至高のラーメン屋と出会った後、村雨は木ノ葉の里に滞在するにあたって選んだ旅館で旅の疲れを癒す。
木ノ葉の里は良いところだ、旅館の景観も出てくる料理も良いものだった。何より温泉がとても素晴らしい。
こんな良いところならば最初に行くべきところは木ノ葉の里だったかもと思うが、砂の里で資金を潤わせていなければ今自分がいるような旅館に泊まることは難しかっただろうと気付き、今の自分が一番良い選択をしていると自信を持つ。
翌日は人探しに充てる時間が必要なくなったこともあって、一応用意してきた刀を売り歩くことにした。
砂の里には許可を貰ってここに来たのだから問題はないのだが、何の収入もなしに帰ってはあまり良い様に思われないかもしれない。そう思い、荷台に刀を乗せて歩き回る。
何人かの忍が興味を持って見に来るが、さして良い物でもない一般的な忍具屋の刀では大して買い手もつかず時間だけが流れてゆく。──出来る事ならば別の巻物に収納した自作の刀達を広めたい。特に途中で出会った忍具に強い関心を持っているらしいくノ一さんには是非とも自慢の業物を買ってもらいたかった。
そんな物寂しい時間に憂鬱な気分になったことで、刀の売り歩きよりも自身の見識を深めた方が得策と木ノ葉の観光と探索を始める。
あのラーメン屋の店長との出会いは偶然ではあったが、水の国にいた頃から彼の有名な一族の名は聞いていた。
木ノ葉の里の名家"うちは一族"。その一族にもかなりの職人さんがいると聞いた事があり会ってみたいと近くの人に道を問う。
──彼の有名な"うちはせんべい"の職人に会いたいのですが……
そんな軽い気持ちの質問だったが返ってきたのは「うちは一族は滅亡した」というあまりに残酷な言葉だった。
職人達によって高められた技術が相伝されることも叶わず消えてしまったという事実に言葉が詰まるのを感じ、それを紛らわすかの様にその日は1日中里のあちこちを見て回った。
そうして待ち望んでいた日が訪れた。
いよいよはたけカカシという人物からの返答が貰えるということに身体がフルフルと震え口角もニィ……と吊り上がる。
無論会ってもらえない可能性もあるが、その場合はあの店の常連という人物をつけまわして見つければ良い。あのラーメン屋の店長さんを裏切るようで心苦しくはあるが。
そんな打算をしながら走り続けていると例のラーメン屋一楽が見えてくる。
そして店の前には2人の少年と1人の少女、左目部分以外の顔の殆どを隠した白い髪の男性が立っていた。
ラーメン屋のお客さんだろう。数ある店の中でここを選ぶ辺り、この人達もかなりセンスの良い人達なんだろうなと、たった一度しか入店していない身で博識振るのはともかくとして、店長さんに挨拶する。
「こんにちは……」
「おぉ嬢ちゃん! 丁度良いとこに来たな、この人が嬢ちゃんが探してたカカシさんさ!」
「……?」
予想外の言葉に頭の中が混乱する。
今日はあくまでカカシさんから会って貰えるかどうか聞けるという話であり、こんな都合良く話が進む訳がない。
「ども、俺に用がある風の国のお嬢さんってのは君の事かな?」
「いやぁ運が良かったな嬢ちゃん、丁度今日のこいつ等の任務が終わって、午後からの演習の前に昼飯食ってたとこだったんだよ」
それは凄い偶然だ。
恐らくカカシという男性の傍に控える3人の忍達の内の一人であるこの店の常連さんが任務の打ち上げにここを希望したのだろう。だとしたらその人は私にとっての恩人だ。
しかし、それは後で良い。
まずはカカシさんととにかく話をしたい。
「は、はい……ずっと……お会いしたかった……です」
ただでさえ口下手なのに緊張で更に言葉に詰まり、気恥ずかしさと高揚感に顔が赤くなる。
──のだが、何故だろう。近くにいた女の子と黒髪の少年が、自身の先生であるはずのカカシさんを犯罪者を見るような視線でじっと見つめている。
視線に気付いたカカシさんが何やら慌てた様子で2人と話をしている。
そんな姿を不思議に思い眺めていると、今までテンションが上がり過ぎていて気付かなかったが、カカシさんが肝心の断刀首斬り包丁をもっていないことに気付く。
……成程、なにせ霧隠れが誇る忍刀だ。
自ら再不斬さんを打ち倒して得た戦利品といえど、安易に見せびらかしてしまえば里の偉い人に持っていかれる可能性があると考慮して巻物か何かに隠しているのだろう。
そんな事を徹底しているということは、この人は刀の価値というものを理解している人だと、何となく嬉しくなる。
とはいえ、それで引き下がる訳にはいかない。本人が周りに晒すのを避けている以上、簡単にはいかないだろう。上手く誘導し見せてもらうしか方法はない。
しかし私は……話術のスキルが皆無だ。
だから誘導などということはせず、誠心誠意お願いする他ない。
そう決意し、頭を大きく下げる。
「砂隠れの里の村雨です……。ここには自らの作品を高めるため、カカシさんにあるものを見せて頂きたくて来ました」
「へぇ、わざわざ砂の里から木ノ葉へなんて大変ねぇ」
お連れの少女から感心の声を向けられ軽く頭を下げると、カカシさんと改めて向き合う。
その表情には焦りの色が見える。やはり周囲の人に知られないように隠し持っていたのかと思い、不躾な願いだったかと申し訳なく感じながらも、ここで退く訳にはいかないとその目をじっと見つめる。
はたけカカシは焦っていた。
自身の教え子であり部下であるナルトから、自身に会いたいと言っている人がいるらしいという話を聞いて今日の任務を終え、午後からの演習前の時間を使って会うことにした。
すると、やって来たのは見知らぬ少女。妙に興奮している様子でどんな要件なのだろうかと思っていると、作品造りの為に自分の持つ物を見せて欲しいと言う。
しかし自分が持つ物で物造りの人間が見て役に立ちそうな物など何も無い。一体この少女は俺の何を、そんな疑問を持った直後、たった一つだけ思い当たる物が今も自分のポケットに眠っていることに気付く。
──"伝説の三忍"の一人、あの自来也様の著作『イチャイチャパラダイス』!
まさかこの少女は作家で、今や貴重なこの本を見たくて砂の里からここへ!?
確かにそれならば少女の言う作品造りという言葉と辻褄は合う──だが!
「……すまない、流石にあれを君に見せる訳にはいかない」
「──っ! そこをどうにか!」
「いや駄目だ。君はまだこれを見るには若すぎる!」
村雨という少女の熱意は買おう。しかし彼女は見るからに、まだ自身の教え子達と大差ない年齢だ。
成人小説を読ませるなど出来ようはずがない! 遅刻常習犯だがそれでも良識ある大人として!
「大丈夫! あまり人には言えないけれど──5歳位の頃から何度か(断刀"首斬り包丁"を)見せて貰ったことはある!」
「5歳で!? アレ(イチャイチャパラダイス)を!?」
「隅々まで見せて貰った! ──でもあの頃の私では見えなかった物がきっとある! だからもう一度だけアレ(断刀"首斬り包丁")を見せて欲しい!」
「隅々まで!? ──い、いや……しかし」
5歳の少女にこんな本を読ませるとは彼女の周りの人間は一体何を考えているんだ!?
世にも恐ろしい少女の言葉に普段はのらりくらりとしている精神が大きく乱れる。
しかしこのままではいけない。何とか落ち着き、彼女に冷静になるよう話を着けよう──そう思っている間に自身の生徒達に囲まれていた。
「カカシ先生ってば大人気ないってばよ! 見せるだけでいいって言ってるんだしそんなケチな事を言ってちゃダメだってばよ!」
「まぁわざわざ砂の里から来たって言うのに何もしないで帰すのってちょっと気の毒かも」
「……何でも良い。さっさと見せて演習を始めろ」
「い、いや君達……しかしだね……」
まずい、状況を理解していない教え子達に追い詰められている。──ある意味先日の波の国よりピンチだ……人として……。
「先生ぇ、俺からも頼みますわ。この嬢ちゃんは自分の造る物を高めることに必死なんだ。決してやましい気持ちがあるわけじゃねぇ」
「テウチさん!? しかし──」
「だぁーっ!! さっきからカカシ先生しかししかしってまどろっこしいってばよ! 早く見せてあげるってばよ!」
「さっさとしろカカシ、ただでさえアンタの遅刻癖で修行が遅れてんだ!」
テウチさん、そして再度教え子達に詰め寄られ最早自分に逃げ場はないのだと理解する。
このまま少女を突き返しても教え子達からの信頼は地に落ちる。ならばせめてこの少女の望むことをしてあげよう。それがどの様な結果になろうとも──
全てを悟り仙人の様な境地に達し自身のポケットに眠るそれを少女に渡す。
そう……未成年の見知らぬ少女に成人小説(イチャイチャパラダイス)を──
「ぎゃああぁぁぁっ!? 何渡してんのよカカシ先生ェ!!」
「知ってんぞ! それ子供に読ませちゃいけねぇやつだろ!!」
「……堕ちたな、アンタ」
結果……教え子達による担当上忍の袋叩きが始まった。
「……この本にある"女性の心の守りを切り拓く男の聖なる剣"とは……」
「いけねぇ嬢ちゃん! それ以上はダメだ!!」
大混乱!!
この場が収まるまで30分もの時間を要するのだった。
教え子達の拳を甘んじて受けつつカカシは一人亡き友への声を送る。
(お前が生きていたら……今の俺に何て言うんだろうな……なぁ……オビトよ……)
▼▼▼
「えぇっと……それでお嬢さんは作家さんじゃなくて忍具専門の鍛冶屋さんだったと」
「はい、言葉が足りず申し訳ありません」
「いやいや、俺もつい勘違いしてしまって申し訳ない。ハハハッ」
互いに頭を下げて話を仕切り直す。
隣でカカシさんの教え子の少女が「いくら勘違いでも未成年に成人小説渡す大人がどこにいんのよ」と呟いているがこの件に関しては上手く話せなかったこちらに非があるだろう。
どうにも申し訳ない気持ちになるがあまり長く時間を取らせる訳にもいかない、意を決して自身の目的を告げる。
「……数日前に貴方が『鬼人・桃地再不斬』を討ったと聞き、あの人が持っていた断刀"首斬り包丁"を見せて頂きたくて来ました。……厚かましい願いではありますが、どうかあの刀を見せて頂けないでしょうか?」
誠心誠意頭を下げる──しかし返ってきたのはカカシさん、そして彼の教え子達のポカンとした……そして少々気まずそうな表情だった。
「いやぁ……非常に言い難いんだけどね……置いてきちゃった、波の国に」
「──? 。──ななな、何故!? 霧の里が誇る忍刀を持ち帰らずに放置って、あの刀にどれ程の価値があるかご存知でないのですか!?」
「そういう訳ではないんだが……どうも持ち帰るのも気が引けてね」
「そ、そもそも霧隠れの忍刀の一振りが目の前にあったんですよ!? 使いたいと思わなかったんですか!?」
カカシさんだけでなく彼の教え子達にも視線を向ける。
私よりほんの少し年下の──水月と同い年くらいの者達、これぐらいの年ならなおの事"刀"というものに強い憧れを抱いているはずだ──それなのに……
「いやあんなデカいの持ってらんないでしょ?」
「墓に刺す為に持ち上げるだけでキツかったってばよ……」
「くだらねぇ……所詮は忍具だろ」
聞こえてくる言葉に耳を疑う。
確かにまだ筋力に乏しい子供の身であの断刀首斬り包丁を扱うのは無理があるだろうが、だからといってそんな興味なさ気に言ってしまえるものなのか?黒髪の少年に至っては七人衆の忍刀を他の忍具と一緒くたにしてしまっているし……。
「話は済んだんだろ?さっさと演習を始めようぜカカシ」
「んー……まぁそうだな。すまなかったねお嬢さん、一応再不斬の刀なら誰にも持っていかれてなければ波の国にあるはずだから、一目見るだけならあいつも怒らないと思うよ」
話は終わったと黒髪の少年が切り出しカカシさんも特に諫める理由も無いのだろう。できる限りこちらを気遣ってかそう優しい声色で教えてくれる。
──しかし、波の国は比較的霧隠れの里に近い島国だ。
1年前からどういう訳か国の行き来が断絶されていたが最近になって再び入国が自由になったことで今では霧隠れの忍の目が多いのかもしれない。
──考えてみればタイミングからしてこの人達が再不斬さんと戦った理由がそれなのだろう。
だとすると猶更、再不斬さんの部下の残党の始末で霧隠れの追い忍衆が何人か波の国を視察している事だろう。
情報はありがたいが残念ながら波の国に足を運ぶのは不可能だ。
「……はい、ありがとうございました」
自身が波の国に近づけない理由を言う訳にはいかず結局この話はここで終わりだ。
カカシさんを見つけたものの結局無駄骨に終わった上に目的の断刀首斬り包丁は在り処が分かっているのに届かない場所にあるという結果に流石に心が折れそうになる。
──私は一体何の為に……
「ま、待って下さい!!」
ショックのあまりもう一つの目的を忘れてしまうとは……この人にはまだ聞かねばならないことがある!
そう、例えこの人が刀に興味のない人だとしても、敵であった再不斬さんを偲びその刀を奪わなかった心優しき人物であることは間違いない。ならば!!亡き父の遺品であるそれを乱雑に扱うはずもなし!!
「こ、木ノ葉の白い牙の──白光のチャクラ刀についてお話を──」
「あーあれねぇ……もう随分と前に折られちゃったよ」
「……~~~~~っ……そう……ですか……。お話……ありがとうございました」
何ッなんですか!?
もおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!