霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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もう一つの取引

 村雨とその連れが狩り残していった土源龍を同じく残していった龍刃とやらを使って解体していく。

 鱗や甲殻は人形の表面に張り付けて防御性能の向上に確かに役立ちそうだ…そして巨体だけあって防腐処理を施せば巨大傀儡の材料として確かに適していそうだ。

 

 問題はこんな巨体の防腐処理をするとなるとかなりの労力となることだが…まぁ自分のコレクションの中でも類を見ない素材と作成計画なのだ。一山いくらの忍を素材に真新しさを感じない作業をするよりよほど気が楽だ。

 …まぁ気が楽、というには背後から刺さる不満気な視線が些か野暮ではあるが。

 

「…なんだデイダラ? 本格的な処置はちゃんと場所を改めてするさ。そんな待たせたりはしねぇよ」

 

 現に今やっている作業は人傀儡を造るにあたって素体となる者を持ち出す際に普段から用いている収納、運搬用の傀儡を使う為の作業だ。

 流石にこれ程の巨大な生物となると普段使っている傀儡達でも些か支えきれない、傀儡化する際に不具合の生じないように気を払いつつ頭部、胴体、前脚、後脚…場合によってはそこから更に関節毎のパーツに解体の必要は不可欠だと語るもデイダラの顔は険しいままだ。

 

「オイラが気にしてんのはこの女を放置してることだ、うん。…厳密にはコイツじゃねぇがな」

 

 その言葉に一応手を止めて振り向いてやるとペリカン型の起爆粘土の鳥に首から上…頭を丸々咥えられている偽雨の姿があった。

 どうにも奇妙な環境の影響か…自身の傀儡糸の動きが本調子でないのと同様にあの粘土も本来よりもチャクラの練り込みが薄いのだろうが…それでもアレを起爆させればあの女がどうなるかは…まぁお察しだろう。

 

 一方、鳥に頭を咥えられ、実質断頭台に括られた状態の偽雨本人は抵抗の素振りもなく、ただただボーっと突っ立ているようだが…唐突に茶屋を建てる事と言い、先程発覚した一件の事といい、どうやら想像していた以上に肝が据わっている──いや、頭のネジが抜けているようだった。

 

 さて、それはそれとしてデイダラの言い分だが…まぁもっともだろう。

 話を聞く限り"取引の成立"に関しては問題ないそうだが、この女が元々自分達を欺いていたのは事実…こんなガキに騙されていたということも騙された経緯自体も何もかもが気に入らず、普段の自分ならばこの場でオリジナルも目の前の偽物も纏めて殺し──痕跡なく消していただろう。

 

 そうすればわざわざ組織の連中への報告もなく、あの女は取引の3年の間に何かがあって姿を消し、自来也と九尾の人柱力の情報を得るルートの1つが無くなった。

 それだけの判断で終わるのだからそれで良い、実に簡単な話だ。

 

 だが今この女を殺すには、その普段の自分と今の自分の状況はあまりにも違っていた。

 

 理由の1つは村雨が持ち込んだ"クシナダ"という巨大傀儡の設計案。

 これ自体は発想を得た時点で村雨の必要性は皆無であり自分1人で造ればいいのだが…肝心の巨大傀儡へ仕込む武器を相応のサイズで造る事を考えるとやはり切り捨てるのは難しい。

 

 クナイなり千本なりの発射機能と自作の毒を合わせれば殺傷能力の高い武器として十分なものは自力で用意出来なくもないが、そんな仕込みで済ますならばそもそも巨大傀儡である必要性もない。

 かと言って村雨以外の刀匠を見繕ったとしてあの女以上の刀匠に心当たりはなく、そうなると妥協した作品という形で仕上げる事になる。

 おまけに"巨大な刀"なんて物珍しい物を発注したとなると多かれ少なかれ足が着く…気軽に処分するにしては何かと都合の悪い事が多い。

 

 

 といってもこれだけならば流石に見逃したりなどしなかった。

 あの女から大蛇丸の情報は多少なりとも得れたし、あの眼鏡が二重スパイである事も分かった…もうそれだけで十分として"クシナダ"作成を断念してでも処分する手もあったのだが…先日、ある男と密かに交わした取引がその決断を躊躇わせた。

 

 

 

 

 

 それは偽雨を用意した仕事場へと連れて行った日、その報告として組織での集まりが終わった後の事だった。

 

 イタチや小南などは興味もないのか会話もなく立ち去り、精々が顔見知りだったという鬼鮫が労い言葉を言い残して立ち去ったのだが…1人だけ相方が立ち去った後もその場に留まり、自分も少し残れと声を掛けられたのだ。

 

 同じ組織といえど親しいつもりもなく…むしろ村雨と最初にあった闇市での件で若干悪感情を向けられている相手からの呼び出しに何のつもりかと疑問を抱いたものだ

 

 デイダラは先に通信用の術を解き、その場に残っていたのは自分と呼び止めた男──角都の2人だけ…静かな空間に角都のマスク越しの重い声が響く。

 

「…お前達が巨大傀儡を造るという計画を立てているのは本当か?」

「あぁ…それがどうかしたか?」

 

 どうかしたか…と言ったものの大方想像はついた。この男とその連れが村雨の仕事場を用意したことからしてもリーダーから話は通っているのだろうが…それはそれとして組織の財布役を任されているこの男のことだ、闇市での一件と合わせて無駄な浪費はするなとの忠告だろうとその金への熱心さにある種の関心と呆れを感じていたのだが──

 

「何としても完成させろ、ただし手は抜くな。金が必要ならば用意する、遠慮なく言え」

「な、何があった!?」

 

 予想だにしなかった言葉に度肝を抜かれた。

 金にがめついこの男が今…金の交渉に遠慮するなと言ったのか? ──ありえない、一体どういうつもりなのかと思わず言葉を詰まらせたのだが──そんな態度を見せる理由も本人が理解しているのだろう。

 角都は微かに鼻を鳴らすと先程の捲し立てる様な勢いとは違う…普段の落ち着いた態度でマスクの下の口を動かした。

 

「勘違いするな、お前がした浪費を許した訳ではない、ただ今お前達が進めようとしている巨大傀儡に関しては個人的に援助する価値があると思っているだけだ」

「…分からねぇな。お前が他人に金を渡そうとするなんて余程だろう…何故そう判断した?」

「…俺がかつて初代火影…千手柱間と戦ったという話は知っているな」

 

 角都のその言葉に「あぁ」とだけ返事する。

 この男は禁術により、他者の心臓を取り込み寿命を克服し長い時間を生きている。

 その長い人生の中でも最も大きな出来事であろう話は以前に聞いたことがある…かつて所属していた里の依頼として木ノ葉の里の創成者…忍の神と呼ばれた初代火影の暗殺任務。

 

 結果としてこの男は敗北を喫したらしいが…初代火影と戦い生き延び、寿命をも克服した事で初代火影が亡き今も生存を続けているこの男の経歴は永久の美を尊ぶ自分にとってそれなりに評価しているつもりであり記憶していた。

 

 しかし、その話が今回の一件と何の関係がある? 

 

「千手柱間との戦いの中で俺は見た…あの男がその木遁で造り上げた山をも見下ろす程巨大な…千の腕を持つ観音像を…」

「…どうした角都、疲れているのか?」

 

 確かに千手柱間は忍の神として今なお語り継がれているが…いくら何でも度が過ぎるだろう。

 確かにあの千手柱間ならばそのぐらいの事も出来てしまうやもしれないが…それならそうとして目の前のこの男が何故生きているのかという疑問が湧いてくる。

 仮にその話が本当だとすればその千の腕に挽き潰されてこの男は肉片として地面に溶けていたことだろう。

 

「散々に打ち負かされて悪夢でも見たんじゃないのか? 若しくはトラウマのあまり無意識に脚色し過ぎたんじゃないのか?」

「…正直否定は出来ん…本当に俺はアレを見たのか? 悪い夢の様な気もする…だが、アレが夢だったにしても脚色にしても千手柱間ならばそれぐらいやり兼ねんのだ」

「…そうか」

「そしてやり兼ねない以上、俺にとって最早アレが夢だったかなど関係ない。何としても巨大傀儡とやらを完成させろ…奴のみが扱えた木遁秘術による力…それを傀儡と刀という技術のみで模倣…超越できるのならばこの忌々しい記憶も払拭できるというものだ」

「…そうか」

 

 いつになく熱くなっているようだが…正直傍らから見ている限りボケた様にしか思えない。

 或いは長い年月を過ごす内にそういった弊害が起きているのやもしれない…永久の美を志す以上その辺りの対策を考えておいた方が良いかもしれないと思えてくるが…それはそれとしてそのおかげでこの男の持つ莫大な金が好きに出来るというのならこれ程都合の良いこともない。

 

 巨大な傀儡…それを造る者が自分である以上技術に関しては何の問題もない、武器に関してもあの女の作品を見る限りそう心配もないだろう。

 ならば残る懸念事項としてはその開発費、材料費だったのだが…この男の金を使えるとなればそれも最早あってないようなもの…残るはその素材として適した物を吟味するだけで良い、いよいよ現実味を帯びてきた計画に少なからず心躍る。

 

 

 

 何なら巨大傀儡開発費と偽りその他の傀儡作成、コレクション集のアップグレードにも流用出来るかもしれない。

 

「──とにかくそういう訳だ。巨大傀儡開発で金が必要なら連絡を寄こせ、何に使うのかの資料も忘れずにな」

「………そうか、分かった」

 

 流石にそれ程甘くはないか、つくづく金に五月蠅い奴だ。

 まぁ良い、ひとまず一番の問題である"クシナダ"開発に充てられるならそれで良い、有難く使える限り使わせてもらうとしよう。

 

 …それに所詮角都とて傀儡について専門的な知識はない、ならばいくらでも誤魔化しようはあるだろう。

 

 

 

 ──とにもかくにも、こういった経緯で自分の手元に莫大な金が流れてくるようになったのだ、といってもそれも"クシナダ"開発の話があればこそ…ここでこの女を失えばその話も無かったことになる。

 

 リスクとリターン…それを天秤に掛けての判断だが取引材料である情報の入手に問題はないと言うし、取引に含まれない情報すら今回手に入ったのだ…リスクとリターンで言えばリターンの方が遥かに大きいと言えるだろう。

 

 といっても、このまま放置しているとデイダラが自己判断で偽雨を殺しかねない。

 いつまでもこの様な不満気な視線を向けられ続けるのもいい加減煩わしい。

 仕方ない…これまでの話を明かしその流用金の2割を渡す代わりに今回の判断に従う様に交渉するか…。

 

 一瞬の美だとかいうその方向性自体は到底相容れず、理解に苦しむが…奴とて造形家、材料費に加えインスピレーションを得る為のアート鑑賞の費用など何かと金が掛かる以上、無視は出来ないだろうと考え、その旨の交渉を持ち掛ける。

 

 その後は角都とそんな取引を結んでいた事についてあれやこれやと文句を言われ、4割寄越せだの噛み付かれ無駄な苦労をする羽目になった。

 存外とこいつも抜け目のない奴だと認識を改めつつも3割で決着をつけるのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 粘土細工の鳥に頭を咥えられ真っ暗な視界の中で聞こえてくる金銭の取引に若干戸惑う。

 

 彼らの組織の仲間が"クシナダ"開発に価値を見出し支援してくれるというのは実に喜ばしいことだし、お二人がそれを利用し自分達の造形活動をより良い物にしようとするのも1人の造形家として理解できる。

 

 …理解は出来るがそれはそれとして折角支援して頂けるお金を横領なんてして良いのだろうか? 大きなトラブルにならなければ良いのだが…

 

 …トラブルといえばアレから村雨と水月はどうなったのだろうか? 

 暁の方々と交渉を結ぶ日の前日に『閃刀・黄華』という高速移動の手段を得ていた事からしても、帰還についてはちゃんと考えあってのことだろうが、問題は水月のしていたハンドサインだ。

 

 貴重な長い付き合いの相手と他でもない私自身なのだ、何事もなければ良いのだが…今頃果たしてどうなっていることやら…。

 

 辛うじて上手くいったから良いものの…結局サソリさん達には私がハレンチ博士(自来也さんでなく大蛇丸さんである)の下に所属しているということもバレてしまった訳だしこれから私は大丈夫なのだろうか? 

 サソリさんとデイダラさんは私の事を組織の方々に打ち明ける気はないらしいが…何か不都合があればその限りではないだろう。

 

 どうしたものか…折角落ち着ける環境造りとして茶屋を設立したというのに今後は気の休まらない生活かと思うと気が滅入る。

 

 

 

 いや、弱気になってはいけない。

 そもそも始まりは気の休まらない暁の方々の情報集めを安全にするための茶屋の設立だったのだ。

 ならば私のやるべき事は変わってないし、今も状況は何一つ悪化などしていない。

 

 少しでも彼らからの印象が良くなるように、出来ることを躊躇うことなく頑張ろう。

 

 色々大変だらけで色々迷うことだらけで、やはり覚悟が必要だ。

 刀造りの道に絶対近道なんてないのだと。

 

 

 …それはそれとして盛大な"回り道"に私を巻き込んだオリジナルは深く反省して下さい。

 

 

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