霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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三竦みと狂人

 蛙のお兄さんの方から睨まれるのを感じるのを無視し暴れるトントン君を膝の上に乗せて適当に撫でながらそれぞれの様子を窺う。

 チャクラの吸着を活用して蛇の胴体を駆けまわりながら戦いを繰り広げるハレンチ博士と自来也さん。あれでお互い本調子でないというのが恐ろしいがどうやらハレンチ博士が優勢の様だ。

 一方でナルト君とカブトさん、こちらは優勢どころかカブトさんが一方的に殴り続けている。…あれだけ攻撃を受けてそれでも立ち上がるというのも異常ではあるがそれ以上に力の差が歴然だ、立ち上がったところでどうにもならないだろうに…。

 そして水月はいつまでも抵抗する綱手さんにいい加減痺れを切らしたのか水牢の術に閉じ込めて呼吸を奪い気絶させることにしたらしい。完全にこちらが優勢…これでは私1人が役に立っていないようで心苦しい気持ちになってくる。

 

 とはいえ負けるよりはずっと良い、どうかこのまま上手く事が運んでくれればと思い、カブトさんと水月の様子を見守ると満身創痍のナルト君を吐き捨てるかの様なカブトさんの声が聞こえてくる。

 

「ガキは全てが簡単だと思っている…。だからバカげた夢を平気で口にする、だから諦めない。──そして死ぬんだ」

 

 嘲ているのか、それとも諫めているのか、カブトさんの顔に陰りが宿る。

 普段は冷静、聡明という印象のカブトさんだが、時折こうした顔がある…或いは彼自身が何らかの夢や思いが歪んだ経験があるのかもしれないが…随分とつまらないことを言うものだ。

 

 夢とは人の原動力そのものだ。そこに子供も大人もない、ただ賭けるものが大きい程その力は大きくなるのだと私は信じる。そうでなければ世界一の刀匠となろうとする私も、七人衆の復興を思い描く水月も、そして世界の全てを知り尽くそうとするハレンチ博士もつまらない人生になってしまうではないか。

 

 ──だから。

 

「まっすぐ…自分の言葉は曲げねぇ…それが俺の…忍道だ!」

 

 ──よく言ってくれた。

 

 ボロボロになりながらもそれでも立ち上がるナルト君にそれで良いと心の中で肯定の言葉を送る。

 

「綱手のバアちゃん、約束通り…その縁起の悪い首飾り…貰うからな──『影分身の術』」

「っ…もういい、私をかばうな! ナルト…もうやめろ!!」

 

 水牢の中で綱手さんの悲痛な叫びを上げる。

 しかしクナイを構えたカブトさんは既に駆けだし…ナルト君も決してその場を離れない。

 

「死んだら何もかも…夢も何もないんだよ! もういいから逃げろ!」

「大丈夫だってばよ。俺は…俺は火影になるまでぜってェ死なねぇからよ!!」

 

 クナイを自らの掌で受け止めることでカブトさんの動きを封じたナルト君が分身体の手を借りてチャクラの回転、圧縮を始める。──乱回転したチャクラは彼の右手の中で完全に留められた。素晴らしい…アレこそが完成形の…。

 

 

 

「螺旋丸!!」

 

 

 

 腹に膨大なチャクラの塊を受けたカブトさんが回転に飲み込まれながら吹き飛ばされ岩石に激突する。

 

 轟音と共に地面を抉るその攻撃はカブトさんの回復力をも凌駕する壮絶なものだった。

 一度は医療忍術による治癒で立ち上がったカブトさんだったがそのチャクラを全て使い果たしてもなお回復しきれずカブトさんは地面に倒れ伏せた。

 

「チィ…くそ!!」

「っ水月! カブトさんは私が──!」」

 

 想像もしなかった反撃に水月が咄嗟にカブトさんに駆け寄る。

 確かにカブトさんはかなりマズい状況だがその行動は迂闊だ、慌てて声を掛けるが既に水牢を解いてしまい綱手さんが解放されてしまった。

 

 彼女は大きく咳き込み喉の奥に入った水を吐き出しながらもナルト君に駆け寄っていった。

 どうやらまだ戦意はない…いや、或いはそれ以上にナルト君の治療を優先しているだけか、ともかく水月が無事で済んで何よりだ。

 

「ねぇガマ吉兄ちゃんホントにおやつ貰えるの? あの人死にそうだよ?」

「うるせーんじゃ! 静かにしとけ!」

「ポケットに金平糖なら入っている。これで良ければあげる」

「ほんと? やったー」

「何を和んどるんじゃテメェら!?」

 

 そう言われても…どうにもハレンチ博士の下に着いてから充実した日々を送れているが同時にヒリヒリした空気感に少しストレスを感じるときもある、こういう手軽な糖分接種のお菓子は常備していると何かと便利なのだ。

 チロッと差し出された舌に金平糖を一粒乗せてあげながらナルト君の様子を窺うとどうやら綱手さんの医療忍術が功を奏したのか呼吸も落ち着いている様子だった。

 敵ではあるがあれ程の高度な忍術を自分一人の力で完成させた人物の命が繋がれたのは喜ばしいことだ。

 

「うわー、これ美味しい、もう一粒頂戴」

「ん、じゃあ次はこの黄色のを。君と同じ色だよ」

「わーい」

 

 かわいい。

 …お兄さんの蛙君からは睨まれているが同じ戦力外同士争わず大人しくしていられればと思う。

 おっと、つい視線を離してしまっていたがカブトさんの方は大丈夫だろうか…。

 

「……何事?」

 

 視線を戻せば綱手さんがハレンチ博士の口から飛び出した刀に胸を貫かれていた。

 少し目を離した間に何があったんだ? ハレンチ博士は大蛇の胴体を足場に自来也さんと戦っていたのでは? あの一瞬でどうやって…いや、あのハレンチ博士ならばそれぐらいは出来るか。

 しかしこれでは綱手さんが死んでしまい本来の目的が…

 

「綱手…アンタだけは殺す気なかったのに…」

 

 やはりハレンチ博士にとっても想定外の事だったらしい、残念そうにそう声を漏らしていた。

 

「その子に生きていられると諸々の事情で後々厄介なことになりそうなのよ。邪魔しないでくれるかしら?」

「…この子だけは…絶対に守る」

「血に震えながら…三忍の1人ともあろうアンタがそんな下忍のガキを何故命がけで守ろうとするの?」

「ゴホッ…ゴホッ。──木ノ葉隠れを、里を守る為よ…何故なら」

 

 口から血を吐いて咳き込みながら、剣を引き抜かれた胸の傷口から夥しいほどの血を流しながら、綱手さんは語る。

 

「何故ならこの小さなガキは…いずれ火影になるガキだからね」

「フフ、何を世迷言を。それに、火影なんてクソよ。馬鹿以外やりゃしないわ」

 

 血の恐怖と苦痛に顔を青ざめさせながら…しかしその目は優しく、慈愛に満ちた目でナルト君を映す。

 しかしそんな姿を嘲笑いながらハレンチ博士は吐き捨てた。だが綱手さんはその慈愛の目を鋭く、決意を宿したものへと変えた。

 

「ここからは私も…命を懸ける!!」

「っ! フン、そんなガキのために投げ出す命なら、それ相応にさっさと散れ!!」

 

 口に構えた刀を上段から振り降ろす。

 綱手さんの肩から胸にかけて切り裂かれて赤い血が周囲に飛び散る…両腕を使えずとも実に見事な太刀筋だ。

 

「…美しい」

 

 舞い散る鮮血と陽光に彩られ輝く刀身…刀を口から出していることに目を瞑ればあまりに美しい光景だ、赤い金平糖が格段に味を増すのを感じる。

 

「あとは…ナルト君ね」

 

 綱手さんを切り捨てたハレンチ博士がゆっくりとナルト君へ忍び寄る。

 残念ながらナルト君も助からないらしい。実に惜しいが仕方ない、せめて気高き努力家の散り様という最高の彩りに飾られる刀の至高の美しさ、その瞬間をこの目に焼き付けて永遠の記憶とさせて頂こう。

 

「「っ!?」」

 

 再び舞う鮮血、その光景に目を疑った。

 たった今斬り捨てられた綱手さんがハレンチ博士の刀とナルト君の間に身体を差し込んでその刃を自身の身体で受け止めていた。

 

 ──あり得ない…今ハレンチ博士が使っている刀は私が造った『叢雲の剣・青雲』だ。草薙の剣さえも凌ぐ一振りを受けて何故動ける? …あり得ない。

 

「…言っただろ…。ここからは、命を懸けるって…」

「っこの死に損ないが!! そこまで死を望むならくれてやる!!」

(──っそれはっ!?)

 

 何度も阻まれたことでハレンチ博士がいよいよ怒りが募ったらしい、いつもの風変りな口調ではなく怒気を宿した乱暴な言葉遣いと共に口に構えていた『叢雲の剣・青雲』を吐き出すとそのまま舌を伸ばして脇に差していた『蛇刀・蝕』の柄に巻き付けると刀身を抜いた。

 

(やっぱり使えるんじゃないですかっ!?)

 

『叢雲の剣・青雲』より切れ味こそ劣るが殺傷能力に優れた一振りだ。

 ハレンチ博士は完全に綱手を殺すつもりになったのだと物語る。

 

「死ね──っぐぅっ!!」

 

 刀を振るうハレンチ博士に鋭い拳が突き刺さり大きく転倒させられた──だが。

 

「フ…フフ、まだそれほど動けたとは流石ね、でも…触れたわね」

 

 綱手さんの拳を受けた時、同時に彼女の右腕に『蛇刀・蝕』の刀身が触れた。

 つまりその右腕から全身へ呪印が広がり、傷口には毒蟲が注入されたのだ、彼女はもう──っ!? 

 

「…貴女、どこまで…」

 

 綱手さんは即座に左手で右腕を殴り付け、その右腕を捥いでいた。

 毒虫が感染する前に切除するという事はまだ分かる。だが、身体を縛る呪印が全身に回るのは一瞬だ…まさか、力尽くで呪印の縛りを破ったというのか? あの一瞬で…何故そんな事が出来る? 

 

「──何故なら私が…木ノ葉隠れ五代目火影だからね!!」

 

 額から謎の術式を全身に巡らせながら綱手さんがそう言い放った。

 血に塗れているというのにその顔に恐怖の感情は何もなく、ただ強い意志に満ち満ちていた。

 血への恐怖心は完全に克服したというのか? いや、それだけではない。以前までに見えていた錆び付いた感情などは今やもう見て取れない…あれこそが伝説の三忍の1人。千手一族の末裔、綱手さんの本来の姿だということなのか? 

 

「つ、綱手様! 傷は私が治します! ですからその封印は解かないで下さい!!」

 

 シズネさんの声が響き渡る。

 一体あの術式は何だと言うのか? そんな疑問は一瞬にして晴れた。

 

 胸を貫かれた傷も、肩から胸にかけて切られた傷も、捥がれた右腕の傷口も全てが一瞬にして塞がった。

 彼女自身が説明するには、長年蓄積した額のチャクラで体内のタンパク質を刺激し細胞分裂の回数を急速に加速させ細胞を再構築、そして全ての器官、組織を再生するという回復忍術ではなく再生忍術というものらしい。

 

 印を必要とせず、深刻な負傷を即座に治すだと…何だそれは? 何という技術…素晴らしい。

 

「フフ…なるほど、大した術ね。しかしその術でも千切れた腕は治らないようね」

「忘れたか大蛇丸、私の"相棒"なら千切れた身体なんて少し時間があれば繋げられる…どうやら毒蟲にも感染したようだが…」

 

 地面に落ちた自分の腕に無事の左手を添えると毒蟲によって変色していた右腕が瞬時に元の状態へと回復した。

 

「この毒、木ノ葉の油女一族の中でも秘伝の毒蟲のようだね。こんな物を刀に組み込めるなんて大したものだけど…木ノ葉の里由来の毒を私が治せないとでも思ったか?」

 

 心が震えるのを感じる。

 "綱手様"…何て素晴らしいお方だ。あれこそ正に医療技術の極み。

 即座に毒の種類を見抜くに留まらず、チャクラコントロールも出力も片手では覚束ないはずなのにあんな一瞬で修復するなんて──あぁ…あぁ、あぁ…欲しい、あの方の細胞が欲しい。

 

「っ大蛇丸様ァ!! マンダを!!」

「急ぎなさい!」

 

「シズネ! 手ぇ貸しなさい!!」

「は、はい!!」

 

「くっ…出てくれよ!!」

 

 ハレンチ博士と綱手様がそれぞれ自身の腹心の手を借りながら、そして少し離れた位置で自来也さんが一斉にチャクラを練り上げる。

 

 

 

「「「口寄せの術!!」」」

 

 

 

 三人が同時に地面に手を添える。

 血で契約を結んだ動物を召喚する時空間忍術の中では基本的な忍術──しかし、その規模は並の忍が用いるそれとはあまりに隔絶したものだった。

 

 先程まで召喚されていた二体の大蛇すら霞むほど巨大な、怪物とさえ思える口寄せ動物が三体。

 蝦蟇、蟒蛇、蛞蝓…それぞれの口寄せ動物の頭に乗った三忍が睨み合う。

 

「こりゃガマ竜! こっから離れるぞ。女! お前も離れねぇならせめてそのブタ離せ!」

 

 あぁ、あまりの光景に見入ってしまっていた。

 ここはこの蛙君の指示に従って逃げるのが適切だろう…実際、水月はカブトさんの傍にいたせいで巻き込まれ巨大蛇…マンダさんと言ったか? の頭の上に乗ってしまって震えている。

 プルプルとこちらに手を伸ばしているが…ごめん、いくら何でも届かない、強く生きてほしい。

 

 どうやらあのマンダさんという蛇は相当尊大な性格らしく、ハレンチ博士に対しても生贄100人を要求するなど、むしろ上からの態度を見せていた。

 しかし、向かい合った巨大蝦蟇が煙管の煙を吹きかけたことで怒りの矛先が移ったようだ。

 

「テメェ…カラッカラの干物にしてやろうか?」

「わしゃ丁度蛇皮の財布が欲しゅーてのォ」

「………」

「大蛇丸、おめーは悪に染まり過ぎた…もう同志じゃあねェのォ」

「同志? クク…心寒い…」

「三忍と呼ばれるのも今日限りだ!」

 

 いよいよ、全員が本気ということか。

 激しい殺気に息が詰まりそうになるが…それ以上に良い物が目に映った。──よし、今の内に準備を整えておこう。

 

 巻き込まれない様に急いでその場から離れながらナイフを取り出して親指に傷を入れておく。

 あとはチャクラを練っていつでも呼び出せるようにしておけば良いだけだ、来たるべき瞬間まではこの戦いをしっかりと見させていただこう。

 

 カツユさんという蛞蝓の強力な酸、更に分裂と融合という特殊な肉体。

 2対1という状況に関わらず周囲を脅かすマンダさんの脅威的なパワーとスピード、更に脱皮や地面の穿孔といった技巧。

 ガマブン太さんという蝦蟇と自来也さんとの合わせ技の巨大な火炎弾。

 

 正しく人外の大戦争だ、目を離すことの出来ない駆け引きの果てに遂にハレンチ博士自身が動いた。

 一瞬の隙を突いて綱手さんの首に長く伸ばした舌を巻きつけて締め付ける──が。

 

「そろそろ決着付けようじゃないの!!」

「っ右腕が!?」

 

 …あの戦いの最中、カツユさんに腕の癒着をさせていたということか…綱手様の右腕がいつの間にか繋がっており、その力を以て自身に巻き付いていたハレンチ博士の舌を吊り上げる。

 

「「っ!?」」

 

 強固な石の壁さえも容易く粉砕する綱手様の拳がハレンチ博士の顔面に叩き込まれた。

 勢い良くマンダさんの身体の上へと撃墜されたハレンチ博士は力尽きた様にピクリとも動かなかったが、旗色悪しと判断したマンダさんが消滅したことで再び意識を取り戻し、地面を這いながら綱手様の追撃から逃れた。

 

 間合いこそとってはいるが、相手の口寄せ動物は健在の上、綱手様、自来也さんもまだ動ける。

 一方でこちらはマンダさんに消えられ、ハレンチ博士も重症…完全に敗北だ。

 

 ゆらゆらと力なく立ちながら…しかしそれでもなお怪しい笑みを張り付けたままハレンチ博士は口を開く。

 

 

 

「綱手…お前に治してもらわずとも私には"一つだけ"方法があるのよ…この腕を復活させる方法がね」

 

 

 

 ──何? 

 

 

「木ノ葉は必ず潰してあげるわ。その時また会えるといいわね我が同志、クク…綱手、自来也」

 

 顔の皮が剥がれ、その先から覗く別の顔。

 それに2人が戸惑った一瞬にハレンチ博士は地面へと潜っていく。

 

「綱手…本当の不老不死、それが私よ──我、不滅!!」

「またいずれ」

「待て!!」

 

 ハレンチ博士が完全に地面に潜り切った辺りでカブトさんも水月共々煙に紛れて姿を消す。

 予め用意しておいた時空間忍術の類いによる逃走方法だ。

 しかし、それに対してあくまで声で警告する辺り綱手様も自来也さんもどちらも完全にチャクラ、体力切れを迎えているらしい。…ならば。

 

「──では、私もこれにて失礼します…がその前に」

「っ!? なんじゃあぁ、お前はぁ!?」

「こちらの刀…餞別代わりに頂きます」

 

 地面に深々と突き刺さった巨大な刀の元へ忍び寄るとそれにペタリと手を添え、いつもの刀収納の巻物の中にその刀──ガマブン太さんが持っていた長脇差を格納する。

 

「貴様…わしのドスを奪おうたぁえぇ度胸じゃのォ!?」

「これほど大型で高い性能を維持している刀を見たのは初めてなので…構想を練っている段階の刀の参考になりそうなのでどうしても欲しいのです。もしも次に会う時があれば必ずお返しします──それと…」

 

 ガマブン太さんから視線を外してもう1人の意中の人物、綱手様へと視線を向ける。

 あれ程激しい戦闘を終えたこともあり、息も荒く、立っているのがやっとのようだった。

 

「こちらも有難く頂きます。千手一族、そして何より"綱手様"の細胞情報…有難く頂戴致しました」

 

 綱手様の身体を何度も切り裂き、その血がべったりと付着した『叢雲の剣・青雲』を掲げてそう告げる。

 忍世界において指折りの血統、指折りの実力者の血…実に心躍る。

 

「っ! ──貴様!?」

「では、改めて──失礼します」

 

 前もって口寄せしておいた"小蜃"に蜃気楼を発生させる。

 既に自来也さんも綱手様もチャクラ切れ、もはや姿を見えない相手に対して広範囲の攻撃を放つ力はないだろう。

 その一瞬の間にアジトに戻った水月によって逆口寄せしてもらうことでこの場から離脱する。

 

 

 

 時空間忍術の影響で一瞬だけ視界が暗転する。

 

 

 

 今回の戦い、ハレンチ博士は終ぞ腕の治療は果たせなかった。

 しかし去り際にあの方は「綱手様に頼らずに腕を治す方法」について言及した。

 つまり…あの方は既に屍鬼封尽について、何らかの情報を掴んでいるということか…。

 

 素晴らしい! 

 これで私は漸くあの死神に迫ることが出来るかも知れない。

 更に此度の戦いで千手一族の血も、最高クラスの口寄せ動物由来の刀も手に入れた。

 問題があるとすれば今回の結果から君麻呂さんの細胞を貰う約束が果たせないという点だが…これに関しては彼の方から望んで協力してくれるだろうから然して気にすることではない。

 

 何もかもが理想通りに運んだ、出発する時は色々と不都合なことばかりで世界の全てを恨まんとするまで至ったがやはりこの世界は素晴らしいことに満ちているということだ。

 例え悪い出来事に目の前を真っ暗にされたとしてもほんの少しの行動でこうしてパッっと光が見えてくる。

 この世界は幸せに満ちているのだと私は思う。

 

 そんな思いと同時に実際に目の前が蝋燭のぼんやりとした灯りで照らされる。

 逆口寄せが完了したようだ。

 

「ありがとう水月。ただいま戻りました、ハレンチ博士」

「えぇ…お帰りなさい──村雨」

 

 

 

 あれ? …何か怒っていらっしゃる?

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