霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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戸惑いだらけの報告会

 ズキズキと痛む頭を抑えながら息を詰まらせる。

 森を歩いていたら突然蛇に飲み込まれたかと思えばハレンチ博士のアジトに送還され、突然重吾さんにチャクラ? らしき何かを流し込まれたかと思えば身体から白い人が4人生えてきた…かと思えば謎の白い人達は瞬く間に水月達に殺され、最終的にハレンチ博士からよく分からない問いを投げかけられた。

 何もかもが怒涛の出来事過ぎて理解が追い付かない。

 

 分かっている事と言えばサソリさんによって消去された記憶をハレンチ博士の指示を受けたカブトさんによって治してもらったことだが…これに関しては感謝する他ない、あのまま約束の3年後を迎えていたら果たしてどうなっていたことか…考えたくもない。

 

 それはそれとしてこうして記憶が戻ったんだ、まずは3年後までに如何にして自来也の情報を集めれば良いのか策を練りたいところなのだが…何故か凍ったかの様に冷やかな空気がそれを許さない。

 困惑、疑惑…何というか…あまり向けられたくない種類の視線があちこちから突き刺さっている。

 

「えっと…村雨。念の為に確認したいのだけど…君が今日会っていた人達がどういう人達か分かっているかな?」

「昔馴染みの鬼鮫さん、闇市で知り合ったサソリさんとデイダラさん。あとイタチさんと彼らの上司の輪廻眼の方ですね…皆さん抜け忍の様でしたが見た限り凄腕の忍の様でした」

「君やっぱ暁知ってるでしょ絶対!」

「……暁?」

「もうそれは良いから!」

 

 まぁ確かにさっきから同じ質問と同じ答えを繰り返している…まるでデジャヴだ、一度自分の行動を見つめ直す事でこのループから抜け出せないか考えてみよう。

 まず問題が"暁"が何かということなのだが…もしや先程のカブトさんの口振りからして鬼鮫さん達の組織名なのでは? 

 

 ……あれ? …そういえばサソリさん達と闇市で初めてお会いした際に右近さんが──

 

 

『こいつら……あの"暁"のメンバーだ。分かってんだろ?』

 

 ──そんなことを言っていた様な気も…いや、いやいや、普通に考えてそんな大切な事を忘れるはずがないだろう。つまりこれは記憶違いという事だ。

 そうでなければいくら私でもサソリさん達と会った時にでも思い出すはずだ。

 

 恐らくだがサソリさんに記憶を一度消されたことで事で他の記憶も少し混濁しているのだろう、勝手に記憶を消去されてこんな影響まであろうとは…サソリさんには流石に苦言の一つでも呈したいところだが幸い術も解いてもらったことだし暫くしていれば治るかもしれない、ここは一つ寛容になろう。

 

 さて、そうなると"暁"とは何かだが…"暁"か、他にもどこかで聞いたような気もするのだが…そうだ、あれは確かイタチさんの両眼を探ろうとして鬼鮫さんに諫められて…その後に鬼鮫さんが──

 

『クク、それにしてもイタチさんが刀とは…暁で刀といえば私と自負していたのですがその座も危ういのやもしれませんねぇ』

 

 ──そんなことを…言っていた様な気も…あの時は後半の内容ばかりに意識を向けていたが確かに"暁"と言っていた様な気もする…ではまさか──

 

「彼らが暁!?」

「気付くの遅い!」

 

 何と言うことだ! やっぱり"暁"とは彼らの事ではないか、記憶違いでも何でもない! ごめんなさい右近さん、サソリさん、私の勘違いでした化けて出ないで下さい!! 

 …あ、サソリさんはまだ死んでいない。…まぁそれはそれとして──

 

「……ところで暁とはどういう組織なのですか?」

「結局何も知らないの!?」

「名前だけちらっと耳にした程度なので…どういった集まりなのかはまったく」

 

 先程まで突き刺さっていた疑惑や困惑の視線から氷の如く冷やかなものへと様変わりをした。

 無言の圧力に何だか申し訳ない気持ちになってくるがこれ以上は本当に思い当たる節がない、どうしたものかとハレンチ博士の方へと視線を向けるとあからさまにため息を吐かれてしまう。

 

「…このままだと埒が明かないわね、なら貴女が奴らと話した内容を全て教えなさい? …正直に全てね」

 

 流石ハレンチ博士、話が早い。

 それならば私でも説明できる、そうと決まれば──

 

「実は巨大な刀を造りたいとかねてより考えていて、その実用化を見越して巨大傀儡を開発しようとサソリさんに以前に闇市でお会いした時に協力をお願いし、本日改めてお会いしたのですが…前に私がハレンチ博士の配下と名乗った結果何故か自来也さんの弟子と思われていたらしく、傀儡開発協力の代わりに自来也さんとナルトくんの情報集めを要求されて…あぁそれならハレンチ博士に迷惑も掛からないなぁ…と、これ幸いと思って取引を結んでお別れしました。ただその際に余計な行動をしない様にとサソリさんに記憶を消されてしまって…あと私が1人増えました」

「情報が…情報が多い…」

「というか今とんでもなく聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど…嘘だよね? 嘘だと言って! 頼むから嘘であってくれない!?」

 

 掻い摘んでの説明を終えればカブトさんが苦悶の表情で頭を抱えており、水月に至っては顔色を真っ青にしてしまっている…そこまで説明が下手だったか? 

 

「色々と確認したいのだけど…連中は私と自来也を勘違いしているの?」

「はい、伝説の三忍の1人に数えられているハレンチ博士の下で働いていると説明したところ、自来也さんとの関係を問われて以前に拝借したガマブンタさんのドス刀を見せた結果、勘違いされてしまって」

「貴女、何てことを…」

 

 ハレンチ博士がほんの少しだが顔を引き攣らせている…非常に申し訳ないがもしも勘違いされなければ大事だったことへの罪悪感よりも、その珍しい表情に意識が傾いてしまう。

 ハレンチ博士自身もそんな珍しい様子を見せた事に自覚があったのか、一度目を閉じて再びため息を吐くと普段の余裕を感じる佇まいを取り戻した。

 

「…では奴らとの取引材料は私の情報ではなく自来也のものなのね?」

「勿論です、素性の知らない相手にハレンチ博士の事を情報を渡す程短慮ではありません」

「あぁ、そう…なら自来也の情報はどうするつもり?」

「現状はノープランです、"暁"の方々とは3年後にまた会う予定なのでそれまでに何とかしようと思っています」

「た、短慮が過ぎる…」

 

 カブトさんの反応は最もだ、私もそこに関しては無謀であるとは思っている。

 ましてや昔はスパイとして活動していたカブトさんからすれば私の判断はかなり杜撰に思えることだろう。

 

「リスクは承知です。しかしそれだけの価値があるんです、巨大な刀が実用化出来る様になれば刻める術式もその出力も更に幅が広がりますし、"暁"の方々の中には"鮫肌"や"十拳剣"など様々な刀を所持している方もいて是非とも繋がりを持っていたく──」

「"十拳剣"!?」

「あ、はい…あぁ実物を見ていないのであくまで予測ですが恐らくイタチさんが持っているかと」

「イタチが? …大蛇丸、"十拳剣"とは何だ?」

 

 自身が打ち倒さんとする者──うちはイタチさんの名前が出たことでそれまで沈黙していたサスケ君が会話に加わった…しかし刀に関することなのだから私に聞いてくれればいいのに…。

 

「突き刺した者を永遠に酔夢の世界に閉じ込める強力な封印術を帯びた剣よ…"月読"や"天照"だけでなくそんなものまで隠し持っていたとはね」

 

 流石ハレンチ博士…詳しい。

 ところで"月読"や"天照"とは何だろう? "十拳剣"の他にイタチさんは凄い術か忍具をお持ちなのだろうか? 刀造りの参考になるものなら一度は見てみたいものだ。

 

 それにしても…ハレンチ博士の表情がだいぶ険しいものになっている。

 確かにあの刀は突き刺さったら最後、永久に封印されてしまう特性上、千切れた身体さえも簡単に癒着できるハレンチ博士は勿論、私や水月の様に特異な身体でも逃れることの出来ない武器だ、打倒イタチさんを掲げるハレンチ博士、サスケ君にとって大きな障害となることだろう。

 

「"十拳剣"に関してはまた後で考える事にするわ…それはそれとして、もう一つ聞きたいことがあるのだけど…」

「あ、はい。何でしょう?」

「増えたってどういう事かしら?」

「それ! それ一番聞きたかった!! 質の悪い冗談だったら許さな──いややっぱ許すから冗談であって!?」

「落ち着け水月、言っていることが支離滅裂だ」

「支離滅裂なのはあの刀バカの方!」

 

 いや、少なくとも今話している事は全て実際にあったことだから支離滅裂と言われても困るのだが…まぁ何やら熱くなった水月は重吾さんが宥めてくれているし私は説明を続けよう。

 

「情報集めと巨大傀儡開発を平行して進める為と、"象転の術"という珍しい術で私の同一体を造ってもらいました…といっても私も後で教えられたので驚きましたが…とにかく、今彼らの下には私の同一体、偽雨が残っています」

「マジで増えたの…嘘でしょ?」

「もうそこは諦めよう水月、問題はそれよりも──」

「奴らの下に…もう一人の貴女がいるのね?」

 

 ハレンチ博士の視線が鋭い刃の如く突き刺さる…鋭い刃は好きだがこの視線には全く心が弾まない、ただただ息苦しいばかりだ。

 それでもこうも厳しい目を向けられる原因は私に他ならないのだ、ここは真っ直ぐ受け止めよう。

 

「はい、生贄1人と私のチャクラを使って同一体を造る特殊な術だとか…」

「術の説明はいらないわ、あの術についても知ってはいるからね。そんな事よりも、その偽雨とやらは奴らの下で何をするつもりなのかしら?」

「基本は先に言った巨大傀儡の開発です。ただ協力の代わりに手裏剣やクナイなどの消耗品を造るのが"私と暁の方々"が結んだ約束です。それに合わせて、機会を見てイタチさんの"十拳剣"を始め、色々と調べさせてもらおうというのが"私と偽雨"が結んだ約束です」

「──つまり、貴女にとって"暁"は利用したい相手だと?」

「…? いえ、仲良くしたい方達です」

「成程、つくづく良い性格しているわね、貴女」

 

 小さく笑うとハレンチ博士は椅子に背を預けて天井を見上げ、再び口を開く。

 

「なら最後に確認しておきたいのだけど…村雨、貴女は"暁"の連中が貴女の武器を持つ事でこちらに不都合が起こる可能性を理解しているかしら?」

「そもそも偽雨は自分の身体が生贄の身体である為刀造りに消極的です、心配することはないと思います。それに万が一にも彼女が刀を造ったとしても彼女の能力は私の8割程度…偽雨の造る"村雨の贋作"如きで私が造る"村雨の真作"を持つハレンチ博士やサスケ君が不都合になるはずがありません」

「それは"暁"に残してきた自分を恐れたくなければ、ここにいる自分を処分するな…と、そういう脅しかしら?」

「……? あぁ! ではそういう事で」

「ククッ、交渉上手な娘ね」

 

 交渉上手も何もハレンチ博士が言ってくれなければそんな発想欠片も無かったのだが…むしろそんな脅し方をポンとお出し出来るハレンチ博士の頭の中はどうなっているんだ。

 

 私では到底及ばない知性を見せるハレンチ博士に舌を巻いている内にハレンチ博士の視線は私の脇を通り抜けて後ろに控えていた水月へと向かう。

 

「水月、安心しなさい、さっきの話からして増えた村雨は連中の傍から離れない様だから貴方の負担が増えることはないわ…減る訳ではないけれど」

「最後の一言も取り消してくれませんか!?」

「さて、後は諸々の対処だけしておきましょうか」

「無視!?」

 

 何故ハレンチ博士と水月の間で私が2人いれば負担が倍になるという見解が共通しているのだろうか? 仮に私と偽雨が同じ場に揃っていれば片方が暴走してももう片方が諫めることだって出来るはずだ。何せ考えを同じとする同一体なんだ、自分を止めることぐらい自分にとって簡単なはずだ。

 

「諸々の対処とは何をする気だ?」

「偽雨の行動が村雨の言った通りだとしても、イタチの写輪眼など彼女の記憶を漁る手段は幾つかあるからね。念には念を…ひとまず、このアジトから出るわ。カブト、必要な荷物を纏めるのと…看守の者達に管理の命令を出しておいて頂戴」

「ハ、すぐに手配しておきます」

 

 なるほど、確かに偽雨は私と記憶を同じくしている…彼女が何らかの術を掛けられるとこのアジトの場所は即座にバレてしまう。しかし時空間忍術などで別のアジトへ移動してしまえば、私が各地に存在するハレンチ博士のアジトがそれぞれどこにあるのかなどまるで把握していない以上暁の人達は結局手出しできない。

 単純ながらもしもの際のリスクを最低限にする極めて効果的な方法だ。勿論、各国に広く数多くのアジトを持つハレンチ博士でなければ出来ない方法であるが。

 

「そういう訳だから、貴方達は皆…あとここにはいないけど香燐も移動してもらうから貴方達も荷物を纏めておきなさい」

「やれやれ…だだっ広いアジトの構造にやっと慣れてきたと思ったら引っ越しとはね」

「困った鍛冶場はどうやって運べば…」

 

 水月のぼやいた内容も確かにその通りだが、それ以上に問題は鍛冶場だ。

 あんなデカい一室をどうやって運べば…いや、そもそもデカいデカくない以前に部屋とは運べるものなのか? 

 

「心配しなくても移動先のアジトにも鍛冶場は設けてあるわ。元々私は本来、一週間間隔で各アジトを移動していたからね…北アジトの様な特殊な環境を除けばどのアジトでも同じ作業は出来る様にしてあるのよ」

「なるほど、流石です…しかし各アジトに鍛冶場を造って頂いていたとは…申し訳ありません」

「気にする事はないわ。そんなことよりも早く準備してきなさい、貴女は道具やら作品やら何かと荷物も多いでしょう」

 

 それもそうだ…正直感謝してもし足りないが今は早急に荷物を纏めに行くとしよう。

 そもそも引っ越しの発端は私なんだ、この上荷造りで待たせてしまうのはあまりに心苦しい。

 

「それでは私は荷物を纏めてきますのでこれで失礼します」

「えぇ、あぁそれから…自来也の情報についてはこちらの方で用意するから貴女は何も心配しなくて構わないわよ」

 

 度頭を下げてその場を後にしようとした際にハレンチ博士から思わぬ言葉が投げかけられた。

 どうしたものかとずっと考えていたのだが…情報通にして自来也さんのかつての同士であるハレンチ博士が協力してくるとは…これ程心強いことはない。

 

 願ってもない言葉に都合の良い夢でも見ているのかとも思えてしまうがこれは間違いなく現実だ。

 

「ありがとうございます、深く感謝致します」

 

 ハレンチ博士へと深々と頭を下げて、今度こそ部屋を後にする。

 これで3年後の暁の方々と再会も恐れる要素は何もない、むしろ"クシナダ"の進捗確認に偽雨が上手くやってくれれば"十拳剣"を始め様々が情報が手に入る。いやはや…一時はどうなるかと思ったが…案外上手く纏まるものだ、よし! 新しい環境でもこの調子で頑張ろう! 

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 村雨が去った後、部屋に残っていた大蛇丸は疲れた表情で天井を見上げていた。

 サスケ、重吾もそれぞれ準備の為に下がらせ、彼らと入れ替わりで各員に指示を出し終えて戻ってきたカブトと唯一残る様に言われた水月は、口が裂けても言えないがその珍しい年相応に草臥れた様子に何と声を掛けたものかと押し黙っていた。

 

 実際の時間の経過以上に長く感じる数秒間を経て、何故か…は大体予想が付くものの、わざわざ残る様に言われた水月がとうとう沈黙を耐えかねて口を開く。

 

「その…お疲れ様っス」

「…別に疲れてなどいないわ、思っていたのとは少々異なるけど彼女が暁と繋がりがあるケースも想定はしていたしね──ただ」

 

 勿論、村雨が暁に関してあれほど何も知らずに接していたという点やよくよく考えてみればこちら側に何のマイナスのない取引を暁から勝ち取ってきた点など予想だにしていないことも多かった。

 むしろ"十拳剣"という、知らずにいては危うく全てを失っていたやもしれない程の脅威の忍具の情報まで持ち帰ってくるなど村雨の貢献は計り知れない。

 

 ただ、ただ一つ、どうしても受け入れ難いものが大蛇丸にはあった。

 

「──ただ、あの不本意極まりない呼び名のお陰で今の状況があるというのが凄く納得がいかないわね」

「それは……」

「…心中お察しします」

 

 "暁"を欺いてこちら側に有利な取引、末端とはいえ奴らの内部へ偽雨という"こちら側"の人間の潜入、何よりイタチの隠し玉の看破…いずれも大きな収穫だがそれらが全てあのふざけた名前で実現したというのだから物凄く微妙な気持ちになる。

 ましてやその呼び名で呼ばれる本人からすれば猶更だろうと水月もカブトも苦い顔を浮かべる。

 

「…まぁ、でも──」

 

 納得がいかないことだらけ、何なら腹立たしくもある…それでも大蛇丸はほんの少し、愉快さを感じずにも居られなかった。

 この世のあらゆる知識を集め多くの情報を蓄積した自分でさえも思い起こしたりしない、無知で愚かしく…新しい生き方。あんな出鱈目な生き様の果てがどう転ぶのか──興味が湧く。

 そして、何より──

 

「劣化とはいえ、アレの同一体を自ら造るなんてね…精々奴らにも苦労してもらうとしましょうか」

 

 村雨の同一体をわざわざ造って招き入れた"暁"がどの様な目に合うのか…そちらもそちらで興味がある。

 従えるのか、振り回されるか…それとも扱い切れずに処分するのか…そう考えるとどちらがあの狂人を上手く扱えるのかというある種の競争とも言える。

 

「──にしても、大蛇丸様も随分と太っ腹っスね、わざわざ別のアジトにも鍛冶場を造ってたなんて」

「あぁ、別に大した事ではないわ。本人が稼いだお金なんだから」

「……へ?」

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 自室の荷物を手早く纏め終え、肝心の鍛冶場の方の道具を片付けに来たのだが…道具一式は何も問題なく纏められた…問題は棚に道具と一緒に置いておいたいざという時にサッと使えるようにとっておいたクジラの財布が見るも無残な姿へと変貌していた。

 

 闇市で稼いだお金を詰め込んでパンパンに膨らんでいた身体はプシュ~っと平べったくなっている、これではクジラではなくヒラメだ。

 一体何故クジラ財布が独りでにやつれてしまったのか…まるで怪奇現象だ。何故か脳裏に巨人の石像に黒い棒を突き刺されゲッソリと痩せていくクジラ財布が浮かび上がり身震いする。

 

 想像していると怖くなってきた、考えるのはもうやめておこう。

 お金はまた何かしらで稼げば済む話だ、そんな事よりも早く準備を済ませてしまおう…そう思うと荷物が一つ減ったと言える、これはこれで良かった。

 

 

 …いや、何も良くはないな、今度ハレンチ博士辺りに紛失届を出すとしよう。…いや、財布が残ってて中身だけないのだから盗難届だろうか? 

 そんなとりとめのない事を考えながら、短い様で長い付き合いだった鍛冶場との別れを済ますのだった。

 

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