霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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第二部開幕!


第二部
砂まみれの × 人


 砂隠れの中心に建設された石造の建造物の一室にて、砂隠れの重鎮達が円卓を囲み会議を行っている。

 彼らの表情は皆明朗であり、近年における砂隠れの里の景気の良さとそれに起因し彼らの機嫌の良さを物語っていた。

 

 数年前こそ軍縮に伴う忍里としての運営の限界が迫り、大蛇丸の謳う"木ノ葉崩し"に賛同し、彼らに降伏宣言したが何とか同盟関係の修復を果たし、この数年では里の力も安定し各同盟国の隠れ里との交流も豊かになりつつある。

 更に新人育成では同盟の存続に成功した木ノ葉の里の演習プログラムを取り入れた育成カリキュラムが高い成果を示しつつあり、近々近づく中忍試験にも期待が高まっているのだから、彼らの喜びも当然と言えることだった。

 

 その為、重鎮の1人は会議の内容よりも同じく出席している男性へと意識を向けた。

 

「…そういえば由良、先日酷い頭痛だったと聞いたがもう大丈夫なのか?」

「えぇ、しっかりと休暇を頂きましたので。それに…実は中忍試験の迫ったこの時期にまた良くない噂を耳にして…休んでなどいられません」

「…何だ?」

 

 先程まで浮かれるとまではいかずとも、上景気な話題に笑みを浮かべていた重鎮達の表情がその一言で途端に険しいものとなった。

 かれこれ上役を4年を勤め、政策において優秀な成果を上げてきた由良がそれ程まで言う事態とは、と息を飲む者もいるなか彼はゆっくりと口を開いた。

 

「あの伝説の三忍、自来也様からの情報なのですが…"暁"という組織の名を聞いたことがありますか?」

「暁?」

「各国に指名手配される程の抜け忍ばかりで構成された傭兵集団です…自来也様の情報では、人柱力を狙っている…と」

「何だと!?」

 

 由良の言葉に皆が驚愕し、その視線を円卓を囲む者の1人にして里の長たる青年へと無意識に向ける。

 砂の里唯一の人柱力にして五代目風影、我愛羅へと。

 

 由良の語る言葉が本当ならば正しく命を狙われるということである、しかして彼は決して取り乱すことなく冷静に口を開く。

 

「…情報源があの自来也殿ならば信憑性は高い。対策を練る必要があるだろう」

「はい、既に私の方で一部の部隊に里の護りを固める命を出し、現在既に配置についております。…会議より先んじる形となったことは申し訳ございません」

「構わない。手が遅れて先手を打たれるよりは遥かに良い…配置した部隊は?」

 

 事後承諾となった事に深々と頭を下げる由良だったが、我愛羅のその言葉に「ハッ!」と応じるとすぐに頭を上げ、事前に用意していた資料を片手に立ち上がる。

 

「里前の城壁には手練れの暗部部隊を、そしてそれより前方の砂漠内に傀儡部隊を配置しております。暁は皆Sランクの抜け忍と聞いていますが、最悪の場合でも傀儡部隊の主力武器である毒仕込みの攻撃を一撃でも与えた上で撤退させれば続く暗部部隊が確実に優位に戦えます。人的被害も最小限に抑えられる盤石の布陣です」

「周到だな、少々人材を割き過ぎているようにも思えるが…警戒が必要なのもたしかだろう」

「そうですな、万が一にも尾獣バランスが崩れることはあってはならない。暫くは由良の配備案を継続するということで良いのでは?」

 

 Sランクの抜け忍集団と言えど国抱えの正規の忍ではない流浪の者共に対する防衛には些か過剰に感じながらも"暁"なるもの達の狙いを看過する程愚かではない。

 纏まりつつある意見を踏まえ、円卓の一席に座る上忍、バキはかつての自身の部下である我愛羅へと視線を向ける。

 

「…風影様もよろしいですか?」

「……あぁ、それで良い」

 

 

 そうして、会議始めの明るい空気は物々しい噂によって重たいものへと変わったが…それこそ里の今後を預かる重鎮達にとってはそんな空気感こそがいつもの事。

 警戒態勢への切り替えを素早く行い、会議は幕を閉じるのだった。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 会議を終え本来ならば風影として与えられた一室に向かうのだが…ふと気紛れの儘に外へ出た。

 街中を歩けば正しく会議の際に噂されていた最近成長著しい下忍達や幼い子らから「風影様だ!」などと羨望の混じった声と視線を向けられる。

 

 かつては里の兵器として蔑みと恐れの感情ばかりが向けられた自分が今や風影として慕われているというのは、未だに慣れないというのも本音だ。

 そこに至るまで里の正規部隊に入って様々な事があったし、今でも一部の大人達や彼らに影響を受けた者達からかつてと変わらぬ感情を向けられることもある…それでも今の自分はそんな者達の感情も里の長として受け止め繋がりたいと心から思う。

 

 "誰かに必要とされる存在でありたい"

 うずまきナルトとの戦いを経て抱いた夢だ。

 

 

 …夢といえば、かつてこの里に短い間だが店を構えていた少女がいた。

 何の偶然か、気紛れに導かれるままに足を動かせば辿り着いたのはその少女のいた場所だ。

 

 中忍試験の際に木ノ葉で別れ、何の因果かうちはサスケ奪還の際に再会した少女"渦柘榴村雨"

 それの意味するところ、彼女は父である4代目風影を暗殺し砂隠れの怨敵である大蛇丸の部下となったわけだが…さて、果たして今はどうなっていることか。

 

 今も大蛇丸の部下として働いているのか、それとも別の誰かと関わっているのか。

 或いはあの狂気の儘の行動によって誰かに殺されたか…それも十分在り得るが、どうにもあの女が死ぬ姿はそれはそれは想像出来ないな思う。

 

「あら風影様! お買い物ですか?」

「いや…済まない、少し懐かしい道を歩いていただけだ」

 

 彼女が使っていた鍛冶場は彼女が大蛇丸の配下となった事が知れ渡った時にとっくに取り壊され、今は跡地に新しく建てられた店で女性がサボテンを売っている。

 どうやら店の前で立ち止まっていたことで客と思われた様だ。何なら趣味のサボテン栽培の都合で何度か買いに足を運んだこともあったこともある為猶更だろう。

 

 申し訳なく思いつつも特に今は購入する予定も無い為、断りを入れてこれ以上邪魔になる前にその場を後にする。

 

 …昔はここで、売り物を購入するのでもなく黙々と刀造りを続ける彼女の鍛冶場に居座ったものだが。

 或いはこの場所だけは、風影となった今よりも兵器として恐れられていた頃の方が居心地が良かった場所なのかもしれない。

 

 …いや、それは今ここで物を売る女性に失礼か…。

 どうにも奇妙な間柄だった変わり者を懐かしみながらもそろそろ気紛れな散歩も終えて仕事に戻るとするかと思い帰路につく。

 

 

 

 風影室の扉の前に来ると伝令役の中忍の男性が駆け寄ってくる。

 

「お疲れ様です、風影様…だいぶ夜更けですがこれからまたお仕事ですか?」

「あぁ、先程休憩を兼ねて散歩に行ってきたところだ。心配はいらない」

「そうですか…あぁそうだ、心配といえばカンクロウ様からの伝令です。…里の警備は俺達傀儡部隊がキッチリしておくから心配せずやるべきことをやれ…とのことです」

 

 ふと、伝令役の男から兄の名が出て僅かに驚く、一体どういう要件なのかと思えば…彼も由良から"暁"という組織の事や奴らの狙いが人柱力である俺なのだと知ってそんな激励の言葉を送ってきたのだろう。

 

「…ご苦労、次に彼らの元へ行ったとき任せるとだけ伝えてくれ」

「ハッ! それでは自分は失礼します。…あまり遅くまで無理はなさらないでくださいね」

 

 そう言い残して伝令役の男は去っていく。

 

 兄からの激励を頭の中で反芻しながら風影室の扉を潜る。

 …懐かしい散歩だった、しかしそんな懐かしさなどにいつまでも浸っていられない。

 今の自分は風影としてこの里とこの里で生きる者達の為に成すべきことを成さねばならないのだから。

 

 椅子に座り、机の上に置かれたペンを手に取る。

 上忍衆からの要望書、火影との中忍試験開催への打ち合わせ…目を通すべき書類は幾らでもある。遅くなるなとは言われたが…寝ることのない自分にとってはあまり関係のないことだ。

 その分の時間を活かして、これらの書類を片付けていくとしよう。

 

 

 …そう、あの店に足を運んだ時から何となくだが…出来る事を少しでも多くやっておかなければならない。

 そんな胸騒ぎがしてならないのだ。

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 サソリさん、デイダラさんの誘いに応じ同行した私は…自らの選択を後悔するばかりだった。

 私は本当に…愚かだったんだ。

 

 目の前に広がる光景に身体が震え呼吸が乱される。

 喉の奥が貼り付く感触が気持ち悪くて堪らない、少し考えればこうなることだって分かったはずなのに…分かったはずなのに、何故私はこんなところに来て、こうして立ち竦んでしまっているのだろうか? 

 

 

 

「……やっぱり砂漠は嫌い」

「いいから歩け、ボーっとしてるとまた日が昇るぞ…うん」

 

 そうは言うが日中もずっと歩き通しだったのだ、陽が沈み急激に冷え込んだことで炎天下よりは個人的に楽になったのだがそれはそれとして喉の奥には砂が貼り付いているし、彼らと同行する際に渡された編み笠と無地の砂色の羽織の中も汗ですっかりムシムシと気持ち悪く、身体の内外両方からの不快感に体力的にも限界だ。

 

「情けねぇ、こんな砂漠ぐらい忍なら苦にもならねぇぞ、うん」

「私は忍じゃありません、それにもう3年近くまともに動いてなかったから久しぶりの遠出は辛いものが…」

 

 思えばこの3年間、刀造りも自粛し精々がクナイや手裏剣制作程度…おまけにずっとあの屋敷に籠りっぱなしだったのだ、砂漠を平然と歩ける体力などあろうはずもない。

 

 …というか、同一体として造られた時の姿で固定される影響か身体的成長はなかったがもしも仮にそうでなければ果たして自分の姿はどうなっていたことか…碌に出歩かず茶菓子を食べてばかりの毎日だ、あまり想像はしたくない、ポッチャリ系で済めばまだ良いのだが…。

 

 などとくだらない考え事も砂漠を歩く苦痛を紛らわせる材料となるなら有難い限りだった。

 

 街中を歩くならば周囲の建造物や地域の売り物、森林や海辺を歩くのならばその景観を多いに楽しむのだが砂漠というのは歩けど歩けど変わらぬ風景だ、中々そう言う楽しみ方も出来ないのは困ったものだ。

 

 それにしても、まさかこうしてまた砂漠を歩き砂の里へ向かうことになるとは…例のサスケ君勧誘の際に我愛羅君と出くわしたことで恐らくだが私はハレンチ博士の仲間として砂の里からは認識されているはず。

 言わば敵地に赴くというのは些か気が重いが──

 

「そういえば…"クシナダ"の制御パーツとはどういったものですか?」

 

 傀儡人形といえば以前"梟"というものを使っていたことはあるがアレは仕込みのない素体を購入したものだし、その仕込みもほぼカンクロウにやってもらった様なものだ。

 おまけに以前にサソリさんに解体されたままだ。…どうにもサソリさんから見て気に入らない作品らしく直して下さいとも頼みにくい。

 その為傀儡人形についての知識は浅いままで特に制御パーツというものに心当たりはないが…傀儡制作の本場である砂の里ならば入手できる部品か何かだろうか? 

 

 

「あぁ? ──ああ、そういえばお前にまだ話していなかったな」

 

 何やら本気で困惑した声が上げられるも、すぐに納得した様子でサソリさんはそう言うと暁の装束の下から鋼鉄の尾を露出させた。

 

「俺の造る傀儡は特殊な"人傀儡"だと以前に言っただろ?」

「はい、人の身体を加工してその者のチャクラ、術を宿したままカラクリ化出来ると」

 

 現に今なお制作の続く"クシナダ"も人でなく龍を素材としているが人傀儡の技術で造られている。

 サソリさんにしか成し得ない傀儡技術の極致とも言うべきものだが…それが何か関係あるのだろうか? 

 

「…お前の当初の予定だと"クシナダ"は複数人で操る大型搭乗型傀儡だったが…大型の傀儡を他の奴と意思疎通しながら操作できる傀儡使いなんてそう何人もいねぇだろ?」

「そうですね…傀儡糸の精度など色々専門的な能力が必要ですから…現物が完成すれば使いたい人の習得意欲も刺激できると思うのですが」

 

 忍刀七人衆となれば各々癖のある刀を扱う訓練で忙しく、そこに傀儡糸の習得もお願いするというのは中々厳しいものがあるのは確かだ。

 それでも"クシナダ"の完成体があれば皆意欲的になってくれるはず…そう思いその問題点については後回しにしていた。

 …というかそもそも水月の考える新生忍刀七人衆は現状では候補すら出揃っていないのだからそうする以外に選択肢もないのだが。

 

「そのことだが、俺の人傀儡の技術を使えば1人でも運用する方法がある」

「っ! 本当ですか?」

 

 それは願ってもない話だ。

 もしも複数人で操作する形から1人で操作可能になるのなら、傀儡糸の習得を要求されるのは7人の内1人だけ、本来の形式と変わらない。

 しかし人傀儡の技術で一体どうやって? 

 

「要は複数人で搭乗し制御する予定だった腕や脚といった要所部分に人傀儡化した傀儡使いを配置して中継器として利用すれば良い、そうすりゃ中継器を通して"クシナダ"全体を1人で意のままに操れるようになる」

 

 …そういうことか。

 確かにそれならば"連携"という不確定な要素もなくなり安定度は確実なものになる…しかしそれには…

 

「優秀な傀儡使いを人傀儡にする必要が…」

「そうだな、前にお前…というよりはお前の本体にその候補を聞いたが…そいつが言われた通りに成長していりゃ良いがな」

「………あ」

 

 そう言えば最初にサソリさん達と出会った闇市で"クシナダ"について話した時にサソリさんから唐突に優秀な傀儡師について聞かれたことがあったが…つまりあれはそういう意図だったのか。

 

「まぁ仮にそいつが期待外れでも他にも使える奴がいるかもしれねぇ。その為にわざわざアイツの記憶の修復を予定より早くしたからな」

「アイツ?」

「お前の本体にもやった手だが、俺の部下の男を記憶の改竄をして砂の上役として潜伏させていたのさ…記憶が戻った時俺を里内に招き入れる内通者としてな、ただ今回はそいつの記憶を修復した上で前以って接触して里の体制を俺の都合の良い様に少々動かして貰ったのさ」

 

 良く分からないが恐ろしい手腕だ。

 何せスパイがスパイの自覚なく里内に潜伏するのだから防ぎようもない…勿論記憶が治った際に裏切られるリスクもあるのだろうが…サソリさんがそこまで言うのならば少なくとも今潜伏している人はその心配もない忠実な部下なのだろう。

 

 …思えば同じ物造り家としての共感や裏切られたとしても大した影響もないにしても良く私の本体にそんな術を使ったものだ。

 そして本体も本体でそんな術を何故シレっと解いていたのやら、当時の私が茶屋を設立しながらどれ程気を揉んだことか──

 

「──デイダラ」

「あぁ…伏せな、うん」

 

 数年前のいざこざを思い返し複雑になっている内に突然編み笠を上からデイダラさんに押さえ付けられ膝から地面に崩れる。

 同時に砂を巻き上げながら周囲に砂原から飛び出てきた傀儡人形達が一斉に襲い掛かってきて──サソリさんの鋼鉄の尾に纏めて薙ぎ払われた。

 

 吹き飛ばされながらも仕込み武器を使いガードした人形もいれば、数体の傀儡はそれだけでバラバラになってしまった…もしもデイダラさんに押さえつけられていなければ私もバラバラになっていたこと間違いないとゾッとするが…そんなことを気にしている暇はない。

 

 一体何事か…周囲を見渡せばいつの間にか周りを十余名の忍が包囲していた、恐らく保護色の布を使い砂原に潜り隠れていたのだろう。

 砂の忍装束を身に纏った者達…そこに混じり見知った顔が1人いる。

 

 彼と周りの大量の傀儡から考えてこれは傀儡部隊による奇襲…いや迎撃といった方が正しいか? 

 どちらにしても最初の攻撃が通用せずに彼らの表情は険しいものだ。

 

「その装束、テメーらが噂の暁じゃん? この里に何の用か知らねぇがサッサと帰んな」

「……カンクロウ」

 

 黒ずくめの衣装と隈取が特徴の青年が1人…砂の姉弟の1人カンクロウだ。

 自身を包囲する者達には聞こえない様に小さく呟いたその名にサソリさんがピクリと反応する。

 

「ほぅ、あのガキがお前が言っていた奴か…それにカラスにクロアリにサンショウウオか…確かに悪くはなさそうだ」

「っ!? なぜ俺の傀儡人形の名を!?」

「…他の連中にも何人かは筋の良い連中もいるようだ…どうやらアイツは上手く傀儡部隊のみを最前線に手引きしてくれたようだな…ならば今頃城壁の方も片付いている頃か」

 

 戸惑うカンクロウを他所にサソリさんは尾の一撃を凌いだ傀儡を操る人達を吟味しながら淡々と呟いて──その身体からカパッと開閉音を鳴らす。

 

「悪いが…細かく審査してやれるほど暇じゃねぇからな、今の一撃を防いだ連中は纏めて頂いておくとしよう──手早くな」

 

 傀儡鎧の背中を開いて中から黒い布を被り全身を隠したサソリさんの本体が姿を見せる。

 布の中から唯一外へ出たその手には"三"と書かれた巻物が握られていた。

 




本作において原作キャラで最初に登場した由良さん。
第二部でも開幕を務めて頂きました…何故?
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