四人衆の連中から棺桶を任され続け、首斬り包丁と棺桶の重さに苦しみながらも森を抜けるが背後から迫る気配にうんざりとする。
「しつこいね君も…」
「サスケを返せ!!」
何故か何度も顔を合わせる金髪のアホ面…うずまきナルト。
他に影の術を使う奴と犬を連れた奴がいたが…そいつらは左近と多由也の相手をしているのだろう、つまりこいつを片付ければいよいよもう追手もいなくなるということだ。
「何度も顔を合わすのもいい加減鬱陶しいし、ここで──ん?」
抱えていた棺桶を傍に置き、背負っていた首斬り包丁に手を掛けて…目の前のナルトの目付きが今まで見てきたものとどこか変わっていることに気付く。
まるで獣のような…それに顔付きだけじゃない…感知能力を持っていなくとも肌からピリピリとした圧力を感じる…奇妙なチャクラだ。
「大蛇丸は一体何がしてぇんだ! 何でサスケを狙う!?」
「さぁね、ぶっちゃけボクってアイツの純粋な部下っていうわけでもないからあの変態が最終的に何がしたいか何て知らないんだ。そういうのは四人衆の連中の方が詳しいんじゃないかな」
「とぼけんじゃねぇってばよ!」
「いやこれマジな話だから…。あぁでもサスケを狙う理由の方は知っているよ。何でも大蛇丸の使う"不死の術"は他人の肉体を器として乗っ取ることで自分の精神と魂を留める術らしくて、だからこそ強く新しい肉体を必要としているって話さ…それにこいつはあの写輪眼も持っているからね、大蛇丸としても狙わない理由がないんじゃないの?」
「ふざけんじゃねぇってばよ…そんなこと俺が絶対にさせねぇ!!」
「っ!? …へぇ」
周囲を埋め尽くす影分身の軍団…これほどの数の分身なんて余程のチャクラがなければ不可能のはずだが…そういえば最初に短冊街の近くの河原で会った時もこいつは規格外のチャクラ、スタミナを見せていたか…。
それにあの術…大蛇丸の右腕の薬師カブトをも戦闘不能に追いやった螺旋丸。
純粋なチャクラの塊であるあの術は水化の術でもまともに喰らえばダメージを受けるだろう…だがあの術は発動が分かりやすいし動きも単純…影分身で陽動の頭数が増えたところでそっちは水の身体を捕らえる手段はない。
つまり奴がどんな方法で大技を当てにくるか、そしてボクがそれを阻止できるかという戦いということか。
「面白いね、言っとくけどこの間のバカみたいに容赦はしないよ、ボクは」
「サスケは絶対渡さねぇ──ぶっ潰してやる」
上等だよ…村雨はどうやらこいつを気に入ってたらしいけどこうして完全に敵に回った以上殺しても文句は言わないだろうあ、何だかんだでそういうところには理解がある奴だから問題ないはずだ。そうと決まれば久しぶりに手足バラバラにして頭に止めをくれてやろう。
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転生の儀式を終え、新たなる器である以前村雨が行った刀の試作テストで優秀な結果を示した男の身体を乗っ取った大蛇丸は自室の椅子に腰かけ身体を休めていた。
「…それで君麻呂に変わってあの子が出て行ったと言うの?」
「はい…申し訳ございません、まさかこの様なことになろうとは…」
「お前でも思い通りに動かせないものがあるとはね…お互い中々思う通りに事は運べないものね」
「水月の存在の有難みを実感しましたよ…」
「確かにね」
傍から見ている分にはただただ振り回されている様にしか見えなかったが、気が付けばまた数ヶ所破壊されていたアジトを目の当たりして案外彼が村雨の奇行をある程度抑えているのだとはっきりと認識した。
それもよりにもよって隠し部屋の壁まで破壊されていたのだからその驚きもかなりのものだった。
…一応、壊れた壁も床もどれもが刃物によるものではなくどちらかと言えば鈍器などで殴り壊したかの様な破壊痕であったことから村雨を犯人と言い切れないが、ほぼほぼ間違いないだろうというのがカブトからの報告だった。
「まぁサスケ君を連れてきてくれるのならば何だって良いわ。むしろ君麻呂が死に急がなくて済んだのならば猶更好都合よ…もはや価値のない者とはいえ死体だけでも手元に残ってくれれば使い道もあるかもしれないからね」
「しかし、あの四人衆がこれ程遅れるとなると相手もかなりの強者ということ…本当に大丈夫でしょうか?」
「さてどうかしら…水化の術にあの刀、本人自体はともかく能力は大したものだから意外と上手くやってくれるんじゃないかしら」
「貴方を前にしてもまったく動じないあの精神性も戦場で相対するとしたら末恐ろしく感じるやもしれませんがね…」
「どうかしらね、恐怖を乗り越える力は確かに必要なものだけれど…危機感を抱かないのはただの愚かさよ」
果たして彼女はちゃんと勝算を持っての行動なのか否か…。
アジトを壊した分の働きに期待をしつつももしもこれ以上遅れることがあればその時は今度こそ君麻呂に命じる算段を整えながらゆっくりと、即席で得たとはいえ新たな肉体を慣らすように静かに目を閉じる。
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「…くっそ、何なんだこいつ…」
目の前の相手の異様な動きに水月は歯噛みする。
うずまきナルトとの大量の分身の攻撃を水化の術で受け流しつつ首斬り包丁で次々と葬り続ける長期戦はうちはサスケが棺桶から無事に生還したことでそれに気を取られた一瞬の隙を突くことで決着が着くはずだった。
しかし、突如乱入してきた緑の全身タイツのような独特なスーツという珍獣と言い表したくなる格好の男に遮られ、挙句にうずまきナルトにはうちはサスケを追わせてしまった。
それだけならばまだ良い、この珍獣ファッションの…ロック・リーという男の基本戦術は体術によるものということもあり、その素早い動きに首斬り包丁の大振りこそ当たらないが向こうも水の身体に対して決め手がないという先のうずまきナルトとの戦いより遥かに楽な相手だった。
しかし奴が戦いの最中に薬を飲み出したかと思えば何故か酔っ払い動きが激変した。
予測不能な動きに翻弄され、更にはどこからくるか分からない攻撃に水の身体を何度も崩され自由に動かせない…決め手に欠けるのは変わらないがこのままではうちはサスケに追いつくことが難しくなる。
…ていうかこいつ、何薬とかいって酒飲んでんだよ、酒は百薬の長とでも言う気か? 仮にも忍なら忍の三禁はちゃんと守れっての! 意味不明な癖に厄介な動きも何か腹立つし、凄くイライラしてきた。
怒りのままにぶった斬ってやりたいが、単純な攻撃は当たらない…一体どうすれば──
「お待たせ水月、援軍に来た」
「帰ってくんない! いや帰って下さい!!」
何でこの上このバカまで加わるんだ! っていうか何で鍛冶屋の君がわざわざ戦場に駆り出てくるんだよ!?
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アジトからここまである理由で少し迂回はしたが可能な限り急いで駆け抜けた。
幸い途中から首斬り包丁の匂いもしたおかげで水月の居場所はすぐに分かった…いざ着いてみればどうやら独特な服装の少年に苦戦しているらしい水月に声を掛ければまさかの帰宅要請を投げかけられた…何故?
…っとそんなことよりも
「水月、うちはサスケ君は?」
「え? あいつなら先に行って…っていうかアジトの方から来たなら会ってるんじゃないの!?」
「あぁ…ここからアジトへ一直線に行くと終末の谷があるから…多分見入ってしまうから敢えて迂回してきたから…入れ違いになってしまった」
「何してんの君は!?」
噂に聞いた終末の谷にある千手柱間とうちはマダラの像…是非とも鑑賞したいが流石に今回ばかりは趣味を優先するのも憚られる…しかし頭で理解していても通用しないのが衝動というものだ。
それならば予め迂回して行くことで解決できると踏んだのだが…早速失敗だったらしい。
「…あ、それなら四人衆の方も一緒に?」
「アイツらは木ノ葉の連中の追手の足止めに応戦してる、とはいえ全然追いついてくる素振りもないしやられてんじゃないの!?」
「ッ…そう、もっと能力を詳しく見せて欲しかったけど…それは残念。では左近さんも?」
「さぁね、アイツは少し前に分かれたばっかだから分かんないけど何かあったの?」
「うん。実はあの人の持つ棺桶に…棺…桶」
足元に何ならバラバラになった木片が散らばっている、表面に血で書かれた見慣れた筆跡の字があるがこれはもしや…
「水月…これは…」
「っ!? あ、アイツ! あのおかっぱ頭が壊したのソレ! ボクは止めたんだけどね!?」
なるほどあの人が…いや、あの人からすれば内側に書かれた刀の設計図、原案集なんて見えるはずもないだろう。元はと言えばちゃんとした場所に書かなかった私に責任がある。
だからあの人に怒るのは不当でただの八つ当たりにしかならない…だからここは落ち着き、冷静に…
「…ごめんなさい、今から八つ当たりします」
ちゃんと断りを入れてからにしよう。
「何だテメーはコルアァ──!?」
「気を付けて! そいつふざけた動きだけど滅茶苦茶素早い──へ?」
太陽の光を遮る影に水月が頭上を仰ぐ…けど大丈夫、私達には何の問題もないから…。
「ちょ!? 僕達ごと!?」
そう、口寄せの巻物を頭上に放り投げた事で先日回収したガマブンタさんの巨大な刀が横向きに私達を押し潰す様に落ちて来ようが"水の身体"である私と水月には然して問題ない。
地響きと土煙を起こしながら刀が私達を押し潰すのを水の身体になりながら実感する…刀に覆い被さられるというのも…うん、まぁ…中々…。
しかし、口寄せを解除するより早く刀に覆い被さられて真っ暗な視界に光が差し込んだ。
「っく…くぅっ…」
例の棺桶を破壊した少年がその両腕で刀を持ち上げているのだ…これ程の質量の刀を持ち上げるとは何という怪力だ…重りの様なものに慣れているのだろうか。
さて、2個目はどうする…などとここで言えれば良かったのだが生憎とこれ程の大きさの刀は素材の消費量を考えて造った事もない為どうしようもない──…だから
「よろしく水月」
「ほんっとにやる事全部心臓に悪いな君は! …まぁいいや」
刀が浮かんだ僅かな隙間を水月が水の身体を活かして柔軟に突き進み、両腕で刀を持ち上げている彼に接近する。
「潰された衝撃で酔いも醒めた様だね…なら分かるよね、その状態でボクの攻撃は防げないってさ」
「っ!? クソ…」
「じゃあ、悪く思わないで…ねっ!!」
動く事も儘ならない彼へ水月が首斬り包丁を振るう…防ぐ手段はない、これでおしまい。
そう思い、その瞬間を見届けようとしていたが…突如、頭上の巨大刀が謎の力によって持ち上げられる。
重りがなくなったことで独特なファッションの少年はすぐさま飛び退いて首斬り包丁の太刀筋から逃れた様だが…
それ以上に問題なのは巨大刀を持ち上げた…"大量の砂"だ…
「っ!? 誰だ」
「木ノ葉同盟国…砂の忍だ」
水月の問いに応えたその声、砂を操る特異な術…何だか少し懐かしい感覚だ。
「久しぶり。…何だか少し雰囲気が変わった? 我愛羅君」
「……お前は何も変わらないな」
赤い髪に背負った瓢箪…砂の里にいた頃に良く顔を合わせた少年がそこにいた。
「砂漠の我愛羅、何故君がここに?」
「木ノ葉には大きな借りがある。五代目火影から依頼を受けて来たのだが…まさか戦っている相手があの女とはな」
「知り合い…ですか?」
「…少しな」
「……どういう…こと?」
聞き捨てならないことがあった。
五代目火影の依頼を我愛羅君が…というより砂の里が受けた…これは一体どういうことだ? 砂と音…つまりはハレンチ博士と風影様は結託して木ノ葉崩しに乗り出したはずだ。
その戦争自体は終結したという話は確かに耳にしたが…砂と木ノ葉の関係性が何故突然修復されて挙句に砂と音の同盟が無くなっている?
てっきり我愛羅君は自分の獲物だということで水月を止めたのかと思ったが…
「…え? 敵なの?」
「君状況分かってないの!?」
「状況というか時勢が分からない。何故砂隠れの忍が音隠れの私達と対立を…はっ!? そういえば私は音隠れの額当てを貰っていなかった…それで」
「違う!!」
違ったらしい。世の中は実に複雑怪奇だ…もっと"斬る"という一念に拘る刀の様にシンプルであってほしい。
「大蛇丸は四代目風影を始末して砂の忍を利用してたの! それが分かった砂の連中はすぐに木ノ葉に降伏したの! 常識だよ!?」
「え!? 四代目風影様…亡くなっていた? てっきりハレンチ博士が変化で成り代わっていただけで風影様は安全圏で控えていたのかと…」
「そこからァ!?」
それでは貴重な磁遁が失われてしまったということではないか…あぁいやでもハレンチ博士のことだから殺した際に細胞を幾らか採取している可能性は高い、今度聞いてみよう。
…しかしそうか…だとすると…
「…じゃあ戦う? 我愛羅君?」
「貴様が邪魔をするのであれば容赦はしない…任務である以上、殺す」
「っ!? 彼女は知り合いなのでは?」
「…そう。やっぱり少し変わった」
任務である以上殺す…以前の彼からは考えられない言葉だ…それこそ、あの頃の我愛羅君ならば直接相対した時点で殺しに掛かってきていたはずだというのに…でも…。
「良く分からないけど…今の君も悪くないと思う」
「…そうか」
「うん、あ…あとこれ、テマリさんによろしく」
懐から合計一万両の札束を取り出して投げ渡す。気分はまるでお大臣だ…あまり褒められたことではないがほんの少しだけ愉悦感が湧く。
「何だこれは?」
「中忍試験開始前に砂の里に帰ることと引換えに貰ったお金。実はあの時帰らずに試合を観戦していたから返してあげてほしい…先日闇市で沢山稼いだから利息付きにしておいた」
「あー! 昔っから稼いだら即湯水の様に使う癖まだ治ってなかったの!?」
背後の水月から怒涛の勢いで怒られる…私が稼いだお金でアジトの修繕費はちゃんととってあるのだから残りはどう使おうと私の自由のはずなのに…
「あ、でも大丈夫。水月にあげる分もちゃんと別に──」
「そういうことじゃなくて! どいつもこいつも忍の三禁を何だと…」
「私は刀匠だから関係ない」
「クソァ!」
実際、関係ないと言ったが忍の三禁についてはちゃんと知っている。
酒・女・金の三つの禁、しかし私は単純に稼いだから使っているだけで金に弱いというわけではないはずだ。
酒に関してはそもそも未成年だ、これも問題ない…しかし酒造技術の話を聞くのは好きだしいつかは飲んでみたいとは思う、まぁ仮に飲んでもそんな大したことにはならないだろう。
そして女だが…っ! マズい、そういえば最近多由也さんや綱手さんに手を出すことがあったが恨みを買っているかもしれない…というか今さっき我愛羅君にお金を渡したが本来の相手はテマリさんだ…。
「…水月、女だけは危ないかもしれない」
「絶対君が思っているのは意味合いが違うから大丈夫だよ…」
「で、でも恨まれている可能性はある…」
「それは正統な恨みだから甘んじて受け入れなよ」
「無情な…」
よりにもよって皆少し怖い人なんだ…甘んじて受け入れたら殺されかねない。何だか少し身震いしてきた…忍の三禁、私は忍ではないが今一度心に刻んでおく必要があるかもしれない。
「な、なんですか彼女は? 緊張感がないというか、強者の風格を感じないというか…本当に戦える人なんですか?」
「さぁな、何度か俺の砂の防御を破らんと刃を向けられたこともあったが…その時はただ己の造った刀の性能のテストをしているだけで殺意というものは欠片もなかった…あの女が本気で殺す気になった姿は俺も見たことはない…が──」
瓢箪から砂を浮かび上がらせ、自身の周りに漂わせる…それは我愛羅君独自の戦闘態勢ということだ。
「油断はするな。かつての俺は周囲の環境と己の中の化け物…2つの要因によって狂気に墜ちた。だがあの女は違う。何物の干渉もなく己一人のみで狂気に墜ちた狂人だ…何をしでかすか分からんぞ?」
「否定はしない。…私は──"霧隠れの狂人"だから」
忍の三禁や入れ違いになってしまったうちはサスケ君…色々と考えねばならないことは多いがまずは目の前の相手だ。
流石に我愛羅君を前にしては他所事を気にしていては本当に殺される…所詮私は刀匠…どう足掻いたところで勝てる相手ではないが…うちはサスケ君が無事にアジトへ着くまでは出来る限りのことはしてみせよう。
…というわけで、主戦術は任せる、水月。
多分村雨は忍の三禁守れない。