霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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大雨注意報

 無事に取引が成立し安堵したのも束の間、下準備…と何やら不穏な言葉を呟いた上司さんに思わず警戒してしまう。

 何かしらの契約術式…或いは呪印か何かでもされるのだろうか? 

 危険は承知の上だったから多少の事なら構わないが、物によっては勘違いに気付かれるかもしれないのは困る。

 

「あの…下準備とは何を…」

『フ、心配するな。仮にも取引相手に危害は加える様な真似はしない…、少しの間大人しく待っていろ』

 

 果たしてその言葉を信用して良いのか疑問ではあるが今更取り消すのも難しいだろう。

 本当にマズくなりそうなら時空間移動で逃げれば良い、大人しく待っていろというのなら山ほどある聞きたい事を聞いて行く方がいいだろう。

 

 "輪廻眼"の上司さんは下準備とやらで忙しそうだから後回し…"クシナダ"についても取引を結んだ以上後で良い。──となると最優先なのは…

 

「えっと…鬼鮫さん、こちらの方は?」

「あぁ、こちらは私とツーマンセルを組んで頂いているイタチさんですよ。その眼を見れば分かると思いますが…あの"うちは一族"の御方ですよ」

 

 鬼鮫さんの傍らに立つ"写輪眼"の方を掌で指し示しながら尋ねたところ、思わぬ名前が出て驚いた。

 そういえば以前にサスケ君の部屋に水月達と集まった際に、サスケ君の目的はイタチという人物を殺すことだと言っていたが──この人がそのイタチさんなのか。

 

「…イタチさんに何か御用ですか?」

「そうです、少し気になることがありまして──」

 

 鬼鮫さんから視線を動かしてイタチさんの方を見るが彼からの返答は何もない。

 何もない…という事はあまり好意的ではないかもしれないがダメという訳でもないだろう。

 

「イタチさん、刀をお持ちではありませんか?」

「何の話だ?」

 

 案の定答えは素っ気ないものだ。

 それに加えて表情も一切変わらず、心情を読み取ることも出来ない。

 

「刀ぁ? どう見ても持っていねぇだろ、うん?」

「いえ、イタチさんからは確かに刀の気配を感じるんです──その両眼…写輪眼から!」

「っ!?」

 

 デイダラさんの言う様にイタチさんの背にも腰にも刀の類いは何もなく、目で見る限りは精々が腰のポーチから手裏剣とクナイの存在が窺えるぐらいだろう。

 ──それでも確かに、この方からは強い刀の気配を感じてならないのだ。

 

 イタチさんの赤い瞳をジッと見据えながらそう告げるとほんの僅かにだが彼の目が見開かれた。

 

「…何故眼から刀の気配がするのかは分かりませんが、以前に似たような刀を見た事があるので気付きました…おそらく霊剣の類い、そして草薙の剣に似た匂い……まさかとは思いますが──ッ!?」

 

 興奮のままに言葉を続けているとヒタリと首元に冷たい感触が走り息を飲む。

 新たに現れた刀の匂いに気付くよりも早く──見覚えのある刀が首に突き付けられていた。

 

「少々お喋りが過ぎますねェ、村雨」

「──鬼鮫さん…」

「我々の様な抜け忍は己の能力のみを頼りに生きている、つまりは我々にとって己の能力は命そのもの…それを無闇に暴こうというのなら、そちらも命を失う覚悟が必要ですよ」

「……はい」

 

 刀造りに繋がる事ならば命を賭ける覚悟は既に決めている──しかし"命を失う覚悟"となると話は別だろう。

 まだまだ私の中には造りたい刀の案が溢れている、この場で首を刎ねられると未練が残る。

 渋々ではあるが引き下がることにしよう。

 

「申し訳ありませんイタチさん。この子は刀が絡むとつい遠慮がなくなるらしく、悪気はないのだと思いますがね」

「あぁ…そのようだな」

「クク、それにしてもイタチさんが刀とは…暁で刀といえば私と自負していたのですがその座も危ういのやもしれませんねぇ」

「そんな!? 大爺様の最高傑作である"鮫肌"を持つ鬼鮫さんがそんな弱気なことを!?」

 

 確かにイタチさんから感じる刀の正体が本当に"あの刀"だとするならば、間違いなくイタチさんは最強の刀を持つ者だ…しかし鬼鮫さんが持つ"鮫肌"もまた七人衆の刀の中でも最強と恐れられる名刀…格としては決して劣る物ではない。

 

 ──というか…それはそれとして……

 

「鬼鮫さん、その刀をまだ持っていらっしゃったんですね。"鮫肌"を持ってからはもう手放してしまったのかと…」

 

 先程まで首元に付き付けられていたかつて私が造った直刀…当時はまだ現物がなく資料のみの草薙の剣を参考にした"叢雲の剣"シリーズの前身である刀"試作・叢雲"だ。

 

 鬼鮫さんが初めてお会いした際に"切れ味の良い刀"を求めていたということもあって、店に並んでいた正規品の刀よりもずっと良い物として何も考えずに渡したのだが、今にして思えば試作品をお客様に渡すなんてプロ意識が無いにも程があるし、当時の自分からすれば力作でも今の自分からすれば些か拙い部分も目立つ…勿論それでも並の忍具屋で買える物とは比較にならないと自負しているが"鮫肌"と比べると格段に劣る。

 "鮫肌"を手にしてから鬼鮫さんが持っているのを見た事もなかったしてっきり手放したものだと思っていたのが。

 

 それにしてもこんなに近くに刀…それも自作の物があったにも関わらず存在にまったく気付かなかったとは…鬼鮫さんは一体どこに隠し持っていたのだろう? 

 思わず首を傾げていると鬼鮫さんは地面に寝かせた"鮫肌"の口を開かせ、その内側に"試作・叢雲"を挿し込んで──って!? 

 

「さささ…"鮫肌"に何をしているんですかっ!?」

「収納に案外使えるんですよ、斬れる刀も持っていると便利な時もありますしね」

「せめて帯に一緒に括って下さい! 何で"鮫肌"の中に私の刀を入れるんですか!?」

「隠し持てるならその方が何かと都合が良いでしょう?」

 

 さも平然と言い放つ鬼鮫に戦慄する。

 刀in刀、実に背徳的だが不思議と興味がそそられる、それも物凄く。…なのだが、問題は組み合わせだ。

 

 片や七人衆の刀の中でも最強と謳われる"大刀・鮫肌"。

 片や幼い頃の私が造った普通の刀…しかも試作品。

 自分の作品には全て愛着を持っているし、名刀としての自信もある…それでも、それでも"鮫肌"と並べられるとどうしても委縮する。

 

「これはあまりに無情です。美術品用の額縁にアカデミーの100点のテストを飾られている様な…いや"鮫肌"は額縁というより美術品そのものですけど…とにかくそこに未熟だった頃の私の刀をなんて…」

「まぁ私の頃はもう少し過激でしたのでアカデミーのテストというのはあんまり分かりませんが、そう卑下するものでもないですよ。私は結構この刀も気に入っていますしね」

「いや鬼鮫の旦那、造形家の視点で言わせてもらうがそれは人の心が無さ過ぎるぜ、うん」

「貴方もそちら側ですか…」

 

 必死な説得も全くの効果が見受けられず心折れかけていたがデイダラさんの思わぬアシストに歓喜する。

 やはり同じ造形家としてこの複雑な心境を理解してくれているのだろう。

 

「オイ、…ところでイタチの野郎が刀を隠し持っているってのはマジなのか? …うん」

「あ、あくまで私の予測ですが、確実にそうだと思います、あくまで予測ですが…」

 

 味方を得られて心温まっているとふとデイダラさんの小さな声が聞こえた。

 いや…先程無闇に情報を暴くなと言われたばかりなのだが…ひとまず断言はしない程度に取り繕いつつ答えておいたがこれで良かっただろうか? 

 

「チィ…イタチの野郎、どうせ手の内見せ切っちゃいねぇと思っていたが鬼鮫の旦那にまで見せていないもんまであるとはな…」

 

 デイダラさんが難しい顔をしているが…あれ? もしかしてさっきのアシストって私から今の情報を聞き出す為に適当に同意してくれただけなのでは? 

 心が一気に冷え込むのを感じる…この場に私の味方はいないのだろうか…。

 

 僅かな希望に縋りもう一人の造形家であるサソリさんに視線を向ける。

 そういえば上司さんがサソリさんにも準備をしろと言っていたが何かされているのだろうか? 

 

「無駄話はもう済んだか? ならさっさとこっちの話を進めるぞ」

「あ、すみません」

 

 どうやらサソリさんを待たせていたらしい…ただでさえ低い声からそこはかとなく不機嫌な感情が見受けられ凄く威圧感がある。…というか準備というのは何だったんだ? そんなすぐ終わることだったのだろうか? 

 まぁいい。クシナダの話を進められるなら私にとっても都合が良い、それでは早速──

 

「取引が成立した以上、巨大傀儡を造ることに関しては協力してやる。まずは差し当たり一番大きな欠点についてからだ」

「欠点?」

「傀儡人形というのは基本的に脆い、実力のある相手の攻撃が直撃すると確実に壊れると言って良い」

「え!?」

「武器を仕込む以上傀儡のボディに開閉機能を付ける必要があるから必然的に脆くなる、装甲を付けて補う事も可能だがそうすると武器を仕込む幅が減る。だから複数の傀儡を同時に操る傀儡師は攻撃用とは別に防御用の傀儡人形を持つケースが多い」

 

 なるほど…言われてみれば確かにその通りだ。

 武器を仕込む為には人形の内側は空洞に…そこに更に開閉機能まで付けると脆くなるというのは当然ではあるが気にしたこともなかった…。しかしそうなると──

 

「現時点の"クシナダ"は大きい分的になり易い…おまけに操る傀儡師が搭乗する想定だから防御用の傀儡を別に動かすというのも難しい…」

「そういうことだ」

 

 うぅむ…確かにこれは問題だ。

 簡単に解決するならば武器である刀は予め手に持たせ、仕込みは諦めて頑丈な鎧を纏わせることだろう。

 ただそうすると今度は傀儡の強みである仕込みがなくなって"クシナダ"本体は味気ないものになってしまう、折角造るならば刀も傀儡も両方の長所を掛け合わせた一つの作品として完成させたい。

 

 だとすると…例えばボディの素材そのものをもっと拘るのはどうだろうか? 

 ボディそのものを頑丈にして、仕込みの為の開閉機能は必要に応じて忍術で形態変化させれば問題ない…土遁忍術で造るゴーレムなどなら出来るかもしれない。

 でも巨大な岩を傀儡糸で操るのは少々難しいだろうか? やはり理想としては木造…

 

「──"木遁忍術"ならば或いは…」

「木遁だと? 千手柱間が使ったとされる血継限界か。確かにそれが出来るなら話は早いが…あれを使える人間はもういない」

「……そうですね」

 

 唯一可能性があるとするならば──木ノ葉崩しの際にハレンチ博士が披露した忍術…"穢土転生の術"

 ただ、肝心の初代火影様の魂は今や死神のお腹の中だ…死者を蘇らせる術とて肝心の魂が封印されている以上生還は難しいだろう。

 幸い、屍鬼封尽の解除方法は既に知れた。死神の小刀を得るついでに初代火影様の魂の解放と"穢土転生"による蘇生が出来ればこの上なく"良い流れ"となるだろうが…さて。

 

「まぁ専門外の奴にこのサイズの傀儡の設計を一から考えさせてもどうにもならねぇか。お前の造る刀に合わせて傀儡本体はこっちで造ってやる…。もしもお前が何か思いつき、それを造る価値があると俺が思えば調整もしてやる」

「っ! はい、ありがとうございます」

 

 屍鬼封尽解除の準備、穢土転生の習得…どちらも容易に出来るものではないだろうしこの場でそれに決め打ちは出来ない、だからといって別の素材にしても私では圧倒的に知識不足だ。

 サソリさんがこちらの造る刀に合わせて造ってくれるのならばこれほど心強いものもない…おまけに仮に木遁忍術やそれ以外にも何らかのやり方があれば後からでも調整してくれるというのだから実に有難い。

 

 だが…少し気になることがある。

 

「あの…取引によると私が自来也さんの情報をお渡しするのが3年後ということですが…私が皆さんと再びお会いできるのもその時…ということですよね?」

 

 自来也さん程の人の情報を探りつつ、この方々との接触を繰り返す…というのは中々危険に思う。

 もし、万が一、私の動きを自来也が掴み追跡などを受けた場合私がこの方々に掛ける迷惑は計り知れない。

 

 しかし、だからといって3年後の情報の受け渡しまで会えないとなると…その情報受け渡しの際に"クシナダ"用の刀をサソリさんに渡して漸く"クシナダ"の設計がスタートすることになる。

 巨大傀儡であるクシナダ完成までどれほど時間が掛かるかも分からないが、これでは完成は最低でも5年は確実に過ぎるだろう。……遠い。

 

「心配するな、それを含めて準備を進めている。──いや、それももう済んだか?」

「え?」

「"鮫肌"に奪われたチャクラもだいぶ回復しただろう?」

 

 言われてみれば…そう言えば最初に彼らにお会いした際に"鮫肌"に触れてチャクラの大半を貢…献上してしまったが気を失っていたり会話をしている間に平常なぐらいには回復していたようだ。

 しかし、それが一体何だというのだろうか? 小首を傾げている間にサソリさんは身体を引き摺る様にゆっくりと移動していく。その移動先は──

 

「サ、サソリ様? …何か?」

「悪いな…どうしても"1人分"必要なんだ」

「は? ──ぐぁ!?」

 

 ここに来るまでに迎えに来てくれた男性がサソリさんの身体から飛び出してきた骨の様な尾に巻き付かれ、身体からボキボキと鈍い音を奏でる。

 ジタバタと藻掻いていた動きがやがてピクピクと痙攣する程度にまでなるとサソリさんは男性を輪廻眼の上司さんの目の前…準備というのはこの事だったのか、いつの間にか地面に刻まれていた術式の中心へと放り投げた。

 

「さて、渦柘榴村雨…お前のチャクラを8割程貰っておくぞ?」

「え? ──これは?」

 

 突然脱力感に襲われる…"鮫肌"に触れていた時と近い感覚、つまりはチャクラが吸われているのだ。

 一体何をするつもりなのか? 戸惑う内に輪廻眼の上司さんの幻影の身体が通常の性質変化の術のソレとは異なる、見た事もない手順の印を結び出す。

 

 

 

『──"象転の術"』

 

 

 

 術式が光り出し、黒い煙が男性を覆い隠すのと同時に脱力感が急激に強まる。

 何が起こっているのか理解が追い付かないまま数秒程の時間が流れ──目に飛び込んできた光景に更に理解が追い付かず、ただただ困惑する。

 

 術式の中心に放り投げられた男性が姿を忽然と消して…そこに別の人間が1人いた。

 

 ──見慣れた顔、見慣れた衣服…しかしそれが"私"と向き合うなどありえない。

 

 水色の長い髪、青色のつなぎ服…それは間違いなく──

 

「「私?」」

 

 目の前にいる"もう一人の私"が見事に同じ反応をした。

 幻術…ではないのだろう、これは間違いなくそんなものではない。

 にわかには信じ難いが…

 

「「──私が増えた」」

 

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