屍鬼封尽の情報を求め大蛇丸さんのアジトを探索する。
綱手様達の前から撤退する際の発言からしてあの術に繋がる情報を何かしら掴んでいる可能性は高い…それを探すには大蛇丸さん、そしてカブトさんが負傷した今こそが絶好のチャンス。
アジトに住む四人衆を始めとした大蛇丸さん直属の部下の私室を除き、部屋という部屋を手当たり次第に漁る。
ホルマリン漬けの蛇や人などが出てくるだけならビックリする程度で済むが巻物の山が出てくるとそれを一つ一つ確認するしかない為疲労が溜まる。
流石は世界からあらゆる情報を集めると豪語する大蛇丸さんだ、あまりの巻物の量に悲鳴が出そうになる…おまけに熟読してみたくなるほど興味深い内容のものが多いから困る、あれもこれも興味深いのに今はそれに時間を割く訳にはいかない…実に残念だ。
名残惜しい書物を元の位置に戻すと次の部屋に移る。
「…また蛇のホルマリン漬け…どんだけ蛇好きなのあの人? …っていうかこれは好きに入るの? 最早嫌いなんじゃないのこれ?」
「私もよく部屋に刀を飾っていたし好きなら普通だと思う。…大蛇丸さんの場合生ものだからホルマリン漬けも仕方ないのでは?」
「君が好きなのが刀でまだ良かったと本気で思ったよ…てか良く見たら今度は蛇だけじゃなくて蛙やネズミやトカゲやらあるし…気持ち悪ぅ…」
確かに見てみれば蛇の比率が多いだけで他の動物も色々混じっている…これは…ひょっとしたら大蛇丸さんは蛇だけでなく小さな動物は何だって好きなのか?
「あ、この棚にはすり鉢が沢山…ここは大蛇丸さんじゃなくてカブトさんの薬調合の部屋かもしれない」
「え? じゃあこのホルマリン漬けの蛇とか何やらって薬の素材なの? …何か見たくないもの見た気がする」
「気持ちは分かるけれどこれもカブトさんの技術の粋、頭ごなしに否定するのは良くない。このネズミやムカデが優れた薬の材料になると分かるまで相当な苦労があったのだと思う…あれ?」
「何? どうかしたの」
「何故かこれだけホルマリン漬けになっていない。カブトさんが入れ忘れたのかもしれない」
「うわぁっ!? 何それ!?」
何故か他と違いホルマリン漬けになっていなかった人間の左腕を指差して示すと水月は驚いた声を上げる…しかし、水月は良く倒した相手の手足をバラバラにするのにこうして見るのは苦手なのか?
案外自分でするのと既になっているの見るのは別物なのかもしれない…難しい好みだ。
──それにしても…。
「この左手小指の指輪…何だろう? 宝石じゃなくて字? …『空』?」
指輪に刻まれた『空』の字…ただの指輪と切り捨てるにはどうにも意味あり気に思える。
「良く分からないけどこれが何らかのものなら指輪ってことからしても他にも字が刻まれた指輪が両手全指分あって、それを全部揃えたら何かあるとかじゃない?」
「なるほど、それは何というか浪漫がある…ちょっと失礼」
「え!? ちょっと!?」
水月の話を聞いて中々惹かれるものを感じた。
謎の左手から指輪拝借して自分の左手小指に着けてみる…案外これだけでも何か起こったりは──。
「…特に何もない」
「なんだ…っていうかほんと、勝手に弄るのやめなよ…何かあったらどうすんのさ」
「感知能力があれば調べてからにしたけど私はそんな能力が無いから仕方ない」
しかしこの指輪単体では何も起こらないということは水月の予想が的中している可能性も十分あるかもしれない。
案外つけてみたら誰かの声が聞こえる…何てことがあるかもと思ったがそういう物でもらしい。
この指輪の詳細に興味は惹かれるがやはり時間に余裕がない以上これ以上は調べることは無理だ、元の位置に戻しておこう。
謎の指輪を左手の切り身に戻しておくと部屋を見渡す。
やはりホルマリン漬けの動物や薬草、あとは調合書ばかりで少なくともこの部屋に意中のものはなさそうだった。
「…次の部屋に移ろうか?」
「正直このアジトから目的の情報を漁ろうなんてどう考えて無理じゃない? 巻物多すぎてどれがどれだか…」
「情報の奪取は忍の仕事の最たるもの。忍刀七人衆の刀を持つ水月がそれを言うのは良くない」
「君ほんと嫌な性格してるよ…」
一緒に探索をしている水月もこの巻物の量に参っているらしい。
その気持ちは分かるがここで諦めるわけにはいかない。
…しかし、水月の言う通りこの作業は想像していた以上に重労働だ。1つの部屋を漁る時間が尋常ではない…これでは目的の情報に辿り着く前に大蛇丸さん達が回復を果たす可能性さえもあるかもしれない。
一番望ましいのは一緒に探してくれる人手を増やすことだが牢屋の外にいる人達は皆大蛇丸さんの部下だ、それは望めないだろう。
牢屋の中の人を使うという手もあるがそれは四人衆の方々を始めとした牢屋の外の人達に見つかってしまえば芋づる式に私のやっていることがバレてしまう。これもダメだ。
となればやはり私と水月だけでやるしかない。
「人手は増やせないから探し方を変えよう。安全だけど時間の掛かる部屋一つ一つを探すというやり方は止めて、隠されてそうだけどバレた時怖いところを探しに行こう」
「どこの事?」
「大蛇丸さんの私室」
「………は?」
そうと決まれば早速準備だ。
▼▼▼
例の説教の後大蛇丸さんはすぐに立ち去った…恐らく先の戦闘で受けたダメージと元来の封印術で弱った身体で負担が大きくなり過ぎて自室で休養を取っているはず。
つまり今大蛇丸さんは自室にいる…本来ならば一番手出しできない状況だがカブトさんも同様に負傷している今ならば抜け道がある。
「いやいやいや、絶対ヤバいって。今からでもやめよう」
「準備はバッチリ。何も問題はない」
しかしこの手段に不安を感じているのか水月は怯え腰だ…確かに大蛇丸さんの前に堂々と出て行くことに不安があるのは分かるが私はこれでも引き際は弁えている方だ、信用してほしい。
『…誰なの?』
こちらの声が聞こえたようだ、扉の奥から大蛇丸さんの問いかけが聞こえ水月の肩が跳ね上がる。
気付かれたならば最早引き返す選択肢もない。ここは背水の覚悟で!!
空いている方の手で刀を握り目の前の扉をバラバラに切り裂く──結構上手く切れたと思う。
ガラガラと音を奏でながら扉の残骸が床に落ちると同時に部屋の奥のベッドで上体を起こしている大蛇丸さんと向き合って──。
「お水とお粥をお持ちしました」
「……もう少し普通に入ってこれないかしら…」
「すみません、気合が空回りしました…」
流石にこれは失敗だった。大蛇丸さんの顔が困惑に染まってしまっている。
しかし入室の仕方は間違えたといえど本来薬を用意するカブトさんが負傷し動けない以上、その代わりに薬は無理でも多少のお助けをしようというのは部下ならば当然の行動だ。
つまり今ならばこの方法で本来立ち入ることの難しい大蛇丸さんの部屋に入り込むことが出来るというものだ。
それにしても部屋に入って驚いた。
…部屋には大蛇丸さんの座す大きなベッドが一つと壁に掛けられた『蛇』という字書かれた掛け軸、あとはベッドと壁の間に横に長い棚が一つ…想像以上に何もない、家具がないにも程がある。
そして何より…扉からベッドまでが妙に遠い…何なんだこの部屋は…無の空間があり過ぎる。
予定では私が大蛇丸さんにお粥をお渡しし、その間に水月が部屋の中を観察するという手筈だったがこれでは変に視線を動かしては不審がられるかもしれない。
とはいえいつまでも立ち尽くしているわけにもいかない。
まずはお粥をお渡しする為に大蛇丸さんの近くに行こう…ここはまだまだ引き際ではない。
「食糧庫に良い鯛があったので鯛粥にしてみました。海産物豊富な水の国仕込みの味付けなので自信はありますが火の国出身の大蛇丸さんのお口に合わなければごめんなさい」
「…アナタ料理なんて出来たのね」
「その道に生きる料理人の方々には遠く及びませんが、家にいた頃は母が存命中に花嫁修業として手ほどきを受けたので人並みには」
「…そういえば貴女良家の出だったわね」
そういえばも何も水の国では有数の名家の出ではあるのだが何故そんな反応なのだろう…少なくとも大蛇丸さんには既に私の一族のことは知られているはずなのだが…私はそんなに名家の出身らしからぬのだろうか?
「しかし意外ね、貴女のことだから刀造り以外に興味はないものと思っていたけど」
「包丁を使うのは好きでした」
「納得したわ…」
今回のお粥にも彩りをと入れた人参も桜型に整えて実に良い出来だと思う…惜しむらくは煮込む時間が少し長すぎて米はだいぶ柔らかくなってしまったことだろうか…まぁ身体が弱っている大蛇丸さんには丁度良いぐらいだろうから大丈夫なはずだ。
「──それで? 一体何が目当てなのかしら?」
不意に大蛇丸さんの声が冷たいものに変わった。
それは凄みを効かせて脅しているのではなく真意を探る質問を投げ掛けられたこちらの反応を見て楽しむつもりの意地の悪いものだ。
だがこの様なゴマ擦りの様な手を打てば疑われる可能性があるのも予想の範囲内だ。
つまりここで必要となるのは少し良い印象造りをした上でなければ聞けないような、それでいて大蛇丸さんからしてはそこまで聞きにくいという訳でもない質問を投げかけることだ。──つまり。
「すみません、実は数日前にカブトさんを探して入った薬の調合室らしき部屋で切り落とされた左手にはめられた指輪を見てからそれが気になってしまって。アレは何でしょう?」
これが丁度良いという訳だ。
本命の目的は隠しつつ少し気になったあの指輪についての情報を集められる…まさに一石二鳥というやつだ。
加えてこのやり取りの間に水月がこの部屋の中で怪しいところに目星を…といっても家具も殆どない部屋ではそれも後ろの棚の中ぐらいだろうが、とにかくある程度の目星をつけてくれている…まさに完璧な手筈──。
「…フ…フフ。貴女は…"奴ら"にまで手を伸ばしたいのかしら?」
…はい?
「まぁ、いずれ機が訪れたら…考えておきましょう」
「…あ、ありがとうございます」
「………フフ、では折角持ってきてもらったのだから頂こうかしら」
「あ、はい。どうぞ」
何やら奇妙な空気になったがどうやら大丈夫だったらしい…心臓に悪い。
しかし、大蛇丸さんからは考えておくと言われたが何についてなのかまるで意味が分からない…結局あの指輪は何なのだろう? 一切教えてもらえなかった…。
とりあえず手に持っていた水と御粥を乗せたお盆を持ち直してスプーンを手に取る。
封印によって両腕を動かすだけでも負担の掛かる大蛇丸さんに無理に食べ物を手に運ばせるのは酷だ、ここは失礼とも思われるが私がお運びしよう──何よりそうすれば大蛇丸さんの首の向きをある程度制限出来る! 今こそが部屋の物色のチャンスだ、お願い水月!!
「ふー…ふー…。どうぞ、大蛇丸さん」
「…些か、こそばゆいわね…」
意外だ…まぁ確かに封印されているとはいえ別に腕をまったく動かせないという訳ではない、スプーンを手に食事を運ぶぐらいなら出来そうだからカブトさんもここまで介護の様な事はしていないのかもしれない。
とはいえこれが一番さりげなく大蛇丸さんの動きを制限できるのだ…正直私も少し恥ずかしいがここで引く訳にはいかない、気にせずこのまま行こう水月!
少し行儀は悪いがスプーンの音を大きく鳴らして水月が物を漁る音を少しでも隠せるようにしながら大蛇丸さんの口にお粥を運ぶ…万が一手元がズレたらと思うと最初に感じていた恥ずかしさ以上に恐怖心が増してきたが何とか無事に乗り切ることが出来た。
「お粗末様です…では、私達はこれで失礼します」
手元のお粥は全て無くなった、これ以上粘って水月が部屋を漁っているのがバレたらお終いだ。
水月の方の状況は確認できないがここが切り上げどころ…引き際だろう、幸い手元の食器をすぐに片付けるという
理由もある為退室の理由には困らない。やはりこのやり方を選んだのは正解だった。
「一応礼は言っておくわ…ご馳走様。…とはいえあまり私を病人扱いするのはやめておきなさい」
「はい、差し出がましい真似をしました…また御用入りの時はお声がけ下さい」
そういえば以前に大蛇丸さんに薬を運んでいた男性が殺されたという噂を部下の方が話しているのを聞いたような…今更ながらすごく危なかったのでは? お粥だったからか…持ってきたのが薬だったら殺されていたかもしれない。
「──では…失礼します」
若干声が震えてしまったが何とか平静を装いつつドアノブを手に…ドアがない!? そういえば私が切り刻んだんだった、本当にさっきから何をしているんだ私は!?
半ばパニックになりながら廊下にでるとそのまま小走りで廊下を走り抜けて逃げるかのように自分の部屋に駆け込む。思えば随分不用意な行動をとったがこうして無事に自室に戻れたことでひとまず安堵する。
同様にここに逃げ込んだ水月も何度も呼吸を繰り返して息を整えているようだった、水月にも無理をさせてしまった、この埋め合わせも何か考えておかなければ。
だが、その前にまずは…。
「水月、大蛇丸さんの部屋に何か目ぼしいものは?」
「~~~~っ!! あんな状況でまともに部屋なんて見れるわけないだろ!! っていうか何であんな命知らずなことができるわけぇ!?」
「…正直私も今回ばかりは迂闊だったと今になって思う」
「君ほんといい加減にさぁ…」
水月の肩ががっくりと項垂れる。思えば水月は先の戦闘で口寄せ動物の大決戦に巻き込まれていた…命からがら帰ってきて今回の探索と気の休まる暇も無かったことだろう。
…屍鬼封尽の情報は何としてもほしい…が、それを扱う人がいないのでは話にもならない、今回はここまでで終わりにした方が良いだろう。
「ごめんなさい水月、今日はもうここまで。ゆっくり休もう?」
「うん、今日…っていうかもう1週間は休ませて。ほんと」
「…わ、わかった。ありがとう水月」
ふらふらと部屋を出て行く水月を見送る…その足取りはおぼつかなく、随分と無理をさせてしまっていたのだと痛感する。
「短冊街でのあれこれから今回の件まであまりに水月を振り回し過ぎた…これは屍鬼封尽の情報は暫く諦めるしかない…」
流石にこれ以上水月に負担を掛ける訳にはいかない、かといって私1人ではこのアジトの探索をするのも無理だ。
ならば暫くは探索は控え、先の戦闘で手に張った素材と君麻呂さんの細胞での刀造りに専念することにしよう。
そして水月が回復するのを待つ間にアジト探索の協力者をあと数人作れれば良いのだが…牢屋の外にいる人は皆大蛇丸さんに忠誠を誓っている。そればかりは難しいかもしれないが頑張ってみよう。
──では早速交渉の方法を考えて…と思った直後視界が歪み出すのを感じた。
そう言えば…水月を振り回していた私が言うのも何だが、この1週間はアジトと短冊街を往復したり綱手さんや自来也さんの前に立ったり、徹夜しての刀造りとかなりハードなスケジュールだった…特に後半は"蛇刀・蝕"の作成で殆ど寝ていなかった…。
…そうか、意味もなく大蛇丸さんの部屋のドアを斬ったりと自分でも良く分からない行動をしてしまったのはそのせいか? やっぱり、睡眠はちゃんと摂らないと…。
認識してしまえば最早抑える術も何もない。
溢れ出した疲労感に飲み込まれるまま意識を失ったかのようにすぐに眠りにつくのだった。
▼▼▼
一方、村雨と水月が立ち去った後に大蛇丸は1人思案に耽ていた。
「…暁に狙いを定めているのかと思ったけど…どうやら違ったようね」
先程唐突にお粥を持ってきたことに関しては本気で何事かと思ったが、その後どうやって見つけてきたのか暁の指輪について聞いてきたときはついに痺れを切らしてきたか…とも考えたが。
彼女の質問にかなりぼかして答えたが村雨は随分と曖昧な態度で応えてみせた。
もしも彼女が暁について…というよりも暁に所属する干柿鬼鮫のことを把握していれば彼女の反応は恐らくあんなものではないはずだ。
引き合わせて貰えると分かれば明確に喜んで、それが叶わないとなれば別の方法で交渉を狙うはずだ、少なくとも『考えておく』という適当な答えで満足するはずがない。
彼女が餌を目の前にぶら下げられたら大人しく出来ない人種であることはこれまでの付き合いではっきりと理解した。ならばあの暁の指輪について積極的に追求しなかったということは彼女の目的は暁ではない──というにはまだ分からない、単純に暁を狙ってはいるが暁の各メンバーに指輪が与えられているということを知らないという線もあるにはある。
しかし、何となくではあるが彼女の狙いは別であるという予感がした。
それは伝説の三忍という優れた忍者としての洞察力と自身と同じ人種である人間への共感にからくる予感だ。
「まったく…一体何を考えているのやら。つくづく面白い子ね」
そう呟くと大蛇丸もまた、身体に纏わりつく疲労感に導かれるままゆっくりと瞼を閉じるのだった。
徹夜テンションで自分でも良く分からない行動をとっていた村雨ちゃん。
なお水月、大蛇丸様からは普段と然して変わらない印象だった模様。