霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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稼ぎの任

「さて…まずは何があったのか説明してもらおうかしら?」

 

 広間に招集を受けて開口一番に大蛇丸さんがそう告げた。

 周りを見渡せば四人衆の方々や水月、若干煤を被っているカブトさんに囲まれ、かつてのアカデミーで諸々の事情で呼び出しを受けて教官の方々に囲まれた時を思い出す。──が、それ以上に彼らの他に老若男女様々な人達を入れた『99』と書かれたタグの付いた檻があることが気になる。

 そういえば先日の綱手様達と戦いの折に口寄せした巨大蛇マンダさんが"あとで供え物の生贄を100人"を要求していたが…まさかこれはそういうことか!? 事情説明の為に呼ばれたにしては妙に広い部屋に呼ばれたなぁ…なんて思っていたが今まさに命の危機だった! 

 

 しかし今回の件は真っ当な事故だ、何としてでも弁明しなければ。

 

「刀の作成中に想定を超えるチャクラ反応が起こり爆発しました、断じて私の技術不足ではございません」

 

 まさか素材とした細胞同士であんな反応があるなど分かろうはずがない、これで私の技術不足を疑われるならば心外だ、何としてでも弁明しなければ! 

 

「今回は情報不足の段階で始めてしまった為、仮作成の段階から思わぬ事態となりました。しかし次こそは情報素材、完成形のイメージの全てを整え究極の品質で造り上げてみせましょう」

「論点がズレている…」

「いや、アレは本気でアジトで爆発事故を起こしたじゃなくて自分の技術不足を疑われて呼ばれたんだと思っているよ」

 

 なんだ、問題はそちらだったのか。

 カブトさんと水月の話が聞こえて内心安堵する。"蛇刀・蝕"も今回の一件も私の刀造りがいまいち良い結果に繋がらないこともあって呼ばれたのだと思ったがどうやら杞憂だったらしい。よかった。

 

 …

 ……

 ………いや、よくはない。それならそれで最初に謝るところを完全に誤ってしまった。

 

 っ! 謝るところを誤る…いつか使えるかもしれない。刀が絡まない会話は苦手な為こういうふと思い付いたネタはちゃんと覚えておいていざという時に備えておく必要があるのだ。もっとも今回のは謝る様な出来事がないと使う機会もない為あまり使いどころは多くなさそうなのが難点だが。

 

 しまった、また思考が脱線していた。今は爆発事故についての説明と謝罪が先決だ。

 

「想定を超えるチャクラ反応と言ったわね、それについての検討は?」

 

 急いでそちらについての対応をと口を開こうとして大蛇丸さんに先を越された、しかし謝罪についてよりもチャクラ反応についてを優先して頂けるとは本当に話が早い人だ…こちらとしては有難い限りだが少し怖くなってくるな。

 

「あくまで予想でしかありませんが使用した綱手様の細胞と君麻呂さんの細胞の相性が良かった事が原因なのだと思います。霧の里にいた頃に作製した刀の中でも血縁者同士の組み合わせて造った物が想定を超える反応が起こった例がありましたので今回のケースはそれに該当するのだと思います」

「血縁者同士…千手一族とかぐや一族がかしら?」

「断言はできませんが…、先程言ったケースも想定以上の出力に繋がっただけで爆発を起こすほどの規模ではありませんでした。ただ使用させて頂いた両者の血筋が特別な物ですから可能性も十分あるかと思います」

「なるほど…うちは一族と並び忍世界において最高位の千手一族、そして特異な血継限界を有するかぐや一族の源流…興味深いわね」

 

 大蛇丸さんが真剣な表情で呟いた…大蛇丸さんの知識量ならば思い当たるものがあるのかと思ったがどうやら未知の事だった様だ。ひょっとしたら私は良い発見をしたのかもしれない。

 つまりこの事を傘にすればあの99の檻の100人目になることは免れるはずだ──このまま畳み掛けよう。

 

「現状ではまだ確定とは言えません、私も更に刀の作製を行い検証致しますので──」

「いやテメーの鍛冶場丸ごと吹っ飛んだだろうが。どうやって刀造んだよ?」

「………え?」

 

 実は爆発に巻き込まれて意識を失っていて気が付いたら治療室で煤を被ったカブトさんの医療忍術を施されていたのだが…そんなに凄い爆発だったのか? ──というか…

 

「私の鍛冶場が全壊!?」

「鍛冶場どころか隣の部屋も諸共吹き飛んだんだよ!」

「そんな…私の生きる場所が…私の楽園が全壊…」

「話聞けぇ!!」

 

 何と言うことだ。まさかあの爆発がそれほどだったとは…幸い綱手さんの血のストックは手元の巻物にしっかりと収納していた為無事だったが鍛冶場がなければどうすることもできない…いや、それどころか鍛冶場がなければ大蛇丸さんにとって私の価値などないに等しい、これではあの檻の100人目になるのは免れないではないか! 

 

 

 ……よし。

 

 

「分かりました、では今ある私の刀を売って修繕の資金を調達してきます。大蛇丸さん、外出の許可をお願いします」

「そうね、私達の様な組織には多大な活動資金が必要だから自分で稼いでくれるのは有難いけれど…一体どこで売るつもりかしら?」

 

 なるほど、確かに自分で稼いでくるから許してほしいというのなら具体的な商売プランが必要だろう…正直私の刀ならば少なくとも武器を必要としている人ならば誰もが欲しくなる質であるという自負があるがそれとこれとは別問題だろう。

 

 …しかしどこで売るのか…か。少なくとも霧隠れ近辺は論外、砂隠れも同様。そして先日の綱手様達との一件を考えれば木ノ葉の近辺も危ない…か。

 おかしい、どうして五大里の内の三里が危険地帯になっているんだ!? 霧の里を出てまだ1年も経っていないのになんでこんな事に!? 

 

 いや、嘆くのは後だ。とにかく具体的なプランを早く答えないことには私は蛇の餌…ここは残る2つのどちらかに希望を見出すしかないが…やはりここは…。

 

「雲隠れ近くの里で売り歩こうと思います。雲隠れといえば雷遁の性質変化を持つ者も多く雷遁刀を始め、刀の流派も多く刀の需要も高いかと」

「悪くはないわね。しかし修繕費を稼ぐとしては雲隠れ"近辺"では些か時間が掛かるのではないかしら?」

「否定はできません。しかし入国許可が得られない以上大国である雲隠れの里に直接入っての商売は難しいかと…利益に拘り潜り込んでの商売はあまりに危険です」

「三代目火影暗殺の現場で刀売りつけてきたバカが危険性について語ってんじゃねぇよ!」

 

 あれは物見やぐらの上で試合を観戦していたところにそっちが後から来た結果だ。私とて別にあんなところで商売がしたかった訳ではない! 左近さんは私が安全危険の区別が付かない人だとでも思っているのだろうかあまりに心外だ。

 

 いや、まさか皆からは本当にそんな風に思われているのか? だとすれば恵まれた環境に落ち着けば途端に保守的になって堕落しているように思われるかもしれない…ならば! 

 

 

 

「今はもう独りきりの刀匠じゃない、私は"音隠れの里の刀匠"渦柘榴村雨──万が一皆さんの情報を他里に渡す可能性があることなど出来ません」

 

 

 

 こうして献身さをアピールするしかない。

 こうしておけば私が自分の安全や利益などではなく皆さんのことを優先する者として認識してもらえるはず…何故か水月が鼻で笑っている…今度水月の部屋のドアに大量の刀を突き刺しておこう。

 

「まぁ貴女の考えは分かったわ。とはいえさっきも言ったけれどあんまり悠長にされるのも困るからね…もっと良い売り場を使ってみる気はないかしら?」

「良い売り場…ですか?」

「えぇ、2日後岩隠れの近くの廃村で行われる闇市。抜け忍や各里の暗部達が集まる非正規の市場よ…貴女にとってはこうるさい連中に邪魔されず純粋に刀の性能次第で買い手を集められるそちらの方が向いているのではないかしら?」

 

 なるほど闇市…響きは少し怖いが興味がないわけではない。

 それに大蛇丸さんの言う通り私の刀は素材を調べられると何かと問題視される可能性がある物も多い…ならば顧客の殆どが抜け忍などの里に属さない人達というのは理にかなっているかもしれない。

 

「分かりました。必ずや大金を持って帰ります、それでは──」

 

 スッと頭を下げてそう言うと素早くその場を後にする。

 冷や冷やしたが大蛇丸さん自身から売り場を選んでくれる辺り稼ぎさえすれば今回の件は許してもらえる…何としても成功させなければ。そう思えば予め目標金額を定めてもらった方が良かったか…少し退出を焦り過ぎた。

 とはいえ今から戻るのも怖いし諦めよう…その代わり折角隣の部屋も吹き飛んだのだったらいっそ元の状態から更に増築をしてもらえるように沢山稼いでしまおう、何事も前向き、希望を胸に行動しよう。

 

 何なら折角の闇市、市場に流通しないような武器や材料が見つかるかもしれない、稼ぎこそが目的ではあるが観光も楽しむのもアリかもしれない。

 闇市の開催は2日後…岩隠れ近くということを考えれば、早速今から準備を整え移動を始めた方が良いだろう。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

「大蛇丸様、あれだけで良かったのですか?」

「事故とはいえアジトの破壊、おまけに君麻呂の奴を…」

「フフ…確かに君麻呂を勝手に使ったことは度が過ぎているからね、今回ばかりは片目ぐらい潰してやるつもりだったのだけれどね…」

 

 アジト内の爆発は呪印に飲まれ狂った連中が時々暴れる様なことが時折あり、多少締め上げる程度の罰で良いかと思っていた。

 だが現場に駆けつけてみれば鍛冶場を含めて部屋3つを巻き込んだ爆発で錯乱した中に自身の右腕であるカブト、そしてお気に入りとして治療室で安静にさせているはずの君麻呂が軽傷とはいえ負傷していたのだ。

 流石に…1人爆心地の中心で目を回していた子供に少なからず殺意を抱いた。君麻呂自身の口から要望を出したのは自分だと訴えられた為その場で殺すのは控え、こうして呼び出した訳だが…。

 

 千手一族とかぐや一族の関連性…今まで集めた数々の知識の中でも全く情報がない未知の事柄だ。

 その真偽も定かではないがもしそれが事実ならば……。

 

「ククク…面白い、面白いじゃない。カブト、後で千手一族とかぐや一族の情報を整理するわ、協力なさい」

「やれやれ、また仕事が多くなりそうですね」

「情報の多くが残っていないのだもの、希少な分既存の情報の洗い出しは大した手間ではないでしょう…それから四人衆、貴方達には近々木ノ葉へ向かってもらうから準備を整えておきなさい」

「はっ!」

 

 四人衆が傅いたのを確認するとそのまま視線を残る1名、水月へと視線を向ける。

 村雨に闇市で稼いでくるようには言った…が、お目付け役は必要だろう、いつも通り仕事を──

 

「あー大蛇丸様、四人衆の木ノ葉行きって例のうちはサスケの確保っすよね」

「厳密には勧誘よ。彼には自分の意志で私の下に来てほしいからね…ただ、素直に言う事は聞いてくれる子じゃなさそうだから…己の力不足を教えてあげるためよ」

「それならボクが代わりに行ってきますよ。力の差ってのを教えるんなら1対1の方が都合良くないっすか?」

 

 その言葉に四人衆が皆訝しげに水月に視線を向けている、左近や多由也などはまるで自分の方が強いのだと言っているのだと感じたのか鋭く睨んでいるようだが…これはむしろ…。

 

「随分とストレスが溜まっているようね…まぁいいわ、好きにしなさい。ただし殺しては駄目よ?」

「任せて下さいよ、半殺しは水遁系の得意分野ですから」

「それじゃあ四人衆、貴方達には別の任務を与えるわ」

 

 その後新たな任務を告げたところ基本忠実な彼らにしては珍しく、その顔にははっきりと拒否感を浮かべていた。

 我が世の春が来たと満面の笑みを浮かべた水月と比べ正しく天国と地獄のような光景だったがそこから先はどうでも良い。

 そんな事よりも早く千手・かぐや一族の情報の洗い出しをしておきたいから、何やら水月と四人衆が言い争いを始めた様だがもう好きにさせておこう。

 

「それにしても…随分とこのアジトも賑やかになったものね」

「確実に彼女の影響でしょうね…悪影響でないことを祈るばかりですが…」

 

 喧噪を無視して付き添うカブトに声を掛ければ彼も呆れた様に肩を竦めた。

 

「それにしても…よろしいのですか? サスケ君勧誘に四人衆、彼女の監視に水月の方が適材適所だと思いますが」

「偶には良いでしょう。潰れてしまうよりはストレス発散の機会があっても」

「まぁ…万が一水月が完全に壊れたら彼女の監視役が務まる者を探すのも難儀な事になりそうですしね…」

 

 何事も完全に壊れる寸前で留めておくに限る。

 どうせ今のサスケ君では四人衆にも水月にも勝つ事はできない…結果が同じならば誰であろうと然して問題はないのだから偶には水月も労わってあげても良いだろう。…強いて懸念があるとすれば…

 

「サスケ君は良いとして…四人衆が彼女を止められるでしょうか?」

「………」

 

 まさに考えていた懸念をカブトが口にして言葉に詰まる…何故1人の監視に4人を充ててなおそんな懸念が残るのか、つくづく…面白い子。

 

「ま、最悪あの程度の修繕費何てどこからでも調達できるから特に気にすることでもないわ。──あぁそうだ、後で牢屋から適当に一人選んであの広間に連れて行って頂戴。マンダの機嫌を損ねると面倒だからね」

「かしこまりました。…マンダももう少し従順ならば楽なのですがね」

 

 確かにマンダは尊大な性格だが、まぁそれは昔からだ…それに最近はもっと気難しいというか掴みどころの分からない子と関わっているせいかあれぐらいならばどうこうと思う事でもないような気がしている。

 …まったく悪い影響でないことを祈るばかりね。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 大蛇丸さんに闇市での出稼ぎを命じられた数時間後、荷物を整えた状態でアジトを出る。

 

 売り物用の刀は持った! 

 市場で掘り出し物を見つけた際の資金も持った! 

 左近さんの兄である右近さんを監視の為に首の後ろから生やされた! 

 勝手な事をしないように両手を鬼童丸さんの糸で結ばれた! 

 逃げ出した時に遠くまで行けない様に次郎坊さんが出した岩を背負わされた! 

 そして多由也さんに幻術を掛けられ身体を自分の意志で上手く動かせない! 

 

「…いくら何でもこれは過剰では?」

「うるせぇ、テメーの扱いはこれぐらいが丁度良いんだよ」

「せめて右近さんはナシにして頂けないでしょうか…その…一心同体というのは何というか気まずくて…私の対人距離の限界を越えていて…」

「黙ってろ!」

 

 いくら何でもあんまりだ! 私が一体何をしたというのか! 

 そもそも何故同行者が水月ではなく四人衆の方々なのだろう、状況がまったく分からない。

 準備している時はアカデミー時代の遠足を彷彿とさせる気分だったのに気が付けばまるで連行される犯罪者だ、半ば途方に暮れながら視線を何とか四人衆の方々に向ければ彼らもまるで遠足のしおりの様な物を確認している。

 闇市が行われる廃村までの地図だろうかと注視すればどこか見慣れた筆跡が目に映る。

 

 

 

『狂人対策之書・著_水月』

 

 

 おのれ水月ーーーーー!!




何で元々刀を売って生活していた人を稼ぎに出す事に全員が警戒しているんでしょうね?
むしろ本来の在り方なはずなのにこの信頼の無さである…。
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