君麻呂さんからの要望の刀を完成させる為にも更なる素材を求め、深夜に香燐さんと共にサスケ君の部屋に転がりこんだ…流れで水月も加わって半ばお泊り会の様になったのは良かったのだが…当のサスケ君はあからさまに嫌そうな顔を浮かべている。
なんなら水月も物凄く嫌そうな顔をしているし水月が加わってから香燐さんも嫌そうな顔を浮かべてしまっている。
サスケ君と水月はともかく途中まではそれなりに乗り気そうだった香燐さんまで何故?
妙に重苦しい空気のせいでサスケ君に素材の提供を頼みにくい…だがここで臆していても何も始まらない、まずはこの重苦しい空気をなんとかしよう――
「…挨拶としては少し遅れたけれど、改めてこれからよろしく。うちはサスケ君」
まずは挨拶から試みる…が、彼からの反応は特にない。
「雷刀・鳴神の調子はいかがでしょうか?雷遁チャクラを増幅させる仕様上癖が強く、使いこなすには技術がいると思いますがもう慣れましたか?」
「……」
「バカかお前、写輪眼はチャクラの性質だって見切れる代物だ、お前の刀如きサスケが使いこなせない訳ないだろ?」
「それも確かに…愚問だった」
言われてみればそうであった…写輪眼について考えすぎると欲しくなってしまってハレンチ博士に迷惑を掛けるやも…と思って考えない様にしていたからつい…香燐さんの言う通り洞察眼としても優れた写輪眼を持つサスケ君ならばその手のチャクラ操作もお手の物だろうに。
…あれ?何やらサスケ君の表情がより一層険しくなった気がする…やはり浅い質問はするべきではなかったか。
「ま、まぁこいつの刀の事はともかくさ、修行の方はどうなんだいサスケ?」
「知るか、俺の修行がお前に関係はないはずだ」
「そうでもないさ、ボクはボクの目的の為に君には期待してるとこもあるし…それに、君の組手やらの修行に人員が割かれ過ぎててボクの方に人が回ってこなくて困ってんだよね、コレが」
そう言って水月は背負っていた首斬り包丁を掲げて見せる…その刀身は数日前の我愛羅君との戦いで損傷し先端から半分近くが折れて無くなってしまっている。
「この首斬り包丁は血を吸うことで再生する…ってのに君の修行に人を割かれ過ぎてるから中々斬らせてくれる相手がいなくてね…早いとこ区切りを入れて欲しいんだけどさ」
「ふん、そんなことは俺じゃなく大蛇丸に直接言え」
「大蛇丸は君に相当入れ込んでるから君よりボクの要望を優先しろ…なんて言えるわけないだろ」
あぁ…通りでいつまで経っても首斬り包丁を直していなかったはずだ…そういう事情があったとは――言ってくれれば力になったのに水月も意外と遠慮しがちな気質なのだろうか?
――とにかく、そういうことならば…
「水月」
「うん?なに、村雨」
「ん」
膝立ちの姿勢で両腕を広げて水月を待つ…が、どういう訳か水月は困惑の表情で固まっている。
仕方ない、ここはもう一度声を掛けてみよう。
「ん」
「ん…じゃなくてぇ!なに、そのポーズ!?一体なんのつもり!?」
「首斬り包丁の為なら…その…み、貢がせて――うぶ!」
言葉の途中で水月から放たれた枕が顔面に勢いよく飛び込んでくる――どうして…というかこの部屋にこんなに枕はあったのだろうか?
「ホント!君最近自傷行為に嵌ったの!?今までと別ベクトルにヤバいから最近!!」
「べ、別にそんなつもりは…それに香燐さんもいるから水月は首斬り包丁が直せて、私も傷を治して何度でも血を貢…提供できる。利には適って――ふぐ!」
「ウチの能力を何に使わせる気だこのアマッ!?」
今度は左方向から枕が飛んできた…横から枕を受けたせいか首が痛い。
確かに私と水月は両者ともに利があるが香燐さんには特に何もなかった、むしろチャクラを消費させ続ける負担しかない、怒るのも無理はないのかもしれないが…
「お前やっぱ色々と危ねぇ!ウチとサスケに近づくんじゃねぇ!」
「そんな!確かに負担はあるかもしれないけど危険なことは何も――へぶ!」
「そもそも俺の部屋で血をまき散らそうとするな、やっぱり今からでも出てけ」
また枕が飛んできた、今度はサスケ君から!?一体いくつ枕があるんだこの部屋は!?それとも枕影分身の術とかそんな術でも存在しているのだろうか?
「い、いえ…血の大半は首斬り包丁が吸うので部屋に血が飛び散ることはほぼないかと…ちなみに首斬り包丁はこの吸血能力によって戦いの現場に残る痕跡を減らし、後からの捜索者に誤認させる点にも利点があって、その大きさから受ける印象とは異なり隠密任務の際にも――」
「うるさい…いいからサッサと出て行くかせめて黙っていろ」
取り付く島もない…というかそもそも私は別にサスケ君と首斬り包丁についての話をしに来たわけではない、取り付く島もないと言ったが漂流どころかまず目的地から間違っていた…。
…まぁ首斬り包丁の話をしたいというのではあればやぶさかではない…むしろ夜通しで語りたいが今は時間が惜しい上にサスケ君も残念ながら興味なさげだ。
仕方ない、出来れば空気を良くしてから切り出したかったがこれ以上粘ったら逆に空気が悪くなってしまいそうだ。少し、ほんの少しだが…もう既に空気を悪化させてしまっている気もするがそんなはずはないと自信を持って本題に入ろう。
「サスケ君…私の刀造りの為、貴方の細胞を少し頂きたい、頂ければすぐにでも私は出て行く」
「ふざけるな、何故俺がそんなことに協力してやらなければならない?」
…およそ予想通りの反応だ、そもそも忍にとって細胞情報は命、頼んですぐに渡す者などそうはいるまい。
「まぁ、そう言わずにさ…ちょっとぐらい協力してくれてもいいんじゃない?さっきもちょっと言ったけど…幸い、ボク達と君の目的はお互いに利があるわけだしね?」
「どういうことだ?」
ふいに水月が私の要望に肩入れするかの様に会話に加わってくれる…凄く有難いことだが私達の目的とサスケ君の目的が互いに利がある関係とは一体どういうことなのだろうか?
「君の目的は君の兄、うちはイタチの抹殺…復讐なんだろ?ボクとこいつはうちはイタチの相方、干柿鬼鮫の持つ大刀・鮫肌を手にしたい…お互いに目的の邪魔になる相手を狙っているんだ、協力した方が都合が良いんじゃないかな?」
「……あの大男か、お前達にあの男を倒すだけの力があるのか?」
「それは君にも言えることだろう?君だってうちはイタチを倒せるとは到底思えない…だからこうして大蛇丸の下に来て、力を得ようとしているんだろ?」
「…フン」
さ、流石水月…驚くほどスムーズに話を進めてくれている…ひょっとして私は何もしない方が良いのでは…と若干不安になってしまう。
というかそもそも水月は鬼鮫さんが今どちらに居るか知っているのだろうか?サスケ君も何やら訳知り顔ではあるし、私の知らない話で私の要望が叶えられそうになっているのは戸惑いが大きくて素直に喜べない…。
…しかしここで余計な質問をしてはサスケ君から組む価値のない者と思われるかもしれない…今は黙って見守っておこう。
「はっきり言って干柿鬼鮫も、うちはイタチもボクらが必死に修行をしたところで確実に勝てる保証はない…そういう意味でもこいつの刀は重要な戦力になる…不本意ではあるけどね」
「……」
サスケ君の視線が僅かにだが私の方へと向けられた…血の様に赤く、そして冷たい瞳、写輪眼。
見定めるかの様な鋭い視線に捉えられ、ほんの少し居心地の悪さを感じる…が、それを受け止めて見つめ返す。
…何故だろう、隣の香燐さんからもっと鋭い視線…というよりギスギスした圧力を感じ居心地の悪さどころか息苦しささえしてきた。…私が何をした?
2方向からの威圧感にどうしたものかと内心困惑する…サスケ君も結局視線を向けるだけで何も言ってくれない、どうすれば…と水月に救いを求めて視線を向ければ微かにため息を吐いて水月が再び口を開く。
「サスケ…正直このバカに目ぇ付けられた時点で望むもん渡さないとそれこそずっと付き纏ってこられるよ」
「知るか、最悪大蛇丸にでも止めさせる」
「言っとくけど君の持ってるこいつ作の刀だって四代目風影の細胞使ってるらしいからね、当然無断で」
2人からの視線が威圧的な物から疑惑の目に変わった…水月、説得してくれるのは本当に有難いけど何故そんな脅し染みた言い方を…もっと私の造った刀のここが凄いとか…そういう良い方向性でのプレゼンテーションをして欲しかった…そもそもそんな悪印象を抱かせそうな話で協力して貰えるはずが――
「……分かった、さっさと持っていけ」
「え?」
サスケ君の言葉に耳を疑う…何故さっきの話でOKが?
面と向き合っての要望ではなく水月がした様な脅し染みた要望の方が上手くいくなんて…この様な事が繰り返されてしまったら恐怖に依る支配も嫌いではないという人が出てくるかもしれない。
確かに上手く事が運んでくれたが少し複雑な気持ちになってしまう…まぁそれはそれとして許可が頂けた以上有難く血を頂くことに変わりはないが…というか正直凄く嬉しい。
「では早速失礼します、少しグサッとする」
「待て、せめて注射器を用意しろ。何で刀なんだ」
「大丈夫です、刀身に軽度の神経毒があるので痛みは殆ど感じないはずです。香燐さんもいらっしゃるので治療も即座に出来ます」
「お前!またウチを勝手に利用しようとしやがって!しかもサスケにウチを噛み付かせるように仕向けるとか…そんなグッジョブなことをふざけやがってこのイカレ女」
し、しまった…また香燐さんに話を通さずに進めてしまっていた…物凄く怒って…怒っているのか?何だか若干声に弾みが…何だか呂律もおかしいが――まさかそこまで怒らせてしまったのか!?
「す、すみません香燐さん、ですがどうかご協力を――」
「そ、そうだまずはちゃんと筋を通して…い、いいからさっさとやってサスケをウチにその…さっさとしねぇかこのヤロー!」
「…なに言い合ってんの君ら」
「ごちゃごちゃとうるさい…やるなら早く済ませろ」
結局、止めたいのか推奨したいのか良く分からない香燐さんからの圧力を受けながらもサスケ君の腕を数ヶ所程斬らせて頂き、一定量の血を採取に成功した…のは良いが刃を入れる度に隣の香燐さんから物凄い圧力を掛けられたせいか作業を終えたころには物凄い脱力感に襲われた。
思えば日中は仮作成での検証に集中していたことも合わせて存外と疲労も溜まっているのかもしれない…こうして無事にサスケ君の血を頂けた訳だが何度も繰り返し提供してもらうというのも流石に気が引ける。
そうでなくとも君麻呂さんやサスケ君の血はともかく、綱手さんの血はもうこれ以上の供給はほぼ不可能…このまま勢い任せに刀造りを始めて半端な出来で仕上げても素材が勿体ないというものだ。
ならば今日はゆっくりと休み、明日、改めて刀造りを始める方がずっと良い。
そうと決まればゆっくりと寝ることにしよう…お泊り会を覚悟していたが水月のお陰で思ったよりも早くサスケ君の説得も出来たし、何より約束は約束だ。私は今からでも自分の部屋に戻るべきだろう。
「ありがとうございました…おやすみなさい」
憮然とした表情を浮かべながら香燐さんの腕に噛み付いているサスケ君とどこか恍惚とした表情の香燐さんに小さく一礼しながら物音を立てない様にゆっくりと部屋から退出する。
廊下に出たところ何故か私に続いて水月も部屋から出てきた…別に水月は残っても良かったはずなのに何故…と思い聞いてみるも――
「何でボクがよりにもよってサスケと香燐とお泊り会しなくちゃなんないんだよ。絶っ対香燐が面倒だし…自分の部屋でゆっくり寝るよ」
「確かに香燐さんは時々言動がおかしくなる時がある…あれは一体…」
「まぁ平時の君も同じぐらい言動おかしいけどね」
「そう?…でも確かに何かあると自分でも思いもよらない言動をする時もあるかもしれない…気を付ける」
思えばつい大蛇丸さんをハレンチ博士と呼んでしまうのも初対面での衝撃が強すぎたあまりどうしてもつい出てしまうものだし、やっぱり落ち着いていないと思わぬ発言というのはしてしまうものなのかもしれない…そう思うと香燐さんに対して"時々おかしい"という印象を抱くのも失礼なのかもしれない。
――ん?…あれ、水月さっき"平時の君も"って言っていた?平時?有事でなく?…言い間違いかな?
「あぁ、それはそうと…結局サスケから血を貰ったわけだけど刀の製作は上手くいきそうなの?」
「分からない…元々3つ目の細胞情報を組み込む発想自体なかったものだから…でもうちは一族は他の2つの血とも劣らない血統、少なくとも均衡は取れるはず。それにサスケ君の血は――」
サスケ君の部屋に突撃する前に事前に調べておいた情報を水月に明かし、明日行う刀造りへの自信を語る。
うちは一族の血を加えるという発想の前に思い至り…しかし頓挫した計画、それを叶え得る希望に胸を高鳴らせながらそれぞれの部屋へと戻り、眠りに就くのだった。
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翌日の早朝…アジトの食堂で朝食をとっていた香燐は後からやって来た水月と顔を合わせる。
「…あれ、君1人?サスケは?」
「起きた時にはいなかった…大蛇丸様と朝練なんだろ?」
「うえ、君まじであの後サスケと一緒の部屋にいたの?」
「っ!?ち、ちが!?つ、つい戻るタイミングを失ってただけだ!な、何もしてねぇぞコラ!?」
「いや…そこまでは別に聞いてないけどさ…興味もないし」
自分の不注意な発言を後悔しながらも慌てて取り繕った言葉に特に反応を示さない水月にどうにも以前に会った時との印象の違いを認識する…このアジトで再会してからというもの、いけ好かない印象に変わりはないがそれ以上になんだが落ち着いた様な…悪くいえば老け込んだ様な印象を受けてしまう。
こうなってくると自分だけが一方的に悪感情を表に出している様な気がしてほんの少しだが態度を改めつつ話題を変える。
「そ、そういうお前こそ…村雨の奴は一緒じゃないのか?」
「あー…何か早速貰った素材を刀に組み込むとか言って鍛冶場に向かったよ、土台を準備するだけでチャクラを流し込むのは君と予定を合わせてからにするから危険はないってさ」
「そうか…まぁサスケは忙しいみたいだし食べ終わったら顔出してやるか」
その言葉が意外だったのか水月が目を丸くしてこちらを見ていることで、また自分が不注意な発言をしていたことに気付き思わず咳払いする。
「か、勘違いすんなよ!大蛇丸様からあいつの刀造りに付き合う様に言われてるのと付き纏われても面倒だってだけで、別に思ったより気が利く奴だからとかそんなアレじゃ――」
昨夜の自然な流れで自分をサスケの部屋へと連れて込んでくれた事や、その後気が付けば自分を残して水月共々退出して2人きりの空間を用意してくれた事で内心、村雨の評価を上げていることを悟られない様に取り繕う。
惜しむらくは結局昨夜はそのまま爆睡したサスケを襲おうと思いつつも、いざ目の前にして踏ん切りがつかなかったことだが…そこは流石に自分の責任だということは分かっている、それで彼女を恨んだりはしない。
「そ、そんなことより…刀に細胞を組み込むって具体的にはどうするつもりなんだ」
「知らないよ、でも何か目途は立っているらしいよ…例の細胞を予め混ぜておくっていうのも出来る様になったらしいし」
「なに?そうなのか、どうやって!?」
水月の思わぬ言葉に少なからず衝撃を受けた、昨夜の一晩だけで何からの改善方法を思いついたというのか…何だか掴みどころのない奴という印象だったがやはり大蛇丸様の言う様に只者ではないのか…と思いかけたが続く水月の言葉で更に度肝を抜かれた。
「あぁうん、何でもサスケの血液型がAB型だったらしいってことで、"これでサスケ君の血を基にして君麻呂さんのAと綱手さんのBの血を混ぜられる"とかって言ってたよ」
「バカかァァアアアッ!!」
「ふぐ!?――な、なにすんだよ!?」
手元のおにぎりを全力で水月の顔面に投げつける。
何がAB型の血を基にA型とB型の血が混ぜられるだ、血液がそんな単純な物な訳がないだろう何考えてんだあのバカは!?
「っていうか何でお前も止めなかったんだバカ!?」
「え?…何か違うの…だってAB型なんでしょ?…A型とB型の血が混ざってる」
「お前もそんな認識なのかよこのバカ!」
想像以上に酷い知識に愕然とするもそれどころではない、そんな杜撰な計画で刀造りを始めているとしたら…それこそ以前にやらかしたという爆発事故が繰り返されるやもしれない。
最悪の想像が頭を過ぎり、椅子をひっくり返しながら跳ね上がり水月の服の襟を掴みながら全力で駆け出す。
「な、なに!?痛い痛い!?擦ってるって!?」
「うるさい、それどころじゃねぇ!今すぐあのバカ女止めないと何をしでかすか分かんねぇぞ!」
ギャアギャアと文句を言う水月を一喝しながらあの女の鍛冶場へと全速力で向かう。
頼むからまだ何もしているな…せめていま引き摺っている水月を犠牲すれば何とかなる程度で済んでくれ…様々な可能性に縋りながら、昨夜の天国から一転、地獄に叩き込まれた心境で鍛冶場の扉を蹴り破る。
一体どうなっているのか――恐る恐る、その先にいる人物へと目を向ければ――
「…これで土台である刀身は完成――あとは術式を刻んで細胞への干渉を…それが出来れば出力の調整を…」
狂気に染まった笑みを浮かべて…先端が鋭利に尖った不気味な灰色の骨を抱く女がそこにいた。
その灰骨そのものから感じるチャクラは今まで感知したことのない程にどす黒く、禍々しい…恐ろしい質のチャクラだった。