霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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常識淘汰

 素体となる刀とストックしていた君麻呂さんの骨を繋ぎ合わせ、刀身部分に封印術式を書き込む…ここまでは前回と同じ作業だ。

 そして次の工程…ここに千手一族である綱手さんの細胞を刀身の封印術式に組み込むことで2人の細胞由来の力を混ぜ合わせる。

 

 これで仮作成の刀は完成…ここまでは前回も問題なかった。

 問題はこの刀にチャクラを流した際に急激に反応を起こしてしまうことだ…前回はそれで隣の部屋を巻き込む大爆発になってしまった。

 

 その反応を活かし、素体の刀をより頑丈な刀身にした…そして何より前回と違うのは──

 

「それではチャクラを流し込みます…チャクラの動きの感知と何か異変があった際に警告をお願いします」

 

 そう、前回と何より違うのはチャクラの感知に優れた香燐さんの協力を得ている事だ、これでまた異常が起きたとしても──

 

「何故、そんな遠くに? 水月まで…」

 

 隣で控えてもらっていたはずが気が付けば部屋の隅っこで水月と一緒に身を屈めてしまっている。

 

「いやだってソレ爆発するんでしょ?」

「今度は大丈夫。…香燐さんが協力してくれたらもう爆発なんてしない」

「ただの脅迫じゃねぇか!?」

「一緒に頑張ろう」

「大蛇丸様でももっとまともな働かせ方するわ!」

 

 そうは言われても…あの人は組織の長としての経験が私などとは比べ物にならない、他人を働かせる煽動力やカリスマ性も私より遥かにあるのだろう、その差ばかりは私には埋めようがない。

 しかしだからといってその差を仕方がないものとして諦めてしまうのも確かに駄目かもしれない、煽動力、カリスマ性で劣るならば別の何かで埋め合わせるべきだ…と、そう思ってならばせめて信頼感を示そうと思ったのだが…まさか脅迫と認識されてしまうとは…上手くいかないものだ。

 

 …普段からの水月への信頼感を示すのと大体同じ様な感じだと思ったのだが…何故上手くいかないのだろうか? 

 

「…分からないからもういい、とりあえず始めるから爆発しそうなら教えてほしい」

「分からないのにとりあえずで始めんな! おい、その刀にチャクラ流すな!?」

「え、いや…分からないというのはそういう意味では…あぁでも爆発するか否かも分からないか、そう意味でもある?」

「ごちゃごちゃ言ってねぇでチャクラ止めろ! 水月この女何とかしろ!?」

「いいからさっさとチャクラの感知してよ! 爆発するだろ!?」

「逆ギレしてんじゃねぇ!? …クソッ!」

 

 ゆっくり刀にチャクラを流し込んでいくと香燐さんも何やら印を結び出した…どうやらチャクラ感知を始めてくれたらしい…よし、これで安心して作業に集中できる。

 しかし実際のところこの刀の中でチャクラはどの様な動きをしているのだろうか。

 ……気になる。

 

「香燐さ──」

「な、なんだこれ…刀の中でチャクラの流れがが急激に加速、増幅しているのか? ──ヤバい!」

「あの、今チャクラの動きがどうなっているのか具体的に──」

「今すぐチャクラ流すのやめろ! ソレもういつ爆発してもおかしくねぇぞ!!」

「……え? え!?」

 

 慌てて手に持つ刀を放す。

 空中で手を放してしまったせいで刀が床に落ちてしまって痛々しい音を奏でてしまう…あとで禊をしよう、土遁と水遁で滝を作れる人はいないだろうか? 

 

「…しかし、それ程のチャクラ反応でしたか?」

「武器にチャクラを通す例は何度か見たが、本人が流すチャクラ量を上げてもねぇのに武器の中でチャクラが増幅するなんて聞いたこともねぇ」

「そうですか…」

 

 やはり最初に造った時の推測は正しかったということか…しかしそうなると必要なのは刀の強度以上に細胞の混ぜ方、比率の方かもしれない…その手の知識の専門家…というよりハレンチ博士に協力を要請するべきだろうか? 

 

 …でも、あの人は今はサスケ君の修行で忙しい様子だ。

 それというのも長年待ち望んだ"写輪眼"を手に入れたのだから仕方ないことだろう…思いを寄せる物に情熱を捧げる、捧げたいと思う気持ちは良く分かる、無理に時間を取ってしまうのは気が引ける。

 本当に手詰まりになったら頼るとして、他に改善の可能性がある方法を全て試してからでも良いはずだ。

 

「チャクラを少し流しただけで勝手に増幅して爆発するなんて刀として使えたもんじゃないじゃないか。どうするの?」

「こういう時は何故その反応が起こるのか調べるのが定石だ…っつっても使ってる細胞がどっちも希少な一族のだから碌に調べられないぞ?」

 

 確かに香燐さんの言う通りだ。

 君麻呂さん、綱手さん…どちらも一族最後の生き残りであり他のサンプルは得られず、一族自体の詳細情報もほぼ皆無なせいで資料データからの推測も出来ない。

 おまけに君麻呂さんの方はともかく、綱手さんの細胞は先の戦いで採取出来たものだけ…と、使える量に限りがあるせいで何度も刀を造って試行錯誤し、完成に持って行くというやり方も出来ない。

 

 非情に悩ましいものだが、分かったことは何も不都合ばかりではない。

 何せ武器そのものがチャクラを増幅させているという推測…これが当たっていたのはデカい、爆発してしまうのは玉に瑕だがこれを活かさない手はない。

 何せ理想の完成形は綱手さんの見せた大量のチャクラに依る細胞各種への刺激だ…その為にはチャクラを増幅させるというこの特性は好都合、手放すわけにはいかない。

 

 つまり必要となるのは増幅したチャクラを爆発させない為の方法と、膨大なチャクラの圧に耐え得る刀身だ…。

 頑丈な刀身は君麻呂さんにもっと上質な骨を用意してもらえば良いとして問題は前者の方だ。

 

「っていうかさぁ、何でチャクラが爆発するの? チャクラ刀って普通なら刀身にチャクラを流して切れ味を増したりするだけで爆発なんてしないだろ?」

「この刀はチャクラの動きがおかしいんだよ、刀身全体じゃなくて細胞同士の繋ぎ目部分にチャクラが集中するせいで最終的に器が耐えられずに破裂してる感じだ」

 

 なるほど…その点についても最初の推測が当たっていたということか…我ながら中々洞察力があるのかもしれない…意外と情報班などを志していたとしても大成したのかもしれない、もっとも刀という存在がある以上私が情報班を進路選択するなどあり得ない話だが。

 

 …いや、話が逸れた。とにかくチャクラが細胞同士の繋ぎ部分に集中するせいで一ヶ所にチャクラが留まり続けて爆発するということが問題なのだ。しかしそういうことならば──

 

「つまり最初から細胞同士を混ぜておいて繋ぎ目をなくせば問題ない?」

「ん? …どういう事だ?」

「例えば千手一族の細胞情報である綱手さんの血を予め君麻呂さんに輸血して君麻呂さんの体内で混ぜてしまえば両者の細胞が混ざってくれるのでは?」

「なにそのマッドな発想、君やっぱあの変態の影響受けてない!?」

 

 あぁ、そういえばハレンチ博士も他人の肉体を器にしているし似たような発想なのかもしれない…というか経絡系やチャクラ性質など本人の肉体由来の力が多い以上、案外一般的なやり方なのではないだろうか? 他人の細胞を自分の肉体に埋め込んだりした人なども過去にはいたかもしれない。

 

「とにかく、この方法ならば上手くいく可能性は高いはず」

「…どうなの、香燐?」

「否定はしないが…輸血しようってんなら血液型は大丈夫なのか?」

 

 あぁ、そういえば輸血って血液型によってはやってはいけないのだったか…完全に忘れていた。

 

「それは盲点だった」

「盲点じゃねぇよ! 輸血させようって奴が血液型考えてないってもう失明してんじゃねぇかコラ!」

「…ハ、ハレンチ博士に聞けばどちらの血液型も分かるはずだから…聞いてくる」

 

 何と言っても部下と元同志だったんだ、ハレンチ博士が分からないはずはない! 

 完璧だ、何の問題もない! 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

「君麻呂はA、綱手はBだったわね」

「……AとBって輸血出来るのでしたか?」

「絶対ダメだよ」

 

 医療忍者のカブトさんからアウト判定が出てしまった…ということは…

 

「何も大丈夫ではなかった…」

 

 危うく君麻呂さんに適合しない血を流し込んで殺してしまうところだった…そんな大惨事を免れただけ幸運と思わねば…。

 

 踏み止まれた幸運と計画が頓挫した不運を同時に噛み締めながらこちらを訝しむハレンチ博士とカブトさんの視線を受けながら鍛冶場に戻り水月達に結果を報告、結局その後は手詰まりということで解散するのだった。

 

 

 

 自分以外が立ち去った鍛冶場の床に横になりながら思案する。

 良い計画だと思ったのだが…中々どうして上手くいかない。

 

「一体どうすれば…」

 

 手詰まり感に気が重くなるが脳内で冷静に思考を巡らせる。

 刀造りの為に今まで詰め込んだ全ての情報を頭の中で反復し、使えそうな情報を紡ぎ作成案を作る…クールに素早く…クールに素早く…

 

 …

 ……

 ………

 

「駄目だ、先に"蒸気荘怒"の改善から進めよう」

 

 基本的に刀を造っている方が頭が回る。

 刀を造っている時に別の刀の案が頭に浮かんでそちらに着手したくなるときもままある…っ! まさかこれは浮気症の類いなのか? 

 

 何だか少し不安になったがとにかく今は"蒸気荘怒"を──そう思った刹那、脳内の情報から一つ…あの人物の情報を集める中に知った方の名が思い浮かぶ。

 そう"蒸気荘怒"の基となった忍術の使い手である二代目水影、幻月様…彼について調べる過程で知った、彼と相討った二代目土影、無さん…。

 

 2つの性質変化を合わせる血継限界…その更に上にある3つ性質変化を合わせる血継淘汰。

 それこそが今私の抱える問題へのヒントなのかもしれない。

 

 かぐや一族、千手一族…忍界においても最高峰の血族に囚われて、視野が狭くなっていた…2つで安定しないのならば3つにすれば…掛け合わせる難易度は上がるかもしれないが、或いはチャクラの動きが安定するかもしれない。

 

 勿論不純物を混ぜてしまうことで弱体化する可能性もある。

 つまり両者の血族にさえ見劣りしない者の細胞が欲しいのだが、そんな都合の良い存在がいるとは──

 

「…あっ!」

 

 該当する人物が思い浮かび横になっていた身体をガバッと起こす。

 数分前にハレンチ博士とカブトさんを尋ねた際には"彼"はいなかった…ならば彼は今は修行を終え、休息をとっている可能性が高い。

 つまり今ならばハレンチ博士の時間をとってしまう心配もないということ…完璧だ、何も問題はない。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 扉を微かに開けて部屋の中の様子を窺う…どうやら意中の少年はベッドに横になって寝ている様子だ。

 ならば話は早い、起こさない様にサッと血なり髪なりを拝借して退出すればいい。

 

 …注射器がないから普通に刀でするつもりなのが少し気になるところだが、最近私が時々自傷した時は痛いことには痛いがそう悪くもなかったし多分大丈夫なはずだ。

 

「…よし、それでは──」

「誰だ?」

 

 っ! サスケ君、起きていたのか…だとしたら部屋を覗き込んでいるのは少々悪印象だ。とりあえず問いかけに答えて印象の改善を試みるべきか。

 

「渦柘榴村雨です」

「…何の用だ?」

「実はお願いがあって──」

「テメー、何サスケの部屋に忍び込もうとしてんだコラァ!!」

「うばっ!!」

 

 突如真横から鋭い蹴りが顔に飛び込んでくる…何とか水化の術が発動できたものの少し遅れていたら確実に殺されていたと思えるほどの容赦の無さだ…一体誰が…

 

「コソコソ何かしているのを見かけてつけてみれば…ウチの前でサスケに夜這いしようなんざ良い度胸だなこの変態女!!」

「夜這い? …いえ私は寝込みを襲おうと思っただけで──」

「同じじゃねぇか!」

 

 はて…いつから夜襲と夜這いは同義になったのだろうか? まぁ言葉の意味は時代の変化に合わせて変質するものだ、気が付かない内にそういう風になったのかもしれない。

 だとするとあらぬ誤解を抱かせてしまった…それは香燐さんも慌ててしまうことだろう。

 

「私はただサスケ君を軽く切って血や髪を拝借しようと思っただけ」

「サ、サスケの血と髪を拝借だとォ!? 開き直るのも大概にしやがれ、この異常性愛の変態女!!」

 

 ──駄目だ、話が通じない…どうしたら良いんだ? 

 

 顔を真っ赤にし、眼鏡を光らせる香燐さんに言葉を失う。

 完全に誤解されてしまっている、早く解いた方が良いのだろうが…この様子ではそれも難しそうだ。

 

「…では香燐さんもご一緒ということで」

「は!? ──待て待て待て!! お前そんな、なに言ってるのか分かってんのかソレぇ!」

 

 誤解を解くのが難しいのならばこの際誤解されたままでも構わない。そんな事よりも私は早く思い付いた可能性を試したいんだ、ここで足止めされている時間さえ惜しい。

 何やら呂律の回らない様子の香燐さんの手を引っ張りながらサスケ君の部屋に足を踏み入れる…どうせバレてしまっているのだ、忍び込んだところで意味はない。

 

 ベッドから身体を起こし何やら冷たい目でこちらを睨むサスケ君と向き合う。

 暗闇の部屋の中で光る赤い瞳…写輪眼、正直興味が惹かれないわけではないが今は別にどうでも良い…必要なのはただ"うちは一族"という"かぐや一族"そして"千手一族"にも引けを取らない忍界指折りの血だ。

 

 ──だから

 

「失礼します…それと、頂きます」

「し…失礼します。そ、それと……頂きます」

「今すぐ出てけ!」

 

 何故か香燐さんが復唱している…何やら怪しい笑みまで浮かべているが一体どうしてしまったのか…刀造りに協力して貰っていた時とはまるで様子が違うが…いや、そんな事よりもサスケ君の細胞を…と、思ったものの写輪眼の眼以上に冷たい声と共にサスケ君が廊下を指差す。

 考える素振りもなく言い捨てるとはあまりに無情だ…しかし、こちらも退くわけにはいかない。断固としてここに留まらねば! 

 

 最悪、ここで一夜を明かす決意と共にサスケ君と向かい合う。

 斯くして、怪しい笑みを浮かべている香燐さん、無表情のサスケ君、そして私による突発的なお泊り会が始まるのだった。

 

 

「…また何か変なことしてる…」

「あ、水月」

 

 ふと気が付けば廊下からこちらの様子を窺う水月がいた。

 これは、ふむ…参加者が1人増えました。

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