先程の村雨の言葉を脳内で反芻し大蛇丸へと視線を向ける。

 

「大蛇丸様、まさかとは思いますが彼女…"暁"を?」

「さてどうかしら。あの組織には干柿鬼鮫がいるからね…彼の消息を追って辿り着いた可能性もなくはないかもね」

 

 九尾を宿した少年、うずまきナルト。

 その力を求める組織"暁"、最近になって表立った動きを見せる様になったとは言えまだまだ五大国でさえ捉え切れていないその組織を彼女はどうやって?

 

 理由は分からない。

 だが出会った相手はとりあえず刀の素材になるかならないかを吟味する彼女がうずまきナルトと遭遇し、手出した後の危険性を考慮したということは他の可能性は考えられない。

 

 現に木ノ葉の里を敵に回すかもしれないという理由だけでは彼女が躊躇したりしないことは先日に"根"の忍を捕らえた事からして明白だ。

 つまりは木ノ葉の里以上に敵に回したくない相手を彼女は認識しているという事なのだ。

 

「まったく、ただの天才刀匠かと思っていたのですが随分と底が知れない…あれで奇行に走るのをやめてくれればどれ程良かったことか」

「あらカブト、その言葉は私にも刺さるのだけれどね」

「…それは失礼を」

 

 隣にいる底が知れない"天才忍者"でありながら奇行によって里を出ることになった人物からの意地の悪い視線にカブトはため息混じりに謝罪する。――明らかに戯れと分かっているので彼らしくない少々おざなりな対応に大蛇丸は肩を震わせた。

 

 しかし端で聞いていた左近としては大蛇丸の護衛役という立場として見過ごすことが出来ずにいた。

 

「まさかとは思いますが…あの女は大蛇丸様を利用して干柿鬼鮫の持つ大刀・鮫肌を奪おうと画策しているのでは?」

 

 彼女が"暁"を知っているとしたら十分にあり得る話だ。

 元・暁のメンバーである大蛇丸は五大国の影以上に暁の情報を有しているし、写輪眼を狙う者として暁のメンバーであるうちはイタチと対立する可能性が高い。

 そしてうちはイタチの相方こそが干柿鬼鮫だ、そう思えば彼女からしたら大蛇丸こそが最も利用価値のある存在なのかもしれない。

 

 事実だとしたら許し難い程に不遜極まりない…しかし左近としては既に"あの女"はそういう事をする人物として認識されている。

 まだ推測の域でしかないが怒りが込み上がるのを感じ大蛇丸へと視線を向ける。

「あの女を追及、場合によっては処断する許可を下さい」という言外に訴えるその視線を受け大蛇丸は再び肩を震わせた。

 

「言っておくけど、私は彼女が腹の内で何かしらを企んでいるのは知っているわ。生憎、何を企んでいるかまではまだ分からないけどね。…まったくあの鉄仮面は大したものよね」

「でしたら尚更――」

「けど、最近は水月を与えた事もあって少しずつ尻尾を出し始めた様だしね」

 

 大蛇丸としては面白いのだ。

 配下の人間以外で自身と裏で取引する人物とて何人もいる、大きなところでいうと木ノ葉の"根"その首魁たるダンゾウだが、彼などはその行動理由は"木ノ葉における己の台頭"と分かりやすい。

 

 それに対して彼女はどうだ?

 自身の配下に転がり込んだと思えば自由に振る舞いながらも自分を満足させる結果を示し、その上で腹の内を読ませない。

 計画性、実力、いずれもダンゾウとは比較にならない程に稚拙だが、"理解不能"である彼女の在り方は"謎を解き明かす為"に生きる大蛇丸にとって好奇心を刺激した。

 

 幻術で聞き出すことも可能やもしれないがそれでは少々味気無いのだ。

 

「面白いじゃない。彼女がどこまで私に隠れて動けるか、サスケ君が手に入るまでの退屈も忘れられるというものよ…それに、別に甘くしているつもりもないわ。彼女が私に求めるものがある内は安い餌で働かせることも他所へ目移りさせずに縛り付ける事も出来るからね、いずれにしても――利用するのはこの私よ」

 

 殺意ではない、しかしドス黒い狂気。

 それを肌で感じて左近は息を飲む。

 配下として尽くしている内に向けられる事のなくなった大蛇丸の本気の圧力に身体は震え冷や汗が全身から吹き出すと同時に自身の愚かさを痛感させられる。

 

 "この方を出し抜くなど出来るはずがないのだと"

 故にこそ、そんな幻想を抱く女に向けていた怒りがいっそ同情へと変化する様に思えたのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 大蛇丸達が自身の扱いを語らっている頃、そんな事を露知らず村雨は与えられた鍛冶場で数日振りの鎚を振るっていた。

 

 

 

「うん、やはり私には…このやり方が合っている」

 

 この数日の内に自分の考えの愚かさを痛感し考えを改めた。里を抜けてからというもの、良い素材に恵まれた事で造れた優れた刀達を自分で扱って成功した事がままあったせいか忘れてしまっていたが、本来自分は刀を誰かに託す存在なのだ。

 

 今までは驕りが過ぎたのだ、だからこそ自分なりのやり方を今度こそ正しく貫ける。

 

「名付けて『やり過ぎた!過剰戦力大作戦の巻』」

 

 今日を含めて残る4日間、この時間を利用してハレンチ博士に特別な毒刀を造る。

 

 伝説の三忍にして医療忍術のスペシャリストである綱手さんは毒ごときで容易く死ぬ人物ではない。

 綱手さんの事を良く知るハレンチ博士であればその認識をより強く抱いているはずだ。だからこそ、綱手さん捕獲の為に必要とあれば毒刀であっても躊躇いなく使うだろう。

 

 ならば勝負はそこだ。

 要は治療出来ない程強力な毒刀を造り捕獲の為の攻撃で誤って綱手さんを殺してしまったという状況を造る。

 

 この方法であれば私が綱手さんに返り討ちに合う心配はなく、何よりも手を下したのは致死量の毒を見誤って与えたハレンチ博士だ、私は悪くないという完璧な図式が完成する。

 

 完璧だ、やはり刀匠は刀匠として戦うに限る。

 

 勿論、この計画には綱手さんとハレンチ博士の取引が成立せず対立するのが前提となるのだが、そこは最早賭けるしかない。

 だが、そう分の悪い賭けではないはずだ。

 例の取引の時もシズネさんは猛反対していたしおでん屋さんで遭遇した自来也さんも難色を示していた、彼らが綱手さんを説得する可能性は十分あるし、綱手さんもあの取引に即乗らなかったのだから迷いがあるのだ。

 

「賭けるには十分。――さぁ造ろう」

 

 作業台から視線を移して部屋の隅に設置された拘束台に縛られた人物に目をやる。

 木ノ葉の"根"に所属する、名はトルネさんだったか。

 捕らえた後ずっと多由也さんに幻術を掛けてもらっているから意識はなく項垂れているが用心に越したことはないだろう。

 

 カブトさんから大量発注を受けて造った解体メスを片手に彼の身体を見る。

 今までの環境では協力してくれる人物から髪や血を媒介として提供してもらう、もしくは気付かれない程度に拝借する程度しか出来なかったが人体丸ごと使えるというのもそれはそれで悩ましいものだと笑みが溢れる。

 

「…こういう時に青さんが持っていた白眼があれば便利なのに」

 

 チャクラの動きまで見切れる観察眼と物体を飛び越えて見れる透視眼としての能力、刀造りにおいて素材選びから作成中まで多岐に渡って使えることだろうに…。

 

 いや、時間もないのだ、無い物ねだりは止めておこう。

 

「やはり素材とするのに一番強力なのは心臓部?」

 

 チャクラの経絡系というものは全身の至るところに張り巡っているものではあるがやはり一番多いところでいうと心臓だろう…摘出するならばカブトさんのお力をお借りしたいところだがあの人がいては作戦に支障をきたす。

 となるとやはり自力で摘出をするしかないか。

 

 毒蟲対策の手袋をしてトルネさんの身体を弄りまわして素材として目ぼしいところを吟味する――そうして見つけた。彼の秘術である毒蟲とは別の要素だが実に良いものがそこにはあった。

 

 彼の舌に刻まれた術式、呪印だ。

 それもハレンチ博士が四人衆の方々を始め配下の者達に刻んだものとは別種のもの、口に刻んでいることからしても口封じの類いの呪印だろう。

 刀造りに活かせるやもと、このアジトに来てから保管されていた資料を読み漁って呪印の類いの知識もかなり身に付けたから分かるのだが、これはかなり強力なものだ。口封じどころか全身が硬直し動く事さえままならなくなるであろう程に…。

 

「――これはいい」

 

 その呪印がどの様な役割の物かの識別こそはできるようになったが、残念ながら呪印などという高度な技術を一から作ることは私には難しい、だがここまで土台を作ってくれているならばこの術式を少し改変し転用するだけで済む。実にありがたい話だ。

 それに毒と呪印という組み合わせが実現すれば実に相性が良い。

 致死量の毒を与え呪印で解毒を封じる、あるいは呪印で動きを封じた後に毒を撃ち込む。どちらが先であっても強力な武器になりうるだろう。

 

 そうと決まれば行動は早い。

 まずは念の為全身に入れた切り傷の傷口に封印札を貼って彼の体内の毒蟲を可能な限り摘出する。

 そうして安全が確保できたなら後は彼の口を開かせて――。

 

 

 

「ご協力に感謝を――では、」

 

 目の前の人物へ心の底から感謝の念を送る。

 毒蟲に呪印、この方からはあまりに多くの物を頂いた、言葉でしか礼を送れないのが残念だが…だからこそ頂いたものは一欠片たりとも無駄にしないと心に誓う。

 万感の思いを込めて――口の中へ入れた解剖メスをゆっくりと動かした。

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