新たなる日常
サスケ君がハレンチ博士の下に来た翌日…昨日はサスケ君が疲労していた事もあって休息としていたらしく今日から本格的に修行を始めるらしい。
サスケ君の戦い振りというと中忍試験本戦で我愛羅君と互角以上の力量を見せていたのが最後だ…アレも結局途中で中断したのだが。
しかし、今のサスケ君の力はあの時よりも遥かに強い…ハレンチ博士が集めた部下10人をいとも簡単に捻じ伏せてみせた…あまり戦いについて正確な分析が出来るわけではないが、素人目からみても動きが常人のものとは思えない。
動きが速いというより相手の動きの先読みが並ではない、これがハレンチ博士の言っていた写輪眼の力の片鱗か。
…実に興味深い。
鍛冶場の修理が完了していない為今出来ることと言えばこれから造る予定の刀達の設計図作りぐらいということもあり、それなら自室で黙々とやるよりも良い発想に繋がるかもとサスケ君の修行の見学に来たのだが思った以上に良い刺激だ。
隣を見てみればハレンチ博士も満足気に笑みを浮かべている。
「フフ…中忍試験の時と比べて更に写輪眼を研ぎ澄ました様ね。そうでなくては…」
「写輪眼を研ぎ澄ます? 写輪眼とは個体差のあるものなのですか?」
「えぇ、持ち主の心の闇が深ければ深いほどあの眼は強くなる…今のサスケ君のものですらまだまだ先があるのよ…そう、その先がね…」
霧隠れには瞳術使いは白眼を持つ青さんぐらいだが、それも木ノ葉由来のものだ。
正しい血族の者が使えばあれ程の力を発揮し、更にその先があるというのか…ハレンチ博士が渇望するのも頷けるというものだ。
「……?」
ふと、気が付けば同じく見学に来ていた水月の姿がなくなっていた。
はて…急にいなくなるとは何かあったのか? 少し気になるし探してみよう。
▼▼▼
牢屋の人に話を聞いてみたところアジトの外へ出て行ったらしく、とりあえず周囲を探してみるとアジト近辺の水場であっさりと見つかった。しかし──
「随分と大きくなった…」
男子三日会わざれば…とは言うが幾らなんでも見上げる程になるのはデカくなり過ぎだ。…そもそも昨日どころか今日も会ったばかりだ。
身体の殆どが川の水と同化していることからしても"水化の術"を活かした何かだろう。
「水月、何をしているの?」
「ん? 何だ君か」
水化の術を解いたのか水月が人型に戻る。
大量の水で巨大化しているが簡単に元に戻れる辺り存外小回りも利く術なのかもしれない。単純にデカくなるだけならば的が増えるだけだが水の身体なのだからその欠点もないだろし、中々強力そうだ。
だが、水化の術のこんな使い方は今まで見た事がない…。
「水月、さっきの術は一体?」
「水化の術の応用、周囲の水と同化して巨大化するね。…これで前の蒸気なんとかってバカデカい刀も扱えるはずだよ。爆発に巻き込まれても水の身体なら生身で喰らうよりはマシだろうし」
「蒸気荘怒! …それはそれとして流石水月…でも何故突然?」
「…別に、ただボクの兄が七人衆の刀全てを使いこなしたってのにボクに扱えない刀があるってのが気に食わなかっただけだよ」
水月の兄…鬼灯満月さん。
確かにあの人は七人衆の刀全てを使いこなすという優れた才能を持つ人だった…なにせ使い方の癖が強い"縫い針"や形態変化に特化した"ヒラメカレイ"も、なによりあの鮫肌さえも扱えたのだからその才覚は計り知れないものだった。
しかしそんな満月さんも数年前に死に、その才覚も潰えた…非常に残念なことだが忍である以上それも仕方のないこと…それに彼の存在、彼の死があったからこそこうして水月も日々成長してくれているのかもしれない。
だとするならば私も負けてなどいられない。
蒸気荘怒のデカすぎて振れないから刀身も熱せられず、爆発しないという欠点を水月自身が巨大化することで埋めてくれた…まだまだ設計段階でしかない"クシナダ"を完成させ装備させる、若しくは刀身を小さくした上でどこまで威力を維持できるかという2択で行き詰っていたがその心配もなくなった。
「それなら私は即席で造った状態から正式に造り直す、術式を最適化して爆発の威力を更に向上──」
「ボクが歩み寄った途端に更に過激にすんのやめてくんない! キリがないじゃないか!?」
「……霧出身なだけに」
「ぶっ殺すよ!?」
凄く怒られた…キリと霧で上手く掛けれたと思ったのに…やはりこの手の言葉合わせのセンスはないのかもしれない。
少し残念だがまぁ別に気にすることでもない。そんなこと以上にやはり目的が擦り合う相手がいるということは良いものだと痛感する。
「…でもやっぱり即席で造った物を完成品扱いするのは納得いかないから改良する」
「その職人気質はいらないんだけど!?」
私は優れた刀を造り続け、水月は優れた刀を使いこなそうと成長する。
互いの目的を思えば実に良い関係だ…願わくば水月も同様に思ってくれていてほしいが…ともかく、この関係は私が優れた刀を造れることが前提だ、水月はああ言っていたがやはりまだまだ蒸気荘怒も改良が必要だろう。
それで少し強力になり過ぎても案外今回の様に水月が埋め合わせしてくれるかもしれないし、ハレンチ博士辺りから良い知恵を借りられるかもしれない、だから大丈夫だ。
「それじゃ水月、その為にも修行頑張って」
「余計なお世話だ──っ!!」
もの凄く怒られた…確かに少し厚かましい願いだったとは思うがこれ程とは。
……うん、これ以上時間をとり続けるのは悪いしなにより怖い、そろそろ失礼した方が良さそうだ。
村雨がそそくさと逃げた後、1人残された水月は大きくため息を吐く。
「…修行、マジでやらないとね…」
最初はうちはサスケの恐ろしいまでの飛躍を目の当たりにして焦燥感に駆られ、ジッとしていられなくなったから抜け出して始めた。なにせ一度負かした時から殆ど時間が経っていないに関わらずうちはサスケの力は自分の力を凌駕していると思わせるほどのものだった。
四人衆の連中が使っていた呪印の力を使わずして、彼自身の力が全くの別物になっていた…その理由は分からない、だがとにかくうちはサスケは呪印の力抜きに自分より強く…そしてこれから大蛇丸によって更にその力を増していく…その焦りが自身を突き動かしていた。
…だがそれ以上に今となっては早く自らの力を高めねばあの狂人が造る刀で本当に死に兼ねないという危機感が溢れてどうしようもない。
大蛇丸の下で会ってからというもの日に日にアレが造る刀のヤバさが増している…このままでは冗談じゃなく殺される気がする。
焦燥感どころか危機感に変わった衝動に身震いしながらも水月は自身の命を繋ぐべく、修行を再開するのだった。
▼▼▼
一方で村雨はサスケ、水月の様子の見学にも満足し、次の仕事の依頼主の下へと足を運んでいた。
医療室で何本もの薬品の管に繋がれベッドに横になる君麻呂の傍のパイプ椅子に座り声を掛ける。
「うちはサスケ君はかなりの実力者、ハレンチ博士も私が見た限り満足そうだった」
「そうか…それは、良かった…」
本来は自らこそがハレンチ博士の器となるべき存在ということもあって君麻呂さんは随分とうちはサスケ君の力量を気にしている様だった為その旨を伝えると安心した様に呟いた…多分嬉しいのだろうがその顔は生命維持の為の術式が刻まれた布に覆われ、口にも医療用の管が何本も咥えられているせいか表情は分からず、声色のみの判断だが。
「…ところで、大蛇丸様をその呼び名で呼ぶのはやめてほしいのですが?」
「ごめんなさい、あの人とのファーストコンタクトが衝撃的でつい出てしまう…それにあの人もこの呼び名で呼ぶことは許してくれた」
「え!? ゴホッ…ゴホッ!」
「っ! あまり興奮してはダメ…」
心電図の波が大きく跳ねて君麻呂さんが咳き込む…明らかに身体に悪い、何とか落ち着いてもらわなければと気休めになるかも分からないが仰向けの彼のお腹を背中の代わりに軽く摩りながら声を掛ける。
「すみません…大蛇丸様が本当にお認めに?」
「うちはサスケ君を連れ帰れた時につい呼んでしまった時、彼を連れてきてくれたのだし多少の事は許す…と」
「…いや、それはその場で怒ることを許しただけであって、その呼び名を許した訳ではないのでは?」
「……その線は思いつかなかった」
思えば確かにそうとも取れる言い方だ。
ハレンチ博士呼びを公認してくれたのか、その場での処罰を許しただけか…果たしてどちらなのだろうか? いや分からないものは本人にきちんと確認するのが一番か…今はサスケ君との修行で忙しい様だがどこか間を見て聞いてみた方が良いかもしれない。
「またタイミングを見て確認する」
「タイミングを計っている内に忘れてしまわないか凄く不安だ」
「大丈夫、手にメモをした…それで、例の刀の件だけど…やっぱり鍛冶場が直り次第再開するにしても前回の様な爆発事故が起こるリスクを考えると中々難しい」
なにせあの爆発はかぐや一族と千手一族の細胞比率がどの程度で起こるのかなどまだまだ予測さえ立たない状況だ。流石に爆発覚悟で何度も繰り返すというのは私としても困る…折角の鍛冶場が全壊する光景など心が痛む、出来ればもう見たくはない。
「そうですね…それに恐らくボクもこの身体ではそう長く素材の提供し続けることは出来そうにない」
「…そう、かぐや一族に他に生き残りがいるならば、せめて検証時点ではそちらを使ったり出来るのだけど…」
「それは望めません、かぐや一族はボクを除いてとうに全滅したのだから…」
「…そればかりは故郷が忌まわしい」
かぐや一族を全滅へと追いやった組織こそが私達霧隠れだ。
経歴ではかぐや一族側から戦いを挑んだとのことだが戦争に良し悪しもない。ただ今の私から言わせてもらえるならば何とも勿体ないことをしてくれたものだ。
これ程希少な能力をただ絶やすなどあんまりではないか…かつての制度といい希少な血継限界を悉く失わせてしまう故郷にやりきれなさを感じる。
絶やすぐらいなら糧にすれば良いのに…そう思うのは戦場に出ずに後方で武器を造る立場だから抱ける浅い考えなのだろうか?
いや、嘆いていたところで事態は変わらない。
鍛冶場が直り次第作業に着手したいが、また鍛冶場を壊しその度修復していては君麻呂の寿命に間に合わない。
素早く、そして安全に検証をしたいのだがその手段をどうしたものか…と頭を悩ませていると君麻呂さんが何かを思いついた様に「あ…」と声を出した。
「そういえば貴女がここに来たという話を聞くより一ヶ月半ぐらい前にカブトさんから優秀なサンプルがまた1人加わったという話を聞きました…何でも他者の傷を治せる特異な体質に加えて、かなりの精度の感知能力を有していると」
「感知タイプ? なるほど…ではその方に協力してもらえれば異常が起きる前に対処ができる」
常に感知をオンにして貰わないといけないがそれさえしてくれていれば爆発するほどの急激なチャクラ反応は間違いなく事前に察知、それに合わせた対応が取れる…思えば技術的な障害の対策ばかり考えていて新たに協力者を募るという考えはなかった…我ながら視野の狭いことだ。
「早速ハレンチ博士にその方と会えないか聞いてみる、その方はどういった方ですか?」
「確か名前は…香燐、うずまき一族という希少な一族の生き残りという話です」
「………うずまき…一族?」
「どうかしましたか?」
どうかしたか…なんて話ではない、うずまき一族の生き残り?
何ということだ、先日はうずまきナルト君を見逃すしかなく悲嘆に暮れたものだが…まさかまさか、彼とは別にこのような手の届くところにもう1人いたとは何という幸運だ。
心の底から喜びの感情が溢れて止まらない、まったく、君麻呂さんが顔を布で覆っていなければ実に見苦しい顔を見せてしまうところだ…少し落ち着かなければ。
「知り合いと同じ姓だったから少し驚いた」
「そうですか」
「では早速話を通してくる、また来ます…次は良い知らせをもって」
「……ありがとう」
椅子から立ち上がりながら君麻呂さんと簡単な挨拶を済ませて医療室を後にすると少し小走りに廊下を進む。
香燐さん…どの様な方かは分からないがその人の協力が得られれば君麻呂さんの要望の刀の完成に迫れるだけではない…死神の小刀を得る為の2つの条件の内の1つを手に入れたも同然だ。
あとは木ノ葉の社にある死神の面を手に入れるだけで至高の刀2本にそれぞれ手が届く…こんなに良い話が存在するのか?
いや、アカデミーでも良い行いをしていれば自分にも良いことが返ってくるという話を聞いたことがある…これもきっとそういうことなのだろう、例えば今日は…特に何かした覚えはないがきっと何かあったはずだ、何なら午後からでも、最悪明日にでもすれば良いだろう。
そんなことよりもまずはハレンチ博士に話をしなければ、今は…気が付けば丁度お昼ご飯時、この時間ならばサスケ君の修行を中断して休憩時間にしている頃合いかもしれない。
よし、とりあえずは食堂へ行ってそこにいなければ手当たり次第に探すとしよう、では早速──
「あぁ、その前に手は洗っていこう…マナーは大事」
アジトにいる者の約半数以上は牢屋で運ばれた物を食べ、ハレンチ博士などもあまり利用している素振りがなく殆ど人のいない食堂とはいえそれはそれ、きちんと弁えるところは弁えなければ。
さっと手を洗い綺麗になったのを確認し、食堂へと足を運ぶ。
…さて、果たして香燐さんとは会える様になるのだろうか…今から楽しみだ。
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大蛇丸はあまりの疲労に肩で息をするうちはサスケを眺めながら思考を巡らせていた。
以前に自分が見た時より写輪眼を使いこなし、通常状態での戦いぶりは申し分ないものだった…ならばと状態2での力を見させてもらっていたのだが、こちらは流石にまだまだ完全に使いこなせてはいないようだ。
あくまでこのアジトに来るまでに四人衆に任せていたのは呪印の覚醒…状態2への到達であり状態2を使いこなすにはまだ至っていない。
現に今、状態2を維持させたことによる疲労で力尽きているのだ…しかし、それもそう遠くなく克服するであろう素質はあった…ただ一つ、ただ一つ気になることがあるとするならば…
(何故背中から刃が生えたのかしら?)
呪印とは本来自然エネルギーから成る仙人化の力を応用したもの…状態2となれば異形の姿と変貌する、オリジナルの重吾を始め、一部分が硬質化して刃の様になる者もいるがそれはあくまでも生物的な範囲だ…間違っても刃などという人工的な物ではない。
──ではうちはサスケから生えた鋼鉄の刃の翼は一体何なのか…"刃"という部分に明確な心当たりがあり過ぎるのだが…さて…
「どうしてくれようかしら…」
とりあえずサスケ君の容態に異常は見当たらない…ただ呪印状態2に何らかの作用が起こり変質しただけという可能性もある…それならばまぁこれはこれで殺傷能力が高くて良い。
ひとまずはこのまま様子を見て判断し、何かマイナス要素があればこの件の犯人を折檻することにしよう、そう結論付けるとサスケ君の治療を終えて自身の傍らに戻ってきたカブトに声を掛ける。
「とりあえずは様子見に留めておくわ…観察の為にもサスケ君には何度か状態2での修行をするからその分治療手段を用意しておくわ」
「…というと彼女ですか?」
「えぇ、お前には別の仕事を何かと頼むからね…香燐に招集を掛けておいて頂戴」
「畏まりました、…しかしそうなるとこのアジトに良質なサンプルが随分と集まるわけですね」
水月に香燐、重吾に君麻呂…そしてうちはサスケ、自分達が集めた中での上澄みも上澄みのメンバーが集結する…幾つものアジトを持ち、そこを転々とする普段の方針からは滅多にない事だ。
「言われてみればそうね…フン、まったく…良からぬ者が引っ搔き回しているせいでなければ良いのだけれど」
「…さて…どうでしょうね。ではボクは香燐に連絡を──」
カブトもまた心当たりがあるのだろう…苦笑交じりに肩を竦めると先程出した指示を遂行すべく身体を煙の如く霧散させた。
入れ替わりでやってきた"良からぬ者"から香燐に会わせてもらえないかと相談されたのはその直後の事だった。