霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

29 / 153
狂人の楽園

 ハレンチ博士とカブトさん、そして彼らと向かい合った自来也さん、シズネさんが神妙な面持ちをする中、何故か自来也さんと共にここにきたナルト君が戸惑った顔を浮かべる。

 

「カ、カブトさん? それに村雨の姉ちゃんに水月まで…」

「なるほど、顔見知りか?」

「いったい何がどうなってんだってばよ!?」

「君も鈍いねナルト君。だからサスケ君に敵わないんだよ」

「っ!」

「額当てをよ~く見てみい! 奴は大蛇丸の部下だ。あっちのガキ2人も、額当てこそしとらんが大蛇丸の連れであることは間違いない」

 

 ナルト君の目が困惑から悲哀に変わる…が、それに関してはこちらも同じだ。

 

「驚いたのはこちらの方…ハレンチ博士の弟子と立場を偽っていたとは思わなかった」

「な、なに言ってんだってばよ村雨の姉ちゃん…俺ってばずっとエロ仙人の弟子って…」

「………え?」

 

 ん? …てっきりナルト君に立場を偽られたまま利用されたものと思ったが違うのか? え…でもエロ仙人ってつまりはハレンチ博士…大蛇丸さんのことでは? 

 

「まさかまだ状況飲み込めてないの君!? エロ仙人とハレンチ博士は別人だったってこと! あっちの白髪のおっさんがエロ仙人でこっちのへんた…大蛇丸様がハレンチ博士!!」

「なんて紛らわしい!?」

「全部君のせいだバカ!! ──あ…」

 

 怒り混じりに捲し立てた水月がふと言葉を止めた…そして身体を震わせながらゆっくりとハレンチ博士の方へと視線を向ける。…釣られて私も視線を向ければ…。

 

「水月、それに村雨…綱手の無力化ご苦労様、良くやってくれたわね。──じゃあ少し退いていなさい」

 

 褒められた! …あれ、水月? どうしてそんな暗い顔を…実は謙虚なのか? 

 何やらカブトさんも渋い顔で何度も眼鏡の位置を弄っている…良く分からないが凄く居心地が悪い、妙に悪寒がするのは何故だ。

 

「おーおー、暫く会わない内に随分良いあだ名を貰ったようだのォ。殺す気で来たが、案外仲良くできるのかのォ大蛇丸?」

「ハァ…、アンタが思っているようなあだ名じゃないわよ。心配せずとも…殺し合いを始めてあげるわ」

 

 ハレンチ博士がゆっくりと左腕の包帯を外す…やけに疲れた顔をしているがやはり封印された腕では包帯を剥がすもの難儀なのだろうか? 

 それはさておき、ハレンチ博士が包帯を剝がすのを見て自来也さんも表情を再び引き締めた。

 

「シズネ、眼鏡の奴はお前がやれ。大蛇丸はワシがやる」

 

 綱手との戦いは何とか避けれたもののやはり三忍同士の戦いは避けられないということか…両腕が封印された状態ではハレンチ博士には苦しい戦いになるだろうが大丈夫だろうか? 

 自来也さんは何やらシズネと小声で会話した後に今度はナルト君に綱手さんの護衛を任せたようだが…。

 

 つまりこの場はハレンチ博士対自来也さん。カブトさん対シズネさんと分けられる…ということか。

 

「村雨…君には悪いけど、あの金髪殺してでもババアを確保するよ…でなければ僕らが生き残る道はない」

「…良くは分からないけど仕方ない」

 

 水月がそこまで言うのならばそうしなければ殺されるのだろう…ナルト君には悪いが綱手さんの確保を…いや待て。

 

「じゃあ綱手さんの確保は任せる、ナルト君は私が止めておく」

「何かまた変なこと企んでない?」

「…誤解があったとはいえ受けた仕事を投げ出してしまった負い目があるから殺すのは気が引ける。ハレンチ博士達もあんまりナルト君には興味なさそうだし水月が綱手さんを確保するまでは私が引き受けておく」

 

 その後ハレンチ博士達がナルト君を殺すのならばそれは仕方がない…が、そうでない間は精々してやれることはしてあげても良いだろう。…せめてもの償いだ。

 

 真正面からの戦闘はあまり得意ではないが…勝つ必要もないのならばやりようはある。

 カブトさんも、そして自来也さんも同様に集中を高めチャクラを練り…動き出した。

 

「「口寄せの術!!」」

 

 自身の親指を噛み切った自来也が、ハレンチ博士の腕に刻まれた術式を経由したカブトさんが互いに地面に手を添える。

 煙と共に現れる見上げる程の巨大な2頭の蛇…と口寄せ動物にしてはやたら小柄な蛙が一匹…。

 

「なっ…なに──ーッ!?」

 

 あれ? …伝説の三忍の1人である自来也にしては何というか…その、規模が小さい様な? 

 

「いくら才能がないアンタでもそれはないでしょ…さては綱手に何かやられたようね、クク」

「チィ…」

「相変わらずみっともない奴ね」

 

 なるほど、そういうことか。ならば好都合、自来也が本調子になる前に勝負を決めれば良いというわけだ。

 何やらナルト君も口寄せの術を試みた様だが結果は自来也と大差ない大きさの蛙が増えただけだ。

 

 そんな隙を見逃すはずもなく、ハレンチ博士の大蛇が動き出した。

 規格外のサイズの大蛇の突撃は地面を砕き激しい土煙を舞い上げる。

 

 地響きに一瞬気後れするもこのまま傍観するわけにもいかない、一度息を吸って…土煙の中へと突入する。

 そうして大蛇の突撃を辛うじて避け、分断された綱手さんに追いつこうとするナルト君の動きを遮るように前に立つ。

 

「悪いようにはしない、そこで大人しくする、もしくは今すぐこの場から去ってくれると嬉しい」

「どいてくれってばよ村雨の姉ちゃん!」

 

 互いに数秒睨み合い、相手が決して要求を飲むことはないと理解する。

 

「何で、何で大蛇丸なんかの仲間なんだってばよ、村雨の姉ちゃん!?」

「刀を造る為。誰の仲間か以前に私の行動の全てはそれに尽きる、ハレンチ博士は変わった人だけど良い人」

「良い人って…アイツは三代目のじいちゃんを殺して木ノ葉の里を滅茶苦茶にした奴なんだぞ!?」

「知っている。だから…都合が良い人だと思う、私にとって」

「っ!?」

「別にハレンチ博士を善人と言うつもりじゃない、ただ刀造りに注力する上であの人の下より良い環境を私は知らない。だから私があの人に味方するのは当然。…そう考えてみればどうして何度もあの人の妨害を試みたのだろう? もっと他の方法もあったような…まぁ、済んだ事は別にどうでも──」

「何言ってんのか全っ然分かんねぇってばよ!!」

 

 あぁ、確かについつい喋り過ぎてしまった。ナルト君には負い目だったり少し水月と似ているところがあるからか話し過ぎてしまうのかもしれないな。──それにしても…。

 

「影分身…それにこの数…これほどのチャクラを秘めていたとは」

 

 修行の様子を見た時に規格外のスタミナを持っていると思ったが見渡す限りを埋め尽くす影分身に目を奪われる。

 影分身といえばチャクラを均等に分割する高等忍術…それをこの量…素晴らしいな。

 

「うおおおおおおおっ!! ──えっ!?」

 

 あくまで動きを封じようとしているのだろう、掴みかかってきたその手を水化の術で通り抜ける。

 

「私の水の身体は物理的な攻撃を受けない、影分身でただ数を増やしてもどうにもならない」

 

 水化の術を相手にするならば体術ではなく土遁か雷遁系の忍術、或いは幻術以外に手はない。

 最初から影分身をここまで使うことからして、恐らくナルト君の戦闘スタイルは膨大なチャクラ量を活かした多重影分身の数の力による肉弾戦。ならばこの水化の術を破る術はない──そして。

 

 水の身体から一つの巻物を取り出し、そこに格納した武器を取り出す。

 

「これってば砂の!?」

「傀儡の術…戦闘絡繰"梟"」

 

 砂の国で入手した傀儡人形"梟"、その両手両足、胴体、そして髪に至るまで自作の刀や刃を搭載し尽くした傑作だ。

 

 水化の術でほぼほぼ水溜まりの様になった状態から手だけ出して傀儡人形を操作、即ちあらゆる物理的な攻撃を無効化しつつ攻撃を傀儡に任せきる究極の引き籠りスタイル…これが今の私に出来る全力だ…敢えて言うならここに口寄せ動物である"小蜃"の幻覚も加えて水溜まり状態の身体も隠したいところだが出し損なったから仕方ない。

 今更口寄せの為に血を出そうと水化の術を解く訳にもいかないし…そもそも今の状態でも十分だ。

 

 右手の人差し指と中指を──そこから伸びた傀儡糸に繋がれた"梟"の右腕を動かすと右腕から飛び出た"風刃刀・鎌風"がそれに伴い振るわれる。

 砂隠れの上忍、バキさんの細胞の一部を拝借して造った刀は同じ風遁の刀である"刃鉄扇・舞風"と比較して切断に特化した一振りで、一度振るえば研ぎ澄まされた風の斬撃が飛んでいく。

 実体を持つが耐久に劣る影分身はその一振りで十数体が葬られる、おまけに直線状にいた大蛇の一体にも当たってしまったようだ、鱗の一部が切り裂かれて血が出て怒っている…ごめんなさい。

 

 …やはり戦場は苦手だ、ただでさえ戦場全体の把握なんて全然出来ないのに目の前を影分身で囲まれているのだからもう手に負えない。忍の皆は良くこんなことをやれるものだ。

 まぁいい、"梟"に搭載された刀は大小合わせて全87本…いくらでも手はある。

 

「このまま大人しくしていてもらう」

 

 "梟"を動かし両手両足の刀を使った接近戦で次々と分身体を切り裂いていく。

 傀儡糸で動く人形は地面を必要とせず高速で飛び回り、その刃は受け止めようと構えられたクナイを豆腐の如く容易く切り落として分身のナルト君を葬っていく。

 うん、やはり刀の華は接近戦にあるのだと私は思う。相手の刃と直接ぶつかり合うあの音、鮮血に彩られ輝くあの瞬間、離れた味方に誤射しない安心感、全てにおいて完璧だ。

 

 さて水月は…綱手さんの腕を掴もうとしては振り払われて確保には至っていないようだ…どうやら血を見て本調子ではないがそれでもあの怪力を警戒しながらだと迂闊な行動はできないこともあって苦戦しているらしい。

 しかしカブトさんの方は既に決着がついたらしい、シズネさんを降し綱手さんの確保に向かっている…ならば時間の問題だ。

 …しかし…幼馴染と職場の先輩が女性を蹴り続ける光景というのは少々視線のやり場に困るものだ…下手に忍術、忍具を使わないのが逆に痛々しい、綱手さんも早く降伏してくれないものだろうか…。

 

「…くそっ…」

 

 そんな光景が腹に据えかねるのだろう、ナルト君の顔が怒りに染まっている──しかし。

 

「どれほど怒ろうと貴方に水化の術は破れない」

 

 100体近くいた分身達ももう50体ほどしか残っていない。有効な忍術スキルがない以上忍具の質で勝る"梟"を止める術はない、ナルト君は既に手詰まりなのだ。

 しかし、それでも彼は諦めず…分身に"梟"を羽交い締めにしては胴体から飛び出す刀に搔き消され、傀儡糸を掴みに掛かっては"梟"に阻まれ失敗に終わる。

 

 やがて分身体ももう30体程度に差し掛かったところで分身ナルト君達が一斉に印を結んだ。

 

「これならどうだァ!!」

「っ! 分身を合わせた忍術…それでも」

 

 分身体による一斉攻撃、確かにそれならば下忍級の忍術であっても大規模なものになる…しかし、その程度の忍術ならば"梟"に搭載した性質変化の刀で競り勝てる…大したことはない! 

 

「変化!!」

「っこ…これは!?」

 

 

 

 ──信じられぬものを見た。

 

 

 

 目の前に飛び込んできた様々な形状をした30本の刀達。

 分かっている。これは変化の術だ…即ちこの刀達は偽物。私は鈍などは断固として許せないし、名刀を偽る贋作などはもっての外だ──だが変化で造られたこれはどちらかというならばそう、所謂模型の様な感覚で見ていられる。

 お城の模型などは私は大好きだ。元となったお城の美しさと模型を作った人の技量、2つの要素を一度に楽しめる。

 

 ならばこの刀の模型ならばどうか!? 

 どうやら刀の知識自体は乏しいせいか中にはそれはもう酷い出来のものもある、こんなものを実際の刀で見せられたら切り掛かっていたところだ…だが刀の模型として見るならば…素晴らしい、私も脳内ではこんな荒唐無稽な刀を思い描きそこから発展させて実際の刀に昇華させることは良くある。イメージ段階の産物がこうして模型として形となるのはこれはこれで──。

 

「…水月、ちょっと彼女を少し離れたところに連れていってあげて…ナルト君の相手は僕がしておくから」

「…あぁうん」

 

 あ、ちょっと水月、何で私の腕を引っ張って…待って待ってもっと良くあの模型達を眺めていたい。

 ここはまさしく楽園…俗っぽい言い方になるがハーレムなのだ、折角ならナルト君にもっと刀の知識を叩き込んで七人衆の刀や草薙の剣や雲隠れの七星剣や鉄の国の黒澤などの刀の模型として更なる研鑽を積んで頂く必要が…。

 

 

 

 気が付けば蛙2匹とトントン君の隠れる岩影に追いやられてしまった…。いくら小動物とはいえこの子達敵なのだけど…。

 

「──お隣お邪魔します」

「ブー!?」

 

 もう仕方がないからこの子達と成り行きを見守ることにします。

 




『風刃刀・鎌風』
強風を巻き起こす"刃鉄扇・舞風"と比較して鎌鼬による切断性に特化した風遁の刀。
風の性質変化により刀身は高い切れ味を持つがそれ以上に太刀筋に合わせて放たれる鎌鼬が売りの中距離型の刀である。

素材には砂隠れ上忍であるバキの細胞が使われているが『風の刃と違い実在する刀は受け止められる』と語るバキとの見解の相違から使ったら負けた様な気がすると売り物から外して"梟"の仕込みの一つとなった。
あくまでこれは様々な刀を仕込まれた戦闘絡繰"梟"の一部だからという謎理論の下、使用している。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。