霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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弔いの約束

君麻呂さんからの要望である骨の刀…その基盤が漸く完成した。

うちは、千手、そしてかぐや一族の細胞を組み込んだこの刀は香燐さんの見立てでは、どういう訳か刀自体が不気味なチャクラを宿しているというのだが、持ち主のチャクラを流すのではなく刀自体がチャクラを持つというと大爺様の最高傑作、鮫肌が真っ先に浮かぶがアレは持ち主や相手のチャクラを吸い取っているからこそだ。

 

刀独自でチャクラを発生させているというのは一体どういう原理なのか…造った私としても思わぬ結果だった。

…それもあまり良くはない、勿論刀自体がチャクラを持つ以上持ち主のチャクラに依存しないという点では優れているが、逆にいえば持ち主のチャクラによって出力を上げられないという欠点でもある

 

「香燐さん、この刀の持つチャクラ量はどれぐらいですか?」

「…あくまでも目安としてだが…呪印抜きのサスケより少し多いぐらいだな」

「四人衆…いや五人衆の筆頭の君麻呂とサスケ本人、そして三忍の綱手の細胞を混ぜたにしてはちゃちいね…いや、サスケを悪く言うわけじゃないけどさ」

 

香燐さんの見立てを聞いて水月は肩透かし感をはっきりと口にする…そして香燐さんから睨まれている。

実際、今のサスケ君のチャクラ量は同年代の忍と比べて遥かに多い、それよりも少し多い量のチャクラがこの刀という器に収まっているというのは普通に考えて十分な量だ…だが私としても正直のところ水月と同意見だ、この程度がこの刀の上限値だとするとはっきり言って物足りない。

 

組み込む細胞の量を増やしたり、素材となった屍骨脈の術の精度をより高めた骨を使えば或いはチャクラ量も増す可能性もあるにはあるが…その場合でもこうして安定した状態で造れるかは分からないが試してみる価値はある…しかし、それよりもまずは──

 

「漸く安定した刀が造れたのだから、まずはこれでその先まで進めよう」

 

 

 

水月達と一度別れ、アジト内の一室である巻物や本などを纏めた資料室に足を運び、そこで様々な資料を読み返しているカブトさんを見つけ声を掛ける。

 

「──え、綱手様の使っていた再生忍術について…かい?」

「はい、アレを今造っている刀に利用したくて…医療忍術の使い手で実際に見たカブトさんの分析が欲しくて」

 

医療忍術と再生忍術は別のもの…しかし、その源流は同じはず。

知識の皆無な私と違い、カブトさんならば分かるところもあるやもしれない。

 

「そうだね…あくまであの人自身が言っていた限りでは大量のチャクラで体内のタンパク質を刺激することで細胞分裂を促進させて器官・組織を再生する…という話だから肝となるのは"チャクラを体内のタンパク質に干渉させる"という点かな? チャクラを流す経絡系はタンパク質まで絡んでいるから不可能ではないのは分かるが…とても真似出来る芸当ではないね」

「通常の医療忍術とはやはり別物なのですか?」

「そうだね、単純な外傷を治す医療忍術とは似て非なるものだ…ただ、君の言う様に治療のバランスを考えず、細胞やタンパク質へ出鱈目に干渉するだけで良いのなら…不可能ではないかもしれないね」

 

そう言ってカブトさんは机の引き出しを開き、幾らかの資料を束ねて差し出してくる。

 

「医療忍術の詳細についての資料はここに纏めたものがあるから一度持って行って読んでみると良いよ」

「ありがとうございます」

 

受け取った資料を手元で纏めて退出し、鍛冶場へと戻る…といってもまずはこの資料に目を通すのが目的だから自室でもいいのだが…鍛冶場にいる方が自然と集中力が高まるから都合が良い。

結構な量の資料だが…とりあえずお昼ご飯までに目を通しておこう。

 

 

 

▼▼▼

 

 

午後の4時半頃、資料を無事に読み終えお昼ご飯を堪能する…。

資料を読むのに想定以上に時間は掛かったが当初の予定だったお昼ご飯までに読み終えるという目標は達成したから問題はない。

そんなことよりも一通り資料を確認して試してみたい案はいくらか出来たこともあり、少し遅いお昼ご飯を手早く済まして作業に戻る。

 

作業台の上に置かれた屍骨脈の骨を利用した刀…その先端を中心に医療忍術の資料と綱手様が使った再生忍術"忍法・創造再生"…あの術を使った際に額に浮かび上がったあの紋様を綱手様の血を使って刀身へ術式として刻む。

…ただし綱手さんの血に残留するだけのチャクラではとても術式として成立し得ない。

 

「というわけで指先にチャクラを集中してください。あとは私が動かしますので」

「……はい…お願い…します」

 

医療用のベッドに横たわる君麻呂さんと段取りを組みながら彼の手の傍へ骨刀を近づける。

君麻呂さんの容態は以前に会った時と比べても更に悪化している…この上さらに負担を強いるのは心苦しいが仕方ない。

 

君麻呂さんの指先に綱手様の血を付着させ彼の手を掴み骨刀に術式を描いていく。

作業を続ける内に君麻呂さんの呼吸が荒くなっていくのが分かり、せめて素早く、それでいて慎重に作業の完了を急ぐ。

 

数分に及ぶ作業の果てに綱手様の"創造再生の術"の紋様とカブトさんから頂いた資料の中にあった医療術式の2つを刀身に刻み終える。

 

「ありがとうございます、もう大丈夫です」

「ハァ…ハァ…チャクラを練るだけで…これほど苦しくなるとは…やはりもう長くないのでしょうね」

「私は医学がない…だけど多分そうなのだと思う」

 

淡々と呟く君麻呂さんの口からは血が伝い、今の彼にとってチャクラを指先に集中するだけの事がどれ程の苦痛なのかを突き付けられて胸が痛むのを感じる。

そう…彼自身が言う通りもはや君麻呂さんの命は長くない、それはもう間違いのないことだ

 

「貴方の命は多分もう長くない…それはつまり、貴方が死ぬ前に完成させると約束したこの刀が完成する日がもうすぐだということ。──だから、安心してほしい。貴方が死ぬ前に、貴方が望んだ物は必ず見せてみせる」

「病人への言葉としては…些か風変わりですね」

「こういうのは慣れてないから気が利いた言葉は用意できない」

「──いえ、凄く救われた気分です」

「そう…うん、良かった。それでは、私は作業に戻る」

 

気休めの言葉一つ話せない、ならばその代わりにと以前に結んだ約束をもう一度だけ告げ、医療室から退出すると手に握った骨刀を見つめる。

血で書かれた術式がチャクラによって焼き付き、その先端にうっすらと描かれた菱形の紋様…刀身を削り、形を調整することで刀に流れるチャクラを先端に誘導したことで綱手様の行っていたチャクラの蓄積を僅かにでも再現できたらしい。

 

少し疑問なのがサスケ君と同等ぐらいのチャクラが一点に集中したぐらいで綱手様の再現が果たせるのだろうか…ということなのだが…やはり細胞同士の相性が良いのだろうか? 一点に集中した事でより高め合っているのかもしれない…後程香燐さんに頼んで解析して頂く必要があるかもしれない。

 

──が、それよりも先にまずは術式を刻んだこの段階で目指した反応が起きるのか…試してみるべきだろう。

ハレンチ博士が集めた捕虜の、その牢の鍵と包帯を適当に手に取り期待と不安に心躍らせながら足を進めるのだった。

 

 

 

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手に取った鍵と一致する牢屋を回す。

この牢屋にいる人達はその全てがハレンチ博士に囚われた人達であり、その為立場上ハレンチ博士の部下に該当する私への反応はとても好意的なものではない…が、そんなことは然して興味はない。

どうせ彼らはハレンチ博士から処分されることを恐れて視線以上の抵抗など出来ないのだから…

 

牢の扉を開けて中に入り、一番近い男性に歩み寄り──手にした骨刀を彼の腕に突き刺す。

痛ましい悲鳴と周囲の囚人達の怒声が耳に響いて心が痛む…だがそれ以上に男性の腕から噴き出した血が私の手までも赤く染めたという結果に落胆する。

 

──私の思い描いた理想は血さえ湧かずに対象が細胞ごと崩れて行く結果だ…だというのに血を噴き出すという結果だということは、やはり術式が作動せずにただの刺突でしかなかったという事だ。

これがチャクラ刀ならば自身のチャクラを流したり…なんて別の切り口もあるのだが刀そのもののチャクラを利用している以上それもない。

諦めて男性の腕に突き刺さった骨刀を引き抜いて傷口に包帯を巻こうとしたのだが…処置しようと身を寄せた途端に手枷の付いた両手で突き飛ばされた為断念する。

 

私を突き飛ばそうと傷付いた腕を無理やり動かしたのだろう腕の傷口からは血が溢れ、早く処置をしてあげたいのだがまた抵抗されては余計に悪化する。…あとよくよく考えたら私はあまり上手く包帯を巻けない。

 

仕方なく男性への手当は諦め、彼の傍にいた別の囚人の方にお願いしますとだけ言って牢屋を立ち去る。

 

 

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──牢屋を立ち去った後、今回の結果を踏まえて香燐さんに解析してもらって改善しようと思ったのだがどうやらサスケ君の修行の手伝い中らしく、断念する。

仕方なく術式の調整だけして再度牢屋に訪れる。

 

前回よりも牢屋の方々から激しい怒声を受けるがどうでも良い。

とにかくまた牢の扉から一番近くにいた人の腕に骨刀を突き刺す──血が噴き出す(失敗した)

再び響いた悲鳴にやはり心が痛み、すぐに手当をしようと思うがやはり拒絶させた為諦めて出直すことにする。

 

 

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──今度はちゃんと香燐さんと都合が合ったので骨刀の解析を依頼する。

やはり先端部分でチャクラの増幅が確認できるという事なのでチャクラの伝導率を上げる為、香燐さんの感知と慎重にすり合わせながら刀身の形を調整しつつ、術式の調整も再度行う。

 

そうしてまた牢屋に訪れる。

牢屋に入ると襲い掛かってきた男性がいた為水化の術ですり抜けて、そのまま男性の腕に骨刀を突き刺す──血が噴き出す(失敗した)

 

悲鳴に思わず目を伏せながら包帯を置いて立ち去る。

 

 

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更に術式の調整を行い、再び牢屋に訪れる。

今回は襲い掛かる人はいなかったが代わりに皆が遠ざかってしまった為、怪我していない人から適当に選んで歩み寄ると前回までの反省を活かし、その人の口に捩じった布を噛ませてから骨刀を突き刺す──血が噴き出す(失敗した)

 

相変わらずの結果に落胆するが、前回まで心を痛めた悲鳴がなかった為幾分か気は楽だった。

包帯を置いて立ち去る際に水月が首斬り包丁の再生の為に血を欲しがっていたことを思い出し、手に付着した血を垂らさない様に気を付けて水月の部屋に行く。

 

…血塗れの手を見せると今度は水月から悲鳴が上がった。…忍だから見慣れているだろうと思ったが配慮が足らなかったらしい。

 

 

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それから試行錯誤を繰り返したが結果は変わらない。

何度も繰り返している内にいい加減布を噛ませる手間が面倒になってきてそのまま骨刀を突き刺した──やはり血が噴き出す(失敗した)

耳に響く悲鳴を聞きながら包帯を手渡し牢屋を立ち去り鍛冶場に戻る。

 

 

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かれこれ何度失敗したことか…実現困難であることは覚悟していた、それでもこうも失敗続きだと気が重くなる。

ここまでくると術式を書き換えるだけでは改善すること不可能と思え、別の方法を思案するもこれといって効果がありそうな発想は何もない。

 

「ここまで刀造りが上手くいかないのは久しぶり」

「楽しそうで何よりだよ」

「うん、これで期限がなければ最高だった」

 

水月の言う通り、実に楽しくやりがいのある刀造りだ。

普段の想定通りに造れるからこそ想定を超える為に集中する刀造りも楽しいがこういう趣向も悪くない…むしろまだまだ及ばない領域へ手を伸ばしている感覚に浸れて気持ちが良い。

 

「おかげさまで首斬り包丁も完全修復さ、随分血を集めたもんだね」

「うん、失敗でも得るものがあるのは救いだった。…それにしても、やっぱり首斬り包丁は完全な姿が美しい…この荒々しい風貌、力強い重量感、それに何より──」

「はいはい酔ってないで仕事に戻ろうね。期限あるんだろ?」

「そうだった、つい…」

 

今は骨刀の調整が急務だというのに、思わず首斬り包丁に目を奪われてしまった…無事に修復出来て完全な姿が少し久しぶりに見れたものだから──

 

「…あれ?」

「なに? 急に間抜けな声を出して?」

「うん、本当に間抜けかもしれない…こんな単純な見落としをしていたとは…」

 

考えてみれば何故こんな間違いをしていたのか…確かに再生忍術を利用し細胞分裂を促進させるという発想で進めていた刀造りだがその術式を刀身に刻んだところで意味がなかった。

これでは修復対象は刀そのものでしかない…加えて君麻呂さんの骨で造ったこの刀は人に刺したところで損傷しないのだから術式が起動するはずもない。

少し疑問なのは香燐さん監修の下で刀身を削ったりした部分が修復されていないことだが、これはチャクラの伝導性を向上させているから直す必要がないものと認識されたのか? これはカブトさんの判断を仰ぐべきだろう。

 

そしてこれらの推測が正しいのなら必要なのは刀身の刻んだ術式を刺した相手への転写だが…これに関しては単純だ、呪印の技術を応用すればいい。

確かハレンチ博士は歯を刺した相手に呪印を刻めるらしいが──

 

「っ! 歯を引き抜いてもらって刀の先端に…」

「何考えてるのか知らないけどまずは普通にやり方聞いてみてからでいいんじゃないかな?」

「それは確かに」

 

そうと決まればまずはカブトさんと意見合わせ、それで問題なければ次にハレンチ博士へ…あぁ、また高揚感が溢れてくる。今度こそ…それまで及ばなかった領域へ届くだろうか? 

 

 

 

▼▼▼

 

 

君麻呂さんの顔を覆う布を取り外し、彼に繋がった管が外れない様に慎重に上体を起こさせ、彼の医療ベッドの傍に設置されたモニターの方へと顔を向けさせる。

そこに映るのは改良を重ねた骨刀を舌で巻いて固定したハレンチ博士と縛られた状態の男性…

正直、ハレンチ博士によるこの様な使い方はやめてほしいのだが君麻呂さんの希望と両腕が使えないハレンチ博士の立場を鑑みるに仕方ない。

 

縛られた男性へ向けてハレンチ博士の舌が伸び、その先端に巻き付いた骨刀が男性の腕へ突き刺さるとその腕に皹が入り一気に広がり出していく。

やがて皹割れた腕はボロボロと崩れ塵芥の如く散っていく。

 

「完成…したのですね」

 

腕を失い絶叫する男性とそれを満足気に見下ろすハレンチ博士の姿を見た君麻呂さんはそう声を震わせた。ふと彼の顔を見ると彼の双眸からは涙が流れていた。

自身の力の結晶を崇拝する人に使われ、その力を残せるのだという証拠に心が震えたのだろう…君麻呂さんの感情に触れて頑張った甲斐があったのだと心が満たされる

 

「はい。と言ってもまだ完璧とは言えませんが──」

 

実用可能な段階まで至ったがまだまだ出力不足で刺した場所から刀の能力が及ぶ範囲は狭い。

刀の形状や術式の調整でここまではこれたがやはり綱手様やサスケ君の血だけではどうしても彼らのチャクラが足りないのだろう。

サスケ君はともかく綱手様の細胞は容易には手に入らない…恐らく現状はここまでが限界だ。君麻呂さんの期待に応えたとは言い難いが、悪い報告ばかりでもない。

 

「ただ、カブトさんや香燐さんのお陰で各細胞の比率は数値化できたので綱手様の細胞さえ手に入れば改良版の完成は確実に可能だと断言します」

「はい、信じます…では」

 

君麻呂さんは左腕を変容させ巨大な骨の矛を形成する。

かなりの負担なのだろう、激しく咳き込みその度に吐血をしているがやがてその骨の矛を左腕から形を崩さずに綺麗に切り離した。

 

「ハァ…ハァ…。これが…恐らく僕が残せる最後の力です…」

 

それが何を意味するのか…すぐに理解し即座に素材回収の為の巻物に封印する。

これで他の細胞が集まるまで、この骨の矛をそのままの状態で保管できる。

 

「確かにお預かりしました。──ここまでのご協力、ありがとうございます」

「礼を言うのは僕の方だ。これでやっと…大蛇丸様のお役に立てる…武器としてあの方のお傍に残ることができる…これで…やっと」

 

君麻呂さんの瞼がゆっくりと閉じていく…ここまで病に蝕まれながらも自分に出来ることを思い続けていた緊張が解けたのだろう…そう、これでやっと…。

 

「──やっと、役目を果たす事が出来たのなら…あとは好きに生きて良いのでは?」

「…好きに…生きる?」

閉じかけていた君麻呂さんの瞼がゆっくりと開いていく…その瞳からはもう殆ど力がなく、彼の意識が遠のいているのが伝わってくる。

 

「君麻呂さんの力はもう、私がいれば繋げます。この部屋でただ寝ていなくとも…ハレンチ博士と一緒にサスケ君の修行を見届けても…重吾さん、でしたか。彼と過ごしても良いのでは?」

「……そう、ですね。僕はまだ…生きているのだから…」

 

身体のあちこちに繋がった管を剥がしてフラフラとした足取り、それでも君麻呂さんは立ち上がって…微かに笑みを浮かべた。

 

「本当に、ありがとうございました…村雨さん。最後に貴女に会えて良かった…お礼が何も出来なくて申し訳ありません」

「お礼なら先程受け取りました。──贅沢をさせて頂けるなら、いつか水月が起ち上げる新生忍刀七人衆に加わって欲しかったけれど」

「フフ、それは流石に出来ません、僕の命はもう本当に僅かです。…それにこの僅かな命も全ては大蛇丸様に捧げたものなのだから」

 

それはそうだ…その思いがあったからこそ君麻呂さんは重い病であってもここまで生き長らえたのだろう。

彼の命はハレンチ博士に費やしてものであり、他の何かに所属するなどありえないことだろう──そう思った直後に君麻呂さんは「けれど」と言葉を続けた。

 

「けれど──もしも僕にもう一つだけ命があったならば…貴女の願いに応えたいと思います。…大蛇丸様と同じ、恩人である貴女とその友達の夢になら…」

「ありがとうございます。…なら、もしも君麻呂さんが生き返ることがあったらもう一度頼んでみる」

「楽しみにしておきます。──それでは村雨さん、…いつか、また」

 

とりとめのない約束を結んで君麻呂さんは医療室からゆっくりと去って行った。

仮にも霧隠れの名家の出身である私が、かつて殺し合いをしたかぐや一族の生き残りである人物をよりにもよって霧隠れの忍にとって最高峰の部隊である忍刀七人衆に勧誘するなんて…今にして思えば随分と奇妙な縁もあったものだ。

 

…さて、果たして彼はどこへ向かうのか、ハレンチ博士…サスケ君…重吾さん…会いたい人はきっといくらでもいたことだろう。せめて残された時間が有意義なものでありますように、ただそれだけ祈りながら私も無人になった医療室を後にして自室に戻る。

 

 

 

 

 

その日から2日後…君麻呂さんは静かに眠りについたらしい。

特に驚くことでもない、実に当たり前で──とても残念な話だった。

 


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