霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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邂逅!木ノ葉の職人

 砂隠れの里の身分証明書を開示し木ノ葉の通行証許可証を受け取る。

 砂隠れの里と木ノ葉の隠れの里は他国への牽制が目的ではあるが一応の同盟国であり両国の忍こそ勝手な出入りは禁じられているが忍以外の者であれば正規の手続きを踏めば入国もそう難しいものではない。

 

 砂隠れの里で経営している鍛冶屋として木ノ葉の忍に忍具の類いを売りに来たと巻物に収納していた刀を歩き売りの荷台に乗せて里を歩く。

 ただしそれらは普段砂隠れの里で売っている業物ではなく木ノ葉で活動するにあたって砂隠れの里の忍具屋で用意した標準的なものばかりだ。──自分で造っても良かったのだがわざと出来の悪い刀を造るなどとても耐えられなかった為そうするしかなかったのだ。

 

 ともあれ漸く木ノ葉の里に入ることが出来た。

 ここにくるまでの艱難辛苦を思い出すと感慨深いものがある。

 砂漠の中で死にかけたり、道中立ち寄った小国で霧の忍を見掛けて暫く息を潜めることになったりと思い返すだけで散々なものだったが漸くここまで来ることが出来た。

 

 残る問題はただ一つ──はたけカカシってどんな人なのだろうか。

 捜し人の事を全く知らない。しかし、だからといって砂隠れの里の者という立場上木ノ葉の人達にあれこれ聞いて回るのは危険だ。

 こんな事ならば砂隠れの里を出る間に客の男性からちゃんと話を聞いておけば良かったと今更ながら後悔する──が、冷静に考えてみれば悩むことなどなかった。

 

 記憶を辿れば良いだけのこと、数年前まで実家の鍛冶屋を訪れていた再不斬さんが持っていた断刀首斬り包丁が放つ鉄と血の混じった匂いを──

 

 目を閉じて感覚を研ぎ澄ます。

 たったそれだけのことでそれこそ実家の鍛冶場の匂いと同じぐらいに明確に彼の刀の匂いを思い出せる。

 ──が、それはそれとしてまったく効果がなかった。

 

 おかしい、昔はこれだけで再不斬さんが店にきていることに気付けたというのに何故場所が分からない? 

 数年の間に感覚が鈍ってしまったのだろうか? 断刀首斬り包丁の匂い等まったく感じられず近くのラーメン屋さんの放つ良い匂いしかしない。──お腹がすいた。

 

「考えてみれば任務中の可能性もあった……。少し待とう」

 

 忍というのは多忙な役目であることは知っている。だから少し考えればそういう可能性も思い至る。

 はたけカカシという人物を本格的に探し出すのは私の立場上難しいものがある──ならばリスクは避け暫くこの里に滞在し断刀首斬り包丁の匂いを見つけるのを待った方が良いだろう。

 

 そう結論付けると次に取るべき行動は簡単だ。

 

「らっしゃーい!!」

 

 荷台を邪魔にならないところに留めてラーメン屋に入り席に着く、席は少ないが幸い一般的な昼食時からは若干遅れていることもあって人はいない様だ。

 席に着けばより一層良い匂いが鼻を擽ると同時に砂漠の地である風の国では需要が薄いのだろう、水の国を出てから嗅いだ覚えがないラーメンの匂いについ故郷の事を思い出す。

 

「えっと……海鮮ラーメン、あと水を」

「あー悪ぃな嬢ちゃん、うちは海鮮系のラーメンはねぇんだ」

 

 特に意識することなく頼んだ水の国でメジャーな種類を頼んだのだがどうやらこの店には無いようだった。

 どうにも店の方に申し訳ない思いを抱きほんの少し居心地が悪くなるが、失礼をしたにも関わらず明るい笑顔でメニュー表を渡してくれた女性の方に救われる。

 

「えっと……じゃあ、これを……」

「あいよ!」

 

 店のおススメなのだろう他より太字で書かれたメニューを選ぶと店長らしき男性の野太い声が返ってくる。

 ──父も母が殺され腐ってしまう前はこんな声で客とやり取りしていたなとつい思ってしまうと同時に、何故このような何の変哲もないラーメン屋で何度も故郷を思い出すのだろうかと、刀が絡んでいない時は滅多に動かないと言われた顔がほんの少しだが笑ってしまう。

 

「しかし嬢ちゃん見ねぇ顔だが旅行者かい?」

「……商人。風の国から刀を売りに来た」

「砂の国から!? そりゃ若ぇのにご苦労なことだな!」

 

 他の客もいないことから店長さんは気さくに話かけてくる。

 遠くから商売に来たという言葉に大きく反応を示すがその一方で調理の動きに一切の無駄はなく驚異的な速度でラーメンが完成へと向かって行く。

 ──これは料理人ではない! 卓越した職人の動きだ! 

 自らが造る物に己の全てを捧げた者のみが到達出来るであろう高みに立つこのラーメン屋の店長に分野が違えど同じ職人として一種の尊敬を抱く。

 

「ヘイ! 豚骨味噌チャーシュー大盛お待ち!!」

 

 カウンター席にドンッという音と共に注文のラーメンが置かれる。

 無論その動きも完璧、スープに指が入っている等というミスもなく、その丼の存在感を強く主張する完璧な出し方だった。

 

 割り箸を割るとすぐにそれを頂く。

 口の中に広がる圧倒的な旨味からこの御仁がどれ程の研鑽の日々を送ってきたかが強く伝わり自然と万感の思いが籠った感想が出てくる。

 

「──見事……」

 

 至高の味、それを生み出すこの人物との出会いに感動しつつ味わうラーメンは驚く程早く箸が進む。

 木ノ葉の里に来て早々この様な体験が出来るとは──私は徳を積んできたらしい。

 

「そりゃ良かった。ところで聞きてぇんだが──嬢ちゃん、職人だな。それも恐らく水の国の刀職人だ」

「──っ!? 何故!?」

 

 しかし店長の言葉に箸が止まり冷や水を掛けられたかの如く身体が冷たくなるのを感じる。

 無意識の内に拳を握っていたが店長はその拳を指差して語る。

 

「その手だよ。随分火傷の痕やマメが多い。火と鎚を扱う職人の手さ」

「……私は風の国の──」

「風の国の奴ぁメニューも見ずに海鮮ラーメンなんざ頼まねぇさ」

「──降参。御見逸れしました……」

 

 どうやら私が積んできたのは徳ではなく失態だったようだ。

 確かに思い返してみればこれと言って善行をした覚えなどなかった。

 しかしよもや忍ではなくラーメン屋の店長に気付かれるとは、世の中というのは齢15程度では思いも寄らぬ程複雑怪奇らしい。

 

「ま、忍の連中に気付かれたら面倒な事になるだろうからな。気を付けるこったな」

「……? 何もしないの?」

「まぁ別に悪さしようって様子じゃなさそうだしな。何か1つの目的で打ち込んでなけりゃそんな"職人の手"にはなりゃしねぇだろ?」

「……敵わない」

「そりゃそうさ。嬢ちゃんがどれ程の職人かは知らねぇがこっちの方が年食ってる分、年期は上なんだからよ」

 

 卓越した職人とは思ったが、どうやらこの御仁は器の大きさも相当なもののようだ。

 刀を造る以外の──人と関わる力さえも持たない私とは比べ物にならない程大きな人だと、豪快に笑うその姿によって思い知る。

 

「──で、嬢ちゃんは何しに木ノ葉に来たんだ?」

「……私は水の国出身だけど風の国から来たというのは本当。刀を売りに来たというのも一応は本当。──でも一番の理由は人探し。この里に凄い業物を持っている人がいてそれを一目でいいから見せて貰いたくて来た」

「そりゃまた大した職人根性だ。どんな人だい?」

「はたけカカシという忍、忍の中では有名な人らしいけど私は知らない」

 

 本当の理由を話すのは少し悩んだが、この御仁ならば大丈夫だと不思議な直感に従い打ち明ける。

 店長さんから探し人の名を聞かれ口を開く。もしもこの方が知っているならばという淡い希望だったのだが、店長さんはその名に驚いたのか目を丸くした。

 

「カカシさんっつったらここの常連の奴の先生さ、何ならそいつ経由で話しつけてやろうか?」

「よろしくお願いします!」

 

 この御仁は神か聖人なのだろうか? 

 ガタッと跳ね上がり頭を深く下げる。

 まさかこの様なことになろうとは──やはり私は自らが知らぬ内に相当な徳を積んでいたのかもしれない。

 

「じゃあ明後日の昼頃にでもここに来な、その頃にゃとりあえず会ってもらえるかどうかの返事は貰えてるはずだ」

「感謝。──この御恩は忘れません」

「おう、そうだな……じゃあいつか立派な包丁でも造ってくれや」

 

 謙遜するのでもなくこちらを職人として認めての言葉に胸の奥が熱くなるのを感じ深く頷く。

 必ずやあの断刀"首斬り包丁"以上の業物を──いや違う落ち着んだ私、この方にそんなデカいものは逆に不要だ、あくまでも一般的な、それでいてこれ以上のない最高の包丁を献上しよう。そう誓って店を後にするのだった。

 

 村雨が去った後、一楽の店主テウチは幼くも立派な職人気質な少女との会話を終えた晴れ晴れしい気持ちで、娘のアヤメと共に少女の使った食器の片付けを進める。

 やはり道は違えど同じ職人同士の会話は良いものだ、そう思いながらたった一つだけ懸念があった。

 

「あの人……そんな立派な刀持ってたかねぇ」

 

 少女の探し人にしてここの常連の先生、はたけカカシ。

 昔も何度かここに来ていたし最近では常連の連れとしてそれまで以上に会う機会は増えたが──特に刀を持っていた覚えはないんだよなぁと疑問を抱くのだった。

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