竹林の中に建てられた鍛冶場、その縁側に立ってジッと庭を眺める。
"クシナダ"完成の為、素材として巨大な生物かつ通常の忍術に対して強い耐性をもつ源龍の鱗を使ってはどうか…とサソリさんを手引きしたまでは良かったがとにかく予想外の事がありすぎた。
まさかオリジナルの村雨の記憶がハレンチ博士によって修復され、何を思ったのか彼女も降龍山に訪れるなど予想のしようもなかった。
そのまま次々と溢れかえるトラブルを何とか収め、奇跡的に助かってから早数ヶ月、現在庭で行われている作業に目を奪われているのだ。
降龍山から持ち帰った土源龍の亡骸をサソリさんが慣れた手つきでその形を変化させていく。
予め解体、防腐処理などを施して何をしているのかと思えば何と鱗や爪のみを素材として利用するのではなく、土源龍の肉体そのものを傀儡へと改造するのだという。
傀儡造形師の中でもサソリさんのみが造れるという人傀儡…通常の傀儡と異なり改造前の人間の持つ性質変化や特異な能力、チャクラなどをそのまま扱える特殊な傀儡だというが、この眼でその製造工程を目にするとその作業がどれ程緻密なものなのか焼き付けられる。
仕込み武器の為に肉体をくり抜きつつも、改造する肉体に宿るチャクラの経絡系を傷付けない様に計算された解体法…実に素晴らしい。
勿論サソリさん達も何かとお忙しいのだろう、常にここで作業し続けている訳ではないが、それでも既に全身の7割近くの改造が進んでおり"人傀儡"という名からしても本来は人体専用の技術を別の動物へ応用しつつこの作業速度なのだから恐ろしいものだ。
「…デイダラさんもいつもお付き合いして頂いて申し訳ありません」
「ま、こうも往復してりゃ一々気にすんのもアホらしくなったぜ、うん」
サソリさんが作業の為にここへ頻繁に通うことになったという事は彼とツーマンセルを組んでいるデイダラさんも同行しているということだ。
むしろ起爆粘土による移動手段を考慮するとこの体制で一番苦労されているのはデイダラさんなのだろう、慣れた…と言ってはいるがそれでも心苦しいものがある。
幸いデイダラさんもここにいる時は自身の粘土細工の作品制作の時間に充てている為、暇ということはないのだろうがそれはそれ。せめてものお詫びにと茶と茶菓子をいつも通りお出ししよう。
粘土細工の為手に粘土が多少付着しているから、茶菓子は羊羹を爪楊枝を刺した状態にし、一応お手拭きの布も一緒にお運びすると彼の手元で造られている作品が目に入る。
「新作の…それは龍ですか?」
「正確にはリメイクだ、うん。元々オイラの作品の中には龍の作品もあったんだが…まさか実際の龍を見れるとは思わなかったからな」
「なるほど、土源龍を見て造り直しされていると…しかし源龍には他にも4体いるのですから全てを見てからでも良いのでは?」
「あー…言われてみりゃそれもそうか。ってか、あの源龍っての全部狩ってくるつもりなのか、うん?」
「当然だ、こいつらの鱗はそれぞれ性質変化と同様の特性がある、それは長所だが逆に言えば全部揃えねぇと性能に穴が出来るだろうが」
離れていても会話が聞こえていたのか作業の手はそのままにサソリさんが会話に加わった。
そう、サソリさんの言うように土源龍の鱗は土遁の性質変化の特徴がある…通常の忍術を受け付けない特殊な鱗だが唯一雷遁に対しての抵抗が薄い…勿論それで致命的なダメージがある訳ではないがそれでも超大作にそんな弱点があるのは私としても認められない。
最低でも雷遁に対して強い耐性のある"風源龍"を…そしてその"風源龍"の弱点である火遁に対して"水源龍"を…そしてそうなると土遁に対して…いや、やめておこうキリがない、要するに源龍全ての捕獲は何としても達成したいということだ。
「てことは、またあの変な山に行かなきゃならねぇのか…面倒だな、うん」
「それについては問題ねぇ。そいつのオリジナルが置いていった龍刃を持たせて他の連中が狩りに行っている」
「そいつは意外だな、人柱力狩りより源龍狩りなんかを優先するなんてリーダーの奴随分協力的だな、うん」
「いや、最近五尾の確かな情報が手に入ったらしくてな…いよいよ人柱力狩りが本格的に始まるらしい、そうなりゃ"暁"の名も次第に知られていく…その内源龍狩りなんてやってる暇も無くなるからってのが大きいんだろう」
なるほど…人柱力というものが何かは知らないがそう考えると村雨が彼らと接触したのは随分とタイミングが良かったらしい。
「ま、何度も山登りしなくて済むならそれでいいや」
「おいおいデイダラちゃんよぉ、おかげで俺達が登山なんぞさせられたんだぜェ。ちったァ感謝してほしいもんだがなァ?」
うん? 聞き慣れない男性の声が──これは!?
何時の間にか庭に初めて見る男性が2人立っている、サソリさん達と同様の衣服を着ていることからして彼らの同僚さんらしいがそんなことよりも──
「大きな鎌ですね、それも刃が3つも…少々変わった形状ですが独特の威圧感と重厚感が中々…」
「なんだァてめえ?」
「あ、でも刃に血の臭いが…武器である以上多少仕方ないけれど、ちゃんと手入れしないと切れ味が落ちてしまうのに…手入れが苦手でしたら少々お借りしても?」
「オイ、何なんだこいつ!?」
「……何なんだろうな?」
「偽雨です」
…というかデイダラさんとはそれなりの付き合いにはなったと思うのだが私が何者かという問いに「何なんだろう」という返答はぞんざい過ぎるだろう。──と、いけない、目の前の鎌に目を奪われてついつい見落としてしまっていたが──
「こちらの方々は?」
片方は赤い大鎌を背負ったオールバックの灰色の髪が特徴の男性。
もう片方は黒いマスクで顔の下半分を覆い隠した大柄の男性…黒いマスクで顔の下半分を覆っているのはサソリさんもだがこちらの男性はフードで頭部全ても隠しており見て取れるのは黒と白が反転した目とその周りだけだ。
「飛段と角都、オイラ達と同じ組織の連中だ」
「そっちのマスクの方はお前の"クシナダ"制作に投資してる男だ、精々挨拶ぐらいしておけ」
「っ! なるほど、知らなかったとはいえご挨拶が遅れて申し訳ありません」
「構わん、それで…完成まではどれぐらいかかりそうだ?」
「規模が規模だからな、流石に1年程度じゃ収まらねェ…ガワさえ造ればその女のオリジナルに刀を造らせて実用可能には持っていけるが、仕込みを考慮するとそこから更に延びるな」
うぅむ、完成までの目途を改めて聞くと自分の出したアイデアながら長期企画過ぎる…サソリさん達の組織の業務を考えると中々完成までは遠くなりそうだ。
何よりこちらで意見を纏めて村雨に造らせるという工程があるのが難儀だ、私が造れれば話は早いのだが…こればかりは私が手出しして良いものでもない。
「──だが、多少長期の計画になろうが大したことではないだろう? お前と俺の場合はな」
「違いない…もっともだからと言って作業の手を遅れさせはするなよ」
「当然だ」
いまいち良く分からないやり取りだ、お二人とも結構気が長いということだろうか?
さっぱり意図は分からないが、両者とも現在のやり方に不満がないというのならば一々私が口を挟むことでもないだろう、そんなことよりも私がすべきことは別にある。
"クシナダ"開発へあまり関心がないのだろう、飛段さんは既に庭から床の間に上がり座り込んでいる。
「ではこちらの大鎌は一度お預かりしますね、手入れが終わりますまでお茶でも飲んでごゆるりとなさって下さい」
「何がでは…だ!?」
「すみません、つい確認を忘れていました。簡単な手入れか刃の強化も含めての手入れのどちらに致しますか? オリジナルでない為本格的な改造まではできませんがそれでも個人的なオススメとしては後者──」
「何でお前に預けることが前提で話が始まってんだオイ!?」
「うるさいぞ飛段、話が終わるまで大人しく待っていろ」
「角都! テメーどっちの味方だァ!?」
中々飛段さんからの返事は色よくない…あまり見ない形状なだけに興味が惹かれるのだが…
「武器は性能が高い方が良いと思うのですが…」
「一応そいつの腕は確かだぜ、うん?」
「あのなァ、性能だとかそんな問題じゃねェんだよ、こいつはジャシン様の儀式に使う祭具でもあんだぞ」
なるほど…宗教に関するものでもあったのか、それは確かに教えのない私においそれとは貸し出す訳にはいかないだろう。
「それは失礼を、でしたらそのジャシン様? について教えて頂く事は出来ますか? 作法などを知れば私でも道具の手入れぐらいは出来るかと」
「お? 何だジャシン教について理解を深めようってのか?」
「はい、恥ずかしながら元来宗教への関心は薄かったのですが…少々罰当たりな捉え方ですが宗教もまた信仰心が造り出した作品と考える事も出来ます。それも形がなくとも人々から思われ続けるという点ではあらゆる造形物よりも人の心を動かす作品と言える…後学の為にも学ぶのも良いかと」
「正気か? この男の言う宗派はとにかく悪趣味な上に何をするにしてもタラタラと長ったらしい──」
「テメーは黙ってろよ角都、そっちはそっちで話があんだろ? 勝手にしてやがれ」
先程から言い争いが絶えないがこのお二人は本当にツーマンセルでやれているのだろうか? 人事に大いに問題があるのでは? いや、思えばサソリさんとデイダラさんもこんな風だった…ではこれが普通なのか?
「じゃあ最初はジャシン様がどの様な存在か、そしてジャシン教の教義についてからだな」
「あ、それは特に気になります。神様となると何らかの御業やお力についてのお話などもあるのでは?」
「ったり前よォ、何だよ案外話せるじゃねぇか」
「刀の素材となるやもと思うと──」
「この罰当たり女がァアアアア!!」
「何故!?」
突然飛段さんが勢いよく立ち上がったと思ったら大鎌を怒涛の勢いで振り回しながら迫ってくる。
水化の術が間に合わなければみじん切りだった、途中まで上手く話せていたと思ったのだが…何故こうなってしまうのだろう。
「大した小娘だな、他人の主義主張を全肯定した上で喧嘩を売るとはな」
「ぜってーそうなると思った、うん」
「予想のど真ん中を突き抜けていきやがったな…」
頭や手足といった身体の各部位がビシャビシャと音を立てながら周囲に飛び散る音に混じってそんな会話が耳に入る…できれば飛段さんを止めて欲しいのだが。
10分に渡る必死の謝罪により何とか事なきを得た…正直私の謝罪よりも見かねた角都さんのストップによる要因が大きい気もするがとにかく助かった。
その後は飛段さんの機嫌が明確に悪くなったことで角都さんも長居を避けようと思ったのか手短に打ち合わせを済ませると立ち去ってしまった。
最後の打ち合わせによると源龍達はそのサイズからしても持ち帰るには不向きとの事でイタチさんの写輪眼によって強制的に口寄せの契約を結ぶ事でここに呼ぶという手筈になり、諸々の準備をしているイタチさん達より一足先に帰ることになった角都さん達が代わりにその報告に立ち寄ってくれたという流れだったらしい。
確かに土源龍をここに持ち帰る際には現地で幾つか部位に切り分けてデイダラさんの粘土の鳥を大量に使って持ち帰ったのだが…流石に労力を考えるとそれが良いだろう。
という事は…近々イタチさん、そして彼とツーマンセルを組んでいる鬼鮫さんもここに訪れるということか、飛段さんとのコミュニケーションは致命的な失敗となってしまったが、次こそはしっかりしなければ。
そもそもここで茶屋を開いた理由も暁の方々をこの場に滞在させて彼らの能力の情報を頂けるように考えてのことだ…だというのに険悪な仲になってしまっては話にならない。
今度は本当に気を付けよう…と言っても鬼鮫さんとは昔何度か顔を合わせた身だ、特にこれと言って心配することもないだろう。
問題はイタチさんだ。十拳剣のことを思えば特に失敗したくない相手だが…何か共通する話題でもあればいいのだが…さて?
…
……
………あ、弟のサスケ君の話などはどうだろうか?
今のサスケ君についてはハレンチ博士の下にいるからあまり話せないが、木ノ葉の里にいた頃に会って刀を造ってあげた話なんかは良いかもしれない。
サスケ君の話が確かならば兄であるイタチさんとは敵対関係らしいが、それならそれでサスケ君の武器の事は知って損はないだろうし。
何とかなりそうな予感に安堵し次に訪れるであろうお二人のお茶と茶菓子の準備に取り掛かる。
失敗したらその分の成功を以て挽回すれば良い、何事も前向きにだ。
「…湯呑が…」
準備しようと手伸ばした途端湯呑がピシィと音を立てて独りでに皹割れた。
縁起でもない、何か良くないことの前触れだとでもいうのだろうか? こういうのは結構信じてしまう方なのだが。
どうせなら宝くじが当たったり…みたいな前触れが良かったなぁ。