霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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マスターデュエル+アルセウス=時間が溶ける。


一人乱戦

 薄暗い洞窟の中呆然と立ち尽くす…ついついデイダラさんの名前を口にして記憶の修復が露呈してしまうとは…。

 思わず頭を抱えたくなってしまうが今も尚鋭利な視線を2人を前にそんな事をしていても仕方ない。今はとにかくここからどうやって誤魔化すか…。

 

 …いや、もはや誤魔化すのは不可能だろう。

 サソリさんの視点で見て、記憶の改竄をした相手が自分以外の手に依って記憶の修復されており、その上で自由に行動しているとしたら…その人物は記憶を修復した相手の側へ寝返ったと考えるの自然だ。

 

 完全に手詰まり…いやそれでも諦めてなるものか。

 何とかここから挽回する方法を──そうだ! さっきは会話の流れでうっかりデイダラさんの名前を口にしてしまったが…最初は私の方から偽雨について会話を切り出そうとしていて…

 

『あの…すみませんサソリさん、私も確認したいことがあるのですが──』

 

 そう! そこまで口にした段階でデイダラさんが別の話題で遮ったんだ! これは…まだ繋げられる!! 

 今までの会話を全て頭の中で反芻し思い至った策に縋る思いで口をゆっくりと開く。

 

「そ、そうです。先程言いかけたのですがサソリさんに確認したい事がありまして…実に不思議なことなのですが私の中でサソリさん個人と"クシナダ"制作の取引を交わした記憶とサソリさんやデイダラさん達と"もう一つの取引"を交わした記憶がありまして…その事について確認をしたいと思って」

「…そもそもなぜ記憶が戻ってやがる。あの術を解いたのか?」

「あ、えっと…ハレンチ博士が私が何らかの術に掛けられているみたいといって…何やら…」

 

 術を解いてもらったという事を明かすのは今の私の立ち位置が怪しく思われるだろうが、私自身がサソリさんの術を自力で解いたというのは不自然だ。

 自来也さん(実際にはハレンチ博士だが)に解いて貰ったと言った方がまだマシだろうが…さて? 

 

「アレを気付かれるとはな…伝説の三忍、自来也ってのも噂ばかりの奴じゃねぇってことか…うん」

 

 むしろ腑に落ちたと言った反応をデイダラさんが示し、ほんの少し安堵する。

 流石に相手が伝説の三忍となればこのぐらいの事は在り得るということなのだろう…後は私の今の立ち位置を、つまりは彼らへの敵対心は欠片もないということを弁明すればなんとかなる。

 

 そう思った瞬間、視界の上下が一瞬にして反転した。

 身体に巻き付いた何かに締め上げられる圧迫感と頭に血が上る気持ちの悪さに、反射的に水化の術を使おうとするも"降龍山"の特殊な環境がそれを許さなかった。

 

 成す術もなくただ今自分の身に何が起こっているのか目を凝らすと──凡そ予想通りではあるがサソリさんの鋼鉄の尾が私を縛り上げているようだった。

 

「くだらねぇ嘘をつくな。あの術はそう簡単に気付けるもんじゃねぇんだ」

 

 サソリさんの鋭利な視線と共に全身に掛かる圧迫感が更に強まる。

 忍術に軽くない制限が掛かるこの降龍山であってもこれほどの傀儡捌きは流石というべきか…なんにせよこの状況はマズい…最悪このまま絞殺される。

 

「──あ…ぅっ…」

 

 しかし弁明しようにも腹部から胸部まで締め上げられているせいかどうにも思うように言葉を出せない。

 少し困るが…まぁまだ慌てる程ではない、こういう時こそ冷静に対応だ。

 首をなんとか動かして近くにいる水月へアイコンタクトを送る…私から弁明があるとだけ伝えてくれれば何とか…そう思っていたのだが肝心の水月の姿がない。

 

 どういうことかと思えば土源龍の亡骸を盾にその背後に隠れる彼の姿を漸く見つける…こういう時の行動が恐ろしく早いのは忍者としては長所のなのかもしれないが私としては堪ったものではない。おかげで慌てる事態に一瞬にして変わってしまったではないか。

 

 …そうだ! 忍者には縄抜けの術というものがあったはずだ…あったはず…なんだが。

 何分忍者を辞めて数年…明らかに刀造りに関わらない分野はとっくに忘れてしまっている…えぇっと、確か身体の関節を外したりしたような…えっと…じゃあまずは肩辺りから?

 

「ま、待って下さいサソリさん、理由が…理由があるはずです」

 

 不意に彼らの背後で狼狽えていた偽雨がサソリさんへ抑止を掛ける。

 流石私の同一体だ、思わぬ助け舟だが恐らくこれが最後のチャンス。彼女の言葉に同意する様に全力で首を上下させる…ただでさえ逆さ吊りだったせいで凄く気持ち悪くなってきたが泣き言は言ってられない。

 

 サソリさんの不審な視線は変わらないがほんの僅かに拘束が和らいだ。

 出来れば逆さ吊りもやめてほしいが贅沢は言ってられない…とにかく術を解いてもらった経緯を上手く説明しなければ。

 

「その…私にも良く分からないのですがハレンチ博士が以前に解いたことがあるらしくてそれで分かったとかなんとか…」

「チッ、出鱈目を。自来也の周辺に部下を潜入させたことはねぇ」

「あ…それは…その」

「はぁ…もういい、まどろっこしい。おいゼツ、出てこい……ゼツ?」

 

 サソリさんがこの場にいない誰かに呼び掛けたようだが…特にこれと言って何も起こらない。

 確かゼツさんといえば重吾さんから呪印仙術を注がれた際に私の身体から生えてきた白い人達のことをハレンチ博士がそう呼んでいたな。

 …要はあの時に殺された人の事じゃないか!? またサソリさんにとっての疑惑の種が出来てしまった! 

 

「…まさか、ゼツの胞子の術まで破っていたとはな。…小娘、そこまでされていて何故お前はこんなところで自由に動けている?」

「…そ、それは…」

 

 よくは分からないがあのゼツという方は私に憑りついて潜伏していた諜報係と推測できる…記憶の改竄の件と合わせて配下の人間がここまで不審な要素を抱えていて手を打たない人間はいないだろう。

 実際、ハレンチ博士も私に悟らせない形で何らかの手を打っている可能性は高い…が、今問題なのはハレンチ博士が私をどう思っているかよりも目先のサソリさんとの問答だ。

 

 一体何と言えば良い? 

 記憶の改竄や諜報係に憑りつかれていて許して貰えて違和感のない理由…そんなものが本当にあるのか? 

 

「ふん、まぁ良い。わざわざお前のくだらねぇ言い訳を待つのも面倒だ。イタチの奴にでも突き出せば貴様の事情も簡単に分かる」

「ま、待って下さい。本当に特別な事情も何もなく…ハレンチ博士が「これはサソリの仕業ね」と言って術を解いてくれて──」

 

 非常にマズい状況だ。

 イタチさんの…写輪眼の幻術を前にしては誤魔化しの手段は何もない。

 なにより、万が一全ての事情を話したとして、百歩譲って自来也さんと私が無関係であることが許されたとしてもイタチさんの両眼を狙っていることがバレてしまってはどっちにしても私は終わり…何としてもそれだけは避けなければ──

 

「くだらねぇ、俺は自来也と一度も関わってねぇ。俺の仕業も何も分かるはずがねぇ…ちょっと待て、小娘…お前さっきの口調…いや、まさか…」

「……あ…」

 

 サソリさんの冷たい声が唐突に困惑に染まり歯切れが悪くなる。

 何故か…は考えるまでもなかった、だってさっき焦って口走ってしまったセリフは明らかに自来也さんのそれではない、ハレンチ博士のものだ。

 

 サソリさんはどうやら自来也さんと関わった事はない様だが…流石にハレンチ博士だけでなく自来也さんもこんな口調なのだとは思うはずもないだろう。まぁ、つまりは──

 

 

 

「お、お前…まさかハレンチ博士ってのは…」

「お…大蛇丸さん…のことです…」

 

 これ以上はもう無理だ、全てを諦めハレンチ博士の名を明かせば突如身体に巻き付いていた鋼鉄の尾が緩まり重力に導かれるまま頭から地面に落下する…痛い。

 クラクラとしながらも身体を起こすとデイダラさんに顔面を鷲掴みにされる…所謂アイアンクローというやつだ…水月に時々されるやつだ、凄く痛い。

 

「お前自来也の弟子っつってたよな、うん!?」

「その…私はあくまでハレンチ博士の弟子…とだけ…」

「そりゃそうだが明らかにオイラ達がお前を自来也の弟子前提で話し進めてただろ!?」

「はい…ただ誤解されているようだったので訂正するのも怖くて…約束の3年の内に自来也さんの情報を集めれば勘違いも有耶無耶に出来るから、まぁ…良いかな…と」

「良い訳ねぇだろ、何考えてんだお前!?」

 

 怒涛の如く怒られる…背後から小さく「何も考えてないとないと思う」と声が聞こえたが大いに不満だ、一応"クシナダ"完成の為、色々頑張って考えた末に出した判断なのに…。

 

「おい旦那どうすんだこの女! …旦那?」

「っ…あの蛇ヤロー、こんなガキにハレンチ博士…ククッ」

「ツボってんじゃねぇぞ旦那ァ!?」

「………あぁ、まぁそうだな。おい、村雨一つ確認してぇことがある」

 

 息を整えてサソリさんが改めて仕切り直す。

 その声は変わらずに冷たいものだが、今までの殺気が込められていたものとは少し変わっている様だった。

 

「大蛇丸…ハレンチ博士とやらはお前を見て記憶の改竄に気付いたと言ったな」

「は、はい…まぁ」

 

 何だかいよいよハレンチ博士を裏切っている気がして返事に抵抗があるがいつか謝ろう。

 

「あの術は奴でもそう簡単に気付けるもんじゃねぇはずだ…ということは、気付く要因が別にあったという事だが、奴の近くに眼鏡を掛けたもやしみてぇな奴はいたか?」

「もやし…えっと?」

 

 いくら特異体質の人の多いハレンチ博士の下といえど豆が発芽したような人というのに該当する心当たりは欠片もない、思わずチラリと水月に視線を向ける。

 

「眼鏡を掛けたもやしって…カブトの事? 灰色っぽい髪の…眼鏡を掛けてる奴」

「やはり、そういう事か」

「…なるほど、記憶を改竄される前から大蛇丸の部下だったって訳かい、うん?」

「そういう事だな、自分の部下が記憶を改竄された状態で自分の下にスパイに来たならそりゃ分かるか…気に入らねぇ」

 

 良く分からないが水月とサソリさんの間でカブトさん=もやしという認識が共通しているのは如何なものか…良い人なのに。

 

「どうするよ旦那、このガキ共から大蛇丸のアジトを吐かせるか?」

「いや、こんなガキから吐かせられる情報じゃ限りがあるだろ。半端な情報で手を出して逃げられると面倒だ、むしろあのもやしヤローが裏切り者だってんなら次に奴と落ち合う時にでもそいつを捕えた方がよっぽど良い情報が入るだろうよ」

 

 何だか良く分からないが彼らの中で着々と話が進んでいる…とりあえず背後の水月へハンドサインで「どうしよう?」「助けて」の2ワードをこっそり伝達する。

 

「…あ、あの、ボクらは厳密には大蛇丸に従っているけど純粋な部下って訳じゃないからさ…出来れば見逃してほしいかな…て、思ってるんだけど?」

 

 そろそろと土源龍の亡骸の背後から出てきて私の横に並んで"暁"の2人へ呼びかけた。

 その内容は率直なまでの命乞いだが確かに一番私達が伝えなければならないことだ。誇れることではないかもしれないが冷静かつ最も安全な、褒められるべきやり方だ。

 

 果たしてサソリさん達の反応は、と固唾を飲むが同時に水月のハンドサインが視界の端に映った。

 

 

『後で』『殺す』

 

 …

 ……

 ………

 

 ま、まさか命乞いで油断させた後に2人を殺しに掛かる気なの!? それはあまりに無謀だ水月!? 

 何と言うことだ、まさか水月がここまで好戦的だったとは…

 

 確かにここは忍術に一定の制限が掛かる環境下であり、こちらには"龍刃"という武器もある。本来の実力差をある程度無くせているかもしれないが、だとしても厳しい戦いになることは間違いない。

 なんとか水月を抑えサソリさん達に敵愾心を悟らせず、その上でお二人に見逃して貰えるように交渉を…そして出来る限りハレンチ博士に迷惑が掛からないようにしなければ…いや、あまりにも無理難題では? 

 

 そもそも今の私は一体何者なんだ? 

 ハレンチ博士の部下? 暁の方々の取引相手? 

 敵なのか味方なのか? 私の目的は…刀造りで揺るぎないが、私の立ち位置は? 

 

 一体私はどこに行こうとしているんだ? 

 …分からない、何故こんなことになってしまったんだ。

 

 

 

 ただ龍を食べたかっただけなのに。

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