もっと執筆が早くなりたい。
約束の日の前日つまりは六日目の昼過ぎ、自らの鍛冶場の床に背を預けて達成感と共に脱力する。
「…できた」
小さく呟きながら机に安置した刀に視線を向ける。
一見して術式の刻まれただけの両刃の刀…しかし近くで見れば刀身が8つの関節で繋がれた鞭剣『蛇刀・蝕』だ。
その黒い刀身には同色であるトルネさんから転写し改造した呪印が隠され、更に刻まれた口寄せ術式によりストックしてある封印札を口寄せ刀身に瞬時に貼り付ける仕掛けになっている。
刀身に触れれば呪印が走り動きを封じ、刃によって血を流せば刀身に貼り付いた札に封印された毒虫が瞬時に傷口に入り込む。1対1の戦いならば一度でも刀身に触れてしまえばそれで相手はお仕舞いだ。
今まで自分が造った刀の中でも殺傷力だけに注視するならば最上位の代物だ、これなればきっと綱手さんにも通用するはず。
後はこれをハレンチ博士に使わせて綱手さんを勢い余って殺してしまう様にするだけ、その為にも試し切りなどしないように明日、当日に渡すのが良いだろう。
…両手が使えないハレンチ博士でも使える様に柄の部分は少し細くしておいた、正直あまり推奨したくはないが咥えやすくなったはずだ。
「…私は職人、使う人に合った作り方をするのは正しいこと。私は悪くない、私は悪くない…」
よし、落ち着いた。
とにかく、これでもう私に出来ることは何もない。
後は綱手さんとの交渉が上手くいかず、戦闘が勃発することを祈るばかりだ。
「だとすると後は…」
後は綱手さんを殺してしまった後にハレンチ博士の機嫌が悪くなった時に備えて少しでも良いことを作っておくことだ。
つまりは──ハレンチ博士から術を授かっているといううずまきナルト君の『螺旋丸』の完成、これに限るだろう。一度引き受けておいて抜け出してしまったのも気掛かりだったが今から向かえば何とか夜には間に合うだろう。そうと決まれば即行動、書き置きだけして短冊街へ一足お先に行くとしよう。
「あぁ、その前に水月は誘っておかないと」
私の行動で秘書役である水月に責任が追及されるのは忍びない。
ならば秘書役である水月はお目付けとして同行していたという事にすれば問題ない、それに一足先に出て行ってやることはハレンチ博士にとっての有望株であるナルト君の修行の手伝いだ、勝手な行動であっても咎められる程の事ではないだろう。
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「──という訳でいざ出発」
「正直出発よりむしろ出頭した方が良いかと思うけどね僕は…」
「だったら何でついてきたの?」
「どうせ綱手ってのを殺すことは君にとっては絶対条件なんだろ、だったら大蛇丸のご機嫌取りを用意しておくのはまぁ悪くはないからね」
水月は何でも真っ二つにしたがる残虐な癖がある反面慎重というか…少し臆病さもあるが私とハレンチ博士の間の妥協点を考えてくれる辺りやはり心強い。
「そういえば例の毒刀は最初に水月に使わせる約束だったけど先にハレンチ博士に使ってもらうことになる…ごめんなさい」
「いやよく考えたら刀身から見えないサイズの蟲がわらわら湧いてくる刀とか気持ち悪くって趣味じゃないし、あの大蛇丸が口からゲロゲロと出した刀をおさがりで使うのも嫌だしそれはもういいよ」
「…正直口から刀を出すのは目のやり場に困るからやめてほしい」
「まったくだよ、見てると食欲がなくなるよ」
概ね同意だが、むしろ食事が進みそうになる衝動に駆られる自分がいるような気がするのが一番恐ろしい…内なる自分というのはあまり認識したくないものだ…しゃーんなろー…。
「それにしても、あのうずまきナルトって奴はほんとに大蛇丸の弟子なの? なーんか微妙に引っ掛かるんだけど?」
「でもハレンチ博士も特に気にした様子もなかったから面識はあるはず」
「あ、そうなの? …何というか、大蛇丸の下にいる様な奴の性格じゃなさそうなんだよねー…あいつの下にいるようなのって大抵根暗や陰湿な奴なのにあの金髪のは何て言うの? バカっぽいというか…あぁいや、でも中にはそういうのもいるか…」
「何故私を見て少し納得した?」
「いや、別に」
そもそもハレンチ博士の下の人間が全員根暗というのが間違いだ、確かに割合としては多いのかもしれないが少なくとも鬼童丸さん何かは比較的明るい性格だ、何ならカブトさんもメスとか刃物の話題で良く喋る、気にし過ぎというやつだろう。
…一応短冊街で再会できたら確認をとってもよいが何であれまずは到着してからだ。
「それじゃ、準備が整ったら教えて。すぐに短冊街に向かう」
「はいはい、とはいえ君の突発的な行動に備えて準備はいつもしてあるけどね」
そういうと水月は近くのポーチを腰に着けると立て掛けてある『断刀・首斬り包丁』を背負い準備を完了する。
他にもいくつか鞄があるがあれらは別の物の様だ…私に備えて準備してあるといっていたがアレは最早夜逃げの準備のように見えるのだが気のせいだろうか?
「まぁいい、それじゃ出ぱ──」
「君が…渦柘榴村雨かな?」
「「っ!?」」
突如背後からした声に心臓が跳ねる。
気配もなく後ろに立っていた人物に視線を向ければ白い髪の男性がそこに立っていた。
威圧的な外見ではない…しかしその佇まいや冷たい視線が警戒心を刺激する。
「…貴方は?」
とはいえ檻に入っている訳でもなくここいるということはハレンチ博士の部下であることは間違いない、ならば滅多なことはないだろうと落ち着いて声を掛ければあちらも視線の鋭さが和らいだ。
「名乗るのが遅れてすまない、僕の名は君麻呂。大蛇丸様の部下で、今日は君と少し話をしたく訪ねたのですが…不都合でしたか?」
出発の準備を整えているのを見てそう判断したのだろう…こちらの都合を聞いてくれる辺り断りを入れるのは可能かもしれないが…出発前に見つかったのはまずい。
「構わない。私は約束の日に1日早く余裕をもって移動しておこうと思ってただけなので」
目の前の人物がどれ程の立場かは分からないが彼経由でハレンチ博士に私たちの行動がこのタイミングで知られるのは避けた方が良いだろう。
…それに水月が凄く警戒している様子だ、ハレンチ博士の護衛役である四人衆を前にしてもそんな素振りを見せない水月がこれ程警戒する辺りこの人はかなりの実力者である可能性が高い。
──興味深い。
「それは良かった、では…」
「うん、良ければこちらで」
「そうですね、立ち話は少し苦手なので助かります」
どれ程の話になるかは分からないがこの場はとりあえず彼に合わせようと部屋の椅子を勧めると君麻呂さんはゆっくりとそこに座った。
…あ、そういえば自然に水月の部屋を借りてしまった、後で謝ろう。
ひとまず君麻呂さんと向かい合って座ると話を切り出す。
「それで、話とは?」
「カブト先生から貴女は優れた刀匠と聞きました。単刀直入に問いますが、貴女はどの様な人物の能力であっても刀の素材として活用出来ますか?」
「出来ない」
君麻呂さんの問いにはっきりと答える。
「私は私が生み出す刀にとってプラスとなる人物以外を素材にする気なんてない、誰彼構わずどの様な人物も…なんてする気はない」
「あの…多分この人が言ってるのはそう言うことじゃないと思う」
「え?」
隣に立ったままの水月の言葉に驚き、君麻呂さんに視線を向ければ彼も若干気まずそうに口を開く。
「カブト先生から血継限界や秘伝忍術であっても貴女は活用できると聞いて…僕の能力であっても可能なのかと」
「論より証拠! 早速私の鍛冶場へ!!」
「君はまずは話を聞こうか!!」
水月のチョップが振り降ろされる。
…痛い、が確かに少し話を飛ばし過ぎたのは事実だ。少し落ち着こう。
「正直、それも断定はできない。私はまだ霧の里を出て間もない、知らない忍術も多く全てを利用できるかは分からないけれど…それが優れた刀に繋がるならば私の全てを捧げてでも生み出す、それだけは断言できる」
「なるほど…確かに、あの方と同じ目をしている。君にならば…僕の力を託して良いのかもしれない」
「…何の話?」
「僕の身体は病に侵されている、今こうして君と話す為に動くのさえ僕にはやっとのことだった」
そこからは君麻呂さんの話を聞いた。
本来、四人衆…いや五人衆のリーダーとして左近さん達を従え、ハレンチ博士の転生忍術の器として信頼と期待を背負っていたが病に侵され今や病床で死を待つ身。
そこでせめて自らの力を刀としてハレンチ博士に残せないかと思い訪ねてきたのだと。
(大蛇丸を崇拝している上に自分からこの刀馬鹿に…こいつも大概変な奴だな)
水月は内心引いている様だが、私としては実に感銘を受けた。
別に進んで素材を提供しにきてくれたからなどではなく、自身が心に誓った存在の為に死が迫ってもなお、己の全てを捧げようとするその在り方にだ。
この人は自らの命を捧げて『大蛇丸』という作品を更なる高みへと昇華させようとしている…職人として協力を惜しむ理由はない。
だが、彼の意に添うならばハレンチ博士の両腕の治療は絶対だ、これ以上ハレンチ博士の妨害をするわけにはいかない…だが、そうすると私の望みは果たせない…。
ならばやはり断るか…だが、この君麻呂という人…感知タイプでもない私でも分かる程の特異な存在だ…。あのハレンチ博士が己の器に選ぶことからしてもそれは間違いない。
希少度の吊り合いならば不足はないやもしれないが…さて、どうするのがベストか…。
目を閉じて思考に没頭する。
自身の意識全てを奪われた死神の力か目の前の確実に手に入る上にとんでもない逸材か…答えは出せない…ならば。
「貴方の理想に協力はしたいとは思った…だから、貴方の『作品』で試す」
「僕の作品? どういうことです?」
「貴方を素材にした刀を造ったとしてもハレンチ博士の両腕が封印されている以上それを十全に使える日はこない…ならば明日の結果で全てを決める」
もしも綱手さんがハレンチ博士の両腕を治したのならば──あの人にはそれだけの価値があるということだ、ならば私も全てを捧げて君麻呂さんの細胞を素材に最高の刀を造りあげよう。
そしてもしもハレンチ博士の両腕が治らないのならば…所詮はそこまでということ、今まで通り屍鬼封尽の死神に迫る術を探り続けるし何ならその傍らで君麻呂さんの細胞を狙う。どちらに転んでも優れた刀を造り出すという私の望みには添う。
「それに…以前に血継限界である『磁遁』を利用した刀を造った時も何日も掛かったから…流石に今日、明日で造るのは無理だから…明日の結果が出るまでは安静しておいて…その方が私も貴方も都合が良いと思う」
「なるほど…それは確かにその通りだ。急な話で申し訳ありませんでした、今日のところは引き下がろう。──ただ、一つ質問しても良いですか?」
「何か?」
「──その…ハレンチ博士…とは?」
一瞬殺気が宿っているのかもと思ったがむしろそれは本気の…本心からの困惑した声だった。
その後は誤解を解くのにかなりの時間を要したが水月が私の感性がおかしいだけということで決着をつけてくれた…有難いけれどせめて私にも多少の容赦をしてほしかった。
その後は1人、自身の病室へと帰っていく君麻呂さんの背を見送りながら時計に視線を向ければすっかり夜を示していた、誤解を解いている内にすっかりと時間が過ぎ去ってしまったらしい。
忍といえども夜間の長距離移動は避けるべきだ、ましてや齧った程度の私ならなおの事…移動するのは明日の朝一でなければならないか…
結局、うずまきナルト君との約束は破る事になってしまったか。
多少の罪悪感にため息が出るがこればかりは仕方ないか。彼には初心を思い出させてもらったり良い刺激を貰ったのだがお返し出来ず残念だ。
ふと、脳裏に過ぎったのは自来也さんの言葉だった、『目に映る全てが己の糧になる訳ではない』『大蛇丸には関わるな』…もしかしたら私が本当に見るべきものは違ったのでは? もしも今日あの河原に行っていれば…何か違う道に進んでいたのではないか? などという予感が何故か思考に絡みついてくる。
…が、そんなことはやはりどうでも良いだろう。
もしも今の私の道が余計な回り道だというならばそれでも構わない。至高の刀に辿り着くという結果が同じであるのならばその道程がどの様なものであっても構わない。
それに、仮に明日がどの様な運びをしたとしても今の私にとってはプラス、ならばこの回り道も心行くまで堪能しよう。
そう決意し、その日の翌日。
綱手さんとの約束の日、出発準備を整えたハレンチ博士に一本の刀を渡す。
「これが…今の貴女の最高傑作かしら?」
「少なくとも殺傷能力に限るならば…傷を与えれば毒虫を注入し、刀身は触れただけで相手の身体に呪印を巡らせる『蛇刀・蝕』…正しく必殺の刀であると断言する」
「素晴らしい…無事にこの腕が治れば使わせて頂くわ」
「はい。──はい?」
今何と言ったこの人は? "腕が治れば"と言ったか? では…。
「綱手さんとの交渉では使わないのですか?」
「刀身に"触れた"だけで呪印が走るのでしょう? 口の中に収納出来ないじゃない、おかしなことを言うわね?」
「!?」
「使ってみたいのはやまやまだけどね…まぁ回復の前祝いとなることを祈っているわ、さぁ行くわよ」
話は終わりとハレンチ博士はカブトさんに刀を自身の脇に差させるとそのまま駆けて行ってしまう。…え?
「ねぇ村雨…君…かなり無駄な苦労したんじゃないの」
はい、約束を破って不眠不休で造り上げた折角の力作を使いもしない人に持っていかれました…。もう…もう回り道はこりごりです!
もおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
『蛇刀・蝕』
油女一族の中でも更に特異であるトルネの毒蟲とダンゾウの呪印を素材とした殺傷力抜群の一振り。
形状は8つの関節で繋がれた両刃の刀でチャクラの形質変化で伸縮する鞭剣であり、チャクラさえあればどこまでも伸びることから、素材は蟲ではあるが使用者に合わせて"蛇刀"と銘打たれた。
ただし刀身に触れれば呪印が走るという特性故に大蛇丸からは使用を先送りにするという宣言を受けた(先送り理由の真偽は不明)
毒蟲の威力は柱間の人造体が腐り落ちるほどであり、呪印はサスケが同形状の呪印を力尽くで破ったことからダンゾウ戦時のサスケと同等の力があれば強引に解くことは一応可能。
(いずれにしても少年編ではオーバースペック)