霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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日常回です。
今回、冷凍マグロが出る予定でしたが世界観的に冷凍食品が存在するのか微妙だったので鰹節にしました。
自分でも何を言っているのかちょっと分かりません(笑)


謹慎生活

 早朝、香燐さんから届けられた朝食を食べながら同時に水月から届けられた刀の素材をジッと見つめる。

 鉄などの基本的な素材とそれぞれ土遁、火遁と書かれたラベルの付きの血の入った瓶。

 

 個人情報物質から性質変化を引き出した刀を造るなど慣れたものだ…とりあえず依頼の4万本を目指し、最初の1本目を造るとしよう。彼の六道仙人が扱ったという芭蕉扇を参考に土遁と火遁を切り換えて使える様なものにしよう…まだ1本の刀で5つもの性質変化を宿すことや2つの性質変化を同時に使える様な造りは難しいが、2つぐらいならできるだろう。

 

 造り始めて思ったのだが土遁と火遁で2本造る方が目的の4万本の刀を完成させるには良かったのでは? 

 ……まぁ良い、質の良い物を造る方が楽しくてモチベーションを維持できる、何より量も質も兼ね備えてこその職人というものだ。

 

「とりあえず2つの性質変化を持たせる以上それなりの大型の刀になる事は確実…首斬り包丁のサイズまでいくと使える人が限られるからそれよりは小型に…その分術式の効率化を…」

「フフ、無理難題を振られたというのに…熱心なものね」

「ハレンチ博士? すみません、今は少し手が一杯で…新作のご相談でしたら暫くお待ちして頂ければ」

「構わないわ。少し質問したいだけだから」

 

 はて、新作の刀でないならハレンチ博士が私に何か聞くようなことでもあっただろうか? 

 

「昨日水月とどこかへ行っていたらしいけれど私に黙ってどこへ行っていたのかしら?」

 

 あった。

 

「水月から聞いても良かったのだけれどね…大方、貴女の立案でしょう、貴女の口から答えてもらおうと思ってね」

「…ちょっと…"龍地洞"? を目指して"降龍山"へ」

「………そこ、全然違うところなのだけど?」

「やっぱりそうなんですか? 水月にもそう言われて…私としては自信があったのだけど…」

「言っておくけど"龍地洞"は道を知らないとそうそう辿り着くことの出来ない秘境よ、大まかな位置だけ知っても到底踏み入れることなんて出来ないわ」

「なんと…では私の計画は始めから破綻していたということ…」

「まぁそもそも別の場所と間違えていた時点でこれ以上なく破綻しているのだけどね」

 

 ハレンチ博士が辛辣だ。しかし仰っていることはもっともだ。

 

「"龍地洞"なんて名前だから龍と縁があるのかと思った」

「龍ではなく蛇ね。龍は蛇より優れた存在とされることが多いけれど、時折彼らは同一視されることもある、ならば大きな力を持った蛇は龍と相違ないと言えるわね」

「なるほど…では私の目の前にいるハレンチ博士はどちらですか?」

「私は蛇じゃないし龍じゃない、人間よ」

 

 ……えっと…。

 

「冗談よ、そうね敢えて言うなら…龍になりたいと思いながら未だ地を這う蛇かしら?」

「ハレンチ博士の冗談は反応に困る」

「それはこちらのセリフね。私が自らを龍と言ったなら途端に手を出してきそうな目をしていたわ」

「……次からは目を閉じておく」

「目上の人と話すときはちゃんと顔を見て話すのが礼儀よ」

 

 それはそうなのだが…自分が不躾な視線を向けていたとなると些か恥ずかしいのだ。自分では気づかなかったがまさかそんな目をしていたとは…

 

「ま、そんなことはどうだって良いわ。それで? 仮に"龍地洞"へ着いていたとしたら仙術チャクラを扱う術はあるのかしら?」

「現物を直接身に宿した訳ではないので断言はできないけれど…出来ないことはないはず」

「そう…ならいつか連れて行くことを考えておくわ」

「っ!? 本当ですか?」

「えぇ、そうね…私が蛇から龍へと成る器を得た時に、貴女と私の関係が今のままならね」

 

 つまり怒らせるような事しなければ良いということか、少なくとも暫く鍛冶場に籠ることになるのだし怒らせるようなことはまずないだろう、案外簡単な条件だ。

 

「──ところで、"龍地洞"ではなくて"降龍山"に行ったと言っていたわね。そこで何かと会ったかしら?」

 

 サソリさんとデイダラさんにお会いして色々とバレました…と言ったら多分怒るだろうな…。

 

「"土源龍"という龍に会いましたが勝てなかったので逃げ帰った次第です」

「……そう。五源龍が実在していたというのは興味深いわね。──また今度詳しく聞かせてもらうわ」

 

 ハレンチ博士はそれだけ言い残すと部屋から出て行った。

 とりあえず誤魔化したが…果たして通用したのか、判断に困るがこの場でどうこうされなかったのならば一先ずそれで良い。

 

 ハレンチ博士から"龍地洞"へ連れて行ってもらえるかも…となったのも収穫だ。

 水月へのお詫びを進めながらその内"龍地洞"へ行けるのならばこれほど都合の良い話もない、そうと決まれば刀造りを再開することにしよう。

 

 

 

 それから暫く後、水月から新しく水遁と書かれたラベル付きの血の瓶と、『赤胴ヨロイ』と人の名と思わしきラベル付きの血の瓶が届いた。

 特有の能力を持った人物の物なのだろう、今の作業が一段落したところでそちらに目を向けると何でもチャクラ吸収の能力を持った人物なのだと説明の資料が付属されていた。

 

 やはりチャクラ吸収能力というのは鮫肌の強さを思い出して憧れる。

 以前に次郎坊さんの細胞を拝借して造ったこともあるが鮫肌の性能には到底及ばなかったし今度こそリベンジしてみたいものだ。

 十全に活かして造るには…と熟考している内にだいぶ時間が経ったのだろう、香燐さんから昼食が届いた、おいしい。

 

 昼食を食べ終えて作業を再開しようとしていると水月に頼まれたと言って重吾さんから新しく素材として『鬼童丸』というラベル付きの血の瓶と『木ノ葉のトビヒル』とラベル付きの中々のサイズの蛭がビッシリと詰まった飼育ケースが届いた。

 

 戦死された四人衆の方々の個人情報物質もストックとして残されていたらしい、それを分けて頂けるのは嬉しいが…それよりも一緒に届いた飼育ケースに目が行く。

 

 い、生き物? 

 

 少々面食らったが考えてみれば以前にも寄壊蟲の一種を素材に使ったこともあるしこれはこれで悪くない。

 それにしても故人の細胞の一部は勿論、国固有の生物も保管されているとはハレンチ博士の収集欲の強さには舌を巻くばかりだ。

 

 それはそれとして、気が付けば素材の方が溜まり出している。この調子では次に素材が届く時に私の仕事が遅いと思われるかもしれない。

 ……よし、次も幾つかの素材を混ぜて造ってしまおう! 

 

 

 

 1ヶ月程経った、基本性質変化や特異忍術を活かした刀など中々の物が完成した…のだが……届く素材の量の割には完成した刀の本数が少ない気がする、何故だろう。

 

 まぁ良い、とりあえず次の刀を造るとしよう。

 朝食前だがつい先程に水月が新しい素材を持ってきてくれたし、それに目を通しておこう。

 

「か、鰹節?」

 

 よもやの食べ物!? いつも素材を置いていく台の上に削る前の鰹節の塊が無造作に置かれている。

 いや…確かに削ってない鰹節はかなりの硬度だと聞いたことはあるがこれは明らかに刀の素材ではないだろう。

 

 ……いや、ひょっとしたら流石に私に素材を回し過ぎてハレンチ博士に怒られたのかもしれない。仕方ない、この鰹節でも何か出来るかもしれない、出来る限りのことはしよう。

 

 

 

 その後鰹節を刀にしようと四苦八苦している内に今度は白米と焼き鮭、お味噌汁とだし巻き玉子が届いた。

 おかしい、刀の素材ではなくて食べ物しか届かなくなった。

 

 いくらなんでも悪ふざけが過ぎるだろう。

 流石の私でもこれは無理がある、これでどうやって刀を造れというんだ。

 

 ……いや、長期任務で戦場に滞在している忍にとって食材の匂いというのはある意味では恐ろしい武器になるのでは? 

 常にベストなコンディションでいられる保証などどこにもない。どこからともなく漂う食欲を誘う匂いに釣られ、安全の確認もおざなりに休息を取り始めたり、限られた食料、兵糧丸などに手を出し始めたら完全に思うつぼだ。

 

 更に五感に深く関わる幻術などにも相性が良いかもしれない、匂いを嗅いで気を取られたらそれだけで即座に幻術の中、視覚に訴える瞳術と違い本人が姿を見せる必要が無いのも良い。

 

 とりあえず最初はこの白米に注目し、鞘から抜いた瞬間に飯盒を開いた時のような柔らかさと香ばしさを合わせ持った匂いを放つ設計にしてみよう、確か2日位前に風遁系の血を渡されていた、あれで指向性を持たせれば持ち主には影響もなくせるはずだ。

 

 なんだ、やはり何事も発想力があれば解決できるということだ。

 よし、この閃きが薄れる前に早速形にしていくとしよう。

 

 

 …それはそうと今日は朝食が届くのが遅い気がする、お腹空いた。

 

 

 

 更に1ヶ月経った。

 何でもサスケ君の修行で遠征に出ていたらしいハレンチ博士が捕えたという女性を丸々そのまま頂けた。

 

 草隠れの里という小国の忍らしいが、ハレンチ博士が始末せずに捕えてくる辺り優秀な忍なのだろう。

 猿轡をされこちらを睨んでいるが顔色は青ざめている、恐らくだが拘束具として使われている両腕を噛みながらその胴体で締め付ける毒蛇の影響だろう。

 

「毒蛇…あっ!」

 

 その姿を見て脳裏に電流が走る。

 "龍地洞"にはいつか連れて行ってもらえるかも…という話だがそれはそれ、万が一サソリさん達との取引がバレてその約束が消えるとも分からない。保険が出来そうならば遠慮する必要もないだろう。

 

 部屋の隅に積み上げられた使用予定の素材達へ駆け寄って山の中から3日ほど前に届けられた物を掻き出す。

 

 水墨で"霧国"と書かれたラベル付きの黒い瓶…そう、焼酎だ。

 私は年齢の都合飲めないのだが、酒造というのには少々興味があって多少の種類は知っている。

 

 そして以前に考えた、仙術チャクラを持つ者を食すことでその存在ごと仙人チャクラを取り込むという手法。

 "降龍山"と"龍地洞"の勘違いで失敗したが、今度こそ仙術と関係が伺える、ハレンチ博士の蛇がここにいる。

 

「……よし」

 

 今日この女性を連れてきたハレンチ博士は「偶然捕まえたわ、良ければ好きになさい」と言ってこの女性を置いて行ったが…ならばその"付属品"も好きに使って問題ないだろう。

 

「…マムシ酒」

 

 確かお酒に漬ける前に蛇の方にも何かと下準備が必要らしいからとりあえずこの昼食用に持ってきてもらった竹筒の中に掴まえて閉じ込めておこう。

 

 流石はハレンチ博士、蛇は良く教育されているのか私が女性の腕に触れれば何かしら処置をすると判断したのか、締め付けを緩めた。

 その隙をついて蛇の胴体を掴み、そのまま竹筒の中に押し込む。

 

 竹筒の中で暴れているのかカタカタと音を立てているが、その内口寄せを解除して消えてしまうことだろう。

 それでは困るので先月造った"白刃抜き"を使うとしよう。

 

 鞘の中から白米の如き白い刀身を解き放つと食欲を刺激する甘美な匂いが鼻を擽る。

 蛇は角膜を閉じ視覚を絶つことが出来る、つまりは瞳術による幻術は効かないが、嗅覚は別だ。

 舌で匂いを口内に送り嗅覚感知をする蛇にとってはまさしく抗うことの出来ない究極幻術と言えるだろう。

 

「これで良し。後は老廃物等が抜けるのを待ってお酒に漬けよう…それとヨロイさんとやらの人の細胞を交えたこのチャクラ吸収の刃で…」

 

 そのままお酒に漬けただけではチャクラが得られるかは分からない。

 だから下準備が終わったらこの蛇をチャクラ吸収の刀で刺した状態でお酒に漬ける…これで傷口からチャクラが漏れ出してお酒に混じるはず…刀の方に吸収したチャクラの放出機能も付けておけば更に良いだろう。

 

 思わぬところで仙術チャクラを得られるかもしれない…あと初のお酒への期待も膨らむというものだ。

 …まぁ初めてのお酒がマムシ酒というのも些か背伸びし過ぎな気もするが…そもそもこの蛇はマムシなのだろうか? 種類が分からない。

 

 

 …いけない、これをマムシ酒と銘打つのは良くない。

 先人達の歴史に失礼だ、かといって縮こまった名前に変えるのも折角のワクワク感が台無しだ。

 

 仙術チャクラを得られるお酒として格式高く、かつ他のお酒への失礼にもならない名前か…。

 よし、"選りすぐり"の"栄養価"の高い"蛇"の"お酒"として、このお酒の名前は──

 

 

 

選栄蛇酒(せんえいじゃしゅ)…これでいこう」

 

 

 

 中々良い名前になったと思う、とりあえず蛇を入れる予定の酒瓶のラベルを貼り変えて名前を書いておこう、完成が楽しみだ。

 

 名前も知らないがこの女性には感謝をしなくては…それはそれとしてこの女性はどうしたものか…正直今のところは持ち込んでもらった素材が飽和している状態だ、中には早めに使わないと傷みだしてしまうものもある…いや何故そんなものが当たり前の様に刀の素材として持ち込まれているのかは分からないのだが、まさかとは思うが水月やハレンチ博士、適当な素材で私がどこまで刀を造れるか…みたいな大喜利感覚で楽しんでいるのではないだろうか? 

 

 …まぁいい、それならそれで期待に応えるだけだ。

 

 さて、この女性をどうするかだが…

 

「完成した刀を持った時にどう見えるか確認したい、これを持ってそこに立ってほしい。ポーズもあると嬉しい」

 

 刀を造ったらすぐ次へ…というのも別段苦ではないが潤いが少ないのも事実。

 それに完成したらちゃんと人に持ってもらった状態の姿を見てみたいというのもある、私が造った刀のあるべき姿を見ると言うのは心が潤うし丁度良いだろう。

 

 何故か女性から私を殺さないのか聞かれたが流石に仕事場で流血沙汰は避けたい。

 仮にここが自室でこの人の能力が刀の素材として優れているのならば考えなくもないが…今はこの人の能力を知らないしここは鍛冶場だ。つまり私が彼女を殺す理由はないし殺さなくて済むのならばその方が良いだろう。

 

 そう語ったところ女性は納得がいかない様な複雑な顔した後に手渡しした刀を持ってポーズを…したかと思えばそのまま私に向かって思いっ切り振るってきた。

 水化の術が間に合ったから良かったもののあわや大惨事だ、しかし全力で振るわれる刀の姿は良いものだった、頑張って造って良かった。

 

 ただ危ないものは危ないんだ、彼女には少しだけ注意しなくては…と思った時には女性はドアを蹴り開け、その勢いのまま廊下へと飛び出して行ってしまった。

 どうしよう、止めた方が良いとは思うのだが…水月から鍛冶場からの出歩きは禁止されているし諦めよう。

 

 さて、次はどのような刀を造ろうか…出来る限り足の速いものから使っていかなくては…献立というのは難しい。

 …やっぱり素材がおかしい気がする、流石に水月を怒って良いのではないだろうか? 

 

 目の前に並ぶ愉快な品々に頭を悩ませていると廊下の方から女性の悲鳴が聞こえてきた。

 大方ハレンチ博士に見つかってしまったのだろう、やはり止めた方が良かっただろうか? 短い間だが恩のある人なんだ、せめて牢屋に収容で済んでくれていると良いのだが…。

 

 女性の無事を祈りながら果たして何日目なのか、四万本に向けての1日を邁進していく。

 今日も実に良い、実りのある1日だった。




朽木_さんから支援絵を頂きました。
唐突にぶん投げられた(感想欄参照)ものですが、作者としてはペイン戦でぶん投げられた螺旋手裏剣の如き威力を感じ人間道の様になりました。


【挿絵表示】

朽木_さん、素敵な支援絵本当にありがとうございました。
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