霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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川の国へ

 大蛇丸へ外出要請を出した日の夜、村雨は自室に戻らず鍛冶場に籠ったまま過ごしていた。

 深夜という時間もあって流石に鉄を打つ様な真似はせず、完成済みの刀の刀身を一つ一つ磨いたり、少なくとも村雨自身にとってはゆったりとした過ごし方をしていた。

 

 特に終了時間などは定めておらず、眠気がくるまで続けようと思っていたその作業だったが、不意に扉が開き見慣れた顔の人物──水月がやってきた為手を止める。

 こんな時間に鍛冶場に来るのは珍しいのだが一体どうしたのかと聞いてみれば、冷やかな視線を向けられた。

 

「──で、今度は一体何を企んでるの?」

「…食堂の冷凍庫に…2本に割って食べる棒アイスがあったから今の作業が一区切りしたら割らずに1人で頂くか敢えて割って2本とも頂くか悩んでいて──」

「物凄くどうでもいい! ってか誰が買い置きしてんのそんなの?」

「言われてみれば…ハレンチ博士がサスケ君の修行後に一緒に食べる為に?」

「まさか…ていうかその可能性を考えるなら勝手に冷凍庫の物に手ぇ出すのやめなよ」

 

 確かにこんなことでハレンチ博士に怒られるのは避けたい…いやまぁあの人がアイスを食べるイメージはあまりないし恐らく部下の情報班や看守の人達の物だとは思うが。

 しかしハレンチ博士もサスケ君も些かハードな修行が過ぎるのだし偶には一緒にアイスを食べたり…なんて時間を作っても良さそうと思うのは要らぬお節介だろうか? 

 

「まぁアイスの事はどうでもいいけど…君なんか大蛇丸に外出要請なんて出したらしいね」

「あぁ、その事。実は──」

 

 そういえばあの時、闇市には水月ではなく四人衆の方々と出向いていたのだった…あの場での出来事について水月には言っていなかった。

 

「以前に行った闇市で会った人ともう一度会う約束をしたから」

「何それ? 闇市ってことは抜け忍だろうし大丈夫? …か、どうか何て気にもしないよねどうせ。それで、なんでそのことを大蛇丸に伝えてない訳?」

「それが3ヶ月後に"1人"で川の国に来い…と言われて」

「明らかに罠だね…」

 

 あぁやはりそうなのか…。私としてもこれは少し怪しいとは思ったのだ…闇市では四人衆の方々が一緒にいるのを見ていたのに敢えて"私1人"と指定して改めて会おうとするなどどう考えても怪しいというものだ。

 それにしても…私は元々霧隠れの刀匠の一族としてこういった不審な誘いに対して危機管理意識をしっかりとしているつもりだが水月も良く見抜いたものだ…いや、水月も鬼灯一族の人間だ、当然といえば当然か。

 

「…ていうか罠であることを隠そうともしてないね。君めっちゃ舐められてない?」

 

 …え、隠そうともしていないて…ひょっとしてこの誘いに不審さを感じるのは別に大したことでもないのか? 

 

「──で、それでもやっぱり行くつもりなの?」

「勿論」

 

 向こうに何か思惑があったとしても私のやるべきことは変わらない。

 先の"蒸気荘怒"の一件でも痛感した様に人の身体では扱える刀に限度がある…ならばこそ、巨大傀儡"クシナダ"の完成は私の刀造りの幅を広げる為にも何としても叶えたい。

 しかし傀儡人形の仕込みならばともかく人形そのものの作成は専門外、ましてや巨大傀儡ともなれば設計のバランス調整などもかなり困難なはず、だから是非ともあの傀儡鎧の方の協力は得たい。その為ならば例え罠だとしても望むところだ。

 

「はぁ、どんな心臓してんのさ君は?」

「胸周りだけ水化の術を使えれば透けて見えるかもしれない、試してみる」

 

 腕や頭部だけを液体化させることは可能なのだから試したことはないが胴体の一部分だけを液体化させることも出来るはずだと服の裾へ手を伸ばすが水月にガッと掴まれた。

 

「もういい、君の心臓は…見えた──物っ凄い毛だらけの」

「失礼な」

「順当な評価だよ。そんな事より、大蛇丸の隠し部屋を偶然見つけたんだってね…そこで何を見たの?」

「あぁ、そういえば水月に報告するのを忘れていた」

 

 あれからサスケ君の迎えに協力したり君麻呂さんとのやりとりだったり忙しくてつい失念していた。

 

「屍鬼封尽の情報を漸く見つけた、その解除の方法も死神の呼び出し方も」

「っ! …やっぱり、それで…どうするつもり?」

「印や手順は全て覚えた、けど死神を呼ぶには死神の面が必要らしいから現状は手詰まり…いつか折を見て木ノ葉の里から持ち出す必要がある」

「また五大里の一つを敵にするわけだ」

「私としても出来ればこっそり気付かれずに行動したいとは思っている」

 

 中忍試験会場や短冊街でもそうだが私は元々慎重に行動したいと思っているし、しているつもりなんだ…何故か予想外の事が起きて上手くいかないのだが。

 

「ふーん、じゃあ今回は本当に屍鬼封尽とは無関係の事なんだね」

「そうだけど…どうして?」

「君が大蛇丸の隠し部屋を見つけた途端に外出要請なんて出したから疑わしく思ったんだろうね?」

「え……まさか、ハレンチ博士が?」

 

 水月に言い方からして私を疑っているというのは水月自身ではなく別の人の事を言っている…そしてそれは間違いなくハレンチ博士だ──しかし何故? 

 

「ちゃんと成果を出した上で要望を出したのに…」

「外出要請なんて怪しい要望を出す前に成果を示すのが逆に疑わしいって分かんないかな?」

「……人の腹の奥は分からない」

「少なくとも君と関わる奴は大半が煮えくり返ってると思うけどね」

 

 それは流石に言い過ぎだと信じたいが、しかしそうか…信用して貰えたどころか疑われていたとは思いもしなかった…何とか3ヶ月後までに晴らさないと…いや。

 

「まぁ出してしまった要請は仕方ない。要はその日に変な行動をせずに帰ってくれば良いだけ」

「まぁそれはそうなんだけど…その相手が明らかに罠だって事は忘れてないよね。君もそこまでバカじゃない…」

「……………そうでした」

「よし、君は比較相手がいないレベルのバカだ!」

 

 マズい、このまま3ヶ月後川の国に行ってヘマをしてハレンチ博士に迷惑が掛かったら今の立場がどうなるか分かったものではない…どうすれば。

 知らぬ間に自分が死地一歩手前まで追い詰められているという事実に無意識に口元を抑える。

 

「…ま、今ならまだ間に合うし、外出なんてキャンセルすればいいんじゃない? ──忠告はしておいたからね」

 

 それだけ言って水月はドアを開けて鍛冶場から出て行った。…要は水月なりに心配して来てくれていたのだろう。

 有難いことだ…普通ならばその忠告を受け入れて外出を控えるべきなのだろう

 

「……それでも」

 

 それでもやはり、ここで諦めるのは受け入れられない。

 蒸気荘怒の様に刀自体が巨大になればその分刻める術式も多くなり、威力・規模の向上に繋がる、一般的なサイズでは造れなかった刀も実現できる可能性が広がるはずだ。

 それにここで諦めてしまえば、今後私が造る刀達全てが諦めた末に産み出した妥協の物というレッテルが貼られることになる。──これから産み出される刀達の為にもそんな事が出来るはずがない。

 

 それに、冷静に考えてみれば幸いハレンチ博士は私が大蛇丸の隠し部屋を見つけてしまったことで警戒心を抱いただけで実際に私が屍鬼封尽の死神を狙っているということまでは知らないはずだ。

 つまり3ヶ月後の約束を無事に果たして帰ってくれば良いだけという先程の考え自体が間違っているわけではない…ならば必要なのは何かあった際に確実に逃げられる手段だ。

 

「一番良いのは時空間忍術の類いだけど…水月に逆口寄せを準備してもらうにしてもタイミングを指示出来なかったら意味がない…」

 

 だとすると情報伝達の術が良いのだろうか? 頭の中の考えを直接伝える術も幾つか存在するが…それも距離が遠すぎると困難だ…やはりどうしようもないのか? 

 

「…あ、そういえば」

 

 霧の里にいた頃に見た、"木ノ葉の黄色い閃光"四代目火影様が持っていたとされる特殊なクナイについての資料を思い出す。

 

 他里…それも火影様の情報だけあって記載されていたのはその特殊なクナイの形状程度でとても参考になるものではなかったが、何でも通り名の通り閃光の如き速さで恐れられたという。

 

 その一瞬で移動の秘密が特殊なクナイにあるとかなんとか…つまり"持ち主を同型のクナイの下へと時空間移動させる特別な忍具"ということなのだろう! 

 それを造れさえすればもしもの場合にも対応できるのではないだろうか! 

 

「…よし」

 

 そうと決まれば制作だ。

 

 確か形状は通常のクナイと異なり先端が尖った鍔の様なものが存在し、中央の刃と合わせて三ヶ所切っ先があるわけだが…これは恐らくマーキングの為に相手や周囲の物体に刺さりやすくする為の設計だと推測できる。

 それぐらいなら簡単に造れる、問題は"時空間移動"そのものの仕組みだが…こちらは正直分からない。

 私が使える時空間忍術というと"口寄せの術"ぐらい…つまりは自分自身を移動させる類いの術は何もない。

 

「……とりあえず資料室から時空間忍術についての巻物を探してみよう」

 

 期限は余裕を持って2ヶ月半ぐらいで定めておいた方が良いだろう。何とか間に合う様に頑張ろう! 

 

 

 

 

 それから一ヶ月後、同一の術式を刻んだ2本のクナイ"閃刀・黄華(せんとう・おうか)"が完成した。

 予めクナイに蓄積しておいたチャクラで持ち主を相互のクナイの場所へ時空間移動できる仕組みだが…結論から言うと私の身体はズタズタになった。

 

 恐らくだが速過ぎる転送に肉体がついていかなかったのだろう…念の為同じ部屋内という極めて短距離間の移動テストだったお陰でなんとか外傷程度で済んだが長距離移動をした場合本当に死んでいたことだろう。

 こんな武器を戦闘での主戦術としていたとは…流石は"黄色い閃光"と恐れられた四代目火影様だ。

 

 その後、カブトさんの治療を受けた際に「これは"飛雷神の術"じゃなくて雲隠れの"天送の術"に近いね」なんてことを言われた。

 まず"飛雷神の術"とは何なのか? 四代目火影様が"閃光"とまで称されたのは"忍具"ではなく"術"由来だったのか…勝手に勘違いしたのは私だが四代目火影様には申し訳ないが…ちょっとがっかりだ。特製のクナイの名前も四代目火影様の通り名にあやかって付けてしまったのに…。

 

 しかし今回の怪我も決して悪い事ばかりではない。

 というのも速過ぎる移動に肉体が耐え切れず傷付くのならば私や水月ならば水化の術を予め使っておけば液体故に移動のダメージを柔軟に受け流す事が出来る…他の人に勧められないという点において欠陥武器であり改善の余地が残るが、傀儡鎧の方に会う際の保険としては十分の性能だ。

 

 もう一つ、クナイそのものは転送出来ずその場に残ってしまうという欠点もあるが、それに関してはむしろ速過ぎる移動にダメージが伴うという先程の欠点が活きてくる。

 仮に相手がその場に残ったクナイを使って追いかけて来られても水化の術などの肉体変化の術が無ければ先に移動した私に追いついた時には今の私の様にボロボロになっていることだろう。

 

 ──ということを水月に話したところ「これ武器じゃなくてトラップ?」などという心外な評価を受けた…何故だ。

 

 何だが腑に落ちない事の連続だったがこれで約束の日に向けての準備は出来た。

 後は…当日ちゃんと動けるように治療に専念しよう。全身ボロボロでまともに動けない。これで当日行けませんでした、何てことになったらそれこそ全て無駄になってしまう。

 

「暫く安静にしていよう」

 

 その後は数週間程医療用ベッドのお世話になったのだが、時折見舞いに来る水月が最初の方はやたら上機嫌だったのに私の回復が近づくにつれて目に見えてテンションが下がっていったりと何だか気になるところはあったが、然してトラブルはなく回復は完了するのだった。

 

 

 

 普段は刀を造るか、刀を造る為の情報集めに注力しているせいかベッドに横になって安静にするという過ごし方に時間の流れが遅くなったかの様に錯覚したが、それも慣れてしまえばどうということもなく気付かない内に完治し、その後も時間は過ぎ去ってとうとう約束の日が近づいていた。

 

 

 川の国は木の葉と砂の間に位置する小国であり、木ノ葉の国境から少し離れた位置であるこのアジトからは然程離れている訳でもないが、私は木ノ葉と砂、どちらの人間にもあまり遭遇したくない立場だ、そうなると数日早く行動しひっそり安全に移動した方が良いと判断し、荷物を纏めた後、ハレンチ博士に簡潔に挨拶を済ませてアジトから外へ出る。

 

 アジトの外に出ると森林特有の清廉な空気が肺に行き渡り心が安らぐのを感じ、これから暫く続くであろう歩きでの移動に気合が入る。

 

「…よし、行こう」

 

 フード付きの上着の内ポケットに隠した"閃刀・黄華"を一度握り締め、足を踏み出す。

 このクナイがあればいざという時には即座に逃げられる。警戒は必要だが不安を抱く必要はない。

 

「──でも…本当に協力してくれると嬉しいな」

 

 万が一に備えて造りはしたが、出来る事なら"閃刀・黄華"を使う機会は来ないでほしい。

 

 もしも例の傀儡鎧の方が本当にクシナダ設計に協力してくれる可能性に期待し、横になっている間はずっとクシナダに持たせる刀の案を思い付く限り資料にしたり、設計デザインの具体的な要望を纏めたりとしていたほどだ。

 まぁ、設計の草案を出す段階というのはいくらでも夢を広げられるから純粋にアイデア出しを楽しんでいただけとも言えるのだが…。──これらの案の内幾つが専門家からボツを受けるのか、想像するだけで胸が締め付けられる感覚がして息が詰まりそうになる。

 

 まぁ、ボツにするぐらい協力してもらえるならば嬉しい限りなのだ、だからこそ罠などではなければ良いなと切に願いながら約束の場所である川の国へ向けてゆっくりと歩を進めるのだった。

 

 




(1日フライングですが)投稿始めてから一年が経ちました。
読者の皆様、改めて閲覧ありがとうございます!
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