霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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明けましておめでとうございます、いつも村雨のドタバタ劇にお付き合い頂きありがとうございます。
本年も何卒、よろしくお願いいたします。



いらっしゃいませ

 偽雨を仕事場に連れて行って1週間後…岩隠れから暁へと送られた極秘の依頼──岩隠れに対して何かと都合の悪い思想を持っている雲隠れの要人の暗殺を果たし、デイダラは自身の相方であるサソリと共に竹林の中を移動する。

 

 元々、自身が所属していた岩隠れの…ましてや里抜けの原因とも言うべき三代目土影・オオノキのジジイからの依頼など心底乗り気ではなかったが五大国でありながら"暁"を利用する岩隠れはある意味では上客…闇市での浪費の埋め合わせを図るには不本意ながらも引き受ける他なかった。

 

 強いて救いと言えるのは"暁"への依頼であり、自分が直接あのジジイの依頼を引き受け従ったという訳でもなければその報告でも要人暗殺の証拠だけで実行したのが自分だという情報はない、つまりあのジジイに知られることはないという一点ぐらいだ。

 当然、その程度で気が晴れるということは欠片もなく、芸術的な爆死体を造ってやったにも関わらず虫の居所は悪いままだ。

 

「まあそうカリカリするなデイダラ、くだらねぇ仕事で気に入らねぇ相手から絞り取るもん絞り取ったとでも思っていろ」

「チィ…何度も言うがそのくだらねぇ仕事の原因旦那の浪費なんだぞ、うん」

「だからお前は別に手を出さなくて良いっつったろうが」

 

 機嫌の悪さが表情に出ていたのか、珍しく宥める様な台詞を掛けられ、しかしその言葉の主がそもそもの原因である為、衝動的に反論する。

 もっとも、反論から思ったがその"原因"としての自覚があるからこその珍しい宥めの言葉だったのだろうが。

 

「…ま、精々その絞り取りとやらに加えて旦那への貸し一つってことにしといてやるよ…うん」

「フン、口の減らねぇガキが」

 

 やはり負い目があるのか、普段より幾分抑え気味の態度に若干溜飲が下がるのを感じる…が、それはそれとして機嫌の悪さの原因は先程までのものとは別にもう一つある──

 

「──に、しても…仕事の合間を縫ってあの女に会いに行かなきゃならねぇとはな…そりゃ巨大傀儡開発となりゃサソリの旦那の担当だろうが、だからって忍具の受け取りまでオイラ達が引き受けなきゃならねぇとはな」

「ついでに受け取るだけだ、そう文句言うな」

「だから…傀儡開発の旦那にとっちゃそうだろうがオイラにとっちゃ面倒な仕事が増えただけだって言ってんだろ、うん」

「ま、お前の粘土細工を珍しく気に入る相手だろ。精々相手してやれ」

 

 珍しくってのはどういう意味だ、事と次第によってはここで一論争構えてやっても望むところだが…それ以上に言うべきことがある。

 

「オイラの芸術は爆発だ! 粘土造形はあくまで過程、その存在が爆発によって昇華されるその一瞬の美こそが本当の価値、注目すべき部分なんだよ、うん!」

「俺に言うなあの女に言え」

 

 先日の時にしても移動際に利用した鳥型の作品に対して、形に注目するばかりでその本質たる爆発を見ずして満足していたのは大いに不満だ。

 …まぁ勿論、粘土の造形自体も妥協なく拘っている身として、それを細部まできちんとその目に焼き付けようとする姿勢自体は悪くはない…むしろそこに関しては好印象だ。しかしだからこそ、ちゃんとその作品の本質を見て評価しろという思いがより一層湧き上がってならない。

 

「丁度良い機会だ、後で一度オイラの芸術の本当の美をとくと見せてやる」

「まぁ会う理由が出来たんなら良いじゃねぇか。ただ傀儡開発の話も進めるんだ、ほどほどにしとけよ」

「…やっぱこの役目旦那1人で行けば良くねェか、うん?」

「俺だって待たせる様な真似はしたかねぇんだよ…ツーマンセルがルールなんだ、仕方ねぇだろうが」

「ったく…せめて茶の一つでも出る事を期待するぜ、うん」

 

 どうせ長くなるであろう傀儡開発…こんな退屈そうな竹林の中で延々待たされることになるかと思うと暇で仕方ない、せめて"任務"と"ノルマ"の合間の一休みとして上質な休息になればと祈るばかりだと竹林を通り抜けて人工的に開けた空間へと到達する。

 

 例の女、偽雨のいる仕事場──わざわざあの女の為に用意してやった鍛冶場──

 

 

 

『茶屋・刀架(トウカ)

 

 

 

 鍛冶場…だったはずのとこに何か出来てる…

 

 鍛冶場部分は前に来た時から変化はないが居住側の部分は周囲の竹を素材に拡張され意味不明な看板が飾られている。

 思わず何事かと焦ったが、妙に達筆で書かれた茶屋の看板を見てからの行動は実に冷静だ。

 

「イタチに礼を言わなきゃな…クク…」

 

 左目を覆っていた前髪を横に流し、その下に隠れていた左目に意識を集中する。

 キュッと瞳に力が籠るのを実感する。

 

 …"暁"に加入する切っ掛けとなったイタチとの戦い…忌々しい記憶だがあの一件以来、対写輪眼の対策として左目を鍛えてきた…幻術を解く訓練を怠らず、既に幻術の解除に印すら必要としないレベルまで達するに至っている…はずだったんだ。

 

「ハハ…なんで?」

 

 目の前の面妖かつ意味不明な建造物が消えてくれない。

 左目による幻術対策の訓練が不十分だったのか? それともまさかとは思うがこの幻術がイタチの写輪眼よりも強い幻術なのか? 

 

 

 

 それとも、それ以上にまさかとは思うが…到底信じ難い事だが…ひょっとしてコレ幻術じゃないのか? 

 歯が折れるぐらいの…演出ならばスリーアングルで映されるぐらいの勢いで顔面をぶん殴られたのかと思うほどの衝撃に襲われ眩暈がする。

 

「デイダラお前…これはなんの冗談だ?」

「は? …いや茶の一つぐらい出る事を期待するとは確かに言ったがこれはオイラ関係ねぇ!」

 

「──どなたかいるのですか?」

 

 ただの愚痴であらぬ疑いを掛けられるなんて冗談じゃない、横から困惑疑惑半々の視線に全力で否定するが、つい声を荒げ過ぎたのか、此方の声を聞き取ったらしき人物の声がした。

 その声は間違いなく…この場を与えてやった者の声だった。

 

「…! あぁ…いらっしゃいませ」

 

 戸を開けて姿を現した女は此方の姿を見てほんの少し目を揺らし嬉しそうに…深く頭を下げた。

 看板に書かれた店に見合った──しかし状況に微塵も見合っていない丁寧な動作だった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 突然外から話し声が聞こえて戸を開けるとそこにはサソリさんとデイダラさんのお二人がいた。

 …なるほど、つまりは最初のお客様という訳だ、ならば掛けるお言葉はこれに限る。

 

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませじゃねぇよ、なんだこりゃ!?」

「非正規組織として活動される皆さんに一時であったとしても休息を…と思いましてご用意させて頂きました…優れた刀は戦場で輝く物ではありますが時には刀掛けに置いて静寂の中で輝く姿もまた良いもの…優れた忍である皆様もそういった時間があっても良いはず…そういった思いを込めて『茶屋・刀架』と名付けました」

「いや名前は別に聞いていねぇんだよ」

 

 そんな…結構時間を掛けて考えて気に入っていたのに…。

 いや…実際ここに茶屋を開いているなんてお二人は想像外だった可能性もある…突然の事に驚いているのかもしれない、だとすると猶更早速落ち着けるようにお茶の提供をするべきだろう。

 むしろ早速腕を揮えるのだから最高のお披露目と言えるだろう。

 

 手早く急須の茶を器に注ぎ、改装中に見つけた茶菓子を添えて空いている座布団の前へそれぞれ置くと依然として立ち尽くしているお二人へ「どうぞ」…と、その座布団に座るよう促す。

 

「はぁ…俺はこんなままごとに付き合うつもりはねぇ、そもそも食事なんぞいらん。デイダラ適当に相手してやれ」

「オイラだって御免だっての。何が入ってるかも分かんねぇもん飲み食い出来るか、うん」

「それでしたら心配ありません。元々これらを用意したのは皆さんなんですから」

 

 茶葉も茶菓子も全てこの屋敷にあったもの…つまりは他でもないこの方々が用意した物なんだ、警戒する必要なんてない。

 

「あまり難しい事は考えず、荷物の受け取りついでに一息ついていくと思って頂ければ。この茶菓子もとても美味しくて…協力者として私の為にわざわざ用意して頂いたのですから折角ならご一緒に、と思いまして」

「ハッ、育ちの良いこったな。にしても…わざわざ茶屋を構えて出すものは既製品とはな、うん」

「頑張ったのですがとてもお出し出来るものではなく現状諦めました」

 

 とりあえず茶菓子だしお饅頭でも…と思ったのだが形もグズグズ、生地も粉っぽいととても振舞って良いものではなかった。

 あんまりな出来な物をお出しするよりはという冷静な判断のはずなのだが向けられる視線は冷たいものだった。

 

「違うんです、これは多分"昇転の術"とやらの影響で料理の腕が8割しかないせいです。私は本来ならもっとちゃんと造れるはずなんです」

「いやあの術にそんな影響はねぇよ」

「試したことがあるのですか!?」

「いやねぇけど…」

 

 ならばやはり術の影響が出ているという可能性が高いということだ! …まぁ8割もあるのだから流石にあんなに酷くなるものだろうかと思わなくもないが…単に私が出来ないだけだとすると悲しくなるのでそういう事にしておこう。

 それはそれとして料理の話といえば──

 

 

「……ふと思ったのですがあれほど素晴らしい粘土造形の出来るデイダラさんなら動物の形の饅頭なども造れるのでは?」

「おい、まさかオイラにこの店で働けとか言うつもりじゃねぇだろうな…うん?」

「その…造り置きでも──」

「おい、こいつの粘土造形を応用するということは…こいつの掌の口が吐き戻したもんを人に食わせる気か?」

「やっぱりこの話はなかったことに──」

「そもそも最初っから請け負ってねぇよ!」

 

 そういえばそうだった…しかしそれなら手間を取らせる前に踏み止まれて良かったと言えるだろう、結果オーライという奴だ。

 

 それに…ちょっと頓珍漢な事を言ってしまって呆れられた様だが、その成果あって疑いは晴れたのか、デイダラさんもサソリさんも座布団に座ってはくれた…茶に手を付けるかはともかく、一先ず第一関門は突破と言ったところか。

 

 では次は…これだけは先にやっておくべきだろう。

 部屋の隅に置かれた棚に収納した巻物を一つ取り出しサソリさんの眼の前にそっと置く。

 

「ご要望のクナイと手裏剣です。他に投擲用の刀など簡単な物を幾つか造っておきました」

「ちゃんと造っていたのか、安心したな」

「…流石に改築を仕事より優先したりはしません」

 

 早々にこの要望の品をお渡しすると帰ってしまうかも…なんて思いもあり出来ればお渡しするのはもう少し後にしたいのだが…サソリさんが懸念していた様にこの茶屋の改装を優先して仕事をしていないなんて思われたら間違いなく悪印象を与える事だろう、それでは本末転倒というものだ。

 

 最悪初日はこれで帰られても良い。

 それよりもまずはちゃんと仕事をして良い品を造ったこと、そして自分達が気楽に入れる茶屋が出来た事を他の方々と情報共有をしてもらうことが重要だ。

 

「…仕事をちゃんとしているなら空き時間に何をしようが知ったことじゃねぇ。ひとまずこれは受け取っておく」

「はい、今回は皆さんの体術、手裏剣術のスキル等を把握していない為一般的な造りとしましたがある程度の情報を開示して頂けるなら特注で造ることは可能とお伝え下さい」

 

「それはこいつにそれだけの価値があるのか判断してからだ、あまり図に乗るなよ」

 

 腕の筋力、手の大きさに合わせてクナイも手裏剣も重さ、大きさ、形…いくらでも変える余地がある。

 単純に持ち主の体格に合う方が使い易いし、投げた際に相手に奪われても特注故に相手が上手く扱えないという利点も生まれる。

 

 そして何よりそういう利点を求めてここへ足を運んでくれるようになる。つまりお互いが得をするという訳だ。

 もっともサソリさんの言う通り、彼らの様な慎重な方々がこの程度の事でそう簡単に自身の情報を明かしてくれるとは思えないが…村雨との取引からして最低でも3年の付き合いになるのだ。ここは長期戦覚悟し、この忍具造りとお茶の二段構えでコツコツと信頼を稼いでいこう。

 

 という訳でサソリさんの忠告に深々と頷いた上で自分用に注いだお茶を手に取り口に運ぶ──そして。

 

「…少し、冷めてしまいましたね。お早めにどうぞ?」

 

 ──と、さり気なく勧めてみるがどうやらこちらのそういう意図などお見通しなのかサソリさんが大きくため息を吐いた。

 

「……デイダラ」

「はぁ──…案外旨いな」

「元々霧隠れの里で商売していた頃は刀の調整などで長居するお客様にお茶を出したりする機会も多かったので」

 

 特に刀の割引や贈呈の代わりに術を教えてもらうなどの取引をしている時などは少しでも長居させようとそういう事も時折していた…あの時の下積みがこういう場面で活きようとは、人生とは摩訶不思議なものだ。

 …あの時茶菓子は既製品で良いやと棚から煎餅やら饅頭やらを適当に見繕うのではなく自分で造れるようにしていれば今頃もっと…まぁ出来ないものは仕方ない、今からでも暇を見つけては腕を磨くとしよう。

 

 それに少なくともお茶自体の評価は悪くない、中々の滑り出しと言えるだろう。

 

「…ところで、"クシナダ"設計案の方はどうだ。何か良い案でも出たか?」

 

 満足しているとふとサソリさんからそんな言葉を投げかけられる。

 気が付けば色々とやる事が増えたが、本来それが私の目的だったのだ──だからその答えは当然。

 

「勿論です。装備する刀の案は既に多数…こちらの資料に纏めてあるので目を通して傀儡造形師としての評価を頂けると幸いです。…ただ、仕込みの方は専門外なのであまり」

「ふん、まぁそんなもんだろ。武器の案を資料に纏めてあるならそれでいい」

 

 何十通りの刀の案を纏めた巻物をサソリさんへ手渡しする。

 あの中からサソリさんが実用性アリと判断した物にチェックを入れて、村雨へとそれを渡せばそれで"クシナダ"が持つ武器は問題なくクリアできる。

 

 一方で傀儡も肝である仕込みまでは中々上手くアイディアが纏まらない。

 多分サソリさんにお任せするのが一番確実なのだが…1人の造形家として可能な限り関わりたいというのが本音だ。

 

 …もっとも、そんな心持ちだけでは上手くいかないからこそ困っているのだが。

 どうにも刀以外の攻撃方法と言われてもパッとしない、精々刀を射出したり、腕の部分で何本もの刀を採掘機の様に回転させたりと言ったぐらいだ、サソリさんからは間違いなくボツにされることだろう。

 

 やはり仕込みなど戦術的な部分は戦闘のプロたる人達の意見を聞いて回りたいところだ。

 サソリさんは勿論、デイダラさんや鬼鮫さん達からアイディアを頂けるなら良いが難しいだろう…ひとまず仕込みについては後にするとして…もう一つ、それとは別に思い付いたことを伝えてみよう。

 

「サソリさん、以前話された傀儡人形の耐久性の問題なのですが一つ思い付いたことが」

「何だ?」

「人形の身体の表面に強固な鱗や甲殻を貼り付けるのはいかがでしょうか?」

「鱗だぁ…お前の言ってた"クシナダ"ってのはかなりデカいもんなんだろ? 一体どんだけ魚やらワニやら狩ろうってんだ、うん?」

 

 隣で聞いていたデイダラさんが呆れた様な反応を見せる、サソリさんも声は出さずとも似たような反応だ。

 確かに、普通に考えるとそうもなるだろう…しかし、今回の案に関してはちゃんとその宛てがあってのことだ。

 

「ハレンチ博士…じゃなくておろ、ではなくて自来也さんの集めた情報の中に巨大な生物のいる場所に関するものがあったんです。"強固な鱗"を持ち"巨大"…まさしく素材に最適かと」

「巨大な生物…尾獣とは考えにくいが可能性もなくはないか…どうするよ旦那?」

「その居場所ってのはどこなんだ?」

 

 元々は屍鬼封尽の情報を求めてハレンチ博士の持つ膨大な資料に目を通している際に見つけた巨大な生物のいる場所…その名は、確か──

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 偽雨が暁の2人組と話している頃、村雨もまた一週間前に重吾から聞いた情報を基に準備を整え機を窺っていた。

 

 何でも仙術を修めるにあたって、重要となる自然エネルギーに満ちた"力の源"たる地があるという

 その地こそが3つの秘境、妙木山、湿骨林、そして龍地洞…いずれも名前も知らない場所だが、ただ一つ"龍地洞"その秘境のみは心当たりがあった。

 

「ハレンチ博士はサスケ君を連れて外での修行…今なら行ける」

 

 つい最近外出してあわや大事になりかけた手前あまり外出の申請を出しにくいと思い控えていた為準備をするに留まっていたが漸く行動を起こせる。

 

 重吾さんに小鳥によって地形を把握してもらって新たに引っ越したこのアジトの位置も目的地への道のりも理解した、好都合な事に然程遠い訳でもなく…むしろハレンチ博士もいつかはそこへ行くつもりだったのかかなり近い位置にそれはあるらしい。

 

 ならばする事は一つ、革命の始まりだ! 

 目の前のドアを開けて、その部屋の主へ声を掛ける。

 

 

 

「水月、"龍地洞"に行こう」

「どこぉ!? その何かヤバそうなとこは!?」

 

 詳しい事は分からないけど、名前からして龍がいるところだろう。




次回、水月…龍を刃る!!
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