私は友達の家で遊んだ時に見た目がカッコ良かったので好きでした(小並感)。
「……ねぇ、何アレ?」
薄暗い洞窟の中、目の前の巨大な岩壁…否、岩の塊の如き身体を持ったマンダさんやガマブンタさんに匹敵する程に巨大な生物を見て水月がそう呟いた。
しかしアレが何か、など一目見れば分かると思うのだが…そも、予め伝えた目的地からして想像できることだろう。
「…何って、龍だけど」
ここは"降龍山"と呼ばれる山。
ハレンチ博士の持っていた情報によると踏み込んだ者のチャクラを乱し、忍術の使用さえも阻害する特殊な場所らしく、ここに辿り着くまでにも幾度もそれを実感したのだが…本題はそんなことではない。
そう、本題となるのはこの地ではなくこの地に住まう者…今、目の前にいるこの巨大生物こそが本題。
火・水・土・雷・風…五つの性質変化と共通する"龍"即ち五源龍と呼ばれる生物達だ。
「龍?」
「龍。正確には五源龍の一角…土源龍」
目の前の龍は頭部から尻尾、四足の脚も爪の先に至るまで岩石の様な巨体であり正しく"土遁の龍"であると見る者へその威圧感と共に主張している。
さて、ここまで情報が揃えば分かることだが…目の前にいる"土遁の龍"たる"土源龍"とそれの住まう場所"降龍山"の洞窟…正しくここが"龍地洞"であるという何よりの証拠と言えるだろう。
何と言っても"龍が降りる山"だし、土遁の龍だ。ここが"龍の地の洞窟"即ち"龍地洞"で間違いない。
「多分だけど! 何考えてるか分っかんないけど!! 絶対君なんか勘違いしてる!!」
「え? でも龍だよ水月。どう考えて龍地洞ってここのこと…」
「龍ってマジモンな龍な訳ないでしょ!? いやマジモンの龍がいることにもビックリだけど…もうどっから突っ込めばいいの!?」
「良く分からないけどこっちに気付いて完全に臨戦態勢をとった土源龍に突っ込んで行ってほしい」
「決めた! 今度こそ君ぶっ殺す!」
水月から明確な殺意が(どういう訳か私へ)放たれ、土源龍の放つ殺気と混じり、緊迫した空気が洞窟内に充満する。
先に動いたのは土源龍…その巨体に相応しい聴く者を委縮させる荒々しい咆哮と共にこちらへと向かってくる。
岩石の身体による重い前脚は受け止める事など不可能であると明らかだ、かといってチャクラを乱されるこの"降龍山"において"水化の術"など使えない、故に土源龍が動き出した時点で回避を選択、辛うじてその巨体任せの突進を避ける。
「どうすんだよ! ただでさえ水化の術を使えないんじゃ首斬り包丁も使えないってのに相手は土遁! これ明らかにボクを殺すつもりで連れてきたでしょ!」
「そもそも五源龍には忍術自体が効かず、戦うには特殊な忍具が必要と資料にあった」
「打つ手なしってことだね、よし帰ろう」
「という訳で用意した物がこちらになります」
「ちくしょう…」
五源龍と戦う為に必要とされる"龍刃"と呼ばれるクナイと短刀の中間程の大きさの特殊な刀。
ハレンチ博士の持っていた資料を頼りにここに来る前の一週間で造ったソレを水月へ投げ渡す。
「普通の刀とさして変わらなさそうなんだけど、本当にこれでやれるの!?」
「資料に間違いがなければ問題ない。少なくとも造るのは然程難しくなかったからミスはない」
「まぁそこは別に疑ってないけどさ…あぁもう!」
"龍刃"を手に水月が土源龍へと飛び掛かる。
七人衆となるべく様々な刀を使いこなすよう訓練した水月は比較的リーチの短い"龍刃"であってもその癖に戸惑うことなく扱えるのだろう、素早い動きで土源龍の足元へと潜り込みその刃を振るえば岩石の鱗を切り裂き、岩盤の如き龍の身に亀裂を入れる。
「グオオォォォォッ!!」
傷つけられた事による苦悶か…或いは傷を付けたことでいよいよ私達を害と見做しての威嚇なのか土源龍は周囲が振動する程大きな咆哮を上げる。
だがしかし…こちらのやるべきことは変わらない。
「五源龍は光輝く光鱗が弱点らしい、お願い水月」
「どこ!? 光鱗どこ!? ってか君も何かしろっての!」
「勿論、"龍刃"は10本程造ったから私も良い感じに投げ付けて注意を引く、上手く術が使えない以上水化の術も出来ないから当たらない様に上手く避けながら戦って」
「ボクが悪かった、お願いだから手出ししないで!」
それだと折角造った"龍刃"の大半が無駄になって…いや、こと戦闘においての判断ならば私よりも水月の方が遥かに正しいだろう、ここは大人しく従っておこう。
とはいえ連れてきておいて何もしないという訳にもいくまい、"龍刃"を投げつけるのは無しにしても他にも色々と用意してきたものはある…出来る限りのバックアップに専念しよう。
…
……
………
その後激しい死闘の末、土源龍は地に伏した。
"龍刃"に依る幾度ものダメージを蓄積した影響か、彼の鼻先に出現した光鱗へ水月が"龍刃"を突き刺したことで勝敗が決した。
実際に戦って勝てるかは正直自信はなかったのだが全身ボロボロぐらいで済んで何よりだ。
忍術を使えず、通常の武器も通じないという事前の情報があったことでそれならばと、足場を崩す為の起爆札や視界を奪う光玉など直接的でない攻撃以外で援護したのは確かだが、やはりこれに関しては水月自身の力が大きいのだと思わざるを得ない。
「お疲れ様…水月、強くなった?」
感謝するよりないのだが…はて? 水月はこれ程までに強かっただろうか?
いや間違いなく彼は元々強かったのだが…記憶している以上に著しく力を付けているのが見て取れた。
「あぁ、うん…おかげさまでね」
うん? おかげさまとはどういう事だ?
最近水月が重吾さんと修行に打ち込んでいるのは知っているが私は全くといって良い程関係ないような…思えばそれはそれで申し訳ないな、今回の件も含めて何かと付き合わせているが水月の修行に全く関与していないというのもどうなのだろうか。
あぁ…それとも──
「ひょっとして私が思っていたより上手く援護出来てたという事? だとすると嬉しい」
「唐突に起爆札敷き詰めた樽を置いたり、光玉破裂させる何処が援護なの!? 挙句の果てにはその場で落とし穴掘り出すし!!」
「流石にあのサイズを落とせるものは無理だった…」
「掘り出す前に分かるでしょ!?」
いや、しかし相手はあの巨体だ、起爆札一枚二枚程度足元で起爆させたところで効果はない以上ある程度纏まって使う必要はあったし、光玉を使ったのも普段使う様な煙玉では視界を覆い切れないからだ…どちらも必要なものだったんだ。
落とし穴に関しては弁明の余地はない。正直どうかしていた、ごめんなさい。
「あぁもう…どうでもいいけど、こいつ倒して結局どうするの? 自然エネルギー…っての? 手に入るもんなの?」
「勿論、重吾さんの話では別に重吾さんの一族でなくとも自然エネルギーを取り込める仙人という存在はいたらしい…要は自然エネルギーを取り込む手段さえあれば良い」
「気付いてないかもしれないけど、君いつも丁寧な前置きから全っ然関係ない行動とるからもう結論から言ってくんない?」
「この龍食べる」
「ごめん、何でそうなったの?」
結論から話したのに!? どうしろというんだ水月!?
「要するに重吾さんと違って私達には自然エネルギーを取り込む体質はない、かといって自力で取り込む技術もない。ならば自然エネルギーを持つ存在そのものを取り込んでしまえば良い。というわけでこの龍を食べます」
「どっかのハレンチ博士の発想じゃないかそういうの!? いやあの変態でもこんなもん食わないよ!」
「確かに岩の甲殻が凄いけど…食文化に貴賤なし、蟹の様なものと思えば…」
「どこの国に龍なんて天然記念物に加えられてそうなものを食べる食文化があるのか聞いて良い?」
つまり私が開拓者ということか…いかにして調理したものか…前例のない事柄への挑戦というものは実に難しいが故にこそ腕が鳴るというもの。
とりあえずは龍刃を使って土源龍の鱗を少しずつ剥ぎ取って可食部を剥き出しにしよう。
「…というかもう一度だけ確認しておきたいけど本当にこいつ仙術と何か関係あるやつなの? 何ならここが龍地洞って場所かどうかもかなり疑問なんだけど?」
「でも龍…」
「その龍がいるから龍地洞って安直な考えからして不安なの! 大蛇丸の奴が情報集めてたことからしても龍って蛇関連の何かなんじゃないの?」
「……その…発想はなかった。水月は蛇博士?」
「君ほんとさぁ…」
「うん? こんなとこに人がいるとは意外だな」
「丁度良い。おいそこのガキ共、この辺りに五源龍とやらが──あ?」
うん? 何やら背後から2人の男性の声が…それも何だろう、つい最近どこかで聞いたような声がした……凄く嫌な予感がする。
物凄く、物凄く後ろを見てはいけないという神の啓示の如き予感に心を締め付けられる。
ブリキの人形の様にギシギシと軋ませながら首を動かすと──あぁ、何ということだ…予想通りのお二方+一名──デイダラさんとサソリさん…更に鏡に映った自分の様な…私と全く同じ姿の同一体、偽雨の3人がそこにいた。
見ればデイダラさんとサソリさんが困惑の表情を浮かべている。
それはそうだ、記憶を改竄されて自来也さんの下に戻ったはずの私が何故こんな山の中にいるのか…普通に考えておかしいと思うことだろう。
…チラリと水月に目をやれば顔を青ざめている。
気持ちは分かる。目の前の2人は間違いなくハレンチ博士と同等レベルの忍…万が一の際に私達では抵抗も出来ないだろう…時折「マジで増えてる…」と呟いているがどういう意味だろう?
というか偽雨は一体何をしているんだ? そもそも彼女には暁の方々からの信頼を得る事とクシナダの開発案出し、そして暁の方々の能力調査を頼んだはずなのに何故こんなところで登山をしているんだ?
…まさかとは思うが…本物である私を亡き者にして自分が本物になろうと──している訳ではなさそうだ、幸い暁のお二方から一歩下がった位置にいるお陰でバレていないが戸惑いの表情をしている。
まぁ偽雨が反旗を翻そうとしている訳ではないようで何よりだ。
さて、そうなると問題はこの状況をどうするかだが…水月も偽雨も少々パニックになっている様子…ここは私が何とかしないと。
彼ら視点では私はサソリさんと"クシナダ"開発の約束を結んで別れたということになっている…つまりここで初対面を装うのはむしろおかしいということだ。
「…すみません、この様な場で、それも思った以上に早い再会だったので少し驚いてしまいました」
「それはこっちのセリフだ。…そっちの奴は何者だ?」
「あぁ、こちらは私と同じくハレンチ博士の下で生活している者です」
「そうか……金髪じゃねぇってことは九尾のガキじゃぁねぇようだな」
水月の立場を説明するもサソリさんは興味なさげに「そうか」とだけ言って小声で何やら呟いている。
どうかしたのかは少々気になるがそれ以上に私は気にしなくてはいけないものがある。
「あの…すみませんサソリさん、私も確認したいことがあるのですが──」
そう、まずは彼らの背後にいる偽雨の存在に対して問い質す必要がある。
鏡写しの如くそっくりな人物がいるのだ…記憶を改竄されてその存在を知らない以上彼女に対して反応を見せないと明らかにおかしい。
想定外の再会になってしまったが、こういう時こそ至極冷静に…
「ん? おいお前ら後ろのソレ…瓦礫かと思ったがそいつが土源龍ってのか、うん?」
しかしデイダラさんが私と水月の背後で倒れ伏している土源龍に気付いたらしく驚いた様子でこちらの言葉を遮った。
「あ、はい…こちらの水月のお陰で何とか」
「へぇ…案外やるじゃねぇか、うん──しっかし、何だってこんなとこで"龍"を狩ってたんだ?」
…偽雨の存在について問いただすフリをしたいのだが…ここでデイダラさんの問いかけを無視してもいまいち印象も悪い…とりあえずここは正直に話しておこう。
「この龍食べようと思ったので」
「何でそうなった?」
やっぱり結論から話してもダメじゃないか!
途端にデイダラさんとサソリさんの視線が冷やかなものへと早変わりをした、これはまずい。
「すみません、省略が過ぎました…制作をより高めるにあたってこの龍を食べて力を取り込む事が出来ないかと思いまして…」
「補足されても正直意味不明なんだがとりあえず美食家気取りで遊んでるわけじゃねぇんだな?」
「勿論です。ところでデイダラさん達は何故こちらへ?」
「あ?」
うん? 突然デイダラさんの顔が険しいものになったぞ?
これ以上追求を続けられてボロが出るぐらいならばと踏み込んだが不審に思われただろうか?
「……お前、何でオイラの名前まで覚えてんだ?」
「………あ」
しまった!
サソリさんと"クシナダ"開発の約束を結んで別れたという事になっている以上サソリさんの名前を知っているのはともかくデイダラさんの名前を私が覚えているはずがないんだ。
だというのにさっき普通に"デイダラさん"と言ってしまった。
至極冷静を意識して結構上手く出来てたのにこんな凡ミスで台無しにしてしまうとは何という迂闊! これは正しく──
──失敗そのものではないか。
ちなみに私は激忍派でした。
ナルティメットストームはハードの都合で最近漸くできました。