霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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サブタイから分かるように――"特に何も起こりません"…多分。



水面下の火種

 木ノ葉の里に存在する建造物、その屋上に立った村雨はその近くで購入した望遠鏡で周囲を見渡していた。

 

 木ノ葉の忍は勿論、雨や滝、草や砂の忍をちらほら見掛ける。

 中忍試験開催日が迫り、木ノ葉同盟国の下忍達が集まってきているのだ。すなわちそれは各里の忍具が一堂に会する瞬間とも言え、ここ最近の私は晴れ晴れしい気持ちで人生を謳歌していた。

 

 先程里に入ってきた雨隠れのおじさんなどは特に良い、何本か背負った傘からは全て千本の良い匂いがする。

 恐らくその傘から無数の千本が一斉に飛び出す仕組みなのだろう。匂いからして千本の質も悪くない。あれならば厚さ数ミリの鉄板であっても貫けることだろう。

 

「……とはいえ思ったよりは忍具を持ってきた人が少ない」

 

 クナイや手裏剣などの基本忍具を持った者は数人いるが、大半が鈍ばかりだ。

 やはり下忍の身で業物を入手するのは難しいのかも知れない……。ならば受験生の引率で来ている上忍達を観察してみようと思ったのだが、さすがは上忍というべきか、仮にも同盟国であるとはいえ警戒しているらしく、全く見つからないのだ。

 

「はぁ……刀の匂いも見つからない……」

 

 心の栄養の供給不足にため息が出る。

 各里の忍が集まると聞いていたのでもっとたくさんの忍具を見かけられるかと思ったのだが……。それこそ数日前にアスマさん達との会話で出た草薙の剣の一振りでも持ち込んでくれる人などはいないものか……。

 

 

 そんな願望に浸っていると業物の刀の匂いがした。何と都合の良いことかこの匂いは草薙の──

 

 

「……違った」

 

 匂いの方向へ視線を向ければ目に付いたのは滝隠れの忍達3人組。

 その中の中央の男性が背負った良い匂いを放つ刀、それは私が霧隠れの里にいた頃に自里の中忍の方に売った『叢雲の剣・青雲』だ。

 

 そういえば、その時の買い手はあの刀を買って1年ぐらい後に任務で戦死し、身ぐるみを剥がされた状態で見つかったと聞いた。

 どうやら滝隠れの忍に奪われ、巡り巡って中忍試験に挑むあの下忍の男性の手に渡ったのだろう。

 

 他里の者にも自作の刀がちゃんと評価されているらしいのがとても嬉しく、心が温まるのを感じる。その快感に浸っているとまた微かに覚えがある匂いがする。

 これは最近に造った刀の匂いなので間違いはないと答え合わせの様な感覚でその匂いの方向へと視線を向ければやはり見知った顔、砂隠れの忍であるカンクロウがいた。木ノ葉の忍、それも良く見ると以前お会いしたカカシさんの部下の方々と何やら揉めている様子だった。

 

 包帯と傀儡人形越しということもあって匂いが薄いが私の造った刀の匂いがすることに再び心が温まるが、彼らの状況はそれどころではないようだ。このままではいけない。

 足元にチャクラを集めて地面を蹴って彼らの近くへ着地する。砂隠れでは忍術の心得があることを隠していたので、彼らの前に直接姿を見せる訳にはいかないのだ。

 

 

「テメェ木ノ葉丸を放しやがれー!」

「ムカつくじゃん、お前──っ!?」

 

 そうして地面に降り立つと巻物から二本の刀を取り出し、今なお言い合いを続ける彼らの足元へ投げつける。

 突然足元の石畳に突き刺さった刀に彼らは怯み争いを止める。今なら大丈夫だろう。

 

「両者とも、冷静に聞いて……。戦いは優れた武器を持つ者が勝利する……。その刀はどちらも五千両で売り──」

「何すんじゃんこの刀馬鹿ッ!?」

 

 足元の刀を拾ったカンクロウがそのままその刀を投げつけてくる。

 水化の術さえ使えば棒立ちでも問題ないのだがここは一先ず避けておこう。

 

 避けた刀が地面に落ちたことで響くカラカラという耳が幸せになる音を聞き終えると、目の前のお得意様へと視線を向ける。

 

「カンクロウ、あの『長刀・鉄切』は私の刀の中でも中の下くらいの切れ味なので……その……投げると危ない」

「テメェ自分の行動と今の言葉もっかい良く考えてみろ!?」

 

 失礼な、私がやったのは自身の刀のパフォーマンスなのでまったくの別物だ。

 それにしても往来の真ん中で喧嘩する程だったのでこれは刀が売れる状況と思ったのだが……どうやらそういうわけでもないらしい。残念……

 

「ぅ……ぐぐ……」

 

 刀を造るのは得意なのだがどうも刀を売るのは上手くならない、と悩んでいるとカンクロウが胸倉を掴んでいた少年から苦しそうな声が聞こえてくる。

 どうやら呼吸もままならない状態らしい。この状況から脱出するために刀は如何かと言えば売れるかも、いやしかしまだ幼い少年だし刀を買うお金はないだろう。由緒正しい血筋の少年でお小遣いがたくさん……なんてこともないだろうし……

 

 などと考えている内に木の上から飛んできた小石がカンクロウの腕を襲い、その手から少年を放させる。

 木の上に視線を向ければ、何時ぞやの断刀首斬り包丁をそこらの忍具と同一視する黒髪の少年が枝に座していた。しかし木の上に小石などあるはずもないだろうし、小石を拾ってからわざわざ木の上に登ってカンクロウに石を投げたのだろうか……。中々の演出家だ、刀売りのパフォーマンスとして参考にした方が良いのかもしれない。

 

「おいガキ……降りて来やがれ」

 

 背負っていた"カラス"を降ろしながらカンクロウは黒髪の少年へと挑発をする。

 どうやらただの喧嘩から"カラス"をも使う本格的な戦いへと移行するつもりらしく、カンクロウの姉テマリさんも少々頭を痛めているようだ。

 しかし本格的な戦いになるのであれば普段あまり見れない"実戦"での私の刀達の輝きが見れるかもしれない……

 

「やめろカンクロウ──里の面汚しめ……」

 

 期待を抱きつつ見守っていたが不意に木の上からもう一つの声がした。

 テマリさんとカンクロウの弟──砂隠れの忍の中でも珍しい忍具の類いを一切持たないお得意様の真逆の存在……お苦手様?の我愛羅君の姿がそこにはあった。

 

 その後は二、三言の言い合いの末カンクロウが委縮したことで決着がついたらしく、カカシさんの教え子さん達に自分達の立場を明かしてこの場を去っていった。

 去り際に我愛羅君がカカシさんの弟子の黒髪の少年、うちはサスケというらしい少年とどこか意気投合していたようだった。

 

 あのうちはせんべいの一族の生き残りだということに驚いたがそれ以上にあの我愛羅君とどこか親しげだったのも驚いた。

 彼は私同様に人付き合いが苦手な、いやむしろ人付き合いを嫌う気質があり、私の鍛冶場に無言で入り浸っていることが多いのだが……何となく雰囲気が近しいものがあるし通じるところがあったのかもしれない。

 

 ともあれ、それはそれとして刀が売れないのならば私もここにいたところで仕方ない。

 もといた高台の上に戻って来訪者の観察をしようとしたところで、カンクロウに襟を掴まれる。

 

「テメェはもう勝手にうろつくんじゃねぇよ! 何しでかすか分かったもんじゃねぇ!」

「観察するだけで何もする気は──」

「お前里を出る時に自作の刀は売らないよう言われてたのに今さっき木ノ葉の連中に売ろうとしてただろ!?」

「…………しまった……」

「あんた、もうあちこちで刀売ったんじゃないだろうな?」

「予約は貰った……でもまだ買ってくれる人はいなかった」

 

 半ば引き摺られながらの尋問に答えると砂の姉弟は共に頭を抱えている、若干怒りの色が見えたので彼らの末弟に救いを求めて視線を向ける。

 

「──どうでもいい、相手がどんな忍具を持っていようと……殺せば良い」

「……それは私の作品達への挑戦状?」

「分かった! もういいからやめてくれ!」

 

 切っても切れない砂の盾に私の作品達が一切通用しなかったトラウマに創作意欲が湧いてくる。

 霧隠れの里を出た日に造っていた『水刀・"牙"(仮名)』が父に妨害されずに完成していれば、或いは父に残していった傑作達があれば結果も違っていたかもしれないが、現状の手持ちではどうしようもない。どこかで鍛冶場でも使わせてもらえないかと思いつつ取り敢えず売り言葉は買っておく。

 

 しかしそれを見ているカンクロウからすると、狂人と化け物の競い合いなど冗談ではない。もし万が一我愛羅の絶対防御さえ切り裂く妖刀が生まれる、若しくはそれに及ばずとも我愛羅に何らかの刺激を与えるものが生まれるような事が起きたりすれば、それこそ冗談では済まなくなる。

 

 中忍試験が開始されるまでこの2人と共に、開始しても片方とはずっと一緒に行動せねばならないということに胃が締め付けられる。

 とにかくさっきのように不用意な行動だけはすまいと己に誓うのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 一方、木ノ葉の里に存在するある一室に木ノ葉の上忍、特別上忍の者達が集められていた。

 そこではつい先程まで中忍試験への参加者を各々の担当者達が推薦をしていた。

 

 今年アカデミーを出たばかりの新人全員が推薦されたことで一悶着も起こったが何とか決着が付き、中忍試験参加者の推薦の時間は終わりを迎えた。

 しかし三代目火影、猿飛ヒルゼンは丁度上忍達が集まったこの場でもう一つ、自身の息子であり目の前にいる猿飛アスマから報告を受け探っていた情報についてこの場で話すことにした。

 

「これは別件になるのじゃが──今この里には『霧隠れの刀姫』が入り込んでおるそうじゃ」

「「っ!?」」

 

 霧隠れの刀姫、それは村雨が自作の刀を売り始めていた頃の異名であった。

 七人衆の忍刀を造り上げた彼女の先祖である天才刀匠である村正の再来とまで言われる程の才覚を幼いころから示したことで、その腕と血筋からそう呼ばれ他里にまでその異名は届いていた。

 もっとも、いつの頃からか霧の里ではその異名は『霧隠れの狂人』へと塗り替えられ、その異名で彼女を呼ぶ者など誰一人としていなくなったのだが……。

 

「霧の里に潜り込んでおる根の者からの確かな情報じゃ。今霧の里では水影が彼女の捜索を水面下で進めておるらしい」

「……やっぱりかぁ」

 

 ヒルゼンの言葉にカカシとアスマは頭を抱える。

 あの刀への傾倒振りにはただならぬものを感じたし、『草薙の剣』の一振りを見ながら刀を造ったという過去話に鍛冶の名家出身ではないかと思っていたが、外れて欲しかったと思う程大きなヤマに当たったらしい。

 

「あの霧隠れ最高の刀匠の一族じゃないですか……。どうやってこの里に?」

「それなのじゃが……砂隠れから来た刀匠として正規の手続きで入ってきておるのだ」

「え?」

 

 一同の驚いた顔にヒルゼンは机に肘を置き、その手に自身の頭を預けると今入手している情報を共有する。

 

「どうやったのか知らんが砂の里で自身の立場を造り、正規の手続きでこの里に来た。……つまり彼女はまっとうな客人であり現に何か暗躍している様子もないのが現状じゃ」

「……一応、彼女の目的は私が"鬼人再不斬の首斬り包丁"を手にしたと思ったらしく、それを目当てに接触してきたそうですが……」

「砂から木ノ葉に来た理由がそれであることは恐らく事実じゃろう……。そして彼女と接触し、彼女からただならぬものを感じたカカシとアスマの判断で今のところは中忍試験が終えるまで留めておる」

 

 カカシの補足に頷きつつ、情報の共有を進めていると自身の目の前の上忍達、その最前列に並んだ夕日紅が挙手をする。

 

「幻術による情報の尋問、或いは身柄の確保は必要とお考えですか?」

「……無論考えたが……現状は何もしていない事に加え、正規の手続きで砂から来た客人という立場がある。今不用意に手を出せば砂、そして霧との間に木ノ葉が争いの種を撒くことになるやもしれん。"根"も同意見らしく、今はまだ手を出さんというのが結論じゃ」

 

 場合によっては砂と霧を同時に相手取ることになるという可能性、"忍の闇"との異名を持つダンゾウさえもが手出しを躊躇う程のそれに『霧隠れの刀姫』というのは随分と世渡り上手なのだと否応なしに理解させられ、上忍という実力者をしてどれ程の計算の上で各里を渡り歩いているのかと戦慄させられる。

 

 短い時間ではあるが、彼女と関わったカカシとアスマは何やら思うところがあるのか顔を顰め首を傾げているのだが、少なくともこの場では何も言わないことにしたようだ。

 

「とにかく後に資料は渡すが現状は彼女には手を出さないこと、そして決して一定人数は彼女から目を離さぬことだけは覚えておけ……以上じゃ」

「「はっ!!」」

 

 

 

 こうして自身の知らぬところで進んでいた会議など知らぬまま村雨はカンクロウに引き摺られながら中忍試験の開催日を首を長くして待つのだった。

 

 

 

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