大蛇丸のアジト内に演習場での手合わせを終え、水月と重吾は互いに疲労感のままその場に座り込み息を整えていた。
軽傷ではあるが負傷もあり顔にも疲労がありありと浮かんでいるがそれを感じさせない程に水月の表情は穏やかだった。
「いやぁ良い運動した! それじゃ後は適当に何か食べて部屋でのんびりとするかなー」
「随分と機嫌が良いな、何かあったのか?」
「あぁ村雨の奴が外出したから、暫くは平和だと思うとついね」
「ん? お前は彼女の秘書役なんだろう、彼女についていなくて良いのか?」
「大蛇丸の指示だよ。今回はボクはついて行かなくて良いってさ」
3ヶ月前、村雨が外出要請を出した日に寄こされた"村雨の外出目的と行き先を聞いてきてくれ"というカブトからの依頼を報告した際に他でもない大蛇丸からそう言われていた。
恐らくだが、大蛇丸は村雨の事を見限る選択肢を考え始めた…だからこそ、この外出要請であいつの腹の内を読む為に自分達ではなくボクに聞き込みをさせ、村雨に警戒心を抱かせない様にするつもりだったのだろう。
事実、一応忠告はしてやったがそれでもあいつは意気揚々と出掛けていった…まんまと大蛇丸の思い通りというわけだ。
──そして、今頃スパイとしての経験で隠密行動に長けたカブトが村雨を追跡をしている。
勿論、それは万が一の時に村雨を処分する、あるいは回収してやれる実力を兼ね備えているこれ以上はない人選なのだろう。
どっちに転ぼうが大蛇丸の手から逃れることは出来ない…と思うのが普通なんだが…
「何だろうね…物凄く、"あいつ"が気の毒な気がしてきたよ」
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村雨は森の中をのんびりと歩いて移動する。
一応、足にチャクラを集中し枝を足場に跳躍を繰り返す程度の移動ならば出来るのだが、所謂忍の移動法をして万が一木ノ葉や砂の忍に見つかると厄介な事になる以上、多少時間が掛かるのも仕方ないと思っての選択だったが、"クシナダ"の完成が出来るかもという期待感に心を躍らせている内に気が付けば川の国へと入っていた。
勿論、道中野営し夜を越えたりと苦労もあるにはあったが長旅ももうそれなりに経験し慣れたところもあり我ながら随分と逞しくなったのではないだろうかと思ってしまう。
今ならどこぞの砂漠も軽々と踏破できるやも…いや、妙な気を起こすのはやめておこう、多分無理だ。
そんな事よりも川の国には到着したのだが細かい場所が指定されていない以上彼らとどう落ち合えば良いのか…もしや歩き回って探さなくてはならないのだろうか?
分からない…が、少なくとも木々に囲まれた場所にいるよりはどこかの町へ行った方が良いだろう。
念の為、"閃刀・黄華"を近くの木の影に突き刺して、落ち葉や枝で隠しておく…これでいざという時にはここへ逃げ帰れる。
さて、保険はかけられたことだし、早速彼らを探しに行くとしよう──と、しゃがんでいた身体を起こして木の影から出た瞬間日の光を遮って上空から何かが降りてくる。
嘴がペリカンの様に大きい真っ白な巨大な鳥…かと思ったがその身体には羽毛が一切なく鳥というには奇妙な姿だ…この国特有の珍種か何かなのかとジッと見ているとその巨体の上に見知らぬ人がいた。
「渦柘榴村雨だな──乗れ、"あの御方"の下まで連れて行く」
「えっと? ──おねがいします」
茶色の髪を逆立てた大柄の男性の唐突な言葉に戸惑うが口振りからして恐らくあの人達の遣いの人なのだろう、言われてみればこの白い鳥も片割れの方が見せてくれた粘土の蜘蛛と良く似ている。
半ば勢いに流されるままに真っ白な鳥の上に乗る…少し不安はあるがどうやら"閃刀・黄華"には気付いている様子もないし行き先で何かあっても逃げられる。むしろこの場で争いになるとただここからここへ転送するだけの無意味な仕掛けでしかない。
大人しく男性の言葉に従い粘土細工の鳥の背に乗ると粘土の鳥は大きく羽ばたき大空へと飛翔する。
つい先程歩き旅に慣れたと思ったばかりに空の旅になろうとは…流石に予想外ではあったが思いの他、空を飛ぶというのは気持ちが良いものだ。
それにしても、改めて見てもこの粘土細工の鳥の造形は素晴らしいものだ。
翼に切れ込みを入れて羽毛を表現は勿論、鶏冠や尾羽にも飾り気を忘れず曲線的な胴体はどことなく愛嬌があって良い…強いて言うと足先が尖っていた方が鳥の爪らしいのでは? と思うがこの大きな胴体を直立させるには脚全体が太くなるのは仕方ないのかもしれない。
いや、そもそもあの人は二次元的なデフォルメでの表現を追求していると言っていたな…だとすると本物に寄せた造りを求める事こそ方向性が違っているのかもしれない。
特に顔部分などはデフォルメ調の丸い眼が目立ち、この顔に対して胴体や脚だけリアルに寄っているとむしろチグハグな造りになることだろう。
「しかしこれだけの物が造れるのなら白単色というのは些か味気ない様な…特に鳥は美しい色合いの種も多いのだし染料を加えて色付きの粘土でオオルリやコマドリをモデルに華やかな物などは──」
「…オイラの芸術を無視しねぇのは感心だ、意見するのもまぁ認めてやる。けどいい加減こっち見ろ…うん」
「──っ!? いつの間に!?」
気が付けば空の旅も終わっており粘土の鳥は大きな川の水面近くまで降下しており、その近くには以前闇市でお会いした2人組──相変わらず身体の大半を覆う赤い雲模様入りの黒い衣と顔を隠す編み笠で殆ど人相を窺えないが声や体格からして間違いないだろう。
つい粘土の鳥に夢中になってすっかり周りが目に入らなかった…一緒に乗っていた男性もとっくに鳥から降りて身長の低い…傀儡鎧の男性の前で跪いている。
「ご命令の通りお連れ致しました。サソリ様」
「見りゃ分かる…追跡はなかっただろうな?」
「はっ! あの女を拾った際にも周辺に人の気配は皆無でした、ご心配には及びません」
「……そうか」
なるほど…どうやらあの大柄の男性は傀儡鎧の人…名をサソリさんというらしいが、彼の直属の部下の様だ。
恐らく移動の為にこちらの粘土の男性からこの鳥をお借りしていたということなのだろう。
「お迎えありがとうございました。お久しぶりです」
「あぁ、よく来たな…アジトの入口を開ける。少し待っていろ」
簡素な挨拶を済ませてサソリさんは背後の鳥居の奥にある"禁"の札が貼られた大岩へと視線を向ける。
何らかの封印術が掛かっているらしいが、やがてその岩がゆっくりと浮かび上がり水面に浸かっていた部分から水を滴らせながらもその奥の洞窟の道を開かせた。
──それまで外から隔離させていた大岩が動いたことでその奥のいる"存在"に心臓が跳ねるのを感じる。
この匂い、それにまるで生物の様な独特な気配は間違いなく…だが、まさか本当に…
「──おや、もう着いたのですか? 意外と早かったですね」
「っ!? 鮫肌!! …と鬼鮫さん!」
「……私よりも"鮫肌"が先とは…相変わらずの様で何よりですよ」
洞窟の奥にいたのはサソリさん達と同様の赤い雲模様入りの黒い衣を纏った2人組…その内の片方青白い肌の大柄の男性、元"忍刀七人衆"の1人干柿鬼鮫さんだ。
彼の背には包帯に巻かれた"大刀・鮫肌"が──突然包帯を突き破りその棘を剥き出しに鬼鮫さんの手元を離れてこちらに向かって飛び掛かってくる。
「ギギギギィッ!!」
「久しぶり"鮫肌"…元気にしていた? ──重い…」
「ギギィ」
切っ先部分の口を開いて大型の犬の様に覆いかぶさってくる鮫肌にビックリしながらも棘が刺さらない様に注意しながらその刀身をワシャワシャと撫でる。
「なんだぁ、"鮫肌"って確か鬼鮫の旦那以外じゃ持てないんじゃなかったか、うん?」
「彼女は特別ですよ、何せ"鮫肌"の産みの親の血を色濃く引いている子ですからね。鮫肌からすれば親の匂いがするのではないでしょうか」
「つくづく奇妙な刀だな、うん」
「まぁそれはそれとして、刀身に触れている以上普通にチャクラは吸われるんですがね」
「チャクラ吸われ過ぎて気絶してんじゃねぇか!?」
──いえ、辛うじて意識はあります。…と言おうと思ったのだが想像以上にチャクラを吸われたらしく呂律が回らないどころか声を出すことさえ出来なかった。
何だか頭がボーっとして鬼鮫さん達が何やら困惑している様子を眺めていると鬼鮫さんの傍らにいた男性が声を上げた。
「鬼鮫、ひとまず彼女を中へ連れていくぞ…"リーダー"も待っていることだしな」
「おっと、そうでしたね…"鮫肌"」
のし掛かっていた"鮫肌"が鬼鮫さんの手によって持ち上げられ、チャクラが吸収も止まりほんの少し楽になる。…"鮫肌"が離れるのは少し残念ではあるが肉体的には助かった。
お礼を言いたいのだが、依然としてどうにも声が出せない、ぼんやりとした意識でせめて新たに現れた人物の姿を見ようと視線を動かすと仰向けだったことで編み笠の下からその男性の顔が僅かに見えた。
笠を被り影の差した瞳は赤く染まり勾玉の様な紋様が3つ浮かんだ異様な瞳。
それはうちはサスケ君の物と全く同じ、ハレンチ博士も焦がれた究極の眼──"写輪眼"
唯一つ、サスケ君の物と決定的に異なることは──
(あの眼、不思議。──凄く良い匂いがする)
──あの両目から感じる只ならぬ存在感を感じる…"草薙の剣"に近しい匂いだ…あの眼は一体?
奇妙な気配に意識を奪われている間にいつの間にやら襟をデイダラさんに掴まれ、洞窟の中へと引き摺られていった。
▼▼▼
(………一体何がどうなっている?)
川の国に存在する渓谷、そこに流れる川の途中に建設された鳥居の傍で追跡していた村雨を見てカブトは激しく困惑しながらも木の影に身を隠し全力で気配を殺す。
黒い衣も赤い雲模様…彼女の近くにいる者達が纏う衣装は正しく大蛇丸様がかつて所属し、現在対立している組織"暁"のもの。
可能性は考えてはいた、だがまさか本当に奴らと接触しているとは…そんな驚きさえも抱く余裕はなかった。
スパイとして身に着けた隠密行動の技術と、いざという時には大蛇丸様を逆口寄せする為の蛇の巻物…万が一、村雨が"暁"と接触するつもりなのだとしても対抗することは可能な見積もりだった──そのはずだった。
下手に動いて見つかったら終わりだ…そう自分に言い聞かせるも、先程見た光景があまりにも現実離れしており悪い夢か何かだったのでは? と思わず木の影から顔を出して二度見する。
暁のメンバーの1人であり、自分とも関わりのある人物、"赤砂"のサソリとその相方である"爆遁使い"デイダラ。
更に元"忍刀七人衆"の1人で"霧隠れの怪人"と恐れられた干柿鬼鮫と、その相方である"万華鏡写輪眼"を持つうちはイタチ。
(何故!? 何故暁のメンバーがこれ程集まっているんだ!?)
暁のメンバーは本来2人組で行動する…それが何故4人も!?
そもそも暁は全員で10人の組織…そこから大蛇丸様が抜け現在は9人のはず、つまりは全メンバーの約半分がここに集まっているということだ。……いや、ありえないだろう。
一度頭を木の影に引っ込めて頭を抱える。
幸い今は気付かれていないようだが彼女が暁と接触しているようなら口寄せで呼びなさいと持たされた巻物を使えばチャクラで気付かれるかもしれない。
そもそもそれ以前にうちはイタチはかつて大蛇丸様が完敗した相手だ…それも両腕を封印される前の万全の状態だった頃にだ。
ここで大蛇丸様を呼んだとしても村雨を処断するどころか逃走することさえ叶わないだろう。
(……ボクは一体どうすれば…)
下手に動いたら気付かれる、チャクラを僅かに練ってもダメ…かといってこの場ではそれなりに距離が離れている為、気付かれずに済んでいる半面会話を聞く事さえままならない。
せめて村雨が奴らに何かを渡す、或いは奴らから何かを渡されるかもしれないと視覚で得られる情報だけでも掴もうと再度木の影から僅かに顔を出して目を凝らすが──目に映るのは自律行動した"鮫肌"に襲われジタバタと藻掻くもやがてチャクラを吸い尽くされたのか意識を失って倒れ足元の川に仰向けで浮かぶ村雨の姿だった。
(村雨は彼らの仲間ではなく単純に目を付けられただけなのか?)
デイダラが川に浮かぶ彼女の襟を掴んで引っ張り上げるがその扱いは彼らの身内だとすると些か雑で、どちらかというと拉致のそれに見えなくもない。
元々彼ら"暁"に繋がりがあって接触したのか?
それとも彼らに刀匠として、あるいは大蛇丸様の情報源として目を付けられて狙われたのか?
会話も聞こえず視覚のみの情報では掴みきれない、判断に悩む内に奴らは村雨を連れたまま鳥居の奥を大岩を浮かばせ、その奥へと消えていく。
彼らが通り過ぎた後、大岩は元の位置に戻ってその道を塞いでしまう。
岩に貼られた禁の札からしてあれは"五封結界"…となると自分1人であれを動かす事は難しい。
暁の連中も離れた今なら気付かれずに大蛇丸様を呼ぶことも出来るかもしれないが、仮に大蛇丸様をこの場に呼んだとしても戦いになればこちらの旗色が悪いのは確実だ。
とにかく再びあの岩が動きその奥の者達が出てきた時、村雨が"どちら側の人間"なのか…それだけは確認する必要がある、今暫くは迂闊に動かず待つことにしよう…それにしても、やっぱり水月は連れてくるべきだったな。
いや、もしも水月が一緒だった場合気配を殺し切れずに見つかる可能性が高く、2人揃ってあの世行きだったことだろうが。それでもやはり道連れ…苦悩を共有できる相手が1人は欲しかったなと深く思うのだった。