アジトの探索を断念した翌日、半ば気絶に近い形の睡眠から覚めたのは昼過ぎだった。
ここまで起こされずにいたことからして今のところ私の仕事は何もないということだろう…もっとも自らが望んでの事だったとはいえ綱手様との交渉の場に刀匠である私が同行していた事の方がおかしいと言えるのだが。
とにかく今日からは今まで通り刀の作成しつつ、機会があれば屍鬼封尽の情報の入手を図る日々に戻るわけだ。
…刀の作成といえば先日作成した"蛇刀・蝕"は私が今まで造った刀の中でも特に殺傷能力に優れた一振りだった…しかしそれでも伝説の三忍、綱手様の命を奪うには至らなかった。
素材となった毒蟲が木ノ葉出身である綱手様には既に知られた物であったとはいえ、まだまだ世界は広いということを痛感せずにはいられなかった…しかし幸いなのはその綱手様の血の入手が果たせたことだ。
貴重な千手一族の細胞情報…さて、この最高の素材をどう活かすべきか。
この素材を以て生み出される刀を思い描き夢心地に浸りつつも冷静に最適解を求める…何せ綱手様の血は刀にべったり付着していたとはいえその量は限られている。
何度も試作品を造って改善を繰り返すというやり方は出来ない。限られた中で最高の形に辿り着かねばならないというのは中々の重圧だが、不思議とそれはそれで燃えてくるものがある。
廊下に出ると隣の部屋に目を向ける…水月はもう起きているだろうか?
「…本日特別休暇、大蛇丸様許可済み?」
水月の部屋の扉にはそう書かれた張り紙があった。
やはり最近付き合わせ過ぎたこともあって水月も疲れているのかもしれない、というかわざわざ大蛇丸さんに許可を取りにいってその申請が通る程なのだから相当だ。
案外まだ疲れて寝ているかもしれないがそれならそれで休んでもらおう、今日は刀を造るだけなのだから無理に付き合わせる必要もない…とはいえ万が一何かした時に…何かあった時の為に取り敢えず自分の部屋の扉に鍛冶場にいますとだけ貼り紙をしておこう。
…まぁ、本当に今日は刀を造るだけだしここまでしなくとも特に何かあるわけでもないだろうが。
さて、書置きもしたことだし早速鍛冶場に行くとしよう。
「…いつもありがとう水月。私が言うのも変だけど…ゆっくり休んで」
扉の奥にいるだろう人物に声を送る、返事は特にないしやはり寝ているのかもしれない。まぁ寝ているのなら休んでいるということだしそれで良い。
さぁ、既に昼過ぎではあるが今日も一日頑張ろう……そういえばお腹がすいた、頑張るのは食事の後にしよう。
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食事の後に鍛冶場に着くと巻物に収納した"叢雲の剣・青雲"を取り出してそこに付着した血を保存用のパックに丁寧に移す。このアジトは血の保存用に色々な道具が揃っているのが凄く有難い。
とりあえずこれで先にやっておかなければならない事は済んだ。
さて、問題はここからだ。
この血を使ってどの様な刀を造れるか…やはり最も印象に残ったのは"アレ"だろう。
となると必要なのは膨大なチャクラを"蓄積"できる素材だ。
このアジトにいる人物の能力を掛け合わせるか? チャクラ刀で用いる鉱石を使うか…とにかく、綱手さんの血を使うまえに最もチャクラを溜め込むことが出来る刀を幾つか造って一番良い素材がどれか調べるか。
血液保存のパックは元より様々な素材を集めている大蛇丸さんのアジトだ、チャクラ刀用の鉱石も良い物が準備されているが…そういえば鬼童丸さんの糸なども常に膨大なチャクラが流れ続ける仕組みになっている上に術者から離れても永続的に維持出来るらしい、刀としてどこまで組み合わせられるかは未知だが素材として一考の余地があるかもしれない。
…最近は四人衆の方々からは妙に避けられている気がするが協力してくれるだろうか?
とりあえずは鬼童丸さんを探してみよう…えぇっと、四人衆の方々の部屋はアジトのどの辺りだったか?
まぁ良い、案外都合よく屍鬼封尽の情報の方が見つかるかもしれないし手当たり次第に探せば良いだろう。
鍛冶場から出て目に付いた部屋にノックする。昨日はつい気合を入れ過ぎて扉を切り刻んで入室してしまったが流石にもうあんな真似はしない、常識を弁えて行動しよう。
…その後、部屋から出てきた方から事情を聞かれ、普通に鬼童丸さんの部屋を教えてもらうことに成功した。実に常識的なやりとりだった様な気がするがとりあえずさっきの部屋の方にはまた今度お礼をしよう。
そんな訳で、割とあっさりと鬼童丸さんの部屋まで辿り着くことが出来た。とりあえずノックで呼びかけてみよう。
「鬼童丸さん、村雨です。少し糸を分けてほしいのですがよろしくお願いします…間違えました、よろしいでしょうか?」
つい欲望を前面に出し過ぎた。
慌てて訂正したが厚かましく思われただろうか? 少し恥ずかしい。
しかし暫く待っても返事がない。
これは居留守をされているのだろうか? つい扉を切り刻んで中の様子を確認したくなるが本当に留守だったら非常に申し訳ない。
…そうだ! 水化の術で身体を水にした状態でこのドアの下の隙間からそ~っと…。
「あ、鬼童丸さん!」
「どっから入って来やがったテメェ!?」
その後は言い争いの末糸に縛られて廊下に叩き出されました…、居留守された事について思うところはあるがとりあえず目的の糸が手に入ったので良しとしよう。とりあえずいつもの巻物から"叢雲の剣・紫雲"を取り出して身体に巻き付いた糸を慎重に切り落とす。
出来る限りバラバラにしたくはないし、手元が狂って身体に刺さったら流石に大怪我が免れないということもあって流石に怖かったがひとまず目的を遂げることは出来た。その後は大蛇丸さんに保管庫の鉱石を幾つか使う申請を出し、それらを受け取って鍛冶場に戻った。
多少の苦労はあったが漸く刀造りが…
「! …待っていましたよ」
「君麻呂さん!?」
鍛冶場に戻ると先に来ていた訪問者に流石に驚いた。
綱手様との交渉の日の前日にお会いした君麻呂さんが椅子に座ってそこにいた。
「お身体は大丈夫なのですか?」
「あまり良くはない。──もっとも、治療室にいたところでただ死を先送りにするだけしかないのだから君が気にすることではないよ」
そうは言われても…君麻呂さんは大蛇丸さんのお気に入り…もしもの事があれば私もただでは済まない、できれば安静にしていて欲しいのだが…っ! そうか、水月は私の秘書をしている時こんな心境だったのか!
今更ながら水月に多大な心労を掛けていたのを自覚する。…よし、他人に苦労を強いておいて自分だけ楽を…という訳にはいかない、君麻呂さんの話をちゃんと聞こう。
「分かりました…それで御用は…先日話していた事ですか?」
「その通りです。…どうやら大蛇丸様は両腕の回復は果たせなかった様ですね…つまり大蛇丸様は…君の言うところの『僕の作品』は君が刀を授けるには満たないものだったと言うことになる」
「…それは」
言葉に詰まる。
確かにあの時はそう言った、というのも君麻呂さんの意向に添うならば大蛇丸さんの両腕の治療が必要だと思っていた。
しかしそれでは大蛇丸さんが屍鬼封尽の情報を集めなくなってしまうということもあってどうするか迷った。
その結果、大蛇丸さん自身が両腕を取り戻すことが出きるかどうかで君麻呂さんの要望を叶えるか否かを判断しようと思ったのだが…既に大蛇丸さんが屍鬼封尽の情報を確保している可能性が高いこと、そもそも別に両腕が使えずとも刀を使えると色々と前提が変わってしまった。
どうしたものかと頭を悩ませている内に君麻呂さんの視線が僅かに鋭くなる。
「しかし、大蛇丸様はいずれは必ず両腕を取り戻される。…僕がその時まで生きていられるかは定かではないが、それは間違いない。だから、改めて君に刀の作成を依頼したい」
この人は…どこまで大蛇丸さんを慕っているのだろうか?
私と交わした約束に反することであったとしても、ただ大蛇丸さんに自らの力を残したいと。
それは自身が慕う人への貢献か、或いは自らの生きた証を残したいのか…いずれにしても、最早前提が崩れた以上君麻呂さんの方から協力してくれるのは私にとって願ってもないことだ。
「分かりました、引き受けましょう」
迷う理由もない、むしろ丁度膨大なチャクラの蓄積に耐え得る素材を探していたところだ。
話に聞いた君麻呂さんの血継限界"屍骨脈"ならばそれも可能だろう。
それに何より。
「よろしいのですか? 元々は──」
「はい、私は自らの夢に殉じる人は好きですから」
刀は斬る、刺す、或いは削る…方向性は様々だが望まれた一つの形があって研ぎ澄まされる度にその形はより確かなものとなり輝きを増す…。実にシンプルで美しい。
しかし人はそうではない。人は感情、環境、あらゆる要因でいくらでも形を変え、輝きを失う不確かなものだ。だが、自らが抱いた一つの夢を目指す人は違う。水月、我愛羅君、ナルト君、夢の形は様々だが彼らは皆自らの理想の為に己を磨き続けて輝きを増している、そしてそれは君麻呂さんも同様だ。
刀と同じ輝きを宿す人…刀匠として協力しない理由はない。
「では、早速刀の作成を始めましょう。実は既に構想を練っている刀があるんです」
「──ありがとうございます」
君麻呂さんが穏やかな笑みを浮かべた。
病に侵されている事もあり自らを省みない様子が目立つが本来はこういう気性の方なのかもしれない。
…まぁそんなことはどうでも良い、まずは今から造る刀を君麻呂さんと共有しておくことが優先だ。
そう、君麻呂さんの能力と掛け合わせるもう一つの能力、綱手様が見せた再生能力"忍法・創造再生"だ。
溜め込んだチャクラを使い自身の細胞を刺激、細胞分裂を加速しあらゆる傷を修復する力…まさしく医療忍術を極めた者の御業だ。
だが、そんな術を綱手様のお付きの方であるシズネさんは使用することを止めていた…そのことから細胞分裂の加速、つまりはそれは自らの寿命を縮めることに繋がるというリスクがあったのだと推測できる。
ここまで考えれば後は発想の逆転だ。
あらゆる傷を細胞分裂の加速を以て再生するその力は"細胞を破壊する能力"へと変貌させることもできるかもしれない。勿論それは膨大なチャクラを蓄積する必要があるだろうが人体の特定の箇所に集中させるより忍具である刀に蓄積するほうが遥かに簡単だ。
…現にヒラメカレイをはじめ、チャクラを蓄積できる刀は多い、先日造った"蛇刀・蝕"だってそうだ。
細胞分裂にどれ程のチャクラが要求されるかは分からないが少なくとも"蓄積する技術"については大した障害ではない。
もう一つの障害はチャクラで細胞を刺激するという能力を再現できるのかという点だが、それに関しても傷を治す為の調整を必要とせずただ細胞を破壊するだけで良いのだがら開発技術としては綱手様のそれよりは幾分容易だろう。幸いにして術者である綱手様の血もこうしてここにあるし、恐らく再生忍術の源流である医療忍術の優れた使い手であるカブトさんの見識、推測を頂ければきっと辿り着くことは出来るはずだ。
そして残る障害、人の一生分の細胞分裂を加速させるほどのチャクラ量を蓄積できる器だ。
これこそが君麻呂さんに望む要素であり、私にとってもっとも嬉しい誤算だったところだ。
当初の予定では鬼童丸さんの糸とチャクラ刀の鉱石によって実現を考えたが君麻呂さんの特殊な骨ならばより高い精度での実現が可能だろう。
何より生命体に作用する医療・再生忍術と骨という人体由来の素材というのはきっと相性が良いはずだ、基本である五大性質変化をはじめ、忍術の掛け算とはそういった要素が少なからず存在している。
──ここまでを語ると君麻呂さんは驚いた様に顔を動かし…僅かに笑った。
「…大蛇丸様がお気に召すはずだ。実に恐ろしいな君は」
「実現する前から賞賛されるのは面映ゆい」
「それは済まない、しかし面白いな。骨の刀身が刺されば相手を細胞から破壊する必殺の刀か」
「まだまだ構想の段階ではあるけれど、実現させる為の素材は既に集まっているはず…君麻呂さん、最初は強度は硬過ぎなくていい、物に刺さる程度の鋭さで骨を一本お願い」
「分かった」
君麻呂さんが掌から先端が尖った骨を一本取り出す。
なるほど、一般的な刀より遥かに強度に優れた骨だ…これは最早名刀と比べても遜色ない…これが"屍骨脈"という能力か…実に素晴らしい。
君麻呂さんの能力に興味がより一層惹かれるが今回はこっちの作業が優先だ。硬質の骨の一部を何度も刀と摺り合わせて削ると別の刀と繋げ即席の刀を造る。…ひとまずの試作品はこんなところで良いだろう。
鉄部分に封印術の術式を刻み結合させた骨部分まで術式を広げる。
次に綱手様の血を数滴、血液保存のパックから摘出するとそのままそれを試作の刀の封印術式に組み込む。
恐らく、綱手様の血をそのまま使っただけでは目的に再生忍術の力を引き出すには至らないと思うが…まずはチャクラの伝導性から検査しよう。
鞘を握って、従来のチャクラ刀同様にチャクラを流し込んで…
「やっぱりここにいましたか、君麻呂君、勝手な出歩きは許可していないんだがね?」
「っ! カブト先生」
……あぁ、やっぱり二人の人間の細胞をそのまま使っただけでは今一チャクラの伝導が良くない。チャクラの放出がどうにも鈍いな。
繋ぎの部分でチャクラが減衰してしまっているのだろうか?
「君の身体はまともに動ける状態じゃない、安静していないと本当に死んでしまうよ」
「…しかし、安静にしていたとしてもこの病は治るものではないんですよね? それならば、僕の力を大蛇丸様に残す為にも彼女と協力した方が」
「それを決めるのは大蛇丸様だよ。少なくとも君が無理をして死ぬことを大蛇丸様は望まないはずだ」
……いや、これは違う。
君麻呂さんの細胞そのものである骨の部分と綱手様の血を封印した刀身の繋ぎの部分にチャクラが集中しているせいで刀身全体の伝導率が悪く感じたのか。
しかしこれはどういうことだろうか?
普通に考えて他の一族である細胞を活用した刀身でこんな事になるとは考えにくいのだが?
「さぁ、とにかく一度治療室に戻ろう。君の細胞を村雨に提供するかは一度大蛇丸様に確認をとるから。さぁ」
「………はい、分かりました」
「村雨、君も一旦手を止めてくれ。大蛇丸様の許可が出れば改めて」
…まさかとは思うが綱手様の千手一族と君麻呂さんの一族はどこかで繋がりがあるのだろうか?
そういえば君麻呂さんの一族ってどういう名だったか? 考えてみれば聞いていなかった…いや、そんなことより何だこれは? チャクラが一か所集中しているどころか増幅している!? 細胞同士の相性が良すぎる!
まずい、いかに君麻呂さんの骨といえどもこのチャクラの圧力には耐えられない! このままでは──
「村雨? どうかし──」
「爆発します」
「「え?」」
直後鉄と骨の刀身を突き破り轟音と共にその内側で渦巻いていたチャクラの奔流が爆発の如く弾けた。
▼▼▼
「な、何!?」
自身の部屋のベッドで寛いでいた水月は突然の振動で跳ね起きた。
敵襲…とは流石に考えにくい。
あの大蛇丸がそう易々と出し抜かれるはずがない、だとするとこれは内側での反乱…も、あんまり考えにくい。
となると残る可能性は一つ。
「……ま、いっか、僕今日は休みだし」
どうせこの騒動の原因はアレだ。
だったら少なくとも今日の自分は無関係、貴重なお休みはのんびりと過ごさせてもらうとしようと一度身体を大きく伸ばし、再びベッドに寝転がるのだった。
今回地の文が大半を占めていて申し訳ありません。
水月君が休暇を取った影響がこんなところにも出ようとは…