霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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最期の言伝

 何もない…ひび割れた地面が広がるだけの無の空間を歩き続ける。

 

 私は…村雨の同一体である偽雨は死んだんだ。

 果たして私という存在に死というものはあるのか…この3年間で気にしたこともあるにはあったが、ただ術の効力が消えて消滅しているにしては些か景色がはっきりとし過ぎているように思う。

 これはもしかしたら私という仮初の存在であったとしても死後の世界というものは存在するということなのか? 

 

 分からないまま、何かに導かれる様に歩き続け──蹲っている1人の少年を見つけた。

 記憶にあるよりずっと幼い…それでも背負った瓢箪やその赤い髪は…あの"お苦手様"の姿だ。

 

「──こんにちは、我愛羅君」

「っ! …お前は」

 

 声を掛けると驚いた様に顔を上げて徐々に幼い頃の姿から記憶にあった姿へと──そして今の風影としての姿へと徐々に変わっていく。

 

「──村雨…ではないのか? お前は…誰だ?」

 

 そんな彼と違い、3年前から少しも変っていない私の姿を見て彼はそう言った。今の状況が理解できていないのか…あまり表情の変わらない彼がはっきりと戸惑っている様子は珍しいものだ。

 

 

「…私は偽雨。…村雨の同一体だった者…かな」

「同一体?」

「村雨が刀造りの為に暁の方達と協力しようとして造られた、…まぁ色々と思う様にはいかなかったんだけど」

「──暁と、なら」

「うん。我愛羅君が殺されるところ、ずっと眺めていた…カンクロウやテマリさんにも迷惑を掛けてしまった」

 

 これは話しておかなければならないことだ、彼らには本当に迷惑を掛けてしまったが…この不思議な場で出会った以上謝らなくては。

 

「ごめんなさい。…村雨は多分どこかで止まるべきだったんだ…と、今の私は思う」

「──そうか。…確かにお前はあの女とは違うようだな」

「うん、私が村雨なら絶対そんなことは思わない」

 

 どこかで止まるべき…なんて刀造りから離れなければ絶対に思わないし、村雨ならば刀造りから離れることなんて絶対にあり得ない。

 

「…カンクロウとテマリは…無事なのか?」

「分からない。けど…きっと大丈夫」

 

 身体にダメージを与える時空間移動ではあるが、医療忍者もいる…きっと何とかなるはずだ。

 

「──あの2人は…強い人達だから」

「…そうだな」

 

 そう言うと我愛羅君は安心した様に静かに目を閉じた。

 まるで心残りがなくなったと言わん様子だ──けれど、それはダメだ。

 

「…我愛羅君、ちょっとついてきて」

「どこにだ? ここは──」

 

 そう、ここはきっと死後の世界というもの…それでも

 

「それでも、足を止めてなんていられない。刀造りはやめてしまったし、止まるべきとは言ったけど妥協していいなんて言ってない」

 

 我愛羅君を連れてさっきまで歩いてきた道を戻っていく。

 サソリさんに介錯されて気が付いたら歩いていた道だ…ならばそっちの方に戻ったらもしかしたら…なんて夢の様な可能性もあるならば試さなければ勿体ない。

 

「まだまだ、里という作品造りの途中でしょう。風影様?」

「──そうだな」

「うん。実は我愛羅君が風影様になったなんて信じらなくて何があったのかずっと気になってたから聞かせてほしいけど…やっぱりそれよりも、"これから里をどうしたいのか"の方が気になる」

 

 これまで何をしてきたか…という彼の歩みも気にはなるが、それ以上に気になるのは彼がこれから何を造りあげてゆくのかだ。

 里であるならば強さも必要だ、同時に里内の人々同士の平穏も、他里との繋がりも…きっとどんな作品よりも大掛かりなものとなるだろう。

 

 

 

 彼は…どんな里を造りあげていくのか──そんな話をしながら歩き続けた。

 

 

 

 砂の里の緑化計画や木ノ葉隠れとの関係強化…色々と考えている計画案に関心したりと楽しい時間ではあったが一向に景色は変わらない。

 まだまだ聞きたいこと、話したいことは幾らでもあるがいつまでもこんな場所にはいられない。

 どうすれば…と焦る気持ちが湧きだした時に前方から誰かの声が聞こえた気がした。

 

 

 あぁ…そうか、彼も来てくれたのか。

 ならきっともう大丈夫だ。

 

 ピタリと足を止めて隣を歩く我愛羅君へ頭を下げる。

 

「ありがとう、我愛羅君。最期に会えて良かった、カンクロウにテマリさん、我愛羅君…皆が助かったからちょっとだけ気が楽になった」

「お前…」

「私はもう戻ってもやる事がない…贋作を造るのも、作品造りに傾倒出来ない自分を実感するのも御免だから。でも我愛羅君は違う、きっとさっき話してくれた様な作品を造り上げないといけない」

「──あぁ…俺にはまだ、やることがある。だから、ここで別れだ」

 

 別れを惜しまず、いつもの彼らしい顔で告げられたその言葉に小さく頷く。

 金髪の少年がもうすぐそこまで来てくれている…村雨の記憶にあるあの少年とも話してみたいとも思うのだが…まず最初に怒られてしまいそうだから早く逃げてしまおう。

 

 くるりと踵を返して──ふと足を止める。

 

「そうだ、我愛羅君…目が覚めたら彼の仲間のサクラさんに伝えてほしいことがある」

「伝えたい事だと?」

「うん。草隠れの里にある天地橋…十日後の真昼、サソリさんと彼がハレンチ博士の下へ潜らせたスパイの方がそこで落ち合うことになっている──と」

 

 "クシナダ"制作の最中、ふと耳にしたサソリさんの予定だ…ハレンチ博士の下のスパイ…つまりはカブトさんとの密会だ。

 この密会の場でサソリさんを出し抜いてカブトさんを確保できたならば…或いはサクラさんが求めたサスケ君の情報に辿り着くやもしれない。

 

 …サソリさんにもカブトさんにもお世話になった身としては双方に迷惑が掛かる事をしてしまうのは心苦しいが実際のところ村雨が無意識にカブトさんがハレンチ博士側の二重スパイであるということを明かしてしまった以上、この密会の場を荒らしてしまうのはある意味ではカブトさんにとっては救いとなる可能性もある。

 

 そういう意味では先の一件からサソリさんには迷惑を掛けてばかりなのが気になるが…そこはカブトさんが二重スパイであるという情報の対価ということにしてもらおう。

 

 ともあれこれで各方面へ不義理であるが平等にチャンスを与えることが出来た、これが私がしてきた事のせめてものお詫びになれば幸いだ…そう思いを馳せながら満足感に浸っていると──

 

 

 

「……ハレンチ博士?」

 

 あ、しまった。

 

 

 

「大蛇丸さんのことです」

「お前…」

 

 呆れた様な視線が突き刺さって急に満足感が失われてしまう。

 最期の最期にこんな目で見られるなんてあんまりだ、まさかイタチさんが言っていたのはこういう意味だったのか!? 

 大体なんだハレンチ博士って、仮にも上司である人物を指す呼び名にしては失礼もいいところだろう。村雨は一体何を考えてそんな呼び方をしているんだ!? 

 

「はぁ…一応上手く伝えておこう。…じゃあな村雨、いや…偽雨だったな」

「う…うん。…あ、何度もごめんなさい。最後にもう一つだけ」

 

 サクラさんへの言伝も大事だが…もう一つだけ忘れてはならないことがあった。

 この場に我愛羅君しかいないということを差し引いても…彼以外に頼める人もそういないだろう。

 

「村雨には気をつけて。刀を造り続けている限り村雨は決してブレたりしない…彼女は私の様な心変わりは絶対にしないから」

「…あぁ、覚えておこう」

 

 良かった、これで──何かをしでかそうとしても村雨はきっと助かる。

 こうでもしておかないと取り返しの付かないことをして彼女も私の様になりかねないが…誰かが寸前で止めてくれる様にしておけば何とかなるはずだ。

 

 安心したと共にふと気になって振り返ると我愛羅君はもう彼を迎えに来た少年の下へと歩み寄っている。

 そして金髪の少年に手を引かれ、眩い光の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

「──ありがとう、最後に沢山話せて楽しかったよ」

 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 刀を造り続けている内に疲労感に導かれるまま眠りかけていた意識が急激に覚醒する。

 

 

「──偽雨が…消えた?」

 

 自身の同一体の消滅を伝える未知の感覚に信じられないと首を振るもそれが間違いではないのだとはっきりと認識するのに時間は掛からなかった。

 

 …何故彼女が今突然消えてしまった? 

 彼女の存在の消滅こそ伝われどその理由が分からない。

 

 もしかしたら私が彼女に頼んだことが原因なのかもしれない。

 彼女にはサソリさんのクシナダ作成の傍らで暁の方々の能力の調査を頼んでいた…それで無理をして踏み込み過ぎたことで消されてしまったのかもしれない。

 いや、或いは暁の方々と共にいたことで五大国を始め、正規の忍達に狙われたのかもしれない。

 

「……ごめんなさい」

 

 自身と同じ顔した彼女へ無意識に謝罪の言葉が出てくる。

 彼女は自らを私の偽物なのだと定義して、自ら刀造りの道を捨てることを選んだ。

 

 …あの時の私は自分が彼女の立場ならばきっと同じ選択をしただろうと思い、彼女の意志を尊重したが…思えばオリジナルである私が彼女の存在を肯定するべきだったのではないか? 

 

 刀造りをしない日々…彼女はどんな思いでそんな日々を過ごしていたのだろう。

 

 

 ──もしかしたら私と彼女が…逆だったかもしれない

 

 

 基となったオリジナルとその記憶や思考回路を同じくする同一体だ…ひょっとしたら彼女がオリジナル、私が分身だった可能性だってあったかもしれない。

 

 

「──よし」

 

 大きく息を吸って気合を入れ直す。

 私と彼女が逆だったら──そんな可能性を思おうともオリジナルは私、彼女は同一体でありもう消えてしまったという事実は変わらない。

 ならばこそ私は"村雨"として彼女が出来なかった刀造りをより一層頑張らねば! 

 

 一度大きく伸びをして、部屋の隅に積まれた素材達に目を移すと貴重な物から何だか良く分からないものまで混ざって山になっている。

 ここ最近は刀造りのペースも一層速くなって一時期は素材の方が無くなったり…というのもあったのだが有難い話だ。

 

 

「う~ん…これとこれ…あとこれも加えてみよう」

 

 積み重なった素材の中から次に造る刀の案を整えて、それに必要な素材を3つ程手にとって作業台の下へと移動し、缶詰生活が続いてすっかり伸びてしまった髪を束ねるゴムを結び直す。

 作業の邪魔になる為前髪は流石に切ってもらっているが、変に遠慮せず後ろ髪もいい加減切って貰った方がいいかもしれない、今後カブトさんがここに来たらまた頼んでみよう。

 

 さて、それはそれとして次の刀を造るとしよう。

 身体をピタリと静止させ集中力を高めながらチャクラを練り上げる──60秒近く経過して自分の内側にチャクラと気力が充実した瞬間…"外側"のエネルギーを体内に取り込む。

 数年前、"選栄蛇酒"を口にして以来刀を造る前に行うになった前準備…これをすると作業中に身体の動きも軽くなるし刀の中でチャクラの動きも良く分かる。

 

 …おかげで作業の効率も作品のクオリティも上がって良い事だらけだ。

 

 

 

「さて──13682本目…頑張ろう」

 

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